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[ALL OK]
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[βテスト時のデータが残っています。<Miyrmya>(M)を使用しますか?YES/NO]
[YES]
- Welcome to Sword Art Online. -
ログイン戦争を乗り越え、無事にこの世界に着地した俺はあたりを見渡した。
バチカン市国のサンピエトロ広場を模したログイン初期ポイント。
歓迎のパレードのように鳴り響く音楽。
時計台の裏にあるこの街の象徴的建造物。トルコのスルタンアフメト・モスクの形を取った<黒鉄宮>。
改めて確信する。間違いなくここはソードアート・オンラインの中だ。
俺の容姿は黒髪の長髪。身長は175に設定。βテスト時に使っていたキャラクターがデータを引き継いだことによりそのまま。そして目の前にひょっこり現れた黒髪ショートの女性プレイヤー。これまたよく見慣れたプレイヤー。紅音だ。
「ミー兄。どうする~?」
「………常に俺達の言動は見られている。ただ4時間待つしかない。だから出来る事だけはやっておく」
「じゃあまずは武器だね~。あ、キリト君との合流はどうするの?」
「………あいつは放っておいても勝手に会えるよ。俺は見る場所がいくつかあるからこれ頼んだ。ロングソードよろしく」
「了~解」
背中に担いでいた<スモールソード>を紅音に譲渡し先を急がせる。
まずは黒鉄宮。中には死んだプレイヤーがリスポーンする<蘇生者の間>やハラスメント行為などで通報されたプライヤーのペナルティが科せられる<監獄エリア>があった。…βテストとなんら変わり無く、違和感もない。
他にも気になるポイントを巡ってみたが特に変化はなかった。
確認し終えた俺は急いでフィールドに出る。丸腰で進む俺を不思議そうに見つめるプレイヤーもいたが気にしない。ホルンカ村までの道も敵もすべて覚えている。EXスキルである<体術>はないにしろ、火力が足りないだけで戦える俺にとって武器など必要なかった。
ゲーム開始から10分でホルンカ村に到達した。
村の入り口にはNPCが何人かとアカネがいた。
「………お待たせアカネ」
「おかえり~。はいこれ<ロングソード>」
「………ん。アカネは相変わらず<ロングスピア>なんだ」
「まぁね~。じゃあ先に<アニールブレード>を取っちゃおうよ。まだ死んでもいいらしいから実付きは全部割ってレベリングもついでに」
「………それがいい」
民家に入り、クエストを発生させる。
森に足を運びあとはひたすらリトルペネントを頭から根っこまで縦一閃するだけの作業。こうしておけば実付きが目の前に現れても無事に身を破壊して匂いをばらまき他のリトルペネントたちを呼び寄せれる。
恐らくβテスト組以外この時間帯にプレイヤーは来ない。2時間でレベルを12まで上げるのを目標にひたすら体を動かす。
スキルスロットに俺は<片手剣><索敵>を、アカネは<槍><隠蔽>をセットし戦う。
早速実付きのリトルペネントが現れた。アカネが速攻をしかけ実を割る。すると中から鼻の奥をくすぐるような独特のにおいが辺りを満たし、木々の奥から叫び声が聞こえた。目の前には4匹、茂みをかき分け出て来たのは10匹。その中に運良く実付きもいる。しかしどうしたことか…βテストよりも湧く数が倍になっている。これは何も知らずに身を割ったビギナーにとっては致命傷ともいえる現象。確実にプレイヤーを殺しに来ているシステム変更。これは高くあの情報屋に売れる。
際限なく増え、ミニマップを真っ赤に染めるほどの数が揃った時、どこか嬉しくなった。
『こいつらを全部倒せば力が手に入る。1匹、まずは1匹だけ』
