Game of Vampire   作:のみみず@白月

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とある闇祓いたちの旧交

 

 

「アリス・マーガトロイドよ。よろしくお願いするわね。」

 

目の前でペコペコ頭を下げるフランス魔法省の役人に、アリス・マーガトロイドは端的な自己紹介を放っていた。なんとも頼りなさそうな見た目だな。大丈夫なのか? こいつ。

 

場所はマルセイユより少し北、アヴィニョンのほど近くにある小さな町角。つまりはフランス南部の田舎町だ。私がこんな場所を訪れているのは当然ながら観光のためではなく、レミリアさんから割り振られた仕事のためである。……いやまあ、少しは観光もするつもりでいるが。

 

これでも『年頃』の女の子なんだし、何よりフランスは人形作りの本場。見たいものも、行きたいところも山ほどあるのだ。無論これまでだって何度も来たことはあるが、人形作りの道に終わりなどない。今回もお目当ての人形店を巡るとしよう。

 

しかし……イギリスに居る分には全然実感が湧かないが、現在のフランス魔法界はギリギリのバランスの上で成り立っているらしい。民衆の動揺、各国からの疑い、そこから起こる小規模ないざこざ。負の天秤に掛けられたそれらに抗うために、レミリアさんやフランス魔法省が必死にバランスを取っているようだ。

 

そしてその原因となった事件を探るべく、レミリアさんによって私が……というか、私と美鈴さんがフランスに派遣されたのである。私が表、美鈴さんが裏って感じに。

 

美鈴さんは今頃、『裏側』の実力者へとコンタクトを取っているはずだ。レミリアさんの予想では、彼らにとっても今回の騒動は望まぬものである可能性が高いらしい。……そりゃそうか。関わりの少ない私にはさっぱり分からないが、彼らにも彼らなりの通すべきルールというものがあるのだろう。

 

うーむ、イギリス魔法界だとそういった組織は存在していないし、なんだかちょっと気になっちゃうな。小説みたいに、ハードボイルドな世界観だったりするのだろうか。……美鈴さんがハードボイルド? いまいち想像つかないぞ。

 

何にせよ、私の担当は表だ。つまり、レミリアさん個人が送り込んだ戦力としてフランス魔法省に協力しつつ、フランスで蠢く連中の情報を探ることになっている。……身も蓋も無い言い方をすれば、レミリアさんの『私兵』とも言えるだろう。全然関係のない戦力をスルリと滑り込ませてるあたり、フランス魔法省に影響力の強いレミリアさんなればこそ出来る荒技だな。

 

そんな私の案内人となるフランス魔法省の役人は、再びペコリとお辞儀をしながら流暢な英語で挨拶を返してきた。薄くなった頭と、酷く草臥れた灰色のローブがなんとも哀愁を誘う見た目だ。

 

「いや、ご丁寧にどうも。私はルネ・デュヴァルと申しまして、フランス闇祓いの長を務めております、はい。」

 

「……えっと、闇祓い局の局長ってこと?」

 

「イギリス式に言うとそうなりますね。こちらでは魔法治安保持局直下の、闇祓い『隊』ということになりますが。」

 

ってことは、普通に大物じゃないか。どうやら見た目通りの男ではなさそうだ。恐らくその治安保持局とやらがイギリスでいう魔法法執行部に当たるのだろう。……つまり、この男は実働部隊のリーダーということになる。並みの実力では就けない椅子のはずだぞ。

 

目の前の男に対する認識を若干改めながらも、情報の共有のために口を開く。割と雑な指示で送り出されたせいで、いまいち状況を把握しきれていないのだ。

 

「それで、私についての話はレミリアさんから聞いてるかしら? 行けば分かるって言われてるんだけど……。」

 

「ええ、勿論ですとも。その……見た目とは裏腹に、『熟練の』魔法使いであると聞いております。故に戦力として期待して構わない、と。」

 

「変に気を遣わないで結構よ。要するに年寄りってことでしょ? 事実だしね。」

 

「あー……まあ、噛み砕けばそうなりますね。」

 

