Game of Vampire   作:のみみず@白月

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シュテッケンフェルドの戦い

 

 

「プロテゴ・トタラム、プロテゴ・マキシマ、サルビオ・ヘクシア……。」

 

石造りの大きな公民館にありったけの防衛魔法をかけながら、アリス・マーガトロイドは同時に人形との魔力の繋がりをチェックしていた。……さっきの戦闘で結構やられてしまったな。川に落ちちゃったのもあるし、後できちんと回収してあげなければ。

 

ドイツ西部にある小さな魔法族の村、シュテッケンフェルド。フランクフルトから八十キロほど離れたその場所は、今は度重なる戦闘で見るも無残な姿になっている。……平時なら牧歌的で美しい場所だったろうに。夕焼けに照らされる公民館から少し離れた村の中心部は、瓦礫と抉れた地面で不気味な影を作るばかりだ。

 

敵方とは既に何度も杖を交えているが、全く決着は付きそうにない。理由は単純。こちらが手堅く守りに徹して、向こうが攻めあぐねているからだ。私たちは非戦闘員の居る公民館を離れられず、敵方は地形に恵まれたこの場所を落とせずにいるのである。建物の古さや四方を川に囲まれているのを見るに、昔は砦として使われていた場所なのかもしれない。

 

そもそもの戦端が開いたのは、私たちが到着する六時間ほど前だったそうだ。混血やマグル生まれの魔法使いは登録の必要があると言って、強引に数名の住人を連れて行こうとするドイツ純血派の魔法使いたちに、町の有志が協力して抵抗の姿勢を見せたのである。

 

そして彼らは戦えない者や幼い子供たちを連れて公民館に立て籠り、そこに連絡を受けたドイツ融和派と純血派の援軍がそれぞれ到着。更にその後融和派の援軍としてイギリス、フランス、ポーランドの魔法使いたちが。純血派の援軍としてソヴィエト、チェコスロバキアの魔法使いたちが到着した結果、誰もが想定していなかった規模の戦闘へと発展してしまったわけだ。こっちの指揮系統も酷いものだが、間違いなく敵方のそれも滅茶苦茶になっていることだろう。

 

当然ながら、とっくの昔に公民館には姿あらわし妨害術をかけてある。これがないと防衛も何もあったもんじゃないのだが、同時に私たちも姿くらましで非戦闘員を避難させられないのだ。ここがドイツ国内な以上煙突飛行やポートキーは危険すぎるし、飛翔術なんて以ての外。鴨撃ちになるだけだろう。……つまりはまあ、お手上げだ。

 

結果として私たちはひたすら守り、敵方は時折思い出したように攻める、という奇妙な状況がずっと続いている。……そして更に奇妙なことに、敵も味方も本気で相手を殺そうとする気はないのだ。飛び交うのは殆どが失神呪文やら武装解除やらで、直撃コースの爆破呪文や死の呪文などは一度も見ていない。

 

これが戦闘の長引いているもう一つの原因なわけだが……うん、こればっかりは仕方ないな。ドイツ以外の国はあくまでそれぞれの派閥を『救援』しに来たわけであって、殺しちゃうともう後戻り出来なくなってしまうのだ。それが第三国の魔法使いなら尚更である。私たちがイギリス魔法省から『自身や味方の生命に危険が生じない限り』は致死性の魔法の使用を禁じられているように、向こうの連中も同じような命令を下されているのだろう。

 

それに、ドイツ国内の魔法使いだってリドル並みの『危険思想』なのは極一部なはずだ。ここに来て住人たちの生の声を聞いて分かったことだが、ドイツで行われているのは内戦ではなく『内戦ごっこ』だった。

 

純血派に属する魔法使いの殆どは、あくまでもマグル生まれや混血に対して『登録』を求めているだけであって、『浄化』しようとまでは思っていないらしい。しかし、議会で死者が出たために引っ込みがつかなくなり、相手から譲歩を引き出すためにこんなバカげたことを始めたわけだ。なんとも迷惑極まりない話ではないか。

