Game of Vampire   作:のみみず@白月

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パフォーマンス

 

 

「さて、さて、さーてと。揃っているかな? 器材や教科書を忘れた者は? いない? よしよし……では、楽しい魔法薬学の授業を始めようじゃないか!」

 

明かりが増えた地下教室で愛想良くニコニコ笑うスラグホーンのことを、アンネリーゼ・バートリは頬杖を突いて眺めていた。この時点で既に『スネイプ四年分』の愛想を上回ったな。向こうはそもそもゼロだったし。

 

つまり、魔法薬学の初回授業だ。『まとも』な教師っぽい第一声に顔を輝かせるグリフィンドール生と、スネイプの後釜を見定める感じのスリザリン生。それらの顔を順繰りに眺めた後、スラグホーンは和かな表情で口を開く。……明らかにハリーと私だけは長く見ていたな。

 

「一応、自己紹介をしておこうか。私はホラス・ユージーン・フラックス・スラグホーン教授。覚えてくれたかな? もちろん、面倒であれば『スラグホーン教授』で結構だよ。ダンブルドアといい、私といい、古い人間というものは名前が長すぎていけない。……それでは実際の授業に取り掛かる前に、ちょっとした『パフォーマンス』をさせていただこう。魔法薬学という学問の魅力を知ってもらいたいんだ。それを分かり易く表しているのが……これだ!」

 

軽快なリズムで話しながら、スラグホーンは教卓の前にある五つの大鍋を指し示した。一つ一つに真っ黒な布が被せられており、中は見えないままだ。まさに『パフォーマンス』だな。

 

「ここに五つの魔法薬がある。どれも調合には非常に高度な技術を要するし、材料だって入手困難……もう分かったかな? つまるところ、これらはかなり貴重な魔法薬だ。この学問における一つの目標であり、目指すべき頂というわけだね。」

 

言ったスラグホーンが先ず一番左の布を引っ張ると、露わになった大鍋の中には……真実薬か? 無色透明の、一見するとお湯にしか見えない液体がボコボコと沸騰している。数滴で十分な薬をこんだけ調合してどうするつもりなんだよ。ガブ飲み出来る量じゃないか。

 

私の呆れを他所に、生徒たちは興味津々のご様子で身を乗り出し始めた。掴みはバッチリだな。スラグホーンもそう思ったようで、更にニコニコを強めながら問いを投げかけてくる。

 

「どうだい? 何の変哲もないお湯に見えるかな? 誰かこの魔法薬が何か分か……ほっほー、早いね。素晴らしい! ではグリフィンドールの……失礼ながら、お名前を聞いても? お恥ずかしいことに、歳を取ると中々生徒の名前を把握しきれなくてね。」

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです。」

 

「では、ミス・グレンジャー。答えをお願い出来るかな?」

 

「はい、真実薬です。無味、無臭、無色の液体で、飲んだ者に無理やり真実を話させます。主に開心術師たちに重宝されていて、魔法省にはそれを保管するためだけの部屋が存在しています。」

 

いつも通りハキハキと、端的かつ詳細に。完璧な説明を終わらせたハーマイオニーに対して、スラグホーンは拍手しながら頷きを返した。

 

「お見事! グリフィンドールに五点を差し上げよう。ミス・グレンジャーが完璧な説明をしてくれたから、私の解説は不要になってしまったね。……結構、結構、大いに結構。では次に行こうか!」

 

パチリと生徒たちにウィンクしたスラグホーンが、続いて真実薬の隣の布を引っ張ると……何だありゃ? 今度は私も分からんぞ。光沢のある真珠色の液体で、湯気がくるくると絡み合うような螺旋を描いている。少なくとも『飲み物』っぽい見た目ではないな。

 

「不思議だけど……うん、良い匂いだね。糖蜜パイとか、磨いた後の箒の柄の匂いがする。なんか、隠れ穴を思い出すよ。」

 

「そうか? 僕はバタービールに近い匂いな気がするよ。どことなくワクワクする感じの……でも、ちょっとだけインクの香りもするかな、うん。」

 

