罪の王がダンジョンに居るのは間違っているだろうか?-リメイク! 作:ユーリ・クラウディア
「シュウ・オウマあああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ…ッ!!!!」
着地と同時にオッタルが雄叫びを上げる。
集は分かって居た事とは言え仕留めきれなかった事に歯噛みする。そしてオッタルの顔つきが先程までの寡黙な雰囲気から戦士のそれに代わった事に、自身が完全に敵として認識された事を悟り。冷や汗を流す。
最早長期戦は無理、短期決戦以外に道は無いと判断し。オッタル目掛けて全力で疾走する。しかも縮地法や瞬動と言った人類最高峰の高速移動歩法を使用した絶技でだ。
対するオッタルもレベル6最上位に匹敵する移動速度で突進してくる集目掛けて吶喊した。
二人の剣戟がお互いの身体目掛けて振り降ろされた。
そしてそれと同時にモンスターがポップした。ポップしたのはゴライアス…そう、二人が落ちたのはボス部屋だったのだ。
二人が放った剣戟は双方交わる事無くお互い素早く距離をとった。
そして戦いは【猛者】【罪の王】【
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本来オッタルであればゴライアスを屠る事は単騎でもそう難しい事ではない。しかし今回はゴライアス以外にも集がいた。オッタルは邪魔なゴライアスを始末すべく攻撃を仕掛けようとするが、オッタルがライアスを攻撃する一瞬を狙い集が攻撃を仕掛けている。獲物を狩った瞬間が最も危険なタイミングだと言わんばかりに抜群のタイミングで攻撃を仕掛けて来るせいでゴライアスはいまだ健在していた。
集はゴライアスが倒されると自身が圧倒的に不利になる事が分かって居るからゴライアスは放置、寧ろゴライアスを援護する形でオッタルを狙い撃ちにする。
ゴライアスは本能でオッタルを最優先で攻撃すべき驚異だと認識し、ヘイトをオッタルに集中している。勿論集にも攻撃を加えるが割合は圧倒的にオッタルの方が多い。
実質の1対2と言う構図が描かれているこの戦い。若干集に軍配が上がっているが、オッタルを倒した所で、集一人でゴライアスを相手にするのは些か厳しいものが有る。ヴォイドを使えば恐らく瞬殺だが、此処にはオッタルが居る。彼女が遠見の術で色々覗き見しているのはベルの証言と状況から見てほぼ間違いない。この時点で最も厄介な神と目されるフレイヤにヴォイドを見せる事になる。
それは出来れば避けたい。集の勝利条件は出来るだけオッタルを負傷させた状態でゴライアスを倒させ。瀕死のオッタルに止めを刺す。又はどさくさに紛れて逃亡だが、出口まで遠いしダンジョンを脱出する前にオッタルに捕捉されるのは自明の理な為破棄せざるを得ない。獣人であるオッタルなら臭いで俺の通った道が分かるだろうからダンジョン内でかくれんぼも無理だと分かる。正直な話し結構詰んでいるのが分かる。
「――っ!」
集は此処に来て疲労が出始めて来た。如何に思考速度を上げようと身体が着いて来なければ無用の長物。更に一つ問題が浮上してきていた。それは脳疲労である。身体疲労は勿論なのだが、此方がかなり致命的だった。集は異常なまでに思考速度を上げている弊害で戦闘開始から今でおよそ4時間弱が経過し居ているが、集の体感時間は既に2日を越えた。つまり単純に考えても二日間徹夜しているのと何も変わらない。更にはかなり思考速度を権能で無理矢理引き上げているせいで、疲労が通常より早い。脳の疲労度合いは徹夜4日目以上の状態とそう変わらない。
人間が意識、脳波共に起きている事の出るのは世界記録でもおよそ5日弱が限界だ。日本人の場合は4日、集は権能と恩恵でその辺も強化されていると考えても6~7日が限界だと思われる。その事から考えて戦えるのは恐らくあと1時間前後だろう。それまでにオッタルを屠りきれるか?ゴライアスの始末は?
