Game of Vampire   作:のみみず@白月

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遠い背中

 

 

「こんな記事は有り得ないよ! 最低だ!」

 

大広間の長テーブルに予言者新聞を叩きつけるハリーを横目に、アンネリーゼ・バートリはカリカリのベーコンを頬張っていた。このところ険悪だったハーマイオニーとロンも仲良く頷いているのを見るに、新たな問題を前にした二人は『ビクトール案件』を棚上げすることに決めたようだ。

 

波乱万丈のクリスマスはあっという間に過ぎ去り、ホグワーツに日常が戻ってくる新学期初日の朝。生徒たちが再開される授業を思って憂鬱そうに食事を取る中、ハリーが……というか、ハリーとロンとハーマイオニーが激怒しているのには当然ながら理由がある。

 

我らが勇敢なるゴシップ記者、リータ・スキーターが新たな『大スクープ』を予言者新聞で報道したのだ。つまり、ハグリッドが半巨人であるという大スクープを。……あんなもん一目瞭然だろうが。何を今更騒ぎ立ててるんだよ。

 

とはいえ、それを当然のこととして扱っていたのはごく一部の生徒だけだったようだ。それ以外の生徒諸君は彼方此方で予言者新聞を読んで驚愕している。多くは骨生え薬やら肥らせ呪文の失敗やらで大きくなったと思っていたらしい。そっちの方が有り得んぞ。

 

ひょっとしたら、巨人に対する認識不足ってのもあるのかもしれんな。私なんかは飽きるほどに実物を見たが、よくよく考えれば巨人というのは縁遠い存在なのだ。世界的に見てもそんなにウジャウジャいるような種族じゃないし、見習い魔法使いたちにとっては挿絵の中の存在なのだろう。

 

そして肝心の内容はというと……まあ、非常にスキーターらしい感じに纏まっていた。巨人の血が混じった危険な『半ヒト』を教師に任命したダンブルドアを糾弾し、スリザリン生からのインタビューを根拠にハグリッドの『奇行』を吊るし上げ、去年あったヒッポグリフの一件やら、今年行なったスクリュートの『製造』やらについてを叩きまくっているという内容だ。

 

スクリュートに関しての部分には心から納得している私を他所に、大きなお友達を貶されたハリーは新聞を睨みながら怒りの声を上げ続ける。ちなみに咲夜と魔理沙ももちろん憤慨しているが、この三人に比べればまだ大人しい感じだ。

 

「このインタビューだって作為的だよ! インタビューの相手はスリザリン生ばっかりじゃないか。パーキンソン、マルフォイ、おまけにクラッブ? クラッブがまともに英語を話せるわけないのに! あいつはウーウー唸るのが精一杯のはずだ!」

 

「パーキンソンもね。あの子はミノタウロスの親戚だよ。」

 

物凄く適当な突っ込みを入れてみると、ハーマイオニーが大きく頷きながら同意の台詞を放った。いや、私はジョークを言ったつもりなんだが……まさか本当にミノタウロスの親戚じゃないよな? いかん、ちょっと説得力があるぞ。

 

「その通りよ、こんなもん嘘八百だわ。ハグリッドが生徒を脅してるだの、暴力を振るっただのって……許せない。新聞社に抗議すべきよ!」

 

「そうだ! 見てろよ、スキーターの糞婆め。糞爆弾をケースで送ってやる。自分も同じようなもんなんだし、きっと喜ぶはずだ。」

 

うーむ、みんな熱くなってるな。ロンが糞爆弾を双子から仕入れに行く前に、場を冷やすために質問を投げかける。

 

「しかし、スキーターはどこでこんなことを知ったんだろうね? 単なる推察にしてはやけに具体的に書かれてるじゃないか。さすがのハグリッドだって直接話すほど口が軽くはないだろうし、キミたちでも知らなかったことを知ってるヤツなんてそう居ないはずだろう?」

 

「リーゼ、まだハグリッドが『そう』だって決まったわけじゃないのよ。デタラメを書いてる可能性だってあるじゃない。」

 

