Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ブギーマン

 

 

「今日は縮み薬の調合を行ってもらう。諸君らが休みの間に秤やナイフの使い方を忘れていないことを祈ろうではないか。何故なら吾輩は諸君らに課題を与えるのを躊躇するつもりなど……ああ、ドラコ。話は聞いている。構わないから座りたまえ。」

 

これを聞いてるとホグワーツの一年が始まったという実感が湧くな。毎年恒例のスネイプによる『初回演説』を完璧に聞き流していたアンネリーゼ・バートリは、途中で地下教室に入ってきたマルフォイをバカバカしい気分で眺めていた。

 

「すみません、スネイプ先生。傷が深かったものですから……。処置に時間がかかってしまったんです。」

 

胡散臭い表情で胡散臭い台詞を吐くマルフォイの左腕には、トイレットロール並みに包帯がぐるぐる巻きになっている。腕がグチャグチャになったってあんなに巻く必要はないだろうに。ちょっとした鈍器みたいだぞ。

 

あれこそが昼食時のハリーたちを落ち込ませていた原因だ。つまり、ハグリッドが午前中の初授業で『やっちゃった』証拠である。そら見ろ、私の予想通りじゃないか。

 

ロンは『無害で小さな鳥がマルフォイを軽く引っ掻いた』と主張していたが、ハーマイオニーによれば『ちょっと気難しいヒッポグリフがマルフォイの腕をそこそこ深く切り裂いた』とのことだった。まあ……どちらを信じるかは言うまでも無かろう。ハグリッドが小鳥なんぞを授業で扱うはずがないのだ。

 

そんな悲劇の主人公マルフォイはさも苦しそうな表情を浮かべつつ、他の生徒を押し退けてハリーとロンの隣に座り込む。私とは彼らを挟んだ逆側だ。

 

「絶対に余計なことをしてくるわよ。」

 

ハーマイオニーのボソリと呟いた言葉に、苦笑しながら深く頷く。マルフォイがこの状態を利用しないはずがあるまい。ハリーとロンにもそれは理解できているようで、苦々しい顔で出来るだけマルフォイと距離を取っている。

 

「それでは、いつも通りだ。材料、手順、注意点は全て黒板に書かれている。『全て』書かれているのだ、まさか失敗する者はいまいな? ……開始!」

 

はっきりとロングボトムを見ながら脅しつけたスネイプは、底冷えするような声で調合の開始を宣言した。

 

いつものように私が器材を、ハーマイオニーが材料を取りに行き、これまたいつものようにハーマイオニーの指示通りに調合を進めていると……おっと、マルフォイが早くも仕掛けてきたぞ。

 

「せんせーい。この腕じゃ雛菊の根を上手く刻めません。」

 

「ウィーズリー、手伝ってあげたまえ。」

 

おやおや、以心伝心だな。素早く意図を汲み取ったスネイプは、ロンにマルフォイの根を刻むように言い放つ。それを聞いたマルフォイは、我が意を得たりとばかりにロンへと根を押しつけた。一足早いクリスマスプレゼントを貰ったかのような表情だ。

 

「ほら、僕の根を刻め、ウィーズリー。なんならバイト代を出してもいいぞ? 君の親も大喜びだろうさ。」

 

「黙れよ、大げさマシュマロ野郎め。ポンフリーがあの程度の傷を治せないわけないだろ。」

 

言いながらロンが憎々しげに根を滅多切りにすると、再びマルフォイが手を挙げてスネイプへと口を開いた。そら、二度目の攻撃がくるぞ。

 

「せんせーい。ウィーズリーが僕の根をめちゃくちゃにしちゃいました。」

 

「ウィーズリー、マルフォイの根と自分の根を交換したまえ。それと、グリフィンドールから三点減点。」

 

なんというコンビプレイか。減点されたロンは十分もかけて綺麗に刻んだ根をマルフォイに渡しながら、ぷるぷる震えて顔を真っ赤にしている。ここで文句を言おうものならもっと酷いことになるのは、さすがの彼も分かっているらしい。

 

しかし……私を無視して遊ぶのはいただけないな。退屈な調合なんかよりあっちの方が断然楽しそうじゃないか。ウズウズしながら介入の機会を待っていると、マルフォイが再び『せんせーい』を始めた。

 

「せんせーい。無花果の皮が上手く剥けません。」

 

「ポッター、マルフォイを手伝ってあげなさい。」

 

今だ。身を乗り出して楽しそうな『寸劇』に交ぜてもらおうとするが……む、ハーマイオニーが私のローブを掴んで止めている。

 

