Game of Vampire   作:のみみず@白月

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図書館と、見習い魔女

 

 

「あのさ、リーゼ。……本当にあの魔女が私に何かを教えてくれるのか?」

 

薄暗い夕暮れの廊下を歩きながら、霧雨魔理沙は先導するリーゼへと声をかけていた。三年生も防衛術の初授業は済ませてるが……ルーピンや偽ムーディと比べると、とてもじゃないが教師に適してるとは思えんぞ。

 

新学期が始まってから数日が経過した今日、リーゼがいきなり校長室に行くぞと私を談話室から引っ張り出したのだ。二年生の終わりにした、キングズクロス駅での約束を果たしてくれるらしい。

 

正直言ってノーレッジの授業は……うん、期待外れだった。咲夜は懸命にフォローしていたが、あれはどう考えても良い授業だったとは言えまい。既にそれは一部のレイブンクロー生たち以外の、ホグワーツにおける共通認識になりつつある。

 

不安たっぷりで三階の廊下を歩く私に、リーゼはクスクス笑いながら返事を返してきた。

 

「さてね? それはキミ次第だよ。……いいかい? パチェは『図書館』なんだ。探して、読もうとする者には深遠なる知識を与えるが、単に閲覧机に座ってるだけじゃ何も起こりやしないのさ。」

 

「自分から動けってことか?」

 

「その通り。キミも魔女の端くれなら、必死になって探究したまえ。パチェの図書館には必ず答えがあるんだ。それを探せるかはキミの頑張り次第だよ。」

 

『図書館』か。考え込み始めた私を他所に、リーゼは到着したガーゴイル像に向かって合言葉を放つ。……そういえば、校長室に入るのは初めてだな。どんな部屋なんだろうか?

 

「ハムレット。」

 

リーゼが呟いた途端にガーゴイル像は横に退き、その後ろに下りの螺旋階段が見えてきた。……うーむ、ちょっとワクワクしてきたぞ。これも一種の隠し部屋なわけだ。

 

「なあなあ、どういう意味の合言葉なんだ?」

 

「キミね、シェイクスピアくらいは……ああ、幻想郷の出身だったか。そうだな、イギリスの古い戯曲だよ。悲劇だか喜劇だかよく分からんやつ。」

 

「何でよく分かんないんだよ。悲劇と喜劇じゃ真逆だろ?」

 

「価値観の違いさ。私から見れば喜劇だったが、マグルから見れば悲劇なんじゃないかな。」

 

「あー……うん、何となく想像付いたぜ。」

 

つまり、掛け値なしの悲劇なわけだ。どうでもいい会話を繰り広げながら短い螺旋階段を下り切って、歴史を感じさせるオーク材のドアを開けてみれば……本だ。本に占拠された部屋が目に入ってくる。

 

積み上げられた本、本、本。ギリギリ歩くスペースがある以外は全部本。机の上に本、ソファに座る本、棚の中にも本、上にも本、そして本の上にも本。圧倒されるな、これは。ここまでくると一種の狂気すら伝わってくるぞ。

 

「踏まないようにね。訳の分からん呪いをかけられたいって言うなら別だが。」

 

「御免だぜ。」

 

リーゼの忠告に従ってかなり慎重に奥へと進んで行くと、ポツリと置かれた揺り椅子にノーレッジが座っているのが見えてきた。当然ながら読書中だ。……こいつ、食事とかどうしてるんだろうか? 揺り椅子以外は全部本だぞ。この女が本の上に皿を置くとは思えんし、浮かせたりしてるのか?

