Game of Vampire   作:のみみず@白月

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もう一人の男の子

 

 

「おやまあ、激混みだね。」

 

付添い姿あらわしした9と3/4番線のホームの端っこで、アンネリーゼ・バートリはよろけて倒れそうになっているハリーに話しかけていた。六月末もそれなりに混んでたが、今日の混み具合を見ると大したことないように思えちゃうな。

 

既にホグワーツ特急は乗車を開始しているようで、別れを惜しむやり取りが彼方此方で繰り広げられている。そしてちょくちょくと青いローブを着た魔法警察が居たり、明らかに周囲を警戒している様子の魔法戦士たちの姿が見えたり……まあ、例年より多少物騒なのは確かなようだ。

 

アリスやブラック、ルーピンなんかも何処かで警備を担っているのだろう。人混みの中に見知った姿はないかと見回していると、一際目立つ姿が柱に寄りかかっているのが見えてきた。

 

「おや、ムーディだ。本物の方かな?」

 

「もう偽物じゃないといいけど。……なんか、変な気分だよ。結局医務室では話さなかったし、向こうから見れば殆ど初対面なんだよね?」

 

「なぁに、気にすることはないさ。端からイカれてるんだし、ムーディの方もそんなことを気にしやしないよ。」

 

気楽に言って近付いてみると、ムーディは杖を構えたままで油断なく周囲を睨みながら言葉を放ってくる。うーむ、動作がそっくりだな。……じゃなくて、クラウチの息子の方がそっくりだったのか。これは確かにややこしいぞ。

 

「吸血鬼か。……ふん、貴様がバートリというわけだ。」

 

「いやぁ、デジャヴを感じる台詞だね。ごきげんよう、イカれ男さん。それと、闇祓い局長就任おめでとう。」

 

「他にロクなヤツが居ないから戻されただけだろうが? 祝うようなことではあるまい?」

 

「これは『社交辞令』ってやつだよ。一つ勉強になったね。」

 

と、鼻を鳴らすムーディの横から誰かがひょっこり顔を覗かせた。知らん顔だな。小柄で快活そうな笑顔を浮かべた、ショッキングピンクの髪が目立つ若い魔女だ。変人の近くには変人が集まるらしい。

 

「わお、ハリーだ。よっ、ハリー。それに、バートリさん……じゃなくって、バートリ、でもなくって、ハリーは知ってるんだっけか? それじゃあ、初めまして、バートリさん。私、トンクス。ニンファドーラ・トンクス。闇祓いだよ。……ああでも、見習いだけどね。試験に合格したばっかりなんだ。それと、ニンファドーラって名前はあんまり気に入ってないから、トンクスって呼んでくれると嬉しいかな。」

 

おお、勢いが凄いぞ。捲し立てるように言葉のマシンガンを放ってきた魔女は、そのままニコニコしながら私とハリーと握手を交わす。……ふむ? 私のことを知っているということは、ダンブルドアかレミリアと繋がっている人員の一人なのだろうか? いよいよ私の知らん奴が増えてきたな。

 

「あー……えっと、僕、ハリー・ポッターです。よろしく。」

 

「もうご存知のようだが、アンネリーゼ・バートリだ。よろしく、ニンファドーラ。」

 

何にせよ、名前で呼んで欲しくないと言うならそう呼ぶだけだ。それが吸血鬼ってもんなのだから。私の言葉を聞いたニンファドーラは、引きつった顔で額を押さえながら口を開く。

 

「あっちゃー、そうだった。スカーレットさんとも同じやり取りをしたんだよね。……今からでもトンクスにはしてくれないかな? ダメ?」

 

「嫌だね。吸血鬼っていうのは総じて捻くれ屋なのさ。それに、いい名前じゃないか、ニンファドーラ。精霊の加護があるかもしれないよ? そんなもんが居るかは知らんが。」

 

妖精とかいう訳の分からん存在が居るのだ。精霊だって居るかもしれんぞ。肩を竦めて言う私に、ニンファドーラはますます嫌そうな顔になって言葉を返してきた。

 