 

とにかくドイツの魔法使いも相手を殺さないのには賛成なようで、結果的にこういうどっちつかずな状況に陥っているわけだが……だったらもう諦めてくれよ。私はお風呂に入ってゆっくりしたいぞ。

 

大きな川を挟んだ森の陰からこちらを窺う敵方の魔法使いたちを、いい加減うんざりした気分で眺めていると……おっと、十数回目の『作戦会議』が終わったようだ。見知った顔ではスクリムジョールとデュヴァル、それに加えてよく知らない数人の魔法使いたちが公民館から出てくるのが見えてきた。どうせ今回も大した結論には至らなかったんだろうさ。

 

やさぐれた気分で足元の小石を蹴っていると、スクリムジョールは此方と彼方を繋ぐ石造りの橋に防衛呪文をかけまくっているムーディに一声かけた後、今度は私の居る方へと真っ直ぐ歩いて来る。

 

ちなみにムーディが呪文をかけている橋こそが、最大の激戦区かつイギリスの担当箇所だ。落としてしまうか結構な議論になったものの、結局は残すことに決まった。橋の上で失神しても死なないが、失神した状態で川に落ちると溺死するからだ。敵も橋には爆破呪文とかを撃ち込まないあたり、これもまた『戦争ごっこ』の暗黙の了解なのかもしれない。

 

川に囲まれた公民館に繋がる橋は二つ。北側をイギリスが、南側をフランスが守り、飛翔術や凍らせて渡ってこようとする連中をポーランドと有志の住人たちが妨害している。……まあ、実際はしっちゃかめっちゃかになって担当箇所などあってないようなのが現状だが。

 

連携の拙さは多国籍軍の弱みだな。戦術面はともかくとして、練度に差がありすぎるぞ。鼻を鳴らしながら人形の整備をする私に、近付いてきたスクリムジョールは意外な言葉を投げかけてきた。

 

「お疲れ様です、ミス・マーガトロイド。このうんざりする状況にも、ようやく終わりが見えそうですよ。」

 

「あら? ……まさか攻勢に出るんじゃないでしょうね? それなら反対するわよ。上手くいなされて、逆に公民館を人質に取られるのがオチだわ。」

 

「無論、違います。……まあ、ポーランドから提案はありましたが、蹴りました。そうではなくて、スカーレット女史に付かせていたシャックルボルトから連絡があったのです。外交面から解決出来る目処がついた、と。」

 

「それはまた、最高の知らせじゃないの。……持つべきものは頼れる吸血鬼ね。」

 

きっと外交面でも熾烈な戦いが繰り広げられていたのだろう。そしてレミリアさんはそれに勝利しつつあるわけだ。……普段親バカとか思ってて申し訳ないことをしたな。今度咲夜と一緒の時は邪魔しないであげよう。

 

甘やかしすぎだと文句を言ったのをちょこっとだけ反省していると、スクリムジョールは大きく頷きながら口を開く。表情こそ冷静さを保っているものの、彼もさすがにうんざりしているようだ。僅かに疲れが覗いているぞ。

 

「正しくその通りですな。よって、あと少し耐え抜けば我々の勝利です。……むしろこれ以外に解決法はありませんしね。両陣営共に相手を殺すのを躊躇っている以上、上から誰かが止めてくれるのを待つ他ないでしょう。」

 

「何ともバカバカしいことね。……とにかく、分かったわ。相手が次に攻めてくる前に片付くことを祈りましょう。」

 

「そうなればいいのですが。」

 

全然そう思っていない感じで言うと、スクリムジョールは別の人間に指示を飛ばしに歩み去って行った。……いやはや、やっと終わりが見えてきたか。こういう状況になるとつくづく思うが、やっぱり私に出来ることなんて高が知れてるな。レミリアさんの動きを見てると情けなくなってくる。

 

