Game of Vampire   作:のみみず@白月

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パチュリー・ノーレッジと魔法の城
色分け


 

 

「意味なし、成果なし、全然なし! 二度と行かないわよ、あんな国! 何がラモラよ、ラモラなんかクソ喰らえだわ!」

 

巨大な世界地図をベチベチ叩きまくるレミリアの醜態を眺めながら、アンネリーゼ・バートリは『インド』という文字を二重線で消していた。別にラモラが悪いわけじゃないだろうに。あの魚は益魚……益魔法生物? だったはずだぞ。

 

紅魔館の薄暗い地下室の中では、半世紀ぶりの『吸血鬼首脳会談』が開かれているのだ。テーブルに広げられた世界地図を前にして、レミリアの情報を元にした世界各国の『色分け作業』を行なっているのである。……まあ、ヨーロッパ以外は殆ど無色で終わりそうだが。これも半世紀前の焼き増しだな。

 

「インドも消極的協力に留まる、と。古い魔法文化があるだけに、あの国を引き込めれば頼りになったんだが……参ったね。やっぱりあの辺から見れば対岸の火事か。」

 

二重線を書き込み終わった私の言葉には、地図に頬杖をついているフランが答えた。なんとも投げやりな声だ。

 

「いいんじゃない? 別に。絨毯乗りどもが頼りにならないのは最初から分かってたし。……だから私はわざわざ行くのは時間の無駄だって言ったんだよ。聞かなかったレミリアお姉様が悪いんだからね。」

 

「い、一応よ、一応! 大体、リドルのネームバリューが弱すぎるのが問題なの。『ヴォルデモート』よりも『グリンデルバルドの残党』の方に食いついてたわ。」

 

「それで、結局ラモラだかなんだかの魔法生物の保護で忙しいからって人の派遣を断られたんでしょ? ……絶対ウソだよ、それ。意味不明だもん。そもそもラモラって何さ。」

 

「そこは本当なのよ、フラン。インドでは大切にされてる魚で、香港自治区のバカどもが密漁しまくってるみたいなの。……そりゃまあ、多少は関わりたくないって気持ちもあるんでしょうけど。」

 

どこか自信なさそうに言うレミリアを横目に、西と北を除くアジア全体に大きなバッテンを書き込む。一応避難民を受け入れるだのなんだのという消極的な宣言をする国はあったものの、この辺の国々はヨーロッパの問題に直接関わろうという気はないらしい。

 

ま、仕方ないのかもしれんな。何たってリドルはまだ大きな事件を起こしてはいないのだ。唯一フランスのみが直接火の粉を被っているが、当のヨーロッパ各国にしたって何かが起こっているという実感は薄いだろう。

 

世界地図に描かれた巨大なバッテンを見ながら、レミリアがうんざりしたように口を開いた。

 

「とにかく、重要なのはヨーロッパよ。ポーランドとフランス、トランシルバニアとギリシャ、それにスイスとブルガリア、ユーゴスラビアとリトアニア。この辺はかなり真面目に話を聞いてくれてるわ。有事には戦力も動かしてくれるみたいだし、味方と言っても差し支えないでしょうね。」

 

「反面、きな臭いのがドイツとチェコスロバキア、ハンガリーとルーマニア、それにソヴィエトあたりなわけだ。半世紀前そのまんまの色分けじゃないか。……ん? ソヴィエトはロシアに戻ったんだったか?」

 

「マグル界じゃ連邦は解体されてるけど、魔法界ではその混乱の真っ只中ね。政治機関はまだソヴィエト名義だし、そっちでいいでしょ。……ちなみに、チェコスロバキアもマグル界だと連邦解消されてるわよ。」

 

「お可哀想に、マグル界の歴史教育は地獄絵図だろうね。くっ付いたり離れたりしすぎだぞ。……しかしまあ、ソヴィエトはデカい癖に忙しない国だな。前回の大戦では連邦形成やら粛清やらの混乱でまともに動けず、今回は解体の混乱で動けないわけか。我らが『タヴァーリシチ』たちは毒にも薬にもならんらしい。」

 