ハリーとロンの話を聞きながら、私も鼻を利かせてみるが……ふむ? 冬の匂いだ。冬の真夜中の、あの静謐な空気の匂い。それに混じって僅かに古ぼけた館の匂いもする。よく磨かれた木と、雨に濡れた煉瓦の香り。紅魔館を思い出す香りだ。

 

教室中の生徒たちがその不思議な香りに夢中になる中、ハーマイオニーだけが高々と手を挙げている。スラグホーンは一応他に手を挙げる者がいないかと確認してから、参りましたと言わんばかりの顔でハーマイオニーを指名した。……動作の一つ一つが仰々しい男だ。生徒の人気を得る方法をよくご存知らしい。

 

「では、もう一度お願い出来るかな? ミス・グレンジャー。」

 

「アモルテンシア……魅惑万能薬です。最も強力な愛の妙薬で、飲んだ者は強い執着や強迫観念を引き起こします。その匂いはそれぞれ嗅いだ人が惹かれるものの匂いに感じられるので、私の場合は刈ったばかりの芝生や、新しい羊皮紙の匂いだったり……いえ、これは余計でした。」

 

最後をちょっと恥ずかしそうに言ったハーマイオニーに、スラグホーンが大きな拍手を送る。今やハーマイオニー・グレンジャーの名前はこの男の脳裏に間違いなく刻まれたことだろう。

 

「いや、素晴らしい! ホグワーツの五年生がこの魔法薬のことを知っているとは驚きだ! では、ひょっとして……こちらもご存知かな?」

 

言うスラグホーンは中央の大鍋を抜かして、今度は右から二番目の大鍋にかかっている布を引き剥がす。中では泥のような色の粘性のある液体がグツグツと煮えているが……あれはさすがに分かるぞ。この前ゲラートに飲ませた、クラウチ・ジュニアも大好物の魔法薬だ。

 

「はい、ポリジュース薬です。変身したい人の一部を溶かしてから飲むことで、その人物と瓜二つになることが出来ます。雑な調合では三十分ほどしか効果が保ちませんが、調合する人物の腕によっては三時間ほど効果が持続します。」

 

「これまたお見事! ふむ。グレンジャー、グレンジャー……もしかして君は、ヘクター・ダグワース=グレンジャーとの関係があるのではないかね? 言わずと知れた魔法薬師協会の設立者だが。」

 

「いえ、あの……私はマグル生まれなので。特に関係は無いと思います。」

 

そこでスリザリン生たちからクスクス笑いが起きるが、スラグホーンの発言がそれをかき消した。声も、笑みもだ。

 

「ほっほー、ではイギリス魔法界は君の参入を祝うべきだね。私は長年教師をやっていたが、君ほど優秀な生徒は稀だ。極々稀だよ。君の知識を称えて、グリフィンドールに十点を差し上げねばなるまい。」

 

「えっと……ありがとうございます。」

 

この瞬間、スラグホーンはグリフィンドール生の心を完全に掴んだらしい。少し照れた顔でボソボソとお礼を言うハーマイオニーの心もだ。ついでに言えば、『好きな教科ランキング』を大きく変動させているハリーとロンの心も。

 

反面、『スリザリン的』じゃない寮監に蛇寮の生徒たちは不満げなご様子だ。マルフォイなんかは侮蔑の視線を送りながら仔トロールたちに何かを囁きかけている。プロフェッサー・スネイプ閣下のご帰還を望んでいるのだろう。

 

「それでは、次にいこう! 他の生徒たちも挑んでみてはいかがかな? 次は有名な魔法薬だよ。」

 

そんな生徒たちの気持ちを知ってか知らずか、スラグホーンはご機嫌な雰囲気を纏いながら一番右の大鍋の布を剥ぎ取った。中には……ふむ? 少なくとも私は知らんぞ。僅かに粘性のある透明な液体で、何故か反射する光だけが緑色だ。時折『ジッジッジ』という虫の鳴き声のような音を放っている。

 

しかし有名なのは事実だったようで、数人の生徒たちが手を挙げ始めた。当然、ハーマイオニーもだ。

 

「ではスリザリンの……ミスター・ザビニ。答えを教えてくれるかな?」

 

「万物融解薬です。あらゆる物を溶かすため、特殊な魔法をかけた容器以外では保管が出来ません。」

 

