Game of Vampire   作:のみみず@白月

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知恵比べ

 

 

「……尻尾を掴んだわよ、リドル。」

 

目の前で図書館の魔女が歓喜の笑みを浮かべるのを、レミリア・スカーレットは黙って見つめていた。パチュリーがこんな表情を浮かべるのは珍しい。つまり、それだけの情報を得られたのだ。

 

研究室の台の上には大きな穴の空いた日記帳が乗せられている。リドルの日記帳。今回の事件の発端にして、今回の事件の終点。ダンブルドアによれば、リドルの不死を暴く鍵だ。

 

私とリーゼがジッと見つめる中、多種多様な魔道具でそれを調べていたパチュリーは、ニヤリと笑って一つの単語を口にした。

 

「これは分霊箱よ。」

 

「分霊箱?」

 

私の短い問いに対して、パチュリーはほんの少しだけ嫌そうな顔で口を開く。あの顔は知ってるぞ。パチュリーが大嫌いな、『不正確』な話をするときの表情だ。

 

「いい? ここからの話は鵜呑みにはしないで頂戴。分霊箱について記録されている前例はたった一例しかないの。しかも不正確極まりない記録が一つだけよ。だから、私の知識から弾き出した仮説が主体になってくるわ。実証できない仮説なんて与太話にもならないわけだけど……それでも聞くかしら?」

 

「当然聞くわ。頼りにしてるわよ、パチェ。貴女に解けない謎なら私たちにはお手上げじゃない。」

 

「その通りだ、我らが魔女さん。リドルと知恵比べをしてみたまえよ。私たちはキミに全額ベットしよう。吸血鬼は勝てる勝負から逃げたりなんかしないのさ。」

 

リドル(なぞなぞ)』と『ノーレッジ(知識)』の知恵比べね。今まで気付かなかったが、実に運命的な名前じゃないか。……ま、何にせよリーゼの言う通りだ。私たちはパチュリーに賭ける。知識そのものに謎かけをするだと? それは無謀というものだ。

 

私たちの答えにほんの少しだけ満足そうな顔になったパチュリーは、日記帳を指差しながら説明を語り始めた。

 

「結構。それじゃあ先ずは分霊箱についてを説明するわ。……自らの魂を引き裂き、それを物体に保存する闇の秘儀よ。つまり魂の欠片が保存された物体のことね。通常、人間が死ねば死神どもに引っ張られていって、その後冥界の管理者に裁かれるのは知っているでしょう?」

 

「よく知ってるさ。あの忌々しい説教好きどもに、宗教圏毎の『裁判ごっこ』をさせられるんだろう?」

 

リーゼの答えに、パチュリーは頷きながら続きを話す。

 

「その通りよ。そして、それから逃れる方法も少なくはないのだけど……これはその一つね。分霊箱に保管してある自分の魂をアンカーにして、本体の魂を現世に引き止めるわけ。死なないのじゃなくて、『死ねない』タイプの方法よ。」

 

「それはそれは、冥府の管理者どもはさぞお怒りでしょうね。いい気味だわ。」

 

鼻を鳴らして言い放つ。あの連中は煩いったらないのだ。やれ反省しろだの、やれ善行を積めだの。吸血鬼なんだぞ、私は。あいつらこそもっと悪いことをすべきなのだ。

 

とはいえ、これでリドルの不死の秘密は暴かれた。そしてついでに分霊箱とやらはぶっ壊れてるオマケ付きだ。かなりの進歩に私とリーゼは満足そうな表情だが……パチュリーは何かを考え込んでいる。

 

ジッと日記帳を見ているパチュリーに、リーゼが肩を竦めて問いかけた。

 

「つまり、これでリドルのアンカーは無くなったんだろう? 次殺せば普通に死ぬ。そうじゃないのかい?」

 

「残念ながらノーよ。ここからが私の仮説。恐らく分霊箱は一つではないわ。あのリドルの見た目の変化は、複数回魂を引き裂いた弊害でしょう。一つでも分霊箱が残る限り、本当の意味でリドルを殺すのは無理ね。」

 

パチュリーの言葉を受けて、私とリーゼの顔が曇る。それはまた……滅茶苦茶面倒くさいではないか! リドルが自信満々だったのはそのせいなわけだ。

 

「……何個あるのかしら? 千個もあったら絶望的よ。魔法族総出でゴミ拾いをする羽目になるわね。」

 

「さすがにそんなには無理よ。そうね……あの姿から考えれば、最低でも三個。最大では八個くらいかしら? いくらなんでもそれ以上魂を分ければ、自我を保てなくなっちゃうもの。」

