Game of Vampire   作:のみみず@白月

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パッドフット

 

 

「こんな場所があったとはね。」

 

暴れ柳の下に隠されていた通路を進みつつ、アンネリーゼ・バートリは隣を歩くフランに声を放っていた。あの木は箒やら自動車やらを破壊するために存在していたのではなく、この通路のために植えられていたわけか。

 

ブラックの呼びかけに応えて、私とフラン、そしてルーピンで指定された場所に向かうこととなったのだ。私だけちょっと場違いだが、手紙を受け取った張本人ということで同行することになった。……空気が読めないヤツみたいでなんかヤダな。

 

レミリアやダンブルドアも来たがったものの、警戒されては元も子もない。先ずはこの三人でこちらがもう疑っていないことを伝えようというわけである。ちなみにスネイプはフランに会うのが気まずくて逃げたようだ。ヘタレめ。

 

「うん。通路自体は元からあったらしいんだけど、暴れ柳はリーマスの為にダンブルドア先生が植えてくれたんだよ。当時から『ふわふわした問題』を抱えてたからね。」

 

クスクス笑って言うフランに、前を杖明かりで照らしながら歩くルーピンが苦笑を返した。懐かしのルーピンに会えてフランはかなりご機嫌のようだ。先程からずっと思い出話に花を咲かせている。

 

「ああ、懐かしい台詞だ。君やジェームズが事あるごとにそう言うもんだから、コゼットは僕が小さなウサギを飼っているんだと勘違いしてたっけ。」

 

「ふふ、暴れん坊のウサギだと思ってたんだよね。クリスマスに飼い方の本をプレゼントされたんでしょ?」

 

「その通り。ちなみにまだ持ってるよ。……まあ、残念ながら私にウサギの飼育は難しいんだけどね。狼としての匂いがあるのかなんなのか、小動物には嫌われちゃうんだ。」

 

人狼の知られざる弊害というわけだ。謎の知識が増えたところで、狭い通路の先にボロボロのドアが見えてきた。フランの話によればあれこそが今回の目的地、叫びの館への入り口のはずだ。

 

慣れた手つきでそれを開けたルーピンに続いて、ドアの向こう側へと足を踏み入れてみれば……これはまた、ぼろっぼろだな。経年劣化もいくらか関与しているだろうが、ルーピンはここで存分に爪研ぎを楽しんだようだ。至る所に大小様々な穴が空いている。

 

「若かりし頃のキミは随分と凶暴だったらしいね。廃墟にしたって酷い有様じゃないか。」

 

「いえいえ、半分以上はフランドールのせいですよ。ほら、あの大穴なんかは私が吹っ飛ばされた時に空いた穴です。」

 

言いながらルーピンが指差した穴は……よく無事だったな、こいつ。かなり分厚い板をぶち抜いているじゃないか。普通の人間ならぺしゃんこになってるぞ。

 

思わずフランの方を見てみれば、彼女は困ったように苦笑しながら口を開く。

 

「んー、あの頃はまだ加減が上手くなかったから。……でも、リーマスも悪いんだよ? いきなりシリウスに襲いかかろうとするから、びっくりしてちょっと強めに殴っちゃったの。」

 

「『ちょっと』の認識に差があるね。いくら人狼が頑丈とはいえ、ルーピンも骨折くらいはしたんじゃないか?」

 

私の苦笑混じりの声に答えたのは、フランでもなく、ルーピンでもなかった。……ようやく会えたな、アズカバンの冤罪囚。

 

「あの時、哀れなリーマスは尻尾の骨を折ってしまったよ。危うくカギ尻尾の狼人間になるところだったのさ。……久しぶりだな、我が友、ピックトゥース、ムーニー。そして初めましてだ、黒髪の吸血鬼殿。」

 

暗闇の向こう側から杖明かりの中へと、ボロボロの洋服を着た男が歩み寄って来る。酷くやつれているし、ヒゲも髪も伸び放題だ。……しかし、その目に力があるせいで情けない印象は全く感じられない。これがシリウス・ブラックか。獰猛な猟犬のような男だな。

 

「やっほー、パッドフット。……うん、元気そうで良かったよ。今はそっちが『ヨレヨレ』になっちゃったね。」

 

「……久し振りだ、パッドフット。会えて嬉しいよ。本当に嬉しい。」

 

フランは嬉しそうに戯けながら、ルーピンは目を細めて微笑みながら彼に近寄っていく。どちらも感無量といったご様子だ。……まあ、私は少し下がっておくか。賢いリーゼちゃんは旧友との再会を邪魔するほど無遠慮なコウモリではないのだ。

 