いやはや、私もこういう気の遣われ方をする歳になったか。昔は笑って見ていられたが、実際やられる立場になるとそうも言ってられないな。レミリアさんみたいに年齢不詳で通す方がまだマシかもしれんぞ。

 

内心ちょっとだけ苦い気分になっている私に、デュヴァルがペコペコしながら話を続けてきた。……もしかするとお辞儀をするのが癖なのかもしれない。立場からして、あんまり頭を下げない方がいいと思うのだが。

 

「なんとも頼もしい限りです。……ちなみに、吸血鬼の方ではないのですよね? いや、最近同じ名前の吸血鬼がイギリスの本に出てきたもので。もしかしたらと思いまして。」

 

「あら、マグルの本まで読むのね。……でも、残念ながら人間よ。あっちはフィクションだし、何よりスペルが違うわ。あっちはuとyだけど、私のはaとiなの。」

 

「ああ、なるほど。古い方の『マーガトロイド』でしたか。これはとんだ失礼を。」

 

「構わないわ。珍しい名前だしね。勘違いするのも無理ないわよ。」

 

……短いやり取りだったが、デュヴァルに関していくつかのことが分かったな。一つはマグルに対してそう悪くない印象を持っているということだ。でなければマグル界のファンタジー小説など読まないだろう。私だってパチュリーがいなければ読まなかったくらいだし。

 

もう一つはイギリス魔法界の文化について詳しいということ。『古い方の』という言葉が出てくるのにはちょっとびっくりしたぞ。……いや、レミリアさんから名前を聞いて事前に調べたのかもしれないな。博識か、用心深いか。どっちにしろ無能ではなさそうだ。

 

いくらかの関心と僅かな警戒を脳裏に刻んだ私へと、デュヴァルは伺うように問いかけてくる。

 

「それでですね、実は少々込み入った事態になっておりまして。この場所を待ち合わせに指定したのは、近くに例の犯人たちが拠点として使用している可能性の高い建物があるからなのですが……その、監視役から先程人の出入りがあったという連絡が入ってきたのです。私は制圧に向かわなくてはならないので、少しの間カフェか何処かでお待ちいただけないでしょうか?」

 

「えーっと、部隊が待機してるってこと? それはまた、慌ただしい時に到着しちゃったみたいね。」

 

「いえいえ、相手の人数も少ないようですので、私一人で行く予定です。……何とも情けないことに、今は人手が足りないものですから。」

 

これは、どう読み取ればいいんだ? 実際申し訳なさそうに言っているようにも見えるし、暗に実力を見せてみろと言われている気もする。……そもそも、『人手が足りないから一人で突入する』なんてのは絶対に嘘だろう。私はフランス闇祓いについて詳しいわけではないが、幾ら何でもそこまで無茶苦茶な組織ではないはずだ。

 

まあ、私はレミリアさんから遣わされた『戦力』という立場でここに来ているわけだし、彼女の面目を保つためにもそれなりの働きをせねばなるまい。少なくともここで『はい、待ってます』と言うのは情けなさすぎる。

 

「それなら私も同行しましょうか? 勿論、邪魔でなければだけど。」

 

「それは……戦闘になる可能性もありますが、よろしいので?」

 

「当然よ。そのために来たわけだしね。」

 

一応準備はしてきたのだ。肩を竦めて言い放つと、デュヴァルはさほど悩まずに返事を返してきた。やっぱり探られてたか。しかし、私がノーと言ったらどうするつもりだったんだ? 本当に一人で突入したとか? いや、さすがに無いか。……無いよな? ムーディじゃあるまいし。

 

「いや、助かります。一人では心細かったものですから。……それでは、早速行きましょう。追えますか?」

 

「当たり前でしょ。これでも『熟練の』魔法使いなのよ?」

 

「これは失礼を。では……。」

 

言いながら姿くらましをしたデュヴァルに続いて、杖を振って後を追う。姿くらましを追うのには様々な条件があるが、それなりに腕の立つ魔法使いなら『くらました』直後の足跡を追うのは難しくはない。本当に直後しか無理だが。

 

そのまま慣れた移動方法でたどり着いた先は……廃墟? ボロボロの大きな工場の前だった。明らかにもう使われていない、ヨーロッパじゃ珍しい規模のマグルの巨大工場だ。うーん、ここまで大きいとちょびっとだけワクワクしちゃうな。パイプ、タンク、そして建物。全てが大きい。