「どうして邪魔をするんだい? ハーマイオニー。ハリーとロンのピンチじゃないか。」

 

「ダメよ、リーゼ。貴女が関われば余計に厄介なことになるのが目に見えてるじゃない。貴女は私と調合するの。ほら、カタツムリの殻を量って頂戴。」

 

「……分かったよ、ハーミーママ。」

 

残念。ママに止められてしまった。諦めて中身無しのカタツムリを厳選しながら、澄ました顔で調合を進めるハーマイオニーにジト目を送っていると……隣からハリーとマルフォイの会話が聞こえてきた。

 

「ポッター、君はブラックを捕まえようとは思わないのか?」

 

「思わないよ。」

 

萎び無花果の皮を剥きながらどうでも良さそうに言うハリーに、マルフォイはニヤニヤ笑いながら言い募る。

 

「おや、まさか君……知らないのか? 僕なら学校でジッとしてたりはしないだろうなぁ。なんたってブラックは──」

 

「マルフォイ。」

 

まあ、これはさすがに看過できん。チラリと目線を送りながら割り込んで、冷たい目つきで言葉を続ける。我が身に災難が降りかかるとなれば話は別なのだ。

 

「余計なお喋りはせずに調合したらどうだい? それともまた、鼻から食事を取る生活に戻りたいのかな?」

 

顔を真っ青にしたマルフォイは、途端に押し黙ってハリーから離れた。大変結構。『口を閉じていた』一件は彼にとってトラウマになっているようだ。

 

「リーゼ?」

 

「はいはい、分かってるよ。」

 

端的に注意してきたハーマイオニーに肩を竦めて、再びカタツムリの選別に戻りながらも考える。この分だとハリーはそう遠くないうちにブラックが何をやったかを知る羽目になるだろう。……先に誰かから伝えさせたほうがいいかもしれないな。ダンブルドアか、ルーピンか、それともフランか。

 

ふむ、ちょうど次の授業は防衛術の初授業だ。ルーピンに話をしてみるか。立ち位置的には一番ちょうどいい場所にいるわけだし。

 

ひょっこり殻から顔を出したカタツムリと目を合わせながら、面倒な選別作業に戻るのだった。

 

───

 

魔法薬学の授業が終わり、怒れるロンのマルフォイに対する罵詈雑言を聞き流しながら防衛術の教室に向かうと、生徒たちが集まり切ったあたりでルーピンが教室に入ってきた。ヨレヨレのローブがなんとも頼りない。彼はアイロンの存在を知らないようだ。

 

教卓の前に立って生徒を見渡した草臥れ男は、いつもの柔和な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「やあ、揃ってるみたいだね。それじゃあ……早速だが、杖だけ持ってついてきてくれるかな。前年度の先生が優秀だったお陰で、君たちの呪文に関する勉強はかなり進んでいるんだ。だから、今年は魔法生物への対処を中心にやっていこうと思っている。」

 

言いながら教室を出て行ったルーピンの背に、グリフィンドール生たちがお喋りしつつも続いて行く。魔法生物。つまり、飼育学と違って飼育に向かないような魔法生物を扱うわけだ。例えばそう……ヒッポグリフとかを。

 

道中で適当にピーブズをあしらうことで生徒たちから若干見直されたルーピンは、やがて古ぼけた空き部屋へと生徒たちをいざなった。

 

ガランとした部屋の中には……衣装ダンスか? 中央にポツンと置かれた木製の衣装ダンスが何故かガタガタと振動している。あのタンス自体が生物でないとすれば、中で何かが暴れ回っているようだ。

 

かなり引き気味の生徒たちが遠巻きに並んだのを見て、ルーピンが苦笑しながら説明を始めた。

 

「この中に入っているのは、ボガート。まね妖怪だ。誰かまね妖怪について知っている者はいるかな?」

 

迷わずハーマイオニーが手を挙げる。ルーピンに指名されると、彼女はハキハキとまね妖怪の説明を語り出した。

 

「形態模写妖怪です。見た者が一番怖いと思うものに姿を変えることができます。マグルの間では『ブギーマン』という別名が有名です。」

 

「うん。端的で見事な説明だね、ハーマイオニー。多くの妖怪は恐怖を糧にする。だからこそまね妖怪も私たちの恐怖を煽ろうとするんだ。しかし……この状況ではそうそう上手く化けられないだろう。何故だか分かるかな、ハリー?」

 