 

パチュリーの答えにちょっとだけ安心する。さすがに無数に造れるわけではないらしい。ホッと息を吐いたところで、リーゼが素っ頓狂なことを言い出した。

 

「しかし、分霊箱ね……私もやってみようかな。命の保険があるってのは結構便利そうじゃないか?」

 

「やめときなさい。引き裂いた魂は二度と元には戻らないのよ? どんどん小さく、どんどん下等な存在になっていくことになるわ。生きてる間は便利かもだけど、いざ『本当の意味で』死んだ時のことを考えてみなさい? ゴミ屑みたいな魂の状態で、現世と冥府の隙間で永遠に転がってることになるわよ。動けもせず、喋れもせず、見れもせず、聞けもせず。独りぼっちで永遠にね。」

 

「あー……なるほど。やめておいた方が賢明だね。」

 

ドン引きしたように言うリーゼだが、やめておいた方がいいのには私も同感だ。想像するだけでゾッとする状態ではないか。永遠の孤独、永遠の苦しみ。考えるだけで胸がキュっとなる。

 

そんなことになるなら、地獄の方が百倍マシだぞ。輪廻から外れるというのは恐ろしいことなのだ。永く生きる妖怪たちはそれをよく知っている。

 

だからこそ大抵は上手くバランスを取ってそれと付き合っていくものだ。東洋の仙人も、パチュリーたちのような魔女も、私たち妖怪も。ギリギリの場所を見極めて、きちんと踏み止まっているのだから。

 

しかしリドルは……恐らく知らなかったのだろう。偶然にも『方法』を見つけてしまい、深く知らないうちにそれを実行してしまった。そうじゃなきゃこんな方法を取るはずない。私たちだってドン引きするような方法を。

 

内心でほんの少しだけリドルに同情しながらも、話を進めるために口を開く。

 

「とにかく、残りの分霊箱とやらを探す必要があるわね。……出来るの? パチェ。」

 

「なんで私に振るのよ。私はデスクワーク専門なの。フィールドワークは専門外よ。」

 

「紫もやしに探しに行けとは言わないわ。ヒントは無いのかってことよ。さすがにノーヒントじゃどうしようもないじゃないの。その辺の石ころを分霊箱にしてる可能性だってあるわけでしょう?」

 

そうだとすれば頗る厄介なのだ。賽の河原の真似事をする必要が出てくるぞ。そうなったら……うん、美鈴にやらせよう。私は絶対ヤダ。考えただけでイライラしてくる作業だ。

 

私が脳内に絶望する門番の顔を浮かべていると、パチュリーが顎に手を当てながら口を開く。

 

「そうね……まず一つ、リドルが六年生の時から、トカゲっぽくなってきた時期。えーっと、1955年辺りかしら? その間に三つ以上は作っているはずよ。日記帳を除けばあと二つ。ひょっとしたらもう一、二個多い可能性もあるけど。」

 

「六年生以前にも作ったという可能性はないのかい?」

 

リーゼの質問に、パチュリーは自信ありげに頷きながら答えた。

 

「ないわね。この日記帳が最初の分霊箱のはずよ。最初の一回だからこそ分けられた魂の量が多くなって、だからこそここまでの自我を持てたの。二回目以降はもっと小さくなってるはずだわ。」

 

「安心したよ。毎回毎回リドルの記憶に付き合わなくていいわけだ。トカゲ男の成長記録だなんて、誰も見たくはないだろう?」

 

鼻を鳴らしながら言うリーゼの皮肉を無視して、パチュリーは続きを語り出す。

 

「二つ目に、分霊箱はリドルにとって思い入れのある品物のはずよ。恐らく魂との親和性が大事なの。好きな物、貴重だと思っている物、認めている物。あるいは……執着している物。そういった物でなければ分霊箱にはできないはずだわ。」

 

「だから日記帳なわけね。……そうなると、スリザリン関係が怪しいわ。熱心な信者みたいじゃない。」

 

「ふむ。夏休みが明けたら秘密の部屋をもう一度調べてみよう。多分無かったと思うが、視点を変えれば新しい発見もあるかもしれない。」

 

私とリーゼの会話に頷きながら、パチュリーは最後のヒントを口にした。

 

「三つ目、分霊箱は通常の方法では破壊できないわ。少なくとも並みの呪文や物理的な方法じゃあ無理ね。アリスが使ったような『本物の』守護霊、あるいは強力な魔道具、悪霊の火、私の魔法に、妹様の能力……いやまあ、壊す方法は結構あるけど。」

