Game of Vampire   作:のみみず@白月

161 / 566
正しいゲームの遊び方

 

 

「ラベンダーはゴールドスタインに誘われたみたいよ。あんまりにも真っ赤っかだったから、ついついオーケーしちゃったんですって。」

 

本を広げながらクスクス言うハーマイオニーの話を、アンネリーゼ・バートリは苦笑いで聞いていた。なんともまあ、微笑ましい話じゃないか。ガキの求愛ごっこというわけだ。

 

いよいよクリスマス休暇が目前に迫ったホグワーツは、もはやピンク一色の有様となっている。用事で家に帰る者は安全圏から囃し立て、パーティーに出たい下級生はこれ見よがしにフリーをアピールし、そして一部の『臆病者』どもは日々埋まっていくカレンダーを恨めしそうに眺めているのだ。

 

そんな中、私とハーマイオニーは占い学に行った『臆病者』二人に代わって、卵から発せられる騒音に関しての情報がないかと図書館で調べ物をしているわけだが……まあ、残念ながら見つかりそうにないな。『音』なのか『声』なのかすら分からん始末だ。っていうかこれ、パチュリーにでも聞かせれば一発じゃないか?

 

ダンスパーティーにでも呼んでみようか? ……いや、来るはずないな。何たって、パチュリーとダンスパーティーというのはこの世で最も縁遠い組み合わせの一つなのだ。平行線で掠りもすまい。永久に平行なままだ。

 

ならばハリーに卵を借りて紅魔館に送ってみようかと考えていると、ハーマイオニーが入り口の方を睨みつけながらポツリと呟いた。レポートのミスを見つけた時そっくりの表情だ。

 

「まただわ。もうウンザリよ。」

 

何事かとその視線を辿ってみると……ああ、クラムか。そしてまあ、『ピーチクパーチク』どもも一緒のようだ。ブルガリアの国旗をこれ見よがしに腰に巻いて、クラムからのダンスパーティーの誘いを待っている。アホの見本市だな。大安売りだ。

 

「……私はキミがああならなかったことを、キミの両親に感謝して止まないよ。素晴らしい親御さんじゃないか。」

 

「なるわけないでしょ。脳みそを寮に置き忘れてるわよ、あの子たち。」

 

「どうかな。私は前世に置き忘れてきた説を推すけどね。」

 

冥界の連中がミスをしたに違いない。さては転生の際に脳みそを入れ忘れたな? そしてきっと余ってしまった脳みそを、パチュリーやらハーマイオニーやらに詰め込んだのだろう。もみ消しだ。不正だ。

 

私が益体も無いことを考えている間にも、クラムはいつも通りに窓際の席へと……行かないな。何故かこっちに向かって歩いて来るぞ。ハリーを蹴落とすために先ずは頭脳を潰しにきたか? だとすれば非常に賢い選択だと言えるが。

 

そのまま私たちが座る机の前で立ち止まったクラムは、あー……嘘だろ? 跪いて私に言葉を放ってきた。おい、止めろ。何を考えてるんだ、コイツ。咲夜に戯けてやってみたり、レミリアのことを馬鹿にしてた因果が私に回ってきたようだ。実際やられるとかなり恥ずかしいぞ。

 

「ミス・バートリ。読書中邪魔をすることをお許しください。ボーバトンの生徒からあなたの家がヨーロッパ大戦に関わっていたことを聞いたのです。つまり、ミス・スカーレットに協力してグリンデルヴァルドと戦っていたということを。……ゔぉくの両親は貴女がたが居なければ生まれてさえこれなかったでしょう。そして、当然ながらゔぉくも。だから、どうかささやかな感謝を受け取っていただきたいのです。」

 

クセのある拙い英語で訥々と語り終えたクラムは、跪いたままで動かなくなってしまう。……いや、酷い勘違いだな。もし生まれてこれなかったとしたら、三割くらいは私のせいだぞ。ちなみに残りは五割がゲラートで、二割がフランだ。