ハーマイオニーに頷いてから補足の説明を口にしたルーピンは、今度はハリーへと質問を放った。ハリーは隣でぴょんぴょんと手を挙げるハーマイオニーを見ながら、やりにくそうに返答を放つ。精神的な成長がどうあれ、彼女の『答えたがり』は治っていないらしい。

 

「えーっと……人数が多いから、何に変身したらいいか分からなくなる、とか?」

 

「お見事、その通り。複数人を前にすると、大抵のまね妖怪は混乱して奇妙な姿になってしまうんだ。お世辞にも怖いとは思えないような姿にね。そして本当に退散させたい時には、この呪文を使う。……みんな、杖を構えて。練習してみよう。」

 

言いながらルーピンは杖を構え、生徒たちがそれに倣ったのを見てからゆっくりと杖を振った。

 

リディクラス(ばかばかしい)! こうだ。いいかい? 大切なのは恐怖の反対……つまり、笑いだ。頭の中で笑えるような姿を想像してから、この呪文を唱えるのさ。最初は……ネビル。タンスの前に立ってくれるかい?」

 

文字通りに『馬鹿馬鹿しい』呪文を練習する生徒たちの中から、ルーピンはロングボトムを指名する。いい選択だ、ルーピン。馬鹿馬鹿しいロングボトムが馬鹿馬鹿しい呪文を放つ? さぞかし愉快な光景になることだろう。

 

かなり心配そうな表情でタンスの前へと進み出たロングボトムに、ルーピンは元気付けるように肩に手を置きながら話しかけた。

 

「ネビル、君が一番怖いと思うものはなにかな?」

 

「僕……その、スネイプ先生が怖いです。」

 

「スネイプ先生か。なるほど、よく分かるよ。確かに彼は……うん、ちょっと怖いね。」

 

うんうん頷きながら同意したルーピンは、ほんの少しだけ悪戯な表情で続きを話す。

 

「それじゃあ……そうだな。ネビル、君はお祖母様と暮らしているんだよね? 彼女がいつもどんな服装をしているか思い出せるかい?」

 

「できます。でも、あの……お婆ちゃんに変身するのも怖いです。」

 

「大丈夫。服装だけを強くイメージするんだ。上手くいけば、君のお祖母様と全く同じ服装のスネイプ先生が見られるはずだよ。」

 

ルーピンの言葉を受けて、途端に生徒たちは身を乗り出して集中し始めた。大人気じゃないか、スネイプ。ファッションショーでも開いたらどうだ?

 

私が脳内でスネイプ・コレクションを繰り広げている間にも、ルーピンとロングボトムは準備を終えたようだ。ロングボトムは未だ腰が引けているが、多少やる気になっている。

 

生徒たちが注目する中、ルーピンが杖を振ってタンスを開くと……中からのっそりとスネイプが歩み出てきた。ほう、これは面白いな。まね妖怪ごときが吸血鬼の縄張りに住み着くはずもなく、実際に目にしたのは初めてなのだ。

 

ロングボトムは本物そっくりのスネイプに多少怯んだ様子だったが、意を決したように杖を振り上げると、震える声で呪文を放つ。

 

「リ、リディクラス!」

 

パチンという音と共にスネイプが……おいおい、ロングボトムの祖母はこんな格好をしているのか? レースで縁取りされた赤いドレスに、ハゲタカ付きの赤い帽子。おまけに赤いハンドバッグだ。赤、赤、赤。レミリアと気が合いそうだな。

 

しかし、生徒たちは大爆笑だが、私としてはさっきより怖く見えるぞ。スネイプがこんな服装で歩いてきたらと思うと……おお、ゾッとする。

 

「そら、次々いこう! パーバティ、前へ!」

 

若干笑いを堪えている様子のルーピンの声で、今度はパチルが前に進み出た。するとまね妖怪は血塗れで包帯がぐるぐる巻きのミイラへと姿を変える。なんともまあ、ステレオタイプなイメージだ。ミイラが血を流すはずがないだろうに。返り血なのだろうか?

 

「リディクラス!」

 

私がどうでもいいことを考えている間にも、パチルが呪文を唱えてみれば……うーん、お粗末。ミイラは自分の包帯に絡まってすっ転んでしまった。

 

続いてトーマスが前に出ると、ドジなミイラは蠢く手首へと姿を変える。それをぼんやり眺めたところで、ふと冷静になった心が問いかけを放ってきた。私の恐怖とはなんだ?

