Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ここから未改稿となっております。文体は徐々に落ち着いてくると思いますので、ここから先も楽しんでお読みいただければ幸甚です。


アリス・マーガトロイドと秘密の部屋
私の幸せな一日


 

 

「ふむ、相変わらずいい仕事をするようだね。」

 

アンネリーゼ・バートリはマーガトロイド人形店でフランへのお土産を選んでいた。この店の店主である老人は、何年経っても見た目の変わらない私に余計なことを言うわけでもなく、買い手と売り手の関係に徹してくれている。故に私も一定の節度を持って接しているわけだ。

 

ゲラートの『楽しいニューヨーク旅行』からは十年程が経過している。ヨーロッパに戻り、ロシアの魔法コミュニティをほぼ支配下に収めた彼だったが、結局イギリスに攻め入ることはなかった。

 

ヨーロッパ各地のレジスタンスはレミリアの援助の下で組織的な抵抗力を手に入れ、ゲラートの軍隊に対してゲリラ活動を行なっている。その対処に忙しいことが海峡を渡らない理由らしい。怪しいもんだ。

 

結局現在は遅々とした速度で自身の支配力をヨーロッパに根付かせつつ、秘密警察まがいの弾圧に力を入れている。つまり、戦況は膠着状態に陥ってしまったわけだ。

 

「こちらはどうでしょうか? 私の孫が作った物でして。贔屓目を抜きにしても中々の物でしょう?」

 

考えながら飾られた人形を眺めていると、店主が声をかけてくる。受け取ってみれば……なるほど、いい出来だ。丁寧な作りなのは共通しているが、店主の人形が写実的なのに対して、孫とやらはファンシーな人形を作るらしい。

 

「まだ九歳なのですが、人形には随分と関心があるようでして。息子はこの店を継いでくれませんでしたが、私の技術は孫が次代に継いでくれそうです。」

 

九歳でこれか。ゲームの戦況が凍りついている間にも、人間は着々と成長しているようだ。ゲラートに聞かせてやりたいな。

 

「ふむ、じゃあその人形と……これも貰っていこう。」

 

「はい、いつもありがとうございます。」

 

店主の人形と孫が作ったという人形を一つずつ買う。フランにどっちが好きか聞いてみるとしよう。

 

そんなことを考えながら店主が人形を包むのを待っていると、店の奥から一人の少女がこちらを見ているのに気付く。

 

金髪の肩まである髪に、青い瞳。肌の白さも相まって、まるで等身大の人形のようだ。あれが件の孫だろうか?

 

「……こんにちは。」

 

「こんにちは、お嬢さん。」

 

私が目線を送っていることに気付いたのか、少女はおずおずとこちらに近付きながら話しかけてくる。

 

「あの、わたしの人形を買ってくれるんですか?」

 

「ああ、いい出来だと思ったからね。」

 

やはりこの子が孫だったらしい。人形のような少女が人形を作っているわけか。童話の中の世界観だな。

 

「大事にしてくれますか?」

 

「あー、これは贈り物でね。まあ、贈る相手も人形が好きな子だから心配ないと思うよ。」

 

正直気に入らなければバラバラにされるだろうが、純真そうな少女に伝えるべきではないだろう。賢い私は人間相手にも気を遣うことを学んでいるのだ。

 

「よかった。」

 

安心したように少女が言う。作った人形の心配をするとは、多感な時期ということだろうか。

 

「ああ、申し訳ありません。孫の相手をしてくださったようで。包み終わりましたよ。」

 

店主から包みを受け取り、いくつかの金貨を払って礼を言う。少女に手を振って別れを告げると、遠慮がちに振り返してきた。

 

店のドアを開けて、通りに出たところで紅魔館へと姿あらわしすれば、エントランスは何故か妖精メイドだらけだった。これは……紅魔館中の妖精メイドが集まっているのではないだろうか。

 

「従姉妹様だ!」

 

「従姉妹さまー、遊ぼう?」

 

ワラワラと集まってくる妖精メイドを捌きながら何が起こっているのか見回してみれば、美鈴が必死に妖精メイドに何かを教えているのが見える。

 

「何をしているんだい? 美鈴。妖精メイドに教育しようとしているんじゃないだろうね?」

 

