Game of Vampire   作:のみみず@白月

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小さな泥棒

 

 

「勝訴よ。バックビークは無罪を勝ち取ったわ。」

 

目の前で嬉しそうなハーマイオニーがそう言うのを、アンネリーゼ・バートリは呪文学のレポートに向き合いながら聞いていた。ハグリッドの小屋に行ってたのか? 道理で姿が見えなかったわけだ。

 

イースター休暇が間近に迫った日曜日の昼。グリフィンドールの談話室では生徒たちが必死に課題を終わらせようとしている。春の休暇を楽しむためにも、今のうちに『厄介事』を片付けておきたいらしい。どうせ休暇にも課題は出るだろうに、なんともご苦労なことじゃないか。現代版賽の河原だな。

 

とはいえ、課題は確かに存在しているのだ。吸血鬼にも平等に降りかかってきた災難に対処すべく、ハーマイオニーを抜いたいつもの五人でテーブルを占拠して挑みかかっていたところ、帰ってきた彼女が開口一番で裁判の勝利を伝えてきたのである。……ふむ、鳥馬はチキンカレーになるのを免れたか。ちょっと食べてみたかったんだが。

 

「無罪? ……やりましたね、ハーマイオニー先輩! きっと先輩が頑張ったお陰ですよ!」

 

「そうだな、ハグリッドも喜んでたろ?」

 

無邪気に喜ぶ咲夜と魔理沙に、ハーマイオニーもまた満面の笑みで返事を返す。……おやおや、ハリーとロンはしまったと言わんばかりの表情じゃないか。無理もあるまい。あの二人は喧嘩の余波で殆ど手伝えていなかったのだ。今の今まで忘れていた可能性すらあるぞ。

 

「ええ、とっても喜んでたわよ。四人で調べた判例をハグリッドが……というか、マーガトロイド先生が有効に使ってくれたらしいわ。ほら、これはお礼だって。」

 

予想通り、アリスはあの大男を上手く補佐できたらしい。……まあ、ハーマイオニーの努力もかなりの割合を占めているだろう。何たってふくろう三羽でないと運びきれないほどの判例を送っていたのだから。アリスの困った顔が目に浮かぶようだ。

 

ハーマイオニーが取り出した大量のロックケーキを見ながら、かなり気まずそうなハリーが口を開いた。

 

「あー……ごめん! ハーマイオニー。僕、クィディッチのことで頭がいっぱいで。裁判のことは全然手伝えなかったよ。本当にごめん。」

 

「いいわよ。リーゼたちに手伝ってもらえてたし、ハリーはハリーで忙しかったんでしょ? 勝ったんだからそれでいいじゃない。」

 

「うん……でも、任せっきりになっちゃったね。こんな大事なことを忘れるだなんて、我ながら情けないよ。」

 

ため息を吐きながら落ち込むハリーに対して、絶賛冷戦中のロンは……うーむ、酸素が足りなくなったグリンデローのようだ。口をパクパクさせて何かを言い淀んでいる。

 

そのまま地上に打ち上げられた水魔くんはハリーを見て、カッチカチのロックケーキを見て、ハーマイオニーを見ると……困ったように口をモニョモニョさせた後、結局ハリーに向かって言葉を放った。中々に面白い光景だ。内心の葛藤がよく表れているな。

 

「……ハリー、ハグリッドの所に行こうぜ。その、手伝えなかったのを謝りに。早い方がいいだろ?」

 

「そうだね、行こうか。」

 

そのまま立ち上がって談話室を出て行く二人を尻目に、ハーマイオニーが私のレポートを見ながら口を開く。ロンに関してはノーコメントを決め込むことにしたようだ。講和の日は未だ先か。

 

「あら、呪文学のレポートをやってたの?」

 

「その通り。……キミは当然終わらせてるんだろう? 見せておくれよ。『元気の出る呪文』のレポートで元気を失くしてたら本末転倒だぞ。」

 

「もう、仕方ないわね。丸写しはダメよ?」

 

「上手くやるさ。」

 

