Game of Vampire   作:のみみず@白月

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恒例行事

 

 

「誕生日おめでとうな、咲夜。」

 

ハロウィンの朝。ベッドから起き上がった咲夜に対して、霧雨魔理沙はプレゼントを差し出していた。……実はちょっとドキドキしている。何せ誕生日プレゼントを渡すのなんて初めてなのだ。

 

つまり、幻想郷には誕生日などという文化はなかったのである。普通にみんな数えで通してたし、そんなハイカラなことをやっている奴は見たことがない。私が知る中で一番近いのは七五三だが……まあ、全然違うってのは何となく分かる。

 

寝起きの咲夜は私が差し出した小さな包みを見つめてキョトンとしていたが、やがて事態を飲み込んだようで、頰を赤らめながらボソボソとお礼を言ってきた。

 

「ん……その、ありがと、魔理沙。開けて見てもいい?」

 

「おう。こういうのに慣れてないもんで、正しい贈り物かは分からんが……気に入ってくれれば嬉しいぜ。」

 

コクリと頷いた咲夜は、慎重な手つきで小さな包みを開けていく。中に入っていたプレゼントを取り出すと、それを見ながらポツリと呟いた。

 

「緑の……リボン? 二つあるわね。」

 

「ああ。幻想郷……故郷から持ってきた生地で作ったんだ。私の師匠が作ってくれた生地だから、かなり頑丈なはずだぜ。何を贈ったらいいかがよく分かんなくてな。それでまあ……なんだ、お前に似合うかと思って作ってみたんだよ。」

 

素材となった布は魅魔様が持たせてくれた物の一つだ。『やり方』を知らなければ傷つけることは出来ないし、燃えもしないという頑丈な代物である。……とはいえ何に使えばいいかさっぱりだったので、今回のプレゼントに利用させてもらったのだ。まさかこの事態を予測したわけじゃないだろうし、何を考えて私に持たせたんだろうか?

 

しかし、今更ながらに後悔してきたぞ。リボンってのはちょっと……古くさかったかもしれない。緊張のせいで長々と説明している私を見て、咲夜はくすりと笑いながら口を開いた。

 

「……うん、気に入ったわ。どうやってつけるのか教えてよ。魔理沙みたいに、三つ編みの先っちょにつけてみるから。」

 

「ん、そうか! よしよし、任せとけ。」

 

よかった。気に入ってくれたようだ。思わず安堵の笑みを浮かべながら、咲夜の髪を弄り始める。先ずは両脇を三つ編みにして……こんなもんか? そこにリボンをつけてみれば、想像通りにしっくりくる感じになった。うんうん、やっぱり似合うな。

 

「似合ってる?」

 

「ばっちりだぜ。それとほら、プレゼントが山積みだぞ。」

 

ベッドの脇にあるプレゼントの山を指差してやると、咲夜は顔を輝かせて一つ一つを見始める。間違いなく時間がかかることだろう。なんたって文字通りの山を作ってるのだ。

 

「紅魔館のみんなからと、先輩たちから。それと……これは誰からかしら? 差出人が書いてないわ。」

 

大量のプレゼントを仕分けしていた咲夜は、そのうちの一つを手に取りながら首を傾げてしまった。私も横から覗き込んでみるが……飾り気のない赤い包装紙に包まれているのは、形から見るに本っぽい感じだ。

 

「本っぽいな。開けてみれば分かるんじゃないのか?」

 

「パチュリー様のはこっちだし……そうね。開けてみましょう。」

 

咲夜はまたしても丁寧な手つきでゆっくりと包装紙を剥がしていく。私ならビリビリに破いてるが、彼女のデフォルトはこれらしい。うーむ、育ちが出るな。気をつけよう。

 

やがて中から出てきたのは、やっぱり本……じゃないな。アルバムか? 赤みがかった革表紙の大きなアルバムのようだ。見たことのない革だが、なんとなく高級そうな雰囲気がある。

 

「アルバム、だよな?」

 

「そうね。……開くわよ?」

 

何故か確認してきた咲夜に頷いてやれば、彼女はゆっくりとアルバムを開く。すると中には……咲夜? 咲夜の写真が並んでいた。

 

