Game of Vampire   作:のみみず@白月

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昼食会

 

 

「運命だったんです。一目でピンときました。……この人が、僕の妻になる人なんだって。」

 

ロンドンの小さなパブで熱弁を揮うビルを見ながら、アリス・マーガトロイドは微妙な表情で頷いていた。さすがはアーサーの息子だな。モリーとの馴れ初めにそっくりな逸話じゃないか。

 

今日は魔法省を訪れたついでに、友人たちと一緒に昼食を取りに来たのである。殆どの職員は省内の食堂で食事を済ませるのだが、折角だということでロンドンの良さげなパブに入ってみたのだ。……うん、正解だったな。ジャケットポテトが絶品だぞ。

 

テーブルを共に囲んでいるのはアーサー、ビル、パーシーのウィーズリー家三人組と、ローストビーフに夢中のシリウス・ブラック、パスティを食べているエメリーン・バンス、手早く食事を終わらせてデザートに移っているニンファドーラ・トンクスだ。

 

アーサー、エメリーン、ブラックは元騎士団員で、ビルとパーシーはその息子。そしてトンクスの父親であるエドワード・トンクスは前回の戦争時に騎士団に協力してくれていた魔法使いの一人、という繋がりである。たまたま省内で顔を合わせる機会があった結果、こうして食事に来ているというわけだ。

 

ウィーズリー家の長兄たるビルの本業は呪い破りだが、現在は魔法戦士制度に登録してそちらの仕事に専念してくれているらしい。今ここに居ない次男でドラゴン使いのチャーリーなんかも同様だ。……本当にウィーズリー家は頼りになるな。

 

そんなこんなで思い出話に花を咲かせていたところ、ひょんなことからビルの惚気話に話題が移ってしまったのである。……どうやらフランス魔法省に警備の仕事をしに行った際、そこに就職していたフラー・デラクールと運命的な出逢いを果たしたそうだ。聞いてるだけでお腹いっぱいになってきちゃうぞ。

 

ニコニコ顔でうんうん頷くビルへと、パーシーが冷静な声で語りかけた。かなり呆れた表情だ。

 

「兄さんからその台詞が出るのは三回目だけどね。『運命の出逢い』に事欠かないようで羨ましいよ。」

 

「パース、余計なことを言うな。今回こそは本物なんだ。……フラーは絶対に僕の運命の人だよ。それに、向こうも同じ気持ちなんだぞ? これはもう間違いないじゃないか。」

 

「いやまあ、僕はどうでもいいんだけど……デラクール家って言ったらフランスの名家じゃなかった? 対するこっちは『血を裏切りしウィーズリー家』。おまけに兄さんは長男なんだし、また母さんの時みたいなことにならない?」

 

「それは……どうかな? 父さん。」

 

今は懐かしきプルウェット家のお家騒動か。パーシーの疑問を受けて若干不安そうになってしまったビルへと、『駆け落ち』の先達たるアーサーが返事を返す。おお、焦ってるな。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。別に今すぐ結婚しようって言うんじゃないんだろう? そもそも、既に付き合ってるってことなのかい?」

 

「付き合ってるよ。……フラーはイギリスに派遣される魔法使いに名乗りを上げる気みたいなんだ。だから出来ればロンドンで一緒に住みたいし、もちろん将来的には結婚するつもりでいる。」

 

「ビル、私は自分の『やらかした』ことを忘れてはいないから、聞き分けの悪い父親になるつもりは無い。そのつもりは無いんだが……早すぎないか? まだ出会ってから一ヶ月も経ってないんだろう? 結婚云々を考えるのはあまりに早いと思うよ。」

 

「早いか遅いかの違いだよ。なら、今すぐにでも一緒になりたい。……この先、お互い無事でいられるかは分からないからね。少しでも長く二人の時間を過ごしたいんだ。」

 

ビルの真剣な表情を見て、アーサーは困ったように黙り込んでしまった。……前回の戦争時にも何度か見たやり取りだ。私もさすがに早すぎるとは思うが、そう言われると軽々に反対出来なくなってしまう。

 

難しい空気が包むテーブルに、今度はエメリーンの静かな声が響く。前回の騎士団の時から貫禄のある魔女だったが、初老となった今ではその雰囲気が増してるな。

 

