Game of Vampire   作:のみみず@白月

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空耳

 

 

「こちらです。」

 

案内してくれたシワシワの燕尾服を着たフィルチへと頷いてから、レミリア・スカーレットは用意された席へと腰掛けていた。これはまた、酷い席順だな。どうしてこうなったんだ?

 

昨日と同じく生徒たちで埋め尽くされた大広間の教員用テーブルには、かなり微妙な空気が漂っている。奥からバグマン、オリンペ、ダンブルドアという順の中央右手は悪くない。問題なのは左手の席順だ。

 

中央からカルカロフ、私、クラウチ、マクゴナガル、ムーディ、スネイプ……おいおい、悪夢だぞ。恐らく用意したのはダンブルドアでもマクゴナガルでもあるまい。なんたってクラウチの向こうに座るマクゴナガルは、これでもかというくらいに顔を引きつらせているのだから。

 

ダンブルドアが到着していないせいでカルカロフは居心地悪そうにモジモジしているし、クラウチはむっつり顔で黙りだ。そしてムーディなんかは決してカルカロフから目を離そうとしない。通常の方の目はスネイプとカルカロフを行ったり来たりで、魔法の目は固定されたかのようにカルカロフを注視している。……いくらこいつが怪しいとはいえ、さすがにこんな場で死の呪文を放ったりはしないと思うぞ。

 

そんな教員席の空気も他所に、生徒たちはわくわく顔でダンブルドアの到着を待ちわびているようだ。今日ばかりはハロウィンパーティーのご馳走が楽しみというわけではあるまい。その後にある代表選手の発表を待っているのだろう。

 

そのまま少しだけ無言のテーブルで退屈に耐えていると、ようやくダンブルドアがニコニコ顔で歩いて……おっと、席順を見てちょっと怯んだぞ。お通夜テーブルは彼にとっても楽しそうには映らなかったようだ。だったらちゃんと連絡しておけ、ジジイ!

 

「……えー、それでは! 今宵も宴を始めましょうぞ! 皆この後のことが気になっていることじゃろうが、先ずは腹ごしらえを済ませてしまおう。それ、たんと食べてくだされ!」

 

なんとか気を取り直したダンブルドアの言葉と共に、教員用テーブルの皿の上にも様々な料理が出現するが……おい、誰か手を伸ばせよ。レディが真っ先に手を出すわけにはいかんだろうが。

 

クラウチは無表情でつまらなさそうに水を飲んでいるし、カルカロフはゴマすり顔でダンブルドアに話しかけ始めた。ムーディは……料理を分解して毒を検出するのに夢中だ。こいつはホグワーツの食事に毒が仕込まれてると思ってるのか? さすがのイカれっぷりだな。それでも魔法の目はカルカロフを見たままだが。

 

仕方なくかぼちゃパイを一切れ取って、それを突っつきながら時間を潰す。このテーブルで何を食べようが不味いだけだ。……こんなことなら昼間のパーティーでもっと食べておけばよかった。あっちでは何だって美味く感じられたぞ。

 

グリフィンドールのテーブルで、美味そうに肉を食いまくってるリーゼを忌々しい気分で眺めていると……急に隣のクラウチが声をかけてきた。何だよ、沈黙に耐えかねたか?

 

「……スカーレット女史、先日フランス魔法省から厄介な事件の報せがありました。そちらも把握済みですかな?」

 

「ルネ・デュヴァルから聞いてるわ。スクリムジョールやボーンズにも話は通っているはずよ。……それがどうかしたの?」

 

「いえ、少々気になりまして。やはりゲラート・グリンデルバルドの残党が起こした事件なのですか?」

 

聞くクラウチの顔は……何だこいつ。直視して初めて分かったが、随分と青白い顔をしているじゃないか。殆ど病人みたいな見た目だぞ。心なしかいつもよりポーカーフェイスにもキレが無いし、もしかしたら具合でも悪いのかもしれない。

 

ちょっと怪訝に思いながらも、表情には出さずに質問の答えを放つ。何にせよ私が心配するのはお門違いだろう。クラウチだって私に心配されても嬉しくはあるまい。

 

「その可能性は薄いというのがフランスの判断よ。そして、私も同意見ね。あの事件はグリンデルバルドのやり方とは違うわ。」

 

「そうですか。他に何か情報は? フランスはどこまで捜査を進めているのですか? 関わっている人員などは?」

 

「……随分と興味があるみたいじゃないの。何か気になる部分でもあった?」

 

平坦な声で質問を捲し立ててくるクラウチに聞き返してみると、彼は少し不自然な長さの沈黙の後……ゆっくりと首を振ってから口を開いた。ぜんまい人形みたいな動きだな。なんか不気味だぞ。

