Game of Vampire   作:のみみず@白月

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最後の秘宝

 

 

「これが分霊箱か。……なんか、思ってたよりも普通だね。」

 

紅魔館のリビングで紅茶を飲みながら、アンネリーゼ・バートリはテーブルに乗っている指輪を見つめていた。見た限りでは普通の悪趣味な指輪だな。

 

クリスマス休暇に入り、紅魔館に戻ってきた私は破壊前の分霊箱を見物しているのだ。双頭の蛇がモチーフにされた金色のアームに、中石には緑色の……宝石か? 見たことがない深緑の石が嵌っている。私ならこんな悪趣味な指輪は死んでもつけんぞ。

 

対面に座るレミリアは既に思う存分観察済みらしく、もう全く興味がないようだ。そして右の小さなソファに座るパチュリーもそれは同様なのだろう。でなきゃ私が見物する余裕などあるまい。この魔女が研究対象を手放すはずがないのだから。

 

ちなみに咲夜は美鈴や小悪魔、エマやアリスと一緒に庭で雪遊びをしている。窓から見る限りでは巨大な雪像でチェスを楽しんでいるようだ。アリスがマクゴナガルあたりにコツを教わったのかもしれない。美鈴が素手で雪像を吹っ飛ばしてるあたり、本当にチェスなのかは不明だが。

 

私の言葉を受けて、ソファの手すりに頬杖をついているパチュリーが口を開く。うーむ、やる気の欠片も感じられないような表情だな。研究がひと段落ついて、燃え尽き症候群に陥ってるらしい。

 

「アリスと二人で調べたんだけど、これは二番目に製作された分霊箱よ。つまり、日記帳の次に当たるわけ。保有する魂の総量を見る限り間違いないわ。……まあ、そういう意味ではハズレね。もっと後期に作られたものならもう少しヒントも得られたんだけど。」

 

「だが、これはゴーントの家にあったんだろう? 少なくともリドルが自分に関係する場所に隠したってのは証明できたじゃないか。」

 

仮説を補強できただけでも幸運だろう。これで安心して捜索を続けられる。レミリアも同感のようで、頷きながら情報を整理し始めた。

 

「サボりコンビが調べた孤児院跡地、リドルの館、父親の墓、ゴーントの家。そしてアリスが調べたボージン・アンド・バークス。とりあえずこれで五箇所は潰せたわ。ダンブルドアから提示された場所はまだ残ってるし、年が明けたら美鈴と小悪魔を向かわせてみましょう。」

 

「五箇所巡って一つか。……ふむ、悪くはないね。このペースなら夏休み前にもう一個くらい見つかるんじゃないか?」

 

「そう願いたいわね。……っていうか、ホグワーツはどうなのよ? 秘密の部屋に無かったとしても、あの城なら他にも隠す場所は腐るほどあるでしょう?」

 

「勿論うんざりするほど隠し部屋やら隠し通路やらがあるだろうがね、あそこはダンブルドアのお膝元だよ? ビビリのリドル君が隠すと思うかい?」

 

リドルがダンブルドアを恐れているのは周知の事実なのだ。そりゃあホグワーツはリドルにとっても思い入れのある場所だろうが、そんな場所に自身の急所を隠すだろうか?

 

私の疑問を受けて、レミリアはちょっと困ったように肩を竦める。チビコウモリ的にも半信半疑の提案だったようだ。

 

「一応よ。灯台下暗しって言うでしょ? ダンブルドアは結構抜けてるところがあるし、見落としがあっても不思議じゃないわ。夜のお散歩のついでに調べてみなさいよ。」

 

「仮にあったとしても、あの城でダンブルドアが見つけられないものを私に見つけられるとは思えないけどね。……ま、調べてはみるさ。」

 

これで日常業務が一つ追加だ。深夜のお宝探しか……よし、スネイプあたりを巻き込んでやろう。オモチャでも無いとやってられんぞ。

 

私が陰気男をどうからかってやろうかと考えていると、パチュリーが指輪を手に取りながら言葉を放った。なんだか知らんがやけに得意げな表情だ。アリスや咲夜がやると可愛いのに、どうしてパチュリーやレミリアがやるとイラつくのだろうか? 永遠の謎だな。

 