 

大口を開けて唖然とするハーマイオニーを横目に、勘違い君に適当な返事を返す。

 

「感謝は受け取ろう。だが、そこまで気を遣わなくても結構だよ。キミも、ブルガリアも、スカーレットに対して充分すぎるほどに感謝してくれたんだろう? スカーレットの名誉はバートリに通ずるのさ。ならばそれで充分だ。」

 

「分かっています。一枚のコインの話、ボーバトンの生徒から聞きました。だけど、どうしても直接伝えたかったのです。ゔぉくの祖父はグリンデルヴァルドの信者に殺されました。その友人たちもみんな殺されました。ゔぉくの家にはどれだけ恐ろしい時代だったのかが詳しく伝わっているのです。そして、貴女がたのやったことがどんなに偉大なことだったのかも。……だから、だからせめて感謝したかったのです。」

 

……これもまた一種の天罰なのだろうか? だとすれば因果応報だな。クラムは真っ直ぐな瞳で私に感謝を伝えている。ゲラートに与したこの私に、ヨーロッパに長き災厄を齎らした原因の一つに。

 

今、ほんの少しだけあの男が苦しんでいた理由が分かった。彼はこれを飲み干して、それでも『より大きな善のために』歩み続けたのだろう。自らの理想を追い続けるために、完全無欠の悪であり続けたのだ。

 

全くもって……大違いだな。ただのゲームとして愉しんでいた私たちの何と滑稽なことか。我ながら情けなくなってくるぞ。別に後悔はしていないし、愉しんだのを悪いとも思ってはいない。それが私たち吸血鬼というものだ。

 

だが……そう、あの頃の私たちには覚悟がなかった。影の操り手を気取り、ゲームと称して滅茶苦茶に引っ掻き回していただけだ。それではガキがルールも知らずにチェスを遊んでいるのと変わらん。子供のごっこ遊びじゃないか。

 

つまり、私たちはもっと『本気』で遊ぶべきだったのだ。ヨーロッパという壮大なボード、ゲラートとダンブルドアという価値あるピース。……ぐおお、今考えると身悶えするほどに勿体無いな。使った道具は一流だったが、打ち手の私たちこそが三流だったわけか。駒のお陰で素晴らしい結末にたどり着けたとはいえ、打ち手がもうちょっとマシなら更に劇的なものになったろうに。

 

うーむ、五百年生きてようやくこんな簡単なことに気付くとは。なんとも度し難い生き物じゃないか、我々は。金を賭けないギャンブルがつまらんように、『おふざけ』でやっていては本当の満足は得られないのだ。なればこそ私たちは、全てを懸けたゲラートとダンブルドアの戦いを楽しめたのだろう。

 

浮かんできた苦笑をそのままに、未だ跪くクラムの肩を叩きながら口を開いた。

 

「ま、そう言ってくれると『我々』も頑張った甲斐があるというものさ。バートリの当主の名において、キミの感謝はありがたく受け取っておこう。」

 

「ありがとうございます。これでゔぉくは祖父の墓に良い報告ができる。」

 

怒って祟られないといいがな。自分を間接的に殺したヤツに感謝したのだ。きっと顔を真っ赤にして怒るだろう。滑稽な光景を脳裏に浮かべていると、立ち上がったクラムはやおらハーマイオニーの方へと向き直る。……おや? そっちにも用があったのか?

