譬えこの身が陽に焼き焦げようとも   作:友夏 柚子葉

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出会い

 

 

 

 ソードアート・オンラインのゲームマスターである茅場晶彦による真のオープニングとチュートリアルが終わった頃、その会場は混沌に包まれていた。

 皆膝が崩れ、胸の前で腕を交差し両肩を抱いて怯える者や両手両膝を地につけ地面を殴りながら泣き叫ぶ者。ただ茫然と立ち尽くしている者もいれば…現実を受け入れ、いち早く環境に順応し行動している者もいる。

 

 

 

「………まずは<黒鉄宮>」

「<蘇生者の間>がどうなってるかだね~」

「………恐らく死ねば生き返れないこの世界にそんなものを残しておく必要は無い。別の物があるはず」

 

 

 

 そう思いこの広場に隣接している巨大な建造物<黒鉄宮>に足を踏み入れる。

 まだ明かりをつける時間にはなっていないのか、中は薄暗く、壁の燭台と外から入り込む夕日だけで光源を補っている。

 入口を入って直進。突き当りに蘇生者の間はある。通常通りならば真っ平でサークル円陣の様な模様だけがあるこの場所。しかし薄暗く良く見えなかったが何か巨大なものがある事は探知で来た。

 一歩進むごとにその正体は露になる。──大きな石板だ。

 

 

 

「………文字が書かれている?」

「アルファベットの羅列?<aaaaaa><abec><abee><acid>…ミー兄。これ多分全部プレイヤーネーム」

「………『Monument of Life』<生命の碑>」

「ん~?名前に横線がついてる名前が何個かあるね~。その下に何か書かれてる。え~と?

『11月7日 16時42分 警告無視による外部干渉』

───これって。」

「………死んだらこの碑に書かれている自分の名前に線を引かれ、日時と死亡理由が加えられる」

「…酷いね~」

「………覚え終わった。次行くよ」

「…うん」

 

 

 

縦50横200計10,000。

既に横線が入っている者113名。チュートリアルでの兄さんの数と合致。

 見覚えのある名前は962名。その中横線を引かれていたもの4人。

 アイツの名前を確認。当然製品版にも参加していた。

 碑の中に不自然な空白が274名分確認。恐らく11月7日17時までにログインをしなかったプレイヤーの分だと推測でき、ソードアート・オンライン正式サービス利用者は9726名。その内βテスターは少なくとも38名(βテスト時のデータを引き継いでない者も必ず居る為)。

 チュートリアル開始までに生き残ったプレイヤーの人数9726名-不運にも周りの人間に葬られてしまった113名=9613名。これがデスゲームの参加人数。

 

 次はこの始まりの街の最南部に移動した。

 ここはアインクラッド第一層の外周に接しており、チュートリアルが始まる以前は見えない障壁が張られていたが今は…。

 

 

 

「………やっぱり障壁が消えてる。アカネ、耳」

 

 

 

 目を瞑って全神経を聴覚に注いでいることを確認し、俺はここに来るまでの道中で都合良く売っていた円周18㎝重さ1kgの鉄球を柵の向こうへと落とす。

 

……………………──(パリンッ)

 

 

 

「落下より40秒後オブジェクトの崩壊を確認~」

「………計算する」

 

 アカネからの情報と、落とした鉄球の情報。その他それぞれをある公式に当てはめる。メモ用紙と鉛筆は脳内に、イメージを忘れずに筆算のような暗算をする。

 

「……細かい事を気にしなければ大体ここからこの世界の限界まで約250m」

「多分その位置に到達しちゃったらどんな物体も耐久力が0になるんだね~」

「………まるでブラックホールだ」

 

 

 250メートル落下するのに40秒も必要というのはあまりにも残酷だ。恐らく30秒あたりで自殺への酔いが覚め、残り10秒で死にたくないと藻掻くのがオチだ。それならばロープをこの柵に縛り付け、日本式極刑方法を真似た「飛び降り首吊りによる即死」が精神的に一番楽な方法だ。……まぁこの世界で首の骨が折れて即死するなんて現象があればの話だ。

 

 

 

 

