Game of Vampire   作:のみみず@白月

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アズカバンの刑務官

 

 

「適当に情報を吐かせた後、内臓やら四肢やらを順番にミキサーにかけましょう。それを本人に飲ませるの。……どう?」

 

レミリアのとびっきり猟奇的な提案を受けるダンブルドアを見ながら、アンネリーゼ・バートリは同意の頷きを放っていた。悪くない提案じゃないか。本人に飲ませるってところが実に良い。

 

空き教室の椅子に縛り付けられたラデュッセルは、レミリアの言葉を聞いてなお無言で俯いている。ふん、いつまでそうしていられるか見ものだな。十分後には命乞いを泣き叫んでいることだろう。磔の呪文がお遊びに感じられるはずだぞ。

 

クィディッチ最終戦と同時に起こった事件は、今や収束に向かい始めた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは別室でフラン、ルーピン、ブラックとお話中だ。言わずもがな、十二年前の真実を教えるためである。

 

ただまあ、残念なことに結局ペティグリューは捕まらなかった。今も教師陣が捜索してくれているが、どうやらラデュッセルを見捨てて逃げ果せたらしい。恐らくネズミに変身して城外まで逃げてしまったのだろう。昔と変わらず、誰かを裏切るのは大得意なようだ。

 

ちなみに咲夜と魔理沙は医務室で強制的にお休み中である。怪我自体は軽い擦り傷があるくらいだったが、あれだけの吸魂鬼に囲まれていたのだ。守護霊の呪文も使いまくったようだし、精神を休める時間が必要だろう。

 

今回ばかりはハリーに感謝せねばなるまい。ハリーが時間を稼いだからこそフランたちが間に合い、だからこそ私とダンブルドアも森の方に対処する余裕が出来たのだ。観客席で日光にアタフタしてたレミリアとは大違いじゃないか。……いやまあ、一歩遅れた私も強くは言えんが。

 

とにかく、私たちはそんな苛々をちょうどいいオモチャで発散しようとしているわけである。咲夜に手を出した以上、この男が死ぬのは確定だ。であれば『有効』に使わねばなるまい。オモチャはきちんと遊んでから廃棄するべきなのだから。

 

私たちがフランの『包み焼きハンバーグ案』とレミリアの『内臓スムージー案』、そのどちらがより愉しめるかを考えていると、ダンブルドアがかなり渋めの苦笑を浮かべながら声をかけてきた。孫に無理なお願いをされたジジイのような表情だ。

 

「それは……些か残酷すぎますな。アズカバンに引き渡すのではいけませんか? あの場所も充分に罰に値すると思うのですが。」

 

「当然ダメよ。この男は今日ここで死ぬの。魔法史の教科書に載るくらいに残酷な死に方でね。それ以外は有り得ないわ。」

 

「その通りだ。言っておくが、今息をしてるのだっておかしなことなんだぞ。……そうだ、ハーマイオニーの両親からドリルを借りようじゃないか。それで歯やら目やらを削るんだ。どうだい?」

 

「あら、素晴らしいわね。それをやってからミキサーにかけましょう。その方がいいわ。」

 

我ながら良い考えじゃないか。例のドリルに興味もあったし、実際に使えばどんなもんかがよく分かるはずだ。そうと決まれば早速ハーマイオニーに──

 

「お待ちください、お二人とも。先ずは……そうですな、情報を聞こうではありませんか。黒い棒とやらのこと、ペティグリューのこと、そしてトムのこと。それらを聞いてからでも遅くはないでしょう?」

 

「……別に構わんが、考えを翻すつもりはないぞ。この男は私たちが貰うからな。」

 

「その件は後ほど話し合いましょう。そろそろセブルスが……来たようですな。」

 

時間稼ぎをしようとするダンブルドアに釘を刺していると、薬を取りに行っていたスネイプが教室のドアを開けて戻ってきた。手にはいくつかの小瓶を持っている。見るからにヤバめな色のもあるが、どれが噂の真実薬だ?

