基本的な文法から、言葉のミスまで見返すといろいろあってお恥ずかしい限りです。
致命的なのがキャラクターの名前なのですが、
平等橋 ○ 平等院×
舞衣 ○ 麻衣 ×
です。キャラ名の間違いは噴飯ものですね。気をつけます。
追記
舞衣と亜衣の名前の衣が依と混同してやっちゃってます。気づき次第直してますが直ってねえよ馬鹿野郎って言う方がいらっしゃれば何卒誤字報告を…
俺の友人だ
友人なのだが、俺は舞衣と二人だけで話したことはなかったと思う。
理由は、舞衣は常に柊亜衣とセットだからだ。
二人で俺や荒神と絡むことはあっても、亜衣一人、舞衣一人だけで話したり、行動したりすることはなかったと思う。
二人の息があまりにも合い過ぎていて、他の介入する余地がないというか。
亜衣と舞衣は荒神をリーダーのようになってして慕っているが、そこに対等な力関係を持った友人という感じが俺にはしない。茶化しながらも荒神に付き従う二人。そんなイメージを俺は持っていた。
邪気のないような、天真爛漫に息のあったコンビ芸を繰り広げる二人に、俺は親しくなればなるほど若干の疎外感というか、壁を感じるようになっていた。
ある種二人だけで世界を構築させている。
そこまで露骨ではないものの、俺は亜衣や舞衣に対して荒神の友達、つまり友達の友達なんじゃないかという不安がどこかにあった。
だから今凄く困惑している。
「マロちんは何飲む?」
「……コーヒー牛乳」
それ好きだよねえと舞衣は笑いながら自販機のボタンを押す。
学校終わり、俺は舞衣と2人でショッピングモールへとやってきていた。いつも平等橋と使っている場所だ。
昼休みに舞衣に今日の放課後暇かと誘われたが、実際終礼の後に「マロちんいくよん?」と声をかけてきた時は驚いた。冗談だとばかり思っていたからだ。
その場に荒神がいたならば、きっと自分もいくと鼻息荒く立ち上がっただろう。しかし奴はさっさと女バスの練習へと向かっていた。今回に限っては、荒神が居てくれたらなと思ったのだが。
舞衣が悪い奴じゃないってことはよく知っている。でも何度も強調するけど俺と二人きりって今までなかったことだ。こいつは逆に気まずくないのだろうか。俺はすっごく気まずいぞ。
昼休み、舞衣は俺に買い物に付き合ってほしいというようなことを言った。
ただの買い物じゃない。なんとそのブツは水着だ。男の時ならこの言葉に反応するだけで変態の烙印を押されたものだが、女となった俺には単なる必要品に過ぎない。
俺も水着に関しては考えなければいけない事でもあったので、丁度いいかと気軽に考えていた。
だがまさか舞衣と二人きりとは思わなかった。普通に荒神か亜衣がいるものだと思っていた。
終礼が終わるとさっさと教室を出て行く二人を見て、実は部活行くのおふたり? と疑問を抱いたほどだった。
知らない仲じゃないとはいえ、俺は舞衣と水着を買いに来るような仲だったのだろうか。それ以前に、水着を一緒に買いに行くってどれくらいの間柄なら許されるんだろう。許される、許されないって考えている時点で多分アウトだと思うんだけどさ。
顔に出やすい俺のことだ。きっと相手にも困惑している様子がよく伝わったのだろう。
舞衣はすぐにショップに入るのではなく、フードコートでジュースを奢ってあげると俺に言ってきた。
彼女の意図がよく分からない。それが今俺が置かれている状況だった。
「マロちんってほんとすぐに顔にでるよねー」
「うるさいよ。最近自覚してきたけど。てか、だったらそろそろ理由話してくれてもいいんじゃねえの?」
ここに来るまでの道のりの中で俺はそれとなく今回の誘いの意図を尋ねたのだが、いまいち相手には伝わらなかった。いや、伝わっていたと思うけど俺の反応をこいつは楽しんでいた風に見えた。本当に意地が悪い。
一見、舞衣と亜衣は姿形を除いて殆ど瓜二つのように見えるが、ある程度普段から一緒にいると違いが見えてくる。
亜衣の方が若干の天然で、舞衣の方がかなり底意地悪いということだ。