そう脳裏で俺が俺自身に囁く。…しかし、いかんせんモチベーションが上がらない。ただ目の前のを斬ってレベルを上げるのは作業にしか過ぎない。具体的にいえば『ポケ〇ンDP』の209番道路→ズイタウン→210番道路を往復するようなものだ。それではつまらない。
だが、こんな作業にも1つスパイスを加える事でとてもやる気が出て有意義な時間へと進化する。
アカネは右腕を真っ直ぐ前に伸ばし、手のひらを立て、体と平行にして親指以外の4本の指を揃える。槍は刃を下に、左脇を通り抜けて石突が後頭部に当たるよう構える。
俺はスタンダードに剣先を前に片足を1歩前に出すように構える。
「………経験値の差。次の晩飯。財布。」
「いいの〜?私狩りでもご飯でも本気出すよ?」
「………3…2…1」
「負けて文句言わないでねー!」
お互いに目の前のリトルペネントに斬りかかる。
ひたすらに、がむしゃらにモンスターを斬り伏せる。これからの世界を誰よりも強く、何よりも優位に、絶対に負けない為にレベルを稼ぐ。ゲームさえ無事に始まれば俺達は現実に帰れないことを除けば自由の身。今この5時間が後の数年のnの範囲を収縮できる。他人任せじゃない。これは当初から止められなかった俺達の責任。責任を負った以上やり遂げなければならない。
リトルペネントの腹を斬り払い、ポリゴン分散する前に頭を踏みつけ跳躍し、ソードスキル<レイジスパイク>を発動させながら前方のペネントの群れに飛び込む。青い閃光と同時に巻き込んだリトルペネントがポリゴンと化す。
斬っても斬っても湧き続ける緑色に嫌気がさし始めて早2時間半。漸くレベルが2桁を超え、火力が開始時よりも大幅に上がったおかげか、将又実付きの数が減ったか、どちらかは分からないけれど確実に数が減ってあとは両手両足の指で数えられるほどになった。
白い花が付いていたとか赤い実が実っていたとか若葉だったとかもう気にしてはいなかった。
武器熟練度も左下のログを見ると50を超えていて片手剣の新しいソードスキルや索敵のスキルが追加されてる事を知らされている。
17…13…10…8…5…3……1。あっという間に残り一体になった所で俺とアカネが向かい合い、目が合う。アカネも、恐らく俺も目には光など無く、ただの作業の終着点を虚ろに見つめていた。
最後の一体。相手がどれ程レベルが上がったかは確認してない故に譲る事は出来ず、花付きのリトルペネントを間に挟んで剣と槍が交差する。
最早聞き飽きた破裂音が鳴り響き、同時に見慣れた青い結晶が消える。そしてお互い同じタイミングで地面に落ち、点を見上げる。
鬱陶しかったモンスター討伐による獲得経験値やドロップアイテムのウィンドウを消して、パーティ申請をアカネに送る。そして承認され、視界左上にプレイヤーネーム『Akane』とそのHPが表示される。体力は3割ほど減っていなく、こちらは半分を切り
パーティになっても相手のレベルは見えないので右腕を振り下ろしてメニューを開き、ステータスの項目を開ける。そして見せるために指をアカネの方にスライドさせウィンドウを目の前に送り付ける。アカネも同じ様にして自分のステータスを俺に見せる。
「………負けた」
「私のレベルが11でミー兄は10〜。いえーい勝った!第一層の美味しい店ってどこだったかなー」
まさかの敗北…という訳でもなく、殆ど負けるとは思っていた。仮想世界ならば勝てる思ったけれど考えが甘かった。実を言うと剣道の試合でも俺がアカネに勝ったことはあまり無い。常に負けっぱなしだった。俺がアカネに勝てた事といえば母さんが死んでから続けている家事や俺だけの特殊能力の様な記憶力ぐらいだろう。
ウィンドウを引き戻してドロップアイテムを確認する。
<植物種の牙>や<リトルペネントの根>など特にレアリティの無いアイテムは3桁を軽く超えていて、獲得コルも序盤にして10万以上貯まっていた。そんな中で数が2桁も超えていないどころか四捨五入をすればゼロになるアイテムが1つあった。