「ありゃ? 咲夜だよな、これ。」

 

「違うわ。これって……お母さんの写真よ。」

 

お母さん? ……本当だ。確かに咲夜よりずっと大人びた感じの写真もあるし、よく見れば目の色だけが違っている。咲夜はブルーだが、写真の女性はヘーゼルの瞳だ。目つきも何だか柔らかい。咲夜よりちょっと優しそうな雰囲気だな。

 

押し黙って写真を見る咲夜がページを捲っていくと、他にも蜂蜜色のふわふわした髪が特徴的なおばちゃんや、青い目の真面目そうな男性などが多く映っている。ちらほらとアリスが映っている写真もあるようだ。いやはや、こっちは全然変わらんな。

 

「この写真でお母さんと一緒に映ってるのがお父さん。こっちでアリスに引っ付いてるのがお婆ちゃん。……みんな、笑ってるわね。」

 

動く写真を指差しながらポツリポツリと声を放つ咲夜は、少しだけ悲しげな表情を浮かべている。

 

咲夜の両親が他界しているのはリーゼとの会話でなんとなく察していた。察してはいたのだが……今の彼女を見ていると、改めてそのことを実感する気分だ。

 

私も幼い時に母親を亡くしているが、少なくとも親父は生きてる。……まあ、魅魔様に弟子入りしたせいで勘当されてしまったが。家を飛び出して以来、一切会っていないのをなんだか考えさせられる気分だ。

 

邪魔をしないように見ていると、どうやらアルバムの後半はホグワーツで撮ったものが大部分を占めているらしい。咲夜の祖母らしき人物と、見慣れた教師たちが映っているのが見えてきた。

 

まだ髪をお団子にしていない若かりしマクゴナガル。今より痩せたスプラウトや、ヒゲのないフリットウィック。ベロンベロンに酔っ払ってるシニストラに、ケーキを頬張るポンフリー。誰もが咲夜の祖母の隣で楽しそうに笑っている。

 

「咲夜のお婆ちゃんは教師だったのか?」

 

「うん。ずっと呪文学を教えてて、フリットウィック先生と交代してからは防衛術を教えてたんだって。マクゴナガル先生なんかもお婆ちゃんの教え子なのよ? アリスが言ってたわ。」

 

なるほど。教師たちが咲夜に甘い理由はこれか。写真を見る限り随分と慕われていたようだし、その孫……そりゃあ甘くもなるわけだ。それが遺児なら尚更だろう。同じ立場なら私だって世話を焼くぞ。

 

咲夜がそのままペラペラと捲っていくと、最後のページには四枚の写真が収まっていた。その中央には……。

 

「ヴェイユ、か。」

 

私がポツリと書かれている文字を読むと、咲夜は目を細めて四枚の写真を眺め始める。右上には祖母と母親、それに……祖父だろうか? 柔らかい微笑を浮かべている優しげな男性が二人の背中に手を回している。『幸せ』というのを体現しているかのような写真だ。

 

左下には祖母と父親、母親の三人で映っている写真が。そして左上と右下にはそれぞれアリスと祖母の写真と、母親と……吸血鬼? 奇妙な翼を広げた金髪の少女が一緒に映っている。恐らく若い吸血鬼なのだろう。見た目相応の天真爛漫な表情は、リーゼのそれとは大違いだ。見てるだけで和むな。

 

「アリスと……妹様? こんなに楽しそうに笑ってる……。」

 

小さな吐息を漏らしながらアルバムを閉じた咲夜は、少し首を傾げながら疑問を放ってきた。

 

「凄く嬉しいけど、誰が贈ってくれたのかしら?」

 

「いろんな人から写真を集めたっぽいからな。教師の中の誰かじゃないか? 少なくともホグワーツ関係なのは確かだろうさ。」

 

「お礼を言いたいのに……差出人が書いてないんじゃどうしようもないわね。」

 

ちょっと残念そうに言う咲夜は、アルバムを大事そうに仕舞った後でプレゼントの仕分けに戻る。誰だかは知らないが、咲夜を大事に想っている人なのは確かだろう。でなきゃこんな贈り物は出来まい。

 