ダメだ、思考がドツボに嵌り始めている。
確かにゴライアスの乱入のお陰で集の剣は何とかオッタルに届いている。しかし、どれも浅く決定打足り得ない。
「はあぁぁっぁ!」
「もっとだ!もっと喰らい付いて来い!貴様の限界を、その先を俺に見せて見ろ!!」
「■■■■■■■■■■…ッ!!」
集、オッタル、ゴライアスの三竦みは未だ拮抗し続けているが徐々にその終わりが近づいてきていた。
最初にミスを犯したのは集だった。戦闘開始からおよそ5時間と40分、ついに集の脳が一瞬のマイクロスリープ状態に陥りコンマ数秒思考が止まった。
その隙をオッタルが見逃すわけもなく、集に向けて斬撃を放つ。マイクロスリープから復帰した集は目の前にオッタルの剣が迫っている事を認識すると同時に剣を割り込ませて今まで避けて来た受けで防御した。衝撃を流しきれず全身を駆け巡り骨が軋み筋肉が悲鳴を上げ、後方へ吹き飛ばされた。
ピシッ、と言う音で剣を離すまいと意地で柄を握っていたヴォイドである右手の小指と薬指に若干の亀裂が入った事が分かった。
剣を右持ちから左持ちに切り替えて構え直し、悲鳴を上げる身体に鞭を打って戦線に復帰する。
この間およそ7秒、この7秒間でゴライアスは瀕死にまで追い込まれていた。これを見て集はゴライアスを利用する事を止める事を決断、勝負を付けに行く事にした。
ゴライアスの陰に隠れながらタイミング計る。そしてオッタルがゴライアスに止めの一撃を加えた瞬間また縮地と瞬動の合わせ技で霧散するゴライアスを超スピードで突っ切りオッタルの正面から懐に潜り込んだ。霧散したゴライアスの霧から出て来た集に驚きながらもコンマ2秒遅れで迎撃を開始、しかしこの遅れが致命的となり懐に潜り込まれ剣を振れない位置にまで制空権を犯されてしまっていた。そうと分かった時には既にオッタルは剣を手から離し格闘戦の体制を取った。ゴライアスへの最後の攻撃が首の両断であった関係上二人は空中に身を投げ出しており回避は極めて困難。集は此処で初めてオッタルを殺すと言う明確な意思を出した。これによりアビリティ【死神】が発動しステイタスを底上げした。そして左手に持ち限界まで引き絞った剣弾を全身を鞭のようにしならせ打ち出す。この刺突に対して、オッタルは驚異的な反射神経で体を捻り回避するしかし急に上がった速度に回避し切れず急所を避ける形で刺突を喰らう事となった。集が狙ったのは心臓、しかし当たったのはオッタルの右肩、次の攻撃の為に集は剣を引き抜こうとするが剣が動かなかった。オッタルが筋肉で固定したのだ。これにより集の動きが再び一瞬止まる。
此処でオッタルは集を逃がすまいと左手を掴みステゴロで決着を付けに行った。
「――ッ灯よ!」
しかしそれをさせると敗北が確定してしまう集は自身が持つ唯一の魔法を体外に顕現させた。
この魔法についてもオッタルには報告聞いていた。怪物祭に出現した未確認の魔物にこの魔法が振れた瞬間の弱体化したと。その為オッタルは即座に手を離し高速の正拳で一撃で済める事にした。しかしこれは集が入れたフェイク、実際の所只の人間が触っても全く害のない炎なのだがオッタルが警戒して手を離したのは行幸だった。空かさず突き刺した剣を利用して更にオッタルに密着し隠し持っていた小ぶりのナイフを両手に一本ずつ持ち肩の腱を狙て突き刺した。勿論このナイフも第一戦級の代物である。腱が切れた為オッタルの両腕は肩から先がだらんと垂れ下がり力が入らなくなっていた。
腱を着られると言うのはオッタルをして初めての経験だった。しかし彼は長年の経験でもって即座に両腕が使い物にならないと理解し、体を捻り上げ残った足で集を蹴り飛ばした。集にそれを回避する手段は無く左腕を割り込ませるのが精一杯だった。再び吹き飛んだが今度は防御に使った左腕の骨と左腕を越えて来た衝撃で肋骨が三本程折れた。左腕は折れたと言うより砕けたと言う方が正しいだろうが…。更に運の悪い事に瓦礫時の山に激突した為に衝突の衝撃で飛び散った破片が身体を更に傷つけ崩れて来た瓦礫が集に追い打ちをかけた。此処でオッタルも倒れ込む形で地面に着地、よく見るとオッタルの右足の膝の皿に左肩に刺さっていたはずのナイフが刺さっていた。
