Game of Vampire   作:のみみず@白月

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落陽

 

 

「やってくれるじゃないの。」

 

緊迫した声色の指示が行き交う半壊した廊下の一角を前に、アリス・マーガトロイドは険しい表情で呟いていた。まさかこのタイミングで、こんな場所を狙ってくるとは思わなかったぞ。

 

魔法省地下十階の薄暗い石造りの廊下では、闇祓いや魔法事故調査部隊が慌しく現場検証を行なっている。十数分前、この場所が何者かによって爆破されたのだ。魔法省で『爆発』が起こるのはそう珍しくもないが、これだけの規模となると明らかに死喰い人の攻撃だろう。

 

勿論ながら現在のイギリス魔法省はこういったテロを厳重に警戒している。しているのだが……地下十階はウィゼンガモットの管轄下であり、それ以外の階とは少し違った警備体制を敷いているのだ。今回はその穴を突かれたらしい。妙な意地を張るからこうなるんだぞ。

 

被害の中心部は殆ど跡形も無くなっているし、遠く離れたこの場所ですら飛んできた破片で壁が抉れて酷い有様だ。……十階だって防護呪文はかかっているはずなのに、どうやってこんな大爆発を引き起こしたのだろうか?

 

「でも、被害が大きすぎない? 呪文でこんな爆発を引き起こすのは私でも無理よ?」

 

防護呪文がある以上、少なくとも単純な爆破魔法では不可能だろう。力押しで可能なのはパチュリーくらいしか思い浮かばないぞ。隣に立つガウェイン・ロバーズに聞いてみると、彼も神妙な表情で現場を睨みながら返答を寄越してきた。闇祓い局に復帰したロバーズへと退院祝いを告げに行った際、事件の報せを受けて私も付いて来たのだ。復帰直後にこれとは、つくづく運のない男だな。

 

「先程判明しましたが、呪文ではなく何らかの魔法薬を使ったようです。……恐らく、実行犯も巻き込まれたのでしょう。これだけの規模ですしね。」

 

「……手段を選ばず、ってわけね。こちらの被害者は?」

 

「現時点では不明です。そこの一番被害が大きい場所……もう原形がありませんけど、あそこですね。あの場所は大法廷直下の取り調べ室なんですが、情報に規制がかかっていて私でも誰が使用していたのか分からないんですよ。」

 

「一番被害が大きいってことは、実行犯はそこを狙ったってことよね? ……ちょっと待って、敵は貴方ですら規制されるような情報を手にしてたってこと?」

 

仮に犯人が取り調べ室を狙ったのであれば、そこに誰が居たかも分かっていたはずだ。まさか無差別でこんな場所を狙ったりはすまい。……おいおい、ロバーズは闇祓い局のナンバー2だぞ。その地位で規制を受けているのであれば、誰が居たかを知る者はかなり上層部の人間ということになる。

 

「その通りです。つまり、上層部の情報が漏れているということになります。……心当たりはありますか? マーガトロイドさん。」

 

彼にも事態の重大さが理解出来ているのだろう。厳しい表情を浮かべて小声で聞いてきたロバーズに、頭を回しながら返答を送った。情報が少なすぎて絞り込むのは難しいな。

 

「先ず、誰が知っていたのかを調べるべきね。……アメリアはマグルの首相と会談中なんでしょう? スクリムジョールとムーディは省内に居ないの?」

 

「スクリムジョールが今来るはずです。ムーディ局長はいつもの『家庭訪問』をしているので、帰省は午後になりますね。」

 

「なら、スクリムジョールが知っていることを祈りましょう。もし彼が知らないとなれば、かなり厄介な展開になるわよ。」

 

何たって、執行部長であるスクリムジョールの『上』など省内に数人だけしか存在しないのだ。そこに裏切り者が潜んでいたとなれば、こちらの情報はダダ漏れだったということになってしまう。スパイが居る前提で動いてはいるが、さすがに許容範囲外だぞ。

 