同じイタズラも、亜衣は悪意なく、舞衣はある程度惨事が起きることを予見した上で行う。舞衣だけイタズラに成功した時、というか相手が嫌な顔をしたときの表情が違うのだ。満面の笑みを浮かべるのだこいつは。
そういう理由もあって、俺は亜衣と舞衣ならどちらかというと亜衣の方が二人でいて苦にはならないのだが、今目の前にいるのは舞衣だ。さて、こいつはどんな意図で俺を誘ったのだろうか。そろそろ答えろよこの野郎。
「いやー、これを、言うのはちょっと恥ずかしいことではあるんだけどね?」
「前置きとかいらねえから」
「あーん、マロちんがつーめーたーいー」
へらへら笑う舞衣。いやほんともうさっさと話せよ。
「あたし胸無いじゃん」
だからって突然自分のコンプレックスを語るのはやめろ。
俺がなんと言えばいいのかわからず黙っていると、舞衣は「いや理由なんだけど」と付け加えた。
「えっと、どゆこと?」
「だーかーらー、あの二人と比べたらまな板でしょ? あたしのバスト」
「お、おう」
「去年一緒に買いに来たんだけど滅茶苦茶馬鹿にされたんだよね。あのパイオツカイデーコンビに」
「怪獣みたいに言うのやめろよ」
ちょっと笑っちゃったじゃないか。
亜衣の胸がばかみたいにデカいことは周知の事実だ。
クラスどころか学年で数えても亜衣に勝てる奴はそうそういない。一方亜衣に隠れているが荒神もかなりのものだ。服の上からでもはっきりとそれが分かる。いや服の上ってか実際一度一緒に風呂入ったことあるからってのもそうなんだけど。
「あいつらあたしの胸を、胸を、胸肉を……」
「鶏肉みたいになってくるから肉をつけるな」
だが本人はいたって真面目だった。つまり真面目にボケていたってことになるんだが、それはひとまず置いておく。
「マロちんならあたしとどっこい……いやマロちんの方がでかくない? ちょっとマジか、やめてよここまできてそれはー」
「私の胸から手を放せバカ」
ぐにぐにと俺の胸を揉みしだく舞衣の顔を押す。
男の時平等橋に受けてきたセクハラの数々のせいで、俺は他人に体を触られてもちょっとやそっとじゃ動じない厄介な体質になっていた。流石に赤の他人に触られたら拒否はするだろうけど、舞衣なら特に警戒することもなかったからつい許してしまった。しかし時と場所をわきまえろ。気のせいか周りの人がちょっとこっち見てるじゃないか。
「うーん、まさかマロちんにまで抜かされているとは」
「結局目的は胸を馬鹿にしない奴と水着を買いに来たかったってことでいいのか?」
このままだと一生話が終わりそうになかったので、俺は強引に話を戻した。
舞衣は買ってきたジュースを飲みながら右手の親指と人差し指で輪を作って小刻みに振った。正解らしい。でもなんかイラッと来る仕草だった。
「まあいいや。私もちょうど授業で使う水着必要だったし」
「え、マロちんスク水持ってないの?」
俺が席を立ったところ思いもかけない舞衣の言葉がやって来た。
「ここじゃスク水買えないよ?」
「……なんだって?」
売ってないのかよ。じゃあなんでこんなところまで来たんだこいつ。ていうか連れてきたんだこの野郎。
恨みがましい目で睨んでやると、舞衣は腹を抱えて爆笑しだした。こいついつか絶対泣かす。
「うちの授業で使う奴は指定のとこじゃないと買えないって。今日は普通の外で使う水着だよマロち~ん」
「帰る」
「まあまあ待ちなって。ほら行こう、され行こう」
俺の目的のものがない以上ここに居座る理由も特にないのだが、舞衣を一人残すのもなんだか罪悪感がある。
決して舞衣に流されているわけじゃないが、肩を組んでずるずる引っ張られていく俺は傍から見たら流されているように見えたと思う。
「水着ってそれだけで売ってる店とかあるんだな」
俺がぼそっと呟くと、舞衣は「一年中水着ばっか売ってるところもあるし、それこそいろいろだと思うよ?」と返してくれた。なるほど。
夏が近いということもあり、全体的に水着を扱っている店は多いように見えた。
舞衣はすでに行く店を決めていたようで、とあるショップに俺を引きずっていった。
「これはまた凄まじいな」
「男の時に見てたら鼻血吹いてた?」