 

「それと……ハーミイ・オウン。貴女にお願いがあるのです。」

 

「えっと、何かしら?」

 

『ハーマイオニー』の発音がちょっとおかしいが……まあ、仕方ないか。彼女の名前はイギリス人でも難しいくらいなのだ。おまけに国によって読み方が違うのだから堪らない。ひょっとしたらクラムの発音も、それはそれで正しいのかもしれんな。

 

困惑する複雑な名前の友人に対して、クラムはその手をそっと取りながら言葉を放った。

 

「ハーミイ・オウン。ゔぉくとダンスパーティーに行ってくれませんか? 図書館で初めて貴女を見かけた時から、ずっと気になっていました。ゔぉくは貴女をエスコートしたいのです。」

 

おおっと、これは予想外の台詞だな。ハーマイオニーはキョトンとして、それから徐々に赤くなり、やがて顔を伏せてから蚊の鳴くような声で返事を口にする。聞いたことのないほどにか細い声だ。

 

「あの……はい、喜んで。」

 

「ありがとう、とても嬉しいです。決して後悔させないことを約束します。」

 

ぎこちない笑みを浮かべたクラムは、私に一礼してから少しだけ軽やかな歩みで図書館を出て行った。……鮮やかだったな。ハリーはなんちゃらフェイントよりもこっちを先に見習うべきだぞ。

 

「いや、思ってたより朴訥なヤツだったね。見た目で損するタイプらしい。」

 

「そ、そうね。貴女との話を聞いてて、真面目な良い人だと思ったの。それで私……その、オーケーしちゃって。暑いわね、ここ。凄く暑いわ。」

 

今は冬だぞ、ハーマイオニー。パタパタと手で真っ赤な顔を扇ぐハーマイオニーは、聞いてもいないのに言い訳を捲し立ててくる。面白い。非常に面白いぞ。

 

「それにほら、ダンスパーティーは他校との交流の場じゃない? その精神は尊重すべきよね、うん。そういう理由もあって受けたのよ。そりゃまあ、本当に嫌なら断ってたけど、でもあの人は……何よ、リーゼ。」

 

「んふふ、別に何にも言ってないじゃないか。」

 

「笑ってるじゃないの。その笑い方、知ってるわ。からかおうとしてる時の顔よ。」

 

「いやいや、からかったりなんてしないよ。私が友人をからかうような吸血鬼だと思うかい?」

 

『思う』と態度ではっきり表明したハーマイオニーは、首を振りながら話題を変えてきた。

 

「それより、さっきの話はどういうことなの? スカーレットさんがヨーロッパで英雄扱いなのは勿論知ってたけど……リーゼの家も関わってたってこと? つまり、バートリ家が?」

 

「まあ、ある程度はね。親戚で、数少ない同族なんだ。危機にも一緒に対応するのさ。」

 

「そりゃあ……そうよね。よく考えればおかしいことじゃないわね。それじゃあひょっとして、リーゼって大陸の方じゃ有名人なの? バートリ家のお嬢様、的な感じで。」

 

「そうでもないかな。私のことを知ってる人間は多くないはずだよ。さっきクラムが言ってただろう? 一枚のコイン。スカーレットが表で、バートリは裏。裏側を気にするヤツはそんなに多くはないのさ。」

 

あんまり顔が割れると動き難くなるんだが……今更だな。ホグワーツに入学した時点でそこそこの人間に顔は知られちゃってるわけだし。それに、死喰い人に対する伏せ札としてだってあんまり機能しちゃいないぞ。騙されるのは親マルフォイとかの小物ばっかりで、肝心要のラデュッセルやペティグリュー、クィレルなんかには警戒されちゃってたのだから。……いやまあ、ペティグリューとクィレルは不可抗力か。

 

これまでの三年間は事情が事情だけに仕方ないとはいえ、今年くらいは上手く裏をかきたいもんだ。警戒されずに近付いて、一瞬で事を決する。……うーん、カッコいいぞ。それぞバートリだ。今年一番怪しいカルカロフには警戒されていないし、大穴のバグマンもそれは同じ。今度こそは活躍できるかもしれんな。

 

ちょっとだけやる気を出し始めた私を他所に、納得したようなそうでないような微妙な表情を浮かべたハーマイオニーは、曖昧に頷きながらも口を開いた。

 