 

「遅くなりました。……すぐに始めますか?」

 

「うむ。わしとセブルスとバートリ女史で開心術を使います。質問はスカーレット女史に任せてもよろしいですかな?」

 

「結構よ。さっさと飲ませて頂戴。」

 

レミリアの言葉を受けたスネイプは、慣れた手つきでラデュッセルに薬を飲ませ始めた。おやおや、昔取った杵柄ってやつか? 嫌がる相手に飲ませるのがやけにお上手だな。

 

透明な薬を飲んで途端にボンヤリし始めたラデュッセルへと、レミリア以外の三人で一斉に呪文を放つ。開心術はあんまり得意じゃないんだが……うーむ、この状況で一人だけ失敗したら恥ずかしいな。気合いを入れよう。

 

レジリメンス!(開心)

 

相手の精神に自分の視界をねじ込むような感覚の後……よし、入れた。左右のダンブルドアとスネイプも頷いているのを見るに、全員が成功を確認したようだ。そりゃそうか。ダンブルドアは元より、スネイプもこの呪文に関しては達人級なのだから。

 

「さて、それじゃあ最初に……ヴォルデモートとの関係について聞きましょうか。前回の戦争の頃から仕えていたの?」

 

レミリアの質問に顔を上げたラデュッセルは……ふむ、面白い。いつもの仮面の笑みではなく、感情のこもった笑顔で話し始める。ご主人様のお話が出来るのが嬉しいってか? これはこれで不気味だな。

 

「ええ、その通りです。戦争中期に接触を受けて、あの方の思想に感銘を受けたのですよ。その頃行き詰まっていた私の研究も、帝王のお陰で大きく進歩することが出来ました。」

 

「研究? どんな内容なの?」

 

「吸魂鬼の完全な支配です。私はエクリジスの直系の子孫でしてね。彼は途中で失敗してしまいましたが、私ならそれを完成させられる。そう信じてダームストラングで学び、そのためにアズカバンへと就職しました。非常に長い時間がかかりましたよ。」

 

エクリジスの子孫? 断絶してたのではなかったのか。……まあ、有り得る話だな。エクリジスには謎が多い。大っぴらに誇れるような名前じゃないし、子孫が隠れ住んでいてもおかしくはなかろう。

 

レミリアはチラリと私たちを見て、嘘を吐いていないことを確認してから尋問を続ける。

 

「それで、その研究成果が例の黒い棒ってこと? 咲夜によれば『モルガナの遺産』とか言ってたそうだけど?」

 

「吸魂鬼を最初に生み出したのが大魔女モルガナであることはご存知ですか? エクリジスはそれを再現しようとしたのですよ。……しかし、彼は自分の力を過信していたのでしょう。吸魂鬼を制御するための道具を手にする前に、彼らを生み出してしまったのです。その結果は……残念ながら、伝えられている通りですよ。」

 

「へぇ? その制御するための道具ってのがあの棒なわけね。……フランが壊しちゃったけど。」

 

うーむ、ちょっと勿体なかったな。吸魂鬼どもを利用できるってのは結構な強みだぞ。アズカバンの管理も容易くなるだろうし、何より戦争にも利用できそうだ。虫けら同士で潰し合ってくれるってのは魅力的な話じゃないか。

 

私と同じ事を考えたのだろう。レミリアもまた、ちょっと残念そうな表情になりながら続きを促す。

 

「まあ、ともかくもう無くなっちゃったわけだけど、なんだってそんなものがホグワーツに隠されてたのよ。モルガナが隠したってこと?」

 

「いいえ、マーリンですよ。モルガナを打ち倒した後、彼は破壊しきれなかった大魔女の遺産を各所に隠したのです。悪しき者の手に渡らないように、そしていつか誰かが破壊できるように。……候補は非常に多かった。かの魔術師は様々な場所に関わりがありますからね。旧魔法省、マーリン騎士団跡地、アーサー王の墓、選定の湖、そしてマーリン自身の墓。私は必死に彼の記した書物を探し続け、そして遂に一つの記述を見つけ出したのです。『我が偉大なる学び舎にそれを隠す』という記述を。」

 

「マーリンの学び舎。ホグワーツね。」

 

「その通りです。……しかし、そこまでたどり着いたところで帝王は姿を消してしまった。ダンブルドアのいるホグワーツに侵入するのは容易くはない。ようやく手に入れた答えに触ることが出来ないのは酷い苦痛でしたよ。……そんな中、落胆する私に声をかけてきたのがアズカバンの深奥に収監されている死喰い人たちでした。私が帝王に協力しているのを知る者は多くはありませんでしたが、僅かには存在していたのです。レストレンジ、ロジエール、ドロホフ。彼らだけは帝王の復活を確信していました。なればこそ彼らは私のことを秘密にし続けたのでしょう。彼らは私に地盤を整えることを命じ、来るべき日には脱獄を手伝うようにと迫ったのですよ。」

