第一話《始まり》
ガンダムの襲来。それはソレスタルビーイングの軍事介入であった。
そして、世界は新たな局面を迎える。
ガンダムとの戦いは、避けられぬとの危惧(きぐ)が軍人達に広まる。
その中で、歓喜するものがいた。
謎の男爵と呼ばれる人物であった。
「やはり、お前の調べは間違ってなかったようだな。」
モニターの前の男が、誰に言うわけでもなく。
「お褒めいただきありがとう御座います。」
物陰の影に蠢く人が居た。
「例の計画はどうだ。」
また、影に話す。
「人選を終え、訓練に入っております。」
「機体はどうなっておる?」
「間もなくかと…。」
少し、間をとり、
「アレが手に入らなかったのは残念だが、計画は進めねばな。」
閉じた目の周りは、ケロイド状になっている。
「左様で御座いますな。」
自分の顔に両手を当てケロイド状の部分を確かめる様にする。
「歪んだ世界を正せねば…。」
影が頷く。
「ソレスタルビーイングだけには任せておけぬ。出来るだけ早く計画を実行するのだ!」
「御意!」
その言葉は力強かった。
第二話《計画》
自室で音声電話を受ける白衣の女性。
「解りました。多少の不安定は、年齢から来るものでしょう。」
モニターに、映し出された資料を確認しながら相手を安心させる。
「はい。後は脳量子波シンクロテストさえ行えば直ぐにでも。」
画面を切り替えながら、
「では、直にテストを開始します。」
相槌を打ち電話を切る。
「ソレスタルビーイングは思ったより早かった…。でも、こちらも遅れをとったわけでは無い。」
独り言のようでもあり、決意の現れの陽でもある。
音声電話を切った直後に
「何だって兄貴。俺達の出番か?」
そう言ったのは、まだ年端もいかない男の子だった。
「そうだ。ついに、俺達9(ナイン)の出番だ。」
「やったー!」
そこに居た少年少女達が全員飛び上がり喜んだ。
「俺達に酷い運命を背負わせた世界に復讐するんだ!」
先程、電話をしていた少年を兄貴と呼んだ男の子が、両の拳を握り締める。
「それは、違うぞ。9−5(ナインファイブ)。」
眼鏡をかけた利発的な少年が嗜(たし)めた。
「何が、違うんだ。9−2(ナインツー)の兄貴。」
「僕達は、世界に復讐するんじゃない。世界を正すんだ! この間違った世界を!」
9−5は、ハッとし、
「そ、そうだね。僕達は間違った世界を正すんだね。」
その言葉に笑顔で答えた9−2。
「行こう。脳量子波シンクロテストだ。」
「了解。」
全員が大人びた返事をした。
第三話《テスト》
「全員の心を合わせて!」
白衣の女性の激が飛ぶ。
円形に並べられた椅子に座る九人の子供達には、器具が取り付けられ、そこからコードの類が大量に機械に繋がれていた。
「博士。限界です! このままでは子供達が!」
博士と呼ばれたのは白衣の女性。
「休憩しましょうか。」
溜息混じりの言葉で、子供達に取り付けられていた器具に点っていた光が落ちる。
直に、白衣の集団が器具を外しにかかる。
博士が子供達に近付き、
「大丈夫?」
優しいトーンで言う。
「大丈夫!」
一番小さいであろう子供が元気よく答えた。
「少し、休憩しましょう。」
振り向き、
「データの再検証。不具合箇所の確認怠るな!」
大人達には容赦無かった。
「博士。」
振り向き、
「何かしら、9−1。」
電話を受けていた少年がそこに居た。
「僕達は、どうすれば心を一つにできるんでしょうか?」
「難しい質問ね。だって私にも答えは解からないから。」
「そうですか…。」
落胆する9−1に、
「でも、あなた達なら大丈夫。きっと、世界を正せる新たな【神】の魂となれるわ。」
と、頭を撫でる。
「頑張ります。」
嬉しそうに言った。
休憩室に遅れて帰って来た9−1が見たのは、真剣に話し合う皆の姿。
「なんで、うまくいかいないの?」
「どうやったら、心を一つにできるの?」
嬉しくなり、
「今は、休憩だろ。休もう。」
「うん。」
子供らしい返事が皆から返ってきた。
第四話《夜》
「電気消すよ。」
「は~い。」
並べられたベットから寝るのには不釣り合いな元気な返事。
消灯時間。
暗闇の中、眠れないでいると、
「9−1。もう寝た?」
声がかかった。
「どうした? 9−4?」
暗闇でも彼女の声だと解る。
「ちょっと良い?」
「解った。ここじゃ、皆が起きるから休憩室へ行こう。」
灯りが減った廊下を歩く二人。
休憩室のテーブルに向かい合い座ると、9−4が口を開いた。
「私達、この世界を正せる新しい神様に魂をいれるんだよね。」
「そうだよ。」
「私ね。まだ、お婆ちゃんと暮らしていた頃にね。聞いたのを思い出したんだ。」
「何をだい?」
「神様に捧げる歌を。」
「歌?」
「うん…。正確には神様でも、歌でも無いかもだけど…。」
「へー。そんなものがあるんだ。」