「ほっほー、大正解! スリザリンにも五点をお贈りしよう。」

 

答えを放った気取った感じのスリザリン生が座ったところで、スラグホーンは補足の説明を話し出す。ハーマイオニーはちょっと悔しげな表情だ。多分、『私ならもっと上手く説明出来た』と思っているのだろう。いやぁ、見てると面白いな。

 

「いかにも、万物融解薬。しかし、厳密に言えば溶かせない物は結構多いんだよ。とはいえ非常に強力な融解薬であることは間違いないから、目にした時は決して触らないことをお勧めしておこう。……では、最後だ。さあ、これが何か分かる者はいるかな?」

 

言いながらスラグホーンが中央の大鍋に被せられていた布を引っ張ると……またしても見たことのない魔法薬だな。輝く金色のさらさらとした液体で、表面では小魚が跳ねるかのようにピチャピチャと飛沫が踊っている。見るからに楽しげな雰囲気だ。

 

即座に手を挙げたハーマイオニー以外には誰も反応しないのを見て、スラグホーンは勿体つけるように時間をかけてから彼女を指名した。

 

「他には? 他に挑戦する者はいないかな? ……よし、ではミス・グレンジャー! 答えをどうぞ!」

 

「フェリックス・フェリシス。幸運の液体です。飲んだ者に並外れた幸運をもたらします。」

 

ハーマイオニーの答えを聞いた瞬間、教室中の視線が熱を帯び始める。……スリザリン生たちもだ。何だかんだと言いながらも、蛇寮の生徒たちはハーマイオニーの答えが間違いなはずがないと思っているらしい。

 

それにご満悦のスラグホーンは、うんうん頷きながら大鍋の隣に立って語り出した。

 

「その通り。フェリックス・フェリシス。魔法薬の一つの完成形だ。ほんのふた匙飲むだけで、その日一日は完全無欠の一日になる。あらゆる企てが成功し、失敗とは無縁の一日にね。」

 

その言葉に生徒たちの顔が更に輝くが……うーむ、胡散臭い。『幸運』に落とし穴がくっ付いてくるのは妖怪の常識だ。うまい話にはウラがある。世の中そういうもんだろうに。

 

どうやらその予想は正しかったようで、スラグホーンは楽しげな表情を一変、神妙な顔に変えて続きを話し始めた。

 

「だが、気を付けたまえ。長く飲み過ぎると危険な自己過信を引き起こすのだ。私はこの薬の中毒になった人を知っているが、その人は薬を飲み忘れたある日、トロールとレスリングをしようとして死んでしまった。……どうも勝てると信じ込んでいたようでね。」

 

生徒たちから笑いが起きたのにウィンクしつつ、スラグホーンは幸運の液体についての説明を締める。

 

「うん、うん。バカバカしいだろう? しかしながら、それを正常に判断出来なくなってしまったのはこの魔法薬の仕業なんだよ。それまでは全てが成功していたから、失敗などあるはずがないと思い込んでしまったのだね。……だからまあ、あまり使うべきではないかな。人生のスパイスとしてほんのふた匙。それが賢い者の使い方だ。」

 

肩を竦めて言ったスラグホーンは、杖を振って五つの大鍋を奥の部屋へと仕舞い込む。生徒たちが物欲しそうな目線でそれを見送る中、朗らかな笑みで『パフォーマンス』の纏めを放った。

 

「どうだったかな? 無論、今すぐにというのは難しいだろうが……この学問を極めればどれも調合可能な魔法薬だ。ほら、少しはやる気が出てきただろう? 千里の道も一歩から。先ずはフクロウ試験に向けて頑張ろうじゃないか! ……それでは、教科書の二十二ページを開いてくれ!」

 

───

 

そして魔法薬学の授業が終わり、夕食の大広間へ向かう途中の廊下。ロンが小瓶に入った『鳴き薬』を揺らしながらご機嫌な声を上げた。スラグホーンは今日作った魔法薬を記念に持ち帰ることを許したのだ。

 

「良い授業だったな、うん。魔法薬学が好きになったよ。」

 

「そうだね。少なくともスネイプよりは百倍良いよ。最初のパフォーマンスも面白かったし、授業も分かり易かった。文句なしだ。」

 

