Game of Vampire   作:のみみず@白月

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クリスマス・ダンスパーティー

 

 

「あら、結構いい会場じゃないの。」

 

大広間への扉を抜けながら、レミリア・スカーレットは隣を歩くダンブルドアへと話しかけていた。ちょっと紅が足りないが、それ以外は上々だ。今宵の大広間からはホグワーツ特有の重厚な雰囲気が取っ払われ、上品で美しい氷の世界へと変貌している。

 

壁一面を覆う氷には細やかな彫刻が彫られており、中央にある巨大な円形の空きスペース……恐らくあの場所がダンスホールとなるのだろう。を囲むように設置された無数の白い丸テーブルには、一つ一つ意匠の異なる氷の彫像が設置されている。そして床には継ぎ目のない純白の絨毯だ。

 

うーむ、ここだけホグワーツじゃないみたいだな。石造りだった名残が一切無いぞ。白い壁や床、各所に飾られた多種多様な銀細工、それらを包む透明な氷。あらゆる物が白と銀とで構成された大広間は、今や煌びやかな氷の神殿へと生まれ変わったようだ。

 

ただまあ、当然ながら寒くはない。杖魔法に詳しくない私にはよく分からんが、多分魔法の氷的な代物なのだろう。……そりゃそうか。どれだけ美しい会場だとしても、誰も冷凍庫みたいなところでパーティーなどしたくはあるまい。少なくとも私は御免だ。

 

そして入り口の真上には、三校の校章が描かれた旗が吊るされている。それぞれの寮を象徴する四匹の動物がカラフルに描かれたホグワーツ。二本の交差した杖と六つの星が金糸で描かれたボーバトン。山羊だかなんだかの骸骨の上に双頭の鷲が描かれたダームストラング。

 

いやはや、各校の性質が良く表されているじゃないか。『ごちゃごちゃ』と、『気取り屋』と、『陰気』だ。分かり易くて素晴らしい。考えたヤツらには拍手を送りたいな。

 

氷柱のシャンデリアに照らされる旗を見ながら考える私に、ダンブルドアがちょっと自慢げな表情で語りかけてきた。

 

「いや、まっこと美しい。これほどの飾り付けを見たのはわしも初めてです。教員たちが頑張ってくれたのでしょうな。……特にフィリウスが。」

 

「ホグワーツの面目躍如ってとこね。これならナメられる心配もないでしょう。」

 

「ほっほっほ、お客様に楽しんでいただければそれで充分ですよ。」

 

既に生徒の集まりつつある大広間を二人で話しながら進んで行くと、会場の奥に一つだけ横長のテーブルがあるのが見えてきた。あれが今日の席か。純白のクロスが掛けられており、後ろの壁際には巨大な……巨大すぎるモミの木が聳え立っている。馬鹿デカい白銀のリースが目を惹くな。

 

既に一際目立つ大きな椅子にはオリンペが、そして何だかソワソワしているカルカロフと能天気なニコニコ顔のバグマンもテーブルに着いているようだ。となると、残りはクラウチだけか。いつもは誰より早く来るというのに、なんとも珍しいじゃないか。

 

「あのモミの木、どうやって運び入れたのかしら? 絶対に入り口で引っかかるわよね?」

 

「呪文で小さくしてから運び入れて、設置した後に大きくしたのでしょう。……ううむ、少しばかり大きくしすぎたようですな。」

 

「変わり者の貴方がそう思うってんだから相当ね。」

 

これだけデカいと飾り付けし放題だな。やってる間にクリスマスが終わるかもしれんが。呆れながらもダンブルドアと一緒に椅子側へと回り込んだところで、慌てて近寄ってきたバグマンが話しかけてきた。

 

「ああ、ダンブルドア校長、スカーレット女史。素晴らしい夜ですが、少々残念なお知らせがありまして……。」

 

「あら、何かしら?」

 

「いや、クラウチ氏が体調不良で来れないそうなのです。なんとも残念なことですな。こんなにも楽しそうなパーティーだというのに。」

 

サボりだな。絶対そうだ。体調不良程度で休むようなヤツじゃないし、何よりクラウチが踊っている姿など想像できないのだから。……いや待て、スネイプは居るか? あいつが踊る姿ってのも想像できんぞ。

 

陰気男を探して会場を見渡し始めた私を他所に、ダンブルドアが至極残念そうに返事を返す。こいつが言うと本気でそう思ってるように聞こえるのがズルいな。人柄の為せる業なのだろうか?