 

「頑丈なら分霊箱の可能性があるわけか? いいヒントじゃないか。とにかく怪しいものをぶっ壊そうとすればいいわけだ。」

 

リーゼの短絡的かつ暴力的な方針に苦笑しながら、脳内で計画を組み立てつつ口を開く。

 

「そうなると、先ずはリドルの足跡を追う必要があるわね。それは……よし、美鈴にやらせましょう。最近暇そうだし、いい運動になるでしょ。アリスは研究に没頭中だしね。」

 

「ダンブルドアからも話を聞こう。学生時代のリドルを知る者は多くはないし、貴重な手がかりを握ってるかもしれない。」

 

私とリーゼが計画を組み立てているところに、パチュリーが意外な意見を追加してきた。

 

「こあも美鈴について行かせるわ。」

 

「こあを? それはまた……何だってそんなことを?」

 

「宝を見つけるのは悪魔の本能よ。気休め程度には役に立つでしょう。……気休め程度には。」

 

リーゼに答えるパチュリーは自信なさげだ。まあ……美鈴と小悪魔のペアってのはちょっと頼りない気がする。あっちへふらふら、こっちへふらふら。すぐに脱線しそうだ。

 

三人が三人ともその光景を幻視したのだろう。部屋が苦笑に包まれたところで、リーゼが満足そうな表情になって口を開く。

 

「しかし……僅か二年でかなりの進歩じゃないか。去年はようやく顔を拝めて、今年は不死の秘密を暴いた。ハリーが絡み始めてから一気にゲームが進んだな。」

 

その通りだ。思わず歓喜が背筋を伝う。かつての戦争では向かい風だった運命が、今の私たちには追い風になっているのだ。帆を広げれば広げるほどに、グングン先へと進んで行く。

 

前回の戦争には手応えがなかった。まるで空を掴むような感覚が続いていたが、対して今やどうだ。確かに介入しているという手応えを感じるではないか。

 

思わず浮かんだ笑みにその身を委ねていると、パチュリーが思い出したように口を開いた。

 

「そうそう、分霊箱を見つけたら、すぐに破壊せずに私に持ってきて頂戴ね。さっきも言った通りに前例が殆どない魔法なの。色々と調べる必要があるわ。」

 

「それはもちろん構わないけど……そもそも分霊箱が破壊されたってことにリドルは気付かないの? もし気付いてるのなら、より厳重な場所に隠そうとすると思うけど。」

 

「それに気付くのはいざ死んだ時でしょうね。完全に切り離されてるわけだから、破壊されようが感知できないはずよ。唯一アンカーとして動作させようとした時に繋がるの。だからまあ、全部破壊するまではリドルを殺さない方がいいわね。きっと面倒なことになるわよ。」

 

「ふーん。ま、了解よ。とりあえず一個見つけたら、パチェに渡せばいいのね。」

 

問題あるまい。そもハリーしか殺せないはずだし、今まで通りにやるだけだ。それよりも、パチュリーがやる気になったのは僥倖だったな。リドルの対処というか、むしろ純粋な研究欲だろうが……構うものか。エンジンがかかったこの魔女は頼もしいのだ。

 

確かな前進を感じながら。レミリア・スカーレットは満足そうに深く頷くのだった。

 

 

─────

 

 

「……参ったぜ。」

 

目の前に広がるロンドンの街並みを眺めながら、霧雨魔理沙は困り果てていた。まるで迷宮だ。それにこの人の量。眩暈がしてくるぜ。

 

聞くと見るとじゃ全然違う。幻想郷には無かった物ばかりで、何をどうしたらいいのかさっぱりわからん。……落ち着け、魔理沙。ちゃんと勉強してきただろう? 内心に膨れ上がる不安をどうにか抑えながら、地図を頼りに再び歩き出す。

 

幻想郷を出て初めて分かった。あの場所がいかに神秘に包まれていたかということが。ここじゃあ私は一センチだって浮けないし、自慢の魔法もまともに使えやしない。香霖から餞別に貰ったミニ八卦炉も……全然ダメ。うんともすんともいいやしないぞ。丸裸で歩いてる気分だ。

 

「……っし。」

 

不安になるな! 一度頰を叩いて気持ちを切り替える。魅魔様に頼み込んで外の世界での修行を望んだのは私だろうが!