<リトルペネントの胚珠×3>
こいつが大本命。たった2時間半とは言え、あの量を倒して3つは良い方なのか悪い方なのかは分からない。少なくとも花付きを50体以上は刈り取ってるのでドロップ率は6%以下。さらにそこにそれなりのレア個体である花付きとの遭遇率を加えれば最も数が小さくなる。
「………アカネ胚珠何個出た?」
「ん〜8個だよー」
「………………」
どうやら運ですら負けているようだ。しかしながら目的は達成された。それぞれ胚珠をひとつ握りしめて村に帰る。そして民家に入り中の女将にアイテムを渡し、武器を貰う。
<アニールブレード>
これ上手く強化すれば7層まで使える便利な武器。片手剣でアカネは使わないけれど、これを溶かしてインゴットに変換してから槍に打ち直して貰うことで今の<ロングスピア>よりも強い武器になって帰ってくる。
「武器は手に入ったけど次はどうするの〜?」
「………チュートリアル開始まであと2時間半。急げば迷宮区前の<トールバーナの街>に着ける」
「トールバーナの転移石を登録しておくんだねー。…あ、その前にステ振りしないと」
SAOのステータスはレベルアップ時に自動的に加算される数値とは別にその時獲得できるポイントがある。それを各々
振り方は十人十色で、走りや剣のスピードを上げたいのならばAGIを、一撃一撃を重くしたいのであればSTRを、防御や体力を上げてタフになりたいのであればVITを…といった感じだ。ただ1つだけに全てを注ぐ極振りはダメでは無いがおすすめされない。ベストと言われているのは、攻撃に直接関係のあるステータスSTRとAGIの比率が6:4で、どちらを優先させるかはその人の武器種や性格次第。
俺のステータス場合、振り方の優先度はAGI>STR>DEX>VITの順。
一方アカネはSTR>AGI=VIT>DEXと言った割と脳筋ステ振りの傾向がある。
ちなみにDEXを上げればクリティカルが発生しやすくなる上にソードスキルによる硬直時間が短縮される(らしい)。
「………じゃあ出発」
「Let's go~!!…あ、<隠蔽>スキルの熟練度上げたいから使いながら行くけどミー兄見失わないでね〜」
流暢な英語で出発進行を唱えて消えるアカネ。<索敵>スキルを使えばうっすらとその輪郭が浮かび上がる。熟練度0の隠蔽スキルではそこまで隠れればしないがこの辺の視覚で敵を感知するモンスターからはほんの少しだけ認知させるのを遅らせれる。その隙に脱兎のごとく走りされば良い。……隠蔽スキルを使っていない俺は敵に見つかるけど。
そうして上を軽く見上げれば見える迷宮区の塔を目印にホルンカ村から北へと進む。…まぁマップ覚えてるけど。その先にトールバーナの街がある。
トールバーナには何があるかと聞かれれば、西アジアにあるシリア・アラブ共和国の中に建てられた古代都市ボスラの城塞内のローマ劇場をモチーフにした広場がある街だ。ボスラはユネスコによって世界文化遺産に登録されており、その劇場はとても音響にも優れていて、戦いで疲弊した兵士たちの心を演劇家達がミュージカルなどの芸術で癒していた場所とも言われている。
世界の歴史の話はここまでで、30分程全力で走り、森や草原を超えればトールバーナの街が見えて来た。
街を見渡す限りプレイヤーは見えず、俺達が一番乗りか、誰かが先に来てここを出たか。どちらでも構わないが真っ先に街の真ん中にある大きな柱のような石に触れる。これが転移石。一度触れていれば転移結晶を使っても、主街区の転移門を使ってもこの街の名前を唱えればここに移動できる優れもの。
「ここまで来たけど次は~?」
「………さっきのペネント戦でわかった事はβテストよりも敵が強くなってる」
「迷宮区はもっと厳しいかな~?でも私たちレベル的には安全マージン超えてるよー?」