何というか、こう……私たちがわちゃわちゃ忙しなく戦ってる遥か高みで、それを見下ろしながら国単位の戦いを繰り広げている感じだ。指揮官と一兵士の違いみたいな……いやまあ、『みたい』と言うか、実際そうなのかもしれないが。

 

私たちのささやかな頑張りも、多少は影響しているのだと信じたいもんだ。少し情けない気分でため息を吐いていると、公民館の屋根の上から派手な音と共に火花が上がった。見張りの合図。つまり、敵が動き始めたということだ。もうこのまま時間切れでいいじゃないか。勘弁してくれ。

 

「ムーディ、来るわよ!」

 

内心どうあれ凛々しい声を出した私に、ムーディは歪んだ笑みを浮かべながら大声で返事を返してくる。どう見ても悪役のそれだな。そんなんだから公民館の子供たちにも怖がられるんだぞ。

 

「ふん、分かっておるわ! 油断大敵! 全員備えろ!」

 

即座に位置についたイギリスから派遣されている十二人の闇祓いと二十人近い魔法戦士たちは、橋の向こうから杖を構えてゆっくりとこちらに歩いて来る敵方に向かって一斉に呪文を放った。

 

もちろん向こうからも応射があるので、橋を中心として赤や白の閃光が激しく行き交うものの……うーん、前回の戦争の経験者からすると、やっぱり『ごっこ』に過ぎないな。特に相手側は集団戦に不慣れなのが丸分かりだ。前列が防御、後列が攻撃という教本通りの陣形で進んで来るが──

 

「そぉら、行くぞ!」

 

ほら、ムーディの合図で散開して多角的に押すこちらの魔法に対処しきれなくなってきた。……まあ、無理もないか。彼らが最後に『こういうこと』をしたのは五十年も前なのだ。ドイツやチェコスロバキアなんかは殆どの魔法使いが初陣なのだろう。

 

対してこちらには十五年前の苦い経験がある。訓練や教本では得られない、血を流して得た経験が。魔法使いの集団戦というのは面ではなく点。そして、杖での戦闘というのはお行儀良く閃光を飛ばすだけではないのだ。

 

「ボンバーダ!」

 

有言の爆破呪文で敵の集団から少し離れた地面を吹き飛ばし、飛び散る瓦礫を無言呪文で操って浴びせかける。当然ながら相手も盾の呪文で防ぐが、生まれた隙を突くように熟練の闇祓いや魔法戦士たちが激しい攻勢に出始めた。

 

うんうん、いい感じだな。誰かが隙を作ればそこを突き、誰かが押されればそこを埋める。散開して個々で戦っているように見えて、結構チームプレーなわけだ。

 

その後もしばらく優勢を保っていると、橋にも辿り着けず押され始めた敵方の後方から……そら、お出ましだ。銀朱のローブを身に纏ったソヴィエト闇祓いたちが、こちらの呪文を打ち払いながらジリジリと歩みを進めて来た。ちなみに人形の被害はほぼこいつらの所為である。忌々しい連中だな、まったく!

 

私たちがそうであるように、こいつらも自国内での戦争を経験済みらしく、ドイツやチェコスロバキアとは一線を画す技量を持っているのだ。面倒くさいが相手をするしかあるまい。そもイギリスの担当がこの橋になったのは、あいつらを抑えるためなわけだし。

 

無言呪文を放ちながら人形を展開して、数人の熟練と一緒に壁になるために前へと歩み出ると……おや、今回は趣向を変えてきたな。ソヴィエトの魔法使いたちは、数人がかりで川の水を橋の中央あたりに浮かび上がらせ始めた。

 

「あら、ダンブルドア先生なら一人でやるのにね。デューロ(固まれ)!」

 

「あれと一緒にされては堪らんだろうな。エクスパルソ(爆破)!」

 

恐らく私たちを押し流そうとでもしたのだろう。考えとしては悪くなかったが、私が手早く固めたそれをムーディが迷わず爆破したせいで、固まった水が四方八方に飛び散ってしまった。……おいおい、こっちにも飛んで来てるぞ。

 

