Game of Vampire   作:のみみず@白月

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監査員

 

 

「なんか、今年はいつもと違ったな。ハッキリ言ってたぜ。『警告』って。」

 

ロンの不安そうな声を受けて、アンネリーゼ・バートリは静かに頷いていた。帽子まで尤もらしい警告を放つとはな。相も変わらず意味不明な学校だ。

 

ホグワーツ特急の旅も無事に終わり、例年通りに始まった歓迎会。入場してくるチビっ子たちを微笑ましげに見ていた在校生だったが……組み分け帽子の歌が終わった今、誰もが不安そうに囁き合っている。

 

難攻不落のホグワーツね。心配は無用だ、帽子。今年に限ればこの城は正にその通りになるのだから。……まあ、イギリスそのものがどうなるかは知らんが。そこはレミリアの頑張りに期待だな。

 

教員席で退屈そうにしている紫の魔女を見ながら考えていると、同じ方向を見ていたハーマイオニーが怪訝そうに口を開いた。

 

「ダンブルドア先生の隣にいらっしゃるのがノーレッジ先生よね? ……随分と若く見えるけど。」

 

「アリスと一緒だろ。ノーレッジは校長と同世代なんだ。見た目で判断するとバカを見るぜ。」

 

ハリーの隣の魔理沙が然もありなんと答えを返したところで、どうやら組み分けがスタートしたようだ。マクゴナガルがヒヨコちゃんの名前を呼ぶ声が響く中、今度はハリーが教員席を見ながら問いを放つ。

 

「ちょっと待った、ハグリッドが居ないよ。……それと、スネイプもだ。」

 

「本当だ。どうしたんだろ? ハグリッドは心配だな。」

 

ロンの声に、ハリーとハーマイオニーが深く頷くが……いや、スネイプも心配してやれよ。ハリーのために敵の陣営に命懸けで潜入しようとしてるってのに、これではさすがに報われんぞ。

 

スネイプからは一切連絡が送られてこないが、かといってこちらからコンタクトを取るわけにもいかない。潜入に手間取っているのか、はたまた潜入したからこそ連絡を送れないのか、もしくはもう既に『始末』されてしまったのか。詳細は不明だが、今のところはあの男の口八丁を信じるしかないのだ。

 

内心で報われない陰気男に同情を送りつつ、肩を竦めながら答えを返した。

 

「任務だよ。詳細は言えないが、ハグリッドもスネイプも任務を遂行中なんだ。どっちもいつ帰れるか分からないし、今年は代わりに他の教師を雇ってるはずだよ。」

 

これが今言えるギリギリのラインだ。スネイプは『ダンブルドアのスパイのフリをしたリドルのスパイのフリをしたダンブルドアのスパイ』……ややこしいな。とにかく二重スパイとして動くはずなので、『任務』であることは伝えてしまっても問題あるまい。

 

「どんな任務なんだ?」

 

「言えるわけないだろう? ロン。キミたちがペラペラ話すような人間じゃないってのは理解しているが、少なくとも狙われているハリーが閉心術をマスターするまでは秘密だよ。」

 

まあ、スネイプの方は閉心術をマスターしたところで教えられんが。ただでさえ疑われているのに、二重スパイであることを広めまくるなどバカのやることだ。こればっかりは信頼してるしてないの問題ではない。沈黙こそが最大の防御なのだから。

 

とはいえ、ロンにとっては望ましい返答ではなかったようで、不満げな雰囲気を覗かせながら尚も情報を引き出そうと話しかけてきた。

 

「秘密は守る、絶対だ。……パパも何かしてるみたいなんだけど、全然教えてくれないんだよ。僕たちにだって知る権利はあるだろ?」

 

「そうだよ。それに、ホグワーツなら安全でしょ? いきなり誰かが開心術をかけてきたりはしないはずだ。」

 

「それにさ、知ってればこそ備えられることもあるんじゃないか? あとは……ほら、何か手伝えるかもしれないし。出来ることならやるぜ?」

 

うーむ、ハリーと魔理沙も乗ってきてしまったな。ハリーは敵からの開心術を警戒していると思っているようだが、私たちが警戒しているのはリドルとの繋がりなのだ。そして、どうやら無自覚のリドルにそれが伝わる可能性がある以上、ハッキリとそれを説明することも出来ない。もどかしいな。

 

何にせよこの質問をやり過ごさねばなるまい。三人にはぐらかしの返事を返そうとしたところで……おお? その前にハーマイオニーと咲夜が代わりに反論を繰り出し始める。おいおい、なんだこりゃ? いつの間にか小さな討論に発展してしまったようだ。