「よく分からないけど、そんなに有名じゃないってのは分かったわ。……さて、卵について調べましょう。それと、しもべ妖精についてもね。時間が全然足りないわ。」

 

「キミ、まだ諦めてなかったのかい? 最近は全然『演説』をしてなかったじゃないか。」

 

「それはハリーが危なかったからよ。今は多少の余裕はあることだし、S.P.E.W.の活動も再開しないと。」

 

「そりゃあ楽しみだね。しもべ妖精どもも喜ぶだろうさ。」

 

残念ながらハーマイオニーには私の皮肉が通じなかったようで、うんうん頷きながら『ヒトか否か』を読むのに戻ってしまう。……この様子だと一番被害を受けるのはしもべ妖精たちかもしれんな。グリフィンドール生は演説を聞き流せばいいだけだが、しもべ妖精にとっては自らの尊厳の危機なのだから。

 

奇妙な目標を持ってしまった友人に苦笑しつつ、アンネリーゼ・バートリは『バンシー声日記』に目線を戻すのだった。

 

 

─────

 

 

「マリサ、相談があるんだ。かなり大事な相談が。」

 

今年最後の授業日の朝。物凄く真剣な表情でそう言ってきたハリーに、霧雨魔理沙はコクコク頷いていた。これほど切羽詰まった顔のハリーは初めて見るな。

 

今日さえ乗り切れば休暇に突入ということで、生徒たちは笑顔で楽しそうに朝食を取っている。そんな中、ハリーに話があると言われて大広間の隅に呼び出されたのだ。……一体何の話だろうか? 表情を見るに重大な用件だろうし、なんか緊張してきたぞ。

 

姿勢を正して神妙な顔で頷いた私を見て、ハリーはちょっとだけ顔を赤くしながら相談とやらの内容を話し始めた。……顔を赤くしながら?

 

「つまり、その……君は知ってるんだろ? 僕がチョウを、あー、気にしてるってこと。」

 

「そりゃあ、知ってるぜ。それがどうしたんだ?」

 

「……だから、ダンスパーティーに誘いたいんだよ。チョウを。」

 

「おっと、そういうことか。」

 

拍子抜けすると同時に、ちょっとだけ顔を引きつらせる。これは厄介なことになったぞ。チョウは間違いなく美人にカテゴライズされる女性だし、明るくて友人も多い。もう絶対に誰かに誘われているはずだ。……つまり、ハリーではない誰かに。

 

私が内心で警鐘を鳴らしていることなど知るはずもなく、ハリーは藁にも縋るような表情で話を続けてきた。

 

「でも、全然チャンスが無いんだよ。ここ数日機会を窺ってたんだけど、チョウはいっつも誰かと一緒にいるんだ。本当にいっつも。まるで一人になると死ぬみたいに。」

 

「まあ、女子ってのはそういうもんなんだよ。ハリーだってロンといつも一緒だろ?」

 

「そういうレベルじゃないんだよ。トイレに行く時でさえ五人とか六人とかで固まってるし……そう、ボディーガードを連れ歩いてるようなもんさ。クスクス笑いで僕を痛めつけるボディーガードをね。」

 

どうやらハリーにはレイブンクロー女子たちの『群れ』を相手取るほどの勇気はないらしい。うーむ、第二の課題はこれにすべきだな。少なくともハリーにとってはドラゴンよりも難易度が高そうだぞ。

 

「それで、私は何をすりゃいいんだ? チョウを呼び出せってことか?」

 

「出来るの?」

 

期待の瞳で見てくるハリーに、現実を言葉にして突きつける。『出来る』と『やるべき』には天と地ほどの差があるのだ。

 

「そりゃ出来るが、あんまりオススメはしないぜ。後輩の女の子に手伝ってもらうってのは……うん、ちょっと情けないな。あんまり良い印象は持たれないと思うぞ。」

 