ブラックもまた二人に近付きながら、ニヤリと笑って口を開いた。

 

「おいおい、ひどく老いたな、ムーニー。ピックトゥースを見習ったほうがいいぞ。我らが紅一点は未だにツルツルのお肌を維持してるじゃないか。」

 

「それはこっちの台詞だね。学生時代と比べると……ふむ、少々身嗜みが乱れているな。あの頃のハンサムな君が懐かしいよ。」

 

「おおっと、訂正してもらおうか。私は昔も今もハンサムなままだぞ。……しかしながら、誰も犬にはカミソリを売ってくれなかったもんでね。イギリスは動物愛護の精神を学ぶべきだとよく分かったよ。」

 

二人の訳の分からん会話を聞いて、フランは微笑を浮かべながら腕を組む。この様子では当時からこんな感じの馬鹿話を毎回繰り広げていたらしい。三人とも水を得た魚のようではないか。

 

「小汚い野良犬ごっこなんかしてるからだよ。うーん、血統書があれば別だったんじゃないかな。今からでもプードルの動物もどきを目指してみれば?」

 

「悪くない提案だがな、ピックトゥース。俺の変身後には男のロマンってのがあるのさ。プードルじゃカッコつかないだろ? ……まあ、お子ちゃまには理解できんか。」

 

「んんー? 私のパンチを忘れちゃったみたいだね。あの頃よりちょーっとだけ強力になってるけど……試してみよっか? 上手くいけばあの穴より大きなのを作れるかもよ?」

 

腕をぐるんぐるん回すフランを見て、ブラックは慌てて後退りし始めた。ルーピンはそれを見ながらやれやれと首を振っている。……なんともまあ、彼らの学生時代が目に浮かぶようではないか。ここにジェームズ・ポッターがいれば完璧な漫才が見れたのだろう。

 

「勘弁してくれよ。せっかく闇祓いどもから必死で逃げ果せてたってのに、最後の最後で壁の染みになるのは御免だ。……それにほら、君の知り合いに感謝を伝えないといけないだろ?」

 

言うとブラックはこちらに近付いてきて、片手を差し出しながら話しかけてきた。別にもっと話しててくれても構わなかったんだが。積もる話もあるだろうに。

 

「改めて、シリウス・ブラックだ。伝言を伝えてくれてありがとう。お陰で懐かしい顔を見ることが出来た。」

 

差し出してきた手を握りながら、こちらも軽い挨拶を返す。黒髪に灰色の瞳。近くで見るとそれなりに顔が整っているのが分かるな。学生時代はさぞモテたのだろう。

 

「アンネリーゼ・バートリだ。フランの従姉で、レミィ……レミリアの幼馴染さ。」

 

「おっと、これは失礼を。スカーレット女史と同世代だったとは。……ハリーは箒を喜んでくれましたか?」

 

「安心したまえ、ハリーは飛び上がらんばかりに喜んでたよ。最近は狂ったように手入れしているしね。ほとんど病気さ。」

 

マクゴナガルによる体裁だけの『検査』も終わり、箒は既にハリーの手元にあるのだ。枝先の一本一本を手入れしているハリーの様子を思い出して言ってやると、ブラックは目を細めながら頷いた。

 

「それは良かった。名付け親だってのに何もしてやれなかったので、奮発した甲斐がありましたよ。しかし……スカーレット女史の同世代なら、何だって学生なんかを?」

 

「ハリーを守るためさ。ヴォルデモートがしつこく狙ってくるもんだから、不本意ながらも学生ごっこをする羽目になってるんだよ。」

 

「それはまた……名付け親として感謝します。何と言うか、中々に難しい仕事でしょう。」

 

かなり気まずそうに言ってくるブラックは、学生ごっこの苦労を汲み取ってくれたらしい。それに苦笑を返しつつも、情報を整理するために質問を飛ばす。

 

「まあ、もう慣れたよ。……さて、色々と疑問はあるんだがね。先ずは私に手紙を送った理由について聞こうか。今日が初対面のはずなんだが、何故私を選んだんだい?」

 

「ああ、それは『協力者』から貴女がピーターを探していることを聞いていたからです。ピーターを探すということは、フランドールから話を聞いているのだと思いまして。比較的安全に接触できると思ったんですよ。」

 

「『協力者』? ホグワーツの人間と連絡を取り合ってたのか? そんな素振りを見せていたヤツはいないはずだが……。」

 

少なくとも教師陣ではないはずだぞ。生徒ってことか? 疑問顔で首を傾げる私に、ブラックは若干得意げな表情で『協力者』とやらのことを説明してきた。

 

