罪の王がダンジョンに居るのは間違っているだろうか?-リメイク!   作:ユーリ・クラウディア

9 / 10
日間ランキング4位!?正気かよオイ…。
だが矢張り嬉しいものは嬉しい、感謝です。


#8

18層のセーフティエリアを抜け下層に向けて進む事早数日。集は次のセーフティエリアである56層にまで到達していた。

 

武器や防具はかなり消耗して居るがまだ暫く持つだろう。

 

「…そうか彼らはロキ・ファミリアの」

 

集の目の前にあるテント、こんな階層にまで来れるファミリアと言えばロキ・ファミリアかフレイヤ・ファミリア位なものである。そして今遠征をしているファミリアは自身を助けてくれた彼らだけである。

集は助けてくれた人達にお礼の挨拶くらいはしなければと思いその天幕に近づいた。

 

「――何者だ!?」

 

まあ、こうなる事は自明の理である。何せダンジョンの未踏破エリア手前の最前線、そんな場所に一人でいるなんて怪しさ満点だろう。

 

「すいません、ガレスと言う人はいるでしょうか。先日中層で助けて頂いたそうで、近くまで来たのでお礼の挨拶をと思いまして。」

 

「……ガレスさんは既に先に向かった。此処にはいない。」

 

「そうですか…ではまたの機会にする事にします。入れ違いになったらアレですし、一応よろしく言っておいてください。」

 

「そうか…。」

 

「では僕は先に進みますので通してください。」

 

集は取り敢えず此処から離れることにした。セーフティエリアとは言え遠征中の為か空気がピリピリしている。これ以上刺激するのは双方の特にはならないだろと言う判断だ。だが彼らのキャンプは先に向かう為の階段の正面に陣取っているのでどの道彼らのキャンプの中を通らなければならない。

集はキャンプを突っ切ろうとする。しかしはいそうですかとキャンプの中を突っ切らせる程見張りの彼も能天気ではなかった。

警戒し槍を突きつけて来る。

 

集はそれを無視して直進する。彼の行動は見張りとしてある意味では正しい。だが上司に確認を取らなかったのは彼のミスである。そして此処まで到達できる者が殆どいないからと言ってこんな位置にベースキャンプを設営するのはどうかと思う。それでも止まらなかったのは、矢張り何処かに焦りが燻って居るからなのだろう…。集は何処か冷静では無かった。

 

槍に全く警戒を見せずに近づく集に怯み一歩後ずさる見張りの男。

そして集は槍の間合いに入った瞬間剣を抜刀し居合の要領で一振りし鞘に納める。

これに見張りは全く反応できず。分かったのは一瞬だけ彼の視界から集が消えたと言う現象だけだった。

槍は二つに切断された。彼は戦慄した。そして次の瞬間には意識が暗転していた。

 

そしてキャンプを突っ切り次の層の通路に辿り着いた時には更に10人程気絶させ、ロキ・ファミリアの団員に背後を包囲されていた。勿論通路を通りたいから通してもらうだけと言った。しか最初の見張りを気絶させた事がいけなかった。完全に敵意を向けて来る団員。その内集とオッタルの戦いを見ていた団員だけが他の団員達を抑え込もうとしていた。

 

集は少しだけ後ろを振り返りロキ・ファミリアの面々を一瞥する。

誰も彼もが一流に届いている強者達だという事が見て取れる。しかし集には不思議と驚異足り得るとは思えなかった。集はオッタルの件も含め自身に起こる変化に少しの寂しさを覚え失笑しながら通路を歩いて行く。

 

 

****

 

 

私、アリシア・フォレストライトは故郷をクロッゾの魔剣に焼かれたエルフです。憎くてしょうがないクロッゾに復讐する為に力を求めてオラリオに来ましたが、いつの間にか情に絆されて今は、仲間と冒険するのがとても楽しく思っています。勿論クロッゾは今でも憎いです。出会えばきっと正気では居られない程に、でも今は少しだけそれを忘れて皆と一緒に冒険がしたいと思います。

そんな私ですが最近、理想の戦い方と言う物を見ました。相手の攻撃を完全に先読みし舞い散る花弁のように躱す極限の回避術、隙が無いとしか思えない相手の構えに対し隙とも言えない針の穴よりさらに小さい空白を意図も容易く事も無し気に突く剣戟。そして相手の認識を謀り、意表をついて致命傷を与える暗殺者の如きナイフ裁き。そして圧倒的強者相手に決して屈しない精神と眼光。目に焼き付いて離れない。

