TSしたら友人がおかしくなった   作:玉ねぎ祭り

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二話更新です。


相変わらずいい尻だな

 平等橋は何か言っているが、私の頭はショート寸前だ。

 どうやって逃げるかということしか頭にない。 

 ……逃げるにしてもブーツは壊れているじゃないか!

「『い、いやー、意外とだいじょうぶです』」

 精一杯の裏声を使って他人のフリをすることに決めた。頼む。騙されてくれ。

 時間にして数秒。しかし私の中では永遠にも近い時間が流れたあと、

「ああ。これは厄介ですね」

 助かった。平等橋は見事騙されてくれた。

「『いえ大丈夫です。ちょうど修理しに行く途中だったんで。わざわざありがとうございます』」

 言外にどっかいけと言う意味を込めて微笑んでやれば、「なら肩貸しますよ」と爽やかに笑い返してきやがった。こ、こいつ……っ。

「『いえいえ、悪いですし』」

「折れたヒール履いたまま歩くと靴自体痛みますよ?」

 そう言われるとこれを履いたまま歩くのは気が引ける。でもだとしたら私はここに立ち往生なのだろうか。

「これ履いてください。ちょっと汚れてるけどわりと新しいんで」

 平等橋は自分の運動靴を脱いで、私の足の横にそろえて差し出した。

「履けません! だってそうしたらあなたが履くものないじゃないですか」

「ああ大丈夫です。俺これあるんで」

 平等橋はごそごそとリュックの中からぼろぼろの靴を取りだした。

「もうだいぶお釈迦間近なスパイクです。新しいのと交換する時期だったんでちょうど持っててよかったです」

「なら私がそっち履きます。わざわざ脱いでもらうのも」

「いいんですか? これ超汚いし臭いですよ?」

 意地悪そうに笑う平等橋。すこし笑ってしまいそうになった。

 いけないいけない。こいつはジゴロだ。いつもこういう手口で女性を引っかけているのだろうかこいつは。

「でもそうですね。分かりました。ご厚意に甘えさせていただきます」

「でも? ああはい。じゃあどうぞ。あ、肩貸しますよ」

 

 

 駅前でヒール修理に出すと、平等橋が「家まで送っていきますよ」と言ってきた。

 こいつ家まで付いてくる気かと本気で警戒したが、「その足じゃ帰れないでしょ?」の一言で納得した。逆にこいつには下心が存在しないのか検証したくなった瞬間でもあった。

 道中相変わらず平等橋はおしゃべりだった。

 あまりにも普段通りだから、ふと今自分がどんな格好をしているか忘れそうになる。同時に、こいつは別に私が相手だから楽しそうに話すわけじゃないんだなと気分が落ち込んでしまったりもした。

 家まで中ごろというところで気が付いてしまった。

 このまま家まで案内されると家族の誰かが私を見つけて名前を呼ぶのではないかと言う危険性に。

 この場合二つのミスがある。

 一つは私が女装をしているという事実が発覚すること。

 もう一つは平等橋に私=公麿ということがばれやしないかということだ。

 幸いにしてこの馬鹿は私が公麿であるということを分かっていないようだが、第三者に指摘されると気づかれてしまうというリスクがある。何とかうまいことを言って近くまで来たら靴を脱いで逃げ出せないものか。