運が良いのか悪いのか、それとも単なるアホなのか。なんとも判断に困る国だな。肩を竦めて鼻を鳴らす私に、レミリアは首を振りながら訂正を寄越してくる。

 

「油断は禁物よ。ソヴィエトはグリンデルバルドのシンパが多かった国なんだから、前回同様に個人単位で参加してくる可能性は大きいわ。……大戦後も粛清だか内乱だかのどさくさで殆ど拘束されなかったみたいだしね。」

 

「そして、スウェーデンとノルウェー、ついでにデンマークあたりも同様か。北欧はゲラートのホームグラウンドだったからね。恨み骨髄のヤツと狂信者がごちゃ混ぜになってる感じだ。」

 

火が点けば一気に燃え上がるぞ、あの三国は。きな臭い国々に黄色のピンを刺していく私たちに、フランがかっくり首を傾げながら質問を放ってきた。

 

「でもさ、基本的にはテロリスト集団なんでしょ? 国単位で味方するって有り得るの? 半世紀前ならともかくとして、今のご時世じゃ外聞が悪すぎるんじゃない?」

 

「さすがね、フラン! 賢くて可愛いわ! スカーレット家の次女として──」

 

「そういうのいいから。どうなの?」

 

ありゃまあ、大人になっちゃって。真顔のフランに物凄くドライに流されたレミリアは、ちょびっとだけ顔を引きつらせながら咳払いの後に答えを返す。

 

「……コホン。そうね、最初は個々人としての参加ってことになるでしょう。そこから徐々に政治機関に影響力を食い込ませていって、ある時点で武力か政治力によって傀儡化、その後ジワジワと統治の方向性を変えていくって感じじゃないかしら。」

 

「ふーん。……なんか、迂遠じゃない? 私ならテロで頭を潰してから一気に挿げ替えていくけどなぁ。グリンデルバルドはお姉様の言う『正攻法』でやってたけど、リドルがそうするとは思えないよ?」

 

「それだと地盤が脆すぎるわ。強引な手段を取れば民衆の反対も多いでしょうし、ぐらんぐらんのジェンガみたいな政権になっちゃうの。」

 

「そりゃあさ、お姉様やグリンデルバルドみたいに長期的な安定を求めてるならそれを避けるだろうけど……でも、リドルは最終的に魔法界の『マグル関係』を全部『浄化』するつもりなんでしょ? 安定なんか気にしないと思うよ。」

 

そこで一度言葉を切った後で、フランは可愛らしく腕を組みながら続きを話し始めた。なんかこう、話す内容にそぐわない姿がなんとも非現実的だ。テロリズムを論じる少女か。風刺画の題材としては百点満点だな。

 

「んー、表現し難いなぁ。……つまりさ、レミリアお姉様もグリンデルバルドも『その後』の事まで考えてたけど、リドルはそんなのどうでもいいんだよ。ぶっ壊して、混乱させて、怖がらせて、その状態から権力を構築するのがリドルのやり方でしょ? ジェンガがぐらつこうが、崩れようが、そんなもん気にしないんじゃないかな。だから……そう、リドルは『統治』したいんじゃなくて、『君臨』したいだけなんだよ。その為だったら、何処がどれだけ滅茶苦茶になろうが気にしないんじゃない?」

 

『君臨したいだけ』か。フランが知ってて言ったのかは定かではないが、凄まじく皮肉の効いた表現だな。君臨すれども統治せず。本来は民衆の権利を表現した言葉だが、この場合は民衆を蔑ろにするという意味で使われているわけだ。きっとザモイスキも苦笑いを浮かべてるぞ。

 

だが、同時に正鵠を射ているとも言えるだろう。リドルの『目標』はゲラートのそれとは質が違うのだ。フランの言葉を受けて黙考の姿勢に入ったレミリアに代わり、自分の考えを整理しながら口を開く。

 

「方向としては概ね賛成出来るが、問題は周囲が付いてくるか否かだね。ゲラートの残党がそう易々とリドルが『焼け野原の王』になることを肯定するとは思えない。彼らにも彼らの目指す理念がある以上、どこかの地点でリドルとは相容れなくなるはずだ。……つまり、リドルの『真意』に気付いた時点でね。」

