TSしたら友人がおかしくなった   作:玉ねぎ祭り

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柊亜衣の思い出話 ③

「あんたらね、夜中に悪さしてるっていう二人組は」

 凛とした声が頭上から降ってきた。私と舞衣が視線を上げた先には、学校で見たことがある女が腕を組んで私たちを見つめていた。

「誰? こいつ」

 舞衣が興味なさげに私に尋ねる。

「うちの生徒会長。確か名前は」

「荒神裕子よ。ついでに言うと二人と同学年。あなた達、特に転校生の楠さんは夏休み明け以降あまり学校に来ていないから知らなくても不思議じゃないかしら」

 私の言葉を遮って荒神は名乗った。私はそのくらいで別になんとも思わないが、突然部外者がやってきたことと、私に聞いたはずなのに荒神本人が答えたことで舞衣が機嫌を悪くした。

「で、そのセイトカイチョーさんがなんか用?」

「簡単よ。悪いことはやめなさい。学校に迷惑がかかるわ」

「……」

 私たちは黙って荒神を睨んだ。

 だが私達に睨まれてまったく動じる気配がないことに、私は内心焦りを抱きつつあった。

 今の私たちが中学生あるまじき姿をしているという自覚はあった。

 髪の毛を金色に染め、両耳に小さなピアスを開け、蛍光色のジャージにサンダルを履いてコンビニの前で座り込んでいる。

 時刻は夜の七時だった。

「あー、はいはい。やめまーす。だからどっか消えてくんないカイチョーさん?」

 舞衣が挑発するように語尾を上げると、相手の眉間がぴくっと動いた。

 一瞬喧嘩になるかと思ったが、そうはならなかった。

「そう、ならいいわ。それとそんな恰好でうろついていたら危険よ。田舎だからって悪い人がいないわけじゃないのよ」

「うるっせーな。さっさと行けよ」

 余計な一言にイラついた舞衣がさらに噛みついた。今の言葉は私も少しイラっとしたから特に止めることはしない。そもそもこいつ何様だと思う気持ちは私にもあるからだ。

 荒神の姿が見えなくなるのを確認すると、さっそく舞衣が口を開いた。

「うぜー! なんだあれうぜー!」

「ね。なんか上から目線って感じだったよね」

 生徒会長荒神裕子。

 その名前は入学当初から知ってはいた。

 学力優秀でスポーツ万能、リーダーシップもある。男女問わず平等に親切に接するので変なやっかみもなく両性からの人気も高い。

 同学年の中で最も有名な人物の一人になるのではないかと、記憶の中のデータベースにあたって答えを出してみた。

 私も少し前に会っていたらまた違った感想を抱きそうだけど、さっきのタイミングは最悪だった。最悪に気分の悪い出会い方だった。

「何も知らないくせに」

「他人なんてそんなもんだよ」

 ぼそりと呟いたつもりが、舞衣に拾われてしまう。若干の気まずさから、私は立ち上がった。

「もう行く?」

「うん。そろそろ見回りとか多くなってくる時間だし」

 どちらか片方が立ち上がるとそれが合図だった。

 青少年保護法だか何だかで、この辺りは夜七時を過ぎると途端に大人の目が厳しくなる。

 家に帰りたくない私と舞衣は、そのくらいの時間になるとコンビニやカラオケなど人の光が集まる場所を離れ、公園や高架線の下などあまり人気のない場所を見つけては移動していた。

 自転車に跨ると、舞衣は動かずじっと私のことを見つめていた。

「何? 行こうよ」

「いやさ、今更だけど亜衣家帰んなくていいの?」

「……なんで?」

「あたしに合わせてるんならなんか申し訳ないなって、あらためて思ったり」

「馬鹿な事言わないでよ。あんなとこできる限り帰りたくない」

「……だよね」

 舞衣も自転車に乗った。

「今日どこ行く?」

「どっか適当?」

「でたー! さんせー!」

「ぶいぶい言わしちゃうよー?」

 きゃはははと謎のテンションで坂道を駆け抜ける私達。

 早くこの場を離れないと警察の見回りがやってくる。見つかるかもしれないというスリルと夜風の冷たさが私たちの気分を余計に高揚させていた。

 

 

