Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ゴシップ

 

 

「僕はただ『えーっと』って言っただけさ。それがなんだってあんなに長い文章に変わるんだ? 意味不明だよ。」

 

イライラと呟くハリーの声を、アンネリーゼ・バートリはブボチューバーの膿を搾り出しながら聞いていた。……膿? 膿だと? クソったれのスプラウトめ。こんな作業を生徒にさせるな!

 

冬の近付いてきた薬草園の温室の中では、グリフィンドールとハッフルパフの生徒たちが忌々しい植物の膿を絞り出すのに夢中になっている。というか、させられている。ロングボトム以外は全員うんざりした表情なのを見るに、今日の薬草学は『四年生が選ぶ今年最悪の授業』に晴れてノミネートされたようだ。

 

インパクトだけならスクリュートと互角だな、これは。今日使った安全手袋は絶対に捨てようと決意しつつ、どんより顔のハリーへと適当な相槌を送る。彼にとっては膿よりも気にするべきものがあるらしいが、今の私に構っているような余裕はないのだ。

 

「ハリー、その説明はもう聞いたよ。安心したまえ。私はキミが両親を想って夜な夜な泣いていないのを知ってるし、ハーマイオニーのお陰で愛を見つけたわけじゃないのも知ってるさ。」

 

「ごめんなさいね、ハリー。愛を教えてあげられなくって。……ちょっとリーゼ、全然搾り切れてないじゃない。膿袋の中にまだまだ残ってるわよ?」

 

「ふん、知ったこっちゃないね。私は今すぐこの草を焼き払いたい気分なんだ。むしろ我慢しているのを評価してくれ。」

 

「熱すると防衛反応で膿が飛び散るわよ。」

 

なんだそりゃ。つくづく忌まわしい植物だな。死に際まで汚いのか。……見た目だって最悪だぞ。極太ナメクジのようなテラテラした本体に、膿のたっぷり詰まった袋がいくつもくっ付いている。そして微かに動くおまけ付き。まるで悪夢を体現しているようじゃないか。

 

遠くで輝く笑顔を浮かべながら膿を搾り出しているロングボトムに冷めた目線を送っていると、ブボチューバーに注目を奪われた生き残った男の子が尚も文句を放ってきた。

 

「それに、僕はコリンと親友じゃない。あの記事には嘘しか書いてないよ。」

 

おや、ハリーはパパラッチのお仲間にされた部分も気に入らないようだ。もっともクリービーとしては親友扱いされてご満悦のようだが。大広間では一年生の弟に延々自慢してたぞ。

 

つまるところ、ハリーは今日掲載された予言者新聞の記事に怒っているのである。リータ・スキーターの書いた杖調べの時のインタビュー記事は、レミリアと私の期待を裏切らないような内容だったのだ。

 

曰く、ハリーは両親のことを想って夜な夜なグリーンの瞳から涙を零し、そんな寂しさを埋めてくれたハーマイオニーを通して愛を見つけ、その情報を提供してくれたクリービーは大親友で、両親から受け継いだ力をみんなに証明するために対抗試合へ立候補したらしい。……凄いな。一致してる部分が全然ないぞ。精々ハリーの瞳がグリーンってとこくらいだ。

 

ちなみにちょこっとだけレミリアのことも書かれていた。審査員に出しゃばってきた『悪趣味なコウモリ』は、選手にインタビューしていた記者を『堪え難い苦痛を伴う方法で』邪魔した挙句、ホグワーツの『貴重で代えの利かない備品』を破壊したとのことだ。こっちは概ね合ってるじゃないか。

 

脳裏に浮かぶポンコツ吸血鬼の反応を楽しみつつも、集めた膿をバケツに入れているハリーへと慰めの言葉をかける。あんなもん気にするだけ無駄なのだ。

 

「スキーターはゴシップ記者なんだよ、ハリー。そもそもホグワーツの人間は誰も信じちゃいないさ。スリザリンの連中だって、馬鹿にはしてくるが本気で信じてるわけじゃないだろう?」

 