変身術、防衛術、魔法薬学の課題を全て無視している私にとっては、呪文学こそが一番の強敵なのだ。私の魔法に関する知識の出所は殆どがパチュリーで、そのパチュリーはどうやら『元気の出る呪文』などというものを重視しなかったらしい。こんなふざけた呪文を習った記憶はないぞ。

 

その他にも爪切り呪文やら窓拭き呪文やら、呪文学の内容は初見の呪文が非常に多い。ハーマイオニーの力を借りなければやってられん。どれだけ永く生きようと、こんな呪文を使うことは一生ないだろう。

 

女子寮へとレポートを取りに行った救いの女神を眺めていると、魔法薬学のレポートを完成させた魔理沙が話しかけてきた。……こいつ、性格に見合わぬ綺麗な字だな。魅魔はペン字講座で食ってけるんじゃないか?

 

「なあなあ、リーゼはホグワーツで一番ふかふかなソファって何処にあると思う? 二人掛けくらいの小さいやつでさ。」

 

「ふかふかなソファ? ……校長室かな。私の知る限りじゃ、あそこのが一番ふかふかだったはずだよ。」

 

「あー、校長室か。他には? もっとこう、誰でも入れるような場所にあるソファで心当たりはないか?」

 

「……そういえば、この前はハリーからクッションの在処を聞いてたね。何を企んでいるんだい?」

 

思い出したぞ。その時話題に上がった医務室のクッションは、見事に行方を眩ませてしまったはずだ。ポンフリーが双子を疑って問い詰めていたのを覚えている。……ひょっとして魔理沙が『拝借』したのか?

 

まさかクッションが一人で旅行に出るはずなどあるまい。ジト目で質問を返す私に、魔理沙は慌てて首を振りながら言い訳を放ってきた。

 

「ああいや、別に何かを企んでるわけじゃないぞ。単に気になっただけだ。他意はないぜ。」

 

うーむ、嘘くさい。そして咲夜が急にレポートに没頭し始めたのも気になるな。私は集中しているから聞こえません、と全身で表現しているようだ。……にしては、さっきから同じ場所でペンが動いてるぞ。

 

まあ、正直言ってちょっとした悪巧み程度なら煩く言うつもりはない。そういうのも一つの経験なのだ。フランや双子ほど積極的にやられるのは困るが、一切やらない『ハーマイオニー・パーシー路線』もそれはそれで心配になる。怒られて教訓を得るというのも大事だろう。

 

問い詰めるべきか、放置すべきか、はたまたひっそりと見守るべきか。悪戯娘たちを前に思い悩む私に、規律の守護天使どのが声を掛けてきた。いつの間にか女子寮から戻ってきていたようだ。

 

「お待たせ、リーゼ。これよ。」

 

「ありがとう、ハーマイ……いや、長すぎないか? フリットウィックが出した宿題は羊皮紙一巻きだったはずだよ?」

 

「色々書くことがあって、ちょびっとだけオーバーしちゃったのよね。」

 

「『ちょびっとだけ』?」

 

目の前の羊皮紙はどう見ても三巻き近くあるぞ。『ちょびっとだけ』にしては随分な迫力ではないか。……というか、これだと要約して写すのも一苦労だな。正攻法でやるのと労力的には大して変わらなさそうだ。

 

引きつった顔で羊皮紙を見つめる私に、ここぞとばかりに魔理沙が声を投げかける。

 

「おっと、それじゃあ私は自主練してくるぜ! 咲夜、ボール投げるのを手伝ってくれよ!」

 

「へ? えっと……行ってきます!」

 

すたこらさっさと逃げ出す魔理沙に続いて、ぺこりとお辞儀した咲夜もレポート片手に談話室を出て行った。ふむ、逃げられてしまったようだ。……今度透明になってこっそりついて行ってみるか? あるいは気配を探るのもいいかもしれない。

 

実際のところ、この城には『死なないギリギリ手前』くらいのものならいくつか存在しているのだ。暴れ柳、五階の底なし階段、地下牢の氷の部屋、三階のダストシュート。あとはまあ、禁じられた森とか、教員塔の惑わしの絵画とか。

