譬えこの身が陽に焼き焦げようとも   作:友夏 柚子葉

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フロアボス

「──────前衛、突撃!」

 

 

 

 雄叫びを上げ、自身を奮い立たせ、彼らは自分の何倍もの背丈を持つ相手に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ赤な皮膚。犬のような頭蓋。4mはある巨体。大きな矛と盾。

 

 俺達の前に立つはソードアート・オンライン最初の関門。

 第1層迷宮区フロアボス<IllFang(イルファング)The() Kobold(コボルド) Lord(ロード)>

 

 

 恐らく後衛で暇そうに取り巻きの雑魚を相手させられてるアイツは驚いているだろう。βテスト時とボスの容姿が違うことに。

 βテスト時のフロアボスの姿はあくまで仮の姿。茅場晶彦自身が手掛けたデザインだった。しかし今回のデスゲームのフロアボス達は、俺とアカネが幼少期の頃に描いた姿。頭身も質量も全然違う。

 

 

 ディアベルの指揮の下、前衛メンバーがボスにダメージを与える。俺達は目立たない程度に攻撃に参加し、バトルスキルの<咆哮(バトルシャウト)>でヘイトを稼いで他のプレイヤーへの攻撃の回数を減らす。裏方で、縁の下で、ビギナープレイヤーに経験を積ませようと土台を作るのが、これからの攻略組を強く太くする為に俺達が出来ること。

 

 

 後衛を確認する。キリト(と思わしきプレイヤー)は女性プレイヤーのとタッグで、キリトがパリィをし、女性プレイヤーが細剣でトドメを刺す。この1ヶ月ずっとパーティーを組んでたかと思う程息の合った連携だ。……けどどこか退屈そうにしている。今にでも指揮に反してフロアボスに飛びかかりたといとウズウズしてるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘開始から35分が経過した頃、フロアボスであるイルファング・ザ・コボルドロードの4本あったHPバーは3本目の残り1割まで削られていた。

 脱落者は無し。一番後ろで全体をよく見ているディアベルが全員のHPを把握し、少しでも危険だと思えば名指しで「下がれ」と命じる。

 1時間はかかると予想していたこの戦いも、思いのほか早く展開が進んでいる。

 

 

 

「ミー兄〜」

「………そろそろだな。少しの合間よろしく」

「了〜解〜〜」

 

 

 

 なるべく気付かれないように<隠蔽スキル>を使い透明になり、周りから視認できないようにする。そして前線から抜け出して、ディアベルの真後ろに立つ。

 

 

 

「………腰に携えてるはβテストと変わらず<曲刀>。変更点が無しだけど、多分βテストと違って持ち替えたらすぐに挨拶代わりのソードスキル…それも突進系単発のを使ってくる可能性が高いと思う。それを俺がパリィしてやるから、自分が信じる最高のソードスキルを叩き込んで自分のペースを作れ。」

「でもオレの片手剣じゃ──「………だからここに来た」」

「………俺の<アニールブレード>を貸す。これなら大丈夫。」

「こんないい剣をオレなんかには…」

 

 

 

 …………面倒臭い。嗚呼面倒臭い。面倒臭い。

 この男はなんて玉無しなんだろうか。折角素晴らしきチャンスを与えてる。自分には荷が重く、そんな器じゃない。その様な事を今更になって口走ってる。……吐き気がする。

 

 そもそもこのフロアボスの攻略を立案したのは誰だ?

 あれ程元βテスターへのヘイトが集まりグチャグチャになりかけたのをまとめあげたのは誰だ?

 今この瞬間まで初めてのフロアボスにして脱落者が出ていないのは何故だ?

 

 全部。全部お前の"力"じゃないのかい?

 

 

 

 

 ディアベルの目の前に、同じ目の高さに、同じ地位に立つ。

 

 

 腰に納刀していた<アニールブレード>を俺達の中点に突き刺し、迷いを捨てきれない馬鹿に問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これを成せればお前はソードアート・オンラインの『希望の光』…英雄になれるんだ」

 

 

 

 

「───英…雄……。」

 

 

 

 

「………男なら1度は誰もが憧れる存在。けれどその存在に成る為のきっかけすらも、世の中の人間は掴めない」

 

 

 

 

「───────────。」

 

 

 

 

「………だがお前は掴んだ。『英雄』になれるチャンスを自分の力で。それをみすみすドブに捨てるのか?」

 

 

 

 

「────エルフの兄妹。……オレは英雄になれますか?」

 