 

「あら、それはどうかしらね。リーゼたちだって秘密にしたくてしてるわけじゃないでしょ? そうする必要があるからそうしているのよ。私たちのやることは根掘り葉掘りそれを暴こうとすることじゃなくて、話しても大丈夫だってことを示すことなの。つまり、信頼に足るだけの能力をね。」

 

「そうですよ。先ずはきちんと閉心術をマスターして、秘密を守れるってことを証明すべきです。口約束だけじゃ何の保証にもならないじゃないですか。」

 

困った。ロンと魔理沙は未だ納得いかないという表情で、咲夜に弱いハリーは若干勢いを無くし、ハーマイオニーは威厳たっぷりに腕を組み、そして小さなメイド見習いどのは鼻を鳴らしている。……変な空気になっちゃったな。

 

まあ、『開示要求』をしている三人の気持ちも分からんでもない。単に知りたがりなわけではなく、自分たちに何も出来ないのがもどかしいのだろう。

 

ロンは両親や兄たちが動いているのを目にしているし、魔理沙はダイアゴン横丁の惨状やアリスのことを目にしている。そしてまあ、ハリーについては言わずもがな。我が身に関わる問題を知りたいと思うのは仕方があるまい。

 

とはいえ、だからといってペラペラ話す私じゃないのだ。顔には苦笑を浮かべつつ、場を収めるために口を開く。

 

「いいかい? 私たちはキミたちを軽んじてはいないし、ハーマイオニーが言った通りにそうする理由があるからそうしているんだ。いつか伝えた時に納得するであろう理由がね。だから、そうだな……今のキミたちに出来ることは、ハリーの閉心術の特訓を手伝うことかな。一歩目を踏み出せないままじゃあ何にも始まらないだろう?」

 

珍しく真面目な表情で言った私を見て、温度差はそれぞれだが全員納得の頷きを寄越してくれた。そして同時に組み分けも終わったようだ。……全然見れなかったな。いやまあ、別に興味は無いが。

 

マクゴナガルが帽子と椅子を片付けたところで、ゆるりとダンブルドアが立ち上がる。例年に増して生徒たちの真剣な目線が集まる中、ホグワーツの校長どのは柔らかな声を張り上げた。

 

「お帰り、在校生たち。ようこそ、新入生の諸君。今年も組み分けを無事に見届けられて何よりじゃ。新たに加わることになる仲間たちを、各寮が温かく迎え入れてくれることを祈っておる。……うむ、わしが祈らんでもそうなるじゃろうな。」

 

そこでパチリとウィンクをしてから、ダンブルドアは少しだけ真剣な表情になって話を続ける。

 

「今年は変化の年となる。ヨーロッパ、イギリス、そしてホグワーツ。諸君らを包む環境は目まぐるしく変化することじゃろう。望む、望まぬに関わらずじゃ。……じゃが、安心して欲しい。今年、わしはホグワーツの校長として最善の一手を打った。わしの人生の中でも最優の一手をの。」

 

そこでダンブルドアは隣に座るパチュリーを手で示すが……うーん、悲しいかな。陰気魔女は同級生の演説に協力する気はないようだ。どうでも良さそうに文庫本に目を落としている。

 

それに苦笑を浮かべつつ、ダンブルドアは続きを語り出した。どうやらパチュリーの反応は予想済みだったらしい。そりゃそうか。私としても大いに納得の反応だったし。

 

「わしに代わり、今年は彼女が校長代理としてホグワーツを治めることになっておる。パチュリー・ノーレッジ校長代理じゃ。……おや、心配かね? ふむ、皆不安そうじゃな。」

 

生徒たちが不安七割、戸惑い三割くらいの視線でパチュリーを見る中、ダンブルドアの朗らかな声がその雰囲気をかき消した。

 

「この小さな魔女は、わしの同級生なのじゃよ。そして同時に、わしを遥かに凌ぐ強大な魔法使いでもある。……このアルバス・ダンブルドアが自らの杖に誓おう。パチュリー・ノーレッジがホグワーツに居る限り、諸君らに危険が迫るようなことは決して無いと。この言葉にわしは命を賭けることが出来る。刹那も迷わずにね。」

 

悠然と、迷いなく言い切ったダンブルドアの言葉を受けて、大広間を騒めきが包み込む。そこらの魔法使いではない。あのアルバス・ダンブルドアが自らの杖に誓った。それは生徒たちにとって驚きに値する台詞だったようだ。