 

「おいおい、パチェ。執務机はどこに行ったんだい? 一昨日来たときはあったじゃないか。」

 

「退かしたわ。スペースを取りすぎるのよね、あれ。」

 

「なんともまあ……ご老人の顔が引きつるのが目に浮かぶようだね。あの机は結構お気に入りだったみたいだぞ。」

 

「壊しちゃいないわ。だからどっかにはあるでしょ。……多分ね。」

 

ちょこっとだけ首を傾げて言ったノーレッジにため息を吐いてから、リーゼは私を手で示して口を開く。

 

「まあ、私は別にいいけどね。それで……これが一昨日説明した霧雨魔理沙だ。キミに鍛えて欲しい、咲夜の親友の魔女の卵さ。」

 

「ああ、この子が……。」

 

リーゼの言葉を受けて面倒くさそうにゆっくりと顔を上げたノーレッジは……おいおい、こいつ、『ヤバい』ぞ。この距離で目を合わせて初めて分かったが、こいつはとびっきりのヤバい魔女だ。

 

瞳を見ればすぐに分かる。アリスの瞳も積み重なった知識を感じさせる深いものだったが、それでも人間らしさを保っていた。だが、こいつの紫の瞳は違う。深淵だ。底無し沼のような、怖気を誘うほどの深さ。

 

もしかしたら、リーゼに初めて会った時よりも怖いかもしれない。こいつは『図書館』なんて生易しいもんじゃないぞ。人のカタチをした『知識』だ。見てるとまるで引き摺り込まれるかのような感覚に陥ってくる。

 

ぞくりと背筋を震わせる私に、ノーレッジは何の前置きも無しで質問を寄越してきた。その顔には……テストってわけか? まるで見定めるかのような怜悧な表情が浮かんでいる。

 

「フリペンドとデパルソ。その違いは?」

 

「あーっと……点か面かだ。どっちも衝撃を与える呪文だが、フリペンドが点でデパルソが面。」

 

「アキレ豆の汁を採取するのに最も適した方法は?」

 

「鞘の両端に切り込みを入れて、圧力が均等にかかるようにすり潰す。」

 

「十九世紀の中頃にイギリスで流行り、その結果規制されることになった魔法薬は?」

 

「……分からんぜ。」

 

「複眼薬よ。では、ジョバーノールの羽根の使い道は?」

 

「あー、記憶修正用の魔法薬だ。……あと、真実薬にも使われる。」

 

「リブラ、タウルス、カプリコルヌス、ピスケス。これらを魔法的に意味のある順番に並べると──」

 

その後も次々と質問は続く。一年生レベルの簡単なものから、私が聞いたことも無いような難題まで。魔法薬学、変身術、呪文学、防衛術……果ては魔法史や天文学。あらゆる内容の問いかけだ。このホグワーツで学んだことを脳みそから引っ張り出しながら、必死にそれに答え続ける。

 

最初はニヤニヤ笑っていたリーゼが退屈そうに欠伸をし始めた頃に、ようやくノーレッジは最後の質問を放った。くっそ、四割くらいは答えられなかったぞ。

 

「最後よ。貴女は咲夜の友達だったわね?」

 

「おう、親友だ。……それが質問か?」

 

「違うわ。正直に答えなさい。……もしも無限の英知が手に入るとしたら、貴女は咲夜を殺せる? 可能不可能じゃなくて、やろうとするかって意味よ。」

 

「無理だな。」

 

反射的に言ってしまってから、ちょっとだけ後悔が湧き上がってくるのを感じる。……魔女なら『殺せる』と答えるべきだったのかもしれない。目の前の魔女のことはよく知らんが、何より知識を優先しそうなのは何となく分かるぞ。

 

でも、正直に答えた結果がこれなのだ。もはやどうにもなるまい。内心で後悔する私を他所に、ノーレッジは興味深そうに少しだけ目を細めた後……今度はリーゼに向かってゆっくりと問いかけた。

 

「まだ三年生なのよね?」

 

「キミが授業の記憶を喪失しているのはよく分かったよ。三年生だ。キミの授業を既に受けたことのある、グリフィンドールの三年生だ。」

 

「生徒の顔なんか覚えてるわけないでしょ。……ん、そういえば咲夜の隣に居たかも。」

 

記憶を若干取り戻したらしいノーレッジは、私に向かって『試験』の結果を話し出す。……なんかドキドキしてきたな。言ってくれればもっと勉強して来たのに。抜き打ちテストだなんて意地が悪いぜ。

 

「同じ頃のアリスと比べると……そうね、魔法薬学と天文学、薬草学の知識については少しだけ上回ってるわ。対して呪文学と変身術に関しては大きく劣り、魔法史と防衛術は僅かに劣る。飼育学やルーン文字に関してはそもそも基礎的な知識があるのみで、数占いはさっぱりね。……ちなみに占い学、飛行訓練、マグル学は除外よ。あれは『学問』じゃないわ。」