「………確かに先に進んで情報だけでも集めるのは得策。だけどチュートリアルが終わってから迷宮区の構造が変わるかもしれない」
「でも行った方がいいと思うけど…」
今までの俺ならば迷わず迷宮区に入っただろう。しかし今は兄さんを恐れているのか、かなり慎重になっている。残り1時間。どう動くべきか、何をすべきか。確実に言えるのはこの正式版のSAOで1時間というちっぽけな時間では登り切れないという事だ。実のところ俺は強心臓などは持ち合わせておらずどちらかと言えばノミの心臓だ。第一に妹を守る事しか考えられず、とてもじゃないが大物とは呼べない人物だ。
………結論に至った。ここはレベリングに徹しよう。
今のレベルでは凄く不安だ。恐らくゲーム開始から二週間もすればβテスト組が集結して一層を突破できる。まずは相手の出方を見るという逃げの選択だが今はそれで充分だろう。
「………まだ死を感じないただのゲームのこの時間。今のうちに安心して食べれるゲーム内のご飯を食べようか」
「あ!そうそう思い出した!トールバーナ西のステーキ屋さんが美味しかったんだよね~!そこ行こ!!」
腕を引っ張られ、引きずられながら進む石畳の道。少し恥ずかしいのと共にこの体勢が嫌になったのでタイミングよく地面を蹴り跳躍してアカネの頭上へ行き、その細い腕を捻り、骨を折る気で投げようとしたら…投げられた。
「ん?あれミー兄どうしたの?」
「………アカネが投げたんだろ…」
ムキになって投げようとしたのが間違いであることに気付いた。アカネは自己防衛の為に一時期から合気道を初め、飛び掛かろうものなら素早く流し、そのまま投げ飛ばす本能的動きをよく行う。達人ほどではないがかなり凄い。…合気道の達人を見たことが無いからどうなのかは分からないが実力は本物。
ため息をついて自由な方の手で俺の腕をつかんでいるアカネの手を2回叩く。そうして腕を離してもらい立ち上がる。痛覚がナーヴギアによって緩和されていて痛くはないが、捻り返された腕を振り動きを確かめる。そして気付いた。腰に携えていた<アニールブレード>が鞘から消え、アカネの手の上にあった。
「………手癖が悪い」
「あ、ごめんミー兄!いつもの癖でつい…あはは~」
スリの技術までいつの間にか上達していた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
第一層にしては中々の味のステーキを食べ終え、時刻は16:30。
「………ログアウトが消えた」
「もう逃げられなくなったんだね~」
「………チュートリアルが始まっていない所為か実感が無い」
それから更に30分。17;00。エリア全体に鳴り響く鐘の音。
「………始まった」
「これって手繋いでたらどうなるのかな?」
「………多分転移結晶と同じで同時に飛ばされる」
「じゃあ…はいミー兄」
「………ん」
差し伸べられた右手を強く握り返した。それと同時に青白い光が体を包む。少しのめまいと共に視界がクリアになり、左手の先にはちゃんとアカネがいた。
空を見上げると、夕焼けに染まっていてどこか陽の色とは違う不気味な赤色だった。周りを見渡せば4時間前に見た光景。第一層<始まりの街>。それと次々に転移されてくる無数のプレイヤー達。
俺達が転移されてから5分。漸く終わったのか青白い球体のエフェクトが広場から消える。相変わらず何が起こったのか分からない故にざわつきが収まらない。しかしその騒々しさはすぐに消える事になる。
誰かが気付いた。空を見上げ、2つ赤い六角形のシステムメッセージが浮いている。その中には『Systems Announcement』と『Warning』の文字。
全員が注目したところで2つだったウィンドウが第一層の上空全てを覆い隠す程に一気に広がる。明らかなる異常、理解が追いつけない事から起こる静寂。
広がり切ってから更に異常は続く。警告ウィンドウ同士の境目から赤くドロっとした…まるで血のような液体が染み出ててきた。それは重力に従い下へと落ち、重力に逆らって一定の高さで留まる。