 

「これって……ビックリね。そこまで言うとは思わなかったわ。」

 

「勝てる賭けにベットを躊躇うような男じゃないのさ、ダンブルドアは。私だって同じ状況なら全財産を賭けるよ。」

 

ポツリと呟いたハーマイオニーに肩を竦めて言ったところで、微笑みながらのダンブルドアが再び声を張り上げる。ちなみにパチュリーは未だ文庫本に夢中だが……ふん、ページを捲るのを忘れてるぞ。相変わらず褒められるのに弱いヤツだな。

 

「故に、わしは何一つ心配しておらぬ。諸君らの中にはそれを老人の呑気さと笑う者もいるじゃろうが……ほっほっほ、これに関してはわしの勝ちじゃよ。一年後、君たちはわしの言葉の意味を理解することじゃろうて。……おお、そうじゃ。今わしの言葉を疑い、一年後に『参った』と思った者はノーレッジにマカロンを贈るように。そうならなかった時はわしが……うむ、杖をへし折ってみせようぞ。ポッキリと。」

 

おいおい、ニワトコの杖を折ったらゲラートが悲しむだろうが。折るくらいなら返してやれよ。クスクス笑いながら冗談だか本気だかよく分からんことを言ったダンブルドアは、今度は教員席の新顔を手で示しつつ口を開く。

 

「それに、新たな教師を紹介せねばなるまい。先ずは研究のために学校を離れているスネイプ先生に代わって、今年の魔法薬学を教えてくださることとなる……ホラス・スラグホーン先生じゃ。彼は以前にもホグワーツで同じ教科を教えていた方じゃよ。」

 

言葉を受けて、フリットウィックの隣に座っていた男が立ち上がった。でっぷり太った樽のような体型で、口元には見事なセイウチ髭。顔には柔和そうな笑みを浮かべている。

 

スリザリンだけはパラパラと、他の寮からは盛大な拍手が沸き起こる中、ハリーが明らかに大きめの拍手を送りながら声を上げた。手が痛くなりそうなほどの叩きっぷりじゃないか。

 

「うん、スネイプよりは良い人そうだね。……少なくとも僕を睨んではいないし、あの感じなら多分僕に毒薬を飲まそうとはしないはずだ。」

 

「毒薬とスネイプの関連性についてはともかくとして、キミの両親もスラグホーンに教わっていたはずだよ。リリー・ポッターは魔法薬学が得意だったそうだし、彼ももしかしたら覚えてるかもね。」

 

「そうなんだ……。」

 

そのままぺこりと洒落た感じにお辞儀をしたスラグホーンが座ると、今度はスプラウトの隣に座っている大柄な魔女が立ち上がる。私は見たことのないヤツだな。

 

「そして、ハグリッド先生に代わって魔法生物飼育学を教えてくださる、ウィルヘルミーナ・グラブリー=プランク先生じゃ。ハグリッド先生は魔法生物の保護活動のために少しばかり城を離れておる故、その間は代理として彼女が授業を進めてくれることとなる。」

 

若干弱めの拍手だったグリフィンドールとハッフルパフも、『代理』という言葉を聞いて拍手を大きくした。……魔法生物の保護活動ね。もっと良い言い訳はなかったのか? 去年のスクリュートの一件があったせいで、チラホラと不安がっている生徒が見えるぞ。

 

「『少しばかり』ってことは、今年中には帰ってくるんだよね? ……それも秘密?」

 

ちょっとだけ元気を取り戻したハリーの質問に、首を傾げて答える。正直言って私にもよく分からんのだ。マクシームと一緒に大陸の方の巨人との交渉に挑んでいるらしいが、巨人なんかとまともな交渉が出来るとは思えんぞ。私と美鈴がやったような『交渉』の方が手っ取り早いだろうに。

 

「秘密というか、それは私にも分からないんだ。……帰って来れるって報せを受けたら教えるよ。」

 

「そっか、無事だといいんだけど。」

 

少なくともロマンチックな旅行とはいかないだろうな。嘗てうんざりするほど見た巨人のことを思い浮かべていると、ダンブルドアは次に……おっと、あれが最近噂のカエル女か。確かにカエルだ。いきなりゲコゲコ言い始めても誰も疑問には思うまい。

 

「闇の魔術に対する防衛術はノーレッジ校長代理が兼任してくださる予定じゃ。……そして、今年は魔法省から派遣されて来た方が城に常駐することとなっておる。魔法教育促進委員会からいらっしゃった、ドローレス・アンブリッジ監査員じゃ。この学校の教育が『正しく』行われているかを監査してくださるそうでのう。」