「クルックシャンクスですよ。彼ほど賢い猫は他にいないでしょう。ピーターの正体を見破り、そして森の近くで出会った私の正体をも見抜いた。説得には時間がかかりましたが、私の事情を理解すると色々と協力してくれるようになったんです。……ちなみに、ハリーに贈った箒を注文したのも彼ですよ。注文書をアーサーの息子のカタログから取ってきてくれまして。金はブラック家の金庫から引き出しました。……それとまあ、サクヤにブローチを送るのにも手を借りましたね。」

 

「ちょっと待て、咲夜にブローチを贈ったのはキミだったのか?」

 

「ええ。容姿はクルックシャンクスから聞いていましたから。合いそうなのをマグルの宝石店から……まあ、その、『拝借』したんです。学生時代からそういったことは得意だったので、杖なしでも然程難しくはありませんでした。」

 

「それだと普通にドロボーじゃんか。何してんのさ、パッドフット。」

 

呆れ果てた様子のフランの言葉に、ブラックは慌てて言い訳を述べ始める。殺人犯ではないにせよ、犯罪者なのは正しかったようだ。逃亡中に窃盗? 滅茶苦茶するな、コイツ。

 

「いや、金はきちんと返すつもりなんだ。我が忌々しい実家の金庫にはまだまだ金貨が残ってるからな。つまり、そう、後払いだよ。たっぷり利子を付けて返せば誰も文句は言わないだろ?」

 

「言うと思うよ。……パッドフットったら、アズカバンでちょっとおかしくなっちゃったんじゃない?」

 

「同感だね。昔から君は突拍子も無いことをやっていたが、少し悪化しているように思えるよ。リハビリが必要なんじゃないか?」

 

旧友二人からなんとも言えない表情で言われて、ブラックはそのまま気まずそうに黙り込んでしまった。……太ったレディを切り裂いたことといい、アズカバンの後遺症は確かに存在しているらしいな。盗品をプレゼントにするってのは相当だぞ。

 

しかしまあ、予想だにしない名前が出てきたもんだ。あの毛玉がブラックの協力者だったとは……犬、猫、ネズミ。今年は動物が大活躍の年じゃないか。コウモリも少しは見習いたいもんだ。

 

オレンジ色の毛玉のことを考え始めた私を他所に、今度はフランが質問を放つ。ルーピンは……杖を振って椅子とテーブルを用意し始めたようだ。勝手知ったる他人の館だな。

 

「っていうかさ、二通目の手紙は普通に私に送ってくるんじゃダメだったの? その前の手紙は紅魔館宛になってたけど。」

 

フランが『私』と言うのに少しだけ驚きを浮かべながらも、ブラックは問いの答えを放った。……やはり違和感はあるか。先程のルーピンも同じ反応だったな。

 

「君はともかく、君のお姉さんが味方だという確証が持てなかったんだよ。君たちは……その、かなり仲が悪かっただろう? とりあえずはピーターのことを書いた手紙を送ってみて、何らかの反応を待つことにしたんだ。こっちの手紙を送るのもクルックシャンクスが手伝ってくれたよ。」

 

「あー、それで動き出したリーゼお姉様に接触したってわけね。ふふ、レミリアお姉様ったら信用ないなぁ。政治なんかしてるから胡散臭くなっちゃうんだよ。」

 

まあ、仕方あるまい。レミリアと魔法省が繋がっているのは誰の目から見ても明らかなのだ。捕縛される危険性がある以上、迂闊に手掛かりを与えるわけにはいかなかったのだろう。

 

「いやいや、信用してなかったってわけじゃないんだ。ただまあ、有能な方だってことは知ってたからな。ちょっと警戒してただけなんだよ。」

 

言いながらルーピンの用意した椅子に座ったブラックに、今度は清めの魔法を私とフランの椅子に使っていたルーピンが質問を投げかける。気が利くじゃないか、ヨレヨレ。

 

「スコージファイ。……しかし、十二年間もアズカバンの生活によく耐えられたな。同じ場所に入れられたクラウチの息子は酷く衰弱して死んだと聞いているよ。哀れなもんだ。」

 

「……無理もないさ。あそこは本当に酷い場所だった。情けない話だが、もし事前に知っていれば必死になって無実を叫んでいただろう。私の想像よりもずっと酷かったんだ。」

 

フランとルーピンが心配そうに見つめる中、ブラックは絞り出すようにしてアズカバンでの生活を語り始めた。

 

「私が入れられたのは最厳重区画の一室だった。……要するに、部屋の前には常に吸魂鬼が居座っているような区画さ。自分の無実を知っていた私はそれを拠り所にして必死に耐えたんだ。そしてどうしようもなくなった時は……犬に変身したんだよ。正確な理由は分からないが、犬になっていると吸魂鬼の影響をさほど受けずに済んだのさ。」

