譬えこの身が陽に焼き焦げようとも   作:友夏 柚子葉

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正式サービス

 

 

 

 2022年11月2日。

 昼にも関わらず冷たい風が吹き始め、本格的に気温が下がってきてもう秋も終わり。冬の足音が着実に後から近づいて来るのを感じる今日この頃。本来もうバタバタとしていて手が離せない筈の兄 晶彦が俺達の元にケーキを持ってやって来た。

 

 

 

「………こっち来ていいの?それに誕生日ケーキって…4日早い」

「なに、少し手が空いたから急いで来たのだ。なに分SAO開始と時期が重なってしまったからな。こっちで君たちの14歳を祝えるのは今日ぐらいしか無くてね」

「わぁ…ケーキ!でも誕生日パーティやるなんて思ってなかったから何も用意してないよー?」

「すまないが夜までは居られない。夕方までには帰らなくてはならないんだ。時間も時間で蒼巳の事だ、まだ何も作ってないと思っていたから少し誕生日パーティには寂しいがピザを頼んでおいた。あと15分もすれば来るだろう」

 

 

 

 

 おおよそ1年ぶりの兄との再会を喜び、俺と紅音は急かすように兄さんを家に入れた。「そんなに手を引っ張るな紅。ケーキが崩れる」そう口にしていた兄さんの顔は笑っていて、……瞳が冷たかったのには気付かなかった。

 

 荷物を置き、コートを脱ぐと灰色のYシャツにネクタイといつもの白衣の下の姿だった。しかし今日は更にネクタイを外し、Yシャツを脱ぎ捨て、兄さんのクローゼットからクリーニングされた剣道着を取り出した。

 

 

 

「蒼。君も準備したまえ。ピザが来る前に1本、勝負をしよう」

「………寒いからヤダ。…なんて断る事は出来ないね。先に道場行ってて」

 

 

 

 眼鏡をかけていた俺は急いでコンタクトに変え、渡り廊下を歩く。

 道場に入ると既に面を被る前まで準備を完了していた兄さんが正座をしていた。俺も待たせる訳には行かずなるべく早く防具を身に付ける。

 準備が終わり、一連の流れを終わらせ そんきょをして剣先を交える。

 

 

 

 

「二刀流。私が高校生時代インターハイで1度その使い手と当たった事があった」

「………昨日も含めて3年間。ひたすらその型でやれる様に右手1本で本差を振って来た。その時の試合も見た。色んな人の二刀流を見て学んだ。知識は充分、本差振る速度も問題ない」

「ほう、準備万端だったのか。なら私も少しは竹刀を振っておけば良かったな」

「………いいんじゃない?負けた時の言い訳に出来るから。…突きは?」

「君はまだ中学生だろう?と、言いたいが二刀流相手に突きは大いに有効だ。私が使いたい。故になんでもいい、殺す気で来たまえ」

 

 

 

 

 ただの一本勝負。三年前は大きな体格の違いで負ける言い訳は充分だったけれど負けは負けだった。言い訳するのは簡単だ。けれどその先に何も無い。あるのは勝負に勝てなかったという自らのプライドに残った傷跡。

 何が足りなかったから分からない。何もかも足りなかったのかもしれない。学校の剣道部に所属してなかった故に勝負の場数が足りなかった。数がモノを言う経験は兄さんが用意してくれた世界で剣の振り方を、勝利の経験をつぎ足した。

 仮想と現実。全然違うのは確かだけど、得た感覚は0と1の電子から脳の電子へと変換出来る。

 やれる事はやった。ここで負けたら仕方ない。

 けれど…またも3年間竹刀を振らずに過去に培ったセンスだけで俺に向かってくる憧れには負けたくない!