やきもきしながら現場検証の光景を見つめていると……来たか。反対側の廊下の奥から規則的な早足でこちらに歩いて来たスクリムジョールは、真っ先に私たちへと声をかけてくる。

 

「ロバーズ、それにミス・マーガトロイドも一緒でしたか。……あの場所に誰が居たかを知っている者は、ボーンズ大臣、私、スカーレット女史、ムーディ局長、国際魔法協力部部長、国際魔法法務局局長、直接尋問に当たった開心術師の数名、そしてウィゼンガモットの議長と副議長だけです。」

 

ふむ、やっぱりそれなりの面子だな。ならばやる事は決まった。前置きの一切を省いて必要な情報を伝えてきたスクリムジョールへと、すぐさまホルダーから抜いた杖を向けたところで……それを見たロバーズがかなり慌てた表情で口を開く。ここで慌てるのは情けないぞ、ロバーズ。前回の戦争中はよく見た光景じゃないか。

 

「マーガトロイドさん? 何を?」

 

「開心術よ。服従の呪文の可能性もあるし、今は全員を疑うべきなの。……抵抗しないで頂戴ね、スクリムジョール。」

 

「当然の対応ですな、どうぞ。」

 

「それじゃ、遠慮なく。レジリメンス(開心)。」

 

別に本気で疑っているわけではないが、僅かでも可能性があるならやるべきなのだ。抵抗なくスルリと侵入出来た感覚の後……うん、白だな。手早く覗いてみた限りでは、スクリムジョールの記憶に不自然なところは見当たらなかった。

 

当然ながらスクリムジョールだって閉心術を習得しているのだろうが、私だって開心術にはそれなりの自信がある。侵入を防がれる可能性はともかくとして、偽りの記憶に騙されるという可能性は薄いだろう。

 

それに、取り調べ室の中に居たのが誰なのかも分かった。……ルシウス・マルフォイ。あの男がリドルを裏切っていたのか。私ですら全く気付けなかったのを見るに、スクリムジョールたちはかなり巧妙に保護していたようだ。一階や二階ではなくこちらの取調べ室を使ったのも偽装の一つなのだろう。

 

だが、この惨状を見るにもう……。一瞬だけ目を瞑った後で、スクリムジョールに向かって言葉を放つ。

 

「貴方は白ね。確認したわ。」

 

「結構です。……では、ロバーズは部下と開心術師を連れて五階の協力部と法務局を頼む。ミス・マーガトロイドは私と来ていただけますか? 尋問に関わった開心術師は既に一時拘束を済ませていますので、私たちはウィゼンガモットの議長と副議長を調べます。」

 

「ああ、了解した。」

 

「そうね、行きましょうか。」

 

まあ、一番怪しいのはその辺だろう。アメリアとムーディは最後に回していいはずだし、レミリアさんはそもそも有り得ない。一つ頷いてから逆方向へと走り出したロバーズを尻目に、スクリムジョールと共に薄暗い十階の廊下を歩き出す。

 

「奥さんの方は無事なのよね? ナルシッサ・マルフォイだったかしら?」

 

靴音を鳴らしながらの私の問いかけに、スクリムジョールは肯定も否定もせずに返事を返してきた。

 

「現時点では不明です。ここに来る前に指示を出して、部下を確認に向かわせました。魔法省が用意した隠れ家に潜んでいるはずですので。」

 

「……無事だといいわね。」

 

マルフォイ家など好きではないが、一年だけとはいえその息子は私の教え子なのだ。スリザリンの、ドラコ・マルフォイ。ハリーと同級生だったから、今は十五か十六か。親が居なくなるのは辛かろう。

 

私の呟きを受けたスクリムジョールは、やけに事務的な口調で言葉を寄越してくる。

 

「そうですな。厳重な保護を受けていたはずのマルフォイ夫妻が死んだとなれば、他の内通者たちが揺らいでしまいます。片方だけでも生きていてくれれば助かるのですが。」

 

「……そういうことでもないんだけどね。」

 