新聞をペチペチ叩きながら言うハーマイオニーに反論したのは、意外なことに一番怒っていたはずのハリーだった。その顔からは怒りの色が消え、何故か代わりに気まずそうな表情が浮かんでいる。

 

「あー……そこは事実だよ。ダンスパーティーの夜、僕とロンは聞いちゃったんだ。その、ハグリッドとマダム・マクシームが中庭でそれについて話してるところを。母親の方が巨人なんだって。」

 

「それは……良くないことよ、ハリー。」

 

「分かってる。僕たちも離れようとはしたんだけど、そうする前に話が始まっちゃったんだ。そしたら出るに出られなくなって……うん、反省してるよ。」

 

「でも、それなら話は早いじゃない。そこでスキーターも盗み聞きしてたのよ。もしくは情報提供した誰かが。」

 

まあ、その可能性は高そうだ。ハーマイオニーの推理に私、咲夜、魔理沙は納得の表情を浮かべているが……ふむ? 当事者であるハリーとロンは疑問げだな。

 

納得いかないという表情で首を捻る二人のうち、先んじてロンが口を開いた。

 

「それは多分ないと思うよ。あそこには他に隠れられるような場所はなかったし、僕らはハグリッドたちが居なくなった後もしばらく隠れてたんだけど、誰か姿を現したりはしなかったから。……かなり気まずくてさ。結構長い間息を潜めてたから、誰も居なかったってのは間違いないはずだ。」

 

「んじゃあ、何かの魔法で盗み聞きしたとか? そういうのって無理なのか?」

 

魔理沙の質問には、腕を組んで考え始めたハーマイオニーが答える。いつの間にか推理ごっこが始まっちゃったな。

 

「そりゃあ無理ってわけじゃないけど……その可能性は低いんじゃないかしら。かなり条件の厳しい魔法なの。そもそも最初からハグリッドを狙ってないと無理よ。」

 

「ま、そうだね。記事を見る限りではむしろダンブルドアへの批判っぽいし、どちらかといえばご老体の失態を嗅ぎ回ってたんだろうさ。最初からハグリッドに目をつけてたってのは無さそうだ。」

 

記事の見出し……『ダンブルドアの巨大な過ち』を指差しながらハーマイオニーに同意してやれば、皆唸りながら考え込んでしまった。おいおい、朝食が冷めちゃうぞ。

 

しかしまあ、そんなに慌てることでもないだろうに。別に半巨人だろうがなんだろうがハグリッドはハグリッドだし、ホグワーツの卒業生の中には気付いていた者もいるはずだ。この学校がいかにアホの集まりとはいえ、全員が全員『骨太』なだけだと思ってたというのは有り得ないだろう。

 

キッパーを噛み千切っている私の疑問を、コーンポタージュを片付けた咲夜が代弁してくれた。

 

「でも、これってそんなに大きな問題なんですか? ハグリッド先生は良い人ですし、出自なんて関係ないはずです。」

 

「それはとっても正しい意見よ、サクヤ。でも……そうね、ヨーロッパの魔法界では巨人っていうのはあんまり良いイメージを持たれてないの。それだけの歴史があるのよ。」

 

咲夜に微笑みかけながら言うハーマイオニーに、ロンが頷きつつも補足を加える。

 

「巨人たちは大昔、魔法族と物凄い戦いを繰り広げたんだ。島が一個無くなるくらいのね。それ以来ずっと敵対してるんだよ。それにまあ、例のあの人にも協力してたみたいだし。」

 

「結果的に酷くやられちゃったみたいよ。種族の総数に対しての割合でみると、あの戦いで最も大きな被害が出たのは巨人なんですって。本で読んだわ。」

 

……私じゃないぞ。美鈴だ。美鈴が悪いのだ。なんだか雲行きが怪しくなってきた話を止めるべく、感心したように聞いているハリーへと言葉を放った。彼は巨人戦争に関するビンズの話を一切聞いていなかったようだ。

 