 

教員テーブルの一番隅でニタニタするアンブリッジに、生徒たちからは戸惑いを含んだ儀礼的な拍手が上がった。……なんか知らんが、教師たちには随分と嫌われているようだな。教員テーブルの中には一度か二度手を叩いただけのヤツどころか、手を上げようとすらしなかったヤツまでいるぞ。具体的に言えば、フーチ、スプラウト、シニストラ、フリットウィックなんかの古参連中だ。

 

「さて、それでは小難しい話は一区切りにして、先ずは食事を──」

 

「ェヘン、ェヘン。」

 

と、ダンブルドアが腹ペコの生徒たちの望む言葉を放とうとしたところで、アンブリッジのわざとらしい咳払いが響く。しばらくは何事かと首を傾げる大広間の面々だったが……ああ、立ってるのか、あれ。座っても立っても高さが同じせいで全然気付かなかったぞ。

 

「ホグワーツの流儀を知らないみたいだな、あいつ。校長の話を遮るなんて初めて見たぞ。」

 

「一応は卒業生なんだと思うけどね。」

 

ニヤニヤするロンに肩を竦めたところで、ダンブルドアが行儀良く促したのを見たアンブリッジが口を開く。……そして他の教師たちはうんざりしたような表情だ。いやぁ、さすがに酷いんじゃないか? 夏休み中に何かあったのだろうか?

 

しかし、ホグワーツの教師たちがアンブリッジを嫌う理由はすぐに判明した。恐らく私だけではなく生徒全員がだ。正確に言えば、彼女が話し始めた直後に。

 

「歓迎の言葉恐れ入ります、校長先生。そして、こんばんは、みなさん! 可愛らしい生徒のみなさんの前でお話し出来るのは本当に嬉しいですわ!」

 

こりゃまた、凄まじいな。別になんら悪口を言っているわけでもないのに、話し方が全てをダメにしている。甲高い少女のような猫撫で声、薄気味悪いニタニタ笑い、そして人差し指を悪戯げに『チョン、チョン』とする仕草。うーむ、あまりに哀れだ。鏡をプレゼントしてやるべきか?

 

とはいえ、残念ながら同情に値すると考えたのは私だけのようだ。生徒たちの多くは『お子ちゃま』扱いされたのがお気に召さなかったらしい。まだ第一声だというのに半数が苛々顔で、もう半数は愕然とした顔になってしまっている。レミリアは嫌ってるらしいが……いや、中々面白いヤツじゃないか。

 

「私は監査員として一年間を過ごすことになりますが、同時にみなさんと『お友達』になれるとも思っていますの。何かお困りごとがあれば是非声をかけてくださいね。……ほら、教師に話せないことでも、お友達の私になら話せるでしょう? 私の部屋のドアはいつでも開いていますわ。」

 

そこでロンが『オエッ』という顔をするが、ハーマイオニーですらそれを止めようとはしなかった。……もしくはしてるヤツが多すぎて気付かなかったのかもしれんが。

 

アンブリッジはそれに気付いているのかいないのか。何にせよニタニタ顔を保ったままで、少しトーンを落として続きを語り始める。先程までの猫撫で声は鳴りを潜め、文章を読み上げる時のような無味乾燥な口調だ。

 

「ェヘン、ェヘン。……さて、魔法省はこの学校の教育がイギリス魔法界にとって非常に大きな要素になっていると、常にそう考えてきました。ホグワーツ魔法魔術学校はイギリス魔法界の入り口であり、誰しもが通る道なのです。であるからこそ、この道が荒れればイギリスそのものが荒れることになってしまいます。……故に私は監査員としてこの学校に派遣されることとなったのですわ。正しい教育が為されているか、間違った考え方を植え付けてはいないか。魔法省としてはそれを監視する責任があり、仮に事が判明した場合にはそれを是正しなければならない義務があります。……ああ、勘違いなさらないで? あくまで私が派遣された理由の説明であって、私個人が教師の皆様を『疑っている』わけではありませんの。」

 

そこで『分かるでしょ?』という感じに教員テーブルを見るが、アンブリッジに礼儀正しく首肯を返したのはダンブルドアだけだった。マクゴナガルなんかは正面を向いたままで微動だにしていないし、フリットウィックはフォークとナイフに呪文をかけて追いかけっこをさせている。スプラウトはテーブルの上の燭台を弄るのに夢中で、シニストラとトレローニーは天井の星々を指差しながら何かを話し合い、そしてパチュリーは『ノーレッジ』に夢中だ。