 

「そっか。吸魂鬼は目が見えないもんね。変身したのが分かんないんだ。」

 

「その通り。脱獄にもそれを利用したんだよ。痩せ細った私は変身すればなんとか牢の隙間を抜けることが出来た。それからは板切れに掴まって海を渡り、犬のままでホグワーツまでたどり着いたってわけさ。……敷地を渡るときに連中のすぐ側を何度か通ったが、ついぞ気付かれることはなかったよ。」

 

「全然ダメじゃん、吸魂鬼。ポンコツだなぁ。」

 

呆れたようにため息を吐いたフランに同意するように、私とルーピンも大きく頷く。あの黒マントどもは現状ではただただ迷惑なだけだ。未だ何の役にも立っていないではないか。

 

まあ、これでブラックの山あり谷ありの『逃走劇』については概ね理解できたな。ルーピンもそれは同様だったらしく、話を纏めるように語り出した。

 

「つまり、君は新聞の写真でピーターを確認するとアズカバンを脱獄。そのままホグワーツへと一直線に向かい、一度グリフィンドール寮へと侵入を試みた後、諦めてここに潜んでたのか? ……太ったレディにはきちんと謝っておくべきだな。」

 

「あの時はちょっと……焦ってたんだよ。ピーターがノコノコ生きていると思うと居ても立ってもいられなかったんだ。まあ、その後は警備が厳重になったせいで迂闊に入れなくなってしまったがね。」

 

「私に連絡してくれなかったのは……無理もないか。私も君が守人だと思っていたからね。フランドールほど強くは信じられなかったよ。」

 

情けなさそうに俯いたルーピンに、ブラックが慌てて言葉を投げかける。

 

「そういうわけじゃない、ムーニー。私はむしろ校長を恐れていたんだ。君に連絡を取ろうとするのが見つかるんじゃないかってね。……校長やスカーレット女史の恐ろしさってのを、追われる立場になって初めて理解出来たよ。本当に脅威だった。」

 

「そうか……。私を許してくれるかい? パッドフット。十二年間も君を疑っていた私を。」

 

「当たり前だ、ふわふわの友よ。……むしろ、十二年前に君を疑っていたことを許して欲しい。君にも守人のことを相談すべきだったんだ。本当にすまなかった。」

 

「許すよ、肉球の友よ。君の責任じゃないし、君は充分に苦しんだだろう? 今はまた会えた幸運を祝おうじゃないか。」

 

言いながら立ち上がったルーピンは、シリウスと固いハグを交わした。素晴らしい友情ではないか。私はレミリアとハグなんかしたことがないぞ。……今度いきなりやってみようかな。ちょっと気持ち悪いが、驚く顔は見られるかもしれない。

 

私が次なる悪戯を考えているのを尻目に、今度は悲しそうに顔を俯かせているフランが口を開いた。

 

「私も謝らないとね。守人のことも、コゼットとアレックスのことも。私は全然役に立てなかった。全部に関わってるくせに、結局何にも出来ずに全部失敗しちゃったんだ。……馬鹿みたいだよ。」

 

おっと、これは良くないな。ポツリポツリと呟くフランに、慌てて慰めの言葉を放つ。

 

「フラン、それは違うぞ。キミがいなければ咲夜はどうなっていたんだい? 今回の件だって、元を正せばキミだけがブラックを信じていたから答えにたどり着けたんだろう? 役に立っていないだなんて言わないでくれ。」

 

「その通りだ。そもそも君がいなけりゃ私たちは六年生の時に死んでただろうさ。それに……私とジェームズはあの時君に全てを話さなかった。君に責任などない。断言しよう。」

 

「バートリ女史とシリウスの言う通りだよ、フランドール。授業で見るサクヤはとても幸せそうな顔をしている。私などがコゼットやアレックスの言葉を語るのはおこがましいかもしれないが、あの二人は君に感謝しているはずだ。それだけは確かだよ。」

 

どうやらフランの悲しむ姿を見たくないのはルーピンとブラックも同じだったらしい。口々に慰めてくる私たちを見て、フランは少しキョトンとした後に……おやおや、クスクス笑い始めたぞ。寂しそうだが、同時に柔らかさも感じる笑みだ。

 

「ふふ、ありがとう、みんな。……大丈夫だよ。私だっていつまでも引きずってられないのは分かってるもの。後悔してる暇があるなら、今やるべきことをやらないとね。」

 