 

「……いえ、国際魔法協力部として何か手助けが出来ないかと思いまして。それだけです。」

 

「そう? ……まあ、今のところやれる事は無いと思うわよ。あくまでもフランス国内での問題だしね。変にイギリスが首を突っ込むと、それはそれで問題になっちゃうわ。」

 

「そうですか。それは残念です。」

 

言うと、クラウチは再び水を飲む作業に戻ってしまう。変なヤツだな。あまり他人の仕事に首を突っ込むようなヤツじゃないと思ってたのだが。……古巣の心配か? それとも、グリンデルバルドに何か思うところでもあるのだろうか?

 

怪訝に思いながらも、ぼんやりとかぼちゃパイをフォークで切り分けて──

 

 

「ヴォルデモートだ。」

 

 

「……へ?」

 

何? ヴォルデモート? いきなりの囁き声にクラウチの方を見てみれば、彼は先程と同じ表情でジッと目の前のコップを見つめている。……いやいや、何だよいきなり。ムーディじゃないんだから、ちゃんと文脈を整理して話してくれ。

 

「どういう意味?」

 

「……何のことですかな?」

 

「ちょっと、何をすっとぼけてるのよ。貴方が今言ったんじゃないの。『ヴォルデモート』って。」

 

「……私は何も言ってはおりませんが。それに、その名前はあまり口にすべきではありませんな。食事中なら尚のことです。」

 

えぇ……? 確かに聞いたと思ったんだが、クラウチは本気でキョトンとしている感じだ。空耳? にしては随分と物騒な単語だな。ひょっとして、自分で思ってる以上に疲れてるんだろうか? 幻聴だなんてシャレにならんぞ。

 

「いや……まあ、何でもないわ。気にしないで頂戴。」

 

「そうですか。」

 

首を傾げながら言うと、クラウチは再びコップとの睨めっこを再開する。んー、モヤモヤするぞ。かといって単語が単語だけにしつこく聞き直すのもマズいだろうし……ああもう、何なんだよ!

 

しかし、リドルか。そういえばリーゼも昼間に言っていたな。『リドルのやり口に近い』と。……うーん、どうだろう。場所が場所だけに関わっていないとは思うのだが。

 

あのトカゲモドキは所詮イギリスの犯罪者に過ぎないのだ。ここじゃあ知らぬ者など居ないビッグネームだが、いざ大陸に出てみれば凡百の犯罪者に過ぎないはずだぞ。田舎のチンピラ的な。

 

いやまあ、さすがに凡百は言い過ぎかもだが……うん、何にせよグリンデルバルドと比較されて小物扱いされるのがオチだな。リドルが喧嘩を売ったのはイギリスという島国だが、グリンデルバルドは魔法界そのものに喧嘩を売ったのだから。

 

とはいえ、可能性自体は捨てきれないだろう。リドル本人が現在どんな状態にあるのかは知らないが、残党が関わっている可能性だってあるのだ。あの胸糞悪い仮面どもが。

 

マルフォイやカルカロフのように政治で逃げ切った者、ラデュッセルやペティグリューのようにそもそもマークされていなかった者。残念なことに、牢に繋がれていないリドルの残党というのはそこそこの数が存在しているのだ。その中にヨーロッパで延々燻り続けている火種に注目した者が居てもおかしくはあるまい。

 

でも、フランスでグリンデルバルドの模倣? ……うーむ、しっくりこないな。主義主張が全然違うだろうに。闇の印でもあれば話は早かったんだが。まあ、結局のところフランス魔法省が犯人を捕縛してくれることを祈るしかなさそうだ。

 

厄介な問題に思考を巡らせながら、再びかぼちゃパイを突っつく作業に戻るのだった。もう穴だらけになっちゃったぞ。

 

───

 

大広間の皿から綺麗さっぱり料理が消えた頃……いや、教員用テーブルは例外だが。とにかく食事がひと段落すると、機を見計らったダンブルドアがいきなり立ち上がった。

 

それを見た生徒たちは一瞬のうちに静まり返る。オリンペやカルカロフ、バグマンですら緊張した表情だ。緊張していないのは退屈そうな私と仏頂面三人衆だけだろう。……言わずもがな、クラウチ、スネイプ、ムーディである。

 

静まり返った大広間に、いつの間にか居なくなっていたフィルチがえっちらおっちらとゴブレットを運び込んできた。時折勢いを強める青い炎をかなり怖がってる感じだ。……誰か手伝ってやれよ。さすがに可哀想だぞ。

 

