Game of Vampire 作:のみみず@白月
「見事だったよ、ハリー。脱帽だ。」
競技場に併設された救護用のテントから出てくるハリーに対して、アンネリーゼ・バートリは心からの賞賛を送っていた。さすがの私でも素直に褒めざるを得ないのだ、これは。
第一の課題は『奇跡的に』死者なく終了し、生徒たちは興奮しながら城へと戻っている。今日はどこの談話室もドラゴンの話で盛り上がるに違いない。そんな中、次の課題に関しての説明と一応の診察を受けていたハリーを四人で待っていたのである。
ちなみにディゴリーは少し前に友人らしきハッフルパフ生たちと一緒に城へ、デラクールとクラムもそれぞれの校長に連れられてデカ馬車とボロ船の方へと帰って行った。デラクールもクラムもこっちをチラチラ見てたのがちょっと気になるが……まあ、大したことではあるまい。あの連中の『チラチラ』にはもう慣れた。
くたびれた様子でテントを出てきたハリーは、私の声を聞いて嬉しそうに駆け寄ってくる。その手に持っているのは……ふむ? 『宝』とされていた金の卵だ。トロフィー代りにでも渡されたのだろうか? さすがにドラゴンの卵を模しているだけあって、近くで見ると結構デカいな。
「みんな! やったよ、上手く出来たんだ! みんなが手伝ってくれたお陰だよ!」
「いいえ、貴方の力よ、ハリー。本当に……本当に素晴らしかったわ。とっても勇敢だったわよ。」
「カッコよかったぜ、ハリー。特に最後のウロンスキー・フェイントは凄かった。クラムのやつ、絶対に悔しがってるぞ。」
ハーマイオニーと魔理沙の返事に、ハリーは照れくさそうに頰を掻く。いやはや、生きて帰ってきてくれて何よりだ。あのドラゴンには死を予感するに相応しいだけの迫力があった。突っ込んできた時は透明の状態でハリーの隣に居たが、あんなもん私でさえちょっとビビったぞ。
「それじゃ、さっさと談話室に戻ろうか。さすがに疲れただろう?」
城の方を手で示しながら言ってやると、ハリーは苦笑と頷きを返してくる。
「うん、ヘトヘトさ。あんなに神経をすり減らしたのは初めてだよ。クィディッチの初試合より緊張したんじゃないかな。」
初試合か。私は観れなかったやつだ。確かクィレルが箒から振り落とそうとした試合だったっけ。うーむ、僅か三年前なのに、遥か昔に感じられてしまうな。……まあ、確かにあれよりはドラゴンの方が怖かっただろう。箒は振り落とそうとするだけだったが、ドラゴンは火を吐いてくるのだから。
五人で城に向かって歩き出すと、咲夜が卵を指差して質問を放った。彼女もそれが気になっていたようだ。
「ポッター先輩、それはどうしたんですか? 課題達成の報酬とか? ……金ピカですし、売ったら高そうですね。」
「いや、これが第二の課題のヒントだって渡されたんだ。どうも開けられるっぽいんだよね、これ。中に何か入ってるとかじゃないかな。」
「それじゃあ、クラムさんだけはヒント無しですか?」
「ううん、ちゃんと交換してもらってたよ。ちなみに、次の課題は二月の末だって。」
つまり、約三ヵ月後か。随分と間が空くな。……いや、そんなもんか。全部で三つということは、最後の課題を学年末に持ってくるつもりなのだろう。むしろ第一の課題が性急すぎた感があるくらいだ。
とはいえハーマイオニーにとっては遠い話ではないようで、金の卵を睨みながら計画を立て始めた。何とも頼りになる子だな。
「それなら急いで調べないとね。対策を練ったり、使う呪文を調べる時間も必要なんだし。……今回の課題で命が懸ってるってのは充分理解できたわ。油断は禁物よ、ハリー。」
「そうだね、ムーディの言う通りだ。『油断大敵』さ。談話室に戻ったらすぐにヒントを確認して……。」
ん? 途中で口を閉じて立ち止まってしまったハリーの目線を追ってみると……おや、ロニー坊やが物凄く気まずそうな顔でポツンと立ち尽くしている。ごめんなさいをする子供の表情そのまんまじゃないか。