 

容易に想像できる話だ。どいつもこいつも『ご主人様』に骨の髄まで忠実な死喰い人じゃないか。十年以上経った今でもそれは変わってはいないらしい。北海の片隅で今も信じて待ち続けているのだろう。

 

忌々しい仮面どもを思って鼻を鳴らす私を他所に、ラデュッセルの話は続く。

 

「勿論私はそれを受けました。有り得ない話ではないでしょう? 帝王にはそれを信じさせるだけの力があったのですから。……そして細かい計画を話し合う中で、研究内容を知ったベラトリックスは私にレイブンクローの髪飾りの在り処を教えてくれたのです。ホグワーツに隠されている英知の髪飾り。彼女は帝王からその話を聞かされていたそうですよ。それを利用して吸魂鬼たちを仲間に引き入れ、事が終わった後は何処かに隠せと言われました。」

 

「レイブンクローの髪飾り?」

 

レミリアがポツリと呟いた疑問には、杖をラデュッセルに向けたままのダンブルドアが答えた。納得したような表情を浮かべている。

 

「ホグワーツ創始者が一人、ロウェナ・レイブンクローが遺した髪飾りのことですよ。身に付けた者の知恵を増すと言われております。……やはりあれは本物でしたか。」

 

「ああ、確か分霊箱の候補だったわよね。ちゃんと回収してる?」

 

「無論です。貴重な物ですが……仕方がありませんな。これが終わったらすぐさま破壊しましょう。」

 

「分霊箱だったらこれで三つ目よ。オマケ付きハンバーグだなんて、嬉しい限りじゃない。それで……そうそう、ブラックの脱獄に乗じてホグワーツに忍び込み、モルガナの遺産とやらを探し回っていたわけね。」

 

三つ目の分霊箱か。意外なところで意外な物が転がり込んでくるもんだな。ラデュッセルに向き直って問いを放つレミリアに、彼はボンヤリした表情で答えを返す。

 

「場所を見つけるのは簡単でしたよ。髪飾りがあれば僅かなヒントだけで十分でしたからね。……しかし、開くのは容易ではありませんでした。あらゆる魔法を試しても、マーリンの隠し部屋は開いてはくれなかったのです。」

 

「そんなこんなで苦労している間に、咲夜たちが開いちゃったってわけ? 十二歳の少女二人に出し抜かれるだなんて、何とも間抜けな話じゃない。……しかし、何だって蘇りの石が鍵になってたのかしら? マーリンと何か関係があるの?」

 

確かにそこは謎だな。ラデュッセルの心を覗いてもあれが蘇りの石だと気付いていなかったようだし、私の知る限りでは死の秘宝が世に出たのはマーリンの時代よりも少し後だ。……マーリンか、あるいはモルガナこそが秘宝の製作者なのだろうか? それがペベレル兄弟に渡った? うーむ、分からん。

 

レミリアと顔を見合わせて首を傾げているところに、ダンブルドアの慌てたような声が割り込んできた。

 

「お、お待ちください。蘇りの石? 蘇りの石を手にしていたのですか? しかも……それを咲夜に渡したと?」

 

「あら、言ってなかったかしら? ゴーントの指輪が分霊箱で、それを破壊したのは話したわよね? その指輪に嵌ってたのよ。蘇りの石が。」

 

「それはまた……死の秘宝を子供に持たせるとは、なんとも大それたことをしますな。心臓に悪いですぞ。」

 

「あのね、そっちこそ透明マントをハリーに渡してるでしょうが。ハリー・ポッターが持ってるのに、うちの咲夜が持ってないなんておかしいでしょ。これで対等よ。対等。ニワトコの杖も持たせたいくらいだわ。」

 

レミリアの意味不明な主張に、ダンブルドアは困ったような顔で黙り込んでしまう。……スネイプは無表情でノーコメントを決め込んでいるようだ。世渡り上手なヤツめ。

 

