罪の王がダンジョンに居るのは間違っているだろうか?-リメイク! 作:ユーリ・クラウディア
そもそも早熟では無いが集自身も経験値取得に補正が掛かって居るので人事ではない。と言うか自分のを誤魔化すので精いっぱいでどうにもできない。なのでベルのスキルについてはもう完全に神様に丸投げして剣を振って居る。
ロングソードをチョイスして見たものの想像より大きくて苦労している。そもそも短剣とかショートソードってゲームとかでナイフとか見たいなサイズで使われているけど実際は通常剣といってイメージする丁度いい感じの長さの物なんだ。ナイフサイズはそのままナイフとかダガーだよ。それでロングソードって定義で剣を選んだらまあ、大きい大剣とまでは行かないけど騎士とかが持ってそうな重量とサイズの大きいものだ。
最初の1ヵ月は剣に振られていた。そこからまともに振れるようになってしっかりと型を覚えるのに2ヵ月、フェイントを交えれるようになるのに3カ月で、今の現状だ。
本当は誰かの師事を受ける事が出来ればステイタスの恩恵も相まって此処まで時間はかからない。そもそも筋力がステイタスで補われて最初の型稽古が殆ど最初っから出来るのだから。がしかし振り方も良く分からないものに型を作るなどそう簡単にできる者ではない。自分だって葬儀社に居た頃に教えてもらったナイフ裁きや体術と言うベースがあったから半年でここまで来れたのだ。手探りでこれなら早いものである。
ダガーの方はサブウエポンなのだが、これは先程のナイフ裁きと大して変わらない為そこそこの練度で振れる。一応徒手格闘の訓練として体術も型稽古は欠かさずやって居る。教えてくれた葬儀社の皆には感謝の念しかない。昔はいやいやの惰性でやって居たが今考えるとなんて勿体ない事をしていたのかと昔の自分をぶん殴りたい気分である。
「ふう、取り敢えずこんな物かな…」
一通り鍛錬を終え。一息つく。時間帯的には日が陰り始めているので18時くらいだろうか?今日は朝から永遠と鍛錬していたので相当の時間を費やしている事になる。
本来ならばオーバーワークだが、その辺の問題はステイタスが解決してくれた。
便利すぎて涙が出て来る。
「取り敢えず、ホームに帰ろ。」
******
隣に座って居たベルが店を飛び出して行った。
後ろにはさえずる駄犬が一匹とそのファミリアが騒いでいる。
近くにいた客は食い逃げかと囁いて居る。
これはよろしくない。
珍しく集は切れていた。そう、あの集が…だ。いつぞやの暗黒面に落ちた時の以来の冷徹な表情で静かに怒りの炎を燃やしていた。
事の発端は鍛錬を終えてホームへ戻った時にベルが食事に行こうと誘って来たのでそれに付いて行った事から始まる。
何やら美人な店員に来てくださいと言われたからホイホイ釣られてしまったらしい。
まあ、注文して出て来たものを食べた瞬間、偶には釣られるのも悪くないと思ったのだが、それは置いておこう。
そして、件の問題の元凶が現れる訳である。ロキ・ファミリアの登場だ。
例のベルを追いかけたミノタウロスを取り逃がしたファミリアだ。そして、普段から出会い出会いと言って、ヒロインを助ける妄想をしていたベルを逆にヒロインにしちゃったアイズ・ヴァレンシュタインが所属するファミリアである。
これだけならまあ、ベルが羨望の眼差しでヴァレンシュタインを眺めるだけで終わったであろう。
がしかし、そうは問屋が卸さなかった。そう、どこぞの駄犬がミノタウロスに追いかけられた挙句、それを助けた際にトマト…もとい血塗れになった事を、話に出したのだ。まあ、話に出しただけならまだよかった。だがこの駄犬、あろうことか駆け出しであるベルがミノタウロスから逃走した事を笑い摘まみにし、それを種にヴァレンシュタインしに自分強いですよどうですかアピールをしやがった。ミノタウロス逃亡が自分達のミスである事を棚上げにしてだ。
集のベルに対する評価は、普段出会いだ何だと言う妄想癖のある可愛い後輩である。が、やる時はしっかりやり、純粋且つ貪欲、そして不屈の精神を持った心優しい好青年である。普段一緒に行動する事の少ない集ではあるが、大切な仲間である事に変わりはなく。更に自身より団長に相応しいと思わせ。年功序列、ステイタス値、精神の成熟。その全てを度外視してでも、団長の座を明け渡す程度には認めている。そんな自身のファミリアの団長をコケにされる所か下世話な言い回しをすればS〇X交渉の出汁にされたのである。