汗だくのフィルチが既に準備されていた切り株のような台座にそれを乗せたところで、ダンブルドアがようやく大声を放つ。

 

「さて、ゴブレットはどうやら代表選手を決めたようじゃ。名前を呼ばれた者は教員席の後ろのドアへと進み、奥の部屋で待つように。そこで最初の指示が与えられるじゃろう。」

 

にこやかな表情で説明を終えたダンブルドアは、杖を一振りして大広間の明かりを落とした。天井の星明かりだけに照らされる中、ゴブレットの炎が青々と燃えている。大した演出じゃないか。

 

ゆったりとゴブレットにダンブルドアが歩み寄ると……ふむ? 炎が青から赤へと変わり、噴火するように一気に燃え上がった。可哀想に、前の方の生徒がビビっちゃってるぞ。ハッフルパフの一年生らしき少女なんて涙目だ。

 

そのまま赤い炎の舌先からひらりと舞い落ちてくる一枚の羊皮紙をキャッチしたダンブルドアは、それに目を通しながら大声で読み上げる。

 

「ダームストラングの代表選手は……ビクトール・クラム!」

 

おや、跪き君か。万雷の拍手に包まれた大広間の中を、ゆっくりとビクトール・クラムが進んできた。ほんの少しだけ笑顔になっているのを見るに、彼にとっても普通に嬉しいことだったようだ。初めて子供っぽい表情を見せたな。

 

こちらに進んで来たクラムがダンブルドア、カルカロフ、私にだけ会釈して背後のドアへと通り過ぎたところで、再びゴブレットが赤く燃え上がる。一回一枚というわけか。

 

「さて、ボーバトンの代表選手は……フラー・デラクール!」

 

そしてボーバトンからはデラクールだ。オリンペが才能のある魔法使いと言っていた生徒の一人で、確か……ヴィーラの血が入ってるとかなんとか。イギリスに生まれなくてよかったな。

 

デラクールもまた嬉しさを抑えているような表情で、拍手の中をこちらへと歩いてきた。というか、選ばれなかったボーバトン生の落ち込み様が凄い。数人は顔を覆ってさめざめと泣いてるぞ。

 

デラクールはオリンペと私にだけぺこりとお辞儀すると、クラムが居るであろう教員席の後ろの部屋へと消えて行く。……なんかこう、交流のためのイベントだってのに、溝が深まってるような気がするんだが。

 

そして再び沈黙が訪れた大広間に、三度炎が上がる音が響いた。未だ名前を呼ばれていないホグワーツの生徒たちが期待の瞳で見つめる中、ダンブルドアが舞い落ちてきた羊皮紙を読み上げる。

 

「そしてホグワーツの代表は……セドリック・ディゴリー!」

 

誰だよ。私は全然知らんヤツだが、ホグワーツ生にとっては納得の人選だったようだ。茶髪の青年がハッフルパフのテーブルから歩いて来るのに、大広間の殆どの生徒が笑顔で声援を送っている。

 

そのままディゴリーは……おお、やるじゃないか。教員席の全員に対してという感じで一礼した後、軽やかな動作で背後のドアを抜けて行った。少なくとも一番大人なのはあのガキだな。しかし、ディゴリー? そういえばどっかで聞いたような気がするぞ。

 

「結構、結構。さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった者も含めて、皆で揃って代表選手たちを応援しようではないか。選手たちに声援を送ることで、皆が本当の意味で対抗試合に貢献でき──」

 

あー、あのバカ男の息子か。私が『小物フォルダ』からようやく情報を引き出したところで……ありゃ? 何故か静まり返っている大広間が目に入ってくる。ダンブルドアが何かたわ言を喋ってたはずだが。

 

キョトンと周りを見渡してみれば……おや、ゴブレットの炎が再び赤くなってるぞ。そらみたことか。だからあんな骨董品を使うのはやめろと言ったんだ。もうぶっ壊れてるに決まってるだろうに。

 

私が鼻を鳴らすのを他所に、ひらひらと舞い落ちてきた紙をキャッチしたダンブルドアは、しばらく険しい表情でそれを見つめた後に……ようやく声を張り上げた。

 

「ハリー・ポッター!」

 

……は? 思わずダンブルドアを見て、呆然としているグリフィンドールのテーブルのハリーを見て、そしてその向かいに座っているリーゼを見る。うーむ、怒ってるな、あれは。今にもダンブルドアに殴りかかりそうだ。あいつにしては珍しく翼をバタバタさせちゃってるぞ。

 

拍手どころかただの一つも物音のしない大広間を前に、レミリア・スカーレットは今年一番のため息を吐くのだった。

 

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