そして全てが滴り終わり、空中で浮かぶ血液のボールはRPGに出てくるスライムの変身のように形を形成し、1つのローブに変わる。
「なんか見たことあるような無いような〜…」
「………嘘だろ兄さん?」
「ミー兄?」
頭痛に襲われる。
今この瞬間ほど俺は俺自身を恨み憎んだことは無い。何故その作品なのか?どうしてこうなった?俺はなんと取り返しのつかない物を生み出したのか。
「………百獣物語より登場。<No.100・
「それって…もしかして小さい頃に私達が作ったあの百獣物語だったりするのかな〜?」
「………分かってた。けど認めたくはなかった。全て似ていた。答え合わせの様な問いかけから目を背けてきた」
出来るのならばあの作品を書いた事を
『え?何あれGM?』『なんで顔が無いの?』『さっきまで全くコールに応答しなかった癖に…漸くのお出ましかよ!』
そんな声が広場から聞こえた。
「………GM?コール?」そんなまるで初めて聞いた単語の様に独り小さく復唱する。そして単語を言葉にした瞬間に脳を行き来する電流の網が俺の頭の中にある『鍵付きクローゼット型本棚』の錠を解き放ち、過去に1度でも目を通した書物が火事現場のバックドラフト現象の爆炎の様に飛び出してきた。
「………2021年6月5日午後12時36分。
SAOCβT参加者用ナーヴギア及びゲーム内説明書:17/50頁・第11項『GMコールについて』。
本文:本ゲームプレイ中、システム不具合等によりゲーム進行に大きく支障が出るバグと遭遇した場合に行う動作です。[
「えーと?メインメニュー開いてー…設定開いてー…ヘルプ開いてー…あった、GMコー…!?」
「………GM役の老人が着ているローブ…まさにアレその物。開く事が無かったから気付かなかった」
「多分これってβテストの時から変わらないよねー…」
兄さんが俺の書いた物語を使う事を聞いて来たのはβテスト終了の打ち上げの時。つまりβテストが始まる以前からこの日の事は決めていた…。兄さんはあの時、GMコールを見て気付いていたであろうifの俺に『使うな』と止めて欲しかったのかもしれない。
考えを巡らせている俺達など関係なくその声は第一層全土に届いた。
『プレイヤー諸君、ようこそ
大好きだったあの優しい声で兄さんは自己紹介。この世界のルール。ナーヴギアの仕組み。現実世界の現状。クリア条件。を一通り話した。
ひとつ。またひとつ。この世界の理を知っていったプレイヤー達は階段を一段一段降りるように、蹴り落とされたかのように絶望へと堕ちていく。
『──さて、ここまでで何か質問がある者はいるかね?私が答えるに値する問いにのみ応えよう』
絶望の沼から天に手を伸ばす様に彼らは叫ぶ。
『どういうつもりだ!』『ちゃんと姿を表わせ!』『何でこんなことをするの!?』『本当にゲームクリアまで出れないの?!』
1万近く居るプレイヤーから様々な疑問が投げかけられる。しかしそれの殆どが兄さんの中で応えるに値しない無意味な問いであると判断され、反応を示してもらえない。
何も答えない顔無しローブにいつしか怒りを覚えた者達が罵声を飛ばし始めた。恐らくこうなればらあと5秒もしない内にこのチュートリアルを締めるだろう。
そんな時、唯一兄さんが質問と認めた問いが出た。
「こんな物はゲームじゃないだろ!!」
誰もが思っていた事を、何よりも言わなければ行けない言葉を、この広場に居る誰かが叫んだ。そしてその叫びが兄さんに届き、彼はその叫びに応えた。
『"これはもうゲームでは無いだろう"。いい質問だ』
漸く無い口を開いた兄さんの言葉に呑まれる様に静かになる広場。
『私はこのソードアート・オンラインを発表した時に言った筈だ』
「「「───────」」」
