Game of Vampire   作:のみみず@白月

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医務室にて

 

 

「ふざけないで頂戴。私は石化の経験を積ませるために、この子をホグワーツに通わせているわけではないのよ。」

 

パチュリー・ノーレッジはホグワーツの医務室で静かに怒っていた。

 

今日の昼間、アリスに持たせた緊急連絡用の魔法具が発動したのを知った私は、すぐさまホグワーツに向かった。当然リーゼも姿を消した状態で付いてきている。

 

そこで目にしたのは、石化して医務室に運ばれたというアリスと、隣で泣き喚くヴェイユの姿だった。ちなみに、この時点でリーゼはホグワーツの教師陣を皆殺しにするところだったのだ。止めた私に感謝してほしい。

 

そこに居たダンブルドアとディペット校長を問い詰めると、何やらホグワーツでは不愉快な事件が起きており、アリスはその犠牲になったということを知らされたのだ。

 

そして現在、ディペット校長を八つ裂きにしようとするリーゼを止めながら、ダンブルドア共々責任を追及しているというわけである。

 

私のイラついた感情をたっぷり籠めた言葉を受け取って、ダンブルドアが目を伏せて話し出す。

 

「すまない、ノーレッジ。全て我々教師の責任だ。」

 

「大体、三人も犠牲者が出ているんだったら一度子供たちを帰すべきだとは思わなかったのかしら? ホグワーツの教師の質は随分と下がっているらしいわね。この分だと来年にでもトロールが赴任するんじゃない?」

 

優先順位を考えるべきだろうに。死体に向けて授業をするつもりなのか、こいつらは。

 

「いや、本当に申し訳ございません。校長として、私も早い判断をすべきだったと反省しております。」

 

ありきたりな言い訳をする校長を冷たい目で睨みつける。まあ、無能どもを責めたところで何にもならない。リーゼも多少は落ち着いてきた様子だし、さっさと治療を始めるとしよう。

 

「もういいわ、アリスは治療して引き取っていくから。……まさか、文句はないでしょうね?」

 

「ノーレッジ、申し訳ないことだが、石化治療薬はここにはないんだ。材料のマンドラゴラはもう少しで育ちきるから、それを待ってもらうことになる。」

 

「ダンブルドア、私を見くびらないで頂戴。ホグワーツとは違って、石化の治療薬くらい常備しているのよ。」

 

私の言葉に驚いた様子のダンブルドアに背を向けて、アリスの寝ているベッドに向かう。しかし、石化で済んで本当に良かった。これでアリスが死んでいたら、私はリーゼを止めはしなかったぞ。

 

「ぐすっ、ノーレッジさん、アリスは治るんですか?」

 

ベッドの横で話を聞いていたらしいヴェイユが、こちらに潤んだ瞳を向けてきた。私の学生時代にはこんな友達はいなかった。羨ましいものだ。

 

「安心しなさい、ヴェイユ。このくらいならすぐに治せるわ。」

 

「アリスは、私を庇って、それで……だからこのままだったらどうしようって、それが怖くて……。」

 

「ほら、涙を拭きなさい。大丈夫、アリスが起きたら礼を言えばいいだけよ。」

 

しかし、何だってバジリスクはヴェイユを見逃したのだろうか? 本人はアリスのお陰だと思っているらしいが、話を聞く限りそうとは思えない。まあ……私の詮索するような問題ではないか。先ずはアリスの治療だ。

 

ヴェイユを落ち着かせながら、胸元の小瓶を取り出す。常に携帯している万能治療薬だ。石化くらいならこれで治せるだろう。

 

小瓶の液体を一滴だけアリスの口元に垂らすと……みるみるうちに硬くなっていた身体がふにゃりと弛緩していく。当然だが、効果があったようだ。透明になっているリーゼも、安心したように吐息を漏らした。

 

柔らかさを徐々に取り戻していくアリスを見たヴェイユが、感極まったように抱きついているのを眺めていると、後ろで見ていたダンブルドアから声がかかる。

 

「ノーレッジ、もし良ければ他の生徒にも分けてやってはくれないだろうか? 彼らも石化したままでは辛かろう。」

 

「そんな義理はないんだけど……まあいいわ、ほら、一度に一滴で充分よ。」

 

構わないだろう、別に貴重な薬ではないのだ。ダンブルドアに小瓶を投げると、彼はそれを器用に受け取って他の犠牲者に与えに行った。

 

「しかし、死者が出ていないのはラッキーだったわね。誰か死んでいたら大問題だったところよ。」

 

慎重に生徒に薬を与えるダンブルドアを横目に、ディペット校長にそう言葉を投げかけると、彼は無言で居心地悪そうにしている。ちょっと待て、まさか……。

 

