Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ボーバトンとダームストラング

 

 

「ブラウン、その派手すぎるマフラーはおやめなさい。パチル、髪についているバカげたものを取るように。……それと、ロングボトム! ネクタイがズレていますよ!」

 

校庭に並ぶ生徒たちに注意を飛ばしまくるマクゴナガルを見ながら、アンネリーゼ・バートリは小さくため息を吐いていた。ロングボトムへの注意は三回目だぞ。誰かあいつにネクタイの結び方を教えてやれよ。

 

遂に他校の生徒を迎えることになった当日。どうやら我らが副校長どのは、ホグワーツの生徒が服装も整えられないバカだとは思われたくないらしい。三日もすればこの学校のいい加減さには気付かれるだろうに、なんとも無駄な努力ではないか。

 

しかし……何だって外で待たなきゃならないんだ? もう夕方なんだぞ。クソ寒いし、風も強い。腐る程いるしもべ妖精にでも出迎えさせればいいだろうに。こんなことをしてると他校にナメられちゃうぞ、ダンブルドア。

 

まあ、残念ながら私に同意してくれるのは面倒くさげなスリザリン生と仏頂面のスネイプだけだろう。他の寮の生徒たちはワクワクした表情で、今や遅しとダームストラングとボーバトンの到着を待ち侘びている。当然、フリットウィックなんかもニコニコ顔で楽しげだ。

 

ちなみにいつもの三人組も、他校がどんな方法で来るのかを予想しながら前列の方に進んでいってしまった。つまり、風をモロに受ける位置にだ。私は人垣の内側から出る気にはなれんぞ。

 

風除けにマルフォイの飼ってる仔トロールを借りてこようかと考えていると、風に帽子が吹き飛ばされないように押さえる魔理沙が声をかけてくる。三角帽子がやけに似合うヤツだな。なんか知らんがしっくりくるぞ。

 

「なあなあ、レミリアもボーバトンの連中と一緒に来るんだろ? まだ陽が落ちてないぜ? 大丈夫なのか?」

 

「ポンコツだからそこまで考えが回らなかったんだろうさ。どんな乗り物で来るのか知らないが、車内に置き去りなのは間違いないね。」

 

「私、日傘を準備しておいた方が良かったでしょうか? 何なら今からでも……。」

 

「不要だよ。お留守番できないような歳じゃないんだ。車内に置き去りにされても死にやしないさ。」

 

心配そうな咲夜には肩を竦めて言い放つ。レミィちゃんは一人でお留守番できる良い子なのだ。放っておいても夜になったら勝手に出てくるだろう。手紙を見るにフランスじゃあ随分とお楽しみだったようだし、少しくらい退屈したって構うまい。

 

そのまましばらく吹き付ける風に耐えていると、全校生徒の先頭に立っていたダンブルドアがいきなり声を張り上げた。さっきからボケっと突っ立っていたから寒さで死んだのかと思ったが……ふむ、どうやら棺桶はまだ不要なようだ。元気なジジイだな、まったく。

 

「ほっほっほ。わしの目が確かならば、どうやらボーバトンの一行が到着したようじゃぞ。」

 

その目線は……空? 空に向いている。ぼんやりそっちの方を見てみれば、遥か彼方から巨大な馬車が徐々に近付いてくるのが見えてきた。パステルブルーの金属製で、車輪一つが三メートル以上はあるぞ。車体は言わずもがなの大きさだ。

 

「空飛ぶ家だ!」

 

シャッターを切りまくるクリービーの叫びもあながち間違いとは言えまい。何せ本当に家と言っても問題ないサイズなのだから。牽いている天馬までデカいせいで、遠近感がおかしくなりそうだ。

 

「すっげえな。神話の馬車みたいだぜ。」

 

「それをイメージしてるんだろうさ。フランス人ってのは、お綺麗な天使だの神族だのが大好きだからね。誰も悪魔をモチーフにしようとしやしない。バカばっかりだ。」

 

どう考えても悪魔の方がカッコいいだろうに。センスの無い連中め。馬車を牽く十二頭の天馬だって、どいつもこいつもお決まりのふわふわ翼だ。皮膜をつけろ、皮膜を! セストラルを少しは見習ったらどうだ、バカ馬が!