「それは……確かにそうかも。でも、それならどうすればいいのさ? 絶望的だよ。せめて一人なんだったら声をかけれるのに。」

 

「んー、勇気を出して行くしかないだろ。誘ってくれるってのは嬉しいことなんだし、チョウだって悪い気はしないはずだ。とりあえず行動してみろよ。このままだと時間切れになっちまうぞ。」

 

既にチョウにパートナーがいたとしても、このままタイムリミットを迎えるよりかはマシなはずだ。それにまあ、チョウの答えを聞くまではハリーはきっと諦めまい。最悪パートナー無しになる可能性すらあるのだ。それはあまりに可哀想というものだろう。

 

私の言葉を聞いたハリーは、決意を秘めた表情で頷いた。ようやく決心がついたようだ。具体的な相談とかじゃなくて、ひょっとしたら背を押して欲しかっただけなのかもしれない。

 

「……そうだね。よし、やってみるよ。ありがとう、マリサ。必ず今日中に誘ってみせるから。」

 

しかし……うーん、ちょっと真剣すぎやしないか? まるで死地に赴くような表情になってるぞ。知らないヤツから見ればダンスパーティーに女の子を誘うだけだとは思うまい。

 

謎の脱力感に襲われながらも、微妙な気分で朝食に戻るのだった。

 

───

 

そして夜。休暇突入にはしゃぎ回るグリフィンドール生たちの中に、二人の哀れな男子生徒が交じっていた。予想通りチョウに断られたハリーと、無謀にもデラクールに挑んだロンである。二人だけ暗黒のオーラを纏ってるぞ。

 

リーゼは咲夜の髪を梳きながら面白そうにニヤニヤしてるし、咲夜は目を細めてそれに夢中。ハーマイオニーは『奴隷解放』のための演説文を作るのに必死でそれどころではないご様子だ。……私が慰めないといけないのか? これ。

 

「あー……なんだ、元気出せよ、二人とも。チョウもデラクールもパートナーが決まってたんだろ? 別に二人が悪いってことじゃないさ。」

 

なるべく明るい声で話しかけてみると、ソファに座る二人は虚ろな顔を上げながら返事を返してきた。亡者もかくやという表情だ。

 

「うん、決まってた。……セドリックにね。あの時の気まずい雰囲気、伝えられるなら伝えてみたいよ。きっとみんな死にたくなるから。」

 

「僕よりマシさ。そっちは少なくとも二人だけだったんだろ? ……僕なんて、昼食時の大広間だったんだ。何であんなことをしちゃったんだろ? デラクールの顔を見たらそうしなきゃって思えてきて、それで……。」

 

それはまた、さぞ注目されたことだろう。顔を真っ赤にして逃げ去って行くロンの姿が目に浮かぶようじゃないか。……おい、そこの性悪吸血鬼! 笑ってないで助け船を出したらどうなんだ!

 

私が知らんぷりするリーゼを睨んでいる間にも、俯いて黙り込んでしまったロンに向かって、ハリーが肩を叩きながら慰めの言葉を放つ。凄いな。『傷の舐め合い』っていうのはこういうことを言うのだろう。辞書に例として載せたいほどにピッタリな光景だ。

 

「仕方ないよ。杖調べの時に聞いたんだけど、デラクールにはヴィーラの血が混じってるんだ。そのせいじゃないかな。」

 

「それならそう顔に書いておくべきなんだよ。そうすりゃ、僕は学校中の笑い者にならなくて済んだのに。」

 

有り得ないほど大きなため息を吐いたロンに、原稿が一段落ついたらしいハーマイオニーが話しかけた。その顔には『呆れてます』と大きく表示されている。

 

「何にせよ急いだ方がいいわよ。早くしないと貴方たち二人でダンスすることになるわ。ダンスってのは男女でするものよ。」

 

「……でも、リーゼとサクヤは女同士だぞ。」

 