 

 

 

 

 

「始めっ!」

 

「イヤァァァァァ!!!」

「っサァァァァァ!!!」

 

 

 

 紅白旗を持った紅音の合図と共に立ち上がる。

 兄さんは中段。俺は右手上段に左手は中段。交える剣先は脇差故に手を伸ばしているとはいえ間合いは近い。

 

 

 手始めに挨拶代わりか兄さんの面。それは本差で防ぎ、それから距離を取るために斬り下がる様に胴。これは左手の脇差で防ぐ。恐らく右手の手首の強さを測ったのだろう。

 次に踏み込んで来て左の小手…と見せかけてフェイントを入れた面。一瞬釣られかけたがなんとか防ぐ。

 それか幾度となくラッシュのような猛攻が続き防戦一方。インターハイ二年連続優勝の実力は伊達ではなく、着々と逃げている背中に手が届かれそうになる。このままでは次の次当たりには決められる。そう本能が叫んだ時こちらから責めることにする。

 

 

 兄さんの面を右手の本差で払い、脇差で突きを撃つ。しかし脇差が短く僅かに届かない。戻ってきた竹刀をそのまま脇差で受け止め、右手の本差で胴を打つ。しかしまたもや素早く下がられて空を切る。

 それから余程脇差に危険を覚えたか、兄さんは何度も近づく脇差を満月を描くように払う。

 

 

 ジリジリと我慢を強いられる長い試合。相変わらず兄さんは面と小手で攻め、俺はどちらかで払い除けて決めに行くも防がれる。このやり取りが2分も続く。

 

 そして始め合図から4分半。漸く勝負が決まる。

 

 

 脇差を払う牽制を続けた結果長くなった間合い。痺れを切らしたのか、将又今が勝負どころと見極めたのか、晶彦が仕掛ける。

 

 

 2度脇差を牽制して強く左手を遥か遠くに弾き、大きな1歩を踏み出し面っ!…と見せかけ、試合開始時に見せたフェイントの右手の小手……でもなく、更に1歩先を行き、大きく踏み出した右足を素早く地に戻しすり足で前へ。左から右への一閃。二刀流の弱点とも言える右脇腹を狙った逆胴。

 現役時代晶彦自信が最も愛用した決め手。5年間使う機会が無かったとは言え、その斬れ味は凄まじく、とても見てからでは躱せない。……そう見てからでは。

 

 

 

 

「………っ!?」

 

 

 知っていた。見ていた。だから来ると分かっていた。故に右手で構えていた本差の柄で防ぐことが出来たのは必然だった。

 

 5年前のインターハイの2回戦目。兄さんと二刀流の試合。結果は兄さんの2本連続先取で兄さんの勝利ではあったが、中身が少し特殊だった。1本目は相手の竹刀落としと場外による2度の反則による1本。そしてもう1本はまさに今の逆胴だった。

 その年のインターハイで6戦中12回の決まり手の内逆胴による胴が7回。余程信頼している技なのだろう。もはや癖で出てしまうほどのそれが来るのは明白で、対策ができた。

 

 

 

「ドォォ!!!」

「くっ…!------しまっ」

 

 

 

 既にそこは脇差の間合い。弾かれた小太刀を引き戻し、シンプルな胴。しかし流石兄さんというべきか、逆胴を防がれたらすぐにカウンターの防御に移っていた事によりこの胴は払われる。……けれど兄さんは一刀流。ほぼ同時に来るこれは防げない。

 

 

 

「メェェェエエエェェン!!!!」

 

 

 

 痛快な音が鳴り響く。

 

 

 

「面有り!勝負あり!」

 

 

 

 紅音が(蒼巳)の旗を上げ宣告する。

 素早く元の位置に戻りそんきょ。刀を納め、後に下がり礼をして試合が終わる。

 

 

 

「強くなったな蒼」

 

 

 

 面を外した兄さんが勝利の言葉をくれた。けれど…。

 

 

 

「………なんか嬉しくない」

 

 

 

 何故か心からの喜びは得られなかった。

 

 

 

「えぇー…折角晶兄に勝ったのにどうしてなの蒼兄〜」

「………いくら強い兄さんでも、5年もまともに竹刀振ってない腕の鈍った人に勝ってもなんも嬉しくない」

「…………………」

 

 

 

 こんなわがままを言ってる俺を兄さんはただただ困った顔で静かに見つめているだけだった。

 わがままを口にしてるだけだったのがいつの間にか不思議と涙が出てきた。この涙は絶対に嬉し涙なんかではなく、確実に悔し涙だろう。己の未熟さ故の涙か、将又一人の剣士としてのプライドを踏み躙られた怒りを越えた悲しさの涙か。

 そんな涙を見た兄さんが口を開いた。

 

 

 

「蒼。確かに私は高校卒業以降今の今まで全く竹刀を持たなかった。そんな状態でお前に勝負を申し込んだ無礼を詫びよう。すまなかった」

「………何を今更…」

 