「………これから取る選択は多分間違ってるかもしれない」

「ん〜」

「………色んな知識をストックしてきた俺だけど、何が正解か分からない」

「ん〜〜」

「………明らかに間違ってる時は教えて欲しい。だから…」

「ん〜〜〜。大丈夫、ちゃんと付いていくからー…だってそれしか道ないじゃん」

 

 

 

 笑いながら答えてくれる。それだけで何処か俺の心が救われた。

 

 

「………方針を固めた。様子次第だけど、15層まで迷宮区の攻略はしない」

「それって他のβテスターに任せるって意味?…じゃないよね。それなら私達がすればいいんだからー」

「………多分第1層のフロアボスまでにβテスターの半数は消える」

 

 

 

 根拠は無いが確かにそうなると言える自信がある。そしてこのゲームから最初に消えるのはβテスターだと言うことも。

 

 

 

「………βテスターとビギナーが1:9のこの世界。攻略組を作るのは確実に後者。なら俺達が進んで迷宮区を攻略する必要はまだ無い」

「でもそーなると暇じゃない〜?あ、ビギナー助けるってのはどうー?」

「………2人だけじゃ手の平から零れ落ちるプレイヤーが確実に多く居る。それでも耐えれる?」

 

 

 

 静かに頷く。覚悟を決めた目。アカネは責任感が人一倍強い。恐らく助けられなかった人を目の前で見たら罪悪感で心が押し潰される可能性もある。それが続けば心が死ぬ事だって有り得るかもしれない。その上で、まだ生きる事を捨てないプレイヤーを救いたいというのだ。

 方針が決まり行動する。街を出る門はいくつかあるが、迷宮区に続く街に繋がる道が敷かれてるのはひとつしかない。始まりの街の周辺マップを脳内に展開させ、ビギナーでは危ないポイントを時間や人数などの条件を踏まえて絞り込む。

 従来のゲームは左手で移動をし、右手ですコマンドを打ち込み、中のキャラクターが動作する。しかしこのフルダイブ型VRMMOは自分自身が動かなければならない。TPS視点など存在しないこの世界ではバックアタックによる奇襲なんて対応出来るはずがなく、温室育ちでまともに剣を振ったことのない者が剣士の真似事をしなければならない。この世界での体の使い方がまだままならないのに、視界が悪い夜からソロで動くビギナーは居ないだろう。

 

 

 

「………ここの森。夜になると獰猛になるダイアウルフが湧くポイントがある。草原にも湧くけど見晴らしが良いから奇襲されることはない」

「それにこの状況下でレベリングもしないで進む人なんて早々居ないよね〜。ボアで多少はステ上げてからここに来ることを願うしかないね」

 

 

 

 

 そんなこんなで始めたヒーロー紛いの救助ごっこ。夜の闇に覆われた森。木々の隙間から流れる奇妙な肌触りの風が吹く。デスゲームが始まった今夜の月は皮肉にも華麗な満月だった。

 

 森の入口で<隠蔽>スキルを使い姿を透かす。2時間ほど待つと6人PTの一団が足を運んだ。観察を開始する。6人の顔は全員20歳は超えており、その中でも最後尾にいる男…赤髪で悪趣味な赤いバンダナを着けた野武士ヅラのプレイヤー。恐らくあれがこの6人の頭だろう。何処と無くぎこち無い動き…ビギナープレイヤーだ。暫く様子を見ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───驚いた。あのクラインと呼ばれている最後尾の男。ビギナープレイヤーにしては中々にこの世界の動き方を知っている。それなりの観察眼に、お世辞にもキレる頭とは言えないが徹底した基礎の扱い、あの人だけレベルが高いのかモンスターを瀕死に追いやったら他のプレイヤーにトドメを渡す。……興味が湧いてきた。

 

 

 

 そんな時だった。森の茂みの奥からリトルぺネントの群れが出てきたのは。リトルペネントの数は3体。数だけ言えばあのパーティにとっては余裕を持って対処できる。しかしその3体の中に赤い実をつけた個体が1体居た。──まずい!そんな事を思ったが最後、リトルペネントの習性を知らない彼らは頭から根にかけて縦一文字で斬って実を割ってしまった。

 

 