流石の集もこれには来るものが有った。
「女将さん、水をジョッキでください。」
「――…ハァ、ちょっと待ってな」
暫し、集の目を見つめた女将が諦めたかの様に溜息をつき奥に入って行った。
そして、水が並々に入ったジョッキを集の目の前に置いた。
「有難うございます。それとこれは僕と今出ていった連れの分の料金です。こっちはちょっと騒がしてしまう迷惑料です。少ないですが4万バリス程入って居ます。」
「まあ、今回はあのワンコロが悪いわな。あっちに付けとくからそれはしまいな。勝とうが負けようがあっち持さね。」
「そうですか、では、失礼します。料理美味しかったです。ご馳走様でした。機会がありましたらまた来ます。」
「あいよ、またあの坊主も連れて来な。」
「はい」
このやり取りを隣で聞いて居たシルと言う店員はオロオロしながら女将と集を交互に見ていた。
まあ、気持ちは分かる。ぶっちゃけこんな物騒な会話を聞いたらこうなるだろう。
がしかし暗黒面に突入した集には関係ない話である。
近くに居たエルフの店員も聞こえていたのか鋭い眼光此方に向けている。動きからして只者ではないと分かるが、此の目線で格上なのが分かる。元冒険者なのだろう。レベルは2以上であるのは確定だ。続けていたなら、あそこの駄犬より遥かに強い冒険者になって居ただろう。まあ、それを言い始めるとこの店の定員の殆どが一般人じゃなくて逸般人なのだが…。
それは置いておいてだ、ジョッキを持って席を立つ。
歩みの先は駄犬の正面と行きたいが、他の人に掛かると面倒なので背後、と言うか丁度後ろを向いてくれた。あの駄犬以外はまあ、言葉だけでだが止めてるよう言ってくれる人も居るので標的から外す。ヴァレンシュタインさんも何やら不快そうな雰囲気を醸し出しているのでその点については胸を撫でおろす思いだ。
取り敢えず、俺の接近に気づいたのが4人、主神と思われる女性とエルフの女性、小人の男性とドワーフの男性だ。
主神以外の3人は恐らく噂に聞くロキファミリアが誇るレベル6、勇者、重傑、九魔姫の三人だろう。駄目だ、アレには現状勝てない。弱者が相手でも油断などしない胆力があるのが一目でわかる。ヴォイドを使ったら話は変わるがアレは素じゃ無理だ。それでもレベル5以下の冒険者の五感を誤魔化せているのだから自分の隠密行動も中々捨てたものじゃないと思う。
駄犬の真後ろに着き動きを一瞬止める。
そして手に持ったジョッキを駄犬の頭上に持っていく。
とここで、やっと他の団員もチラホラ集に気づき始めた。
そして、ジョッキをゆっくり傾け中身を駄犬に駆けてゆく。
そして、店の空気が一気に絶対零度にまで下がったかのように凍り付く。
驚いたのか身を硬直させる駄犬、反応が悪い。幾ら酔って居るとは言え掛けられた直後には飛び掛かって来るかもしれないと予想していたがまあ、此れも想定の範囲内だ。
ジョッキの中身全てを駄犬に駆け終え、からのジョッキを近くにあったテーブルに静かに置く。
此処で駄犬は思考が回復。此方に振り向き顔を真っ赤にして怒りを前面に出した表情を此方に向ける。
「テメェ、何のつもりだ?」
がしかし、意外と冷静なのか確認を問うて来る。
こちらも思考は意外とクリアだ。回りがちゃんと見えている。分析も上々。
目の前の駄犬は酔ってる上に発言からして弱者だと思った相手をきちんと侮ってくれるだろう。そこに勝機はある。勝負は一瞬一回ぽっきり、此れが駄目なら僕の負け。
だから、此処で全力の挑発を幾つか投下してやる事にした。それもとびっきりの笑顔で。
「いえ、発情期に入った駄犬がうるさかったので頭を冷やしてさし上げようと思いまして」
「ア゛?」
駄犬は一瞬頬けた後に更に顔を赤くする。
「駆け出しの冒険者捕まえて強者気取り?最初から強い人間など存在しないハズなのに?初心者が恥晒し?滑稽ですね。自身が通った道すら否定して。好きな女にアピール?冒険者の品格を落としているのは貴様だ駄犬!!」
ここで、『ブチ』と言う音が聞こえた気がした。
恐らく駄犬の堪忍袋が切れたのだろう。この程度の事実で切れるとかもう餓鬼かよと思う。
「見たとこ、低レベルの雑魚だろお前…、雑魚が粋がってんじゃねぇぞ!」
駄犬が初撃のモーションに入った。装備や出で立ちから足技がメインだと予想していたが当たりのようだ。若干姿勢を落として右足を引いて居る。腰や上半身もきちんと使った綺麗なフォームだ。