 

二人とも要領のいい子だし、そこまで心配することじゃないとは思うが……ふむ、やっぱり気になるな。何せどっちも謎を見れば解かずにはいられないような子なのだ。好奇心の赴くままに突っ込んでいくのが想像できてしまう。

 

今度それとなく探ってみようと考えつつも、アンネリーゼ・バートリは『ちょびっとだけ』多いレポートに向き直るのだった。

 

 

─────

 

 

「よし、今日はここまでだ! 明日は朝練もあるから、死ぬ気で体を休めろよ!」

 

夕暮れの競技場に響くウッドの声を聞いて、霧雨魔理沙は疲れた足で歩き出した。イースター休暇は結局最終日まで『休暇』にならなかったな。休んだ記憶なんて全然ないぞ。

 

優勝の懸かった最終戦を目前に、ウッドの練習は熾烈を極めているのだ。グリフィンドール対スリザリン。スリザリンが二百十点以上で勝てばスリザリンの優勝、グリフィンドールが百八十点以上で勝てばグリフィンドールの優勝、それ以外ならハッフルパフの優勝となる。

 

そして今年卒業のウッドにとっては学生時代最後の試合だ。彼の『演説』に文句を言っていたチームメイトたちも、何だかんだで勝利で送り出してやりたいらしい。自然と練習にも気合が入っている。

 

もちろん私だって同じ気持ちだ。今日もハリーの仮想敵として必死にスニッチを追い続けていた。つまるところ、全員揃ってへっとへとなのである。足が鉛みたいだぞ。

 

「女子が先よ。覗いたら顔をクラゲにしてやるからね。」

 

アンジェリーナの脅しに男子たちが力なく頷くのを尻目に、女子四人組で先に更衣室へ入る。先日双子が『ちょっとした手違い』で片方の更衣室を使用不能にしてしまったため、順番での着替えとなっているのだ。

 

まあ、あの様子では覗くような元気もあるまい。双子は眠そうな目で座り込んでいるし、ハリーなんかは地面にべったりと寝そべっている。……死んでないよな?

 

そのまま更衣室に入り、疲れた体に鞭打ってノロノロと着替えを終えたところで……おや、ネズミだ。中央にあるベンチの上でネズミがチューチューと鳴いているのが見えてきた。

 

「ネズミが覗いてるぞ、アンジェリーナ。クラゲにしなくていいのか?」

 

「ネズミなんかに構う元気はないわよ。今度フィルチに言ってネズミ取りを設置してもらいましょ。……最近見なかったのに、また増えてきたのかしら?」

 

疲れ果てた私の声に、全く同じ声でアンジェリーナが返してくる。全くもってその通りだ。今の私たちに害獣駆除する余裕などない。ネズミを追うのは猫にでも……おい、こいつ!

 

「何だよ、馬鹿ネズミ!」

 

何なんだ、一体! いきなり飛びかかってきたネズミがローブのポケットに入り込んでしまった。うおお、妙な病気とか持ってないだろうな? 慌ててポケットをひっくり返すと、ネズミは必死な様子で何処かに走り去……ちょっと待て、古ぼけた羊皮紙を咥えているぞ。

 

「くそっ、待てよ! そのネズミを捕まえてくれ!」

 

言わずもがな、忍びの地図だ。身体に不釣り合いな獲物を口にしたネズミを、シャツのボタンを留めていないアリシアがキャッチしようとするが……ダメか。素早い動きで避けた害獣は、そのまま壁に空いた小さな穴の中へと消えて行く。フィルチのやつめ、だから修理しろって要望を出したのに。

 

「あちゃ、もう少しで届いたんだけど。……あの羊皮紙、大事な物だったの?」

 

「結構な。……ちくしょう、どっかに繋がってるみたいだ。何だってネズミなんかが羊皮紙を欲しがるんだよ。」

 

穴に手を突っ込みながらアリシアに言葉を返すと、ローブを着ていたケイティが杖を振って呼び寄せ呪文を唱えてくれた。

 