だとすれば、これほど無駄な行為はないだろう。ヒッポグリフに謙虚さを教えるようなものだ。

 

「あ、従姉妹様! 従姉妹様からも言ってやってくださいよ! ほら、埃飛ばしゲームですよー。楽しそうでしょう? ね?」

 

どうやら美鈴は遊びと偽って掃除をさせたいらしい。悪くない着眼点かもしれないが、残念ながら妖精メイドたちはあまり興味を惹かれていないようだ。

 

「えー、つまんないよー。」

 

「めーりんセンスないなー。」

 

「いやいや、じゃあこっちはどうです? じゃーん、モップかけ競争! ほら、競争ですよ?」

 

アホらしい。美鈴の無駄な努力を尻目に地下室へ向かう。なんたって、結果は分かりきっているのだ。妖精メイドはたとえそれが遊びだったとしても、すぐに飽きてどこかへ別の遊びを探しに行ってしまうのだから。

 

地下にある鋼鉄製のドアをノックして声をかける。フランはもう起きているだろうか?

 

「フラン、私だ。入っていいかな?」

 

「リーゼお姉様? いいよー。」

 

どうやら起きていたらしい。ドアを開けると、フランはベッドに寝転がりながら本を読んでいた。最近のフランは読書家だ。お陰でパチュリーはレミリアに姉が活躍するような本を探せとせっつかれている。

 

部屋を見渡せば、以前よりも物が増えていることがよく分かる。人形たちのために美鈴に作らせた小さな家や、山と積まれた世界各地のボードゲーム、水彩画の道具に、あれは……拷問器具に捕らわれたレミリア人形が心なしか悲しそうな瞳でこちらを見ている。なまじリアルに作られている分ちょっと怖い。

 

あの忌まわしき『情報お漏らし事件』以降、レミリアへの当たりが一気にきつくなった。どうもフランは自分がうまく乗せられたことに気付いてしまったらしい。レミリア必死のご機嫌取りも、あの人形を見る限りでは効果を見せていないようだ。

 

「いらっしゃい、リーゼお姉様。あのビビりヤローはまだイギリスに来ようとしないの?」

 

悲しいことに、フランの口はどんどん悪くなっていく。半分は美鈴のせいで、もう半分は予言者新聞のせいなのだろう。まあ、ゲラートがビビり野郎なのには同意するが。

 

「残念ながら小さなゲラートはお強いダンブルドアが怖いらしいね。未だに海峡を渡ろうとはしていないよ。」

 

「ふん、こんなんじゃあ、いつまで経っても決着がつかないよ。もう殆ど勝ってるのに……つまんなーい!」

 

全くだ。このままゲラートかダンブルドアが寿命で死ぬまで決着がつかないなんてことはないだろうな? 幾ら何でもそんな終わり方は興醒めだ。

 

「ま、もう少し待ってみようじゃないか。……それより、今日は新しい人形を買ってきたんだよ。」

 

手に持った包みを開けながらフランに言うと、飛び起きてこちらに近寄ってくる。

 

「わぁ、今度はどんなお人形? お家を美鈴に増築させたから、いっぱいのお人形で遊べるようになったんだよ!」

 

包みから二体の人形を取り出して並べてみると、片方の人形にフランの目が釘付けになる。どうやら勝負の軍配は若き人形師に下ったようだ。

 

「ふわぁぁあ……スゴいよ。この子、この子、すっごくかわいい!」

 

人形を高い高いしながらフランが部屋の中を飛び回る。とんでもない食いつきっぷりだ。

 

「かわいい、かわいい! リーゼお姉様、これまででいっちばん嬉しいよ!」

 

「それは良かった。その人形はいつも行ってる人形店の孫が作った物なんだ。店で会う機会があったけど、まだ小さな女の子だったよ。」

 

「他には? 他にはその子が作ったお人形はなかったの?」

 

どうなのだろうか? 買ってきた物にしたって店主から勧めてきたはずだ。どう見ても出来は問題ないが、子供が作ったということでまだ店頭には置かせてもらえないのかもしれない。

 

「ふむ、今度行った時に聞いてみるよ。何か希望はあるかい? あるなら頼んでみよう。」

 

「この子のお友だちが欲しい! ダメかな? リーゼお姉様。」

 