フランが立ち直ったのを見てホッと息を吐いた三人の中から、ブラックが先んじて言葉を放った。

 

「そうだな。そして先に進むために重要な情報がある。……ピーターは生きているぞ。クルックシャンクスが言うには、負傷させたものの取り逃がしたとのことだった。無論どこかに逃げ去った可能性もあるが、傷を癒すためにホグワーツに隠れ潜んでいてもおかしくないはずだ。」

 

おおっと、それは確かに重要な情報だな。ペティグリューがどれだけ間抜けかは知らないが、少なくとも猫に食われるほどではなかったようだ。賭けは私の勝ちだな、レミリア。後で秘蔵のワインを請求するとしよう。

 

ブラックの言葉を受けて、真剣な表情に変わったルーピンが口を開く。

 

「だが、ピーターを探し出すのは至難の業だぞ。……ハリーには伝えた方が良いかもしれないな。ピーターが彼を狙ってくるとは思えないが、少なくとも存在くらいは知らせておくべきだ。彼には真実を知る権利がある。」

 

「……というか、ハリーを狙う可能性は本当にないのかい? キミたちは随分と確信を持っているようだが、一応はヴォルデモート側の人間なんだ。機会があれば殺そうとしてもおかしくはないんじゃないか?」

 

ハリーを殺せたなら、『ご主人様』への貢物としては最上のものになるだろう。運命の守り的にも微妙なラインだ。間接的にリドルが関わっている以上、殺せる可能性だってあるかもしれない。

 

首を傾げる私の問いかけに、フランとブラックが苦笑しながら答えた。ペティグリューが食われたかもしれないと言った時に見たのと同じ、困ったような感じの苦笑だ。

 

「んー、それはないよ。ピーターにそんな度胸があるとは思えないし、危険を冒すメリットがないと行動しないんじゃないかな。」

 

「ヴォルデモートが復活したと確信を持っているのならともかくとして、今の状況であいつがハリーを狙うことは有り得ませんよ。利がなければ行動しない男なんです、あいつは。」

 

うーむ、この三人はペティグリューのこともよく理解しているようだ。……確かに今ハリーを殺したところでなんの利益にもなるまい。リドルが『生きて』いることを知っているのは僅かな人間だけだし、復活を信じているようなバカどもは揃ってアズカバンの中なのだから。

 

「ふぅん? まあ、その辺の判断はキミたちに任せるよ。それよりもハリーにどう伝えるかだ。キミたち三人は同席したほうがいいだろうし、ロンにも真実を伝えてやった方がいいだろう。……となればハーマイオニーにもだな。一応は毛玉も関わってるわけだしね。」

 

どうせハリーとロンに話せばハーマイオニーにも伝わるのだ。それなら最初から纏めて話したほうが早かろう。私の言葉を受けて、ブラックはとある提案を放ってきた。

 

「それなら、クィディッチの最終戦の後に伝えるというのはどうでしょう? 晴れ舞台に余計な心配を持ち込むのは良くない。ハリーには万全な状態で試合に臨んで欲しいんです。」

 

「キミたちは本当にクィディッチが好きだね。……まあいいさ、それで調整しておこう。」

 

クィディッチがそこまで重要かはさて置き、時期としては悪くない選択だ。夏休みに入ればハリーはマグル界で監禁生活だし、その前に伝えておくのが正解だろう。

 

脳内で私が予定を組み立てている間に、フランがキラキラした笑顔で言葉を放つ。……嫌な予感がするな。『おねだり』する時の顔じゃないか。

 

「それじゃあさ、最終戦はみんなで観戦に行こうよ。パッドフットは変身すれば大丈夫でしょ? ……ムーニー、グリフィンドールって今勝てそうなの?」

 

「かなり僅差で競り合ってるから、それこそ最終戦で全てが決まることになるんじゃないかな。グリフィンドール、ハッフルパフ、スリザリンで団子状態だったはずだよ。」

 

「ふーん? ハリーには勝って欲しいけど、それだとハッフルパフも応援したいなぁ……。どうしよう、悩んじゃうよ。」

 

マズいな。ブラックは嬉しそうに頷いているし、フランはもう観戦に行く気になっているようだ。こうなれば私にはもう止められないぞ。止められないし、止めたくない。

 

日除け対策と、心配性の姉への連絡。……よし、ダンブルドアに丸投げしよう。何せ今年のあいつはあんまり頑張っていない。体調がどうとか言い訳をしていたが、ちょっとくらいは苦労すべきなのだ。

 

クィディッチの話に没頭し始めた三人を前に、アンネリーゼ・バートリは老人に全てを押し付けようと決意するのだった。

 


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