 

 

 やはりこの場面でこの様に不貞腐ってしまう辺りまだまだ子供なのだろう。そんな俺を見て「そう易々と許してもらえるわけがないのは分かっている」そう兄さんは言い、ある事を続けて提案してきた。

 

 

「次だ」

「………次?」

 

 

 

 泣きじゃくってぐちゃぐちゃな顔を拭き、兄さんの眼をしっかり見る。

 

 

 

「次で三本目。3年前ので私の1勝、今ので君の1勝。1勝1敗同士次の三本目で決着をつけるとしよう。その瞬間が来るまで私は鈍ったこの()を鍛え直しておく事を約束する。これでいいかね?」

「………ん。……分かった。その時の為に最も強くなる」

「じゃあ〜その時の立会人と審判はまた私が努めさせてもらうかな〜」

 

 

 

 この約束が果たされるのはいつかわからない。また三年後かもしれないし十年も待つかもしれない。けれど1つだけ分かることは今回の様な事にはならない。正真正銘真剣勝負。そうなる事は確実と断言出来る。

 

 

「さて、そろそろピザが届く頃合だろう。代金はここに置いておくから2人で味わってくれたまえ」

 

 

 

 剣道着からスーツに着替えた兄さんの腕には既にコートが持たれていて、まさに今もう帰ろうかという格好だった。

 

「………食べてかないの?」

「すまないが呼び出しの電話が来てしまった。4日後のソードアート・オンラインを楽しみにするといい。……そして健闘を祈る」

「呼び出しがあったなら仕方ないね〜。じゃあ後でケーキとピザの感想をRAINに送っておくから読んでね〜行ってらっしゃい晶兄!」

 

 

 

 兄さんは車に乗りこみ窓を開け「行ってきます」。そう言って窓を閉めた。そして閉めた後のその顔はどこか俺の不信感に近い何かを煽って、先程の言葉で引っ掛かった部分を声にさせた。

 

 

 

 

「………待って兄さん。『健闘を祈る』ってどういう意味なんだよ」

 

 

 

 しかし口にするのが遅かった。既にアクセルペダルを踏んでいた兄さんは俺の問に答えることなく行ってまった。それからすぐに会社のロゴが大きくペイントされた車が到着し、ピザ特有のチーズやベーコンの香ばしい匂いにお腹を空かされ、考えるのをやめさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────そして4日後。事件が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日2022年11月6日は史上初、俺達が生活をおくる現実世界とはまた別のもう1つの世界。0と1で組み立てられた人工電脳空間…通称仮想世界への扉が開く日だ。

 仮想世界の名前は<ソードアート・オンライン>。そして無限の蒼穹が広がるだけの世界に独り寂しく浮かぶ巨大にして唯一存在する建造物。石と鉄の城<浮遊城アインクラッド>。

 正式名称:An Incarnating Radius( 具現化する異世界 ).

 世界中のゲーマー・SFファンの夢。政治家に医者。この世全てから注目されているこのゲームが無事解禁されれば再び…かどうかは分からないが、電子工学の分野に限らず仮想世界から関連出来る全ての方面において日本は頂点に君臨するだろう。……そう。無事に。

 

 

 現在の時刻は昼の12時50分。

 俺のスマホに1本の電話が入った。発信者の名前は『菊岡誠二郎』。俺達の保護者(・・・)にして防衛省自衛官一等陸尉の顔を持つ30代の男。電話越しに「三等陸佐に昇格したからね?」なんて声が聞こえたが興味はない。電話の要件としては「茅場晶彦が姿を消した」の事だった。行き先を知っているか、心当たりはあるか。そう聞かれたが全てNoと答える他なかった。

 

 

 電話を切った後、手がかりを見つける為に紅音が自らのパソコンを開き、ハッキングをあるパソコンへと試みた。そう我らが兄 茅場晶彦のパソコンだ。

 ガードは硬いものの手馴れた手付きで兄さんのPC内に入り込んだ紅音が発した一言目に耳を疑った。

「データが1つを除いて消えている」

 画面を覗くと2人の銀髪の子供がケーキを前に虚ろな笑顔を浮かべている写真がデスクトップ背景として設定されていた。間違いない。兄さんのデスクトップ画面だ。

 そんなファイル1つだけ残された画面。

 

 

 

 

 ファイル名:

 

 

 名無しのファイル。もしも撃退用のウィルスでも仕込まれていたら大変な事になるが、紅音の良く当たる勘が「大丈夫」告げている為、迷わずダブルクリックでファイルを開く。

 するとある一文が表示された。

 

 

 

 "Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein."