 

次々とまね妖怪を相手取る生徒たちを他所に、湧き上がってくる好奇心を感じ始める。うーむ、自分で考えても全然思いつかないぞ。紅魔館の面々の死体とかか? ……いや、恐怖とはちょっと違う気がするな。

 

なんというかこう……ニュアンスが違うような気がする。恐怖というかは悲しみに近いし、そもそも死ぬのが想像できるのはアリスと咲夜くらいだ。その二人の死体とか? ……なんかピンとこないな。

 

とはいえ、他にそれらしい恐怖は思い浮かばない。他の吸血鬼なら太陽だろうが、能力で対処できる私には当てはまらないのだ。嫌いだの苦手だのだったら幾らでも思いつくんだが……。

 

ま、考えていても仕方があるまい。せっかく目の前にまね妖怪が居るのだから、ここは一つ試してみようじゃないか。思考から復帰してみれば、ちょうどロンが蜘蛛にローラースケートを履かせたところだった。上手く立てなくってシャカシャカしちゃってるようだ。

 

「よし、次は……バートリ?」

 

歩み出る私を見てルーピンはかなり焦った顔になるが、構わずまね妖怪の前へと進むと……うーん? 変身する途中のぐにゃぐにゃで動きを止めてしまったぞ。妖怪同士じゃ読み取れないのか?

 

「ほら、変身したまえよ。」

 

言葉を理解するかは知らんが、一応声をかけてみれば、真っ黒なもこもこ……ああ、雨雲か。まね妖怪は雨雲へと姿を変えた。そりゃまあ、怖いっちゃ怖いが……さすがに『恐怖』とは言えないはずだぞ。鬱陶しいっていう感覚の方が近い。

 

「……リディクラス。」

 

興が削がれたような気分で適当に杖を振ると、雨雲はわたあめへと姿を変える。そのまま私と交代でハリーが進み出ようとしたところで、ルーピンが割り込んで声を放った。

 

「おっと、こっちだ! ……リディクラス。そろそろ終わりにしよう。ネビル、前へ!」

 

ルーピンは銀色のボール……なるほど、月か。月に姿を変えたまね妖怪をゴキブリに変えた後、再びロングボトムを呼んで……いやいや、ちょっと待て。そっちのが怖いじゃないか。女子生徒たちが悲鳴を上げてるぞ。

 

ゴキブリ好きのルーピンは女子の悲鳴にキョトンとしながらも、前に進み出たロングボトムへと言葉を放つ。

 

「もうかなり弱ってるぞ、ネビル。やっつけるんだ!」

 

言葉を受けたロングボトムはちょっとだけキリっとした表情になりながら、再び現れたスネイプへと杖を振った。

 

「リディクラス!」

 

まね妖怪は一瞬だけドレス姿のスネイプになるが、生徒たちの笑い声を受けると徐々に形を保てなくなっていき……おや、最後には派手に破裂して消えてしまった。ちょびっとだけ可哀想だな。そんなに凶悪な妖怪じゃなさそうなんだが……。

 

「よくやった! まね妖怪と対決した生徒一人につき三点を上げよう。勿論ネビルは六点だ。二回戦ってくれたからね。」

 

なんともまあ、大盤振る舞いじゃないか。和かな笑みでルーピンが言うと、生徒たちから歓声が沸き起こる。彼は少なくともここにいる生徒たちの心は掴んだようだ。……ふん、アリスは加点無しでも掴んでたぞ。

 

「それと、ハーマイオニーとハリーにも三点ずつだ。質問に答えてくれたからね。」

 

付け足すように言ったルーピンの言葉に、ハーマイオニーは嬉しそうにしているが……ハリーは微妙な表情だな。割り込まれたのがお気に召さなかったらしい。

 

恐らくルーピンはリドルにでも変身すると思ったのだろう。別にそれならそれで良いじゃないか。全員でサンドバッグにでもすれば、いいストレス解消になるだろうに。

 

私が宙吊りのリドルに右ストレートを叩き込む想像をしている間にも、ルーピンが興奮する生徒たちに向かって言葉を放った。

 

「さて、それでは余った時間でまね妖怪についての詳しい説明をしよう。ちょっとしたレポートを宿題に出すから、聞き逃さないように注意してくれ。」

 

ルーピンの言葉を受けて、慌てて生徒たちが彼に注目する。私はまあ……適当に聞き流すことにしよう。前年度に続き、今年も『事情』を知っている者が教師なのだ。宿題なんぞを真面目に出すつもりなどないのだから。

 

───

 