「それと、もう一つ発見があったわ。この嵌め込んである大きな石があるでしょ? 調べてて気付いたんだけど……これ、蘇りの石よ。」

 

蘇りの……おいおい、死の秘宝か? あまりに予想外の言葉を受けて、思わず身を乗り出しながら質問を返す。

 

「本物の蘇りの石なのかい? つまり、透明マントなんかによくある『模造品』の類じゃなくて?」

 

「『本物』であることを証明するのはもう不可能だけど……そうね、恐らく死の秘宝としての蘇りの石でしょう。少なくとも尋常ならざる魔道具であることは確かよ。」

 

「ってことは、リドルは死の秘宝を分霊箱にしたのか? 随分と勿体ないことをするヤツだな。壊さなきゃいけないじゃないか。」

 

「正確に言うと、分霊箱になってるのはアームの部分だけね。石はまた別物よ。さすがに死の秘宝を分霊箱にするのは難しかったんでしょう。……というか、そもそも気付いていなかった可能性が大きいわ。リドルならこんな物を放っておかないはずでしょ?」

 

パチュリーの説明を聞きながら、もう一度指輪を眺める。緑色の八面体の小石。これが蘇りの石か。私が唯一目にしたことのなかった死の秘宝で、ゲラートが必死になって追い求めていた物。まさかこんな場所でお目にかかれるとは思ってなかった。

 

レミリアにとってもこのことは初耳だったようで、かなり興味深そうな顔でポツリと呟く。

 

「へぇ。死者を蘇らせることが出来るって逸話だけど……実際どうなの? さすがに眉唾なんでしょう?」

 

「何をもって『蘇り』とするかによるわね。この石はこの世界に残っている記憶……一番近いのだと集合無意識みたいなもんかしら。そこから情報を読み取って死者を再現する魔道具よ。本当に蘇らせてるわけじゃなくて、それらしい『記録』を再生してるに過ぎないわ。もちろん制限もあるしね。」

 

「制限?」

 

「そもそもその死者についてよく知る者しか情報を引き出せないのよ。物凄い情報量から特定のものを選別するわけだし、考えれてみれば当然のことだけど。」

 

思ってたよりも面白い魔道具だな。しかし、何処かで似たような話を……ああ、みぞの鏡か。あっちは確か本人が知らぬものすら映し出すことが出来たはずだ。あれも同じ『場所』から情報を引き出しているのだろう。

 

そして危険性についてもよく似ている。みぞの鏡と同じように、この石に魅入られる者が出てきてもおかしくはあるまい。あっちは『望み』、こっちは『追憶』で人を縛り付けるわけか。伝説によれば最初の持ち主であるカドマス・ペベレルは正にその理由で死んだはずだ。

 

「……フランには言わない方が良さそうね。」

 

ポツリと呟いたレミリアに、パチュリーと二人で頷きを返す。あの子にとっては魅力的過ぎる品物だろう。みぞの鏡に拘らなかった以上、フランに跳ね除ける精神力が無いとは言わないが……無用なリスクを冒すべきではないはずだ。

 

地下室で眠る小さな吸血鬼を想って沈黙した場を、杖なし魔法で石を取り外したパチュリーの冷静な一言が破る。

 

「何にせよ、指輪の方は私が破壊しておくわ。これでまた一つリドルの不死を崩せたわけね。」

 

「蘇りの石はどうするの? 研究する?」

 

レミリアの問いに、パチュリーは首を振って答えた。どうやら研究大好きなインドア魔女のお眼鏡には適わなかったらしい。そういえば透明マントやニワトコの杖にもあんまり興味を持たなかったな。えらく拘ってたゲラートやダンブルドアとは大違いだ。

 

「もうそれなりに調べたし、これは私の興味を惹くような代物じゃないわ。これは私の『魔法』とは方向性が違うの。アリスも不要らしいわよ。……今のあの子は後ろを気にするほど弱くはないしね。」

 

「それほど大した魔道具じゃないのかい?」

 

「いいえ、大したものよ。作れと言われれば作れるかもしれないけど、かなり苦戦することになるでしょうね。これを創ったのは多分『本物』の魔女よ。あるいは別の人ならざるものかもしれないけど。」

 