恐らく第一の課題を見て何か心境の変化が生じたのだろう。一種のショック療法だな。ロンは私たちに向かって中途半端に手を上げると、曖昧な笑みを浮かべながらこちらに近付いて来た。申し訳なさそうな、困ったような感じの情けない笑みだ。
「……それじゃあ、私たちは先に戻ってるよ。二人でよく話し合いたまえ。」
「でも、みんなも一緒に──」
「ダメよ。貴方たち二人で話すの。そうしなきゃ何も変わらないわ。……頑張りなさい、ハリー。」
ハーマイオニーと二人でハリーの肩を叩いて、金銀コンビと共に城へと戻る。ま、ハリーはついさっき巨大なドラゴンを出し抜いたのだ。親友との仲直りなんぞちょろいもんだろう。……それに、このくらいのご褒美はあって然るべきだぞ。
ぎこちなく話す二人の方を一度だけ振り返ってから、談話室へと一歩を踏み出すのだった。
───
「来たぞ、ハ……なんだよ、アンネリーゼたちか。」
そして談話室の扉を抜けると、手に手にクラッカーを持ったグリフィンドール生たちが大集合していた。……失敬な連中だな。こんなに美しい私の顔を見てがっかりするとは何事だ。
「何なんだ、一体。散らかすとマクゴナガルが怒鳴り込んでくるぞ。」
失礼なことを言った双子のどちらかに声をかけてみると、ドッペルゲンガー君は悪戯げに笑いながら返事を返してくる。うーむ、相変わらず悪戯顔の似合うヤツだ。生まれた時もこんな顔だったに違いない。
「そのマクゴナガル閣下なら、さっきバタービールをケースで差し入れてくれたぜ。今日ばかりは寮監公認でハリーのお祝いだよ。一緒じゃなかったのか?」
「キミの『妹』のロニーちゃんとお話し中だよ。ウジウジしてたのがようやく吹っ切れたらしくてね。そのうち二人でおてて繋いでやって来るだろうさ。」
「おっと、それならロニーちゃんのことも祝ってやらないと。友情とはかくも美しいものなりけり、ってな。」
「そりゃまた、素晴らしいお兄さんだね。私は兄が居なくて良かったよ。両親に感謝だ。」
ニヤニヤしながら爆竹を取り出した悪戯小僧に背を向けて、奥の大きなテーブルへと歩き出す。パーティーということは料理があり、料理があるということは肉があるはずなのだ。無ければそれはもうパーティーではない。
案の定揃っている各種料理を皿に奪い取っていると、後ろから凄まじい爆発音が響いてきた。……どうやらハリーとロンが到着したようだ。思ったより早かったな。
そこからはまあ、毎度お馴染みのどんちゃん騒ぎだ。ハリーに対する立ち位置を決め兼ねていたグリフィンドール生たちも、第一の課題を見て立場を鮮明にしたらしい。誰もがハリーによくやったと一声かけている。
呆れるほどに単純な連中だが……ま、これぞ我らのグリフィンドール寮さ。それに、少なくとも悪いことではあるまい。ハリーの憂鬱は多少紛れるだろうし、大広間はもはや針の筵ではなくなっただろう。本人の表情を見ればそれがよく分かるというものだ。やっぱり一番の原因はロンとの仲直りだろうが。
クリービー兄弟が暖炉の上にドラゴン対ハリーの写真を貼り出したあたりで、ソファの隣にハーマイオニーが座って話しかけてきた。ちなみに咲夜は魔理沙と一緒に同級生たちと話している。一年生や二年生にとってはかなり印象に残る出来事だったようだ。……そりゃそうか。ドラゴンだもんな。特にマグル生まれの下級生にとってはさぞ衝撃的だったことだろう。
「まったくもう、世話が焼けるわよね。二人とも子供なんだから。」
「おや、去年大喧嘩をしてたのは誰だったかな? キミは覚えてるかい? ハーマイオニー。」
「うっ……それはまあ、悪かったわよ。そうね、人のことは言えないわね。」
「んふふ、これぞ因果ってやつさ。」
クスクス笑いながら話していると……何だ? ハリーたちが居るあたりから大音量の耳障りな音が聞こえてきた。黒板やらガラスやらを、思いっきりナイフで引っ掻いたような音だ。
「ちょっと、何?」
「さぁね。誰かがバンシーでも連れ込んだかな? もしくはゴースト管弦楽団か。」
適当な予想を話し合っていると、ハリーを囲む人集りからロングボトムが歩いてくる。頭を押さえてブンブン振ってるのを見るに、彼はあの音を至近距離で聞いてしまったようだ。要所要所で運のないヤツだな。