 

脳裏に浮かぶのは紅白の彼女だ。どれだけ必死に走っても追いつけなかったあの背中。毎日勉強して、魔法の練習をして、寝る間も惜しんで頑張っても、あいつは軽々と私を追い越していった。……私が自信を失くすには充分すぎる速度で。

 

落ち込む私を見兼ねたのか、師匠である魅魔様がある提案をしてきてくれたのだ。外の世界で魔法の修行をしてこないか、と。

 

今ならその言葉の真意がはっきりと分かる。ここじゃあ常に枷を嵌められているような状態なのだ。ここでふわりとでも浮ければ幻想郷じゃ自由自在に飛び回れるだろうし、ここで魔力弾をばら撒けるならあっちでは空を覆えるほどだろう。

 

後悔を気力でねじ伏せて、顔を上げて足を踏み出す。絶対にいい経験になるはず……いや、そうしなければならない。魅魔様が苦労して博麗結界に穴を空けてくれたのだ。恩に報いるためにも、強くなって帰らねばなるまい。

 

しかし……一つだけ後悔するとすれば、この格好のことだ。明らかに浮いている。三角帽子を被っている人などいないし、なんというか……みんなハイカラな格好をしているのだ。さっきから通り過ぎる人はこっちを胡乱げに見てるし、少し恥ずかしいぞ。

 

羞恥心から解放されるためにも、早く『魔法界』とやらに入らねばなるまい。魅魔様が言う分には、そこならそう間違った格好ではないはずなのだ。

 

それに、お金もあんまりないし。早いとこ魅魔様の知り合いとやらに連絡を取って、必要な資金を融通してもらわねばならんのだ。この……ホグワーツ魔法魔術学校? とやらに入るのだってタダではないはずなのだから。

 

車がびゅんびゅんと走る……車道? とやらを慎重に通る。信号機は青なのだ。進んでいいはず……だよな?

 

忙しそうに歩く人々は、どうも赤の時も渡っているように見える。……何か知らないルールがあるのかもしれん。やっぱり付け焼き刃の知識じゃ限界があるな。

 

困惑しながら慎重に渡り切り、美味しそうな氷菓子の誘惑に耐えて前へと進む。ダメだぞ、魔理沙。お金は貴重なんだから。

 

外の世界に来るに当たって、魅魔様は二つの選択肢を提示してくれた。アメリカとイギリスである。

 

ホグワーツとイルヴァーモーニー。魅魔様が住んでいたのはアメリカだが、魔法の本場はイギリスらしい。イギリスには頼れる知り合いもいるということで、どうせなら本場を選択したわけだが……うん、正解だったな。

 

なんたって、魅魔様によればイギリスよりアメリカのほうが『ごちゃごちゃ』しているらしいのだ。これ以上ごちゃごちゃしているなど、私の頭がパンクしかねん。

 

ため息を吐きながら地図に従って角を曲がる。すると屋台が並んだ通りが……おいおい、ここはさっき通ったぞ。

 

ああもう! なんでこんなにややこしいんだ! パニックを必死に鎮めながら、もう一度地図を確認する。……ダメだ、どこで間違えたのかさっぱりだ。魅魔様のことを悪く言いたくないが、あの方は地図を書く才能がなかったらしい。

 

また不安が忍び寄ってきたのを自覚しつつ、とにかくもう一度進もうと歩き始めると……ローブだ。明らかに周囲から浮いている、ローブを着た中年の男が立っている。

 

どきりと跳ねた心を抑えつつ、そろそろとそちらに近寄っていく。魔法界とやらの住人だろうか? それともセンスの特殊な普通の人?

 

屋台の店主らしき小男に話しているローブの中年へと近付くと、微かに会話が聞こえてきた。

 

「──ことなんだよ、マンダンガス。つまり、マグルにこれを売るのは違法なんだ。急いで店を畳んでくれないか?」

 

「そいつは横暴ってモンだぞ、アーサー。俺ぁちゃんと許可を取ってる! マグルにも、魔法省にもだ!」

 

魔法省。知ってるぞ、その言葉! イギリス魔法界の政治機関のはずだ。ちゃんと勉強してきて良かった。

 

やっと見つけた手がかりを逃すまいと、更に近付いて耳を澄ます。

 

「それは古い許可証だし、おまけに売ってる物も違うじゃないか。いいから店を畳むんだ、マンダンガス。しょっ引いてやってもいいんだぞ。」

 

「横暴だぜ、クソったれの役人め! いつか後悔するぞ!」

 

「もう後悔してるよ。前回の時に逮捕しておくべきだったってね。……早く消えないと執行部に連絡するぞ? スクリムジョールが飛んでくる前に消えた方が身のためだと思うよ、私は。」

 

「クソったれめ!」

 