「それじゃあ、今日はここまでにしようか。次回の授業までに、まね妖怪についての羊皮紙半巻きくらいのレポートを書いてきてくれ。」

 

授業が終わると生徒たちはまね妖怪のことを話しながら空き教室を出て行く。ハリーたちに一言かけてからそこに残り、生徒たちが全員出て行ったのを確認してからルーピンに向かって声を放った。

 

「まあまあの授業だったよ、『ヨレヨレ』君。」

 

杖を振って隅に退けられていた机を戻していたルーピンは、それに腰を下ろしながら返事を返してきた。顔にはくたびれたような苦笑が浮かんでいる。

 

「いやはや、懐かしい呼び方ですね。フランドールは元気ですか?」

 

「それはまた、答えに迷う問いかけだね。……元気だが、元気じゃないよ。」

 

私にとっての『元気なフラン』というのは、かつての天真爛漫な笑みを浮かべていた頃のフランだ。ルーピンにも言わんとすることは分かったようで、少し寂しげな微笑に変わって口を開いた。

 

「ああ、何となく分かりました。随分と大人びた手紙を書くようになったとは思ってましたが……変わったんですね。フランドールも、私も。」

 

「そして、ブラックもね。」

 

私からブラックの名前が出ると、途端にルーピンの顔が強張る。憎しみ……ではないな。悲しみと困惑が混ぜこぜになったような表情だ。後悔というのが最も近いか?

 

そのまま押し黙ってしまったルーピンに、フランが言っていたことを話してみる。彼もまたブラックと親しかった友人なのだ。もしかしたら考えを一致させるかもしれない。

 

「……フランはブラックがジェームズ・ポッターを裏切ったとは思っていないらしいよ。キミはどう思う? 馬鹿げた考えだと思うかい?」

 

「フランドールはそんなことを? ……私には、分かりません。信じたいとは思っています。何度もそのことを考えました。」

 

頭を押さえて俯きながら、ルーピンは絞り出すように続きを話す。

 

「しかし、何度考えても守人はシリウスなんです。ジェームズやリリーが選ぶとすれば、私、フランドール、ピーター、コゼット、アレックス、そしてシリウスの中の誰かでしょう。その内コゼットとアレックス、それにピーターは有り得ない。裏切ったとすれば、死ぬ必要などなかったはずだ。」

 

その通りだ。咲夜の両親は言わずもがなだし、ペティグリューにしたって裏切ったのならブラックに復讐しようとするはずがない。皮肉にも、失敗して死んだことが説得力を増している。

 

私が考えている間にも、ルーピンの話は続く。

 

「そして私とフランドールを除けば、残るのはシリウスだけ。……そもそも、自分じゃないならそう証言するはずでしょう? あの頃の私は信頼されていなかったかもしれないが、フランドールには伝えられたはずだ。だから私は……分からないんです。あいつが何を考えているのかが。何を考えていたのかが。」

 

大きなため息と共に言い切ったルーピンに、私もため息を零しながら話しかける。疑ってはいるようだが、フランほど強い確信ではないらしい。……難しいな。やはり部外者が軽々に判断できるような話じゃなさそうだ。

 

「何にせよ、ハリーにはブラックが何をしたかを話す必要があるぞ。このままだと変に歪んだ状態で伝わる可能性もあるんだ。その前にキミから話してやったほうがいいんじゃないか?」

 

「私が? それは……そうですね。きっと私がやるべきことなんでしょう。分かりました。機会をみて必ず話しておきます。」

 

まあ、これでマルフォイから伝わるよりかはマシになったはずだ。しっかりと目を見て言うルーピンに頷いてから、立ち上がって歩き出す。ドアへと手をかけたところで、振り返って口を開いた。

 

「そうそう、もしもブラックが接触してきたら、魔法省やダンブルドアより前に私に伝えてくれたまえ。フランが話を聞くことを望んでいるんだ。私としては、彼女の望みを叶えてあげたいのさ。」

 

「……ええ、分かりました。フランドールの望みを叶えてやりたいのは私も同じです。誰もが彼女を甘やかしたくなるのだけは、どうやら昔から変わっていないようですね。」

 

「んふふ、全くだね。」

 

思わず浮かんだ笑みのままで言って、ドアを抜けて廊下を歩き始める。フランの『おねだり』の威力はルーピンにも通じるようだ。今なおあの子は友人たちに愛されているらしい。

 

人たらしの小さな吸血鬼を想って苦笑しつつ、アンネリーゼ・バートリは見慣れた廊下を歩くのだった。

 

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