「どっちにしたって同じさ。あのバッジを光らせながら、僕が泣いてないかって誰もがハンカチを渡してくるんだ。このままだとノイローゼになっちゃうよ。」

 

「なぁに、キミなら大丈夫だ。なんたって普通のヤツなら一年生の時点で既にノイローゼになってるからね。現状で元気爆発薬を愛飲してない以上、キミの無事は保証されてるよ。」

 

「褒めてくれてありがとう、リーゼ。次からは薬に溺れることにするよ。」

 

皮肉たっぷりにハリーが言ったところで、ようやくスプラウトが作業の終わりを告げた。まさか膿なんかを集める日が来るとは思わなかったぞ。もう二度と来ないことを願うばかりだ。……いや、本当に。

 

そのまま三人で薬草園を出て、城に向かって歩き出す。今日はハリーとハーマイオニーも薬草学で終わりなのだ。空いた時間はハリーの特訓。それが最近の日常である。ちなみにロンはフィネガン、トーマス、ロングボトムと一緒に別の方向へと歩き去って行った。問題解決はまだまだ先だな。

 

「それじゃ、今日は図書館で呪文の勉強ね。サクヤとマリサは授業があるんでしょ?」

 

柔らかい芝生を踏みしめながら聞いてきたハーマイオニーに、肩を竦めて肯定の返事を返す。

 

「ああ、今日は夜の天文学までびっしりだそうだ。星見台は無理だね。空き教室でもいいんだが……うん、やっぱり図書館にしておこう。話したいこともあるんだ。」

 

「話したいこと?」

 

「着いたら話すよ。……あんまり人に聞かれたい話じゃないしね。」

 

レミリアがバグマンから聞き出した情報を伝えねばなるまい。……ドラゴンだと? 今考えてもイカれてるぞ。しかも詳細は聞きそびれたようだし、色々と呪文を調べる必要がありそうだ。レミリア同様、私だって『ローストポッター』など見たくはないのである。

 

他愛ない雑談をしながら城内へと入り、図書室へと向かってひた歩く。すれ違う生徒の四人に一人は例のバッジを着けて囃し立て、二人に一人はハリーを睨み、そして全員が声をかけてこようとしない。なんともまあ、愉快な状況じゃないか。ここまでくると笑えてくるな。

 

まあ、一応ハリーに好意的な生徒も存在してはいる。クィディッチチームの連中や、ロングボトムにルーナ。先ほどロンと一緒だった同室のフィネガンやトーマスも何だかんだで好意的だし、熱狂的ファンのクリービー兄弟やジニーなんかは言わずもがなだ。

 

結構愛されてるじゃないか、ハリー。彼が憂鬱になる程度で済んでいるのも、ひょっとしたら彼らのお陰なのかもしれない。本人がどう思っているかは分からんが。

 

スリザリン生の嘲るようなヒソヒソ声を無視して図書館の入り口を抜けると、さすがに静かな館内が見えてきた。少なくともここでは誰も文句を言ってはこないはずだ。司書のピンスにすぐさま追い出されてしまうのだから。……どこの世界でも司書は怖いな。

 

隅っこの閲覧机の一つを占拠して、一息ついているハリーとハーマイオニーに言葉を投げかける。いきなりだが、本題に移らさせてもらおう。こればっかりはとって置いても消えて無くなってはくれないのだ。

 

「第一の課題はドラゴンだ。」

 

私の端的な言葉を聞いてキョトンとした表情を浮かべた二人のうち、先ずはハーマイオニーが再起動して質問を返してきた。その顔には驚愕と疑念がありありと浮かんでいる。……気持ちはよく分かるぞ、ハーマイオニー。私もレミリアから聞いたときはそんな表情だったはずだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。ドラゴン? それに……課題の内容は当日まで秘密じゃなかったの?」

 

「レミィに頼み込んだのさ。上手いことバグマンから聞き出してくれたらしいよ。」

 

「それって……まあ、いいわ。事が事だし、目を瞑りましょう。」

 

「おや、随分と寛容になったじゃないか。双子に弟子入りでもしたのかい?」

 