 茂みの奥から更に追加で5体のリトルペネントがやってくる。計8体があの1団を襲い、先程以上に苦戦してSAO脱落の危機まで見えてきた。「助けないと」。そう口にした時には既に走り出していた。走りながらソードスキルを発動させる。使用するは片手剣突進<レイジスパイク>。並んでいた2体を同時に処理し、アカネが槍2連<ツインスラスト>でもう2体を、余った1体を片手剣2連<バーチカルアーク>で仕留める。ついでに最初に出てきた3体も撃破する。

 

 

「………実付きのリトルペネントは頭の果実を割られると他の個体を呼び寄せる。今度あったら胴体狙って殺せ」

「お兄ちゃんに助けてもらった命を感謝して大事にね〜」

 

 

 そう言い残して素早く消える。……顔は見られてないよな?今助けたプレイヤー達の視界から消えた事を確認し、パルクールの要領で気の上に移動して音を極力立てないように木々を渡って先程の位置まで戻る。俺もアカネも隠蔽スキルを発動して隠れてるから向こうからは発見されない。

 

 その後も監視を続けて森を抜けて目的の街に着いた頃には朝日が昇り始めていた。今回は無事に顔を見られず救出できたけど、次回からそう上手く背を向けられない状況も出てくる。顔を隠すために仮面を買おうか?…仮面はないな、視界が狭くなる。そうなればフード付きのケープぐらいがちょうどいいかもしれない。

 あのむさ苦しい一団を見届けて街の転移石からトールバーナに飛ぶ。多分あそこならフード付きケープが売ってる筈。俺達は見つからないように足早に急いだ。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 ───あれから1ヶ月経った。たった1ヶ月で1500人近くのプレイヤーが死んだ。なのにまだ第2層の門は開かれていない。原因は俺達が全くと言っていい程迷宮区攻略に参加してないからだろう。……キリトの奴はどうしてるだろうか?アルゴは攻略本なるものをほとんどの町で無料配布しているのが分かる。あの2人がいれば2週間でボス部屋まで行けると思っていたけど、どうやら現実は違った。もしかしたらキリトもビギナーにすべてを任せているのか?いやそんなはずはない。あのゲームオタクがそんなつまらない事をするはずがない。

 

 ……まぁそんな直接本人に聞くしか答えが出ない疑問は置いておこう。なんせ今日は漸くトールバーナで攻略会議が開かれるからだ。きっとそこにキリトの奴もいる。

 

 

 

 一ヶ月ぶりに訪れる城内劇場。テキトーな場所に座る。周りにもそれなりの武器を持った強者たちが大勢いる。流石はこの一ヶ月を生き抜いたプレイヤーたち。面構えが違う。……デスゲーム開始時にあの森で助けた野武士面のリーダー率いる一団はどうなっただろうか?そんなことがふと頭に過る。

 時刻は13:00。告知されていた時間になり、青い髪の盾持ちソードマンが手を叩き注目を自分で集める。

 

 

「はーい!じゃあそろそろ攻略会議始めさせてもらいまーす!みんな今日は俺の呼びかけに集まってもらってありがとう。俺はディアベル!職業は……気持ち的に騎士(ナイト)やってます!!」

「おいおい、このゲームにジョブシステムなんてないだろ?」「本当は勇者って言いたいんじゃないのか?」

 

 

 

 彼のジョークに明るくツッコミを入れる面々。ガチガチだった場の雰囲気が一気に和らぐ。かなりいいリーダーの資質を持っている。……そう皆が感心している中で俺だけは違った。

(ディアベル…ディアベル…Diavel…。あいつは確か…)

 たった一つのキーワードが脳内の巨大図書館のカギを開ける。そして笑みがこぼれる。今にも腹を抱えて笑い転げそうな程だ。

 

 

「ちょーっと待ってんか!」

 

 

 

 そんな制止する声が劇場上から聞こえた。太陽の逆光で顔はよく見えないがそのシュルエットは独特。…モヤッとボール?関西弁が話せるモヤッとボールって珍百景というか世界遺産とかにならないかな?そう思っていると本体が階段を下りてステージに上がる。なんだ…角度が悪くて頭しか見えなくてボールに見えただけか。

 