 

私が世の流行りに内心で猛抗議している間にも、巨大飛行物体を前にしたホグワーツ生たちの整列は見るも無残なことになっている。辛うじて列と言い張れるのはレイブンクローだけだ。他はワイワイ騒ぎながらぐっちゃぐちゃになってしまった。マクゴナガルは必死に立て直そうとしているが……諦めたまえ、副校長どの。これぞ我らのホグワーツさ。

 

そのまま馬車は禁じられた森を少し『削った』後に、轟音を立ててホグワーツ生たちの少し前方に着陸した。着陸の衝撃で地面が揺れたぞ。生徒たちが喉を鳴らして見守る中、暫しの沈黙の後……その巨大な扉を開けてこれまた巨大な人影が降りてくる。まるでガリバーにでもなった気分だな。ブロブディンナグからやって来たってか?

 

あのハグリッド並み……いや、ハグリッドよりもデカいな。とにかく彼女こそがボーバトンの校長、オリンペ・マクシームなのだろう。装飾品から服に至るまで、絶対に特注品であることが一目でわかる。全てがデカい。

 

近寄ってくるマクシームにダンブルドアが拍手を送ったのと同時に、同調圧力に屈した生徒たちがパラパラと拍手をし始めた。魔理沙は無邪気にパチパチと、咲夜は鼻を鳴らしている私を見て控えめにペチペチとだ。

 

「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ。ホグワーツは貴女がたを歓迎いたしますぞ。」

 

「ダンブリードール。会えてうれーしいです。おかわりーありませーんか?」

 

「お陰さまで、上々じゃ。」

 

へったくそな英語だな。差し出された巨大な手の甲に、ダンブルドアが精一杯背伸びをしながらキスをする。……長身のダンブルドアでさえあれか。私がやったら悪夢だぞ。当然、やられる側でもだ。まさかレミリアはやっちゃいないだろうな?

 

私が自らの背の低さを嘆いているのを他所に、マクシームはその背に続く青色の集団を手で示す。この目立つ女校長に気を取られているうちに降りてきていたらしい。

 

「わたーしの生徒たちです。」

 

どこか自慢げなマクシームの声に従って、水色の薄いローブを身に纏った集団が前へと進み出た。数は……十五人くらいか? あれがボーバトンの選抜生なわけだ。残念ながらフランス人どもには防寒具を用意する知能がなかったようで、誰も彼もが寒そうに身を縮こまらせている。

 

「驚いたね。マフラーやらコートやらはフランスには存在しないのか? ……もしくは、用意しようという脳みそが無いのかもしれんが。」

 

ポツリと呟いてみると、いつの間にか前列から下がって来たハーマイオニーが返答を返してきた。同情七割、呆れ三割くらいの表情だ。

 

「ホグワーツがここまで寒いとは思ってなかったんでしょ。見たところシルクだし……すっごい寒いわよ、あれ。風邪引いたりしないのかしら?」

 

「バカは風邪を引かないのさ。現にホグワーツ生だって引いてないだろう? ……ハリーとロンは?」

 

「ロンはフランス女どもをデレデレ見てるわ。お優しいハリーは構ってあげてるみたいだけど、私はそこまで暇してないの。」

 

おおっと、ロニー坊やは大きな失態を犯してしまったようだ。ハーマイオニーはこれでもかという冷たい表情で鼻を鳴らしている。心底呆れてる表情だぞ、これは。何か余計なことを言ったに違いない。

 

「ロン先輩はフランスの女性が好きなんですか? んー……でも、あの人たちよりもハーマイオニー先輩の方が美人ですよ?」

 

うーむ、捨てるロンいれば拾う咲夜ありだな。キョトンとした咲夜が後半をこっそり囁きかけたことで、ハーマイオニーの機嫌は急上昇したようだ。ニマニマしながら咲夜のことを撫でている。計算か天然かは知らんが、よくやったぞ。これでこの後の食事の空気も少しマシになったはずだ。

 

咲夜が場の空気を救っている間にも、ダンブルドアとマクシームの話は終わったらしい。『ウーマ』を『アグリッド』に任せられると知って安心したマクシームは、生徒たちと一緒に馬車へと戻っていってしまう。ダームストラングの到着まで中で待つつもりのようだ。……おい待て、ホグワーツ生はこのまま吹きっ晒しか?