「正にそれが問題なんだよ。『かわいい水の精、ニンファドーラ』。ああ、逆転時計が使えればなぁ……。自分が産まれた時に戻って、ママに名前を変えさせてやるのに。一度申請してはみたんだけど、許可が下りなかったんだよね。」

 

「史上最もバカバカしい逆転時計の使い方だろうね、それは。」

 

「うぅん、理解が得られない問題なんだ。困っちゃうよ、本当に。」

 

こいつは……あれだ。魔理沙と同じタイプだな。初っ端からグイグイ距離を詰めてくるくせに、それを不快に思わせないようなヤツ。魔理沙が多少計算の上でやっているのに対して、こいつのは天然っぽいが。

 

「ねえねえ、傷痕を見せてくれない? ……ああでも、嫌ならいいんだ。あんまり有名だと、みんなから言われてうんざりしちゃいそうだしね。私も七変化だから、よく『変身してみせて』とかって言われちゃうもん。……えへへ、そういう時は思いっきり不細工な顔に変身してやるんだ。相手がビックリしていい気味だから。」

 

「傷痕は別にいいですけど……『七変化』?」

 

「やった。そんじゃ、代わりに私の七変化も見せてあげるよ。えっとね、七変化っていうのは生まれつき備わってる能力で、見た目を自由に変えられるんだ。魔法を使わなくてもね。ほら、見てて──」

 

ほう、七変化とは珍しいな。今度はハリーに『ジャレつき』始めたニンファドーラを眺めていると、ムーディが唸るような声でボソリと話しかけてくる。

 

「油断はするなよ? バートリ。先程スリザリン生の集団が到着した。当然、忌々しい親どもと共にだ。今は前方車両の方にたむろしておるわ。」

 

「んふふ、向こうも向こうで『集団登校』ってわけかい? 警戒するのはお互い様なわけだ。火花でも撃って脅かしてやろうか?」

 

「ふん、笑い事ではないぞ。お前に僅かでも脳みそが残っているなら、ポッターを連れて前方車両の方に近付くべきではないな。……いいか? 油断──」

 

「大敵。分かってるよ、ムーディ。本家本元は初めてだが、残念ながらもうそのセリフは聞き飽きてるんだ。キミの努力の甲斐あって、イギリス魔法界にはあまねく広がっている『標語』なのさ。」

 

ニヤニヤ笑って言ってやると、ムーディは義足を踏み鳴らしながら言葉を吐き捨ててきた。おやおや、決め台詞を封じられて怒ったようだ。

 

「これだから吸血鬼というのは好かん。……さっさと行ったらどうだ? ぇえ? ポッターを連れてホームをウロつくのがお前の仕事ではあるまい?」

 

「おお、怖い怖い。闇祓い局局長どのはもう少し忍耐というものを学ぶべきだね。……ほら、行くよ、ハリー。ここに居るとケナガイタチにされちゃうぞ。」

 

「えっと……うん。それじゃあ、また。」

 

「バイバイ、ハリー、バートリさん。気をつけてね!」

 

陰と陽の年の差闇祓いコンビに背を向けて、後方車両の方へと歩き出す。……まあ、確かにムーディの言う通りだ。護衛の観点から見ても、さっさとハリーを頑強な列車の中に『仕舞い込んだ』方が良いな。

 

ちなみに咲夜は魔理沙と一緒に煙突飛行で来る予定だ。少し心配だが、忠誠の術で守られた場所から駅に直行するなら危険はなかろう。アリスがちゃんと護衛用の人形を渡したようだし。

 

こういう時は人員不足を痛感するな。私はホグワーツまでハリーの側を離れられないし、レミリアやフラン、ついでにエマは日光がある限りどうにもならん。パチュリーはホグワーツで、アリスは仕事。美鈴はここで晒すのは勿体ないし……小悪魔? 小悪魔か。能力込みなら咲夜の方が頼りになりそうだ。

 

パチュリーに管理を任された図書館で、ぐーたらしっぱなしのサボり悪魔のことを考えながら車内に入ると……うーむ、心なしか車内も活気が無い気がする。いつもなら廊下で話している生徒やらが沢山いるのに、今は空いているコンパートメントを探す生徒がちらほらいるだけだ。