 ステージに立ったのはキバオウという関西圏出身のビギナープレイヤー。

 キバオウの主張はこの中にいるかもしれないβテスターは名乗り出て、世話をしなかった所為で死んでいった1500人のビギナーたちに謝罪し、ワイらビギナーに詫びを出せ。そうでなければフロアボスの攻略どころではない。そう言っている。

 

 

 しかしあの男が言っている事はあまりにも筋が通っているようで、余りにも断裂している。

 仮に俺とアカネ、それとこの場のどこかにいるであろうキリトが名乗り出て謝罪をしたとしよう。その後詫びの金とアイテムを差し出す。しかしその詫びの品はどこに行くか?それはこの場にいる第一層の攻略組の懐の中だ。それでは間違っている。

 ビギナープレイヤーを代表をしてと言えば聞こえはいいだろう。だが俺達が行うかもしれない謝罪の相手は全ビギナープレイヤーへではなく、自称ビギナープレイヤー代表のあの男を筆頭にそれに取り巻く金魚のフンにしか届かない。詫びの品だってそうだ。始まりの街でニートしてるやつら全員に分配するのならまだしもそうではない事は確実だ。

 つまりこの謝罪会見(笑)はあの男の私怨の範囲までしかとどまらないという事だ。これ程までに無意味な時間はない。

 

 

 こんな空っぽな主張に肯定するように頷いてるやつらは全員ビギナーだろう。……首を縦に振らなかったのは6人。

 その中の1人が手を上げ異議を申し立てる。その男…いや漢というべきか、黒肌のスキンヘッドの大男が立ち上がりキバオウに近寄り圧倒的な体格差で威圧する。そんな大男を俺とアカネは知っていた。

 

 

 

「あれってマスターだよね?」

「………そうだな。あの人も結構ゲーム好きって言ってし、ナーヴギアの発売日1週間前から店閉めてたから買えんだろう」

 

 

 

 現実で凄くお世話になったBarのマスター。付き合いはそれなりに長い。こっちの名前はエギルというらしい。

 マスターはキバオウに彼の要求を簡単にまとめて確認を取った後、腰のポーチから一冊の小さな本を取り出した。あれはアルゴが作った攻略本。全部の街の道具屋で無料配布されている。つまりエギルことマスターはβテスターがビギナーを見捨ててはいなかったと言う事実を知って欲しく異議を申し立てたのだ。

 

 

 そんな話のやり取りが続き、どうしてもβテスターを吊るし上げたい欲望にまみれたキバオウの糾弾をマスターが鎮火させていく。しかしあー言えばこー言い食い下がらないキバオウの所為でキリがない。

 だがそれも5分と経たずして終わりを迎えた。

 

 

 

「────2022年11月6日よりヒットポイント=リアルライフのデスゲームが始まっテ、今日2022年12月3日現在までの脱落(死亡)者数はざっと1500人。その内生きる事を諦めてアインクラッド外層より解放(自殺)された者が約900人…大体6割ダナ。そして残りの600人はフィールドでの戦死。

 …………さテ、ここでそこのトンガリ頭にQuestionダ。

『生きる事を諦めず、最後まで戦い抜いた戦士の中に何人元βテスターが居るか知ってるカ?』」

 

 

 

 何故か?あの人が直接この広場にやって来たからだ。

 コツンコツン。と大きな石畳の階段を数字を並べながら下り、ステージに上がった三本髭が特徴的な小柄な女性プレイヤーがキバオウに対して問いかける。

 

 

「なんやおんどれ!いきなりベラベラ意味わからん事口にヴェッ!?」

「おヤァ〜?質問されたラ、まず『はい・いいえ』で答えるっテ学校で就職活動の練習の時に習わなかったカ?見たところ成人してる様だケド…社会人とシテも、歳上に対シテも、態度がなってないんじゃ無いカ?」

 

 

 その少女(?)は下からキバオウの下顎を強く掌底で撃ち抜いた。急に来た衝撃と、意図せず閉じた口に思わず動揺する。

 ……いやいや、アンタその容姿で歳上を名乗るのは初見じゃ無理だろ。

 

 

 

「うぐぐっ…し、知るかぁ!そんなモン!」

「そう、知る筈も無いヨナ?……何故なら知ろうとしなかったからダ。だから全て元βテスターが悪いなんテお門違いでバカにも程がある糾弾が出来るンダ」

 