 

「それはそれは、体調が優れないならば仕方がありませんな。お大事にとお伝えください。」

 

「勿論ですとも。きっとクラウチ氏も喜びます。」

 

うーむ、スネイプも来ていないようだ。つまらん。しかし、意外なことにムーディは見つけることが出来た。トレローニーやバブリングみたいな滅多に見ないヤツらもいるし、ひょっとしたら教員は強制参加なのだろうか? だとすればスネイプはかなり強い意志で参加を拒んだことになるが。

 

そのまま席に着いてスネイプとムーディのダンス、そのどっちがより貴重なのかを考えていると……おお、咲夜! 咲夜がリーゼに連れられて会場に入ってくるのが見えてきた。

 

三つ編み無しのセミロングの銀髪が、ツートンのドレスに良く映えている。装飾品は殆ど無しで、唯一ブラックの贈ったピンブローチだけを着けてきたようだ。かなりシンプルな見た目だが、それだけに文句のつけようがない。あるはずない。超可愛い。

 

しかし……リーゼにパートナーをやらせたのは正解だったな。きっと山のように羽虫どもから誘いが来たことだろう。なにせ可愛いすぎるのだ。咲夜に比べれば他の生徒などカス同然じゃないか。美の女神が顕現したと言っても余裕で通用するぞ。

 

持ってきたカメラのシャッターを切りまくっている私に、隣のダンブルドアがニコニコ顔で話しかけてくる。なんだ、ジジイ。私は今忙しいんだぞ! 見たら分かるだろうが!

 

「おや、咲夜ですか。何とも可愛らしいですな。こういう場で見ると改めて成長を実感します。本当に大きくなった。」

 

「あげないわよ。あれは私のなの。」

 

「ほっほっほ、盗りませんよ。……しかしまあ、随分と注目されているようで。」

 

「当たり前でしょ。咲夜が可愛すぎるのがいけないのよ。罪だわ。罪! 可愛すぎる罪!」

 

あれに注目しないヤツは頭がおかしいのだ。……とはいえ、良くない虫が寄って来るのはいただけない。ジレンマだな。注目されないのは気にくわないが、され過ぎるのも嫌。これはかなりの難題だぞ。

 

しかしダンブルドアの考えは少しばかり違っているようで、苦笑しながら別の意見を放ってきた。

 

「無論、咲夜も注目に値するでしょうが……恐らく生徒たちが見ているのはバートリ女史の方でしょう。いやはや、男装の麗人という言葉がぴったりですな。」

 

「むぅ……。」

 

言われてみれば、確かにガキどもはリーゼの方を見ている気もする。ポニーテールにアリスの作った礼装のリーゼは……まあ、うん。人目を惹く見た目であることは同意しよう。昔からああいう格好が似合うヤツなのだ。

 

見た目の年齢と纏う雰囲気、格好と立ち振る舞い、声と口調、表情と仕草。今日のリーゼは、彼女を構成するあらゆる要素がチグハグな所為で……なんかこう、えも言われぬ倒錯感を醸し出している。咲夜の教育に悪影響がありそうだ。

 

そんな教育に悪いペタンコ吸血鬼は、傍から見てても見事な所作で咲夜をエスコートし始めた。……ぐぬぅ、羨ましいな。後で絶対に代わってもらおう。私も咲夜をエスコートしたい。凄くしたい。絶対したい。