捨て台詞を残して、小男は……消えた。なんだあれ? 消えたぞ。いやまあ、幻想郷じゃ珍しくもない光景だが、この世界の魔法を見るのは初めてだ。

 

呆然と私が見つめる先では、中年の男がため息を吐きながら……ワンドか? それらしき棒を振って並んでいた商品を消し去っていく。あれも魔法だ。もはや間違いあるまい。あの男は魔法界の住人なのだ。

 

どうする? 声をかけるか? 少しだけ迷うが……うん、かけよう。このまま迷路のような街を彷徨っているよりかはいい結果になるはずだ。

 

ゆっくりと近付いてから、なるべく笑顔を意識して声をかけた。

 

「あー……ちょっといいか? 聞きたいことがあるんだが。」

 

「ん? 君は?」

 

「ああ、私は……うん、あんたのご同輩だよ。この、漏れ鍋? ってとこに行きたいんだが、場所がわかんなくてな。迷っちまったんだ。」

 

「漏れ鍋に? ああ、確かにマグルの街は難しいからね。私も迷いっぱなしだよ。それじゃあ、ダイアゴン横丁に用事があるのかい?」

 

ダイア……何だって? マズいな。適当に話を合わせようかと思ったが、私には知らないことが多すぎる。

 

脳内で適当な設定を組み立てて、それを男へと放った。

 

「えーっと、私は海外から来たんだよ。ホグワーツに入学しに。それで知り合いを頼ろうと思って、その……暖炉がどうこうみたいなことを言われててさ。漏れ鍋って場所に行けばどうにかなるって言われてるんだが……。」

 

「留学生かい? それはまた、大変だったね。私に任せなさい。私は魔法省の役人、アーサー・ウィーズリーだ。漏れ鍋まで案内するよ。」

 

「そいつは助かるぜ。私は魔理沙。霧雨魔理沙だ。あー……こっちだと、マリサ・キリサメだな。」

 

英語の勉強はしてきているが、未だに慣れるにはほど遠い。そりゃまあ、日本語よりかは簡単だが……どうもな。こういう部分でやっぱり違和感は残るのだ。

 

「えー、キリシャ、キリィシャメ? 難しい発音だね。キリ……何処で切るんだい?」

 

「いやまあ、マリサでいいぜ。」

 

「ああ、助かるよ。それじゃあ行こうか、マリサ。」

 

男……ウィーズリーの発音は『マリッサ』か『メリッサ』に近いが……まあいいさ。別に細かく気にする箇所でもないだろう。それに、苗字よりは遥かにマシだ。霧雨道具店は海外支店を出すのは無理だな。

 

先導し始めたウィーズリーに続いて歩き出す。まあ、これでおかしな服装が二人に増えたわけだ。一人の時よりかは少し楽になった。

 

歩きながらも、ウィーズリーは自分の家族の話をしてくれる。実に大家族な上に、ホグワーツにも五人通っているらしい。困ったら頼りなさいと言うあたり、結構いいやつそうだ。

 

イギリス魔法界についての私の質問がひと段落したところで、今度はウィーズリーが質問を飛ばしてきた。

 

「そういえば、知り合いというのは誰なんだい? もし良ければ、私が連絡を入れてみようか? こう見えても知り合いは多いんだ。」

 

こっちに気を遣っての提案だとは分かっているが、残念ながら連絡を取れるとは思えない。なんたって魅魔様の知り合いというのは吸血鬼なのだ。

 

魅魔様が言うには、『強力』な吸血鬼に貸しがあるから、その娘を頼れとのことだった。こっちの世界で『強力』ってことは……くわばらくわばら。幻想郷に来ないことを祈るばかりだ。

 

「ここに書いてあるぜ。まあ、知らんと思うけどな。」

 

なんの期待もなく、話を終わらせるために魅魔様に貰った紙を見せるが……おい? ウィーズリーは得心いったというように頷いている。どういうことだ?

 

「ああ、彼女か。よく知ってるよ。息子の友人なんだ。」

 

「ゆ、友人? いやいや、人違いだぜ。人違いっていうか……うん、同姓同名だ。間違いない。」

 

「そうかい? 黒髪の吸血鬼の子じゃなくて? こんな名前、そういないと思うんだがなぁ……。」

 

うっそだろ? 黒髪の吸血鬼。それは……魅魔様が言っていた通りの外見じゃないか。吸血鬼が息子の友人? っていうか、吸血鬼ってそんな身近な存在なのか?

 

思わず手にした紙を落としながら、霧雨魔理沙は呆然と大口を開けるのだった。

 

──アンネリーゼ・バートリと書かれたその紙を。

 

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