 

 そいつは腰から小さなメモ帳を取り出し、書かれている内容を読み上げた。

 

 

「いいカ?SAOに参加した元βテスターは958人。既に脱落している元βテスターの数は471人。自殺者は68人。戦死した627人の内、元βテスターは403人。その内4人が外部干渉で4人が死亡。つまり954人から403を引いたラ、現在残ってるのは551人。

 もう既に半分近くの元βテスターが死んでテ、戦死したビギナーは220人しか居ないと言うのにまだそんな事を言うノカ?」

 

 溜め息をつきながら疲れたと素振りするそいつの言葉を聞きキバオウはまたまた『ぐぬぬ…』と押し込まれる。しかしいい打開策を思いついたのか、先程までの威勢を取り戻しまた口が騒がしくなった。

 

 

 

 

「それが本当だって証拠はどこにあるんや!?ンなガセでワイらトッププレイヤーらを撹乱させようとしてんちゃうか!?」

 

 

 

 

 確かにその通りだ。どこにもその情報が本当だなんて証拠は無い。本来ならば寝言は寝てから言えと門前払いされるだろう。……だが今回は相手が悪かった。

 割と小柄なキバオウの後ろからマスターが肩を叩き『諦めろ』と言わんばかりに首を横に振って引く様に目で言っていた。けれどキバオウは何も察することはなくその人に噛み付く。それが喧しいと思ったのか女性プレイヤーはマスターに目配せをして引きはがす様頼んだ。

 

 

 

「さテ…。自己紹介が遅れたナ!オイラの名前はアルゴ、しがない情報屋サ。そして今の情報はオイラの2つ名<鼠>の名前に懸けてウソじゃないと断言するヨ。……まァ信じるか信じないかはオマエ達次第ダナ」

 

 

 アルゴの自己紹介によって広場は鎮まる。そしてざわざわと隣同士で事実の確認をする。なかなか進まない攻略会議だ事。

 

 ジリジリと天から高熱の粒子の矢が降り注ぐ。いち早くこの場から離れて日陰に籠りたい…。何故アインクラッドの天気はこうも晴天率が高いのか。いくらゲームの中ではアルビノによる弊害はないにしろ、長年嫌がらせをしてきた奴がいきなり害が無くなったから簡単尻尾を振ってあげますよー。……なんて事はありえない。俺達はそんな寛容性あふれる人間じゃない。

 

 

 

「こんな状況になっテ、ビギナー達から元βテスターにヘイトが集まってる今は影から支えようと思ってたケド…まさか魔女狩り染みた事やってるんじゃオイラが直々に出てくるしか無いって訳ダ。

 オイラの身分も、脱落者の詳細も明かした今もう一度だけ問うヨ。

 

『ビギナー達が死んでいったのは全部本当に元ベータテスターが悪いノカ?』」

 

 

 ………決まった。完膚無きまで叩きのめした。そんな誇らしげにフフンと鼻を鳴らしているアルゴだが…『では、何故あの日、元βテスター達はビギナーに声をかけなかったのか』という点を叩かれないかにきっとヒヤヒヤしているだろう。

 戦死者の数が圧倒的に元βテスターが多いにしろ、結局あの日先駆者になるべき存在達が他をお荷物だと決めつけ見捨てたのは確かな事実だ。

 

 

 

 

「───それト、この世界には<エルフの兄妹>と呼ばれてるプレイヤーが居ル。オマエ達でも1度は聞いたことあるダロ?」

『エルフの兄妹ってアレだろ?』『あぁ、モンスターに襲われて死にかけの所何処からともなく現れて…』『最近じゃフードをかぶって顔みたことある奴居ないんだろ?』『けど最初は違ったらしいぜ?初めて助けられた集団は容姿を見て絶賛してたってよ』『髪は銀に煌めいて、耳は尖り、瞳はルビーとサファイア、顔は横顔一瞬でも分かるほど可憐で綺麗ってやつだろ?』

 

 

 口々にそのプレイヤーの噂を上げ出す。……当の本人達がすぐ後ろに居るなんて知らずに。

 

 

 