 

「アリスには私やキミが『個人指導』してたことを忘れるなよ?」

 

「忘れてないわよ。その頃から人形作りに時間を割いてたってこともね。それを差し引くと……まあ、努力は認めましょう。私の指定した教科書もちゃんと読んだみたいだし。」

 

合格……ってことか? 首を傾げて疑問符を浮かべる私に、ノーレッジは面倒くさそうに言葉を続けてくる。

 

「やる気があるのは分かったし、珍しく『脳みそ』がちゃんとある魔法使いってのも理解出来たわ。……それで、私に何を求めるの?」

 

「あーっと、教えてくれるのか? つまり、魔女のことを?」

 

「貴女は咲夜の命を救ったわ。それでも見所が無さそうなら嫌だったけど……そうね、及第点よ。『一つだけ』何かを教えてあげる。」

 

「……ちょっと待ってくれ、考えるから。」

 

私の返答を受けたノーレッジは、『それでいい』とばかりに頷いてから読書に戻った。『一つだけ』か。これはランプの魔人と一緒だ。願いは慎重に選ぶ必要がある。

 

頭の中にグルグルと考えが浮かんでは消えていく。私が欲しいのは戦う術だ。咲夜やハリーたちの邪魔にならない……じゃなくて、むしろ頼ってもらえるくらいの力が。背中を預けてくれるくらいの頼もしさが。

 

だから……そう、単純に呪文が上手くなりたいとかではないのだ。一つでいい。一つでいいから、私にも何か『切り札』が欲しい。アリスにとっての人形や、咲夜にとっての能力。場をひっくり返せるような強いカードが。

 

悩む私に、リーゼがニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。何故か心底楽しそうな笑みだ。

 

「根源だよ、魔理沙。パチェにとっての知識、アリスにとっての人形。『霧雨魔理沙』の奥底に眠るものを探りたまえ。そうだな……イギリス魔法界以前のキミに立ち返るんだ。キミの目指す『魔法』はそこにあるんじゃないか?」

 

「サービスしすぎよ、リーゼ。」

 

「おいおい、キミだって吸血鬼の『囁き』を受けて魔女になったんだろうに。アリスだってそうさ。であれば、キミは私の愉しみを邪魔をするべきじゃないね。この子にもそれを受ける権利はあるんだから。」

 

二人の会話を聞きながら考える。根源。それは星だ。夜空を埋め尽くすほどの圧倒的な星々。流星群。私の目指す魔法はそれだが……うーむ、キラキラ光る星を出現させたところでどうにもなるまい。死喰い人たちが見惚れて隙だらけになるってのはちょっと想像出来んぞ。

 

でも、他には何も思い浮かばない。イギリス魔法界以前の私になんて……いや、あるな。一つだけあるぞ。『アイツ』と魅魔様の他では、唯一私を見捨てなかった恩人からの贈り物が。

 

「ちょっと待っててくれ! 取ってくるから!」

 

言い放ってから、返事も聞かずに身を翻して走り出す。香霖は私のことを理解してくれていた。私の望みも、願う魔法も。何たって彼は私が魔法に目覚めた瞬間、その場に居たのだから。なら、餞別として渡された『あれ』も何か意味のある代物のはずだ。

 

───

 

「えっと……はむれっと!」

 

自室のトランクから持ってきた物を片手に、先程覚えたシェイク……シェイクスポア? だかなんだかの戯曲を言い放つと、ガーゴイル像は素直に道を開けてくれた。

 

そのまま螺旋階段を二段飛ばしに駆け下りて、本だらけの校長室に入り、本の間を慎重に抜けてみれば……何してるんだよ、コイツら。リーゼが無言呪文を撃ちまくって、ノーレッジが杖もなしでそれを叩き落としている。当然、目線は本に落としながらだ。

 

「持ってきたぜ。……何してるんだ?」

 

「暇だから陰湿魔女にジャレついてたのさ。とってもキュートな愛情表現だよ。……キミこそいきなり何処へ行ってたんだい? 随分と息が切れてるようだが。」

 