そんな理想の戦い方を魅せてくれた青年が目の前を歩いている。深層に分類されるこの階層をたった一人で、次の階層に行く為には通路の前に陣取った為にこのベースキャンプを通らざるを得ない。だから彼はここを歩いて居るのだろう。だが最初に槍を向けてしまった見張りを気絶させたのが原因で遠征でピリピリしていた何人かの団員が彼に攻撃した。彼はその圧倒的技量でそれを無力化していく。倒れ伏す10人の団員。そしてそれを見て手を出さず離れて警戒する事を選んだ団員、私や彼の戦いを見た他の団員が必死に止めたが10人も彼に危害を加えようとしてしまった。彼がもっと気性の荒い人だったらきっと頭と胴体が泣き別れしていただろう。

彼は通路の前で立ち止まり此方を一瞥した。そして失笑し奥へと歩いて行った。

彼の失笑に団員達の殆どが激怒したが、私を含むほんの少しの団員達は悲しみに駆られた。それは彼の目が、表情が何処か迷子の子供の様に泣き叫んでいるように見えたからだ。失笑は迷子の自分に対してのものであると思った。その背中に漂う哀愁に涙が出そうになったのはどうしてだろうか…。故郷を失い迷子になった自身の心と彼の背中が一瞬被って見えた。

 

 

****

 

 

深層の情報は文献を読み漁り大体分かって居た。しかし何時まで経っても下層からの狙撃がない事を不思議に思い当てもなく道を進む。すると穴が開いた通路を発見する。下層からの狙撃の痕だろう。各層を隔てている厚い地盤の装甲をこうも容易くぶち抜いて来るモンスター、喰らえば通常のヴォイドでは防御特化の物を使っても防ぎきれない可能性がある。

集は早々にこの階層を突破しなければならないと判断し開いて居た穴から下層に侵入する事を決めた。流石にこの高さから飛び降りるにはレベルが足りないと判断した集は着地の瞬間だけ右手に巻きつけていた包帯を緩め綾瀬のヴォイドを顕現させクッションにした。

 

周囲を見渡すと幾つもの魔石やドロップアイテムが散乱していた。恐らく先に通ったロキ・ファミリアの面々が殲滅したのだろう。そういう意味で言えば集はかなり楽をさせて貰えたのだろう。

次の階層への通路の手前で腰を下ろす。流石に疲れた。集は回復系のヴォイドで高速で体力の回復を始める。そしてヴォイドを右手に格納し目を開けるまでの時間はおよそ1分、この間におよそ2時間分の休息と同じだけの体力回復を行う驚異、いや、最早狂気的なまでの行動に集は苦笑いし立ち上がる。この1分の睡眠で夢を見た。やけに長い夢、集が居て、いのりが居て、涯が居てマナが居る。それに皆が居て…。きっと自分が求める平和な世界の光景、戦いなんて無い平和を享受できる理想の世界。そして2度と得る事の出来ない只の幻想。

緩めていた包帯を巻き直し、次の階層に向けて歩き出した。

奥から聞こえて来る爆発音、先行しているロキ・ファミリアの幹部達だろう。

やがて出口の光が見える。未だ爆発音は聞こえる。そして集の目に映った階層の景色。

何時か見た淘汰の終息点。全ての生命が結晶となり疑似的な永遠を手にした姿。ダートによって次のステージへと昇華した人類種の姿だ。自身の手で葬ったifの世界、この世界を作れる存在は最早集一人しかいないはずだった。考えられる可能性は一つ。

 

「…いのり。」

 

集が求める唯一の存在。自身を庇って一人で行こうとした優しい子。集が愛した女の子。

 

 

「ああ、淘汰の終息点、その縮図を見せられた気分だ。」

 

集はやっとたどり着いた。そう直感した。彼女と会う、そして今度こそ彼女と一緒に歩もう。

 

 

 

「いのりを、返してもらうぞ!」

 

 

 




チョイ短いですけどキリが良かったので切る事にしました。

ヤバい明日も早いから早く寝ないと遅刻(ry

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