Game of Vampire   作:のみみず@白月

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バルコニー・ミーティング

 

 

「それで、どうだったのよ? マクーザ側の感触は。」

 

アトリウムに張り出している地下二階のバルコニーから身を乗り出して、レミリア・スカーレットは遥か下を見下ろしながら質問を放っていた。立ち並ぶ暖炉に出たり入ったりする魔法省の職員たち。ここから見てるとアリンコが忙しなく働いてるみたいだな。

 

私の背中越しの質問を受けたロビン・ブリックスは、かなりオドオドとした口調で答えを寄越してくる。……まあ、無理もなかろう。アメリア・ボーンズ、ルーファス・スクリムジョール、そしてアラスター・ムーディ。バルコニーに設置された丸テーブルに同席しているのは、どいつもこいつも癖のあるベテランばかりなのだから。

 

「はい、あの……思っていたよりも好感触でした。どうもリトアニアの大臣が事前に話を通してくれたようでして。ほぼこちらの条件通りで合意した形になります。」

 

「あら、リトアニアも粋なことをするじゃないの。後でお礼を言っとかなくちゃね。」

 

つまり、国際魔法協力部が行なっている外交の経過報告を受けているのだ。勿論ながらブリックスは部内でも下っ端で、本来こういう場で報告をするような役職じゃないわけだが……押し付けられたのか? この面子相手の報告なんてどう考えても貧乏くじなわけだし。

 

ちなみに、コーネリウスが同席していないのは未だ敵視されているからではなく、彼が全てを『放り投げた』からだ。奸臣たちがすたこらさっさとウィゼンガモットの直下組織に逃げ込んだことで、遂に彼も自分の置かれた状況に気付いたらしい。利用され、挙句見捨てられたことに。

 

以来、コーネリウスは抜け殻のようになってしまった。私やボーンズの言葉にうんうん頷き、言われるがままにサインして、暇になったら虚空を見つめながらボーッとするだけ。……本物のお人形大臣の誕生というわけだ。

 

今日も沈んだ顔で登省して、サインを書く人形と化しているコーネリウスのことを考える私を他所に、ボーンズが怜悧な視線をブリックスに向けながら口を開く。……やめてやれよ。ビビっちゃってるぞ。

 

「『ほぼ』ということは、条件通りに纏まらなかった点もあるということですね?」

 

「そうなります。……あの、すみません。」

 

「謝罪は結構。詳細を教えてくれますか?」

 

「はい。詳しく書かれた書類を持ってきていますので……ええっと、少々お待ちください。確かここに……あれ? 持ってきたはずです。絶対に、絶対に持ってきたはずなんです。何度も確認しましたから。」

 

焦った表情で鞄の中身をテーブルにブチまけるブリックスを見て、全員が……じゃなくて、ずっと仏頂面のムーディ以外が呆れた表情になってしまった。初々しいと捉えるべきか、単なるドジと捉えるべきか。うーむ、微妙なところだな。

 

ブリックスら国際魔法協力部がやっているのは、つまりは私の『後追い外交』だ。とりあえず私が各国に協力の約束を取り付けて、彼らがその詳細を詰めているのである。大枠の合意を得た後も決める事は山ほどあるのだから。

 

人員を派遣してくれるのか、それはどのくらいの人数なのか、指揮系統はどうなるのか。滞在場所、危険手当、期間、支給品。そういう細々としたところを、彼らにぶん投げているというわけだ。

 

お陰で国際魔法協力部は空前の激務状態に突入しているらしい。……まあ、クラウチが居なくなったこともかなりのウェイトを占めていそうだが。どうもあの部署は彼に頼りすぎていたようだ。

 

クラウチは面倒見が良いってタイプでもなかったし、周りが無能過ぎて自分でやった方が早いと判断したのかもしれないな。私が新たな『改善点』に頭を悩ませながらテーブルに戻ったところで、ようやく書類とやらを探し当てたブリックスが全員にそれを渡してきた。

 

「……ああ、これです! やっぱりありました!」

 

「そうね、やっぱりあって良かったわね。……へぇ、重要な部分は殆ど通ってるじゃない。撥ねられてるのはダメ元で頼んだ箇所ばっかりだわ。」

 

「……しかし、リセット部隊の派遣はやはり断られましたか。死喰い人がマグル界の街中で騒ぎを起こせば、忘却術師が足りなくなるのは目に見えています。マクーザが派遣してくれれば助かったのですが。」