ハリーもまた、キュイキュイ鳴く薬を揺らしながらご機嫌な様子だ。ちなみに調合が上手くいくほど美しい声で鳴くようで、ロンのは椅子の軋むような音を、ハーマイオニーのは歌声のような滑らかな音を奏でている。

 

「まあ、そうね。素晴らしい授業だったと思うわ。」

 

うーむ、ちょっとお澄まし顔のハーマイオニーも内心の嬉しさを隠しきれていないな。大量得点を稼いだ上に、調合の腕をべた褒めされたのだ。無理もなかろう。

 

「それで、どうするんだい? かなり熱心に誘われてたようだが。……噂のスラグ・クラブとやらに。」

 

当初は誘われても断ると言っていた二人も、授業が終わった際にスラグホーンに誘われた時には満更でもない様子だった。……予想通り、ロンは見向きもされなかったが。気にしてない風を装っているが、後でフォローする必要がありそうだ。

 

そういえば、私にも特別何か声をかけてくることはなかったな。無視してるというよりかは、秘密を守るために距離を置いてる感じだ。まあ、真っ当な反応ではある。マクゴナガルやスプラウトに近い対応だった。

 

シニストラにもああいう反応をして欲しいもんだ。五年生になっても未だにフランと私との違いを認識しようとしない、やけに若作りな魔女のことを考える私に、ハリーとハーマイオニーはお揃いの返事を返してきた。

 

「断ったよ。悪くはないと思ったんだけど、クィディッチの練習もあるしね。」

 

「私もお断りしたわ。熱心に誘ってくださるのは嬉しかったんだけど……知り合いが全然メンバーにいないのよね。」

 

「そりゃあ、スラグホーンはさぞ残念がっただろうね。優秀な生徒と『有名人』をセットで逃し……おや、監査員どのじゃないか。今日も元気にピンク色だ。」

 

言葉の途中で廊下の向こうから歩いてきたピンクの塊を指してやると、三人は途端に嫌そうな顔になってしまう。ロンはそこまででもないが、ハリーとハーマイオニーはスクリュートでも目にしたような反応だ。そんなに接点もないだろうに。

 

どうやら授業の『監査』はまだ始まらないようで、アンブリッジはこうして校内を練り歩きながら生徒にちょっかいをかけまくっているのだ。やれ悩みはないか、やれ勉強で分からないことはないか、そして教師に困っている点はないか、ってな具合に。

 

対する生徒の反応はまちまちだ。単純に迷惑そうなヤツもいれば、ちょこちょこ相談しているヤツもいるらしい。まあ全体的に見ると……ロンの反応が一番多いな。『オェッ』が。

 

ちなみに私としては心底どうでもいい存在だ。傍から見ている分にはともかく、からかっても面白そうなタイプじゃないし、お友達になりたいとも思えない。ついでに言えば利用価値もない。毒にも薬にもならん。

 

考えながらもアンブリッジの横を通り過ぎようとすると……おっと、彼女は立ち止まって私たちに声をかけてきた。相も変わらぬ猫撫で声で、もちろんニタニタ笑いながらだ。

 

「あらあら、ミスター・ポッター。それに、ミス・バートリ。ごきげんよう。元気そうで嬉しいですわ!」

 

「ごきげんよう、アンブリッジ監査員。キミも元気そうでなによりだよ。今日も生徒のために頑張っているのかい?」

 

うーむ、言ってること自体はまともなんだがな。答えを返さない三人に代わって返事をしてやると、アンブリッジは嬉しそうにうんうん頷いて肯定の言葉を寄越してくる。……いやいや、目が全然笑ってないぞ。どうせ演じるならやり通せよ。

 

「ええ、その通り。……貴女とも是非お話ししたいと思っていたのよ。私はヒト以外の意見も重視すべきだと、そういう考えを持っているから。そうだわ、今からお茶でも如何かしら?」

 

『ヒト以外』ね。愉快な言葉を受けた私が皮肉を返す前に……おや、ハーマイオニーが静かな怒りを秘めた表情で前に出た。いつものぷんすか怒る感じではなく、鋭い冷徹な表情だ。