「今日は飼育学があるんだろう? そこでハグリッドを励ましたまえよ。……それより、卵に関してはどうなってるんだい? 新学期も始まっちゃったことだし、そろそろディゴリーの言ってたことを実践すべきだと思うけどね。」

 

ハリーにとって二月末というのは遥か先の話なようで、伝言を伝えたにもかかわらず全然試そうとしないのだ。後一ヶ月半。もう時間があるとは言えなくなってきたぞ。

 

私のジト目付きの指摘を受けたハリーは、目を泳がせながら頷いてくる。生き残った男の子どのは課題に直面するのが億劫なようだ。

 

「……うん、そうだね。そのうちやるよ。」

 

「今日やるのよ、ハリー。今日。約束して。」

 

「まあ、そうだな。急いだ方がいいと思うぜ。」

 

「僕もそう思うよ。ドラゴンより酷いかもしれないんだし、早めに動いた方がいいんじゃないかな。」

 

おやおや、袋叩きだな。咲夜以外の全員から急かされたハリーは、参りましたとばかりに両手を上げて降参の台詞を放ってきた。

 

「わかったよ、わかった! 今日中にやっておくから。」

 

「それでいいんだ、ハリー。民主主義の原則には従うべきだよ。」

 

「少数派の権利がどっかにいっちゃってるけどね。」

 

「んふふ、案外博識じゃないか。」

 

ホグワーツじゃ政治なんて基礎すら教えないはずなんだが……まさかマグルのプライマリースクールで習ったのか? 近頃のガキは進んでるな。昔は文字を読めるヤツすら少なかったっていうのに。

 

意外なところで時代の変化を感じつつも、アンネリーゼ・バートリはカリカリのベーコンを皿に追加するのだった。

 

 

─────

 

 

「出てきなさい、ハグリッド! 居るのは分かってるのよ! 昔から何かあるとそうやって引き籠っちゃって……もう、いいから開けるの! 開けなさい!」

 

禁じられた森の縁にある小屋のドアを叩きまくりながら、アリス・マーガトロイドは大声で中に呼びかけていた。……もうぶち破っちゃおうかな。後で直せばいいんだし。

 

レミリアさんに煙突ネットワークを繋げてもらってまでホグワーツに来た理由はただ一つ。どっかのバカ記者が予言者新聞に載せた記事のせいである。あの記事に書かれたハグリッドに対する誹謗中傷は、私に研究を忘れさせるには充分すぎる内容だったのだ。

 

絶対に落ち込んで引き籠っているであろうハグリッドを引きずり出しに来たわけだが……生意気にも居留守を使う気か? それならこっちにも考えがあるぞ。後悔させてやるからな。

 

「あんな記事を気にすることなんてないでしょうが! 貴方を知ってる人に言わせればあんなの大嘘だわ。それが分かってる人は貴方が思うより沢山いるのよ! ああもう、上海! このドアを吹っ飛ば……あら、ダンブルドア先生。いらっしゃったんですか。」

 

いざパワーアップした上海の『実地試験』をしようとしたところで、何故か笑顔のダンブルドア先生がドアの向こうからひょっこり顔を出してきた。上海も棍棒を振り上げたままで固まってしまっている。……つまり、全部聞かれてたのか? かなり恥ずかしいぞ、それは。

 

「こんにちは、アリス。家主に代わって開けるのは無礼なのじゃが、冬場にドアが無くなればハグリッドが困ると思ってのう。」

 

「あー……はい、そうですね。その、ハグリッドは中に?」

 

「うむ。さあ、お入り。君が一緒なら『説得』がより早く終わるじゃろうて。」

 

ゆったりと踵を返したダンブルドア先生に続いて、小屋の中に入ってみると……これはまた、予想通りの状況だな。大量の空になったブランデー瓶の向こうに、目の周りを泣き腫らしたハグリッドが座っていた。

 

「ほれ、ハグリッド。わしの言った通りじゃろう? 早速一人、君を心配する人が訪れたではないか。」

 

「マーガトロイド先輩。俺ぁ、俺ぁ、どうしたらいいか……。」

 