「流石にそこまでじゃないけど」
いたるところにマネキン水着マネキンマネキンまた水着。カラフルな蛍光色からそれほんとに肌守ってんの? と疑問を抱きたくなるような奇抜な布地まで多種多様だった。
何かお探しですか、とにこやかに声をかけてきた女性店員に断りいれ、舞衣は俺を奥へと案内する。店員さんと一緒に商品を探す人もいるだろうが、舞衣はそうしない類の人間らしかった。
「あいつら内心あたしの胸見てわらってっからね」
「流石に被害妄想じゃないか? そもそも舞衣くらいのサイズの方が種類多いだろ」
「マロちん喧嘩を売るネタを間違えちゃいけないよ? 舞衣くらいって何? バカにしてる?」
「こいつめんどくせえなあ!」
でも実際そこまで胸を強調しないような水着ならいっぱいあると思う。大きめのフレアとかリボンのついたやつとか。
もちろん舞衣も自分の似合う水着くらい把握していたみたいで、これ可愛いかもと物色を始めた。大体どんなものを買うのか目星はつけている印象を受けた。
小一時間ほどで舞衣は商品を決めると、さっとこちらを向き直った。
「マロちんが意外にも水着に詳しかったのは驚いたけど、選ぶの手伝ってくれてありがとね。ひょっとして昔も男物じゃなくてこっち着けてた?」
「笑えない冗談いうなよ。単に妹の選ぶの手伝わされてたからってだけだ」
「この手の店に妹と入れる兄って、しかもそれを見咎められなさそうなのがまたマロちんクオリティだよね」
「どうでもいいからさっさと買って来いよ」
しっしと犬を追い払うように手を振ると、舞衣は何言ってんだこいつみたいな目を向けてきた。なんだよ。
「マロちんの分買ってないよ?」
「はあ?」
何を言い出すんだこいつ。買う訳ないだろう。水着とか言ってなんか水の中の正装みたいに振る舞ってる節あるけど、あれってただの下着じゃん。俺に露出癖はない。なんで見ず知らずの人間がうようよいる中であんな全裸に近い恰好ができるのか理解不能だ。
「買わねえよ」
「ええ~。マロちんも買おうよ~。貧乳同盟組もうよ~」
「お前実は自分が胸小さいことそこまで気にしてねえだろ」
自分から自分の胸を弄れるそのメンタルはどっからやってくるんだって話だ。
「夏だよ? 皆で海とか川とかプールとか行きたいじゃん」
プールという単語でちょっとぐらっと来た。友達いなかった反動がここできた。友達とプールって言葉だけでもう心がぐらつく。
押せばいけると踏んだのか、舞衣はそこから怒涛のように畳みかけた。
「そうだよプールだよ!」
「楽しいよ~、楽しくないわけないよ」
「ボスは絶対行くし亜依も行くよね。あたしも当然参加で、あ、そっかマロちん水着持ってないんだ。へーそうなんだ」
「それは残念だねえ。皆でプールに行くけどマロちんは誘われもせずに一人寂しく夏を過ごすんだね」
「あー可愛そう。もしマロちんがこの時、水着を買っていたらこんな悲劇は起きずに済んだかもしれないのに」
怒涛の口撃。
なんでこいつは人を攻めるときここまで生き生きしているのかと無性に腹立たしく感じる。
「く、くぅう、いやでもほら、俺今金ないし」
「もともと学校のスク水買ってくるだけのお金はあったんでしょ? なら全然余裕で買える買える。そんな事よりささっと決めないとマロちんの夏休みの悲惨さがいまここで、この一瞬で決まってしまうかもしれないんだよ? いいの、ねえいいの?」
「だああ、もううるさい! わかったよ、私も買うよ買えばいいんだろ!」
半ばヤケクソになって言うと、舞衣は「言ってみるもんだね」と破顔した。負けた気分に陥ったが、たまにはこういうことをするのも悪くないだろう。それに、プール、だし。
さて、じゃあどうするかなと俺がいろいろ見ていると、後ろで舞依が「せっかくだし誰かに見せるっていうのを意識して選んでみたらどう?」と言ってきた。
誰かに見せる、か。
誰に見せようか。近い所だとゆかりとか兄貴とかかな。流石に兄妹はきもいか。
じゃあ誰だろう。
荒神に合わせるか? あいつ鼻血吹いて倒れそうだしな。
じゃあ平等橋はどうだ。
平等橋……。