まあ……うん、確かにちょっと失敗だったかもしれない。如何に『おねだり』されたとしても、多分あれは十二歳の少女に持たせるような物ではなかったのだ。紅魔館の住人は咲夜にノーと言える勇気を学ぶべきかもしれんな。学んだところで実践できるかは不明だが。

 

かなり難易度の高い課題を定めた私を他所に、レミリアが再びラデュッセルへと質問を放った。

 

「これで大体理解できたけど……ああ、ペティグリューとはどこで出会ったの?」

 

「ペティグリューの方から接触してきたのです。彼は私の顔を知っている数少ない死喰い人の一人でした。匿って欲しいと言われたので、場所を提供する代わりに斥候として働かせていたのですよ。」

 

「ふーん? ……とにかく、貴方はヴォルデモートの居場所は知らないわけね? 単に復活を信じて行動していただけだったと。」

 

「その通りです。帝王は必ずイギリスに舞い戻り、今度こそこの地を支配してくれるでしょう。」

 

うーむ、大した情報は得られなかったな。モルガナの遺産はフランに『きゅっ』されてしまったし、ペティグリューはもう城にはいまい。収穫は分霊箱の疑いがある髪飾りだけか。……まあ、咲夜が生きてるならそれで万々歳と思っておこう。

 

「さて、もういいかしら? 他に聞きたいことはない? それならリーゼにドリルを借りてきてもらうけど。」

 

「少々お待ちを。……ラデュッセル刑務官、貴方は魔法省の人間から接触を受けましたかな? ドローレス・アンブリッジ、パイアス・シックネス。これらの名前に聞き覚えは?」

 

慌てて前に進み出たダンブルドアの問いに、ラデュッセルは焦点の合わない目でスラスラと答える。それがあったか。確かに聞いておきたい情報だ。

 

「どちらもあります。接触を受けたというよりかは、私から接触したのです。ホグワーツへの吸魂鬼による警備を押し通して欲しいと。ダンブルドアの失態になるような騒ぎを起こすという条件で、快く協力してくれましたよ。」

 

「ヴォルデモートに関しては何か言っていたかね?」

 

「何も。私も彼らも帝王の名前は出しませんでした。吸魂鬼がブラックを捕縛した際は、闇祓いではなくあちらに引き渡すようにとは言われましたが。」

 

「……ふむ。単純な権力欲から動いていたようですな。」

 

まあ、予想通りだ。彼らはお飾り魔法大臣が……というか、お飾り魔法大臣を操っているコウモリ女が気に入らないだけらしい。よく分かるぞ、その気持ち。

 

「ふぅん? あのカエル女の弱みを握れれば嬉しかったんだけど……まあいいわ。これで全部でしょ? それじゃ早速──」

 

「そこまでです!」

 

ダンブルドアの質問も終わり、いよいよレミリアが拷問を始めようとしたところで……アリス? ぜえぜえと息を切らしているアリスが部屋に突入してきた。

 

チラリとダンブルドアを見てみれば……おのれ、こいつか。間に合ったかと言わんばかりの顔をしている。ふん、無駄だぞ、ジジイ。アリスだって咲夜には甘いんだ。きっと一緒に『お料理』してくれるに違いない。

 

私が言葉を発する前に、レミリアがラデュッセルの頭をペチペチ叩きながら声を放った。ちなみにラデュッセルは何も分かっていないような表情でうんうん頷いている。どうやら真実薬の効き目はこの辺がピークのようだ。ちょっと面白い光景だな。

 

「あら、人形娘。貴方もお医者さんごっこをしに来たの? 先を譲ってあげてもいいわよ。ようやく『ナースちゃん』を使える日が来たじゃない。」

 

「違います! お二人とも、冷静に考えてください。その男はペティグリューのことを知っているんでしょう? シリウス・ブラックの無実を証明する手助けになるはずです。……殺したらフランに怒られますよ。」

 

「ぬぅっ……。でも、咲夜が危ない目にあったのよ! 咲夜が!」

 

……そういえばそうか。ペティグリュー本人が消えた今、ラデュッセルはブラックの無実を証明する為には必要な駒だ。こいつをおめおめと生きて引き渡すのは嫌だが、フランに怒られるのも嫌だぞ。

 