どうやら先んじてダンブルドア先生が慰めていたようだ。コガネムシのような瞳を潤ませている旧友に向かって、腰に手を当ててから言葉を放つ。

 

「先ずは顔を洗いなさい。話はそれからよ。」

 

「でも、あんな記事が──」

 

「顔を、洗うの。わかった?」

 

ジロリと睨んで言ってやれば、ハグリッドは慌てて洗面所へと歩いて行った。うむ、それでいいんだ。酔いを覚まさねば話もできまい。うんうん頷きながら杖を振って空き瓶を片付けていると、柔らかい笑顔を浮かべたダンブルドア先生が話しかけてくる。

 

「なんとも頼りになることじゃ。やはり尻を叩くのは女性の仕事じゃな。わしではどうも上手くいかんよ。」

 

「ダンブルドア先生はハグリッドに甘すぎます。もっと厳しく言ってやらないと。」

 

「ううむ、少し見ないうちにますますノーレッジに似てきたのう。気の強いところがそっくりじゃ。」

 

「もう、そんなことばっかり言って。」

 

冗談として流したが……冗談だよな? 最近パチュリーとずっと一緒に研究漬けだったから、強く否定できない自分がいるのだ。魔女としての師匠にこんなことを言うのはあれだが、パチュリーに似てくるってのはあんまり嬉しくないぞ。

 

まあ、ある意味では魔女らしくなったということなのかもしれない。若干の危機感を感じながらも椅子に座ってダンブルドア先生と話していると、顔を洗ったハグリッドが重い足取りで戻ってきた。……よし、少しはマシになったな。

 

「それで、貴方はどうして小屋に閉じ籠っているの? それも安ブランデーのオマケ付きで。この様子だと授業もやってないんでしょう?」

 

「だって、あんな記事が出ちまって。みんな巨人の血が流れてる俺なんかに会いたかねぇと思って、それで……。」

 

「言わせてもらうけど、それは被害妄想ってもんだわ。血はただ血なのよ。そこに大した意味なんて無いの。そんなもの以前に、貴方はルビウス・ハグリッドでしょうが。ホグワーツの領地と鍵を半世紀も守ってきた番人でしょう? 一体誰が貴方を疑うっていうの?」

 

腕を組んで言い放ってやると、ハグリッドはモジモジし始めながら抗弁してくる。ふん、無駄な抵抗をする気か?

 

「でも、でも……実際に抗議の手紙が来ちょるんです。俺に居なくなって欲しい人は沢山います。」

 

「その『沢山』は赤の他人よ。貴方のことなんか一切知らない、何の関係もない人たちだわ。そんな連中には好き勝手言わせときなさい。……いい? ハグリッド。私は貴方のことをよく知ってるの。その『沢山』を全部合わせたよりもずっとね。その私の言葉と、そいつらの言葉。どっちを信じるの?」

 

「そりゃあ……マーガトロイド先輩です。」

 

「それなら貴方はここに居るべきだし、胸を張って教師をすべきよ。だって何一つ恥じることなんてないでしょう? ……まあ、尻尾爆発スクリュートとかいう意味不明な生物を生み出したこと以外はだけど。」

 

小屋の外で私を威嚇してきた生き物がそれだとすれば、スクリュートに関してだけはスキーターの記事は真実を射てると言えるだろう。あんな禍々しい生き物は私だって見たことがないぞ。あれは異国の地獄とかにいるタイプのヤツだ。あるいはフランの絵の中とかに。

 

最後の部分だけ少しトーンが弱めになった私に、ダンブルドア先生が同意の言葉を重ねてきた。

 

「ふむ、アリスがわしの言いたいことを全て言ってしまったのう。この老いぼれが付け足すことがあるとすれば……これだけじゃ。」

 

言いながらダンブルドア先生が取り出したのは……手紙? 凄い量の手紙の束だ。色とりどりの便箋には、どれも急いで封蝋したような跡がある。

 

「……そいつは何ですか? ダンブルドア先生。」

 