「オイラはこのデスゲームが始まってから今日までで半数の5000は死ぬと思ってたケド、彼らが居たおかげで何とか戦死者600人で収まってル。じゃあそのエルフの兄妹は何者カ……そういう事ダ。少なからずこの中に1人は居るダロ?じゃアさっさとこの層突破する為の作戦会議を始めナ」

 

 

 

 アルゴは言い残したいことを吐き捨て、リーダーのディアベルに第1層ボスの情報がまとめられてるであろう手帳を渡し、俺達が座っている場所の階段を上がっていく。

 

 

 

(名前は同じだったケド、姿が違ったヨ)

(………大体容姿に予想はつく)

(アルゴさんじゃあね〜!)

 

 

 

 すれ違いざまに忠告を受ける。

 名前が同じだった。けど姿は違う。βテスト時は薄汚れた灰色の鱗に醜い顔で涎をダラダラ垂れ流すゴブリンの王だった。けれど恐らくこの世界の第一層のあいつは赤い皮膚をした犬顔のデブだろう。

 

 

 

 

「じゃあ、改めて攻略会議を始めさせてもらう。まず最初に6人のパーティーを作ってくれ。ボスは単なるパーティーじゃ対抗出来ない!だからパーティー束ねたレイドを作るんだ!!」

 

 うぐっ!?

 そんな声を思わず出してしまう。蘇る悪夢。体育教師によるあの言葉が脳裏を何往復も駆け巡る。しかしそんな言葉は生まれて2度ほどしか聞いていない。しかしたったの2回でトラウマの爪痕を残すとは…。なんて凶悪な言葉なんだろうか。

 

 

 しかし秘策はある。まるで入学式後、或いはクラス替え後の教室のように自己紹介をし合い、パーティーを組んで行く広場の戦士達。俺達は石階段を降りてディアベルの下へ行った。

 

 

 

 

「こんにちはディアベルさんー。良かったら私たちとパーティー組まない〜?」

「おっと、申し訳ないけどもう6人のメンツが固まっちゃっt…」

 

 

 

 アカネがPTに誘ったところ、人望あるディアベルは既にメンツが決まっていたようだが…そんな状況でも魔法の言葉を唱えれば彼は必ずこっちに付く。

 アカネに気を取られ、背中がお留守になった彼の背中に空き巣する。音もなく背後を取り耳元で魔法を囁く。

 

 

 

 

 

(………)(悪魔ごっこの次は)(騎士様ごっこか?)

「────っ!!」

(………)(お前がβテスターなのは)(知っている。)(俺達をPTに入れろナイト様)

 

 

 

 

 ディアベルの全身が硬直する。心臓を針で刺激されたかのように敏感に反応し鼓動を高め、全身から冷や汗が溢れ出し、顔から血の色が抜けていく。

 蛇に睨まれた蛙の様に動く事が出来ないディアベルに出来たのは、深いフードで見えることの無いアカネの顔を視線を動かす事で必死に観察する事と、俺の要求に「あぁ…」と答える事だけだった。

 

 

 

「み、みんなすまない!この人達と組むことを忘れていた。本当に申し訳ないけど2人抜けて貰えないかな?……そうか!ありがとう。お詫びとお礼は今度するよ!」

 

 

 

そうしてディアベルのPTに入れた俺達はそれぞれ名前を確認した。

・ミーマ

・アカネ

・ディアベル

・キバオウ

・リンド

・シヴァタ

 

 最後の1人が誰だか知らない人も居ると思うから説明すると、リンドの友人。それ以上でもそれ以下でもないメタい話人数合わせのキャラクターだ。

 フロアボスの参加。そしてβテスターとの接触。それも強い拘束力を持つ弱味を握れるβテスターを手に入れた。たった30分でこれほどの収穫は来年凶作になるかと誰もが思ってしまうものの代物だ。

 もちろん先程のキバオウβテスターへのヘイトスピーチの際でどれがキリトかも判別できた。あれは視線を感じ取らせないように監視していこう。まだ接触するべきじゃない。

 

 

 

 チーム分けが終わったらあとはボスの情報を確認し、気を付けるべき点やパーティ役割を決めたりと至って普通の会議を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、オレをこんなフィールドに呼び出して何をするつもりなんだい?」