 

「仕方のないことでしょう。向こうでも日々事件は起こっているはずですし、貴重な忘却術師まで要求するのは高望みしすぎというものです。……大陸と連携を取って大きな部隊を共同使用するのがいいかもしれませんね。」

 

書類に目を通す私、スクリムジョール、ボーンズが相談し始めたところで……そら来たぞ。ムーディがクソ長い杖で机をコンコンしながら文句を言い始める。被害妄想ショーの開幕だ。

 

「なんだこれは。入国直後の身元確認については何処にいった? わしの提案事項が一切載ってないぞ? ぇえ?」

 

「あのね、ムーディ。貴方ならどう思うかしら? 善意で他国への援軍として来てみれば、いきなり真実薬を飲まされた挙句に開心術で身元の確認をされて、暴露呪文やら闇の魔術検知棒やらで隅から隅まで調べまくられたら? 嫌になって帰りたくならない?」

 

「ならん。見事な入国検査だと感心するだけだ。」

 

「ああ、そう。……でも、普通はそうじゃないの。普通なら怒るし、帰るし、文句を言うのよ。『普通』ならね。」

 

下手すれば外交問題になりかねんぞ。検知棒と暴露呪文のあたりがギリギリ実行可能なラインなのだ。それ以上は『失礼』とかいうレベルではなく、『権利侵害』なのだから。

 

私の『常識』についての説明を受けたムーディは、欠片も納得していない様子で捲し立ててきた。

 

「お前も大概平和ボケしているらしいな、スカーレット。成り代わりは闇の陣営の得意手段だ。グリンデルバルドがそれでマクーザに侵入したのは有名な話だろうが? 一度はあった。ならば二度目も起こり得る。そうは思わんか?」

 

「ええ、重々承知してるわ、ムーディ。何せ貴方が数ヶ月前に『身を以て』証明してくれた手法だしね。だから魔法省に入省するときは検知棒でチェックするし、入国後にはちゃんと暴露呪文での検査を受けてもらうわよ。……当然、事前にきちんと理由を説明した上でね。貴方の提案書だとそこが完全に抜け落ちてたわよ?」

 

「ふん、事前に知らせる検査などに何の意味がある? 抜き打ちでやるからこそ意味があるんだろうが。……油断大敵! 忘れるな!」

 

いきなりの大声にブリックスが飛び上がって椅子からずり落ちるが、他の面子は涼しい顔だ。私とボーンズは騎士団の時にうんざりするほど聞いたし、スクリムジョールは闇祓い局で『決め台詞』には慣れてしまったらしい。

 

「し、失礼しました。」

 

少し顔を赤くして席に戻るブリックスへと、今度はスクリムジョールが質問を放った。ムーディの提案は流すことに決めたようだ。よし、今度から私もそうしよう。

 

「マクーザとの交渉に関しては大枠を理解した。では、アフリカの大評議会からの派遣に関してはどうなっているのかね?」

 

「あー、えっと……それに関しては、僕はよく知りません。……あの、すみません。確認してきましょうか? 走って行ってきますから、僕。」

 

うーん、可哀想に。真っ青な顔で縮こまるブリックスは、額に汗を浮かばせながらペコペコ頭を下げている。きっとロクな説明も受けずに伝書ふくろう代わりにされたのだろう。

 

あんまりな答えに少しだけ額をムニムニしたスクリムジョールだったが、一度息を吐き出すと別の質問をブリックスに投げかけた。……これといって『怒ってないよアピール』はしてあげないようだ。残念。

 

「いや、それには及ばん。後でこちらから確認の人間を送ろう。……それでは、ルーマニアはどうなっているのかね? 犯罪者引渡し条約に関しての交渉が難航していると聞いたが。」

 

「ああ、それなら分かります! どうも、ルーマニア魔法省はソヴィエト議会の目を恐れているようでして。本心の方ではむしろイギリス寄りの──」

 

急に元気を取り戻したブリックスの説明を聞きながら、再び席を立ってバルコニーの手摺に寄りかかる。……やっぱりソヴィエトが厄介だな。あの国はデカい。だから当然魔法使いも多い。おまけに内乱が多いせいで、戦い慣れた実働部隊を所有しているというオマケ付きだ。

 