倒れ伏す二人、数秒の静寂の後、二人は同時に起き上がった。
殆ど立ち上がる事が出来ないような重症なのにもかかわらず意地と瘦せ我慢だけで立ち上がって見せた。集は予備で持っていた第二戦級のナイフを取り出し右手で構える。オッタルは床に転がっていた自身が一度破棄した剣を這いずって口で噛み掴んで立ち上がり重心を前に倒して迎撃態勢を取る。
静寂、全く動かない二人。どれ程時間が経っただろうか?いや、恐らくほんの数分だけだろう。二人は微動だにしない。
しかし見開いた眼は渇きなど知らいかの様に瞬き一つせずにお互いを捕えて離さない。
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ロキ・ファミリアの幹部であるガレス・ランドロックは後方でフィン達がトラブルで送れると言う報告を聞いて溜息をついて居た。遠征初日だと言うのに幸先が悪い…と。しかし、道中16階層での事だ、17階層への階段への最短ルート上にある広間が大穴を開けて通行不能になっていた為どの道迂回する必要が有ると後方に伝令を出し。つっかえる事にならなくて良かったと安堵する事となった。一つ気になった事と言えば下から大きな戦闘音が聞こえて来る事だった。かなり激しく戦っているようで、その規模を察するとドワーフの戦士としての血が疼いた。
だからだろうか、彼は遠征隊の進行を催促して見ものしようと思ったのだ。早く降りて冒険をして居る勇士の姿が見て見たくなった。記憶が正しければ広間の下はゴライアスが居るボス部屋。滾って仕方なかった。
そしてボス部屋におよそ30分と言う驚異的スピードで進軍したガレス達ロキ・ファミリアが見たのは、想像を遥かに超えるハイレベルな戦闘だった。しかもその中にオラリオ最強の冒険者と名高いオッタルが混じっていると言うのだから驚愕以外の何ものでもない。
何処か見覚えのある青年とオッタル、そしてゴライアスの三つ巴、恐らく元々あの青年とオッタルが何らかのトラブルで16層で戦っていた所で地盤が崩れ落ちたのだろう…。
何処まであっているかは分からんが上から降って来たと言うのはボス部屋に大量に積みあがった瓦礫の山を見れば一目瞭然、青年とオッタルが争っているのを見れば間違ってるとは思えない。
しかし、真に驚愕すべきはあの青年がオッタルに喰らい付いて離れないという事だ。見ていて思い出したがあの青年はベートを沈めた自称レベル1の規格外だ。ロキ曰く嘘では無いという事だから実際あの時点ではレベル1だったのだろう。よしんばどう頑張った所でレベルは2と言うのが妥当だろう。それがレベル5相当の動きを見せてオッタルと渡り合っている。有り得ないとしか言いようがない。二人と一体が雄叫びを上げながら死闘を繰り広げて切る。ガレスはこの光景にある種の感動を覚えた。
そして戦闘もクライマックス、隙が出来てしまった青年がオッタルに吹っ飛ばされ。その間にオッタルがゴライアスを始末、そしてその始末したタイミングを狙って青年が一気に肉薄して10以上駆け引きと攻防の末お互いに瀕死の状態、オッタルは口で掴んだ剣で迎撃の意を見せ。青年は少し貧弱なナイフを片手に構え微動だにしなくなった。暫くしても全く反応がない。そして彼は気づいてしまった。青年が立って目を見開いたまま気を失っている事に、そしてオッタルが意識こそ保っているが負傷に次ぐ負傷で身動きが取れない程消耗していた事に…。
心が…魂が震えた。圧倒的歓喜。この人生史上上位に喰い込むであろう激戦の行く末を見る事の出来た事への喜びと、意識を失っても決して膝を屈さず眼光が消えない程の闘志を見る事が出来た事への尊敬と畏怖。
周りの団員はあまりの光景に唖然とする者、ワシ同様歓喜し涙する者、触発され闘志を燃やす者。
最初に幸先が悪いなどと思ったが前言撤回じゃ。今日は最高について居る。滅茶苦茶幸先が良い!
オッタル相手に事実上の引き分けを捥ぎ取ってしまった集さんマジチート。正直此処までやるつもりは本当に無かった。だがやってしまった。反省はしているが後悔はない。
原作ではフィン達の後にダンジョンに潜っていたはずのガレス達を先に先行させている設定です。