 

「うん、そこはよく分かんないや。現状従ってる……かどうかは不明だけど、少なくとも行動を共にはしてるんだから、リドルは対外的に『魔法族の地位向上』を掲げてるんでしょ? どこで考えをひっくり返すつもりなのかな?」

 

「恐らく、『クーデター』を制圧出来るようになった段階だろうね。問題はどのくらいの速度で支配力を浸透させられるかだ。頼りの『お友達』がアズカバンに居る以上、そうそう簡単じゃないはずだが……その辺ダンブルドアはどう思ってたんだい? レミィ。」

 

黙して地図を見ているレミリアに質問を飛ばしてみると、彼女は視線を上げずにポツリポツリと答えを返してきた。

 

「ダンブルドアはそれほど時間がかからないと考えてるみたいよ。恐怖による支配はリドルの十八番だしね。『復活』をカリスマ性を増すためのパフォーマンスにするでしょうし、既に内側に入っている以上、そこまで苦労は……ああもう、うんざりするわ!」

 

何だよ、いきなり。ビックリするじゃないか。急に大声を上げたレミリアは、机にべったりと寝そべりながら苛々顔で言葉を続ける。色々考えすぎてショートしたらしい。

 

「何にせよリドルが拠点を持たず、国を持たず、守るべきものを持たない以上、こっちは後手後手で対応していくしかないわ。……そもそも分霊箱の問題を解決出来てないんだから、殺すわけにもいかないしね。また延々同じ事を繰り返すのは御免よ。」

 

「んふふ、相も変わらずハンデの多い戦いだね。……そういえば、新大陸はどうなってるんだい? 彼らもゲラートには『一杯食わされた』訳だが。」

 

鬱屈としてきた話題をリセットすべく新大陸を指差して聞いてやると、顔を上げたレミリアはそこに……おや、味方を表す赤いピンを突き刺した。さっきから思ってたんだが、こういうのって普通青じゃないか? 赤だとややこしいぞ。

 

「今回は人員を送ってくれるみたいよ。本当に騒動が起こったらっていう条件付きだけどね。……『人道的立場におけるノーマジの保護のためなら、成熟した魔法社会としては協力を惜しむことはしない』ですって。マクーザは相変わらず綺麗事がお好きみたい。」

 

「へー、新大陸は進んでるねぇ。あっちだと純血主義もクソもないからなのかな?」

 

「フラン、汚い言葉を使っちゃダメよ。悪影響なの? リーゼの悪影響なのね?」

 

「さっきの自分の台詞を思い出すべきだと思うよ、ポンコツ。そしてアフリカは当然味方、と。……味方だよな?」

 

適当にあしらいながらも今度はアフリカを指差してやれば、レミリアは間髪入れずに頷きを返してくる。そりゃそうか。あの地は闇の魔術とは最も遠い場所なのだ。

 

「当たり前でしょ。大評議会で人員の派遣を一発承認してくれたわ。……アフリカの魔法使いたちからすると、リドルの思想は『サイの角を齧るほど愚か』なことみたいだしね。」

 

「なんだそりゃ。」

 

「知らないわよ。向こうの言い回しでしょ。……ただし、イタリアとスペインの反応は鈍いわ。どっちも大戦の影響が薄かった国だし、そもそも状況がよく理解出来てないみたい。」

 

「ふん。スペインはともかくとして、二枚舌のマカロニどもは何を考えてるか怪しいもんだがね。フランス占領後のゲラートには擦り寄ってきたくせに、彼がダンブルドアに負けた瞬間にクルリと手のひら返しだ。あんまり信用しない方がいいと思うよ。」

 

気に食わんピザ屋どもめ。鼻を鳴らしながらイタリアに黄色いピンを突き刺しまくっていると、今度はフランが机に寝そべって口を開いた。ちょびっと瞼が閉じているのを見るに、眠くなってきちゃったらしい。……そりゃそうか。今は午前十時なのだ。『規則正しい生活』を送っているフランにとっては、眠気がピークになる時間帯なのだろう。

 