 

「もう嫌だぞ、私は。正しい客人の待ち方というものを実行させてもらおう。」

 

誰にともなく宣言してから、城に向かって歩き出す。レディが外で震えて待つ? 有り得ない話だ。客人の方だってそんなことをされても喜ぶまい。ドン引きするだけだぞ。

 

「私はそういうことじゃないと思うんだがなぁ……。もっとこう、学校の行事的な意味だと思うぜ。」

 

「ちょっとリーゼ、この分だとダームストラングの登場も面白くなるわよ? 本当に見なくていいの?」

 

「結構だ。私は先に戻っているよ。」

 

呆れ果てた様子の魔理沙とハーマイオニーの声を背に、肩越しにヒラヒラと手を振って歩み去る。あの陰気な学校が『面白い』方法でなんか到着するもんか。電飾だらけの気球に乗って笑顔で手を振ってくるとでも? ゲラートやらラデュッセルやらの出身校なんだぞ、あそこは。死ぬほど陰気な登場をするに違いない。

 

慌てて付いてくる咲夜に歩調を合わせながら、アンネリーゼ・バートリはゆっくりと城への階段を上がるのだった。

 

 

─────

 

 

「堪え性がないわねぇ。いつまで経ってもガキなんだから。」

 

窓越しに映る城へと戻って行く幼馴染を見つめながら、レミリア・スカーレットは呆れたように呟いていた。やっぱり私の方が精神年齢は上だな。どうせ寒くて我慢できなかったのだろう。お子ちゃまめ。

 

とはいえ、この馬車の中が快適なのも確かだ。拡大呪文がかかっているらしい馬車の中は多種多様な部屋が揃っている。私は暖かなリビングで、寒空の下震えるホグワーツ生たちを高みの見物というわけだ。……もちろんワイン片手に。

 

しかし、咲夜だけは招きたかったな。うーむ、オリンペに伝えておけばよかった。……まあ、リーゼに連れられて暖かな城内に戻って行ったようだし、風邪を引く心配はあるまい。もうすぐ陽も落ちるから、そしたらゆっくり会いに行けばいいだろう。

 

スモークチーズを齧りながら考えていると、巨大なドアが開いてオリンペが入室してきた。この馬車唯一の難点は、飛ばないとドアノブに手が届かないことだな。生徒たちはどうやってるのだろうか?

 

『ダームストラングが到着するまでは、こちらで待たせていただくことになりましたわ。天馬たちの世話もお願い出来る方がいるようで。さすがはホグワーツですね。』

 

『ああ、ハグリッドでしょう? あの男なら心配ないわ。天馬だろうが何だろうが、それが魔法生物ならば上手く世話をするはずよ。』

 

『シングルモルト・ウィスキーが足りるかだけが心配です。あの子たちはあれしか飲まないもので……。』

 

なんともまあ、グルメな馬だな。ヴァッテッドモルトはお気に召さないわけか。フランスは馬まで気位が高いらしい。イギリスの馬ならきっと何でも食べるぞ。残飯だって構うまい。

 

心配そうにため息を吐くオリンペに苦笑しつつ、今まさに城内へと入っていく二つの人影を指差して声を放つ。

 

『ダンブルドアならきちんと用意してくれるわよ。……それより、あそこにいるのがアンネリーゼ・バートリとサクヤ・ヴェイユよ。もう城に戻っちゃうみたいだけど。』

 