どこまでも冷徹だな。……いや、情に流されている私の方が間違っているのかもしれない。天然なのかポーズなのかは定かではないが、組織の上に立つ人間とはこういう態度でいるべきなのだろう。

 

うーむ、やっぱり私には自由な魔女が向いてるな。私だとここまで冷徹な対応は出来ないはずだ。そうするべきだと頭で理解していても、きっとどこかで迷ってしまうだろう。甘さと優しさ。その二つは別物だってことを重々理解しているはずなのに。

 

情けない自分にため息を吐きながら、松明で照らされた角を曲がって評議長室の前に近付いて行くと……何だ? マホガニーの重厚なドアの奥から、微かに怒鳴り声が漏れ聞こえてくる。

 

「何かしら?」

 

「怒声のようですね。口論でしょうか? ……一応、杖を抜いておくべきでしょうな。」

 

平時ならともかく、今は事件があった直後なのだ。そうした方がいいだろう。スクリムジョールの言葉に従って、杖を構えながらノック無しで室内に踏み込んでみると──

 

「……これはこれは、スクリムジョール執行部長、それにミス・マーガトロイドまで。お早いご到着ですな。それでこそですよ。」

 

部屋の奥で壁際にへたり込む副議長のアディティア・シャフィクと、それに対して杖を構えている議長のチェスター・フォーリーの姿が見えてきた。……どういう状況なんだ? これは。

 

「……説明をお願いできますかな? フォーリー議長。」

 

「簡単なことだよ、執行部長。シャフィクを呼び出して問い詰めてみれば、彼が『犯行』を自白した。それだけの話だ。」

 

「つまり、シャフィク副議長が内通者だと? ……些か出来すぎた状況にも思えますが。貴方は随分と早く答えに辿り着いたようですな。」

 

「君たちとてこうしてこの部屋に来ているではないか。私も同じことに気付いたまでだよ。……まあ、疑うのならば本人に聞いてみたまえ。その方が話は早いはずだ。」

 

やけに冷静な会話だな。スクリムジョールと共に杖を構えたままで件のシャフィクの方へと顔を向けてみれば、彼は私たちに弁明するのではなく、目の前のフォーリーに対して文句を喚き始める。起こっていることが信じられないと言わんばかりの表情だ。

 

「何故、何故こんな、どうして……どういうことだ、チェスター! 何故君が私を売る? 君だってスカーレットの『独裁』には反対していたはずだぞ!」

 

「如何にもその通りだ。その通りだが、それがどうしてヴォルデモートに協力することに繋がるのかね? ……君は一体どういう思考回路を辿ったんだ?」

 

反レミリアさんだが、同時に反死喰い人。確かにそれがウィゼンガモットの立ち位置だったはずだ。心底疑問だという表情のフォーリーへと、シャフィクはヨロヨロと立ち上がりながら反論を叫ぶ。顔が真っ赤を通り越してどす黒くなっているぞ。

 

「れ、例のあの人は約束してくれた! 彼が権力を握った暁には、純血を重んじた治世を行うと! ウィゼンガモットの権利を拡大し、私たちを純血の旗頭として扱ってくれると! ……先程そう言ったじゃないか! 私はきちんと説明したぞ! それなのにどうして、どうして私を突き出すような真似をするんだ? 君のことだってわざわざ『推薦』したのに!」

 

「……私は君を賢い人間だと思ったことは一度もないが、まさかそこまでの愚か者だとも思っていなかったよ。……君は本気でそれを信じたのか? それ以前に、ヴォルデモートがイギリスを『統治』することが可能だと思っているのかね?」

 

「何を、何を言っているんだ? チェスター。出来ると言っていた! 確かに言っていたんだ!」

 

頭痛を堪えるような表情を見て怯むシャフィクへと、フォーリーは額を押さえながら説明を続ける。段々と起こっていることの詳細が掴めてきたな。どうやらウィゼンガモットの副議長の座には、信じ難いほどの大間抜けが座っていたらしい。

 