 

「『ヒト以外』というのは配慮に欠けた表現ではありませんか? アンブリッジ監査員。他種族を見下しているように聞こえます。」

 

「あら、そんなつもりはありませんよ。私は差別しているのではなく、『区別』しているんです。魔法省のガイドラインに則ってね。ミス……貴女、お名前は?」

 

「グレンジャーです。ハーマイオニー・グレンジャー。それに、私は『配慮』に欠けていると言いました。法規的な分類はともかく、きちんと礼節を持って他種族に対応すべきだと私は思います。……ヒトを中心にしか考えられないのは魔法省の悪い癖です。そうは思いませんか?」

 

「それはどうかしらね? ミス・グレンジャー。魔法省では種族ごとの知能や性質に基づいた分類をしているのよ? 貴女よりもずっと賢くて、専門的な知識を持った大人の魔法使いがね。それに従った対応をするのは正しいことなの。」

 

優しげな声で……まあ、少なくとも本人はそう思っているらしい声で言うアンブリッジに、今度はロンが抗議を放った。いきなり始まってしまった討論を見て、既にちらほらと道行く生徒たちが足を止めている。

 

「僕、そうは思えません。『ヒト以外』って発言もそうですし、例えば狼人間なんかの扱いはおかしい。そうでしょう? ちょっとした病気なだけで、あんなにも差別されてます。……魔法省の迫害の所為で。」

 

なんかどんどん論点がズレてきてるな。ロンの言葉を受けたアンブリッジは、『チッチッチ』と左右に指を振った後で反論を口にした。そういうとこだぞ。

 

「その『ちょっとした』病気は感染する可能性があるのよ? より多くの安全のためには仕方のない措置なの。殆どの狼人間が粗野で知性において少々の欠落が見られるのは、既にれっきとした研究結果として立証されていますからね。」

 

「それは、十八世紀に反人狼主義者によって行われた研究です。杜撰で、正当性のない手段によって行われた、偏見に満ちた研究結果だわ。魔法省は未だそんなものを根拠にしているのですか? 今は脱狼薬を調合出来る魔法使いも増えてきていますし、ニュート・スキャマンダー氏による正しい研究結果だって既に──」

 

「ェヘン、ェヘン。……ミス・グレンジャー? 私は今この子とお話ししているのよ? 自分の番まで待ちましょうね?」

 

ニタニタ顔を崩さずに言うアンブリッジの目は、明らかにハーマイオニーに対する時だけ鋭くなっている。どうやら簡単に対処出来る相手ではないと認識したようだ。

 

まあ、何にせよそろそろ止めるべきだな。私はお腹が空いていて、ディベートではお腹は膨れてくれないのだ。それに、アンブリッジと人狼について議論するなど時間の無駄だろう。何せこいつは反人狼法を推し進めたヤツの一人なのだから。

 

アンブリッジ、ハーマイオニー、ロンが同時に口を開こうとした瞬間、手を叩いてから声を上げた。そら、世にも珍しい吸血鬼の調停者だぞ。ありがたく調停されるといい。

 

「ここまでにしようじゃないか。妙に注目されちゃってるし、廊下でやるには深すぎる議論だろう? ……ああ、監査員どの。お茶はまた今度誘ってくれるかな? もうそんな雰囲気じゃ無くなっちゃったしね。」

 

強引に纏めた私の台詞を聞いて、アンブリッジは仮面のニタニタ顔のままで返事を返してくる。仮面のセンスは死喰い人以下だな。

 

「あらまあ、気遣いが出来るだなんて、とっても良い子なのね。……それじゃあ、失礼しますわ。ごきげんよう、皆さん。」

 

ゆっくりと歩み去っていくアンブリッジの背を見ながら、これまで黙っていたハリーが口を開く。……おいおい、殆ど睨みつけているような表情じゃないか。

 

「僕、あの人が嫌いだよ。……上手く説明出来ないけど、嫌いだ。」

 

これはまた、スネイプやマルフォイ並みの『運命的嫌悪感』だな。無意識に傷痕を押さえるハリーに首を傾げながら、アンネリーゼ・バートリは庇ってくれた二人の背中をポンポンするのだった。

 


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