 

 

 

「………ドイツ語。19世紀ドイツの哲学者『フリードリヒ・ニーチェ』の著書<善悪の彼岸>より一節」

「この一文からするに多分このデータは開いた瞬間に逆探知されて、私のこのパソコン以外の機体だった場合このデータも相手データも道連れにするパターンのトラップだね~」

「………つまりこれは俺達向けのメッセージ?」

「かもね~?取り敢えず中見るよー。えーと?なになに~?……え?」

 

 

 ………それを読んで俺達は絶句した。内容は殺人予告と言っても過言ではないモノ。

 ゲーム開始から4時間後、世界は現実から完全に隔離される。

 あと5分でゲームが開始されてしまう。兄さんが消えるタイミングが良すぎる。現在の時刻は12:55。もうあと5分でSAOが始まり…4時間後にデスゲームに変わる。恐らく…いや絶対にもう止められない。

 根拠はこのファイルの中にあるSAOのメインシステムであるカーディナルの欄に書かれた最後の1項目だ。

 

 

 

『・この私が消えると同時にソードアート・オンラインは開始される。どの様な手を使おうとも私には届かない。聡明な君達ならばこれを公表すればどうなるかは承知の上だろう。この私を止めたくばソードアート・オンラインをクリアし、エンディングを見ることだ

 

 ・

 

 

 』

 

 

 

 

 ソードアート・オンライン既に起動している。

 プレイヤーは15分前からフルダイブを完了し、電脳空間の待機場所で意識だけの状態でログインを待つことが出来る。そうすることで13時丁度に確実にログインできるからだ。世界初のフルダイブ型ゲームが出来るのであれば誰よりも早く入りたいと願うのが人の心だ。

 ……そしてフルダイブを完了した時点で外部との通信手段は絶たれ、ログアウトは不可能となる。何故か?

 

 ────元よりこのソードアート・オンラインというゲームにログアウトなんて機能は無いのだから。

 

 

 ソードアート・オンライン・メインシステム【Cardinal system】のシャットダウンは不可能。

 紅音のディスプレイに映し出された9126というフルダイブを完了した犠牲者の数。また一人増えた。

 誰にも止められない。

 

 残り3分で俺達が出来ることは紅音のパソコン内の危険なデータをUSBメモリに移し替えて隠す事。そして、これからSAOに参加するであろうホンのひと握りの友人達に『今日近くまで行くから現実で待ってて欲しい。顔が久しぶりに顔が見たい。他の奴には言うなよ?妬まれて面倒だから』と連絡をする事ぐらいしかなかった。

 

 

 

 

「ねぇ蒼兄~」

「………なに?」

「晶兄の事どっちやる?」

「………2人で。って言いたいけど今回ばかりは譲ってほしい」

「ん。じゃあちゃんと目標の場所まで生き延びないとね~」

「………うん」

 

 

 

 

 ダブルベットの上。並んでナーヴギアを頭に着け、手を恋人繋ぎでお互いのを握る。

 刻一刻と開始が迫る中、俺たちは1つの思いを胸の中で呪詛のように唱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

12:59:55

俺は、

 

12:59:56

私は、

 

12:59:57

アンタを、

 

12:59:58

晶兄を、

 

12:59:59

絶対に殺す

絶対に許さない

 

 

13:00:00

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「リンクスタート!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 茅場晶彦と言う天才(殺人鬼)が作った魔法(殺し)の言葉。それを唱え2人の少年少女は仮想世界に飛び立った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイル名:

 31/31

『・この私が消えると同時にソードアート・オンラインは開始される。どの様な手を使おうとも私には届かない。この私を止めたくばソードアート・オンラインをクリアし、エンディングを見ることだ。

 

 ・間違っても止めようなんて事は考えないで欲しい。私は常に君たちを見ている。君たちは誰にもこの計画を伝えてはいけない。もしもこの警告を無視した時、私は容赦なく君たちの大事な人を奪うことにしよう。愚かな選択を君たちならしないと信じている』

 









作者の剣道の経験は友人に1度だけ(ry
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