私の冷やかしにハーマイオニーが鼻を鳴らしたところで、ようやく事態を認識したハリーが諦観の表情でポツリと呟いた。なんとも儚い雰囲気ではないか。

 

「それじゃ、僕の命は十一月の末までだ。ロンも僕の葬式に出られて嬉しいだろうさ。……頼むから、バーノンたちは呼ばないでくれ。死んでまであいつらの顔は見たくないよ。」

 

「諦めるのはまだ早いぞ、ハリー。バグマンはドラゴンを『出し抜く』と言っていたそうだ。『倒す』でもないし、『仲良くなる』でもない。」

 

「そりゃありがたいよ。仲良くなるのは不可能だってハグリッドが証明済みだしね。それに、倒すのだって不可能さ。僕がドラゴンの軽いオヤツになるのがオチだよ。」

 

頭を覆うハリーを尻目に、ハーマイオニーが猛然と書棚の方へと歩み去って行く。恐らくドラゴン関係の本を探しに行ったのだろう。まあ、それが正しい。軽いオヤツになりたくないなら、頭を覆う前に行動すべきなのだ。

 

「先ずは『出し抜く』って言葉の意味を探るべきだね。……ドラゴンが守る門を抜けるとか? いや、守っている何かを奪うってのもありそうだな。何かを守るのはヤツらの本能だし、物語でもお決まりのシチュエーションだろう?」

 

悪竜と財宝ってのはお決まりのセットだ。いや待て、逆にこっちが守るパターンもあるな。略奪だって連中お得意の所業だぞ。ってことは、餌を持って逃げ回るとか? ……うーむ、どれを取っても絶望的な映像しか浮かんでこない。希望ゼロだ。

 

どうやらそれはハリーも同じだったようで、大きなため息を吐いてから言葉を放った。

 

「何にせよ、普通の呪文は効かないはずだ。昔ノーバートのことを調べた時に本で読んだ覚えがあるよ。大抵のドラゴンは、熟練の魔法使いが十人くらいで一斉に呪文を撃ち込まないと効果がないんだってさ。」

 

「もうこの際、ドラゴンをどうにかするってのは選択肢から外した方が良さそうだね。先ずは……うん、逃げる手段を確保すべきだろう。それが出来なきゃ何も出来ない。」

 

「同感だよ。盾の呪文でドラゴンの一撃を防げるとは思えないしね。」

 

全くもってその通りだ。バジリスクを思い出せばすぐに分かる。あの時はダンブルドアの無言呪文のみだとギリギリ押されて、アリスとマクゴナガルを追加すれば押し返せる感じだった。十五メートル級の蛇であれなら、ドラゴンの攻撃をハリーが防ぐなど夢のまた夢だろう。

 

ちょっとやる気になってきたハリーを見ながら、脳内に呪文のリストを浮かび上がらせる。飛翔術は……ダメだな。今から練習して使えるようになるとは思えない。姿くらましはそもそも違法だし、領内じゃ使えん。それでなくともバラけて食べやすくなるのがオチだ。

 

結構キツいかもしれんぞ、これは。リストに次々とバッテンをつけていると、大量の本を抱えたハーマイオニーが戻ってきた。あれが全部ドラゴン関係の本か? めちゃくちゃ多いな。

 

「とりあえず参考になりそうなのを手当たり次第に選んできたわ。……話は進んだ?」

 

「先ずは逃げる方法を探すことになったよ。後の話はそれからだ。」

 

私の返答を聞いて、ハーマイオニーは然もありなんと納得の頷きを返してくる。ミス・勉強のお墨付きはいただけたらしい。

 

「賢明よ。それじゃあ……そうね。私は有効な呪文がないかを探すから、二人はドラゴンそのものについてを調べて頂戴。先ずは敵を知らなくちゃ。」

 

「そうだね。そうしようか。」

 

少なくとも私はドラゴンについて詳しくはないし、脳内からも良さげな呪文は見つからないのだ。ここは素直に外部情報に頼るべきだろう。我らが秀才どのの命に従って、うず高く積まれた本から適当な一冊を抜き取った。