 

教員席でさえああなのだから、生徒たちなど言わずもがな。既に殆どの生徒たちは長過ぎる『お堅い』話に飽きて、コソコソペチャクチャお喋りに熱中している。私の周りで真剣に聞いているのはハーマイオニーだけらしい。ハリーとロン、魔理沙は小声でクィディッチの話をしてるし、咲夜は……おや、可愛いな。こっくりこっくりし始めたぞ。

 

私が突っつきたくなる前後運動をニマニマ眺めている間にも、アンブリッジの『大演説』は続く。

 

「歴史上、多くの魔法使いたちがこの学校の支配を目論んできました。……当然ですわね。ここでの『教育』を自由に出来るということは、未来のイギリス魔法界を自由に出来るということなんですもの。だからこそホグワーツは独立自治を認められ、いかなる政治団体にも干渉されない立場を保っているのです。……しかし、それは『自由にやってもいい』というわけではありませんの。イギリスの法や政治形態がある以上、それに則った教育を施すのは当然のことでしょう? ……司法機関であるウィゼンガモット大法廷はこのことを重く受け止めています。間違っていることは往々にして内側からは気付き難いものなのです。だからこそ外の目が必要になる。だからこそ監査員が、この私が内側から見極める必要があるのです。そして万が一そこに問題があった場合、外側からの力によってそれを正さねばなりません。多少強引にでも、迅速に。イギリス魔法界を歪ませない為にも、私の全力を以ってこの仕事に当たるつもりですわ。」

 

おっと、終わったか? ダンブルドアがパチパチと拍手をし始めたのを聞いて、生徒たちからもパラパラと拍手が起こるが……珍しいな。ハーマイオニーが拍手をしていない。ついでに言えば各寮の上級生にも数名拍手をしていない者が見受けられる。それどころか決然とした表情でアンブリッジを睨みつけてるぞ。

 

「どうしたんだい? ハーマイオニー。」

 

「聞いてたでしょ? 魔法省はホグワーツに対して干渉しようとしているの。そうじゃなきゃこの時期に『監査員』だなんて意味不明よ。独立自治を撤回しようとしているのかもしれないわ。」

 

「厳密に言えば、『ウィゼンガモットが』だね。魔法省じゃない。」

 

「だとしても、良くないことよ。ホグワーツは政治に左右されるべきじゃないわ。教育機関として中庸の位置を保つべきなの。」

 

なんともまあ、相変わらず賢い子だな。本当に十五歳なのかが怪しくなるほどだぞ。彼女は独立自治の理由を正確に把握しているらしい。顔に苦笑を浮かべつつ、ぷんすか怒るハーマイオニーへと言葉を放つ。

 

「キミね、アンブリッジの話にも出ていたが、千年間で同じことを考えたヤツがどれほど居ると思うんだい? 星の数ほど居るだろうさ。……だが、見てごらんよ。誰一人としてホグワーツを支配出来た者は居なかった。この城はそんなにヤワじゃないんだ。あの女もそのうちそれに気付くさ。」

 

「でも……リーゼは大丈夫だと思うの?」

 

「何なら賭けるかい? この『生きた城』をどうにかするのは難しいぞ。政治的にも、物理的にもね。……ま、見てるといいよ。そのうち分かるさ。」

 

「──な話じゃった。聞きたいことは色々とあるかもしれんが……うむ、今はその時にあらずじゃ。それ、掻っ込め!」

 

私が自信たっぷりに言い切ったところで、ようやくダンブルドアが食事開始の台詞を放った。……まったく、遅いぞ。小難しい政治の話なんかより、大事な大事な食事を優先すべきだろうに。

 

現実問題として、アンブリッジが出来ることなど高が知れているのだ。精々ゲコゲコ耳障りな鳴き声を上げるのが精一杯だろう。レミリアが政治的に護り、パチュリーが物理的に護っているのだから。なんなら私が『真なる敵』を見張ってやってもいいさ。

 

創設者たちの時よりかは一本ほど少ない柱だが……まあ、十分だろう。私ならこれを崩せと言われたら、言ったヤツの正気を疑った後に寝返ることを選ぶぞ。

 

「そら、難攻不落のホグワーツに乾杯だ。」

 

キョトンとするハーマイオニーと盃を合わせつつ、アンネリーゼ・バートリは肉を『回収』する作業に入るのだった。

 

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