「ちょっと? 死者は出ていないんでしょう?」

 

「いえ、その、残念なことになってしまいまして。ミス・マーガトロイドたちが運ばれた直後に、その、レイブンクローの生徒が一人……。」

 

どうやら事態は最悪の状況にまで進んでいたらしい。母校から管理不十分で死者が出たわけだ。まったく、卒業生としては情けない限りである。

 

「貴方ねえ……はぁ、もういいわ。さっさと何処へでも行きなさい。やる事は山のようにあるのでしょう?」

 

「はい、この度は本当に申し訳ありませんでした。……では、失礼させていただきます。」

 

ディペット校長が医務室を出て行く。どうやら彼が校長でいられるのも長くはなさそうだ。呆れた気持ちで彼が出て行ったドアを見ていると、背後から声がかかった。

 

「あの人は……根はいい人なんだが、決断力があまりないんだ。」

 

「トップとしては致命的だと思うわね、それは。」

 

全ての犠牲者を治療し終わったのだろう、言いながらダンブルドアが小瓶を返してくる。

 

「本当に助かったよ。ありがとう、ノーレッジ。」

 

「別に構わないわ、アリスのついでよ。」

 

「それでも、だよ。」

 

やっぱりこの男は苦手かもしれない。何というか、真っ直ぐすぎるのだ。リーゼやレミィのような皮肉が効いた言葉のほうが、どうやら私には合っているらしい。

 

ダンブルドアと少し話しながらそんなことを考えていると、慌てた様子のディペット校長が再び入室してくる。忘れ物でもしたのか? そこまでの無能だとは思いたくないが。

 

「ダンブルドア、犯人が分かったぞ! そこに寝ている大柄な男の子だ!」

 

後ろに生徒を……リドルか? リドルを従えた校長が、興奮した口調で捲し立ててくる。

 

「その子がバジリスクを招き入れたんだ! 捕まえて魔法省に──」

 

「違います、校長先生! ルビウスは私たちと一緒に、バジリスクが怪物の正体だって伝えに行こうとしてたんです!」

 

校長の声に対して、アリスの手を握っていたはずのヴェイユが立ち上がって必死にハグリッドとやらを弁護する。しかし、そこにリドルが割り込んできた。おいおい、何だこの状況は。訳が分からない。

 

「ヴェイユ、君は騙されていたんだ。そこの半巨人が危険な魔法生物を好んで飼育しているのは周知の事実だったはずだ。そんな彼が、好奇心からバジリスクの飼育に手を出したとしても……どうだい? おかしくはないだろう?」

 

「違うよ、リドル! ルビウスはそんな人じゃない! 確かに魔法生物絡みのトラブルは多いけど、本当に危険なことはやったりしないよ!」

 

「アクロマンチュラを飼育しているのにかい? あの化け物の飼育は、『本当に危険』な部類に入るはずだよ。」

 

「それは……何で、それを?」

 

アクロマンチュラの飼育? どうやら今のホグワーツにはぶっ飛んだ生徒がいるらしい。確かにあれは安全な生き物とは言えないだろう。

 

「分かっただろう? そこを退くんだ、ヴェイユ。君とマーガトロイドが騙されていたことは分かっている。勿論罪に問われたりはしないはずだ。」

 

犯人であるらしい男の子が寝ているベッドに向かおうとするディペット校長とリドルに……おっと、ヴェイユが杖を抜いて立ちはだかった。

 

驚愕の表情を浮かべたリドルと校長が、口々に彼女を説得し始める。

 

「……正気か? ヴェイユ。自分が何をしているか分かっているのか?」

 

「分かってるよ! でも、でもルビウスが犯人だなんて絶対に間違ってる!」

 

「ミス・ヴェイユ、君は混乱しているのだ。落ち着いて、杖を置きたまえ。」

 

「できません、校長先生。私はルビウスを信じています。それに、こんなこと絶対におかしいです!」

 

一歩も退かないと言わんばかりのヴェイユに対して、しびれを切らしたのかリドルが杖を抜く。あたりに緊張感が漂うが……柔らかい声がそれを霧散させた。

 

「大丈夫だから落ち着きなさい、テッサ。それに……リドル、そしてアーマンド、君たちも落ち着くべきだ。」

 

ゆったりとした歩みで三人の間に割り込んだダンブルドアが、それぞれの目を見ながら話しかける。一瞬で雰囲気が弛緩した。なんとも見事なもんだ。ああいう話術はどこで学べるんだか。

 

空気を落ち着かせたダンブルドアは、リドルと校長の方に向き直ってゆっくりと口を開いた。

 