人形を抱きしめながらフランが聞いてくる。ダメなものか。今度店主に聞いてみるとしよう。

 

しかし、フランがここまで気に入ってくれるとは思わなかった。あの少女が人形作りを続けてくれれば良いのだが……そういえば、名前を聞き損ねたな。

 

紅魔館の地下室で、アンネリーゼ・バートリは人形のような少女のことを思い返すのだった。

 

 

─────

 

 

「あの、それで、ここがフリルになっているんです。この上からレースを羽織らせると……ほら! 模様が浮き出るんです!」

 

お気に入りの人形に服を着せてみながら、アリス・マーガトロイドはたった一人のお得意様に話しかけていた。

 

初めて会ったのは一年ちょっと前だったか。このお得意様の従妹だという人が、私の作る人形を気に入ってくれたらしい。

 

作った人形を誰かに売るのはあまり好きではなかったのだが、こうして人形たちのために洋服やアクセサリーを定期的に買っていってくれるのを見るに、きちんと大事にされているようだ。それなら私としても文句などない。

 

隣のお得意様を見れば、私よりも少しだけ年上に見える横顔の真っ赤な瞳が興味深そうに細まっている。アンネリーゼさんという名前らしい。ううむ……私の平凡な名前がみすぼらしく思えてしまう。

 

とにかく、どうやら興味を持ってくれたようだ。お父さんに怒られてまで夜遅くまで作業した甲斐があった。

 

どう見ても私とあまり変わらない年齢にしか見えないこのお得意様は、お爺ちゃんが言うには『自分の髪がまだ白くなかった頃』からのお得意様らしい。本当なのだろうか?

 

お爺ちゃんは詳しく話を聞くつもりは無いようだ。隣の庭を覗くべきじゃないのさ、なんて言っていた。私はちょっとだけ興味があるのだが、それを聞いて来なくなってしまったらと思うと、怖くてなかなか言葉に出来ないでいる。

 

「ふぅん? 面白いね。きっとあの子も気に入るよ。貰っていこう。」

 

「ありがとうございます!」

 

無事、お眼鏡に適ったようだ。よかった、これでお小遣いが増える。ようやくピカピカ光る魔法の糸が買えそうだ。

 

「そういえば、今年からホグワーツに入学するらしいね。」

 

「はい、そうです。……あっ、でも、人形作りは続けます!」

 

「んふふ、安心したよ。七年間も新しい人形が届かないと聞いたら、あの子の癇癪が爆発しちゃうからね。」

 

「えへへ、光栄です。」

 

実はホグワーツに行くことは、私にとってあまり嬉しいことではない。お父さんやお母さんと離れて暮らすのは嫌だし、友だちが出来るかも心配なのだ。おまけにこの店で人形作りを楽しむことも出来なくなる。向こうに持っていける道具を選び出すのを考えると、今から億劫なのだ。

 

それでもなんとか人形作りは続けるつもりでいる。こうして待ってくれる人もいるわけだし。それこそが職人の誉れだ、とお爺ちゃんなら言うだろう。

 

「しかし、ホグワーツねぇ。……ダンブルドアはいつになったら動くのやら。」

 

アンネリーゼさんがポツリと呟く。ダンブルドア? あの、アルバス・ダンブルドア先生のことだろうか?

 

なんでも、大陸の方ではグリンデルバルドとかいう物凄い悪い魔法使いが暴れ回っているらしい。そいつと戦っているスカーレットという人が、悪い魔法使いを倒せるのはダンブルドア先生だけだと言っているらしいのだ。

 

アンネリーゼさんもそう思っているのだろうか? でも……ダンブルドア先生にはホグワーツを守って欲しい気もする。ううむ、難しい。

 

眉を顰めて考え込んでいると、アンネリーゼさんが微笑みながら声をかけてくる。

 

「おっと、ごめんごめん。キミが気にするようなことじゃないさ。ホグワーツでは色々と楽しんでくるといい。」

 

「はいっ!」

 

アンネリーゼさんのこの優しい微笑みは大好きだ。こういう顔を見ると、やっぱり年上なんだなぁと実感する。

 