アレスト・モメンタム(動きよ、止まれ)! ……貴方ね、敵にだけ飛ばしなさいよ。出来ないわけじゃないでしょうに。」

 

「ふん、この程度を捌けん奴は連れてきておらんわ! デパルソ!」

 

私が空中で停止させた大量の『水塊』を敵の方へと吹き飛ばしたムーディは、そのまま複雑に杖を振ってそれを操り始める。元が水とはいえ、固まった今となっては岩を操っているのとさして変わらないのだ。敵は僅かな混乱を見せるが……まあ、さすがにそこまでバカではなかったか。誰かが解呪して水に戻してしまった。

 

デプリモ(沈め)!」

 

とはいえ、それもまた予測出来ていた事態だ。即座に沈下呪文で柔らかくなった地面を広く、浅く沈めてから、新たに取り出した数体の人形を敵中へと突入させる。うむうむ、泥の地面はさぞ歩き難かろう。師匠譲りの地味な嫌がらせが効いているようで何よりだぞ。

 

もうちょっと本格的な戦闘を予想していたので、持ってきた人形のうち『物騒な』子は使用不能になってしまったが、それでも棍棒を持たせている量産型の子なんかは使用可能なのだ。鉄製とはいえ手加減させているし、死にはしないはず。……多分。

 

お気に入りの七体を引き続き周辺の防御に回しつつ、追加した六体の人形を複雑に操って攻撃に当てると……うーむ、こうなるとさすがに杖を振る余裕はないな。私もまだまだ修行不足だ。

 

「ウィリアムソン! 悪いけどフォローお願いね!」

 

「任せてください、マーガトロイドさん。」

 

すぐさま長すぎるポニーテールが視界の前に躍り出て、人形の操作に集中する私を守り始めた。しかしまあ、相手も度重なる戦闘でさすがに慣れてきたようで、私の人形に対しては効果の無い粉砕呪文や終わらせ呪文などではなく、単純な衝撃呪文で的確に追い払っている。

 

それでも厄介なものは厄介なのだろう。呪文を避けながら時折突っ込んで棍棒を振るう人形にイラついたのか、敵方の指揮を執っているらしき魔法使いが私を杖で指して何か言うと……わお、やるな。後方に生えていた木を引き抜いて呪文で浮かべて、投げ槍のように私の方へと投げ込み始めた。

 

「ああいうことをするから森林が減るのよね、きっと。後でちゃんと植え直してくれればいいんだけど。」

 

「そんな悠長なことを言ってる場合じゃ、プロテゴ! ありませんよ!」

 

むう、ここで人形を退げたくはないんだがな。数本はいなすようにしてウィリアムソンが逸らしたが、諦め悪く次々飛んでくる『投げ槍』に彼が冷や汗を流し始めたところで……味方の魔法戦士の一人が飛んでくるそれに呪文を撃ち込んだ。

 

スポンジファイ(衰えよ)!」

 

これは……うーん、実に間抜けな光景だな。途端にふにゃんふにゃんになってしまった木が、ウィリアムソンの盾の呪文にぽよんぽよん弾かれる。敵も味方もちょっと呆れた目線をそれに送った瞬間、先程命令を下していた指揮官らしき魔法使いを人形でぶん殴ってやった。……惜しいな、肩か。直前に反応されなければ脳天にクリティカルだったのだが。

 

「あらまあ、怒らせちゃったみたいね。」

 

お人形遊びは好みじゃなかったようだ。肩を押さえながら私を憎々しげに睨む指揮官どのを見て呟くと、ウィリアムソンが情けない声で文句を言ってくる。

 

「どうせなら昏倒させてくださいよ。絶対こっちに攻撃を集中してきますよ、あれは。無茶苦茶怒ってるじゃないですか。」

 

「こんなに可愛い人形使いを守れるんだから、もうちょっと嬉しそうにしなさいよ。」

 

「……僕の母より歳上ですけどね。祖母と殆ど同世代です。」

 

「余計なことは言わないの。貴方の肩も殴るわよ。」

 

吸血鬼換算で言えばまだ『幼児』なんだぞ、私は。失礼な若人に鼻を鳴らしてから、一度量産型を回収して杖を構え直す。ムーディが向こうで赤ローブ以外に大きな損害を与えたようだし、再び防御の時間に戻るべきだろう。……今度はこっちが水を使ってみようか?