ほんの少しだけの羨ましさを感じながら、大量のプレゼントを困ったように見ている咲夜に言葉を放った。多すぎてどこから手を付けたらいいか迷っているようだ。

 

「ま、残りは後にしといたほうがいいな。時計を見てみろよ。早く行かないと朝食が無くなっちまうぜ。」

 

「へ? ……本当。寝坊しちゃったみたいね。」

 

「休みなんだから構いやしないけどな。朝食抜きはさすがにキツいと思うぞ?」

 

「そうね。先にご飯を済ませちゃいましょうか。」

 

言いながら着替え始めた咲夜を横目に、なんともなしに包装されたプレゼントの山を眺めていると……おお? 豪華な袋に紛れて一つだけみすぼらしいのがあるな。さっきは陰に隠れて見えなかったようだ。

 

「なぁ、咲夜。変なのがあるぞ。」

 

「んー? 変なの?」

 

「ほら、これ。」

 

小さなそれをひょいと摘んで持ち上げてみると、明らかに古新聞だと分かる包みにビニール紐で封がされている。紐には頑張って綺麗に結んだような形跡はあるが……ゴミじゃないのか? これ。

 

「えぇ……? 何よそれ。ちょっと怖いわね。」

 

「私は誕生日に詳しくないけど、これが間違ってるってのは分かるぞ。……開けてみていいか?」

 

「嫌がらせとかじゃないわよね? 別に恨みを買ってる覚えはないんだけど……一応気をつけて頂戴。」

 

ローブを着終わって近付いてきた咲夜の前で、慎重にビニール紐を外してみれば……ブローチだ。新聞紙に包まれていたのは、包装に見合わぬ美しいピンブローチだった。

 

シルバーの細やかな装飾に、小さな青い宝石がアクセントをつけている。ゴテゴテとした物ではなく、細やかなオシャレって感じの一品だ。うーむ、センスあるな。なんでそれを包装紙にも向けられなかったんだ?

 

「……綺麗ね。」

 

「おいおい……それ、本物のサファイアだぞ。めちゃくちゃ高いんじゃないか?」

 

窓から差し込む朝日にかざす咲夜に、引きつった笑みで言葉を放った。魅魔様のところで宝石を扱った経験があるからよく分かる。何せ黒ずんでない完璧な青なのだ。この大きさでもすごい値段になるぞ、これは。

 

私の言葉を受けて途端に扱いが慎重になった咲夜は、首を傾げながら私に問いかけてきた。

 

「物凄く高い物を新聞紙に包んで送ってきたってこと? ……誰かしら? 全然見当がつかないわ。アルバムの方がまだ分かり易いくらいよ。」

 

「一応、リーゼに見せておいた方がいいかもな。それで大丈夫なら貰っとけよ。ひと財産になるぜ。」

 

「うん……そうね。リーゼお嬢様に見てもらいましょう。」

 

同意すると、咲夜は怪訝そうな顔のままでドアへと歩き出す。しかしまあ、妙なプレゼントが沢山来るもんだ。誕生日ってのはこういうもんなのか? 変なイベントだぜ。

 

難しい外の世界の文化に悩みつつも、霧雨魔理沙は咲夜の背に続くのだった。

 

 

─────

 

 

「……つまり、僕のパパやママが死んだのはブラックのせいなんだよ。ブラックはパパの信頼を裏切ったんだ。命を預けた、その信頼を。」

 

沈んだ雰囲気で説明を終えたハリーを前に、アンネリーゼ・バートリはかぼちゃジュースを飲み干していた。話の暗さも相まって、恐ろしく不味く感じてしまう。

 

大広間ではハロウィンパーティーの真っ最中だ。他の生徒たちは馬鹿みたいに騒ぎつつ、夕食代わりにお菓子を食べまくっているわけだが……私たち四人だけはお通夜のような空気に包まれている。咲夜と魔理沙を避難させておいたのは正解だったな。

 

朝食は良かった。みんなで和やかに咲夜を祝ってたし、ハーマイオニーとロンもさすがに喧嘩することはなかったのだ。場を弁える程度の理性は残っていたらしい。

 