「いいか? 仮にヴォルデモートがイギリス魔法省を制圧し、スカーレット女史をも打ち倒したと仮定しよう。……まあ、そもそもこの時点で有り得るはずのない状況だが。仮にそうなったとして、今の国際情勢がヴォルデモートの統治を認めると思うのかね? 怒り狂った他国が攻撃を仕掛けてくるとは考えないのか?」

 

「それは……でも、これはイギリス国内の問題だ! 他国が易々と介入出来るはずがない! 現に前回はどこも介入してこなかったじゃないか!」

 

「君は……信じ難いな。これは夢かと疑う程だよ。君は今の国際情勢を何ら理解していないのか? その台詞が通用するのは十五年前までなんだ、シャフィク。スカーレット女史が国際間の繋がりを深めた今、昔のようにヨーロッパ魔法界は分断されていない。それに、今のヴォルデモートはイギリス国内の扇動家ではなく、大陸を荒らし回る国際的な犯罪者なんだ。……そんな人物が権力を握ってフランスが黙っていると思うのか? ポーランドは? ギリシャは? ソヴィエトは? 君はそんなことすら理解出来ないのかね?」

 

「でも、でも、可能だと言ったんだ! 私はそう言われた! ……確かにそう言われたんだ!」

 

これは、酷いな。全然反論になっていないシャフィクの言葉を聞いて、フォーリーはまるで悍ましい生き物を見るかのような表情で返事を返す。なんとまあ、パチュリーが紙魚を見るときの表情そっくりだぞ。

 

「……見事だ、シャフィク。君は色々なことを台無しにしてくれたよ。正直、たった一手でここまで状況を変えることが出来るとは思っていなかった。脱帽だ。君にこんな才能が隠されていたとはね。……先ず、ウィゼンガモットは近々解体されるだろう。副議長がこれほどの失態を犯した以上、もはや私にも抵抗し切れまい。行政、立法、司法。これでイギリス魔法界は完全にスカーレット女史の支配下に陥ちるわけだ。」

 

草臥れたように話しながら、フォーリーは応接用らしきソファに座り込む。そのまま大きなため息を吐くと、再び顔を上げて続きを語り始めた。……誰にともなく、独白するように。

 

「そして、ルシウス・マルフォイが連鎖的に純血の家を寝返らせる計画も崩壊した。この惨状を聞いた彼らは恐怖からヴォルデモートの傘下に留まり、それ故に多くの家系は断絶するだろう。スカーレット女史に叩き潰されることでね。……ルシウス・マルフォイは唯一切っ掛けになれる人物だったんだ。政治的センスがあり、情報源としての価値もあり、名家としての地位も申し分ない。彼の説得が上手くいけば、純血の家系をある程度イギリス魔法界に残すことが出来たはずだ。……だが、君が殺した。君がそのか細い糸を断ち切ったんだ、シャフィク。何一つ自分の頭では考えられず、死喰い人の穴だらけの言葉を鵜呑みにした君がね。」

 

言いながらフォーリーがシャフィクを睨み付けると、シャフィクは小さく悲鳴を上げながら再びへたり込んでしまう。その情けない姿を見たフォーリーは、苦々しい苦笑を浮かべてポツリと呟いた。

 

「いや、意外な結末だ。惨めに足掻く私に止めを刺すのは、てっきりスカーレット女史なのだとばかり思っていたんだがね。まさか歯牙にも掛けていなかった君から刺されるとは……やはり私如きでは相手にならんか。ヴォルデモートのことをとやかく言えんな。」

 

「貴方は……一体何をしようとしていたのですか? フォーリー議長。」

 

「逆に問おう。私には君たちが何故スカーレット女史をそこまで信じられるのかが疑問だよ、ミス・マーガトロイド。君は恐ろしくないのかね? 権力を持ち過ぎた『女帝』が何を引き起こすと思う? 老衰で死ぬこともなく、種族さえ違う支配者が君臨し続けることが危険だとは思わないのか? ……私は思うよ。今は上手くいっているかもしれないが、いつの日か綻びが生じるはずだ。ローマが、フランスが、ロシアが、何よりイギリスの歴史がそれを証明しているのだから。そして、それを止められるのは今だけなんだ。今を逃せば、もう誰にも歯止めをかけられなくなってしまう。」