ふむ? 聞けば聞くほどパチュリーが興味を抱きそうなものに思えるのだが……。私の疑問を汲み取ったのか、魔女どのは尚も話を続けてくる。

 

「うーん、言葉で説明するのは難しいわね。認めはすれど、参考にはならないって感じかしら。これを創ったヤツと私は目指してるものが違うの。……とにかく、私もアリスもいらないってことよ。そっちはどうなの?」

 

「私も特に必要ないかな。レミィはどうだい? スカーレット卿でも呼び出してみるか?」

 

「あのね、ただの記録には興味ないわよ。どうせ本人は地獄でのんびりしてるでしょうし、死んだらそのうち会えるでしょ。」

 

ま、その通りだ。記録はあくまで記録。本人と話せるのならともかく、そんなもんを呼び出したところでどうにもなるまい。本気で話したければ冥界に殴り込みをかければいいのだ。

 

「んー、ダンブルドアにでもあげたら? 透明マントにも興味津々だったし、喜んで研究するんじゃない?」

 

悪くないな。恩を売ることもできるし、廃品回収にはもってこいだろう。レミリアの提案に同意の返事を返そうとしたところで……おや、頬を赤くした咲夜が室内に入ってきた。青いマフラーを巻いたアリスも一緒だ。いつの間にか雪像チェスは終わっていたらしい。

 

「さ、咲夜! ほっぺが赤いわ! スカーレットほっぺ! ほら、暖炉に当たりなさい。風邪引いちゃうわよ!」

 

「えへへ、ちょっと冷えちゃいました。」

 

途端に立ち上がって暖炉へ誘導する親馬鹿に苦笑していると、手を引かれながらチラリとテーブルを見た咲夜が目を見開く。何だ? びっくりしちゃって。

 

「あの……それ、何ですか?」

 

「ちょっとした魔道具よ。美鈴が拾ってきたの。ほら、彼女はゴミを拾ってくるのが大好きでしょう? 大した物じゃないわ。」

 

めちゃくちゃ適当な大嘘を吐いたパチュリーは、石のことを咲夜に説明する気はないようだ。言ってしまっても咲夜は大丈夫そうだと思うのだが……。

 

「両親を呼び出されたら困るでしょう? 呼び出せない可能性の方が高いし、魅入られるかも微妙なとこだけど……一応内緒にしておくべきよ。」

 

顔を寄せてきたパチュリーの囁きに、首を振って了解の返事を返す。まあ、ハリーもみぞの鏡に囚われかけたと聞いている。話すにしても、もう少し成長してからのほうがいいのかもしれない。

 

レミリアやアリスも同じ意見のようで、口を挟まずに咲夜を見ているが……うーん? 咲夜の興味が消える気配はないな。むしろよく見ようとテーブルに近付いてきてるぞ。

 

そのまま止める間もなく石を手に取って暫く眺めた咲夜は、長さを測るようにクルクルと手のひらの中でそれを回した後、やがてパチュリーを上目遣いで見ながら口を開いた。

 

「……これ、私に頂けませんか?」

 

「へ? それは……うーん、どうかしらね。」

 

「お願いです、パチュリー様。その、こういうのが欲しかったんです!」

 

どういうのだ。よく分からないおねだりを放った咲夜を前に、パチュリーが困ったようにオロオロし始める。あの上目遣いにはさぞ破壊力があることだろう。如何な動かない大図書館といえど、おねだり咲夜を打ち破るのは至難の業らしい。

 

パチュリーは慌ててレミリアを見るが……哀れな。サッと目を逸らされてしまった。その後私の目も見事に逸らされていることを確認すると、対咲夜最終兵器に救援要請の言葉を放つ。溺れる魔女は弟子にも縋る、か。

 

「ア、アリス? 貴女に任せるわ。」

 

「えぇ……。えっと、咲夜? そういう石やら宝石が欲しいなら私が作ってあげられるわよ? どんなのが欲しいの?」

 

「これがいいの。……ダメかな、アリス?」

 

ああ、これはダメだな。トテトテと駆け寄って上目遣いで首を傾げる咲夜に、アリスもまた陥落だ。二人の魔女を翻弄する咲夜を微笑ましい気分で眺めていると、窮したアリスは何故か私にキラーパスを放ってきた。やめてくれよ。