昼食も悪くなかった。ハリー、ロン、魔理沙はいつものようにクィディッチの話を楽しんでいたし、私と咲夜、ハーマイオニー、そしてレイブンクローのテーブルから出張してきたルーナは、咲夜のプレゼント談義に花を咲かせていたのだ。

 

唯一の引っ掛かりは咲夜に贈られてきた謎のプレゼントだが……まあ、気にするほどのものではなかろう。アルバムは恐らくダンブルドアだし、ピンブローチもヴェイユ家関係の誰かのはずだ。一応あらゆる呪文で安全は確認した。無論、かなり執拗に。

 

そして楽しい気分で迎えた夕食は……この有様である。夕食前にハリーを呼び出したルーピンは、どうやら私情を挟まずに事実だけを伝えることにしたらしい。そしてその結果、ハリーは大多数の魔法使いと同じ結論を導き出したわけだ。言わずもがな、ブラックがジェームズ・ポッターを裏切ったという結論をである。

 

四人を包む沈黙を破ったのは、かなり真面目な表情になっているハーマイオニーだった。

 

「ハリー、怒らないで聞いてね。もしもブラックを捕まえようとしてるなら──」

 

「大丈夫だよ、ハーマイオニー。そのことはルーピン先生にも注意された。絶対に無茶はするなって言いたいんだろう?」

 

「その通りよ。私、貴方がどんな気持ちでいるのかは分からないわ。私には想像も出来ないような話だもの。それでも……それだけは約束して頂戴。お願いよ、ハリー。」

 

心配そうに言うハーマイオニーに同意するように、ロンもまた真剣な表情で口を開く。もはや喧嘩などしている場合ではないと考えたようだ。

 

「ハーマイオニーの言う通りだ、ハリー。その話が本当なら、ブラックが君を狙う理由もハッキリしたじゃないか。クソったれのブラックは、やり損ねたことを完遂しようとしてるんだよ。チャンスを与えちゃ絶対ダメだぞ。」

 

「心配しなくても捕まえようとしたりはしないよ。僕だってそこまでバカじゃないさ。」

 

苦笑しながら答えたハリーは、水差しからミルクをコップに注ぎながらポツリと呟いた。

 

「ただ、聞いて欲しくて。ずっとヴォルデモートに殺されたってことしか知らなかったから、細かい事情なんて考えもしなかった。……一人じゃ整理しきれないんだ。こんなことを話せるのは三人だけなんだよ。」

 

怒りや憎しみよりかは、困惑しているといった感じだ。この様子なら少なくとも突っ込んではいかないだろう。内心でちょっと安心しつつ、コップを握りしめて俯くハリーに声をかける。

 

「何にせよ、ブラックはそう長く逃げられはしないさ。魔法省が総出で動いているようだし、忌々しい吸魂鬼どももウロウロしてるんだ。近いうちにアズカバンに逆戻りだよ。」

 

無論、それはそれで困るわけだが。いやまあ、アズカバンに戻る分にはまだいいか。最悪なのは吸魂鬼のキスを受けてしまう場合だ。そうなればフランは悲しむだろうし、フランが悲しめば連鎖的に紅魔館の雰囲気も悪くなる。もう前回の戦争後のような雰囲気は御免だ。

 

そしてそれを防ぐためには、ハリーを守りながら魔法省と吸魂鬼どもを出し抜いて、逃亡中のブラックと接触する必要があるわけだ。……死ぬほど面倒じゃないか。

 

フランには悪いが、ブラックが本当にハリーを殺そうとしている可能性だって残っているのだ。守りを疎かにするわけにもいくまい。

 

内心で今後の苦労を思ってうんざりしている私を他所に、ハリーは神妙な表情のままで同意の返事を口にした。

 

「そうだね。……うん、この話はやめにしよう。ここで考えてても仕方がないことだし、折角のハロウィンパーティーなんだから。」

 

かなり無理をしているのが伝わってくるが、ハーマイオニーとロンも乗っかって明るい声を出し始める。……まあ、一つだけ良いことがあったな。二人が喧嘩を棚上げにしたことだ。

 

「そうね。……ほら、かぼちゃケーキがあるわよ。ロン、好きでしょう?」

 