 

「自動車を作っていた施設だそうです。マグルは面白いことを考えますな。機械で機械を作るそうですよ。」

 

「魔法とはまた違った方向の知恵ね。ここまでの規模になると脱帽よ。……フランスじゃマグルに対する姿勢は友好的なの?」

 

工場の……裏口かな? 何もかもが大きくていまいち判断がつかないが、それらしき場所に向かって歩くデュヴァルの背に続きながら問いかけてみると、彼は肩を揺らして返答を寄越してきた。どうやら苦笑しているらしい。

 

「基本的にはイギリスとほぼ同じですね。『古くさい』考え方をする家もありますが……まあ、そちらよりかはそういった声が聞こえないのかもしれません。大陸の魔法使いたちは、大戦の時に多くのことを学びましたから。」

 

「グリンデルバルドが残した唯一の『功績』ってわけね。イギリスも少しは見習って欲しいもんだわ。」

 

「表裏一体というわけですな。それに、多くの魔法使いが死んだせいで他国やマグル界と結びつく者も多くなったのです。今では所謂『純血主義』的な考え方はもう古く……おっと、警報魔法ですね。」

 

話の途中、裏口のゲートに差し掛かったデュヴァルが杖を振って警報魔法を解呪し始める。お見事。きちんと探知しながら進んでいたようだ。

 

「ここからはうちの子に先行させるわ。何人入って行ったの?」

 

「五人と聞いていますが……『うちの子』?」

 

「この子たちよ。」

 

疑問顔のデュヴァルが解呪している間に、人形を三体空中から工場内へと放った。もちろん隠蔽魔法をたっぷりかけた偵察専用の子たちだ。手練れならともかくとして、その辺の三下にはそうそう見つかるようなことにはなるまい。私の人形たちは可愛い上に優秀なのだから。

 

私から離れた途端に姿を消した人形を見て、デュヴァルは感心したように口を開く。

 

「それが『七色の人形使い』の所以ですか。見事なものですな。動きも滑らかですし、造形も素晴らしい。」

 

「あれは前回の戦争より後に作った子たちなんだけどね。……やっぱり事前に調べてたってわけ? 随分と用心深いじゃないの。」

 

「いや、まあ……失礼のないようにと思いまして。とはいえ、それ以前にも貴女のことは知っていたのですよ。アラスターから聞きましてね。」

 

「……ムーディから?」

 

これはまた、意外な名前が出てきたな。あの男のファーストネームを聞く機会は少ないから一瞬気付かなかったぞ。解呪が完了したのを見て再び歩き出しながら聞く私に、デュヴァルは一つ頷いてから説明してきた。

 

「私がまだ新人だった頃に、魔法生物の密輸事件でイギリスと合同捜査をする機会があったんです。その時アラスターの杖捌きを見て鼻っ柱をへし折られたわけですよ。恥ずかしながら当時の私は些か……その、調子に乗っておりまして。自らの杖捌きを過信していたのです。」

 

「あら、今の貴方からじゃ想像できないわね。」

 

「いやはや、お恥ずかしい限りで。あの頃はまだまだ私も青かったのですよ。……とにかく、同世代の魔法使いに初めて劣等感を抱いた私は、アラスターに事あるごとに対抗するようになりましてね。そんなことを続けるうちに親しくなっていったのです。」

 

「ムーディと、親しく? ……物凄いことを成し遂げたじゃないの、貴方。それは偉業よ。」

 

あの男が誰かと『親しく』しているところなんて想像できんぞ。警報装置以外に友人が存在したとは知らなかった。私が言わんとしていることを理解したようで、デュヴァルは苦笑いを浮かべながら続きを話し始める。

 

「ありきたりな友人関係ではありませんでしたが、それでもちょくちょく連絡は取り続けました。そして私の髪は薄くなり、アラスターを構成するいくつかの『パーツ』が無機物に変わった十数年ほど前、闇祓いの国際合同会議で会う機会があった時にちょっとした質問を放ったのですよ。『イギリスに君より強い魔法使いはどれほどいるのか』とね。私は精々ダンブルドア氏の名前が出るだけだと思っていましたが、意外な答えが返ってきたのです。」