咲夜の名前を喚きながら足をダンダンし始めたレミリアに、意外なところから援護の言葉が飛んできた。今まで黙りを決め込んでいた我らが陰気男。セブルス・スネイプ閣下だ。

 

「私としても、この男を生きて返すのは反対ですな。私が尋問に協力しているところを見られていますし、何より分霊箱がこちらの手に渡ったことを知られる可能性があるでしょう? 我々が破壊して回っていると気付けば、帝王はより見つかり難い場所へと隠そうとするはずです。」

 

「その通りよ! よく言ってくれたわ、スネイプ。魔法省の開心術師なんて信用できないでしょ? 情報は私たちだけに留めておくべきだわ。」

 

ドヤ顔で頷くレミリアだったが、アリスが無言で突き出した物を見て顔色を変える。……なるほど。ダンブルドアがフランではなくアリスを呼んだのはそれを届けてもらうためか。出不精の魔女からのデリバリーだ。

 

ダンブルドアは穏やかな笑みを浮かべながら、アリスの突き出した丸薬を受け取って語り始めた。

 

「スカーレット女史が尋問された際にもこれを使ったと聞いております。閉心薬、でしたか? いやはや、ノーレッジには敵いませんな。薬学の分野ではイギリスで最優と言えるでしょう。」

 

つまり、都合の悪い記憶は閉じてしまえということか。ダンブルドアもアリスもゲラートが使ったことは知らないだろうが、レミリアがクラウチに尋問された時に使ったことは知っている。……何処ぞのおバカな吸血鬼が自慢げに話していた所為でな!

 

「はいはい、分かったよ。私だってフランに怒られるのは御免だからね。好きにしたまえ。」

 

両手を上げて降参の意を表した私を見てから、ダンブルドアは未だ納得しかねる様子のレミリアに向かって口を開く。

 

「範を示していただきたいのです。正しき選択は私怨による私刑ではなく、司法の手に委ねることでしょう? それでシリウスは自由の身になれる。……ここは譲っていただけませんか? この老体が伏してお願い申し上げます。」

 

深々とお辞儀するダンブルドアを見て……まあ、そうなるか。レミリアは大きくため息を吐いた後、疲れたように言葉を放った。

 

「ああもう、分かったわよ! 私だけが我儘を言うわけにはいかないわ。……それならアンブリッジの対応にも使わせてもらうからね。こいつに不愉快な『命令』をしたってことは証言させて頂戴。」

 

「勿論ですとも。感謝いたします、スカーレット女史、バートリ女史。」

 

安心したように頷くダンブルドアを横目に、レミリアは私の手を引きながら歩き始める。なんだよ、気持ち悪いな。お手々を繋ぐような歳じゃないだろうに。

 

「それじゃ、私とリーゼは行くから。後の処置は任せるわ。パチェから使い方は聞いてるでしょ?」

 

「ええ、任せてください。そっちは……咲夜のお見舞いですか? 医務室に居るんですよね?」

 

「それと、フランの方も見に行くわ。多分大丈夫だとは思うけど、説得が上手くいってるか確認する必要があるでしょう?」

 

「わかりました。後で私も顔を出します。」

 

アリスの声を背にドアを抜けたところで、レミリアが満面の笑みを浮かべながら囁きかけてきた。……ま、考えることは同じだな。これこそ吸血鬼の思考ってやつだ。

 

「……証言が終わって、ほとぼりが冷めた頃に殺しにいきましょ。一年後くらいかしら? 衰弱死に見せかければいいわ。」

 

「んふふ、それでこそ我が幼馴染だ。最低の女だよ、キミは。」

 

「お褒めの言葉をどうも。そっちこそ嬉しそうじゃない、性悪吸血鬼。」

 

「吸血鬼が身内を傷つけられて黙って引き下がるわけがないだろうに。……いやはや、アリスもダンブルドアも勉強不足だね。」

 

二人でクスクス笑いながら夕闇の廊下を歩き出す。なぁに、バレなきゃいいのだ。アズカバンで受刑者が死ぬのなんて珍しくもなかろう。私とレミリアの能力を駆使すれば、誰にもバレずに一人殺すくらいは難しくもあるまい。

 

闇夜がゆっくりとその腕を伸ばす中、アンネリーゼ・バートリは幼馴染と『計画』を練りながら歩くのだった。

 


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