 

───

 

そして二時間強の間調べ続けた結果、いくつかの事実が判明した。そのうちの一つはドラゴンの弱点が目だということだ。……いやまあ、目が弱点じゃない生物の方が珍しいだろうが、要するにそこくらいしか無いということらしい。

 

「──だから、ドラゴンと不意に遭遇してしまった場合は目を狙って結膜炎の呪いを放ち、隙を見て逃げること。だそうよ。」

 

「その本を書いたヤツはアホだね。ドラゴンには鼻があって、耳もあることを知らないらしい。……おまけに『不意に遭遇してしまった場合』だと? どんな場所を歩いてたら不意にドラゴンと遭遇するんだ。ハグリッドの小屋とかかい?」

 

読んでいる本越しに呆れた口調で言い放つと、ハーマイオニーは頰を膨らましながら反論してくる。ちょっと可愛らしくて和むな。こういうのがないとやってられんぞ。

 

「これが一番現実的な方法なの! 視界を奪って、痛みに戸惑っているうちに逃げるのよ。他は複数人での対処法ばっかりだわ。……そもそも一人で挑む生き物じゃないのよ。」

 

二つ目に分かったことがこれだ。ハーマイオニーの言う通り、一人で挑むような生き物ではなかったのである。バグマンは課題の内容を考える際、この事実を見落としてしまったようだ。

 

牙にも爪にも尻尾の棘にも大抵は毒があり、種類によって様々なブレスを吐く上に、空は飛べるし動きも素早い。……さすがは皮膜派だけあるな。羽毛派の馬鹿どもとは大違いだ。

 

うんうん頷いている私を他所に、再び諦観の雰囲気を纏い始めたハリーが口を開く。

 

「これさ、僕だってそうだけど、他の選手も無理なんじゃないかな。大体、僕以外はぶっつけでドラゴンと対峙するわけでしょ? 不可能だよ、こんなの。」

 

「まあ、そうね。絶対に無理だと思うわ。バグマンさんは頭がおかしいのかしら?」

 

ナチュラルに毒を吐いたハーマイオニーだが……うーむ、あながち間違いとも言えまい。何をどうしたらこんな課題に決まるんだ? あの男、生徒を殺したくて対抗試合を復活させたんじゃないだろうな?

 

もう最後の手段を選択してしまおうか。つまり、私が透明になって介入するという手段を。かなり不自然なことになるのは目に見えているが、それ以外方法が無いように思えてきたぞ。

 

あるいはフランに頼んで遠くから『きゅっ』してもらうのもいいかもしれない。いきなりドラゴンが吹っ飛ぶのはさぞかし意味不明な光景だろうが、そうなれば原因解明は不可能だろう。気付くのは精々ダンブルドアとマクゴナガル、ムーディくらいだ。

 

私がかなり強引な解決方法を考えている間にも、ハリーとハーマイオニーの話は続く。

 

「とにかく、厄介なのは飛行とブレスよ。例えばこのウクライナ・アイアンベリー種は、1960度の炎を三十メートル近く吐くんですって。……1960度? いまいち想像つかないわね。」

 

「まあ、即死するってのはなんとなく分かるよ。……こっちのスウェーデン・ショートスナウトってのも凄いね。丸太を数秒で灰にしちゃうんだってさ。しかも俊敏に飛ぶ種だから、飛行速度は時速220キロ。ファイアボルトの最高速度とほぼ一緒だよ。」

 

「何にせよ防ぐのは無理ね。そもそも吐かせないか、狙いをつけさせないように……それよ、ハリー! ファイアボルトだわ!」

 

おお、びっくりした。いきなりハーマイオニーが大声を上げたせいで、ピンスが小走りでこっちに走ってくるぞ。ハリーも驚いた表情で固まってしまっている。

 

そのまま鼻息荒く犯人探しを始めたピンスをやり過ごしたところで、ハーマイオニーが小さな声で口早に提案してきた。

 

「ファイアボルトを使うのよ、ハリー。『俊敏な』種でさえファイアボルトと同じくらいの速度なんでしょう? ってことは、飛んでさえいれば少なくとも逃げ切れるわ。」

 