「各国への呼びかけもいいけどさ、魔法省はどうなの? ファッジが降りる……っていうか、引きずり降ろされるのは決定したんでしょ?」

 

「ええ、引き継ぎやら事務手続きやらで少し時間が掛かるけど、八月からはボーンズ政権のスタートよ。ついでに言えば、反対派の連中はウィゼンガモットの傘下に『立て籠もる』つもりみたい。……まあ、無駄な抵抗ってやつね。今更何にも出来やしないでしょ。」

 

「へー。……執行部はどうなるの? イギリスの戦力っていったらあそこになるんでしょ?」

 

「例の制度が上手く広がればそうでもなくなるけど……そうね、魔法法執行部部長にはスクリムジョールがそのまま上がって、闇祓い局局長にはとりあえずムーディを復帰させることになってるわ。」

 

レミリアから放たれた妥当な人選を聞いて、フランは少しだけ心配そうな顔になってしまう。……当然ながら、スクリムジョールのことを心配しているわけではないはずだ。

 

「やっぱりムーディかぁ。……ヘンなことしなきゃいいけど。監禁騒動で色々と『悪化』してるんじゃないの?」

 

「スクリムジョールも不安がってたけど……でも、他に選択肢が無いのよ。平時ならともかくとして、今の状況だとガウェイン・ロバーズもキングズリー・シャックルボルトも経験不足なんだもの。となるとムーディを戻すしかないわ。」

 

目を逸らしつつのレミリアの言葉に、私もフランも揃って微妙な表情を浮かべる。魔法省は今からでもシュレッダーに保護呪文をかけまくるべきかもしれんな。あとはまあ、携帯水筒の購入補助金も配るべきだ。

 

「それより、私はパチェの方が心配よ。……今からでも止めた方がいいと思うけど。あの紫しめじに教師が務まると思う?」

 

レミリアの容赦ない追撃を受けて、私とフランは更に微妙な表情になってしまった。その通りだ。ムーディにとって闇祓いは天職……というか唯一向いている職業だろうが、パチュリーに教師が出来るとは思えない。向き不向きとかいうレベルじゃないぞ。

 

「私、ダンブルドア先生のことはすっごく尊敬してるけど……今回のは失敗だと思うなぁ。パチュリーをホグワーツの守りに当てるってとこはともかく、教師はやらせるべきじゃないと思うよ。」

 

「同感だね。パチェには悪いが、クィレルの方が百倍マシってことになりかねんぞ。クィレルは単に何も教えなかったが、パチェの場合は生徒をノイローゼに陥れる可能性があるんだ。」

 

知識量としては文句なしだろう。イギリスでパチュリー以上に『魔法』を知る者など居ないし、世界的に見ても『元人間』のジャンルでいけば上位に入るはずだ。……問題は、その人格である。

 

パチュリーは基本的に他者に対して『優しく』ないのだ。あの魔女は私やレミリア、美鈴なんかがやっているように社交用の『仮面』を被ることすらしない。そりゃあ紅魔館の住人たちや、古い付き合いのダンブルドアなんかはそれに悪意が無いことを知っているが……うーむ、初見の生徒たちはどう受け取るだろうか? 私には嫌な予感しかしないぞ。

 

それに、授業形式だって心配だ。限りなく自習に近くなるか、延々と演説を聞かされるかのどちらかだろう。あの賢すぎる魔女がホグワーツのバカガキどもに付き合い切れるとは思えん。

 

私とフランの言葉を受けて、レミリアは然もありなんと頷きながら同意を寄越してきた。

 

「私だってそう言ったわよ。でもほら、今年はホグワーツの教員席が三つ空くでしょ? ダンブルドアは妙な部外者を入れるよりかは、授業を『犠牲』にしてでも守りの方を重視するつもりみたいなの。」

 

「……ま、別にいいけどね。『対価』として安全が保障されてるってのは悪くない。もしパチェの授業が『ドン底』だったとしても、ハリーには私が教えるさ。」

 

「そうね。正直なところ、私たちが全力で攻めてもパチェのいるホグワーツを落とせるかは怪しいくらいだしね。……っていうか、むしろ人員が少なくなる紅魔館の方が心配なくらいだわ。大丈夫なの? フラン。」