「アーマンド、リドル、君たちが間違っているとは断言しない。だが、テッサの言葉を蔑ろにすべきではないと感じているのは私だけかな? 心配せずともルビウスは逃げたりしないよ。彼が目覚めてからゆっくりと話を聞いてみてはどうだい?」

 

「お言葉ですが、ダンブルドア先生、バジリスクは今も校内をうろついているのですよ? そこの半巨人を尋問して、ヤツの居場所を聞き出すべきでしょう。」

 

「リドル、その言葉を使うべきではないな。ルビウスの血筋がどうであれ、今はそのことは関係ないはずだ。」

 

「論点を逸らさないでいただきたい。少しでも可能性があるのであれば、それを試してみるべきです。既に死者が出ているんですよ?」

 

驚いた。あのダンブルドアに真っ向から食い下がるとは、リドルも中々やるじゃないか。妙なところに感心していると、またしても別の人間から横槍が入った。

 

「リドル、貴方が頭のいい人なのはよく理解しているけれど、今回ばかりは間違っているわ。」

 

アリスだ。どうやら目が覚めたらしい。私の他には見えていないだろうが、リーゼに支えられながらベッドから身体を起こして話している。

 

「実際、ハグリッドはバジリスクに殺されかけていたのよ。あの場にいた私には、彼が本当に怖がっていたことが理解できるわ。」

 

「アリスの言う通りだよ! あんなに震えてたルビウスが犯人だなんて有り得ない。絶対に別に犯人がいるはずだよ。」

 

ヴェイユがアリスの言葉に勢い込んで同意するが、リドルはどうやら考えを翻すつもりはないらしい。冷静な声で反論してきた。

 

「法整備がなってないのをいいことに、彼がどれだけの危険生物を飼育してきたか知らないからそんなことが言えるんだよ。ホグワーツの安全のためにも、彼を捕らえるべきなんだ。」

 

どうやらアリスは犯人が別にいると確信しているようだ。裁判ごっこも楽しそうだが、そろそろこの言い争いもお開きにすべきだろう。アリスの体調が心配だし、リーゼもアリスの安眠を妨害する連中にイライラしてきている。

 

「あー、ちょっといいかしら?」

 

声を上げると部屋中の視線が私に集中する。まったく、何だって私が調停役をやらなきゃいけないんだ。

 

「このままここで話していても平行線でしょう? 件の……ハグリッド? とやらが起きてから話を再開すべきね。当人なしでは纏まる話も纏まらないわ。」

 

「ですが、バジリスクを野放しにはできません。」

 

「分かってるわ、リドル。それは私が何とかしてあげる。面倒くさいし、やりたいわけじゃないけどね。」

 

「それは……そんなことが可能なのですか?」

 

「少なくとも、これ以上の被害者が出ないことは約束しましょう。」

 

蛇避けの魔法を城中にかけまくって、ついでに雄鶏を大量にばら撒けば、それで充分すぎるはずだ。無論、後片付けのことは考えていない。少しくらい教師たちも苦労すればいいんだ。

 

「それは助かるよ、ノーレッジ。度々すまないね。」

 

「ふん、どうせこうなることを予測してたんでしょ? この狸。」

 

にこやかに言うダンブルドアに、冷たく言い放ってやった。こいつならもっと早く場を収められたはずだ。アリスのために乗ってやったが、次は御免だからな。睨みつけると、トボけた顔で肩をすくめやがった。やっぱりコイツは嫌いだ。

 

しばらく私とダンブルドアとを交互に見ていたリドルだったが、どうやら矛を収めることにしたらしい。彼は身体から力を抜いて、ゆっくりと口を開いた。

 

「……分かりました。ですが、彼が目を覚ましたら事情を聞かせてもらいます。魔法省には先に連絡しておきましょう。それでいいですよね? ディペット校長。」

 

「ん? ああ、そうだな、君に任せよう。」

 

校長が生徒の傀儡か、世も末だな。……さて、私も約束を守らねばなるまい。アリスのもとへ歩み寄り、頭を撫でながら声をかける。リーゼはここを離れるつもりはないようだし、アリスのことは彼女に任せておけば大丈夫だろう。

 

「それじゃあ、私は城に呪文をかけに行ってくるわ。アリス、ちゃんと寝ているのよ?」

 

「分かってるよ、パチュリー。」

 

はにかむようなアリスの返事を背に受けて、医務室を出て歩き出す。適当に蛇避けの魔法を城中にかけて回りながら、雄鶏を大量に呼び出しまくる。

 

滅多に使わない種類の魔法を連発しながら、パチュリー・ノーレッジは久々のホグワーツでの散歩を楽しむのだった。

 

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