 

 

 

「………大丈夫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、選定の剣代わりのしょっぱい刃物はディアベルによって引き抜かれた。

 

 前線から継承の儀に似た何かを見届けたアカネが、イルファング・ザ・コボルドの最後のゲージに突入させた。

 

 

 

『GYAAAAAaaaaaaLLoooooooOOOO!!!!!』

 

 

 

 

 ラストゲージに突入した事によるモーション変更の為の大咆哮。轟音の衝撃波と爆風で全員がボス部屋の入口側の壁までシステムによって吹き飛ばされる。

 

 

 その隙にイルファング・ザ・コボルドロードは手に持っていた盾と矛を投げ捨て、腰に隠していた曲刀引き抜いた。

 

 

 

「────全員待機!あとはオレに任せてみんなは休んでくれ!」

 

 

 

 アニールブレードを手に取ったディアベルが誰よりも早く飛び込み、他プレイヤーを静止した。

 俺も負けず劣らず続く。

 

 曲刀に持ち替えたイルファング・ザ・コボルドロードは俺の予想通り突進系のソードスキルを使い間合いを詰めてくる。それを妖精がソードスキルで弾き返す(パリィ)

 

 

獣の王は無防備。

 

騎士が鼓舞する。

 

自らを震え立たせる。

 

そして繰り出す。

 

己が信じる最高のソードスキルを。

 

 

 

───それは未来を光指す一撃。

 

 

 

 

 

 見ていた者全てを震わせるそれは、俺達の心を揺さぶり、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 希望のひと振りが獣の王の胸元を抉る。流石は我らのリーダー。そう再認識させたワンシーン。扉側で待機させられてる攻略組の皆が歓声を上げる。

 

 

 

 その後もディアベルとイルファング・ザ・コボルドロードとの1対1の決闘が続く。

 盾持ちの騎士は化け物の攻撃を全て盾で受け止め、受け流す。とても無難な立ち回りで、とても技術が必要で、……とても勇気が動き方。

 

 

 昨晩のトレーニングで周りをよく見る能力と、高いレベルとステータスを手に入れてる。……とは言ってもディアベル1人で戦う事よりも30人で殴り掛かる方が早くて、中々フロアボスの体力が減らない。

 

 

 ギンッ…!

 

 カーン…

 

 カーン…

 

 

 自分を守るには頼りない細い剣、相手を切り裂くには過剰な巨大な剣。2つの金属音が鳴り響くフロア。ただただ騎士の英雄譚の序章を見守るだけの時間が過ぎる。危ないシーンもあったけど、それもひとつのスパイス。危なげなくも野球選手のスパイダーマンキャッチの様なスーパープレーを思わせる対応で切り抜け、その度に歓声があがる。

 

 歓声が上がればディアベルの闘志も燃え上がり、より一層動きが良くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────……1対1?『カーン…!カーン…!』??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────…待て。待て待て。何処に行った?アイツらは何処に消えた?

 

 

 

 おかしい。おかしすぎる。異常だ。何故か?何が?

 

 

 

 

 奴らは初めは3匹。フロアボスのHPが4本目に入れば5匹に増える。

 

 

 ……βテストの時はそうだった。

 

 

 正式版…しかも今回の様なデスゲームであの晶兄が減らす様な、楽な状況にするか?寧ろ3→10にしようとするはず。

 

 

 

 周りを観察し、居るはずのアイツらを全力で探す。

 

 

 

 …………そして見つけて驚愕する。

 

 

 

 

 

GYAAAaaaaa~♪

GYAaaLAaarrrRy~~♪♪

GYAAAAAAaaaaaaaaaShuuuuuu~~~☆☆

 

 

 

 

 

 

 フロアの最奥部。

 この柱の主であるイルファング・ザ・コボルドロードが侵略者たるプレイヤーを待ち構える為の鋼鉄の玉座が1つ悲しく置いてある。

 

 そしてそれは、先程まで前線に居た取り巻きのハンマー持ち小コボルドによって壊され、叩かれ、まるで職人が刀を作るような動きをしていた。

 

 

 

 

「「アカネ(ミー兄)!!」」

 

 

 

 

 

─────気付いた時には遅かった。

 

 

 

 

 

 

 部屋の奥が小さく光る。あの光はβテストの時に1度だけ見たことがあった。

 

 

 玉座が砕け、溶け、形を再構築する。

 

 

 

 