「あー、すまんな。トランクに仕舞ってた物を取りに行ってたんだよ。」

 

もっとちゃんと説明するべきだったか。……時間切れとかないよな? リーゼに答えてから恐る恐るノーレッジを見てみると、彼女は目線も上げずに私を促してきた。

 

「なら、何だか知らないけどさっさと出しなさい。そして、性悪吸血鬼は呪文を撃つのをやめなさい。いくら抗議してもカカシから翼は取らないわよ。あれは曲げられないポリシーなの。」

 

「ふん、いいさ。後で毟りに行ってあげよう。大体、カカシが空を飛んだら意味ないだろうに。守るべき畑は地面にあるんだ。空じゃない。」

 

「無駄よ。再生するようにしてあるから。」

 

「キミは……どうしてそう、無駄なところばっかり努力を惜しまないんだ? これだから魔女ってやつは度し難い。『拘り屋』め。」

 

言うリーゼは心底呆れたという表情だ。ただまあ……気安い雰囲気を見るに、ジャレ合ってたってのもあながち間違ってなさそうだな。リーゼのノーレッジに対する態度は、アリスのそれよりもレミリアに対するものに近い気がする。友達的な感じなのだろうか?

 

何にせよ、今重要なのはこっちだ。意味不明な会話を繰り広げる二人を他所に、頭を下げながら手に持った『ミニ八卦炉』を突き出して言葉を放つ。こっちに来てすぐにうんともすんとも言わないことを確認して以来、ずっと放っておいた代物だ。

 

「これだ! これを……その、使いたい。使えるようになりたいんだ。」

 

正直言ってこれが実際のところ何なのかも分からんし、こっちで動作するものなのかも不明だが……信じるぞ、香霖! これはきっと私の魔法に繋がる物のはずなのだ。

 

緊張しながらノーレッジの言葉を待つが、五秒、十秒……んん? 全然反応がないぞ。不思議に思ってゆっくりと頭を上げてみると、かなり引きつった表情のノーレッジが見えてきた。ちなみにリーゼは怪訝そうにミニ八卦炉とノーレッジを交互に見ている。

 

「……貴女、なんて物を持ってるのよ。気でも狂ってるの?」

 

「多分、狂ってはないと思うんだが……何でそんなことを聞くんだ?」

 

「まさか、何だかも理解せずに持ってるの? ……それ、下手すればホグワーツを吹っ飛ばしかねないわよ。」

 

ノーレッジの言葉を受けて、リーゼが途端に身を引いてしまった。……嘘だろ? 割と乱暴にトランクに投げ込んだり、羊皮紙を押さえるのに使ったりしちゃってたぞ。ノーレッジの言葉を聞いて、冷や汗を垂らしながら改めて手の中のミニ八卦炉に目を落とす。

 

金属と木の中間みたいな質感の黒い八角形で、表面には白く八卦の紋様が描かれている。その中心には陰陽を表す太極図。裏面は台座を取り付けるための凹みがある以外真っ黒だ。

 

「これ、そんなにヤバい代物なのか?」

 

今更ながらに絶対に落とさないよう握り締めて聞いてみると、ノーレッジは本を横に置いて真剣な表情で語り始める。リーゼは彼女が本を置いたのを見て、更に一歩引いてしまった。

 

「かなり『ヤバい』わよ。八卦炉なんでしょう?」

 

「ミニ八卦炉って言われてる。私の……なんて言ったらいいかな。兄貴分がこっちに来る時に餞別としてくれたんだ。」

 

「なら、その兄貴分とやらがイカれてるのは間違いないわね。それは『炉』であり、『変換器』なの。私の七曜が属性の相克を利用してそうするように、その炉は自然の循環を利用して力を増すのよ。」

 

七曜? 月曜とか水曜とかの、曜日のあれか? 内心に浮かんだ私の疑問を他所に、ノーレッジの話は続く。

 

「ただし、複雑さではこっちの方が遥かに上。表してる情報量が多すぎるの。……でも、後天図なのね。貴女の兄貴分とやらはお節介焼きみたいじゃない。」

 