 

ハリーも同じような感想を抱いたようで、少し曇った顔でポツリと問いかけてきた。

 

「なんか、寂しい感じだね。……ロンとハーマイオニーはどこかな?」

 

「監督生は別のコンパートメントらしいよ。バッジの使い方とか、一年間の注意事項やらを聞かされるんだろうさ。」

 

空いているコンパートメントはないかと覗き込みながら言ってやると、ハリーは困ったように返事を返してくる。

 

「それじゃあ、城に着くまで会えないってこと?」

 

「さてね。まあ、幾ら何でもそこまで長々と話してたりはしないんじゃないかな。途中で合流することになると思うよ。」

 

「そうだといいんだけど。……話したいことが色々あるんだ。」

 

「ホグワーツに着けばうんざりするほど話す時間なんてあるだろうに。性急すぎる男は嫌われちゃうぞ。」

 

適当に返しつつも次なるコンパートメントを覗いてみれば……おや、ロングボトムだ。グリフィンドールで最も間抜けな少年が、一人でまんじりともせず座席に座っているのが見えてきた。

 

「……仕方ない、ここでいいか。」

 

「それって、凄く失礼な台詞だと思うよ。」

 

「お褒めにあずかり恐悦至極だ。」

 

失礼なのは生まれつきなのさ。やれやれと首を振るハリーを無視して、ノックもせずに中に入ると……ロングボトムは一瞬びくりと身を竦めた後、頼りない感じの半笑いで声をかけてくる。安心したような表情を見るに、一人で心細かったらしい。

 

「アンネリーゼ、ハリー! 久しぶりだね。」

 

「やあ、ロングボトム。ここは空いてるかい?」

 

「うん、もちろん空いてるよ。知り合いが誰も居なくって、でも歩き回るとマルフォイとかに見つかるんじゃないかと思って、それで……。」

 

ここに『隠れて』いたと。いやはや……ロングボトムがグリフィンドールに組み分けされたことを、ホグワーツ七不思議の一つに組み込むべきかもしれんな。明らかに対極の位置にいるじゃないか。

 

呆れながらもハリーと二人で荷物を仕舞っていると、ロングボトムが窓の外を指差して話しかけてきた。指差す先には……おお、アリスじゃないか。スクリムジョールと熱心に何かを話し合っている。魔法省はキングズクロス駅の防衛をよほど重く見たようだ。執行部の新部長どのまで足を運んでいたわけか。

 

「ばあちゃんが言ってた。ホームで何か起こったらマーガトロイド先生のところに逃げろって。それと、杖を手放すなって。……持ってても僕に何か出来るとは思えないけどね。」

 

「マーガトロイド先生? ……本当だ。話してる男の人は誰だろう?」

 

「ルーファス・スクリムジョール。新しい魔法法執行部部長だよ。レミィが最近よく連んでる『お友達』さ。」

 

私から見れば……そうだな、『普通に優秀』な男って印象だ。仕事ぶりや能力に文句は無いのだが、クラウチやムーディのように個性豊かな魔法使いではない。なんというかこう、無難な感じが否めないのである。

 

いやまあ、これまでが異常すぎたのかもしれんな。ボーンズといい、スクリムジョールといい、レミリアが選んだ人材は『まとも』なのが多い気がする。魔法省がようやく正常な状態に戻ったってことか?

 

うーむ、頼もしいっちゃ頼もしいが、見てて面白くないのが唯一の欠点だな。『安定感がある魔法省』ってのは違和感が凄いぞ。我ながら物凄く理不尽な評価を下していると、ロングボトムも彼の『スクリムジョール像』を話し始めた。

 

「僕は頼りになりそうに見えるけど、ばあちゃんはあんまり好きじゃないみたい。……でも、ばあちゃんは闇祓いがみんな嫌いだからね。あんまりアテにならないかな、うん。」

 

「キミの両親のことがあったからかい?」

 

なんともなしに聞いてみると、ロングボトムは驚いたように私の方を振り返る。……あれ? 言っちゃマズかったのか? ハリーなんかもキョトンとしているし、どうも秘密にしていたようだ。悪いことしたな。