 あの光は……武器生成時のエフェクト。そして出てきたのは俺達プレイヤーでは扱えない程の巨大な<野太刀>。

 つまりあれを持ったモンスターが使うソードスキルは曲刀ではなく…<刀スキル>。この世界では未だ誰も手に入れていないソードスキルであり、βテスト時では8層のエリアボスから使用されるモノ。

 

 βテスト時に8層以上に到達したプレイヤーはたったの5人。俺・アカネ・アルゴ・キリト、そして『ピトフーイ』と名乗った女性プレイヤーのみ。ピトフーイの名前が生命の碑に綴られていなかったことから今回は参加していない。

 

 

 

 やばい。そう不測の事態に焦燥を覚えるのが何度目かは分からない。正確には3回だと記憶してるけど、充分多いほうだ。

 

 

 もしもアレがフロアボスの武器だとしたら、あの武器があのバケモノの手に渡ったとするならば……面倒なことにしかならない。

 

 

 そういう結論に至ったのか、アカネが槍を投擲する。狙いは玉座にいる小コボルド。それも野太刀を掲げている個体を。走っては間に合わないといった判断からだろう。

 STRガン振りのステータスから放たれる一投は流星の如く鋭き一矢。しかしそれはただの投擲。ソードスキルすら纏っていないそれは玉座とアカネの中点に居るフロアボスによって叩き落とされた。

 

 

「あ゙〜!!」そんな叫びが横から聞こえる。

 

 

 だけどその一投は無駄にはならなかった。すかさず俺は近くにいた2人のプレイヤーの武器を奪い、横の壁のある2箇所のポイントを狙って投擲する。

 

 一投目は横と壁と床の垂直に交わっている部分。

 二投目は床と天井の中点辺りのポイント。

 

 するとどうなったか。一投目はさっきのアカネの投擲同様、エリアの中央にいたフロアボスがそれ以上行かせないと言うように反応し、飛んできた武器を攻撃し、破壊した。

 

 しかし二投目は反応しなかった。

 

 

 情報が足りず確定は出来ないけど仮説は立てられた。イルファング・ザ・コボルド・ロードは自身を中心に、フロアの右壁から左壁まで届く半球状のドームを展開している。そしてそのエリアに入ってきたオブジェクトに反応し、破壊する様にプログラミングされている。

 

 つまり向こうの玉座へと行くには…。

 

 

 仮説を建てたらすかさず今度は俺が地を蹴り、駆ける。AGI優先のステータスの俺はディアベルとフロアボスの戦いを避ける様に途中壁を走る。

 無事に騎士と化け物の交戦区域から抜けたらそのまま加速し、ソードスキルを発動する。使うは片手剣突進系単発<レイジスパイク>。通常であればその刃はその体を真っ二つに裂いていた。しかしその一撃はそのコボルドが持つ野太刀によって防がれてしまう。

 

 そして来る。エクストラスキルに分類される<カタナ>のソードスキルが。

 

 

 

 カタナ3連撃ソードスキル<緋扇> 。垂直斬りから燕返しのように斬り上げてから突きをする技。

 

 

 まさか取り巻きの雑魚Mobが使ってくるとは思わなかった。しかし問題はない。特有の予備モーションを確認できれば、最初の垂直斬りに合わせて斬り上げでパリィをする。この程度のレベル差と緋扇ぐらい下位ソードスキルであればこっちがソードスキルを使わずともパリィはできる上に…こちらには硬直がない。つまり追撃ができ、確実にがら空きとなった胴体にソードスキルを入れることができる。

 

 この一撃で野太刀を持った小コボルドはポリゴン四散する。そしてそのまま地面に落ちるはずの野太刀。…だがそれはそううまくはいかなかった。地面に着きかけたそれは他の小コボルトによって間一髪拾われる。拾われただけじゃない、間髪入れずに手に取ったそれで斬りかかってくる。ああ鬱陶しい。

 

 この程度のモンスターであれば特に苦戦することもなく処理はできるもの、設定されたAI上いちいち後ろに回り込まれるのが厄介だ。残る小コボルドは4体。経験値稼ぎもかねてここで遊ぶのも悪くない。

 

 

 

 ………そんなことを思った瞬間だった。

 

 

 

 

 真後ろからかなり速い速度で何かが迫ってくるのが分かった俺は、生半可な回避では躱せないと悟り、無様にも地面を這うヤモリのように伏せて回避する。飛んできたものは壁に突き刺さり静止した。俺は視線を上げて飛んできたものを確認するとそれは見覚えのあるものだった。