 

私が男装リーゼちゃんに嫉妬の視線を送っている間に、ようやくパーティーが開始される時間が訪れたようだ。ダンブルドアが用意したらしい楽団は一度それまでの曲を止めた後、ダンス用の穏やかなテンポの曲を奏で出す。

 

それと同時に、マクゴナガルに先導された代表選手たちがパートナーを伴って入場してきた。変化した音楽と四組のペアを見て、ダンスホールを囲む生徒たちも徐々に静かに……ああ、なるほど。無粋なアナウンスは無しってことか? 悪くない。やるじゃないか。

 

最初にホールに歩み出てきたのはクラムと……おいおい、グレンジャー? えらく化けたな。青いドレスローブに身を包んだグレンジャーは、控え目に評価してもかなりの美女に変身している。見る目があるじゃないか、ビクトール・クラム。彼は見事に原石を掘り当てたらしい。

 

それに続くデラクール、ディゴリー、ハリーも見知らぬ生徒を伴って中央の空いたスペースへと歩み出てきた。しかし、デラクールのパートナーは凄いな。目線がデラクールの顔に固定されて微動だにしていない。前を見ないと転んじゃうぞ。

 

そしてディゴリーとハリーのパートナーは……うーん、これはハリーに軍配が上がりそうだ。どっちもそこそこ整ってるが、顔だけ見ればハリーのパートナーの方が一段上だな。まあ、アクセサリーはちょっと変だが。何故大量の目玉をモチーフにしたネックレスをダンスパーティーに着けてきたんだろうか?

 

そのままゆったりとした曲に合わせて四つのペアがダンスを始める。別にダンスは採点の対象じゃないが、点数をつけるとしたら……そうだな、クラム、ディゴリー、デラクール、ハリーの順になりそうだ。

 

クラムとディゴリーのペアは両者滑らかに踊っているが、デラクールは相手が、ハリーは自分がちょくちょく足を引っ張っている。デラクールは苛々顔で、ハリーは必死についていこうとしてるのがなんだか面白い。

 

そのまま少しだけ代表選手たちのダンスが続いた後、徐々に生徒たちもパートナーを伴って踊り始めた。リーゼと咲夜も……むぅ、やるじゃないか。ぎこちない咲夜をリーゼが上手くリードしているようだ。悔しいが、それがむしろ絵になっている。『お姉様』にリードされる少女って感じで。

 

楽しそうにダンスをする二人に嫉妬の視線を送っていると、ゆったりと立ち上がったダンブルドアが私に声をかけてきた。……おいおい、その歳で踊る気か? パッタリ倒れても知らんぞ。

 

「スカーレット女史はどうなさいますかな?」

 

「私はパスよ。身長差があると踊り難いし、生徒たちと踊るのは嫌なの。後で咲夜と踊るわ。」

 

「ふむ、それは残念。まっこと残念。……では、わしは誰かと踊りに行ってきます。料理は皿に注文すれば出てきますので、どうぞごゆっくり。」

 

言うと、ダンブルドアはオリンペを誘ってダンスホールへと歩いて行ってしまう。彼は身長差についての私の忠告を聞きそびれたようだ。かなり踊り難いと思うぞ、それは。

 

しかし、皿に向かって注文? 非常に便利そうだが、コックたちは過労死しないのだろうか? ……いや、料理を作ってるのはしもべ妖精たちだったっけ。それならむしろ喜ぶだろう。何せ忙しければ忙しいほどに幸せな連中なのだから。

 

「……アイリッシュ・シチュー。」

 

試しにメニューに載っていた料理の名前をポツリと呟いた瞬間、皿の上に注文通りの品物が現れた。……うーむ、これは便利だな。他のパーティーでもこの手法は流行るかもしれない。私もクソ不味いサラダとかを食べずに済むのは大賛成だし。

 

