Game of Vampire 作:のみみず@白月
「なんでちゃんと問い詰めなかったのよ! ああ、咲夜が不良になっちゃうわ! ピアスとか、革ジャンとか、真っ赤な髪とか……いや、真っ赤な髪は悪くないわね。普通にカッコいいじゃないの。」
校長室に響くレミリアの声を聞きながら、アンネリーゼ・バートリはうんざりしたように首を振っていた。親バカめ。
クィディッチの最終戦が行われる直前、校長室の『吸血鬼密度』はかつてない高さになっている。つまり、私、レミリア、フランが勢揃いしているのだ。この光景をカドガンあたりが見れば卒倒しそうだな。悪しき闇の眷属がひしめいてるぞ。
ちなみにダンブルドアはルーピンと一緒にブラックを迎えに行き、マクゴナガルはレミリアとフランのために観客席の日除けを準備、スネイプは……そういえば見てないな。また逃げたか? 煮え切らない陰気男は、未だにフランと会うのが怖いようだ。
フランはともかくとしてレミリアが何故来ているかといえば、ハリーたちへの説明に箔をつけるためである。肝心のネズミ抜きでもこの面子なら信じざるを得まい。特にロンなんかには効果覿面だろう。親が二人とも『コウモリ信者』なのだから。
そんな中、待機中の私たちの話題は先日咲夜が魔理沙と『お散歩』していたことの話になったのだ。レミリアは私が深く追求しなかったことが面白くないらしい。ぷんすか怒りながら翼を暴れさせている。
「キミね、私は咲夜が真っ赤な髪になるなんて嫌だぞ。それに、せっかく秘密を共有できるような友人が出来たんだ。根掘り葉掘り聞くのは締めつけすぎってもんだろう?」
ソファの背凭れに身体を預けながら言ってやれば、レミリアはビシリと私を指差して言葉を放ってきた。ドヤ顔なのが非常にイラつくな。
「はい出た、子供の声無きサインを見過ごすバカ親の特徴! そういう子供への無関心が不良への第一歩なのよ! 放任主義はいけないわ。子育て本にもそう書いてあったもの。」
「キミ、子育て本なんか読んでるのかい? 吸血鬼が子育て本? ……悪夢だな。スカーレット卿も地獄の底で悲しんでるよ。」
お前は一体どこに向かってるんだ、レミリア・スカーレット。呆れてため息を吐く私に代わり、カゴから出した不死鳥を撫でていたフランが口を開く。熱くないのか? それ。
「んー、私はリーゼお姉様に賛成かなぁ。折角ホグワーツに入学したなら夜の探検はやらないと損だよ。それが一番のメインイベントなんだから。」
「貴女たちと違って、咲夜はまだ人間なの! 寝不足で病気にでもなっちゃったらどうするのよ。ああもう、心配だわ!」
「もう、レミリアお姉様は心配しすぎ。私がそうだったみたいに、咲夜には咲夜の学生生活があるんだから。もっと自由にやらせてあげなよ。……あれ、眠いの? フォークス。」
覗き込みながらフランが話しかけると、不死鳥は甘えるように一声鳴いてフランの手にその身を擦りつけ始めた。……この焼き鳥め。私やレミリアには寄りつきもしないくせに、フランには随分と甘えているじゃないか。邪悪な吸血鬼はお嫌いらしいな。
フランがぶりっ子焼き鳥をカゴに戻すのを横目に、愛しい妹から反論されてちょっと項垂れているレミリアへと声をかける。
「親ってのは本当に危ない時だけ前に出るべきなのさ。何でもかんでも管理下に置くんじゃ、それはもうペットと変わらないだろう? 咲夜をもっと信じてやりなよ。」
「そりゃあ信じてるけど……でも、万が一何かあったらどうするのよ? その時は躊躇する気はないからね。」
「そりゃそうだ。そうなったら私たちで対処すればいい。大抵のことは解決できるさ。」
いくらなんでもそんな事にはならないだろうが、仮に魔法省が丸ごと敵に回ったって問題なかろう。現在の紅魔館の戦力は並ではないのだ。肩を竦めて言い放つと、レミリアは不承不承という感じで頷いた。
「……うー、わかったわよ。」
ようやく納得したか。コイツは咲夜のことになると本当に面倒くさくなるな。フランと顔を見合わせて苦笑したところで……入り口のガーゴイル像が動き出す音と共に、階段を下る一人分の足音が聞こえてくる。タン、タン、タン。なんとも規則正しい足音じゃないか。
「クソ真面目な足音……マクゴナガルだね。」
「ってことは、準備が終わったのかしら? フラン、日焼け止めは塗った? 翼にもちゃんと塗るのよ?」
「塗ったってば。それ聞くの五回目だよ、お姉様。」
私の予想だとあと五回は聞くぞ。痴呆症の吸血鬼が確認を終えたところで、予想通りにマクゴナガルが入室してきた。いつにも増してキッチリした服装だ。こいつも最終戦に向けて気合を入れているらしい。