これに関してはリーゼに任せた『大駒』の影響力に期待するしかないだろう。こちらも深手を負いかねない諸刃の剣だけに、本当は動かしたくなかったんだが……リドルに使われる可能性だってあるのだ。敵でも、味方でも、中立でも厄介な大駒か。うんざりしてくるぞ。

 

「えっと……つまり、ルーマニアは『保険』が欲しいようなのです。万が一向こうの議会から圧力をかけられた時、こちらが盾になるという確約が。それさえあれば──」

 

ふむ、この分ならルーマニアはどうにかなりそうだな。ブリックスの拙い説明を背に、アトリウムを見下ろしながら考えていると……おお? 奥の暖炉から見覚えのある姿が出てきた。ローブがイギリス魔法界一似合う男、アルバス・ダンブルドア閣下だ。

 

ゆったりとした動作でアトリウムを進んでくるダンブルドアに、道行く職員たちが次々に声をかけている。ある者は朗らかな顔で、ある者は尊敬の表情で、そしてある者は驚いたような雰囲気で。きっと魔法省に彼が居ることが珍しいのだろう。

 

うーむ、気になるな。ダンブルドアが城をパチュリーに預けて何をやっているのかは、私も詳しく聞かされていないのだ。ダンブルドア本人には答えをはぐらかされるし、知っている様子のパチュリーも何故か教えてくれない。

 

『分霊箱の件を解決するため』というのが唯一知らされている理由なわけだが……それならこっちとも連携を取ったほうがいいだろうに。何を隠しているのやら。

 

……ええい、ここで眺めていても仕方がない。どうして魔法省に来たのかも気になるし、話をしに行ってみるか。思い付きを行動に移すべく、整然とは言えない説明を受けているテーブルの方へと言葉を放った。

 

「ちょっと私は用事が出来たから、会議の結果は後で教えて頂戴。懸案事項があるならその時に答えを出すわ。」

 

「それは構いませんが……用事、ですか?」

 

「ええ、徘徊老人を見つけちゃってね。彼にちょっと話があるの。」

 

問いかけてきたボーンズに適当な返事を返してから、ふわりと浮いてアトリウムへと飛び降りる。……これ、飛翔術で各階のバルコニーに侵入されたりしないのかな? 『ハロウィンの悲劇』の時はお行儀良く階段を使ってたみたいだし、妨害魔法でもかかっているのだろうか?

 

後で魔法省の緊急防衛マニュアルを確認しておこうと決めつつも、和の泉を眺めているダンブルドアの隣にゆっくりと着地すると、彼は一切驚いた様子もなく私に挨拶を寄越してきた。上からカリスマ溢れる吸血鬼が降ってきたんだから、ちょっとくらいは驚けよな。

 

「これはこれは、スカーレット女史。お仕事中ですかな?」

 

「久し振りね、ダンブルドア。……まあ、そんなところよ。二階のバルコニーでボーンズたちと話し合ってたの。そしたら貴方が歩いてるのが見えてね。」

 

「ほっほっほ、忙しそうですのう。そういえば、アメリアは八月から大臣に就任するとか。なんとも頼もしい限りじゃ。」

 

「あのね、隠居ジジイみたいなこと言ってる場合じゃないでしょ。……それで、今日は何しに来たの?」

 

エレベーターに向かって歩き出したダンブルドアに続きながら聞いてみると、彼は地面を指差して答えを返してくる。

 

「実は大法廷に用がありましてな。ちょっとした『クレーム』を伝えに来たのですよ。」

 

「……ウィゼンガモットに文句を言うのは大賛成だけど、普通に門前払いを食らうと思うわよ?」

 

私やボーンズ、スクリムジョールなんかと同じように、『ただ今外出中』で追い払われるのがオチだろう。……ちなみに唯一ムーディだけは追い払われないので、どうしても押し通したい書類なんかがある時は彼を派遣するのが暗黙の了解になっている。あの目玉相手では居留守を使うのは難しいのだ。

 

「それでも、何もしないよりかは良いはずです。無言で譲歩し続ければ際限なく要求されますからな。せめてこれっきりにしていただかなくては。」

 

「なんか、結構怒ってるみたいじゃない。何についての文句を言いに来たの?」

 

一度もセキュリティチェックなど受けたことの無い守衛室を抜けながら聞いてみると、ダンブルドアは困ったような表情で『クレーム』の内容を語り始めた。

 