 あの日、舞衣と初めてカラオケボックスで騒ぎまくったその日の夜。

 私は夜中の十時に家に帰った。

 家に帰ると父の姿はなく、母が一人起きて待っていた。

「どこ、行ってたの?」

「……」

 母の語調は弱弱しかった。

 探る様に、私の事を想っているというより、保護者として世間から非難されないために義務として、私に尋ねているように聞こえた。

 私は何も言わずに自室に鍵をかけ眠った。母はそれ以上何も言ってこなかった。

 母の気配が私の部屋の前からなくなったと分かると、私は声を殺して泣いた。

 どうして泣いたのか分からなかった。

 悲しかった、悔しかった、腹が立った。

 どれもあるかもしれないが、胸にぽっかりと空いてしまったかのような喪失感が胸を締め付けたのは確かなことだった。

 

 その日以降、私は舞衣と一緒にいることが多くなった。

 舞衣もクラスの上位カーストグループから抜け、私と一緒にいることが増えた。

 私も、初めは真面目に授業も受けていた。でも段々舞衣の遊びが深夜まで食い込むことが増え、朝早く起きることが出来なくて学校に遅刻しだし、遅刻するくらいなら面倒だし学校休んでもいいかなという怠惰な気持ちが私をどんどん駄目な方向に導いていった。

 当然学校からも山のように電話が来た。母はそのたびに学校へ行った。

 しかし母は私に何も言う事はなかった。

 困ったように私を見るだけで、叱りもしてくれなかった。

 形だけの注意は受けた。だけど本当にそう思っているとは思えないような、誰でもいえるような注意だった。

 母の注意を無視しても問題がないと分かると、私はますます学校に行かなくなった。

 舞衣も色々言われているみたいだったが、私以上に反発的だった。

 学校から電話が来た日は決まって舞依から連絡があった。

『どっか行こうよ』

 舞衣の誘いに乗らない日はなかった。

 非行に走っているという自覚はあった。

 長年続けていたソフトボールを無断で止めたことを咎める気持ちもどこかにはあった。

 でも今まで仲の良かった友達が心配そうな顔をして事情を訊いて来るたび、どこか冷めた目で見てしまう自分がいた。

 変わっていく私に、だんだん友達も離れていった。その程度の友達だったんだろうと諦めの気持ちが勝ったので特にショックはなかった。 

 私と舞衣はますます一緒にいることが増えた。

 舞衣はよく大金を懐に抱えては、「海に行こう」「山を見に行こう」「川で泳ごう」などとわんぱく坊主さながらに私を色々な場所に引っ張っていった。多分親の金をくすねてきているのだろうなと思ったけれど、私は何も言わなかった。舞衣との関係は今は心地いい。だけどこれが刹那的な関係であると心のどこかで思っていたからだ。

 最初はあれだけ嫌がっていた野宿も、舞衣と一緒に時々するようになった。地元の頭の弱そうな高校生やフリーター上がりの不良っぽい人たちに狙われかけることもあったけれど、大概は舞衣がどうにかして追い払っていた。相手を逆上させるのではなく、よりよい獲物がいる場所を教えるというある意味非道なやり方だったのでちょっとどうかとも思ったが、彼女のやり方にケチをつけることはしなかった。

 八月に髪を染め、九月に耳を開け、十月には家に殆ど帰らなくなった。

 家に帰らず寝る場所は、街の外れにある廃ビルだった。

 立ち入り禁止や格子鉄線が張り巡らされているのを無視し、アスベスト上等と息巻いて私たちは眠った。寝心地は最悪の一言。床は固いし、ガラスが割れているので隙間風もひどい。家から持ってきた毛布だけじゃ寒いからって舞衣は私の毛布まで寝ぼけて持っていこうとするし、日によっては真下で時代遅れの暴走族がバイクをウォンウォン吹かせる。

 それでも家に帰るよりはましだった。あの冷たい空間にいるよりは。

 