「うん。特別な日に大勢で集まって、大きな神様の像の前で歌うの。」
「儀式みたいなものか?」
「よく解らないけど。皆の歌が一つになるの。」
「やってみる価値はありそうだ。」
「私達みたいな人を出さないように、頑張らないとだからね。」
「ああ。歌は博士に明日調べてもらおう。」
「博士なら、直に調べてくれそうね。」
「だから、今日は寝よう。明日は、忙しいぞ。」
「はい。」
部屋に戻り、ベットに入ると直に睡魔が襲って来た。
第五話《試し》
「なるほど。調べてみましょう。」
昨夜の事を博士に話すと、直に対応してくれた。
「いくつか、候補があったけど…。どれかしら?」
9−4がモニターを覗き込む。
「えっとね…。」
タッチパネルで、次々に候補を切り替えていく。
「あった! これよ、お婆ちゃんが歌っていたのは。」
皆が見るが、そこには読めない文字が並んでいた。
「これ、どう読むんだ? 文字が縦に列んでるし。」
「そうね。他の人にもに読めるようにしましょうか。」
博士が近くの男性に声を掛ける。
「これを訳して、全員にに読めるようにして。」
「解りました。解読します。」
説明の文を読み、
(これって、神様じゃなくて仏様に捧げる歌…、歌でもないな。まあ、私には神様も仏様もよく解らないけど…。上手くシンクロするなら、何でもいいわ。)
しばらくの後。
「博士。準備できました。」
紙束を渡す。プリントアウトされた飜訳だった。
「やりましょうか。」
子供達が座る椅子の前は、先程の紙を貼り付け読めるようにする準備も整っていた。
「私に付いて歌って。」
思い出しながら9−4が歌にリズムを付ける。それに他の子供達が戸惑いながらも付いていく。
博士は、
(それは、リズムじゃなくて節ね。)
流石、子供といったところか覚えが良い。直に歌を覚える事かできた。
「セッティング完了です。」
子供達に器具を付けていた研究員が告げる。
「脳量子波シンクロテスト開始!」
博士の号令と共に、子供達が歌う。
歌声が重なり、一つになる。
「シンクロ率、上昇中!」
博士の横の研究員が、モニターを見ながら実況する。
「シンクロ率、更に上昇!」
声に興奮が乗った。
「間もなくシンクロ率が、リアクターの起動値に届きます。」
博士は正直、驚いていた。たかが、歌と思っていたから。たが、子供達にとっては、たかが歌が重要な要素だった。まだまだ自分は未熟だと思い知る。
「リアクター起動します!」
研究員の声は報告ではなく、嬉しくて叫んだにしか聞こえない。実際にそうなのだから仕方はないが。
第六話《起動》
格納庫。
ハンガーデッキに立てられる巨体。調整のためか、目から下の部分は階層毎に足場が組まれ、外側からよく見えない。辛うじて、人形(ひとがた)とわかる程度。
その巨体の頭。目の上にラインを引き、頭をぐるりと一周させた位置に等間隔に九つのライトが付ている。よく見ると薄っすらと光っているのが確認できるんでろう。
今回ばかりは期待しないではいられない男爵。失敗の連続に半ば諦めかけていた。それが、正直なところ。
しかし、今はライトに薄っすらとではあるが、光が見える。
「イオリア・シュヘンベルグよ。私もお前に賛同するぞ!」
感極まったか、叫び声を上げた。
「数少ないお前の資料をベースに作り上げた、私の【神】。それが、お前の計画に力を貸すだろう!」
男爵は、高らかに笑う。
「GNドライヴが手に入らなかったのは残念だが、機体に組み込んだ『脳量子リアクター』なら十分代わりになるだろう。」
ふと、思い立った、
「そうだな。神に名前を付けねばな…。」
考える…。
「シンクロ安定。」
状況を示すモニターは緑色一色に染められていた。
その状況に満足したように、
「脳量子波シンクロテスト成功。」
博士の頬を伝うのは一筋の涙。
その言葉で研究員が一斉に歓喜を上げた。
第七話《祝う》
その夜、研究所の全員が集められたのは食堂。
壇上に立つのは男爵。
「諸君。ようやく、我々の【神】の起動までたどり着いた!」
演説に歓喜で答える。
「もう直ぐだ! 歪んだ世界を正す日は近い!」
最早、歓喜は言葉でさえない。
歓喜が収まるのを待って、
「気を抜くな! 本当の試練はこれからだ!」
厳しく叱咤(しった)。
「だが、今日ぐらいは気を抜いても良いだろう。」
満面の笑顔。
「細やかではあるが、パーティといこう。」
その言葉で見せる子供達の子供らしい表情に、
(子供達が、こんな顔で暮らせる日の為に、まだ私はやるべき事が多すぎる!)
力強く握る拳。
そこに、ポンと手が被せられ、
「今ぐらいは、気を抜いても良いのだぞ。」
男爵が声をかけた。
自分の考えが見透かされた様に、恥ずかしくなり俯く博士。
そしてパーティーは、子供達の寝顔で終わりを迎えた。
「疲れていたのだろう。重圧で緊張していたのだろう。」
優しく頭を撫でる男爵。
「運んでやれ。」