『ヴェイユ……懐かしい名前ですね。常にフランスを支えた騎士の家。フランスでもう聞けないのが寂しくてなりませんわ。』

 

テッサ・ヴェイユの代からイギリスに移ってしまったが、フランスでもヴェイユの名は忘れられてはいないようだ。去り行く銀髪の少女を見ながら目を細めるオリンペに、ふと頭をよぎった疑問を投げかけてみた。

 

『そういえば、分家はまだ存在しているんでしょう? 何だってあの時の咲夜には引き取り手がいなかったのかしら? ダンブルドアは見ず知らずの親戚に引き取られるのを嫌がってたみたいだけど……。』

 

向こうも迷惑だろうし、アリスやフランのためにもということで私が引き取ることになったのだ。まあ、結果的には最良の選択に収まったわけだが。あの時引き取らなかったらと思うとゾッとする。こればっかりはダンブルドアに感謝する次第だ。

 

私の疑問を受けたオリンペは、窓から目を離しながらクスクス笑って答えを返してきた。

 

『当然、引き取ろうという話も出たそうですよ? しかし……貴女が引き取ると聞いた瞬間、どの家も身を引きましたの。貴女を差し置いて出しゃばれる家などフランスには存在しませんわ。』

 

『へぇ? ……嫌われてるわけではないのよね? フランスからイギリスに行ったことで、裏切り者的な感じに。』

 

『とんでもない! 闇の魔法使いと戦い、勇敢に死んでいった騎士を裏切り者などと言うはずがありません。称えこそすれ、蔑む者などフランスの恥ですわ。それが貴女の家の者ならば尚更です。』

 

『それを聞いて安心したわ。それならあの子にとっても、自分の家のルーツを知れるいい機会になりそうね。』

 

うむうむ、一安心である。フランスの生徒たちに咲夜が嫌味を言われたりしないかと、実はちょっとだけ心配していたのだ。オリンペの様子を見る限りでは無用の心配だったらしい。

 

満足そうにワインを口に含んだ私に、オリンペが素っ頓狂な言葉を放ってきた。

 

『それに、マドモアゼル・バートリでしたか? あの方は……ええと、その、妹さん、ではないのですよね? 家名も違いますし。』

 

「んぐっ……ぇほっ、い、妹なわけないでしょ! 気持ちの悪いことを言わないで頂戴、オリンペ!」

 

なんだそれは! あんな性格の悪い妹がいて堪るか! 私の妹はもっと可愛いんだぞ! ワインを盛大に吹きこぼした私に、オリンペはアワアワしながら謝ってくる。思わず英語に戻っちゃったじゃないか。

 

『ああ、申し訳ありません! 他の吸血鬼の方を見たのは初めてでしたので、その、もしかしたらと思いまして。とんだ失礼をいたしましたわ。』

 

杖を振って零れたワインを綺麗にしながら言うオリンペに、頭を押さえて説明を放つ。落ち着け、落ち着け。悪夢のような単語を頭から追い払うんだ、レミィ。リーゼが妹? 自害ものだぞ。

 

『親戚の吸血鬼よ。私にとってはめちゃくちゃ歳の離れた従妹ね。家格も同格だし、私とほぼ対等の存在だと思ってもらって問題ないわ。……バートリ家もヨーロッパ大戦には関わってたのよ? 私に協力して、色々と動いてくれてたの。スカーレットが表なら、バートリは裏。一枚のコインのような関係ね。』

 

年齢以外は嘘ではない。『バートリ家』がヨーロッパ大戦に関わったのは確かだし、私に協力してたのも本当だ。それとまあ、色々と動いてたってのも。……グリンデルバルドのためにってとこを省略しているが。

 

何にせよオリンペには『正しく』伝わったようで、途端に城の方を気にしながらソワソワし始めた。

 

『まあ! それなら感謝をお伝えしなければ! ……どうしましょう、何か贈物を持ってくるべきでしたわ。後でフランス魔法省に連絡を入れて届けてもらわないと。それに、生徒たちにも失礼のないように言い含めなければ。』