「ロングボトム、今のは何だったんだい? 双子の新しい悪戯グッズか?」
「違うよ、リーゼ。ハリーが金の卵を開けたらああなっちゃったんだ。今はみんなで課題の内容を予想してるとこだよ。」
「ふぅん?」
料理の方へと歩いて行くロングボトムを見送って、ハーマイオニーとお揃いの疑問顔を見合わせた。ヒントにしては随分な音だったぞ。嫌がらせに近いくらいだ。
「何にせよ、面倒なのは間違いなさそうだわ。今度は謎解きからスタートってことね。」
「いやはや、退屈しなさそうじゃないか。」
これは前回と同じく、一応レミリアからも探らせた方が良さそうだな。第一の課題の内容を見るに、卵の謎を解かずに挑むってのは自殺行為だろう。バグマンに反省を期待するなどバカのやることなのだ。
写りが悪かったせいかブレスが箒に燃え移ってしまった写真のハリーを見ながら、アンネリーゼ・バートリはうんざりした気分でバタービールを呷るのだった。
─────
「──ですから、クリスマスの夜にはダンスパーティーが開催されます! これは他校との交流の場となるので、予定が無い限りはなるべく参加するように! 基本的には四年生からの参加となりますが、エスコートを受ければ下級生でも参加可能ですからね。」
大広間に響くマクゴナガルの声を聞きながら、霧雨魔理沙はトーストを追加で皿に盛っていた。私にとっちゃダンスパーティーなんぞよりもトーストなのだ。
第一の課題からは既に十日ほどが経過しているが、授業やらなんやらにかまけて卵の謎には未だ手をつけていない。……まあ、大丈夫だろう。第二の課題まではまだ二ヶ月以上あるのだ。ハリーとロンの友情も復活したし、みんなで考えればすぐに解けるさ。
そんな中、朝食の大広間でマクゴナガルが重大発表を放ったのである。今年のクリスマスの夜にはダンスパーティーとやらが開催されるらしい。……なんともご苦労なこった。人の踊ってる姿なんかを見て何が面白いんだか。意味不明だぜ。
呆れながらもトーストにスクランブルエッグと目玉焼きのダブル卵を挟む作業を行なっていると、話を終えたはずのマクゴナガルがこちらにツカツカ歩み寄ってくる。
「おいおい、また双子が何かやったか?」
「何もやってない日を探す方が難しいわね。もしあったら、その日をイギリス魔法界の記念日にすべきよ。」
私の呟きに向かいの咲夜が適当な返事を返したところで、一直線にこちらに向かって来たマクゴナガルは……ありゃ、ハリーか。キョトンとするハリーに向かって話し始めた。
「ポッター、ドレスローブはきちんと準備してありますね?」
「あー……はい。一応は。でも、僕はパーティーにはあんまり興味がないので。ダンスパーティーには参加しない予定です。」
「残念ながら、代表選手は強制参加となります。開会のダンスを四組で踊ってもらうことになりますので、きちんとパートナーを見つけておくように。……頑張りなさい、ポッター。」
最後だけ僅かに同情的に言ったマクゴナガルは、ハリーの返事も聞かずに逃げるように去って行く。……これはまた、酷い顔だな。ハリーはもう一度ドラゴンと戦えと言われたような顔になってしまったぞ。深い絶望の表情だ。
「ダンス? 僕、ダンスなんて踊ったことないよ。それに、パートナー? ……パートナーって?」
呆然と呟くハリーに、澄ました顔のハーマイオニーが冷静で無慈悲な答えを返した。
「パートナーっていうのは、貴方と一緒にダンスを踊る女の子のことよ。そしてそれは貴方が誘わないと手に入らないものなの。」
「……そんなことが出来ると思う? そんなの、恥ずかしいよ。一体どんな顔して誘えばいいのさ。」
うーむ、気持ちはよく分かるぞ。親しい人を誘うのは気恥ずかしいが、知らん奴を誘うのは無理だし嫌なのだろう。見てて哀れなほどにオロオロするハリーを横目に、悪戯げな表情に変わったリーゼがいきなり立ち上がる。何をする気だ? ……まあ、その表情を見るにロクなことじゃないのは確かだな。