回りから声が聞こえる。恐らくこの駄犬を止めようとしたのだろう。がしかし遅い。もう此奴は止まらないし、止めに入る時間も無い。
集は王の権能で自身の動体視力を限界まで上げる。
「レベルの差が、戦力の決定的な差ではない事を学べ!!」
駄犬が足を振り抜いた
駄犬こと、ベート・ローガが狙ったは頭部、がしかしそこに蹴りが入る事は無く。蹴りはその少し上を通過した。
そして、集の手刀が横なぎにベートの顎に入っる。
がしかし、レベル差の関係でベートは全く痛みを感じなかった。
何故自身の攻撃が当たらなかったのかよく分からなかったがベートは所詮雑魚かと思い直し次の攻撃を繰り出そうとして、異変に気付く。
体に力が入らないのである。
足から崩れ落ち、蹴りの後で片足だったのもあり完全に床に倒れ込む。
「格上相手に左腕一本か、まあ所詮酔っ払いの駄犬という事か。」
集はだらんと垂れ下がる左腕を見ながら意外とあっけなかった事に落胆した。左手の他に右足とあばら何本か覚悟していたのに左腕だけで済んでしまったっという意外過ぎる展開に逆に動揺してしまった。
「まあいい、でだ駄犬、貴様のその伸び切った鼻っ柱が格下に叩き折られた訳だが?どうだい気分は?最高に恥ずかしいだろ?なあ?」
最早ブチ切れてて完全に口調まで変わている集に煽られるベート。
崩れ落ちたベートを見て唖然とするロキファミリアの面々。
「少し頭を冷やして、精神修業でもする事をお勧めするよ。貴様の精神はそこいらのクソガキにも劣る。母親の腹の中からやり直してこい!」
そう言うと集は背を向けて店の出口へと歩みを進める。
「少し待ってもらえるかな?」
がしかし、一人の男に呼び止められる。
「何でしょう?」
それに歩みを止めて、対応する集
「先ほどのミノタウロスに追われていた冒険者は君の仲間かい?」
「同じファミリアの団員です。」
「そうか、それはすまなかった。今回はベートに非があった。止め切れなかった事も含め謝罪させてもらうよ、本当にすまなかった。」
回りは団長であるフィンが頭を下げた事に三度驚愕した。
「最後にもう一つだけいいかな?」
「何でしょう?」
「君のレベルは?」
「…1です。」
そう言うと、今度こそ振り返らずに集は店を出て行った。
******
恐ろしい男だ。
最初に存在に気づいた時から親指が酷く疼いた。
一件、義憤に身を任せた低レベル冒険者だと思ったが、それにしては動きが洗礼されていて、無駄がない。
がしかし、ベートの攻撃を先読みし完全に見切ってあろうことか打倒した。
戦慄した。
「レベル1…か」
「あのー…どうしてベートさんは倒されたんですか?」
とここで、レフィーヤがおずおずと質問して来た。
まあ、彼女はレベル3ではあるが白兵戦は大の苦手、胆力も低い為冷静さを欠いて居た。理解できなかったのも仕方ないだろう。
「ふむ、まあ、あまり難しい事じゃ無い。彼は最初に攻撃を誘った。タイミングも攻撃手段も全て予測済みで、完全に見切って居たよ。酔って居たというのと低レベルが相手であったが為の完全に侮って大振りで放った蹴りを彼は左手で受け流した後、攻撃後の硬直を狙ってベートの顎目掛けて横なぎに拳を放つ事で脳を揺さぶって戦闘不能にしたのさ。レベル差故に外傷を全く与えられないその壁を身体的弱点を突き突破して見せた。しかも只弱点を突くのではなく、砂漠から一粒の石を見つけ出すかのような真に神業と言える絶技もって突き抜けて行った。」
口で言うのは簡単だが、やって居る事は超絶技巧である。まずベートのレベルは5、彼のレベルが1、この時点でレベルギャップによるパワー差で難度が跳ね上がりこのオラリオでも出来る人間は居ないだろう。恐らく左手は骨折、それに肩も脱臼していた。その状態で痛みに悶えず一切の淀みなくカウンターを入れる。脳を揺さぶるのも、此れだけのレベル差の相手に狙ってやるには達人級の技量でも怪しい。
更に最初にベートに近づいた時には視線誘導に気配遮断まで恐ろしい程の技量で行って居た。気づけたのは僕とリヴェリアとガレス、そしてロキだけだ。
これだけの事をやってのける人物がレベル1?有り得ないとしか言いようがない。
ロキに視線を向けて彼が嘘をついて居たかどうかを確認する。ロキは彼の言葉に嘘はなかったとアイコンタクトで知らせて来る。
「どこのファミリアか聞かなかったのは失敗だったかな?」
こうして集の異常性を浮き彫りにして夜は更けて行った。
おや?集の様子が…。