 

『そんなに気にしなくていいわよ。言ったでしょう? スカーレットとバートリは一枚のコインなの。貴女たちがスカーレットに感謝してくれてるのはよく伝わってるわ。それはつまり、バートリにもきちんと伝わってるってことよ。』

 

『それでも礼儀を通さなければフランスの名が廃ります。そのうちきちんと形式を整えて……あら、ダームストラングが到着したようですね。』

 

『そのようね。陽も落ちたし、私も出迎えに行くわ。』

 

良いタイミングだな。オリンペの『ソワソワ』を止めてくれたのはホグワーツ生たちの『ソワソワ』だった。窓の角度的にこちらからは見えないが、ヒヨコどもが湖の方を指差しながらピヨピヨ騒ぎ始めたのを見るに、ダームストラング一行がようやく到着したらしい。

 

オリンペの開けてくれたドアを抜けて、馬車の通路を出口に向かって歩く。デカい廊下に置かれた小さな家具がなんともチグハグに感じてしまう。言い表すのは難しいが……なんというか、高級な旅客車両に近い雰囲気の廊下だ。サイズ感だけがちょっとおかしいが。

 

既に出口の側に整列していたボーバトンの生徒たちは、私を見るなり姿勢を正して微動だにしなくなってしまった。……ワールドカップの時のオリンペの言葉は真実だったようで、この子たちは私に対して王族レベルの丁寧さで接してくるのだ。そりゃあ丁重に扱われるのは気分が良いが、ここまでくるとさすがに気恥ずかしいぞ。正直もっとフランクに接して欲しい。ものには限度ってものがあるだろうに。

 

リーゼに知られたら絶対にバカにされるなと考えながら、生徒の一人が開けてくれたドアを抜ける。すぐさまもう一人の生徒が踏み台を用意するのを手で抑えて、ふわりと飛んで地面に降り立った。オリンペがやる分には自然だが、私がやると踏み台有りでも『ピョン、ピョン』になってしまうのだ。ちょっと間抜けな光景なのである。

 

そのまま湖の方向に顔を向けてみると……うーん、らしいっちゃらしいな。ボロッボロの帆船が湖に浮かんでいるのが見えてきた。幽霊船もかくやという雰囲気だ。彷徨えるオランダ船の正体みたり、だな。

 

「おお、スカーレット女史。旅は如何でしたかな?」

 

「あら、ダンブルドア。快適だったわ。馬車ってのには風情があるしね。」

 

「ほっほっほ、実に羨ましい。わしもいつか乗ってみたいですのう……。」

 

「乗るなら早めにしときなさい。死んでからじゃ無理よ。」

 

ゆるりと近付いてきたダンブルドアに、適当な返事を返す。……なんだかんだでコイツの距離感が一番やり易いな。適当な皮肉も言えるし、丁度いい感じに礼儀も弁えている。気を遣われすぎるってのも疲れるもんだ。

 

そのまま私に続いてオリンペと……忘れてた。シャックルボルトが出てくる。ちょっと安心したような表情を見るに、あの男はようやくイギリスの地を踏めて安心しているようだ。ふん、フランスじゃ美術館巡りを楽しみまくってたくせに。

 

そのままダンブルドア、私、オリンペが並び、ダンブルドアの後ろにマクゴナガル、私の後ろにシャックルボルトが付く。その更に後ろにボーバトンとホグワーツの生徒たちだ。……早く来い、カルカロフ! この二人に挟まれてると、身長差が嫌でも目立つぞ!