俺とアカネ。それとこの場のどこかに居るであろうアイツだけが、この言葉の意味と、その答えを瞬時に理解した。
…それは今この瞬間まで至って
…それは夢というトラックのスタートラインに立った時で。
…それは二次元世界を愛する全ての人間が夢見ていた二次元世界への跳躍を叶える存在だった頃。この世界の存在を茅場晶彦が発表した時の言葉。
『「「「これはゲームであっても、遊びではない」」」』
4人の声が重なった。
茅場晶彦という人間は確かそう言っていた。
誰もがその言葉の意味を『遊びだと忘れるほど凄いリアリティある世界』などと思っていた。……だが、その真意は違った。
自分の本当の命を賭け、視界の左上のHPバーが消えた時。ステータス画面の682/682という数字が0に時。その瞬間現実世界でも舞風蒼巳という人物は死んでしまう。遊び感覚ではプレイ出来ないデスゲームだという事だった。
……もっと。もっと前から。βテストの打ち上げよりも前から。このゲームの制作が発表されたとからこのトチ狂った計画のヒントがあった。それをあの文書を読まなければ気付かず、のうのうと楽しみにしていた俺達が馬鹿みたいだった。
『それでは最後に、諸君のアイテムストレージに、私からのささやかながらプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
これも知っている。右手を振り下ろし、アイテムストレージを開き1番上のアイテム<手鏡>をオブジェクト化させて覗き込む。
どうせ俺とアカネのアカウントだけ特別なマーキングをしてすぐに分かるようにしてあるはずだ。隠れるのは不可能。ならばここは大人しくこれに従い、正々堂々現実世界の俺達の姿で貴方を殺す。
始まりの街のいたる場所から転移エフェクトの様な青白い光が瞬く。
光から解放され、眩んだ目を慣らし、周りを見る。すると他のプレイヤー達の容姿が面白可笑しく変化している。若く作った顔が老けていたり、性別が本来の方向に戻され、ネカマが解けて結果的に女装している男性プレイヤーが居たり、まさに化けの皮が剥がされた状態だった。
しかしそんな化けの皮が剥がれた者達でも共通点があった。それは髪の色だけは変わらないという事。
……だが、俺たちだけは特別仕様だった。
「へぇ〜…見て見てミー兄。黒髪だった毛色が現実世界の私達の銀色になってるよー」
髪の色だけでなく瞳の虹彩までもが現実仕様だ。
『最後に、これは私からお前達への贈り物だ。
私は第100の街でお前達を待っている。幼き時に夢見た通りに。
これは私からの挑戦状であり、私の目的の残りの半分を埋めるピースだ。さぁ最後の決着を付けよう』
『──以上で≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
そう言い残し、赤ローブは崩れ落ちた。まるで昔から今まで、そしてこれからも何も存在しなかったかの様に消え去り、残されたのは静寂と取り残された約1万人のプレイヤー。
──────パリン
誰かが手鏡を手放し、砕けた事を知らせる音が曇天の如く重い空気で包まれた広場に響き渡った。……そしてそれは、意図せず人が抱える負の感情で構成された連鎖爆弾の導火線に火をつけた。
「い…いや…。いやよ…。いや…っ!いやぁぁああァ!!」
「ふざんけんなよ!!早くここから出してく!!」
「早く現実世界に帰してよ!これから約束があるの!!」
プレイヤー達の怒り。悲しみ。罵声。懇願。そして絶望が。まるで噴火の様に爆発した。
泣き叫ぶ者。現実を受け止められずにただ呆然する者もいる。
そして、ここにいる
赤。青。藍。黒。様々な感情の色がパレットの上で無法地帯の落書きを描く様に存在する中、全ての色をゴチャゴチャに混ぜた黒よりも黒い色を持つ少年少女が居た。
「………………
……
「「ここは
無数の哀しみの怒号が鳴り止まないこの街で、この叫びを聞いてる者は誰一人居なかった。