 

 

「………タルワール。ボスが投げたのか。ということは今あいつは素手でディアベルと戦っているのか?……いや違う。───まさか」

 

 

 急いで俺は振り返った。そして目に入ってきたのはそのまさかだった。

 

 

 

 野太刀を持った小コボルドが全力疾走でイルファング・ザ・コボルドロードのもとに向かっていたのだ。そして王の下に到着した兵士は跪いてその手に持つ大きな得物を差し出した。

 

 ディアベルの奴は何が起こっているのか分からず呆然とその光景を見ている。それはまさにヒーローの変身シーンを悠々待ち構える敵役のようだ。

 

 

 野太刀を受け取った王は咆哮する。その衝撃波で俺は吹き飛ばされ、ディアベルは腰を抜かし、入り口前の攻略組達は音の波で動けなくなっていた。──そして睨む…目の前の忌々しい騎士を。さらに構える…まるで侍の居合い抜きの型のように。

 

 

 俺はその構えから始まるモノを知っている。βテスト時代にその威力を初デスという形で身をもって体験している。……もう俺にはあの希望の光を放とうとしている恒星の卵が割れるのをただただ見守ることしかできないのを直感した。

 

 

 

 

 赤き獣の王が放つは刀ソードスキルの初動となるモノ。絶対死亡の初見殺しの必殺コンボが飛んでくる。

 

 

 

 

───刀二連撃ソードスキル《浮舟》。

 

 

 

 

 

 

 逆袈裟斬りからの斬り上げ。それを防ぐことが出来ずナイトの体が宙に浮かぶ。ダメージは致命傷ではないもの突然のことにナイトは今どうするべきかを考えることができず、体を動かせなかった。

 この世界の重力に従い落下するナイトの体を待ち構えていたのは無情にも獣の牙だった。地面に叩きつけられることすら許さないその殺意は次のソードスキルを繰り出した。

 

 

 

 

───刀三連撃ソードスキル《緋扇》。

 

 

 そのソードスキルで赤き獣の王は騎士の体を素早く上下に斬り裂き、分離してしまった上半身の中心…心臓があるポイントを穿った。

 

 

 

 

 この世界で四肢は切断されてなくなることはよくある話だが、体の中枢…つまり胴や腹・首が取れることはまずそうそうない。もしもそれが起こるというのであれば……それは死亡が確定した時だ。あとは徐々に減るHPが0になるのを待つだけである。

 

 

 俺は全力で地を駆けた。一刻も早くあの男のもとに行かなければならなかったからだ。そして途中槍を構えた女性プレイヤー…アカネとすれ違った。すれ違いざまにアカネは「なるべく早く」と言った。恐らくあのバケモノの足止めをしてくれるのだろう。

 

 

 ディアベルのもとに俺が到着するのと同時に一人の男性プレイヤーもここに来た。

 

 

 

 

 

「…………………ははは。どうやらおれに英雄なんてモノは身の丈に合わなかったらしいですね。そもそも騎士を目指すのが間違っていた。やっぱり昔のように……名前の通り悪魔(ディアブロ)を演じるべきだった。ビギナーだと身分を偽ったオレにそんな資格はなかった…」

 

 

 虚ろな瞳で騎士の成れの果ては自嘲気味に笑いながら言った。

 

 

 

「もうしゃべるな!早くこれを飲め!!」

 

 男は自らのポーチからポーションを取り出し、死にかけのそれに渡そうとしたが、俺がそれを阻んだ。無駄なことだ。と…。

 

 

 

「……………やっぱり英雄とか、希望の光とかはオレなんかじゃなくて貴方達の方が似合っている。……あぁこの剣はお返しします。ご期待に沿えず申し訳ございませんでした。どうか皆を導い───」

 

 

 

 騎士になりたかった悪魔は最後の言葉を言い終える前に先に逝ってしまった。

 

 泣くことはない。手向けの花もない。あるのは返された希望へ通じるはずだった剣と、男を支えた盾だけだ。

 

 

 

 

「………おやすみディアベル」

 

 

 








はい!柚子葉です!!( ' . ')

気付いたら数ヶ月の月日が…!(;・ω・)ハッ!


千文字しかなかったのを深夜テンション(早朝)に任せて2時間でほどで書き上げたものなので穴だらけだと思います…(´๐_๐)

なので誤字脱字報告などガンガン来てください笑笑

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