「それでも段階というものがあるでしょう? 先ずは向こうのご両親に挨拶に行って、モリーにもきちんと話をして、それから先のことを考えるべきです。戦争を理由にそれらを蔑ろにしてはいけませんよ。」

 

「それは勿論分かってます、バンスさん。ただ……あー、母さんが何て言うかが心配で。皆さんはどう思いますか?」

 

ビルの疑問を受けた一同は、示し合わせたかのように目を逸らしてしまった。……トンクスだけはよく分からんという顔だったが、それでも大凡の状況を察したのだろう。若干同情的な表情で口を開く。

 

「えっと、モリー・ウィーズリーさんってそんなに厳しい人なの? みんなからの話を聞く分には、『頼れるお母さん』ってイメージだったんだけど。」

 

「そこまで厳しくはないわ。ただちょっとだけ……そう、『家族想い』なのよ。だから一ヶ月経たずに同棲だなんて反対するんじゃないかしら。結婚ともなれば言わずもがなね。」

 

「でしょうね。もしハリーがそんなことを言い出したら私も反対します。当然のことですよ。何処の誰かも分からないような嫁だなんて……有り得ない。絶対に反対だ。」

 

私のかなり控え目な説明と、ブラックのズレた『名付けバカ』発言を聞いたビルは、頭を覆いながらテーブルに突っ伏してしまった。彼にも予想出来ていた答えだったようだ。

 

「そうですよね。分かってましたよ。……父さん、どうにか説得出来ない? 僕一人じゃ絶対に無理なのは目に見えてるだろ?」

 

「私に説得出来ると思うかい? 父さんが怒った母さんに立ち向かえるとでも?」

 

「……まあ、無理だろうね。」

 

「その通りだ、息子よ。……これが結婚というものだ。お前にもそのうち分かる日が来る。」

 

貫禄ある表情で情けないことを言うアーサーにため息を吐いた後、やおら顔を上げたビルは……勘弁してくれよ。今度は私に縋るような表情で言葉を放ってくる。

 

「マーガトロイドさん、お願いします。母さんを説得出来るのなんてマーガトロイドさんくらいなんです。せめて同棲の件だけでも!」

 

「あのね、ビル。私は嫌だからね。お互い成人してるんだから、一緒に住むくらいは別に良いと思うけど……それはそれ、これはこれよ。モリーに『息子離れ』させるのなんて難し過ぎるわ。」

 

「お願いしますから、見捨てないでくださいよ。……そうだ、フラーもマーガトロイドさんに感謝してました。対抗試合で溺れそうになった時に救われたって。ほら、知らない仲じゃないわけなんですから。」

 

「んー……強引過ぎると思うけどなぁ、その説得方法は。」

 

まったくだ。アイスクリームを食べながら割り込んできたトンクスに頷いてやると、ビルは再び崩れ落ちるように突っ伏してしまった。悩め悩め、若人よ。それが人生ってもんさ。

 

「まあ、なんだ。父さんはきちんと味方するよ。今夜にでもやんわりと伝えてみようじゃないか。」

 

「それに、最近の母さんは僕と父さんの昇給でご機嫌だから、もしかしたら何とかなるかもしれないよ。……もしかしたらね。」

 

『対モリー同盟』ってわけだ。団結し始めたウィーズリー家の男性諸氏をぼんやり眺めていると、食事を終わらせたエメリーンが一枚の羊皮紙を手に話しかけてくる。

 

「そういえば……マーガトロイドさんはこの方をご存知ですか? 今日の昼前に魔法戦士の登録を申請してきたんですが、どうにも判断に迷う方なんです。」

 

「判断に迷う?」

 

首を傾げながら渡された羊皮紙を見てみれば、記憶の片隅に残っていた男の名前が目に入ってきた。ギルデロイ・ロックハート。……またコイツか。相変わらずの履歴書だな。

 

勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、チャーミング・スマイル賞八連続受賞、フランス魔法文学大賞、などなどなど。訳の分からない経歴が書き連ねてある後には、自らの『英雄譚』がビッシリと書き加えられている。ここは読み飛ばして良さそうだ。

 

ウィンクする写真のロックハートを苦い顔で見る私に、エメリーンが困惑した感じの表情で語りかけてきた。

 

「ロックハート氏が登録に訪れた際、ちょうど私が試験官を務めていたんです。推薦も多かったので期待していたのですが、実技のスコアが、えー……何と言ったらいいか、『平均以下』でしたので。どうしたものかと。」