 

それは……そうか。フォーリーはレミリアさんがイギリスを離れることを知らないのだ。私たちが幻想郷へ、イギリス魔法界から遠く離れた場所へと旅立つことを。レミリアさんが政治の場を離れることを。

 

ならばフォーリーの言葉も理解出来る。レミリアさんはイギリス魔法界をほぼ手中に収め、ヨーロッパ各国への影響力を強め、そして今世界への繋がりも構築しつつあるのだ。短命な人間ならば問題ないだろう。どれだけの権力を握ろうと、墓に入ってしまえば何の意味もないのだから。

 

だが、レミリアさんは吸血鬼だ。五百年生きてまだ『少女』の吸血鬼。……うーん、気まずいな。リドルの件が解決したら居なくなるよって教えてあげるべきか?

 

思い悩む私を他所に、シャフィクに無言呪文で腕縛りをかけたスクリムジョールが口を開いた。フォーリーの話を聞いて何を思っているのやら、何にせよその顔はいつも通りの仏頂面だ。

 

「言っていることはある程度理解出来ますが、貴方の『不安』によってこちらの動きを邪魔されるのは困りますな、議長。……今は平時ではなく、戦争中なのです。余所見をしていられるような状況ではありません。」

 

「私がいくら邪魔したところで、ヴォルデモートの負けは変わらんよ。勝つのはスカーレット女史だ。君はそうは思わないのかね?」

 

「思いますが、それでも過程に違いは生じるでしょう? ウィゼンガモットがもう少し協力的であれば、犠牲者の数が僅かなりとも減ったとは考えませんか?」

 

「優先順位の違いだよ。『より大きな善のために』なるのであれば、小さな犠牲は許容すべきだ。……自分でも下劣なことを言っているのは理解している。裁きは地獄で受けるさ。」

 

またその言葉か。『より大きな善のために』。私はあまり好きな言葉じゃないぞ。そのまま生じた沈黙を引き裂くように、フォーリーがドアを指して声を上げる。

 

「では、そろそろお帰り願おうか。シャフィクの尋問に関しては評議会も全面的に協力しよう。必要な書類は纏めて執行部に提出しておく。……私が議長で居る間は、の話だが。」

 

「……承知しました。我々はこれで。」

 

言いながら杖を振って、放心状態のシャフィクを浮かせたスクリムジョールと共に部屋を出た。フォーリーの言う通り、ウィゼンガモットはそう遠くないうちに解体されるだろう。まさかレミリアさんがこの機を逃すとは思えない。

 

レミリアさん、リドル、グリンデルバルド、そしてフォーリー。……複雑だな。思想も主義も目指すものもそれぞれの『指導者』たちが、ヨーロッパを舞台に戦い合い、時に協力し合っているわけか。

 

理解出来なかったウィゼンガモットの動きも、今日のフォーリーの言葉を聞けば一分の理を感じた。そして、レミリアさんにも、グリンデルバルドにも理はあるように思える。……ならばリドルは? もし話してみれば、ひょっとして見方が変わったりするのだろうか?

 

不意に脳裏に浮かんだ考えを、小さく頭を振ってかき消す。……それは単なる願望だぞ、私。どんな理由があったところで、お前はきっとリドルを否定するはずだ。彼のやってきたことはそういうことなのだから。

 

うん、やっぱり政治は苦手だな。レミリアさんには相手の理を認めた上で踏み潰す強さがあるが、弱い私はきっと躊躇ってしまうはずだ。それを迷わず実行出来るということが、指導者の指導者たる所以なのだろう。

 

それでも、自分の立ち位置くらいはきちんと見定めないとな。松明が不規則な影を作る石造りの廊下を進みながら、アリス・マーガトロイドは小さく頷くのだった。

 


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