リーゼはそのまま私の向かいの咲夜のところまで移動すると……おいおい、跪いてその手を取った。それもかなり大仰に、めちゃくちゃ芝居掛かった仕草でだ。咲夜が見たこともないほどに慌ててるぞ。
「リ、リーゼお嬢様? どうしたんですか?」
「……我が月の女神よ。麗しき白銀の君よ。貴女の美しく輝く銀髪が、どうにも私の心を捉えて離さないのです。貴女に魅了されてしまった哀れな吸血鬼を救うと思って、どうか私のパートナーになってはいただけませんか?」
「へぁ? うぅ、えっと……あの、喜んで?」
なんだこりゃ。信じられないほどに真っ赤な顔になった咲夜の手の甲にキスをすると、リーゼはクスクス笑いながらハリーに向かってウィンクする。
「こうするのさ。簡単だろう?」
「……嘘だよね? 頼むから嘘だって言ってよ。僕、それをやるくらいならドラゴン四頭と同時に戦った方がマシだ。それが全部ホーンテールでも。」
同感だ。これはリーゼと咲夜がやるからサマになるのであって、他のヤツがやっても間抜けなだけだろう。容姿が整った二人だからこそ成立した『演劇』なのだ。他だと間違いなく喜劇になるぞ。あるいは悲劇かもしれんが。
絶望を体現しているハリーに向かって、ハーマイオニーが苦笑いで言葉をかけた。……ちなみに咲夜は尚も真っ赤っかだ。こいつ、いきなり倒れたりしないだろうな? 今にも湯気が出そうなほどだぞ。
「今のはやり過ぎだけど、基本的にはそんな感じね。今のから跪くのと、『月の女神』と、『白銀の君』と、キスを抜いたのをやればいいのよ。……っていうか、貴女はどこでこんな手管を覚えたの?」
「おや、妬いているのかい? 私の『ヘルミオネー』。心配しなくても私はキミをギリシャ男なんかにくれてやったりはしないよ。ほら、私の胸に飛び込んでおいで。ずっとずっと私が守ってあげるから。」
「呆れた。……貴女が男に生まれてなくて本当に良かったわ。さぞ優秀な女の敵になったことでしょうね。」
「んふふ、モテる女はつらいね。」
何をしてんだよ、お前らは。余裕を持ってじゃれ合っているリーゼとハーマイオニーに対して、ハリーとロンは朝食すら手につかない様子で唸り始める。……ちょっと面白いな。対岸の火事なだけに安心して見られるのが高ポイントだ。
「おい、咲夜。いい加減再起動しろよ。」
特製サンドを頬張りながら声をかけるが、咲夜は黙って俯いたままだ。怪訝に思ってその顔を下から覗き込んでみると……こりゃダメだな。真っ赤な顔でだらしなくニマニマしている。全然聞こえちゃいないらしい。
ため息を吐きながらもう一度サンドイッチに向き直ったところで、ウンウン唸っていたロンがポツリと呟いた。
「僕、ダンスパーティーはいいかな。だってほら、参加しない自由ってのもあるだろ?」
「それもそれでかなり恥ずかしいことだと思うけどね。『僕はパートナーを見つけられませんでした』って大声で言ってるようなもんだよ。どうせ恥ずかしい思いをするなら、勇気を出して誰かを誘った方がマシじゃないかな。」
ほー、そういうもんだったのか。リーゼの忠告を聞いたロンは、再び頭を抱えて悩み始めてしまう。……しかし、こいつらは何でハーマイオニーを誘わないんだ? どう考えてもそれが正解だろうに。
「何にせよ、行動するなら急ぐんだね。女の子ってのは限りある貴重な資源なんだ。それが可愛い子なら尚更さ。今日から熾烈な奪い合いが始まるのは間違いないよ。」
言いながらリーゼは長いテーブルの出口側を指で示した。釣られてそっちの方を見てみれば……おお、双子とジョーダンがアンジェリーナ、ケイティ、アリシアを誘っているようだ。やるな、双子。シーカーの先を行くとは思わなかったぞ。
誘われた三人は薄っすら笑いながら頷いている。あれは結構嬉しい時の顔だ。私には分かるぞ。そして、それを羨ましそうに見つめる出遅れ二人組。……こりゃ中々の難題になりそうだな。
特製サンドの最後の一口を口にしつつ、霧雨魔理沙はなんだか面白くなりそうな予感に笑みを浮かべるのだった。