 

「ムーディは何て答えたの?」

 

「アルバス・ダンブルドア、パチュリー・ノーレッジの二人には足元にも及ばず、アリス・マーガトロイド、ミネルバ・マクゴナガルの二人とは十度戦って八度は負けるだろう、と言っていました。あの歳にして、私が世界の広さを知った瞬間ですよ。」

 

「それはちょっと……驚きね。ムーディがそんなことを言うとは思わなかったわ。」

 

いっつもツンケンしてたってのに、私たちのいない場所ではそんなことを言っていたのか。私やパチュリーの名前が出てくるということは、戦争後の話なのだろう。……戦争中ならテッサの名前も出ているはずだ。

 

無愛想なグルグル目玉の意外な一面を発見できたところで、魔力の糸から伝わってきた情報を感じて気を引き締める。どうやら楽しい思い出話の時間は終わりのようだ。

 

「……さて、興味深い昔話も聞けたことだし、退屈な仕事に戻りましょうか。向こうの建物に九人いるわよ。広い部屋の中央にテーブルがあって、七人がそこで何かを話し合ってるみたい。残りの二人は東側の隅で寝てるわ。」

 

片眼を瞑りながら言う私に、デュヴァルは心底羨ましそうな表情で返事を返してきた。どうやって入手した情報なのかには察しがついたらしい。

 

「……あの人形、訓練すれば我々にも使える物なのですか? 是非とも我が隊に取り入れたいのですが。」

 

「残念ながら、一から教えると半世紀はかかるわね。諦めなさいな。」

 

「残念です。……いや、本当に。」

 

よほど適性が無ければ半世紀教えても無理だろう。私でさえ未だに『完璧』とはいえないのだ。……しかしまあ、ずっと一緒に研究してきたパチュリーはともかくとして、ダンブルドア先生ならなんとか使えそうだな。『糸』以外の方法を何か編み出してしまいそうだ。

 

そういえばダンブルドア先生には自律人形のことを詳しく話したことがなかったっけ。今度相談してみるのもいいかもしれない。あの人なら私やパチュリーとは違った答えを見つけ出せるかもしれないし。

 

イギリスに帰ったら早速訪ねてみようと考えつつも、人形が偵察済みのルートを辿って件の建物へと向かう。……見慣れぬ機械がいっぱいあってなんだか面白いな。これも自動車を作っていた機械なのだろうか? アーサーが見たら興奮しすぎて気絶しそうだ。

 

足音を忍ばせて件の建物のコンクリートの壁まで近付くと、デュヴァルが杖を抜いて声をかけてきた。……よく見ると、今まで見たこともないほどに短い杖だ。材質も独特だし、フランスの杖作りの作品なのだろうか? パチュリーの杖もかなり短めだが、それよりなお短いぞ。

 

「私が入り口を『作り』ますので、突入したらマダムは向かって右をお願いします。」

 

「了解よ。それと、マダムはやめて頂戴。ミスでいいわ。」

 

「失礼、ミス・マーガトロイド。では、掛かりましょう。……コンフリンゴ(爆破せよ)!」

 

素材や芯材のことを考える私を他所に、独特の言い回しと共にデュヴァルが壁を……あー、やり過ぎじゃないか? 信じられないほどの規模の爆発で吹っ飛ばしたぞ。そりゃあムーディと気が合うはずだ。見た目と違って思い切りがいいらしい。

 

呆れながらも土煙を突っ切って室内に足を踏み入れてみれば、安っぽい大机を挟んで何やら議論をしている七人の黒ローブが見えてくる。人形の視界を通した時と同じく、残りの二人は隅っこの小汚いマットレスで横になっているようだ。こっちは先行させてた人形たちで十分対処可能だろう。

 

「何だ? 何が──」

 

うーん、落第点だな。杖を抜かずに呆然としている右手の二人をちゃちゃっと無言呪文で気絶させて……おや、多少動けるのもいるのか。私の方では一人、デュヴァルの方では二人が素早く杖を抜いて反撃を放ってきた。