今度外交のための『仲良しパーティー』に取り入れてみようかと考え始めたところで、やおら空席となったダンブルドアの席に……出たな、グルグル目玉。仏頂面のムーディが座り込んだ。ぐるんぐるん回る左目は、今日も元気に敵を探し続けているらしい。

 

「スカーレット、大陸で何か事件があったと聞いたが?」

 

「ごきげんよう、ムーディ。『挨拶』って知ってるかしら? 人間の社会で生きていく上でとっても重要なものなのよ? それがパーティーの席なら尚更ね。」

 

「お前は吸血鬼で、わしはアラスター・ムーディだ。『挨拶』とやらは必要か? ぇえ?」

 

「自覚があるようで何よりよ。それで……大陸っていうと、例の模倣犯事件のこと?」

 

この男に何を言っても無駄なのは前回の戦争で学習済みだ。最後の方なんかはヴェイユとマクゴナガルくらいしか注意してなかったし。諦めて話に応じると、ムーディは頷きながらも口を開く。……ちなみに杖はずっと手にしたままだ。そういうところだぞ、変人。

 

「それだ。グリンデルバルドの残党が起こした事件で間違いないのか?」

 

「微妙なところね。フランス当局はグリンデルバルドとは直接関係のない模倣犯の説を推してるわ。私も同意見よ。」

 

「つまり、何一つ確かなことは分かっとらんわけか? ……ふん、使えん連中だな。」

 

「仕方がないでしょうが。そもそも手掛かりが少なすぎるのよ。……それで? 何だってそんなことを聞いてくるの? 言っとくけど、首を突っ込んだら承知しないからね。イギリスと違ってフランス魔法界には『変人耐性』が無いんだから。」

 

イギリスならばこの男が『犯罪者っぽいヤツ』を気絶させて回ったとしても、『ああ、またムーディか』と言って哀れな犠牲者に憐憫の祈りを送るだけだろうが、フランスでそれをやったら普通に犯罪者として拘束されるだろう。イカれた見た目の連続襲撃犯として向こうの魔法警察に追われることになるはずだ。

 

というかまあ、素直に拘束されるとも思えん。やりすぎの反撃をして騒ぎを大きくするのが目に見えている。頼むからホグワーツで大人しく……いや、デュヴァルは友人なんだったっけ? それならムーディの奇行にも慣れてるかもしれんな。

 

「ふん、単に備えておるだけだ。……お前も対岸の火事などと思うなよ? スカーレット。油断大敵! 常に備えよ!」

 

ムーディからみた『デュヴァル像』でも聞いてみようかと口を開きかけたところで、イカれ男どのは立ち上がって歩き去ってしまった。……なんか、歳を取って変人具合が増してないか? 会話のスタートとゴールが唐突すぎるぞ。

 

まあ、らしいっちゃらしいな。歳を取ると変になるのはなにもムーディに限った話ではないのだ。パチュリーも、アリスも、ダンブルドアもそうなのだから。何にも変わらんのは美鈴くらいだぞ。

 

しかし、前にもクラウチに同じ質問をされたような覚えがあるな。イギリス魔法界じゃ新聞の隅っこにちょこっと載る程度だが、やはり気にする者は気にするわけだ。もしかしたら件のデュヴァルから何か聞いたのかもしれない。

 

ふむ……フランスからは全然連絡が無いし、一度こっちから問い合わせてみようか? あんまりしつこくするのは宜しくないが、グリンデルバルドのことを私が気にするというのは別段おかしなことでもなかろう。

 

考えながらもシチューを片付け、席を立って歩き出す。何にせよ先ずは咲夜だ。咲夜とダンスなんて中々出来ることじゃないんだぞ。フランス魔法界、グリンデルバルド、対抗試合。そんなもんは咲夜とのダンスに比べれば些事に過ぎん。

 

誘ったらそのままパーティーの終わりまで独占しようと決意しつつ、レミリア・スカーレットは生徒たちの群れの中から愛しい銀髪の女の子を探し始めるのだった。

 

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