しかし、アンネリーゼさんもホグワーツの卒業生だったりするのだろうか? さっきダンブルドア先生のことを呼び捨てにしてたし、もしかして同世代とか? どうしよう、聞いてみようかな? お爺ちゃんの話が本当だとすれば、有り得ない話ではないはずだ。

 

「あの……ダンブルドア先生のことを知っているんですか? ホグワーツで一番の教師だって聞いてるんですけど。」

 

「ん? ああ、私の友人が同学年でね。まあ……魔法使いとしては優秀なんじゃないかな。残念ながら、教師としてのダンブルドアはよく知らないんだ。」

 

「そうだったんですか。」

 

あのダンブルドア先生と同学年だなんて、色々と比べられそうだ。私だったら落ち込んじゃいそう。その友人さんも苦労したのかな?

 

聞いてみると、アンネリーゼさんが笑い出す。目に涙を浮かべて笑いながら、その友人さんのことを教えてくれた。

 

「んふっ、むしろ、落ち込んだのはダンブルドアのほうだったかもね。ホグワーツに行ったらその世代の学年首席を調べてみるといい。私の友人の名前がズラリと並んでいるはずさ。」

 

凄い! ダンブルドア先生よりも優秀な成績だったらしい。それなら落ち込むなんてこととは無縁だったろう。私もそのくらい優秀な成績を取れたらいいなぁ。そしたらお父さんもお母さんも夜更かしに文句を言わなくなりそうだ。

 

「その人ってやっぱりレイブンクローだったんですか? それとも……グリフィンドール?」

 

「その子はレイブンクローだったよ。グリフィンドールにはダンブルドアがいたらしいね。……寮が気になるかい?」

 

「はい……その、ハッフルパフだったらどうしようと思って。お父さんはハッフルパフもいい寮だって言うんですけど、そんなこと言う自分はグリフィンドールだし。」

 

お爺ちゃんとお母さんはレイブンクローだったらしい。私だけハッフルパフやスリザリンだったらと思うと不安になる。

 

「まあ、あまり関係ないと思うよ。そうだな……これは内緒の話だよ?」

 

言うと、アンネリーゼさんはこちらに顔を近づけてくる。なんだろう?

 

「今世間を騒がせている、グリンデルバルドってのが居るだろう? 実はあいつは一度捕まっていてね。捕まえたのはハッフルパフ寮の出身者なんだよ。残念ながら、その後アメリカの魔法使いたちが取り逃がしちゃったけどね。」

 

驚いた。とっても凄い魔法使いがハッフルパフには居たらしい。噂の悪い魔法使いを捕まえるだなんて、ダンブルドア先生と同じくらい凄いということだろうか。

 

「とにかく、結局寮なんてのは当てにならないのさ。ハッフルパフにも優秀なヤツは居るし、レイブンクローにもお馬鹿は居る。スリザリンにもマグル好きが……まあ、居るかもしれないだろう?」

 

「えへへ、最後のは想像つかないですね。」

 

二人で笑い合って、ちょっと気分が楽になった。きっと気にしないほうがいいのだ。

 

「アリス、そろそろ出かける準備を……ああ、いらっしゃいませ。どうも作業に集中しすぎていたようでして、お出迎え出来ず申し訳ありません。」

 

「ああいや、キミの孫が代わりに持て成してくれたよ。お陰であの子にお土産もできたしね。……それじゃあ、そろそろ失礼させてもらおうかな、お代はここに置いておくよ。」

 

店の奥から出てきたお爺ちゃんに、アンネリーゼさんが声をかけてから立ち上がる。慌てて私も立ち上がった。お見送りをしなければ。

 

店の外で姿くらましするアンネリーゼさんをお爺ちゃんと見送って、急いでお出かけの準備をする。思ったよりも長いことお喋りをしていたらしい。

 

今日はお父さんとお母さん、それにお爺ちゃんと私、全員揃ってレストランにお出かけする予定なのだ。私の入学祝いということで、とっても高いところを予約してくれたらしい。どんな料理があるのかな? 今から楽しみだ。

 

アンネリーゼさんも来てくれたし、四人で食べる夕食はきっと美味しいはずだ。今日はとってもいい日になる予感がする。

 

急いでお気に入りの服に袖を通しつつ、アリス・マーガトロイドは微笑むのだった。

 

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