 

インペディメンタ(妨害せよ)……クソが、デュヴァルだ! 先に逃げろ、ケスマン! エクスパルソ(爆破)!」

 

「悪いけど、それは無理ね。……ステューピファイ!」

 

無言呪文で体勢を崩した後に本命の失神呪文で右の一人を無力化して、一対二を演じているデュヴァルの方へと援護に入る。……まあ、デュヴァルが余裕で押してるみたいだが。一人を逃がそうとしているようだが、その隙すら与えていない。

 

「プロテゴ! ……ケスマン、ここまでだ。やるぞ。」

 

「分かっている。……全てはより大きな善のために!」

 

何だ? 私が加わったことで更に劣勢となった二人組は、何を思ったのかお互いの足下に杖先を向け合って……おいおい、嘘だろう? そこまでやるのか、こいつら!

 

「エクスペリアームス!」

 

ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕)!」

 

ダメだ、間に合わない。私とデュヴァルの武装解除が激突する直前、黒ローブたちの杖からお互いの足下に向けて爆破呪文が放たれた。直後に受けた武装解除でクルクルと飛んでいく自分の杖には目もくれず、二人の黒ローブは勝ち誇るように笑いながらその眼をそっと瞑り──

 

「プロテゴ!」

 

轟音。交差した二つの呪文が黒ローブたちの足下に激突した瞬間、そこを中心とした凄まじい爆発が巻き起こる。とっさに唱えた盾の有言呪文にガツンガツンと床の破片が激突した後、杖を振って土煙を晴らすと……これは酷いな。変わり果てた室内の様子が見えてきた。

 

「……無事かしら? デュヴァル。」

 

廃墟から解体工事中に変わった床を見ながら聞いてみると、向こうも盾の呪文を使っていたらしいデュヴァルが返事を返してくる。

 

「問題ありません。そちらもご無事で?」

 

「当然無事だけど……しくじったわね。証拠が全部吹っ飛んだわよ。」

 

まさかここまでする連中だとは思わなかった。恐らく証拠の隠滅を図った自爆なのだろう。机の上の書類は当然として、その近くに居た七人は『破片』に変わってしまっている。……『こういうもの』を久々に見ると結構くるものがあるな。どうやら昼食は抜きになりそうだ。

 

転がっている踵だか膝だかを見ながら言う私に、デュヴァルもまた苦い顔で口を開いた。

 

「『当たり』だったようですね。ここまでするということは、あの二人は中心メンバーか何かだったのでしょう。……向こうで寝ていた二人はどうですか?」

 

「気絶してるだけよ。尋問はできると思うけど、あの感じじゃ望み薄っぽいわね。」

 

「でしょうな。」

 

ろくに情報も渡されていない下っ端なのだろう。でなければ爆破呪文の片方を向こうに放ったはずだ。つまり、念入りに破壊していった机周りこそが重要な証拠だったということになる。

 

一応二人を拘束しに向かったデュヴァルを横目に、何か原型を留めている証拠はないかとクレーターの近くに近付いてみれば……ああ、嫌なものを見つけてしまった。これはマズいぞ。

 

「……デュヴァル? この連中はグリンデルバルドのシンパなのよね?」

 

「実際どうなのかは不明ですが、少なくとも対外的にはそう名乗っております。……それがどうかしましたか?」

 

「なら、認識を改めるべきね。」

 

当然ながら予測はしていた。ハリーが見た夢がリドルの視界だとすれば、何らかの関わりはあって然るべきだったのだ。しかし……ここまであからさまな物を見るとやはり堪えるな。十年前にイギリスが払いきれなかった負債が、今度は大陸に圧し掛かっているわけか。

 

先程の黒ローブは自爆の直前、『より大きな善のために』と口にしていたはずだ。それに加えてこれか。早急にレミリアさんとダンブルドア先生に対して連絡を送るべきだろう。

 

「何か見つけたんですか?」

 

「ええ、最悪のものをね。」

 

ノロノロと千切れた左腕を拾い上げながら、アリス・マーガトロイドは大きなため息を吐くのだった。……闇の印が刻まれたその左腕を。

 


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