 

「アンネリーゼ……アンネリーゼは知ってるの? その、僕のパパとママのこと。」

 

「そりゃあ、私はアリスと住んでるからね。アリスはよくお見舞いに行ってるだろう? 色々と話を聞いたりもするのさ。」

 

「それは……そうだね。マーガトロイド先生はよく来てくれるんだ。もう何年も経ってるのに、ずっと。だからばあちゃんもマーガトロイド先生には凄く感謝してるみたい。」

 

少し俯いて呟いたロングボトムに、話についてこれていないハリーが恐る恐るという感じで問いかけた。少なくとも楽しい話題でないことは察したようだ。

 

「えっと、ネビルの両親は入院してるの? ……いや、話したくないならいいんだ。ごめん、余計なことを聞いたかな。」

 

顔を上げたロングボトムのショボくれた表情を見て、慌ててハリーは後半を付け加える。それに苦笑して首を振った後、ロングボトムは静かに両親のことを語り始めた。

 

「ううん、いいんだ。……僕の両親は聖マンゴに入院してるんだよ。もう十年以上、ずっとね。磔の呪文で……その、おかしくなっちゃったんだって。ばあちゃんは僕を守るために抵抗したからだって言ってた。詳しくは教えてくれないんだけど、僕が一歳の頃に家に死喰い人が押し入ってきて、一家全員を殺そうとしたみたい。それで僕の居場所を見つけようとして拷問したんだよ。でも、パパとママは赤ん坊の……僕の居場所を最後まで言わなかったんだって。」

 

あの日、ロングボトム夫妻の隠れ家に押し入った数人の死喰い人とクラウチの息子は、結局クローゼットの床下に隠されていたロングボトムを見つけることは出来なかったらしい。気が狂うまで拷問をされて尚、ロングボトム夫妻は一人息子の居場所を隠し通したのだ。

 

昔レミリアから聞かされた事の経緯を思い出す私を他所に、ロングボトムの平坦な声は続く。ハリーは問いかけたことを滅茶苦茶後悔しているようだ。自分を思いっきり殴りつけたそうな顔になっている。

 

「その磔の呪文を使ったヤツが、クラウチ・ジュニアだったんだってさ。だからばあちゃんは闇祓いが嫌いなんだ。その父親が昔の執行部部長だったし、守人……忠誠の術って知ってる?」

 

「よく知ってるよ。ハリーも、私もね。」

 

「そっか。それなら分かると思うけど、家の守人だった人も闇祓いだったんだ。パパやママと仲の良い同僚だったんだけど、服従の呪文で操られて秘密を教えちゃったんだって。だから……うん、ばあちゃんは闇祓いが大嫌いなんだよ。多分ばあちゃんも八つ当たりだってことは分かってるんだろうけど、それでもどうにもならないみたい。」

 

だから去年の防衛術で、ロングボトムは磔の呪文だけではなく、服従の呪文の時もいい顔をしていなかったわけか。話し終えたロングボトムに、ハリーが物凄く気まずそうな顔で声をかけた。我が身に通ずる事件だけに、気まずさも一入なのだろう。

 

「ごめん、ネビル。こんなことを話させて。僕、無神経だったよ。……信じられないくらいにね。」

 

「いいんだ、ハリー。僕もずっと君には話したかったんだよ。だから、いい機会だったんだ。……僕、君の話をばあちゃんから聞いてた。知ってる? 産まれてすぐの頃、僕とハリーは同じ場所で過ごしてたんだって。」

 

「本当に? 全然知らなかったよ。……じゃあ、君のママと僕のママは友達だったの? 同じ場所で子育てしてたってこと?」

 

「よく分かんないけど、そうみたい。ばあちゃんは『お前はマーガトロイドさんにおしめを替えてもらったこともあるんだから、絶対に恩知らずなことをするんじゃないよ!』っていつも言ってるから、マーガトロイド先生も同じ場所に居たんじゃないかな。」

 

目をパチクリさせたハリーは、窓の向こうで人形を回収したりまた放ったりしているアリスを見た後、今度は私に問いかけの目線を送ってきた。……うーむ、説明しろということか。ロングボトムには正体を明かしてないんだぞ。