 今日も例の廃ビルに舞衣とやってきたが、いつもと違っていた。

「何? 急に止まったりして亜衣」

「し。人がいる」

 自転車から降りて目を凝らす。黒い人影がゆらゆら揺れていた。

「誰?」

「ホームレス、かも」

 目を凝らすと確かにそれらしい人たちが私たちの寝床を物色しており、横になっている人もいた。

 全員で七人ほどおり、とてもじゃないがあの場に行ける気がしなかった。

「あーあ。取られちった」

「もともと立ち入り禁止だったとはいえ、ね」

 私たちは自転車に跨りなおし、目的なく走った。

 お互い行くべき場所を決めていたわけではないが、気が付けば私と舞衣が始めてしっかり話した緑地公園に来ていた。廃ビルに拠点を移すまで、私たちの会合はここだったので、ある意味原点回帰ともいえた。

「ここまあまあ夜怖いね」

「電灯が殆どないもんね」

 舞衣が私の袖を引くので私も同意する。とりわけあのベンチの場所は広い空間に対して光の量が微弱だ。その分人は寄り付かないのだが。

「今日、家帰る?」

「……」

 舞衣は答えず、背中かからギターを取り出した。

 そのまま調律をし始めたかと思うと、突然演奏を始めた。

「ちょ、舞衣夜だよ?」

 人気はないとはいえ、大人に見つかったらまずい。

 私の焦りをどこ吹く風と言わんばかりに舞衣はにこやかに私を見つめた。

「亜衣歌ってよ。結構うまいでしょ」

「歌うって、なんの曲なのよ」

「ちょー有名な曲。絶対知ってる。……when the night――」

「歌詞までは知らないってそれ!」

 結局殆ど舞衣が歌って、サビだけ一緒にハモった。暗い森の中で、ギターの音色だけが明るく響いていた。

 

 

 騒がしい。眩しい。

 それに、左腕が妙にあったかくて、震えている……?