 

私の『小さな』願いはどうやら通じたようで、帆船から木造の架け橋が伸びてきたかと思えば、その上を陰気な集団がゾロゾロ歩いて来た。ファーが付いた銀のマントと真紅のローブ。ふむ、ローブのセンスはあるらしい。

 

先頭を歩くカルカロフは私たちに近付くと……おお、胡散臭いな。へりくだるような笑顔を顔に貼り付けて駆け寄ってくる。元死喰い人どのは私たちに尻尾を振ることを選択したようだ。

 

「ダンブルドア! マダム・マクシーム! それに……スカーレット女史! これはこれは、なんとも豪勢なお出迎えだ! いや、遅れてしまって少々気恥ずかしいですな。申し訳ない。」

 

「元気そうでなによりじゃ、カルカロフ。それに、ダームストラングの生徒たちも。ようこそ、ホグワーツへ!」

 

「おひさーしぶりでーす、カルカロフ。会えてうーれしいでーす。」

 

「ご機嫌よう、カルカロフ。」

 

ありきたりな挨拶を放ってくるカルカロフに、こちらも空虚な笑みを浮かべて挨拶を返した。ダンブルドアは分からんが、少なくともオリンペと私は完璧な外交用の笑みだ。笑顔がタダでよかったな、カルカロフ。有料なら絶対に浮かべてなかったぞ。

 

「しかし、こちらは非常に暖かい! ここまで着込んでくる必要はなかったかもしれん。」

 

「ほっほっほ。ダームストラングの寒さに比べれば、イギリスの冬などなんということはなかろうて。」

 

カルカロフとダンブルドアの非常につまらんやり取りを聞きながら、ダームストラングの生徒たちを横目で確認してみれば……何やら私を指差してざわざわしているのが見えてきた。おいおい、あんまり吸血鬼を指差すもんじゃないぞ。教育がなってないな。

 

と、私を指差していた頭の悪そうな顔の男子生徒の手を強めに叩き落とした、もう一人の男子生徒が前に進み出てくる。細身の筋肉質で、ちょっとO脚気味の……ん? どっかで見た気がするな。

 

話している校長たちには目もくれず、近付いてきた男子生徒は私の目の前に……おい、やめろ。跪いたぞ。本当にやめてくれよ。このガキは中世からタイムスリップしてきたのか? またリーゼにバカにされるネタが増えたようだ。

 

「ミス・スカーレット。ゔぉくの友人たちが失礼をいたしました。ゔぉくたちにとって貴女を直に見れるのは光栄なことなのです。どうか不作法をお許しください。」

 

「あー……別に気にしてないから。普通に立って頂戴。」

 

今は二十世紀なんだから、跪かれても困るだけだぞ。私まで変なヤツだと思われちゃうだろうが。引きつった笑みで私が男子生徒を促したところで、校長会議をしていたカルカロフが慌てたように割って入ってきた。

 

「──だから、我々もホグワーツに……クラム! 一体何をしてるんだ! スカーレット女史に何か仕出かしたのか?」

 

「ポリアコフがミス・スカーレットを指差したんです。ゔぉくは謝るべきだと思って、それで──」

 

「ポリアコフ! この愚か者が! ……いや、大変失礼なことをしてしまったようで。スカーレット女史、どうか水に流してはいただけないでしょうか?」

 

ヘコヘコ頭を下げてるカルカロフに、ため息混じりの言葉を返す。こいつらは私を何だと思ってるんだ? 指差しただけでギロチンにかけるとでも? ダームストラングは闇の魔術なんかより先に『現代』の常識を教えるべきだぞ!

 

「あのね、私はそんな些細なことで怒ったりはしないわよ。それよりほら、さっさと城に入りましょう。ダームストラングはともかく、ホグワーツとボーバトンの生徒は風邪を引きかねないわ。」

 

「いかにも、その通りですな。さあ、どうぞ暖かな城内へ。とびっきりの夕食がお待ちかねですぞ。」

 

合わせるように声を上げたダンブルドアの言葉で、ようやく生徒たちが移動を始める。……これは、思ったよりも気疲れしそうな感じだな。ホグワーツ生は確かにいい加減だが、どうやら私はこっちが合っているらしい。結局ぬるま湯が一番ということか。

 

私の一挙手一投足に注目する二校の生徒たちを尻目に、レミリア・スカーレットはなるべく優雅な歩き方で城へと向かうのだった。

 


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