 

 

 

 

 現実世界のような街灯は無く、天上には創造物ながらも現実ではそうそうお目にかかれないような満点の星空が見れる程完全な闇に包まれた森。そんな誰かのとっておきのポイントのような場所に集まった3人の男女。ディアベルは呼び出した張本人である俺達をにらんでいる。

 それもそうだ。訳も分からず脅されたかと思えばいきなりこんな周りが見えないフィールドに連れ出される。不満が出ないはずがない。

 

 

「いきなりだけど、私とデュエルしてよディアベルさん~。半減決着で~。拒否権も降参も無いんだけね〜」

 

 

 アカネと戦う。この世界でのその行為は文字通り自殺行為。

 

 ハッキリ言おう。古今東西、大英雄や現代を生きる達人を含め、槍を操るものの中で、純粋な技術としての力量を競うならば、最高最強なのは……アカネだ。

 かのケルトの大英雄クーフーリンにも遅れは取らないだろう。……もしも負けるとするならば使う槍の性能の差だろう。同じ強度の棒で戦わせたのならば実力は五分以上だと信じれる程だ。

 

 以上のことから結果は見えている。

 

 

 

「………どう?」

「う〜ん。レベルも低いし、体の使い方も全然なって無いね。多分これだと明日死んじゃうね〜」

「………じゃあ計画通りに」

 

 

 今地面に伏している男にとって地獄の5分間。たった1ヶ月とはいえ、自力で生き延びた自分の腕には自信があった筈だ。しかしそれは幻覚だった。そんな風に思わせられた今のひと時。

 全ての攻撃は予知されていたかのように防がれ、防御は紙切れを切り裂く様に崩され、5分が経つ頃に相手が殆ど動いてないのに気付き、赤子扱いされていたのを知っただけでも上出来だった。

 

 俺達の会話の意味は今のディアベルには理解出来なかった。これ程までにボロ雑巾の様になっていながらも話の内容が分かったのならばかなりの逸材だっただろう。

 

 俺はアイテムウィンドウから朱色の球体<リトルペネントの実>を取り出した。これは実付きのリトルペネントの実を壊さずに倒すと、ごく稀にドロップするC級食材。

 実の中はガスで充満してるが、マイナス10度を超える冷凍庫に7分間放置するとシャーベットの様に固まり、デザートになるのだが…お世辞にも高いと言えないドロップ率と序盤には手が出せない冷凍庫を必要な上に味も極上まで行かない粗末なもの。つまりただのゴミ。

 しかしそんなゴミでも使い道はある。この実は常温であれば中身はただのガス。それも同種を呼び寄せるトラップ装置。そんな物がドロップすればどうなるか。

 

 

 ディアベルの口にポーションを突っ込む。半分まで減っていたHPはみるみる回復し、それに比例するように本人も立ち上がる。

 動ける事を確認したら取り出した10の<リトルペネントの実>を割った。

 

 

「………ラストアタックボーナス狙いでアイツを後方支援に回したのは正解だ」

「けど今のディアベルさんにはそこまで行く実力が無いからね〜」

「………せめてフロアボスのラストゲージを1人で削りきってもらわないと困る」

「これからの攻略組を支える大黒柱になってもらわないと行けないの〜。だから今から押し寄せる大量のモンスターで経験値を貯めながら実戦経験も身につけてね〜」

 

 

 

 唖然とする騎士。

 

 こればかりは仕方が無い。何故なら攻略組を引っ張るプレイヤーは俺達のような忌み嫌われた元βテスターなんかじゃなく、ビギナープレイヤーの方がいいからだ。

 アドバンテージなんて関係ない。ビギナーでもこの世界のトップになれる。そう光指す道標が必要だ。

 ……だからこそ身分が割れている俺達なんかじゃなく、ビギナープレイヤーだと思われ、他ビギナーから厚い信頼を持っているディアベルに任せるしかない。

 

 指示は出さない。視界左上のDiavelのHPバーが赤くなれば手助けに入るだけ。

 さぁ時間が無い。日が昇るまでには終わらせてほしいものだ。

 

 

 

………本当は俺達がやらなければならない役割を、何故人に任せているのだろうか。

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