「亜衣、亜衣、ちょっと起きて亜衣」

 小声で舞衣の声が聞こえた。

 目を開くと、舞衣が私の腕を抱いて震えていた。顔もこわばり、心なしか白く見える。いつも大胆不敵を絵にかいたような舞衣らしくない怯えた表情だ。

「お、相手の子も起きたみたいじゃん」

「え?」

 そこで私は初めて第三者の存在に気が付いた。

 私たちの対面には二十歳そこそこの男性がいた。

 手に竜何か動物の入れ墨を入れ、髪の毛を銀色にし、唇にピアスを開けている。

 外見で人を判断するなと昔から言われてきたけれど、相手の表情を見ればそれも吹き飛んだ。

「あーあーあー、もっかい会っちゃったねお嬢ちゃんたち。あの時は上手く逃げたのにこんなとこで寝てるんだもんなぁ」

 くちゃくちゃとガムを噛みながら私達の肩を触った。

 瞬間尋常じゃないほどの嫌悪感と危機感が全身を駆け抜けた。だが、私は恐怖で振り払えなかった。

 隣を見ると舞衣も同じようで、カチカチと奥歯を鳴らしていた。

 この男を見るのは初めてじゃない。

 正確には、この男たちを、だ。

 後ろに控える似たような外見の男たちが四人ほど、道のわきに停めてあるワンボックスカーの近くで煙草をふかしていた。

 こんな夜遊びを年頃の女子二人でしているのだ。田舎とはいえそれなりに危ない目に遭いかけたこともあった。

 この男たちにも一度接触され、「暇なんでしょ」とどこかに連れていかれそうになったことがあった。

 文字通り暇だった私たちは多少警戒しつつも、好奇心が勝って車に乗り込もうとした。ワンボックスの中から裸の女の子が横たわっているのを見なければ。

 私と舞衣はがむしゃらで逃げた。

 相手もさっきまで乗り気だった相手が突然全力で走り出すことを想定していなかったようで、対応に遅れたことも助かった。

 自転車で逃げ回ったが、後ろからあのワンボックスがやってくるのではないかと恐怖し、その日ばかりは一目散に家に帰った記憶がある。

 あのワンボックスが目の前にある。

「逃げないよね? 逃げたら殺すから」

 銀髪の男はポケットからナイフを出した。

「だ、だれか助け――」

 舞衣が叫ぼうとした瞬間、刃物が舞衣の首筋に触れた。

 つー、と浅く肌を切ったようで、ぷくりと血の球が流れ出る。舞衣の動きはそれだけで止まってしまった。

「ほら立って。大きい声とか出さないようにね。近所迷惑考えようよ」

「…………」

「ほら返事!」

「っい……!」

 舞衣の髪の毛が乱暴に掴まれた。私はそれでも恐怖で腰が抜け、動くことが出来なかった。

「ほら立てよお前ら。行くぞ」

「い、行く?」

「こんなとこで深夜徘徊してんだから大体想像つくだろ。おら暴れんなよ」

「や、いやあ!」

 舞衣はそれでも激しく抵抗した。すると男が業を煮やしたのか、舞衣の鳩尾に思い切り膝蹴りを入れた。

「舞衣!」

 駆け寄ろうとする私の髪の毛を銀髪の男が掴んだ。

「うるせえよお前も。お友達がダイジーってか?」

 嫌らしい顔を浮かべた後、何かに気づいたように私の肩に手を回し、乱暴に胸を掴んだ。

「―――っぃ!?」

「うわ、胸でけー。おーい、今日割とあたりっぽい」

 銀髪男が車の近くでたむろしている仲間に声を上げると、付近で甲高い歓声が起きた。

「や、やめて」

「あ?」

 男はしばらくすると私の胸から手を離したが、そのまま私と舞衣の手を引いて車の方に歩き始めた。

 怖い怖い怖い怖い。

 息が荒くなり、視界がぼやけ始めた。

 どうしてこんな事になったんだろう。

 後悔が体中を駆け巡り、これからの未来を想像して絶望が全身を支配した。

 何をされるかなんて明白だった。

 初めては好きな人と、なんてメルヘンチックなこと考えていたわけじゃないけど、テレビで見るような被害者に自分がなるとは思っていなかった。

「めん、めん、めん……」

 ぶつぶつと隣で舞衣が呟き始めた。視線だけを向けると、舞衣は恐怖で引きつった顔を浮かべながら、私に「ごめん」と言っていた。

「舞衣の、せいじゃないよ」

「ごめん亜衣。ごめん亜衣」

「うるせえよお前ら」

 男に足を蹴られた。その衝撃で舞衣が姿勢を崩した。

 こんな事態に陥ったのは舞衣のせいじゃない。

 そう思ったのは本音だ。

 もともと私が家が嫌で飛び出して、舞衣はそれに付き合ってくれたと勝手に思っている。

 自分でも思って言事じゃないか。

 所詮私はただの中学二年生。なんの力もなければお金も、ご飯も自分で用意することなんてできない。

 舞衣が一緒にいてくれたおかげで一瞬でもあの場から逃げることが出来た。

 彼女は私にとって友達だ。そんな友達のせいにできるはずもなかった。

 でもどうしてだろう。

 さっきから怖くて仕方がない。

 

『こちらです! お巡りさんこちらです!

 少女が誘拐されそうになっています!

 市営緑地グラウンドにて少女が男性5人に誘拐されそうになっております。

 今にも犯されそうになっております!

 住民の皆様夜分にご迷惑をおかけします! 少女が犯罪に巻き込まれそうになっております!

 助けてください! 』

 

 キーンっと拡声器の大きな音が鳴った。

「……え?」

 私と亜衣が呆けていると、男は舌打ちをしてさらに私達を引っ張る力を強めた。

「早く歩けよ!」

「い、いやあああああああ!」

「やだああああああ!」

 私も舞衣も叫んだ。ここで声を上げないと助からないという直感があった。

 

『ああ! 今にも連れ去られそうになっております! お巡りさんこっちです! あのワンボックスカーです! れの3454です! プレート番号れの3454です! いかにも怪しげな車です!』

 

「糞が!」

 とうとう銀髪男は私たちを乱暴に突き放すと、仲間と車に乗り込んでどこかへ逃げる様に発進していった。

 ぽかんとして舞依と顔を見合わせる。舞衣も私と似たような表情を浮かべていた。

「……助かったの?」

「……みたい」

 まだ実感がわかなくて、私たちはお互いの手を握りあった。舞衣の手は温かかった。

「ぎりぎりだったわよあんたら」

 すると私たちの後ろから声が飛んできた。

 さっきの直後だったので、ぎょっと身を固めた。

「だから悪いことはやめなさいって言ったのに」

 ジャージ姿にサンダルをひっさげ、片手に拡声器を持っている。

 生徒会長の荒神裕子が私たちの目の前に立っていた。

 