「紅葉が散っていますね」

「え?」

 平等橋が突然そんなんことを言いだした。

 どこを見てそんなことを言っているのかと彼の視線を追えば、近所にある割と大きめの公園に目を向けているようだった。

 この公園には噴水もあり、夏になれば日に三度ほど噴水が吹く。それが楽しくて昔はお兄ちゃんとゆかりの三人でよく遊んだものだった。

 しかしここはチャンスだ。ここで時間を潰して隙を見て逃げ出してやる。

「良かったら少し寄っていきますか?」

「そうですね。寄っていきましょうか」

 俺の不信すぎる誘いに何の疑いもなく乗る平等橋。別の意味でこいつが心配になった。美人局とかにあわないだろうかこいつ。

 公園の出入口の近くにベンチがある。私たちはその一つに腰を下ろした。

 ……困った。こっちから誘ったはいいが話す話題がない。さっきまでは平等橋が話していてくれたから助かったが、今はこちらがホストだ。何かもてなさなければ。

「俺の話をしてもいいですか?」

 頭を悩ませていると、ぽつりと平等橋が口にした。

「話、ですか?」

「ええ。相談っていうか、愚痴みたいなもんなんですけど」

「え、ええ。ええ! どんどん話してくださいな!」

「なんか口調変わってません?」

 構わない。何を話そうか迷っていたところなのだ。自分から口を開くとはこれほどいいこともない。

「俺こう見えてあんまり友達いないんですよ」

「あなたが? いっぱい居そうに見えますけどね?」

 お前友達いっぱいいるじゃないか。何を嘘ついてるんだこら。

「えと、なんて言うんですかね。喋るやつは結構いるんですけど、なんていうかこう親友? 的なやつです。こころ許せる友達って意味で」

「ああ。そういう事ですか。そういうものじゃないですか? 親友なんてそうそう数いるものでもないでしょう」

「そういうものなのかもしれません。……俺にも一人親友って呼べる奴がいるんです。そいつの相談なんですけど」

「聞きましょうか」

 平等橋の親友か。こいつは友達が多いから、その中にいてもおかしくない。

 私が平等橋の友達のどこにいるとか今は考えるな。悲しくなるし。

「そいつ俺とは全然違うタイプなんです。スポーツも苦手っぽいし、性格も内向的だし。でも俺の中でそいつが一番なんです」

「なんですかその口ぶり。ひょっとしてあなたその親友さんが好きなんですか?」

「はい。好きです」

 心臓が跳ねた。

 軽くジャブを打ったらクロスカウンターを食らった気分だ。

 親友、好き? 誰だ。こいつの周りでそんな奴いたか? まさか、こいつそういう……?

「あの、俺同性愛者ってわけでもないです。女ですよそいつ」

「心の底から安心しました」

「まあ男とも言えるっちゃ言えるんですけど」

「お巡りさーーん!」

「マジででかい声出すのやめて下さいよ!」

 全く、とどうしようもないものを見る目でこちらを見る平等橋。う、真面目に聞くからその目やめろよ。

「最近そいつとちょっとうまくいってないんです。喧嘩したとか、そういうんじゃないんですけど」

「うまくいってないって具体的にはどうなってるの?」

 一応相談を乗っているという体なので、聞くだけ聞いてみる。私が解決できるとは思えないけど。ていうか誰だよその女。なんかむかむかするな。

「詳しくは言えないんですけど、俺とだけ仲良くして、今まで仲良かった女友達と急に疎遠になったり、俺が変わったそいつの様子を指摘したら泣き出したり」

「なかなかヘビーだね。でもあれじゃない? 泣き出すってことはその指摘がよっぽど言われたくなかったことじゃないの? 髪型似合ってないとか。女友達のことは……なんだろう。何か嫌なことでもあったのかな」

 髪型とかそういう軽いやつじゃないんですけどねとぼそっと言われる。うるさいな。自分でも相談に向いてないことくらいわかってるっての。

「周りが言うにはそいつが俺の事好きみたいなこと言うんですよ」

「その親友の子が君の事を? ふーん、まあキミモテそうだもんね」

「俺はそんなことないってずっと否定してたんです」

 平等橋は私の軽口を無視してそういった。なぜだろう。さっきから無性に胸が苦しくなってきた。

「薄々気が付いていたのかもしれません。でも気付かないふりをしていたんです。だってそんなことあるはずないって思っていたから。あいつが俺の事を好きだって、それを認めるのが俺だけじゃなくてあいつも否定したいことだと思うから」

「……」

「昨日、そいつのお母さんと妹さんがうちに来たんです。親友とはさっき言ったことが二週間くらい前にうまくいかなくなっちゃって、その原因が俺だっていうんで来たんです」

「……」

「笑っちゃうのが、お母さんと妹さん親友があんなことになったのは俺が親友を振ったからだって言うんです。思ってもみなかった答えが来て俺もなんて言ったらいいのかわからなかったです」

「……」

「帰り際にお母さんに言われたんです。もし娘と今後一緒にいたいなら責任を取れって。そうじゃないなら黙って見送れってね。言葉はこんなにきつくないですけど、大体こんな感じです。今日の晩、その答えを出してくれって言われました」

「……」

 

「一晩考えました。本当はもっと考える時間はあった。

 でも俺は考えないようにしてたんです。難しいこと考えるの苦手ってのもありますけど、俺がもともと女性が苦手だってこともありました。

 昔ちょっとトラウマがあって。でもそれを取り除いてくれたのがそいつだったんです。

 あいつには感謝してる。でもだからこそそんなはずないって思ってしまったんです。俺がそいつにそんなに大きな影響を与えてるっていうことが。

 迷惑を掛けた覚えはある。でも好意を抱かれる理由なんかないだろうって。友人ならありだけど、異性でそれはねえだろって。

 でもそれが間違いでした。

 姉貴とか友達とか、親友の友達とか、親友に告白したやつとか、いろんな奴の話を聞きました。

 それで俺なりに答えを見つけてきたつもりです」

 

「……なん、て。いうつもり、だったんですか?」

 喉が震える。 

 これ以上聞くな。脳が拒否し始める。

 先へ進め。絶対にこの続きを聞け。体が求める。

 寒さとは別に体がぶるぶると震えた。

 平等橋は私に向けていた視線を、何かに気づいたようにふと外す。

 私ではなく、私の背後?