「それが許されるだけのペアじゃないの。ほら、想像してごらんなさいよ。自分たちが踊ってる姿と、リーゼとサクヤが踊ってる姿。……想像できた? それが答えよ。」

 

私には出来た。リーゼと咲夜ならど真ん中で踊っても通用するだろうが、ハリーとロンだと隅っこでも喜劇だ。そんなもんを見たマルフォイなんかは嬉しすぎて失神するに違いない。そしてロンも私と同じ場面を想像したようで、顔をしかめた後で渋々納得の頷きを放った。

 

「まあ、それはそうかもしれないけど……ちょっと待った。ハーマイオニー、君は女の子だ!」

 

おっと、それはちょっと……マズい台詞だと思うぞ。今度はハーマイオニーが顔をしかめたところで、リーゼが咲夜の髪を梳きながら口を開く。バカを見る表情でだ。

 

「その通りだ、ロン。三年半かけてようやく真実にたどり着いたようだね。ちなみに私は最初に出会った時から気付いてたよ。ハーマイオニーは可愛らしい女の子だってことに。」

 

「そういうことじゃなくって、ハーマイオニーが僕らのどっちかと来ればいいってことだよ! 何でこんな簡単なことに気付かなかったんだ?」

 

「そうだよ、その通りだ!」

 

リーゼの言葉の真意をロンとハリーは読み取れなかったようだ。顔を覆う私、処置なしと首を振るリーゼ、ため息を吐く咲夜。それらを順々に見た後で、真顔のハーマイオニーが大馬鹿二人に向かって冷たい声を放った。

 

「……人生最悪の誘い文句だったけど、一応誘ってくれたことには感謝するわ。でもお生憎様。私が女の子だって気付いた人は他にもいるの。もっとカッコ良くって、もっと礼儀を知ってる、もっと大人な人がね!」

 

吐き捨てるように言ったハーマイオニーは、そのままぷんすか怒りながら女子寮の階段を上って行ってしまう。……そりゃあそうなるぜ。『そういうの』に疎い私ですら、今の台詞がマズかったことは理解できるのだ。

 

「あー……ハーマイオニーは何で怒ったんだ?」

 

「キミがそれを理解する日が来ることを願うばかりだよ。でなきゃ、キミは永久に独り身さ。……まあ、問題ないか。キミの兄たちは将来有望だしね。ウィーズリー家の断絶はまだまだ先だ。」

 

最上級の呆れ顔を放ったリーゼは、立ち上がっていつもの『お散歩』に行ってしまった。咲夜が残された櫛を名残惜しそうに見つめ始めたあたりで、全然反省していないロンが私に話しかけてくる。

 

「なんなんだよ、二人とも。……マリサ、君はどうだい? まだパートナーは決まってないんだろ?」

 

「私は御免だぜ。ドレスを着る気もないし、ダンスをする気もないからな。死んでも出ないぞ。」

 

イギリス人的には楽しみ八割恥ずかしさ二割ってとこらしいが、幻想郷生まれの私から見たら『ダンスパーティー』なんてのはただの罰ゲームなのだ。人前で踊るだと? しかも男女ペアで? そんなもん十割の恥ずかしさしか感じられんぞ。

 

「そんなこと言わないでさ、助けると思ってパートナーになってくれよ。」

 

「同情はするが、それとこれとは別なのさ。すまんな、二人とも。」

 

かなり情けない台詞を吐いたロンを尻目に、私も女子寮に向かって歩き出す。この様子だと『喜劇』をやる可能性は大いにありそうだな。……二人にとっては純然たる悲劇だろうが。

 

そそくさと付いてきた咲夜と一緒に階段を上りつつ、霧雨魔理沙は取り残された二人に同情の思念を送るのだった。

 




今週の火、水、木は家を空けないといけなくなったので更新無しとなります。金曜の夜には帰れるので、その日は多分ある……はずです!
申し訳ございません!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。