 

「普通に落とせばいいじゃないの。経験不足の魔法使いを制度に加入させるのはお互いの為にならないわ。」

 

「それが、本人は『試験官の力量を確かめるために』わざと手を抜いていたと言い張っているんです。自分の経歴がそれを物語っている、と。……それと、ロックハート氏は三年前にホグワーツの防衛術の教師の『最終選考』まで残ったとおっしゃっていまして。もう一人の候補者と『僅差で競り合った』と主張しているんです。確かその年はマーガトロイドさんが教師をしていた年ですよね?」

 

「……ちなみに聞くけど、ロックハートは正確にはなんて言ってたの?」

 

唯一の志願の場合は『最終選考』と言えるのだろうか? 額を押さえながら聞いてみると、エメリーンは疑い九割九分くらいの表情で詳細を話し始める。

 

「ええと、ダンブルドア校長の前で教師の座を賭けた一対一の決闘をして、ホグワーツ城を揺るがすほどの闘いを一昼夜に渡って繰り広げた末、マーガトロイド先生の教職に懸ける情熱を認めたロックハート氏が勝ちを譲ったという内容でした。……あー、嘘かどうかを聞く必要はありますか?」

 

「ないわ。貴女の思っている通りよ。」

 

「では、落としましょう。……ただ、忘却術だけは一流の忘却術師並みの力量だったんです。そこだけは少し勿体ないですね。」

 

「あら、それなら適当に煽てて忘却術師として働かせれば? 記憶修正要員はこれから間違いなく入用になるんだし。」

 

妙な取り柄があるもんだな。ロックハートの意外な特技に驚きながら言ってやると、エメリーンは再び困惑気味の表情になって返事を寄越してきた。

 

「でも、何故か忘却術に関してだけはえらく謙遜していたんですよね。……まあ、確かに忘却術師は足りなくなるでしょうし、その方向で提案してみましょうか。」

 

「結構な有名人らしいけど……つくづく変な人ね。」

 

「まったくです。」

 

首を傾げ合う私たちが話題を一段落させたところで、食べながら話をしているトンクスとブラックの声が聞こえてくる。どうやらルーピンについて話しているようだ。

 

「じゃあさ、ルーピンさんって結構強いの? ヨレヨレのおっちゃんにしか見えなかったけど。」

 

「リーマスは昔から小狡い戦法が大得意だったからな。決闘だと押しっぱなしの私はあまり勝てなかったのさ。……反面、器用なジェームズに対しては負け越してたよ。そして、そのジェームズには私が押し切ってたって寸法だ。」

 

「へー、ジャンケンみたいだね。……本当に仲が良かったんだ。」

 

「ただし、誰もフランドールには勝てなかったがな。私たち四人……三人がかりでも勝負にならなかったよ。もっとも、フランドールが使ってたのは呪文ではなく拳だが。」

 

それはどうなんだ? フラン。『おてんば時代』のフランを思って苦笑する私に、今度はアーサーが話しかけてきた。対モリーの作戦会議は終わったようだ。

 

「そういえば、マーガトロイドさんは何か聞いていませんか? オリバンダー氏のこと。捜査は続いているんですよね?」

 

「もちろん続いてるけど……手掛かりが全く無いらしいのよね。おまけにフランスでも有名な杖作りが攫われちゃったみたい。国際協力部が各国に注意喚起をばら撒いてたわ。杖作りの安全を確保するように、って。」

 

「……ああ、それなら知ってます。僕がフランスに居た時に起こった事件ですから。向こうだと結構なニュースになってましたよ。フラーも悲しんでいました。」

 

杖は基本的に一生物なだけに、職人自体の数は少ない。フランスにもイギリスにとってのオリバンダーのような人物が居たのだろう。神妙な顔で言ったビルは、そのまま事件の詳細を語り始める。

 

「深夜の自宅で襲撃を受けて攫われたみたいなんです。闇の印こそありませんでしたけど、フランス当局は例のあの人の仕業だと読んでるみたいですよ。」

 

「問題は、杖作りを攫って何をしようとしているのかね。……杖に関しての知識だけならオリバンダーで事足りるはずよ。わざわざ追加で攫う必要なんか無いわ。」

 