「それが、『魔法教育促進委員会』という部署からホグワーツに監査員なる役職の方が派遣されてきたのです。無論、怪しい人物でないことは確認済みなのですが……その監査員が、マダム・アンブリッジだったのですよ。」

 

「……何よそれ。」

 

思わず足を止めて問い返す。そんな報告は一切上がってきていないぞ。私の目が細まってきたのを見て、ダンブルドアが少し驚いたように言葉を寄越してきた。

 

「……これは、驚きましたな。ご存知なかったのですか?」

 

「ええ、初耳よ。そりゃあウィゼンガモット直下の、訳の分からない部署の所属になってるのは知ってたけど……嫌な感じね。やけに鮮やかな手口じゃない。外に出さずに大法廷で全ての処理を終えたのかしら?」

 

「そうかもしれませんな。……法的には拒絶出来ませんでしたので、来学期中は城に滞在することになっております。」

 

目線でどう思うかと問いかけてくるダンブルドアに、脳内で弾き出した答えを返す。問題はあるまい。……多分。

 

「鬱陶しいだけで、実際は何も出来ないはずよ。自治に介入しようとしても実行する手段に欠けてるわけだし、無理矢理やってこようとすればこっちだって突っ込めるわ。恐らく、監査の名目で貴方の失点探しをしてるだけでしょ。」

 

「それなら問題は無いのですが……まあ、ホグワーツにはノーレッジがおりますからな。何か強引な手を打ってこようとしても、彼女が止めてくれるはずです。」

 

「そうね、むしろやり過ぎないことを祈るばかりよ。……一応、後で執行部の法務担当に抜け穴がないかを確認させておくわ。大法廷はそこまでホグワーツに拘らないと思うけど、念には念を入れとかないとね。」

 

「おお、それは助かります。……そういえば、『手紙』は渡せましたかな?」

 

思い出したかのように話題を変えてきたダンブルドアに、こくりと頷いてから返答を放った。時間的に考えると、正に今頃渡しているはずだ。

 

「そろそろ届いた頃じゃないかしら。心配しなくても、運び手は信用できる人物よ。どっかに漏れたりはしないし、渡し損ねるってこともないはずだわ。」

 

「そちらは心配しておりませんが……どうやって外に連れ出すつもりなのですか? それに、『偽装』の方も。」

 

「そっちの心配も無用よ。ちゃんと根回ししてあるから。」

 

私の返事を聞いて小さく頷いたダンブルドアは、疲れたような表情でポツリポツリと呟き始める。私に話しかけながらも、自問しているかのような雰囲気だ。

 

「果たして、この選択は正解だったのでしょうか? 『彼』にも、そしてヨーロッパ魔法界にも。単に迷惑をかけてしまうだけの結果になるかもしれません。」

 

「正しいかどうかは知らないけどね。唯一の選択肢だったのは確かよ。……後悔してるの?」

 

「それが、自分でもよく分からないのです。死んで欲しくはありませんが、出来れば静かに余生を過ごして欲しかった。……ううむ、人生というのはままならないものですな。」

 

「どちらにせよ、選ぶのは彼よ。私たちに出来るのは提案を送ることだけだわ。」

 

鬼が出るか蛇が出るか。今はまだ誰にも分からないのだ。肩を竦めて返した私に、ダンブルドアは首を振りながら口を開いた。

 

「そうですな、正しい選択であることを祈ることにしましょう。……では、わしは十階に行ってまいります。アメリアにもよろしくお伝えください。」

 

言うと、ダンブルドアはゆったりとした動きでエレベーターの中へと消えて行ってしまう。……ま、そっちの担当はリーゼだ。私は既に賽を投げた。であれば、後はあのペタンコの手管に期待するしかあるまい。

 

それより、私は私の『仕事』をすべきだろう。もしウィゼンガモットが強引な手段でアンブリッジを派遣したのであれば、それを叩いて叩いて叩きまくらねばならないのだ。政治でマウントを取るためにも、そしてストレス発散のためにも。

 

ついでにスキーターに連絡して記事でも書いてもらうか。『大法廷、不正な手段で教育への強引な介入!』とか、そんな感じの。……あのブン屋を使い始めてみて分かったが、紙面を自由に動かせるってのはかなり便利なのだ。やっぱりペンは強いな。相手を殴りつける時なんかは特に。

 

今日も元気に悪巧みをしながら、レミリア・スカーレットは自身の『城』で歩き始めるのだった。

 

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