「アクシオ、マリサの羊皮紙。……ダメだわ。もう遠くまで行っちゃってるのかも。ごめんね、マリサ。」

 

「……いや、私が不注意だったんだ。すまんな、騒がせて。」

 

強がりを言ってはみたが、これは結構ショックだぞ。あの羊皮紙が無けりゃ深夜の散歩はできないし、安全に星見台に入るのも一苦労だ。……咲夜にも怒られちゃうな。

 

呆然とネズミが消えて行った穴を見つめながら、大きくため息を吐くのだった。

 

───

 

落ち込みつつも談話室に戻ると、咲夜はハーマイオニーと一緒に試験勉強の真っ最中のようだ。リーゼは……いないな。また夜の散歩か? 許可があるってのはズルいぜ。

 

「ちょっといいか? 咲夜。話があるんだ。」

 

「あら、お帰り、魔理沙。……いいけど、星見台のこと?」

 

後半を囁き声に変えた咲夜に頷いて、人気のない窓辺へと誘導する。二人で窓の桟に座り込みながら、先程起こった『窃盗事件』についての説明を始めた。

 

「さっき更衣室で着替えてた時にさ、地図を盗られちまったんだ。あー……その、ネズミに。」

 

言葉にしてみると馬鹿みたいな話だな。泥棒ネズミだなんて、寓話の世界観だぞ。かなり情けない顔で言う私に、咲夜はキョトンとしながら首を傾げる。

 

「ネズミに盗られた? それはまた、奇妙な話ね。」

 

「すまん。……怒ってるか?」

 

「いやまあ、あれは元々魔理沙の物なんだし、別に怒ってはいないけど……どうするの? もう星見台に行けないってこと?」

 

「夜はもう無理かもしれん。罰則やら減点は嫌だろ? 天文塔の辺りは人通りが少ないし、昼休みとかなら何とかなるかもだが。」

 

好きな時間に『秘密基地』に行けなくなるってのは結構なショックだ。折角ソファやらクッションやらを集めて設置したってのに。あれを『借りる』のだって一苦労だったんだが……。

 

申し訳なさげに言う私に、咲夜は苦笑しながら言葉を放った。

 

「まあ、仕方ないわよ。石は無事なんだし、別にもう入れなくなったわけじゃ……ちょっと待って、ヤバいわ。明日の変身術の課題、星見台に置きっ放しよ。」

 

急に焦り始めた咲夜の言葉を聞いて、私も頭を抱える。その通りだ。イースター休暇に出たクソ長い変身術のレポート。一昨日に星見台で完成直前まで書いた後、今日仕上げることにして置きっぱなしにしたんだった。練習のことで頭がいっぱいになって忘れてたぞ。

 

「朝に取り行けば……ああ、ダメか。明日も朝練があるんだ。ウッドの様子を見る限り、抜け出すのは不可能に近いぜ。」

 

「私だけで行ってきましょうか? ただ、そうなると朝の短時間で仕上げることになるわよ。……無理ね。絶対に無理。」

 

変身術は明日の一コマ目だ。完成直前といえども、咲夜の言う通りそんなに少ない時間で仕上げるのは不可能だろう。

 

「……よし、今行こう。外出禁止時間まではまだちょっとだけ余裕がある。ギリッギリ間に合うはずだ。」

 

「それしかないわね。そうと決まれば急ぎましょう。フィルチに見つかったら難癖つけられるに決まってるわ。この時間ならまだ見回りを始めてないでしょ?」

 

頷き合ってから、さっそく談話室の扉へ向かうが……おいおい、いきなりハーマイオニーに呼び止められてしまった。幸先悪いぜ。

 

「あら、二人とも。そろそろ外出禁止の時間に入るわよ? お出かけは明日にすべきね。」

 

「あーっと、更衣室に忘れ物をしちゃってな。大丈夫、すぐに戻ってくるぜ。」

 

「そう? 二人で行くなんて仲がいいのね。気をつけて行ってらっしゃい。」

 