どう? とばかりに私とハリーを見るハーマイオニーに、苦笑しながら返事を返す。いやはや、やるじゃないか、ハーマイオニー。それは確かに名案だぞ。

 

「名案だと思うよ。となると……そうだな、呼び寄せ呪文を練習しておくべきだね。道具の持ち込みが許可されてるかは分からないし、そもそも持ち込もうとするのは不自然だ。杖だけあれば用意できるようにしておいた方がいい。」

 

「うん。箒に乗ってるなら捕まる気はしないよ。最悪そのまま逃げ回ってればいいしね。……まあ、みんなには馬鹿にされるかもだけど。」

 

「多分、ドラゴンを見た後なら誰も馬鹿にしないと思うよ。バグマンの脳みその心配をするのが精々だろうさ。家出しちゃいないかってね。」

 

情けなさそうに言ったハリーを励ましてから、とりあえずはホッと胸を撫で下ろす。無論最悪の状況になったら介入するのは変わらんが、ハリーが一人でも逃げ切れる手段があるに越したことはないのだ。

 

「それじゃあ、先ずは呼び寄せ呪文を仕上げてから、結膜炎の呪文を練習する。そんな感じでいきましょう。もちろん他にも良い呪文がないかは調べ続けるけど。」

 

ちょっと得意げなハーマイオニーが話を纏めたところで……おや、ダームストラングの代表選手が図書館に入ってくるのが見えてきた。えーっと、クレム? クロムだったか?

 

ぼんやりとした記憶を掘り起こしている私に、ハリーの呟きが正解を教えてくれる。

 

「クラムだ。本を読みに来たのかな?」

 

「ええ、そうでしょうよ。自分たちの船で読めばいいってのに、何だって毎日毎日ここに来るのかしら? ……ほら、余計なオマケがついてきたわよ。」

 

忌々しそうに呟くハーマイオニーの目線を追ってみれば……なるほど。キャーキャー言いながらクラムについてくる女生徒たちが見えてきた。あれは確かに余計なオマケだ。ピンスもかなりイライラした表情で見つめている。

 

ハーマイオニーは空いた時間は図書館に来ているようだし、先程の台詞からすると何度も遭遇しているのだろう。彼女は読書を邪魔する存在がお嫌いなようで、鼻を鳴らしながら吐き捨てるように言葉を放った。本を読んでいるときに声をかけたパチュリーそっくりだ。

 

「迷惑だわ。借りていくって発想はないのかしら。ダームストラングにだって図書館くらいあるでしょうに。」

 

残念、ハーマイオニー。あそこの図書館は持ち出し禁止だ。昔ゲラートが愚痴ってたのを聞いたことがある。なんでも『実用書』しか置いてない上に、出入り口で身体検査までやられるらしい。所変わればなんとやら、だな。

 

とはいえ、知らぬハーマイオニーにとっては非常に迷惑な存在のようだ。嫌そうに見つめていたかと思えば、やおら本を積み上げながら立ち上がった。

 

「本を片付けましょう。方針は決まったんだし、そろそろ夕食の時間よ。さっさと食べて、呼び寄せ呪文の練習をしないと。」

 

「ま、そうだね。呼び寄せ呪文くらいなら談話室でやれるだろうし、ちゃちゃっと終わらせようじゃないか。」

 

三人で手分けして本を片付けて、一人で本を読むクラムを背に図書館を出る。……あいつ、私たちの方をチラチラ見てたな。代表選手であるハリーを見てたのか、吸血鬼の私を見てたのかは分からんが。

 

まあ、特に不自然ではあるまい。どっちにしたって注目するには充分な理由なのだ。ダームストラングだからって一々疑うのはやり過ぎというものだろう。あの学校にもマシなヤツはいる。ゲラートとか……あー、ゲラートとかだ。あんまりいないな。

 

脳裏に浮かぶ北の学校を打ち消しながら、アンネリーゼ・バートリは大広間へと歩き出すのだった。

 


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