「お待たせしました。日除けの準備は終わりましたので、そろそろ移動をお願いいたします。」
「リーマスとシリウスは? もう着いてる?」
「ええ、着いていますよ、フランドール。残念ながらブラックは変身したままですが、千切れんばかりに尻尾を振っていました。余程に楽しみなようですね。」
「私も楽しみだよ。ハリーは良いシーカーなんでしょ? ……うーん、でも、ハッフルパフの優勝も懸かってるんだよね。どう応援しようか迷うなぁ。」
ドアに向かいながら悩み始めたフランに、先導しているマクゴナガルが苦笑を返す。
「私としては是非ともグリフィンドールを応援して欲しいですね。三連覇だなんて……何年振りかしら。」
「それこそジェームズの頃以来なんじゃない? あの時のマクゴナガル先生ったら、号泣して喜んでたもんね。……実はみんなちょっと引いてたんだってよ。シリウスが言ってたもん。」
「もう、フランドール! 余計なことは言わなくていいんです!」
「ふふ、ごめんごめん。それじゃ、お詫びに今日はグリフィンドールを応援するよ。ハリーがスニッチを取るのは見たいしね。」
マクゴナガルがクィディッチ狂なのは昔からか。フランとマクゴナガルの会話を聞きながらガーゴイル像を抜けたところで、今度は私がマクゴナガルに問いかけを放った。
「そういえば、私はどっちで観るんだい?」
日除け付きな貴賓席の方が快適なのは間違いあるまい。椅子もいいのが置いてあるだろうし。……とはいえ、私がいなければハーマイオニーとロンが二人になってしまう。未だ冷戦の続く二人を一緒にするのは賢い選択とは言えないはずだ。
「お好きな方で構いませんが……そうですね、出来ればグリフィンドールの観客席で観てくれますか? 試合が終わったらウィーズリーとグレンジャーを連れてきてもらえると助かります。」
「ああ、そういえば二人も呼び出さないとだったか。それじゃ、そうしよう。」
適当にレミリアに呼ばれたとでも言って連れてくればいいだろう。私が同意の返事を返したところで、レミリアが思い出したように言葉を放った。
「ちょっと待って、咲夜はこっちでしょ? 当然そうよね?」
「キミはさっきの会話をもう忘れたのかい? 咲夜の好きなようにさせたまえよ。そっちで観たいならそう言うだろうし、グリフィンドールの観客席で友達と観たいのならそうするだろうさ。」
別にあの子の友達は魔理沙だけではないのだ。これまでの試合はルームメイトたちと一緒に魔理沙を応援してたし、今回もそうするかもしれない。あの子の社交性はパチュリーより格上で、アリスより若干下。要するに普通レベルなのだ。
「ぬぅ、それはそうだけど……。」
子離れ出来ない吸血鬼が曖昧な返事を口にしたところで、私は談話室の方へと道を変える。めんどくさい親バカの相手はマクゴナガルとフランに任せよう。時は金なり、だ。
「それじゃ、私は談話室に行くよ。また後で会おう。」
「はい、また後ほど。」
「リーゼお姉様もちゃんとハリーを応援してあげてね。」
「咲夜がそっちにいたら私が貴賓席にいるって伝えてよね!」
三者三様の返事を背に受けながら階段を上り、グリフィンドールの談話室の前へとたどり着くと……なんだそれは。寮生たちが信じられない程に巨大な横断幕を運び出しているのが見えてきた。見てると遠近感が狂いそうだぞ。
ここから見えているだけでも十メートルはありそうな真紅の横断幕は、どうやら談話室の中にまで続いているらしい。端っこが扉の蝶番に引っかかってしまったようで、寮生たちがわいわい騒ぎながら弄っている。小人が布に群がってるみたいで非常に滑稽だ。
「あ、リーゼ! 手伝ってくれよ! みんなで作ったんだけど、運び出すのに一苦労なんだ。どうも引っかかっちまったみたいでさ。」
「重すぎて広がらないと思うよ、これは。……それにほら、ロングボトムが潰れて死にかけてるぞ。」
「へ? ……ネビル! 大丈夫か!」
声をかけてきたロンが慌てて圧殺されかかっているロングボトムの救出に向かったところで、邪魔くさい殺人横断幕を押し退けて談話室へと入り込む。こんなもんを運ぶのは御免だ。私までバカの仲間だと思われてしまうだろうが。
スリザリンのバジリスクよりも長い横断幕は、予想通り談話室の中にまで続いていた。必死に運び出している寮生たちを横目に奥へ奥へと歩いて行くと……最後尾のあたりで横断幕を持っているハーマイオニーと咲夜が見えてくる。私は悲しいぞ、咲夜。キミまでこんなことに付き合っているのか。
「やあ、二人とも。面倒なんだったら私が火を点けてやろうか? 一瞬で解決するよ?」