 

ま、別にいいか。既にリドルは死喰い人に対して『可愛くて賢い高貴な吸血鬼』の説明を終わらせてることだろうし、学校に行った後は教師陣にも説明する予定なのだ。ペラペラ話して回るつもりはないが、聞かれたら答えるくらいのスタンスでいけばいいだろう。

 

……ただまあ、いい歳こいて『リーゼちゃん』をしてたのは少し恥ずかしいな。内心の葛藤をとりあえず脇に避けて、彼らの疑問を解消するために口を開く。

 

「それで合ってるよ。ロングボトムの両親もダンブルドアの組織……騎士団のメンバーだったんだ。当時は聖マンゴすら危険な場所だったからね。出産は騎士団の秘密拠点で行ったんだよ。」

 

思えば奇妙な縁だな。この二人は私の屋敷で、在りし日のムーンホールドで生を享けたわけか。……よく考えたら、長い歴史を誇るムーンホールドでも人間が『生まれた』のはこの二人が初じゃないか? 『死んだ』なら無数に前例があるだろうが。ロングボトムはともかくとして、ハリーはつくづく吸血鬼に縁があるようだ。

 

そんな吸血鬼の屋敷で生まれた男の子は、首を傾げながら次なる質問を放ってくる。興味津々のご様子だ。

 

「でも、僕もネビルも他の場所に移されたわけだよね? どうしてなの? その場所の方が安全だったんじゃ……。」

 

「そうでもない。……いやまあ、結果から見ればどうだったかは謎のままだけどね。何にせよ当時の判断としては、人の出入りが多い拠点よりも忠誠の術で守られた隠れ家の方が安全だということになったのさ。それでキミはゴドリックの谷へ、ロングボトムはロンドン郊外へと移されたわけだ。」

 

結局それは功を奏さなかったわけだが……まあ、結果論だ。服従の呪文による暗殺を警戒していた以上、そう間違った選択とも言えないだろう。あのご時世、しかも予言のことがあった状況では、どこも確実に安全だとは言い切れなかったのだから。

 

この辺の選択に関しては、当事者ではない私ですら後悔があるのだ。きっとフランやアリス、ブラックやルーピン、それにレミリアやダンブルドア。当事者たちは今でも考えることがあるのだろう。もしポッター家やロングボトム家の守人がフランやレミリアだったら? もしあのままムーンホールドに留まっていたら? もしコゼット・ヴェイユを強引にでも休ませていたら?

 

……だが、全ては過去だ。過ぎ去った時間には誰も手を出せないし、出すべきではない。私がもしもの思考を打ち切っている間にも、ハリーとロングボトムはお互いを見ながら神妙な顔で呟き合う。

 

「なんか……不思議な話だね。ずっと昔に僕とネビルは会ってたんだ。同じ場所で生まれて、今こうやって同じ学校の同じ寮に居る。凄く不思議な気分だよ。」

 

「うん。でも、全然違う風に育っちゃったけどね。ばあちゃんはいつもハリーを見習えって言うんだ。もう少しシャンとしろって。……僕もまあ、そう思うよ。」

 

ちょっとだけ悲しそうにロングボトムが言ったところで、出発の汽笛が鳴り響いた。ホームから動き出す車両を見守る親たちの後ろで、数人の闇祓いが姿くらましをしている。……彼らは列車の進行に合わせて、路線の各所に待機する予定なのだ。規定の時間に規定の場所を通らなかった場合、即座にその前後の中継点から捜索が開始されるらしい。

 

そして当然ながら数名の闇祓いは乗車しているはずだ。……いやはや、頼もしい限りじゃないか。お陰で私は持ち込んだワインを楽しめるってもんだ。

 

正体がバレた今、遠慮してかぼちゃジュースを飲む必要などもはや無い。後三年間は列車の旅を優雅に過ごすことが出来そうだ。……いや、つまみも持ってくるべきだったな。来年は気を付けよう。

 

トランクからボトルとグラスを取り出しつつも、アンネリーゼ・バートリは動き出す車窓を眺めるのだった。

 


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