 

「娘さんを俺に預けてください。後悔させません。嫌な思いも極力しないようにします。この思いが俺の我がままだって自覚もあるつもりです。でも、俺はこいつと離れたくないんです。親友としても、好きな人としても」

 

「……結構なこという少年じゃないか咲江」

「あら、ガキ臭いことを言うようなら問答無用で殴り飛ばすって言ってませんでしたっけ?」

 お母さんとお父さんが後ろに立っていた。 

「――――――!!!」

「おい咲江。なぜだか私たちの娘が声にならない悲鳴を上げているぞ」

「きっとおめかしした姿を見られて照れているのよ。あらどうしたの公麿、逃げ出そうったってそうは行きませんよ?」

 万力のような力でお母さんに押さえつけられる。なんで二人はこんなところにいるんだ!? あと放してくれ! ていうか殺してくれ!

 羞恥心と驚きで顔に血液が一気に集まるのが分かる。

 どうしているんだこの二人!? 家にいなかったじゃないか、あ、まさか平等橋の仕業か!?

 平等橋はどこだ!

 ばっと振り返ると両親を前にがちがちに緊張した顔の平等橋がいた。

 なんでこいつこんな面白フェイスしてやがんだ。

 思考は一瞬。先ほど自分が何を言われたか思い出した。

 あ、あれってつまり所謂その、告白と言うやつじゃないのだろうか。

 もし自分の頭の上にブロックの氷を置いても溶かせる自信がある。オーバーヒートしそうだ。

「ところで平等橋くんといったね。夕飯はもう済ましたかな? まだならどうだろうか」

「ご相伴に預かります。あ、家に電話いいですか?」

「構わんよ。なに、今日はいい気分だフハハハハハ!」

 じゅわ。

 体の中で今までたまっていたドロッとしたものが流れていく不思議な感覚が起きた。

 “お袋”の腕からするりと抜け出る。

「うるせえよ親父!」

 我慢できずに“親父”の頭を引っぱたいた。

「お」

「あら」

 親父とお袋は驚いたように目を丸くし、声を上げて笑った。

「聞いたか? 咲江」

「ええ。はっきりと」

 ふーふー息の荒い俺を満足げに見て踵を返す二人。

「もう大丈夫そうだな。咲江、先に帰ろう」

「ええそうですね。公麿、正義さんを必ず連れて帰ってらっしゃい。あとその年不相応な化粧についても一言ありますからそろそろ言わせてもらいますよ?」

「ひぇっ」

 かたかた震える“俺”を置いてお袋と親父はさっさと帰っていった。

 残されるのは俺と平等橋の二人。

 二人?

「あー、緊張したー。手汗やべーって、お前何逃げてんの?」

「ひっ!」

「悲鳴上げてんじゃねえよ。つか今追いかける気力もなくなったからマジで逃げんなよ?」

「い、いつから?」

 いつから俺が俺だと気が付いていたのか。それを聞くと初めからだという答えが返ってきた。

「ていうかお前初めは裏声使ってたのに割と序盤からやめただろ。せめてキャラ突き通せよ」

「うるせえうるせえうるせえ!」

 憤死しそうだ。なんだ、じゃあ俺は正体が気付かれてないと思いながら平等橋を弄っていたつもりが、実は何もかも知られていてそのうえでこいつの掌の上で踊らされていたという事なのか? うわー、死にたい。

「まあいいや。じゃあ飯食わせてもらお。やたら腹減っちまったよ」

「……一人でいけよ」

「は? なんでだよ」

「帰りづらい。絶対弄られるし、あと、お前も……」

「お前なあ……」

 ベンチの上で三角座りをして動かない私を見て、がしがし頭を掻いて悩ませる平等橋。

「……なに?」

「乗れよ、ほれ」

 何を思ったかいきなり俺の方を背に向けて屈みだした。所謂おんぶの体制だ。

「お前私の事幼稚園児か何か頭の悪いものに見えてないか?」

「別に幼稚園児は頭悪いとは思ってないけどな。いいから、ほれ」

「……なんなんだよくそ」

 強く主張されると嫌とは言えない。相手がこいつならなおさらだ。

 軽々持ち上げられると、よっと一声と同時にぐにゅっと尻を揉まれた。

「うん、相変わらずいい尻だな」

「……はあ、さよか」

「あと、お前今日その恰好わりと似合ってんぞ」

「……さよか」

 もし万が一、こいつが振り向いたときの言い訳を考えとこう。

 寒くて顔が火照ったってことにしよう。

 




次回ラストです。
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