さほど疑う様子もないハーマイオニーに返事を返して、扉を抜けて走り出す。薄暗い階段を駆け上っているところで、前を走る咲夜が問いを放ってきた。

 

「石はちゃんと持ってる?」

 

「おう、あるぜ。……そっちが持っておくか? 私は地図を失くしちゃったしな。」

 

石は交代交代で持っておくことにしているのだが、この分なら咲夜が持っておいた方がいいかもしれない。伺うように提案してみれば、咲夜は苦笑混じりの答えを返してくる。

 

「あのね、さすがに気にし過ぎよ。そのまま持っといて頂戴。今なら油断がない分、私より安全でしょ。」

 

「……ん、わかった。」

 

若干気を遣わせてしまったらしい。頭を掻きながら厄介な仕掛け階段を上りきると、見慣れた天文塔の螺旋階段が見えてきた。

 

「誰もいない、よな?」

 

「多分ね。そもそもまだ外出禁止時間じゃないわ。誰かに何か言われてもそう返せばいいのよ。」

 

「そりゃそうだ。その言い訳が通じるうちに急ごうぜ。」

 

言い放って、今度は螺旋階段をひたすら上る。……練習の後にこれはキツいな。この後宿題を仕上げなきゃと思うとうんざりしてくるぞ。面倒くさがらずに一昨日終わらせとけばよかった。

 

次からは真面目に宿題をしようと人生何度目かの決心をしたところで、ようやく星見台の入り口へと到着した。他に人は……よしよし、居ないな。

 

「魔理沙、早く。」

 

「おう、任せとけ。」

 

急かす咲夜に従って窪みへと石を嵌め込み、現れたドアへと飛び込んだ。そしてそのまま今度は隠し階段を駆け下りる。上りの次は下りか。いい筋トレになるぜ、まったく。

 

一番下のドアを押し開けると、見慣れた星見台の風景が見えてきた。……名残惜しいが、今日はゆっくり星を観ている時間はないのだ。持ち込んだティーテーブルに置いてあった羊皮紙を手に取ると、咲夜と頷き合って再び走り出す。

 

「これだと間に合いそうだな。」

 

「そうね、談話室に帰ったらすぐ仕上げちゃいましょう。ハーマイオニー先輩が戻し呪文の失敗例を知ってればすぐに終わりそうなんだけど……。」

 

「絶対に知ってるさ。ハーマイオニーの知らないことが一年生の課題で出るはずないだろ?」

 

内側から隠し扉を開いて、踊り場を抜けて螺旋階段を下り始める。多少余裕が出てきたせいで、歩調を緩めながら下まで到達したところで……おおう、びっくりしたぞ。いきなり廊下の向こうから声をかけられた。

 

「こんばんは。君たちは……確かグリフィンドールの一年生でしたね。こんな所で何をしているのですか?」

 

ラデュッセルだ。いつもの胡散臭い笑みを浮かべて、私たちに歩み寄ってくる。硬直して言い淀んでいる咲夜に代わり、こっちも笑みの仮面を被りながら口を開いた。……位置的に隠し部屋を出るのは見られてないはずだ。

 

「こりゃどーも。落し物をしちまってな。天文台で昼メシを食った時に落としたのかと思って探しに来たんだよ。もう帰るとこだ。」

 

「おや、それは大変ですね。落し物は見つかりましたか? 良ければ手伝いますよ?」

 

「いやいや、それには及ばんぜ。ちゃんと見つかったからな。……ほら、行こうぜ、咲夜。」

 

咲夜の手を取って歩き出そうとするが……おいおい、何のつもりだ? ラデュッセルは行く手を阻むように立ち塞がる。

 

「ああ、少し待ってください。よく考えれば……そろそろ外出禁止の時間ですね。もう暗くなってきましたし、私が一緒なら教員の方々に説明するのも容易い。談話室まで送りましょう。」

 

「……結構だ。あんたには仕事があるんだろ? 迷惑かけるわけにはいかないさ。」

 