 

ムーディが何をしていたのかは分からんが、向こうの地面が焼け焦げて酷い有様になっているし、意趣返しがてら『消火』してやろう。無論、盛大な規模でだ。考えを実行に移すべく、川に向かって杖を振ろうとした瞬間──

 

「そこまでよ、全員杖を下ろしなさい! この戦闘、レミリア・スカーレットが預かった!」

 

残念、タイムリミットか。戦場に響き渡った声の元を辿ってみれば、薄暗くなった空を背に公民館の鐘楼の先端に立つレミリアさんの姿が見えてきた。北側と南側を交互に睨みつけ、その周囲には無数に光る真紅の魔力弾がぐるぐる回っている。

 

「既に純血派、融和派、そして各国の政治機関とは話が付いている! ……お分りかしら? これ以上の戦闘は無意味ってことよ。それでも続けたいのであれば、今度は私が相手になってあげるわ。」

 

『試してみるか?』と言わんばかりにギラギラと獰猛に光る真紅の瞳を見て、先ずはイギリスの魔法使いたちが一斉に杖を下げた。当然ながら誰も試したくはないのだ。ここにいる多くの魔法使いは、『ハロウィンの悲劇』の日にレミリアさんが何をしたのかを知っているのだから。

 

それを見た敵方も殆どが杖を下げるが……なんともまあ、勇敢な連中だな。ソヴィエトの赤ローブたちは未だに杖を構えたままだ。呪文こそ放っていないが、明らかに臨戦態勢でレミリアさんの方を睨んでいる。いや、無謀とも言えるだろうが。

 

「あら? 聞き分けの悪い連中が居るわね。」

 

ニヤニヤ笑いながら言ったレミリアさんは、ふわりと浮き上がって私たちの目の前の橋の中央へと着陸した。その周囲には、今や視界を埋め尽くすほどの膨大な量の光弾が衛星の如く回っている。……ごめんなさいするべきだと思うぞ。悪いことは言わないから。

 

堂々と進んで来るレミリアさんを見て後退りする赤ローブたちの中から、一人の魔法使いが……ああ、指揮官どのだ。肩を押さえながらの指揮官どのが前へと歩み出てきた。彼は目の前を覆う光弾に怯むことなく、たどたどしい英語でレミリアさんに声を放つ。

 

「スカーレット……女史。我々は祖国の命を受けてこの場に居る。故に、上からの命令が無い限りは易々と貴女に従うことはできない。」

 

「ソヴィエト魔法議会からも戦闘停止の了承は得ているわ。このレミリア・スカーレットの言葉が信用できないと?」

 

「信用する、しないの問題ではない。我々が上から命じられたのはあの拠点の制圧だ。その命令が撤回されていない以上、我々にはそれを遂行する義務がある。」

 

うーん、忠実であるとも言えるし、石頭だとも言えるな。古き良き兵隊ってわけか。主体となっているはずの純血派が戦闘を停止しようが、こいつらにはあんまり関係ないようだ。命令は絶対。それが彼らの流儀なのだろう。

 

「もう少し待てばそちらにも連絡が届くはずよ。それを待ちなさい。」

 

「であれば、届くまでは戦闘を止めるわけには──」

 

「あっそ。」

 

レミリアさんが冷たい口調で隊長どのの言葉を遮った瞬間、なんの予備動作も無しで光弾が一斉に赤ローブたちに襲いかかった。容赦なしだな。ちょっと可哀想だ。

 

まあ、対処しようとはしていた。赤ローブのほぼ全員が咄嗟に盾の無言呪文を使ったのは見事だと言えるだろう。しかし残念なことに、あまりにも物量が違いすぎたのだ。良く訓練された彼らでも、十秒近くの間全方位から延々襲い来る光弾を防ぐのは不可能だったらしい。

 

鳴り響く轟音が止み、土煙が晴れた後には……倒れ伏す赤ローブたちの姿が見えてくる。圧倒的だな。敵も悲しいだろうが、私たちだって悲しいぞ。今までやってたことはなんだったんだ?