 

「あの……そうね、リーゼ様がいいって言うならいいわよ。」

 

「リーゼお嬢様! ダメですか……?」

 

「あー……うん、持っていきなさい、咲夜。一応失くさないようにね。」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

満面の笑みで礼を言う咲夜を見て、他の三人が『言っちゃったよ』とばかりにため息を吐くが……おい、誰にも私を非難する権利はないぞ。レミリアは聞くまでもないし、魔女二人だってノックアウトされてただろうが。

 

嬉しそうに蘇りの石をポケットに入れた咲夜を横目に、困った顔でそれを見ているパチュリーへと囁きかける。

 

「あれって、簡単に発動するものなのかい?」

 

「強く念じないと動かないわ。相当強くね。だからまあ、多分大丈夫だとは思うけど……ちょっと心配じゃない?」

 

「ま、どうせダンブルドアにくれてやるつもりだったんだ。咲夜が喜んでくれるならそっちの方がいいさ。老人の喜ぶ顔なんぞ見たってなんにも嬉しくないしね。」

 

それっぽい兆候が表れたら取り上げればいいだろう。すぐさま生死に関わる代物じゃないんだし、そこまで心配することじゃないさ……ないよな?

 

吸血鬼と魔女から財宝を巻き上げた小さな少女を前に、アンネリーゼ・バートリは顔に苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

─────

 

 

「……おぉ?」

 

庭先のポストに入っている薄汚れた手紙を見ながら、紅美鈴は首を傾げていた。ゴミじゃないよな?

 

そもそもこのポストに手紙が入っていること自体が珍しいのだ。ふくろう便なら宛先の人物に直行するし、マグルの手紙など紅魔館には届かない。たどり着く前に郵便局員が遭難するだろう。つまりこれは、『紅魔館宛』の魔法界からの手紙ということになる。

 

紅魔館で届く手紙が一番多いのは『政治ごっこ』を楽しんでいるお嬢様。そこに比較的友人の多いアリスちゃんが続き、最後に最近世に出始めた従姉妹様だ。まあ、パチュリーさんにも極々稀にダンブルドアからの手紙が届く。それ以外は一切来ないが。

 

しかし、そのどれもが普通に宛先人に直行するはずだ。このポストに入っていたことなど数えるほどしか思い出せんぞ。

 

ポストに積もった雪を払いながら取り出してみれば……うーん、ゴミ同然の汚さだ。しわくちゃだし、便箋そのものが高級品とは言い難い。ここの住人に届く手紙としては少々汚すぎるように思えるな。まるでゴミ箱の中から発掘してきたみたいじゃないか。

 

捨てようか少しだけ悩むが、結局無難な選択に落ち着いた。やめとこう。一応手紙の形はしてるわけだし、それで怒られてご飯抜きになるのは御免なのだ。従姉妹様も休暇で帰ってきてるから、そっちに向けての手紙かもしれない。『新人』ふくろうが迷った的な感じで。

 

雪かきされた道を玄関へと歩きながら、しわくちゃの便箋をひっくり返してみると……ありゃ、フランドール・スカーレット? あー、なるほど、妹様か。何とも珍しいことに、妹様宛の手紙のようだ。

 

それなら納得できなくもない。地下室にふくろうが入り込めるはずもなく、鳥頭で窮した結果ここに入れたのだろう。そういえば前にも一回同じことがあったっけ。ルー……ルーポン? とかなんとかからの手紙だったはずだ。

 

しかしまあ、誰だかは知らないが、よっぽどズボラなヤツからの手紙だな。妹様の名前の横には犬の足跡がついている。私だってこうなったら別の便箋を使うぞ。たぶん。

 

先程やっていた雪像チェスの残骸を横目に、玄関を抜けて地下室へと歩き出す。……ちなみに私は最下位だった。小悪魔さんは激強だったし、アリスちゃんも普通に強かったのだ。そして咲夜ちゃんにまで負けてしまった。さすがにもう少し練習した方がいいかもしれない。

 

二千を超えている妖怪が十二歳の少女に負けるってのはどうなんだろうか。今更ながらに危機感を感じつつ、到着した地下室のドアをノックしてみると……おや、意外なことに返事が返ってきた。妹様はもう起きていたようだ。