「僕には全然予想が付きません。とにかく迷惑だってことが分かるくらいですね。」

 

嫌そうな顔で呟いたビルに、テーブルの各々が深く頷く。早く救出しないとイギリスとフランスの魔法界が混乱してしまうぞ。……失って初めて分かる痛手だな。今更遅いが、魔法省は杖作りをきちんと保護すべきだったのかもしれない。

 

少し空気が重くなったテーブルに、今度はブラックの疑問が響いた。

 

「そういえば、マイキュー・グレゴロビッチは大丈夫なんですか? もう既に引退しているはずですが、ヨーロッパで有名な杖作りといえば先ず上がってくる名前でしょう?」

 

「ソヴィエト魔法議会が既に保護したらしいわ。……まあ、それもそれで問題視されてるみたいだけどね。杖作りの独占だって。」

 

「……中々上手くはいかないものですね。」

 

レミリアさんから聞いている話を伝えてみると、ブラックは難しそうな顔で首を小さく振る。……ソヴィエト。グリンデルバルドが『担当』している国だ。

 

リーゼ様やレミリアさんの話によれば、グリンデルバルドを『生死不明』にしてソヴィエトの抑えに使うということだったが……危険じゃないのかな? 私だったら考えもしないほどの奇策だ。

 

私は大戦当時イギリスの、しかもホグワーツに居たので実感は薄いが、テッサの実家に遊びに行った際に彼女のお父さんから色々と話を聞いている。魔法史上有数の犯罪者にして革命家。冷徹な実行者。体制への叛逆者。それが私のグリンデルバルドに対する印象だ。……よく考えたら、リーゼ様たちは物凄く壮大な『ゲーム』をしてたんだな。

 

私はグリンデルバルドの思想が必ずしも間違っているとは断言しないが、彼の『手段』が間違っていることは断言出来る。思想家ならば言葉で世界を変えるべきなのだ。拳を振り上げながら語りかけたところで、それはもう脅しにしかならない。

 

ただ……うん、難しいな。百年前の倫理観は今のそれとは違うのだ。この話題に関してはパチュリーとも何度か話し合ったことがあるが、私が生まれる少し前までは『闘争』が気高いものとして捉えられていたらしい。パチュリーは『命の値段が今より安かった』と表現していた。

 

うー……分からん。何せグリンデルバルドに関しては紅魔館内でも意見が割れる部分なのだ。リーゼ様や美鈴さん、フランなんかはグリンデルバルドに比較的好意的で、レミリアさんやパチュリーはどこか否定的な感じ。

 

無論、私もあまり好きではない。テッサがフランスから疎開してくる原因になったのはグリンデルバルドなのだから。……その所為で出会うことが出来たと考えるとなんとも微妙な気分だな。リーゼ様がゲームを始めたからこそ、私はテッサと親友になれたわけか。

 

いや、そもそもパチュリーが紅魔館に来たのもその所為なわけであって、つまりは私が魔女になったり、フランが変わったり、コゼットとアレックスが出逢って咲夜が生まれたのも元を辿れば……やめよう。『運命』はレミリアさんにのみ許された管轄だ。私ごときが手を出せるものじゃない。

 

でも、不思議だ。リーゼ様たちが思い付きで始めたことが、ずっとずっと繋がっているわけか。……レミリアさんは何処から何処までを計画していたのだろうか? まさか、最初から今の景色が見えてたわけじゃないよな?

 

……いやいや、さすがに無いか。それならこんなに苦労していないだろう。苦笑しながらバカバカしい思い付きを振り払っていると、食後の紅茶を飲んでいるエメリーンが首を傾げて問いかけてきた。どうやら私が考え込んでいる間に話題が変わってしまったらしい。今は全員でクィディッチの話に熱中している。

 

「どうしたんですか? マーガトロイドさん。随分と物思いに耽っていたようですけど。」

 

「ええ、ちょっとね。益体も無いことを考えてただけよ。」

 

「はあ。」

 

何にせよ、グリンデルバルドの件は頼れる吸血鬼たちに任せよう。当事者たる彼女たちが決定したのであれば、第三者たる私が文句を言うべきではあるまい。駒が指し手に文句を言うのは魔法使いのチェスだけで充分だ。

 

首を振って気を取り直したアリス・マーガトロイドは、パドルミア・ユナイテッドの新陣営についての話題に入っていくのだった。

 

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