「バッシーでしょ。どうせ」
「どうせってなんだよ」
舞衣が口に手を当てて嫌らしそうに眼を細めて笑う。うるさいよ。
うん、でも舞衣に言われたからってわけじゃないけど、普通に平等橋を意識してチョイスするのは悪くない選択じゃないか。思い出した、思い出した。
俺は平等橋に俺のことをどう思っているのかはっきりさせなければならないと思っていたのだった。
女扱いしろって言ってるわけじゃないが、今の平等橋は無理して女の俺の中から「男」だった時の俺をくり抜いて接しているような感じがする。
水着なんていかにもな装備を着けたら、さすがの平等橋も何らかの反応を見せるだろう。
「これなんてどうかな?」
「お前自分が着ないからってそんな紐だけみたいなの持ってくんなよ……」
舞衣との買い物は、思いのほか楽しかったということを追記しておく。
家に帰ると、揚げ物のおいしそうな匂いがした。
エプロンをつけたお袋は、「今日お弁当を間違えてしまいましたから、そのお詫びです」とはにかみながら言ってくれた。ラッキーだ。
制服を着替えてお袋の料理を手伝う。最近はこの時間が結構好きだったりする。
今日は舞依と買いものに行ったため、ほとんど料理は完成していたんだけどな。皿だしくらいはやる。
「今日は遅かったですね。お友達と買い物ですか?」
お袋は鋭い。
別に隠すことでもないので、俺は素直にうなずいた。
「前に話していた、あのなんたらっていう男の子ですか?」
「平等橋のこと? 違うよ。今日は女の子の友達」
「そうですか。とても仲の良い友達なのですね」
ん、仲の良い? 俺は不思議に思ってお袋を見ると、「とてもいい笑顔ですよ」と付け加えた。
そんなに分かりやすいかなと自分の顔をぐりぐり弄る。表情筋がちょっと緩んだ気はする。
嬉しそうな顔か。
それはきっと帰りの電車の中で舞衣が俺に言ったことが原因なんだろうな。
「マロちんってさー、あたしらと距離あるよね」
舞衣が唐突に何かを切り出すことには慣れたはずだけど、内容が内容だけに俺は動揺を隠せなかった。
「え、何急に」
「あたしだけかなーって思ってたんだけど、亜衣もそう思ってたみたいだから言っとこうかと思って。別に責めてるとかじゃないよ。一緒にいるようになってそんなに時間も経ってないし」
でもちょっと寂しいじゃん。
舞衣はそういうと、車外の風景に目を落とした。
俺は戸惑い半分、嬉しさ半分といった何とも複雑な心境で舞衣の言葉を聞いていた。
俺だけじゃなかったのか。
舞衣や亜衣も、俺との距離感に戸惑っていただけなのだろうか。
二人はいつも軽快で、お調子者で、深く物事を考えているように見えず、ただ二人だけの世界を作りだしている印象が俺にはあった。
そういう風に見ることで、逆に俺の方から壁を作っていたのかもしれない。
「もしかして今日誘ってくれたのって」
「深い意味はないって。普通に水着買いたかったっていうのが一番の理由だし。でももちっとマロちんの心が開いてくれないかなーとか、思ったりー、思わなかったり?」
舞衣は照れたように頬を掻いた。その顔はいつもよりずっと赤く見えた。夕日のせいなのか、それともそれ以外の何かなのか。
どちらでも構わない。ただ俺は嬉しくなった。
「お前らわかりにくいもん」
「うっそー。そんなこと言われたのマロちんが初めてなんだけど? あと二人って一括りにするのはやめてよ。あたしは舞衣だから。亜衣とは仲いいし、一緒にいることは多いけどセットじゃないよ。いい、マロちん?」
人差し指を立てて俺に警告する舞衣。そうだな、これからはそういう風に見るのはもうやめる。
その後は言葉少なに、でも和やかな時間と共に俺たちは帰路についた。
ついでのおまけ。
夕飯時、俺が今後授業で使う水着について親に相談したところ、親父から既に購入しているとの返事が返って来た。
「なんでもう買ってんだよ!」
「ははははははは! そう、その顔が見たかったからバラゲフッ!」
親父の悪ふざけにキレたお袋が親父に向かって湯飲みを投げた。
いつものように昏倒する親父を、俺は呆れたように眺めたのだった。