「ダメに決まってるでしょ。ウッドのためにって、上級生たちが中心になって頑張って作ったのよ。チーム全員の名前が入ってる横断幕が燃えカスになったら幸先悪すぎるわ。」
「魔理沙の名前は私も手伝いました! 縫った後に、みんなで肥らせ呪文を使ったんです!」
どうやらこの横断幕をやり過ぎだと思っているのは私だけのようだ。まあ……確かにウッドの最後の試合が敗北ってのは哀れすぎるか。クィディッチに魂を捧げた結果がそれでは報われまい。悪魔だって同情するような事態だぞ。
「ほら、リーゼも手伝ってよ。……先頭は何をしてるのかしら。全然進まないじゃないの。」
「出口のところで引っかかってたみたいだよ。グリフィンドール生たちはもっと計画性ってものを学ぶべきだね。競技場まで運んだ後に、そこで肥らせ呪文を使うべきだったのさ。」
この寮に足りないのは正にそれだな。仕方なしに横断幕を手に取ったところで、パーシーの大声が談話室に木霊した。……うーむ、やっぱりアイツは柔らかくなったな。以前ならこういう騒ぎを止める側だったんだが、今じゃ指揮を執る有様だ。
「よし、みんな! 浮遊呪文で一気に運ぶぞ! 杖を構えて一斉に唱えるんだ!」
どうやら試合前だってのにグリフィンドールの団結力は頂点に達したらしい。一斉に杖を構えた寮生たちは、パーシーの合図で横断幕へと呪文を放つ。
「今だ! ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
重なり合った呪文の声と共に、ふわり横断幕が浮かび上がる。実に感動的な光景じゃないか。やってることがもうちょっとマシなら尚良かった。なんだってこう、変なところで団結力を発揮するのやら。
「いいぞ、戦士たちよ! 勝利をその手に! いざ進め!」
開きっぱなしの扉の裏から馬鹿騎士のはしゃぎ声が聞こえるのを尻目に、少しだけ呆れたため息を吐くのだった。早く戻ってきてくれ、レディ。理性的なキミが懐かしいよ。
───
そのまま応援席まで運び込まれた横断幕は上級生たちの魔法によって広げられ、ついにその全貌を表した。……認めよう、確かに迫力がある。これに比べればスリザリンの横断幕など緑の布切れにしか見えまい。
両端にはブラッジャーを噛み砕く獅子の姿が、そしてその間には煌めく金の糸で刺繍された選手たちの姿がある。当然ながら中央には優勝杯を手にしたウッドだ。……ふむ、ここだけはリアリティがないな。本当に優勝杯を手にしたならあいつは立ってなどいられまい。パタリと気絶するはずだ。
「これで負けたら恥ずかしすぎるぞ。逆にプレッシャーになりやしないか?」
支えのポールを設置しているパーシーを見ながら言うと、中列に席を確保したハーマイオニーが返事を返してきた。
「大丈夫よ、選手たちはきっと慣れてるわ。それに、一年生の時の『ポッターを大統領に』よりかはマシでしょ。……あら、貴賓席に天幕があるわね。あれじゃ観づらいんじゃないかしら?」
「ああ、あれはレミリアが来てるからだよ。彼女は日光がお嫌いでね。私と違って、貧弱吸血鬼なのさ。」
「レミリア・スカーレットさんが来てるの? 凄いじゃない。そりゃあ対応も丁寧になるわけね。ルシウス・マルフォイなんかとは格が違うわ。」
まあ、あの時は天幕なんてなかったからな。ナチュラルに親マルフォイを貶すハーマイオニーに苦笑しつつも、隣で驚いた顔をしている咲夜へと耳打ちを送る。一応伝えておいた方が良かろう。
「キミも向こうで観たいなら行っといで。フランも来てるよ。」
「妹様もですか? ……とりあえず、ご挨拶してきます!」
「気をつけて行くんだよ。」
「はい!」
元気よく城への階段を駆け下りて行く咲夜を見送ったところで、フーチがグラウンドの中央へと歩いて来た。ボールの詰まったトランクを持っているところを見るに、そろそろ試合が始まるようだ。
「いよいよね。」
ハーマイオニーが喉を鳴らしながら言うと同時に、私を挟んだ彼女とは逆側にロンが座り込む。微妙な沈黙が場を包むが……私のため息混じりの声がそれを破った。
「今だけは喧嘩を忘れる。……それでどうだい? ハリーのためにもそうしようじゃないか。」
両側を交互に見ながら言う私に、それぞれが曖昧な頷きを放ってくる。もう本当は仲直りしたいんだろうに。素直じゃないヤツらめ。
「……そうね。ハリーのためよ。」
「……うん、ハリーのためだ。」
うーん、ムズムズするぞ。もどかしいような、こそばゆいような、何だかちょっと微妙な感じだ。後数年も経てば色々と変わってくるのだろうか? 大人への階段はまだまだ高いな。
ぎこちなく見つめ合う二人を横目にしながら、アンネリーゼ・バートリはフーチのホイッスルを待つのだった。