 

「だぁれ?」

 

「美鈴です。なんか、妹様宛に汚い手紙がきてたんですけど……どうします? 捨てます?」

 

「汚い手紙? ……うーん、入っていいよ。とりあえず見てみるから。」

 

捨てたほうがいいと思うのだが。ばっちいし。ともあれ見るというなら見せるまでだ。中へ入ってみると、妹様はカンバスの前で筆を持って立っていた。最近どハマりしている『おえかき』中だったらしい。

 

「差出人は書いてないの?」

 

「それが、書いてないんですよねぇ。」

 

言いながら手紙を渡すと、妹様はちょっと嫌そうに端っこを摘んで受け取る。それを横目に絵を見てみれば……うん、何も言うまい。きっと抽象画的なアレなんだろう。私には落書きにしか見えないが、沈黙はご飯なり、だ。これに意見を下すとどうなるかはお嬢様が実証済みなのだから。

 

妹様はばっちい手紙を摘んだままひっくり返して……おお? いきなり目を見開いて真剣な表情でそれを開け始めた。裏には宛名と犬の足跡しか無かったはずだぞ。

 

久し振りのキリっとした表情の妹様を眺めていると、やがて彼女は顔を上げて鋭く言葉を放つ。

 

「美鈴、レミリアお姉様って予言者新聞を取っといてたよね? 昔のやつも。」

 

「へ? あー、そうですね。一階の空き部屋に保管してあると思いますけど、それが何か──」

 

「今年の夏の分を取ってきて。今すぐに。急いで。ダッシュで!」

 

「は、はい!」

 

なんだか分からんが、今の妹様に逆らうのは狂気の沙汰だ。何たって、最近見せないかなり真剣な表情になっているのだから。こういう時に怠けるとほっぺたをぐにぐにされちゃうのだ。妹様の力でぐにぐにされると頭蓋骨までぐにぐにしちゃうぞ。

 

部屋を出て急いで階段を駆け上がり、新聞の保管してある部屋に飛び込む。夏の分は……これか。大量に新聞が詰まった木箱ごと抱えて、再び全力で地下室へと戻る。

 

「あの、持ってきましたけど。」

 

「床にぶち撒けて。そしたら、ウィーズリー家のエジプト旅行の写真が載ってるのを探すの。ガリオンくじについての記事のやつ。」

 

「ウィーズリー? えーっと……はい。」

 

言われるがままに新聞を床にぶち撒けて、赤毛の写真を探し始める。なんだろう? ……ひょっとして、エジプトに興味が出たのか? 連れてってなんて言われなきゃいいが。エジプト料理について調べといたほうがいいかもしれんな。

 

突発的な好奇心に戦々恐々としながら二人で新聞を確かめていくと……これか? ピラミッドを背景に、赤毛の集団が楽しそうに集合している写真が載っている。隅っこで佇んでいるラクダがちょっと美味そうだ。

 

「これですか?」

 

「見せて!」

 

引ったくるように私の差し出した新聞を受け取った妹様は、顔を近づけてそれを見ると……うわぁ、怖い。超怖い。いきなり大声で笑い始めた。何というか、普通なら有り得ないような百パーセントの笑いだ。久々に狂気を感じるぞ。翼飾りが故障したんじゃないよな?

 

『きゅっ』が来ることを怖がりながらケラケラ笑う妹様を眺めていると、やがて彼女は満面の笑みで大の字に寝転ぶ。笑い疲れちゃったか? もう何が何だかさっぱりだ。

 

「あーあ、すっかり騙されちゃったよ。ワームテールもやるなぁ。……美鈴、お姉様たちを呼んできてくれる? 大事な話があるんだ。」

 

「はい、呼んできます。ダッシュで!」

 

嬉しいような、悲しいような、疲れたような。全てが混ぜこぜになったような微笑を浮かべた妹様に返事を返して、再び一階へと走り出す。むちゃくちゃ怖かった。まるでかつての妹様みたいな表情の変わり方だったぞ。パチリとスイッチが切り替わったみたいだった。

 

パチュリーさんに翼飾りのチェックをお願いしようと心に決めつつも、紅美鈴は階段を全力で駆け上がるのだった。

 


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