「後天図? 香霖がお節介焼きなのは合ってるが、あー……要するに、何に使うものなんだ? これは。」

 

「それは答えるのに時間のかかる質問ね。用途が広すぎるのよ。占い、星見、風水、そして当然魔術にも。太極から両儀へ、両儀から四象へ、四象から八卦へ。内包している意味が多すぎるから、使い道を一々話してたら何日掛かるか分からないわ。『変換器』としては恐ろしく優秀な部類の魔道具ね。」

 

うーん? ちんぷんかんぷんだ。少し頰が紅潮してきたノーレッジがそう言ったところで、リーゼが離れたままの場所から声を放った。

 

「パチェ、先ずはそれがホグワーツを吹っ飛ばすか吹っ飛ばさないかを早く教えてくれ。吹っ飛ばすなら咲夜とハリーたちを連れて逃げるから。」

 

「起動されてないみたいだし、大丈夫でしょ。……起動したらどうなるかは知らないけど。」

 

「それなら、起動するのは何処か別の場所で頼むよ。私たちの居ない場所。つまり、ホグワーツじゃない何処かでだ。」

 

「きちんと調べれば城内でも大丈夫よ。……でも、そうね。ここで何かあったら本が巻き添えになっちゃうわ。校長室はダメね。」

 

人命を完全に無視したノーレッジは、ミニ八卦炉に熱い視線を注ぎながら口を開く。……その顔は知ってるぞ。魔女の顔。好奇心の顔だ。

 

「面倒な個人授業になるかと思ったら、面白い物が飛び出してきたじゃないの。……いいでしょう。その炉の使い方を教えてあげる。もちろん、貴女がついてこられればの話だけど。」

 

「ついていってみせるさ。」

 

「それじゃ、炉をここに置いて一先ず帰りなさい。下調べが終わったら連絡するから。……そんな顔しなくても壊したりはしないわよ。」

 

「頼むぞ? 八卦炉も、ホグワーツも壊さないでくれよ?」

 

星見台での行動を見る限りでは怪しいもんだが……まあ、仕方あるまい。私が弄くり回すよりかはマシだろう。そもそも私には起動の仕方すら分からんのだ。

 

私が嬉しそうなノーレッジに八卦炉を渡したところで、リーゼが呆れた表情で忠告を放ってきた。

 

「私は別に構わないけどね、正確な期限を設けたほうがいいと思うよ。放っておくと数年間くらい『下調べ』しかねんぞ、その魔女は。」

 

「おい、それは困るぞ。……長くても一ヶ月くらいだよな?」

 

私の質問にノーレッジはピタリと動きを止めてから……やがて不満げな表情で返答を寄越してくる。危なかった。この感じだとリーゼの言う通りになってたかもしれんぞ。

 

「……ハロウィンまでには終わらせるわよ。」

 

「今は九月の頭だぜ?」

 

「私は忙しいの。これが最速のスケジュールよ。」

 

チラリとリーゼの方へと目線を送ってみれば、肩を竦めながら頷く姿が見えてきた。つまり、本当にそれが最速なわけか。二ヶ月近く掛かるってことかよ。

 

出来れば早めに『個人授業』を開始して欲しいんだが……ええい、仕方ない! 急がば回れだ。不承不承頷いた私に、ノーレッジが思い出したように言葉をかけてくる。

 

「それまでは……そうね、私が『宿題』を出すわ。リーゼから呪文は習ってたみたいだけど、貴女はどちらかというと薬学方面に適性がありそうだしね。」

 

「魔法薬学の宿題ってことか?」

 

「本を貸してあげるから、それを読み込んで羊皮紙に纏めなさい。……これはサービスよ。そんなに難しくないから、ハロウィンまでのちょうど良い暇潰しになるでしょ。」

 

「『そんなに』?」

 

短い会話で何となく理解したが、こいつの『そんなに』はあんまり信用出来ない気がするぞ。……それはリーゼも同感のようで、ちょっと同情じみた視線を送ってきている。

 

我が身に不幸が降りかかってくる音を感じつつも、霧雨魔理沙はこの『図書館』を選んだことを少しだけ後悔するのだった。

 

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