「そんなことは気にしないでください。大人として放っておくわけにはいきません。ほら、行きましょう。」

 

ニコニコ顔でラデュッセルは急かしてくるが……私たちはこいつが壁をぶん殴ってるところを見ているのだ。はいそうですねとついて行く気分にはなれない。

 

なんとか言い訳を捻り出そうと思考を回していると、意外なところから助けの言葉が飛んできた。

 

「おや、これはこれは。なかなか珍しい面子じゃないか。……ごきげんよう、ラデュッセル刑務官。私の後輩が世話になっているみたいだね。」

 

薄暗い廊下の先から歩いて来たのは、見慣れた黒髪の吸血鬼だ。安心すると同時に、隣の咲夜がびくりと震えるのを感じる。……あー、そういえばこいつ、リーゼにだけはバレたくないって言ってたっけ。

 

真っ青になってプルプルし始めた咲夜を他所に、キツネとコウモリの会話は続く。どっちも胡散臭さじゃ負けてないな。ニコニコとニヤニヤで睨み合ってるぞ。

 

「どうも、ミス・バートリ。何やら困っているようでしたので、声をかけてみたんです。ほら、もう外出禁止の時間が近いでしょう? 何か『間違い』があったらいけないと思いまして。」

 

「お気遣い痛み入るよ、刑務官。だがまあ、その心配は不要だ。私がきちんと送り帰そうじゃないか。吸血鬼が一緒なら夕闇など些細な問題さ。」

 

「……そうですか、それならお任せしましょう。私はこれで失礼します。どうぞお気をつけて。」

 

仮面の笑みを浮かべたままで歩み去るラデュッセルを見ながら、リーゼが私たちに声をかけてきた。……今気付いたが、彼女の足元にはハーマイオニーの猫がいる。吸血鬼が猫と一緒にお散歩か? なんとも奇妙な絵面だぜ。

 

「さて、談話室に戻ろうか。私が言えたことじゃないが、夜の出歩きは危険だよ。ホグワーツには色々な顔があるんだ。夜にしか見せない顔もあるのさ。」

 

「あの……私、申し訳ありません、リーゼお嬢様。」

 

大きく頭を下げながら言う咲夜に、リーゼは苦笑しながら言葉を放つ。怒ってる感じじゃないな。むしろちょっと困っているような感じだ。

 

「謝る必要はないよ、咲夜。キミと魔理沙がちょくちょく『お散歩』をしてたのには気付いてたしね。……レミィなら止めるだろうが、私としてはそういう経験も大事だと思うよ。」

 

「えっと……知ってたんですか。」

 

「まぁね。だからまあ、怒ったりはしないが……そうだな、もう少し上手くやりたまえ。誰かに見つかるようじゃまだまだだよ。」

 

「はい!」

 

話が分かるヤツじゃないか。大きく頷いた咲夜の頭を撫でてから、リーゼは談話室に向かって歩き出した。私たちがその背に続くのと同じように、クルックシャンクスもブラシのような尻尾をピンと立ててついてくる。結構仲がいいのか? こいつら。

 

「なあ、クルックシャンクスと何をしてたんだ? この猫がうろつくとロンが怒らないか?」

 

歩きながら問うてみれば、リーゼはニヤリと笑いながら返事を返してきた。

 

「んふふ、一緒に狩りを楽しんでたのさ。……ま、獲物は姿を見せなかったけどね。このままだと時間切れかな。」

 

「獲物? おいおい、物騒だな。」

 

「大したことじゃないよ。詳しくはクィディッチの最終戦の後で話してあげよう。……キミたちに秘密があるように、私にも『ちょびっとだけ』秘密があるのさ。」

 

「吸血鬼の秘密かよ。……聞かない方がよさそうだな。」

 

どうせロクなことじゃあるまい。好奇心は多少疼くが、今は私も手一杯なのだ。最終戦の後で教えてくれるならそれを待つのが一番だろう。

 

クスクス笑う吸血鬼の背に続いて、霧雨魔理沙は薄暗い廊下を歩き続けるのだった。

 

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