 

「裕子登場だ!」

 マロちんのテンションは上がった。

 私は「そだねえ」と緩く受け止め、追加のカフェオレを作りに自分と彼女のカップを持って立ち上がった。

「裕子って生徒会長だったの?」

「そだよ。二年の間だけだけどね。普通生徒会長ってもあんま目だたないんだけどさ、ボスはあのビジュアルもあって結構目だってたんだよ」

 大人顔負けのはきはきとした受け答えや、積極的に地域の取り組みに参加する姿勢などからよく地方の広報誌に載せられ、地方新聞にもうちの中学の代表として幾度も登場した。

 表舞台に立っている光の存在として私も舞衣も当時は彼女にいい印象を持っていなかったのだ。

「亜衣と舞衣、荒んでたんだね」

「ストレートに言うとね。今で言うと不登校生徒って感じかな」

「それでも夜中この辺で野宿って危ないよ」

「身に染みた。実は私達が廃ビルで寝てたってこと大人の人たちは知ってたみたいなんだよね。私たちがホームレスだと勘違いしたのも後で聞いたら自治会のおじさんたちだったらしいし」

 遅かれ早かれ私と舞衣の野宿生活は終了していただろう。実質私たちが野宿をしていた期間は二週間ほどだが、それも寒くなりつつあったので時期的にも限界があったのかもしれないが。

「それで、その、怖い目に遭ったんだ」

「遭ったねー。あれはヤバかった。これも後で聞いたけど、あれ地元の人間じゃなかったみたい。頭の悪い大学生の連続人さらい、みたいな」

「いやお茶らけて言うには怖すぎる内容だよねそれ」

 マロちんの引きつった突込みに頷かざるを得ない。

「さっきの話の続きになるけど、連中を追っ払ったのって裕子なの?」

「うん。どうもボスの家が公園のすぐ近くみたいでさ、私達がやべえことになってるのが見えたんだって」

 でも警察の人が向かってるとはいうのは嘘だったようだ。通報してみたが別件で立て込んでいたのか、すぐに向かうのは難しいと言われたそうだ。しかしボスが拡声器で騒ぎまくってくれたおかげで、目を覚ました近隣住民の人が警察に言ってくれたようで、その後すぐに警察からの事情徴収を受けた。こう聞くとボスは単に子供だから相手にされなかった可能性があるのではと思ってしまう。口に出したら殺されるので決して言わないが。

 私も舞衣も被害届を出し、両親が迎えに来て朝方帰った。

 母と、珍しく父も隣にいた。

 二人は私の今の姿を目にし、気まずそうに眼を逸らした。

 母はともかく、父は私が髪を染めたことも、耳に穴をあけたことも知らない。娘が非行に走っているという事を知らなかったのだろう。

 車中は静かだった。

 父はともかく、母も何も言わなかった。

 私は後部座席で揺られ、精神的な疲れもあってすぐに眠りに落ちた。

「次の日目覚めてさ」

 カップを持って腰を下ろした。受け取ったカップを息で覚ましながら、マロちんは視線だけこちらに向けた。

「ボスから電話があったんだ。今日は学校来いって」

「なんで裕子は電話番号知ってんの?」

「……それは確かに不思議だなあ」

 そういえばなんでだろう。あの時は全然親しくないし、どうやって知ったのか気になる。

「あ、話の腰折ってごめん。それで、学校行ったんだ」

「私は根が素直だからねー。それに昨日の今日でボスに対してもちょっと感謝っていうか、思うところはあったからさ」

「しっかりお礼は言ってなかったの?」

「状況が状況だったし、なにより時間はあってもあの時の私たちが素直に礼を言ってたか微妙なところだねえ」

 ところが家を出ようとした瞬間ボスが仏頂面で玄関に立っていた。

「え、なんで?」

「舞衣がねえ」

「舞衣?」

「気になる? じゃあここからは私たちの改心話だよ。ついでにそろそろ長いから次で一気に終わらしちゃおう」

「ゆっくりでいいよ」

 嫌だよ。だって勉強の時間なくなるじゃん。

 

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