 

「へーきだよ。パチュリーがちゃんと小悪魔に防衛魔法の起動方法を教えてったし、私とエマも居るんだよ? 美鈴も戦いなら頼りになるだろうしね。」

 

まあ、その通りだ。美鈴やフランは元より、エマだって一応はハーフヴァンパイアなのだ。向こうが余程の戦力を投入してこない限りは耐え得る……というか返り討ちに出来るだろうし、無理そうなら逃げちゃえばいい。後から全員で奪い返せばいいのだから。

 

話が一段落したところで、本格的に眠そうになってきたフランのために会議を締める。

 

「とにかく、第一幕の主役はキミだ、レミィ。リドルが本格的に動き出す前に、精々大陸を紅く染め上げてくれたまえ。下準備こそが勝利の秘訣だろう?」

 

「分かってるわよ。当然でしょ。……あんたにもちょっとは動いてもらうからね。もう旧騎士団の連中には正体を伝えてあるんだし、『お友達』二人にも話したんでしょ?」

 

「それは……うん、まだ機会が無くてね。近いうちに話すよ。」

 

「呆れた。……ビビり。ビビりペタンコ。」

 

うるさい、ポンコツ。夏休みはまだまだあるんだから別にいいだろ。罵ってくるレミリアの椅子を蹴って転ばせつつも、立ち上がって口を開いた。

 

「何にせよ、私はハリーに閉心術を教え込むことにするよ。早く習得させないと詳しい話が出来ないし、何よりあんなトカゲ男と繋がったままってのはハリーが可哀想だ。普通に気持ち悪いだろう?」

 

「んー、そうだねぇ。私ならうぇーってなっちゃうかな。……そういえばさ、『ここ』はどうするの? 使ったら使ったで厄介なことになりそうだけど、放っておくのは勿体なくない?」

 

言いながらフランは、世界地図のとある地点を指差す。嘗て私たちが最も見慣れていた場所。彼女の言う通り、放置しておくには勿体なさすぎる『大駒』がある場所だ。

 

懐かしさに浮かんできた笑みをそのままに、肩を竦めて返事を返す。

 

「心配ないさ。私とレミィでちょっとした計画を立ててあるからね。……ダンブルドアには話を通してあるんだろう? レミィ。」

 

「……話してあるわよ。それより、ごめんなさいは? 椅子を蹴った謝罪は何処に行っちゃったのかしら?」

 

「残念ながら、私の謝罪は値が張るんだ。キミに使うには勿体ないのさ。」

 

「謝りなさいよ、ビビり吸血鬼! フランの教育に悪いでしょ! 真似するようになっちゃったらどうすんの!」

 

もうそんなに子供じゃないだろうが。今のフランは立派なレディだぞ。子供扱いされてご立腹なフランの目線に気付かないレミリアを無視しつつ、ドアへと向かいながら背中越しに言葉を放った。

 

「それじゃ、私は今日も『小部屋』に行ってくるよ。お休み、フラン。良い夢を。」

 

「うん、おやすみ、リーゼお姉様。ハリーによろしくね。」

 

「さっさと習得させなさいよね! 閉心術!」

 

言われなくても分かってるさ。夏休み前に聞いた話によれば、ハリーとリドルの間にある繋がりは強化されてしまったらしい。今はまだリドルが気付いていないから実害は無いものの、気付かれて直接ハリーの心に侵入されたら一溜まりもないのだ。

 

さすがに操られるようなことになる可能性は薄いとかジジイは言ってたが、少しでも可能性があるのなら早急に閉心術をマスターさせる必要があるだろう。……それに、情報が渡る可能性がある以上、ハリーに詳しい話を伝えられない。もう隠し事は御免なのだ。

 

可愛らしい声と可愛げのない声。その二つを背にしながら、アンネリーゼ・バートリは地下通路を歩き始めるのだった。

 




若干ストックが怪しくなってきたので、余裕が出てくるまでは二日に一話のペースに下げようと思います。申し訳ございません!
なるべく早くペース戻せるように頑張りますので、長い目でお付き合いくだされば幸いです。

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