「ああ、大好きさ! それに、えーっと……パイもあるしね! 無くなる前に確保しようぜ。」

 

ややぎこちない感じだが、若干明るい空気が戻ってきた。ま、私としてもこっちの空気の方が過ごしやすいのだ。ここは流されておくべきだろう。

 

「それじゃ、咲夜と魔理沙も呼び戻そうか。小難しい話は終わりだ。後はみんなでパーティーを楽しもう。」

 

「そうね。サクヤ、マリサ! もう話は終わったわよ!」

 

ハーマイオニーの呼びかけで大事な話があると言って席を外してもらっていた二人が戻ってくるのを見ながら、私もかぼちゃプリンへと手を伸ばした。先ずは満腹になるべきなのだ。美鈴によれば、それこそが幸せの秘訣なのだから。

 

───

 

そしてハロウィンパーティーは終わり、生徒たちは寮へと戻る時間となった。六人で話しながら引率する監督生に従って歩いていると、グリフィンドール談話室の入り口に人集りが出来ているのが見えてくる。おや、寝る前にもひと悶着あるのか?

 

「閉め出されたロングボトムが変死してたかな?」

 

「何バカなこと言ってるのよ。ネビルはパーティーに参加してたでしょうに。ケーキを喉に詰まらせて死にかけてたでしょ?」

 

「どっちにしろ死にそうになってるじゃないか。」

 

ハーマイオニーとアホな会話をしていると、後ろの方から騒ぎを聞きつけたマクゴナガルが歩いて来た。いかにも面倒ですという表情をしている彼女は、そのまま生徒たちの海を掻き分けて談話室の方へと進んで行く。

 

「いいぞ。現代のモーセについて行こうじゃないか。」

 

「もーせ? 人か? 武器か?」

 

「人だよ。エジプトに凄い呪いをかけた聖人。」

 

「呪いをかけたのに聖人? わけわからんぜ。」

 

幻想郷じゃ聖書は出版されてないのか? 魔理沙の素っ頓狂な言葉に、ハリーが微妙にズレた説明をするのを聞きながら進んで行くと……おや、これはまた、さすがはハロウィンだな。ただで終わらせてはくれないようだ。

 

ズタズタに引き裂かれた絵画と、ニヤニヤ笑いながら浮いているピーブズ。つまり、何者かが太ったレディの肖像画を滅茶苦茶にしたらしい。

 

「錆びたナイフでやりましたね、あれは。切れ味が悪すぎます。きっと素人の犯行ですよ。」

 

「咲夜、キミはどの視点から話してるんだい?」

 

咲夜が謎の推理を放っている間にも、マクゴナガルは事情を知ってそうなポルターガイストへと声をかけた。……というかまあ、詰問を放った。

 

「これは……ピーブズ! 一体何があったのですか? まさか貴方がやったのではないでしょうね?」

 

「おっと、残念でした! 大ハズレ! 誰がやったか教えて欲しい? 教えてあげようか?」

 

「何か知っているのならさっさと言いなさい。レディは無事なんでしょうね?」

 

おちょくるようにふよふよ浮いていたピーブズは、急に声を潜めてニタニタ笑いながら語り始める。やることなすこと鬱陶しいな、こいつは。双子の悪戯を見習ったらどうだ。あいつらはきちんと笑いを生んでるぞ。

 

「五階の風景画の方に走ってったよ。……ドレスがボロボロになってたけどね! あいつは癇癪持ちだなぁ。合言葉なしじゃレディが通さないもんで、酷く怒ってたのさ。」

 

「あいつ?」

 

マクゴナガルの問いに満面の笑みを浮かべたピーブズは、廊下に響き渡る大声でその名前を叫んだ。

 

「シリウス・ブラックが現れたぞ! 太ったレディを切り裂いた!」

 

……よし、決まりだ。来年のハロウィンは闇祓いを常駐させよう。ここ三年に起こったことを思うに、それが正しい選択というものだろう。トロール、バジリスク、殺人鬼。もう恒例行事じゃないか。

 

生徒たちが悲鳴を上げる中、アンネリーゼ・バートリはうんざりしたように首を振るのだった。

 


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