「そうじゃな、強いて言えば……そう、嘆願書じゃよ。どれもこれも君の慰留を願った手紙じゃ。……分かるじゃろう? ハグリッド。これこそが君の築き上げたもの、君の積み上げてきた信頼の証なのじゃ。きっとこれからもどんどん届くじゃろうて。だからもう、君の気にしていた『沢山』など忘れてしまいなさい。君が目を向けるべきなのはこちらの『沢山』なのじゃから。」

 

優しく微笑むダンブルドア先生から手紙の束を受け取ったハグリッドは、差出人を一つ一つ確かめていく。……うーむ、私が来る必要はなかったかもしれんな。ポロポロ涙を流し始めたハグリッドを見ればそれがよく分かるというものだ。

 

大事そうに手紙に目を通すハグリッドに、ダンブルドア先生が柔らかく言葉を放った。

 

「代理のグラブリー=プランク先生は明日までの契約にしておる。故に、君が授業をしてくれなければ生徒たちが困るのじゃ。……どうかね? やってくれると嬉しいのじゃが。」

 

「はい、やります。やらせてくだせえ。とんだ迷惑をかけちまって……俺ぁ、間違ってました。もう大丈夫です。」

 

「それは重畳。君が居ないホグワーツなどホグワーツとは言えんからのう。これでこの老体も安心できたよ。」

 

ゆったりと立ち上がったダンブルドア先生に続いて、私も椅子から立ち上がる。この様子ならもう大丈夫だろう。あの手紙があればスキーターの記事など怖くはあるまい。

 

「それじゃ、貴方はもう休みなさい。今日はぐっすり寝て、起きたらお腹いっぱいご飯を食べて、いつも通りに授業をするの。それで万事元通りよ。」

 

「マーガトロイド先輩もわざわざ来てくだすって。本当にありがとうございました。」

 

「まあ、良い気分転換になったわ。ホグワーツに来ると安心できるしね。」

 

昔話や近況報告をするのも楽しそうだが、今のハグリッドには休息が必要なはずだ。別れを告げてからダンブルドア先生と一緒に小屋を出て、伸びをしながら冬のホグワーツの空気を思いっきり吸い込む。

 

……さて、どうしようか。勢い任せで来たはいいが、既に煙突ネットワークは閉じてしまったはずだ。かなり強引に数分間だけ開けてもらったのだから。帰ったらレミリアさんにお礼を言わなければいけないな。

 

となると敷地の外まで飛翔術で移動して、そこから姿くらましするしかないか。冬空を飛ぶ羽目になってちょっと苦笑いを浮かべる私に、ダンブルドア先生が微笑みながら話しかけてきた。

 

「それではアリス、城に戻ろうか。ロンドンまでのポートキーを準備してあるから、それでゆっくりお帰り。あるいは……そう、気晴らしに街をぶらついてみてはどうかね? 最近のロンドンは驚きに満ちておるからのう。新たな発見もあるじゃろうて。」

 

「……私がここに来るって、知ってたんですか?」

 

レミリアさんから聞いたのだろうか? ……いや、それはないか。そうだとすればハグリッドの小屋に私より先に着くはずないし、そもそもポートキーの申請を通すにはそれなりに時間が掛かるはずだ。

 

ちょっと驚く私を見て、ダンブルドア先生は悪戯げにクスクス笑いながら答えを教えてくれる。

 

「無論、知らなんだ。わしはただ信じていたのじゃよ。君がきっと来てくれると。ハグリッドを放っておくはずがないとね。」

 

「それで……わざわざポートキーの申請を? 何の確証も無しにですか?」

 

「ほっほっほ、確証も保証も不要なのじゃ。……それが信じるということじゃろう?」

 

パチリとウィンクしながら言ったダンブルドア先生は、軽やかに身を翻して城へと歩き出してしまった。……うーむ、何だか分からんが、一本取られた気分だ。

 

まあでも、悪い気分ではない。とびっきりの悪戯を食らった時のような、清々しい類の敗北感を感じる。……信じること、か。また一つ教えられてしまったな。

 

まだまだ遠く見える背中に苦笑しつつも、アリス・マーガトロイドはその背に向かって歩き出すのだった。

 


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