 

「そっちはどう? まだやる?」

 

投げかけた声に残った純血派がブンブン首を横に振るのを見ると、レミリアさんは肩を竦めてから私の方へと近付いてきた。

 

「結構よ。……スクリムジョールはどこ? 案内して頂戴、アリス。責任者全員で話をする必要があるわ。」

 

「公民館の中で指揮を執っているはずですけど……いいんですか? あれ。殺してはいないんですよね?」

 

「殺すわけないでしょ。気絶してるだけよ。……それにまあ、ある意味では彼らは正しい選択をしたわ。ソヴィエト議会に話が通ってるってのは嘘だしね。」

 

その言葉に、思わず先導しようと踏み出した足を止める。……嘘? それは、マズいんじゃないのか? ポカンとする私に対してペロリと舌を出してから、レミリアさんは悪戯げな表情で囁きかけてきた。

 

「純血派との話が付いたってのは本当よ。でも、唯一ソヴィエトだけには中々話が通せなくってね。……ま、既成事実でゴリ押しちゃおうってわけ。向こうにだって体面があるんだし、戦闘が停止しちゃった以上は煩く言えないでしょ?」

 

「一国だけ戦闘を継続しようとするのは問題ってことですか?」

 

「そういうことね。だからしつこくは言ってこないでしょ。……それに、ソヴィエトもかなり混乱してるみたいなのよ。連邦解体の一件を解決しないうちに国内の親マグル派と反マグル派で意見が割れて、そこで起きたドイツの内乱。挙げ句の果てに国内では『真なる指導者』の噂が蔓延中なんだもの。宜なるかなって感じね。」

 

「『真なる指導者』? ……まさか、グリンデルバルドですか?」

 

「多分ね。私としても予想外なんだけど、あの男は既にかなりの影響力を確保してるみたい。近いうちにリーゼに確認しに行かせるわ。……これだから嫌いなのよ、ワイルドカードは。計算がお釈迦になっちゃったじゃない。」

 

「どこもかしこも燻ってますね……。」

 

ヨーロッパでずっと燻っていたものに、リドルが必死に息を吹きかけているのだろう。毒の囁きによって。そしてリーゼ様はリドルを上回る炎で飲み込もうとして、レミリアさんはそれを一つ一つ踏み消しているわけだ。

 

うーむ、やっぱりやってることの規模が違うな。公民館へと先導しながら苦笑する私に、レミリアさんが思い出したように声を放ってきた。

 

「ドイツの議会にポートキーを用意させたんだけど、やっぱりあの感覚は好かないわ。スクリムジョールとの話が終わったら議会までの姿あらわしをお願いね。……そういえば、咲夜へのプレゼントはちゃんと準備してあるの? 誕生日は一週間後よ。」

 

「紅魔館の自室に置いてありますから、帰ったら送ろうと思ってます。」

 

「ならさっさと終わらせて帰りましょ。……一応、間に合わなかった時のために小悪魔かエマにでも送るよう言っときなさい。ドイツなんぞの所為で咲夜のプレゼントが減ったら可哀想よ。今年の夏はあんまり構ってあげられなかったから、十個は贈ってあげないとね。」

 

国より咲夜か。この場の敵味方に聞かせたらどんな反応が返ってくるんだろうか? ……うーん、確かに凄い方だし、頑張っているってのは十分よく分かったが、やっぱり親バカは親バカだと思うのだ。

 

凄いんだかなんだかよく分からない吸血鬼を先導しつつ、アリス・マーガトロイドは苦い笑みを浮かべるのだった。

 

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