Game of Vampire 作:のみみず@白月
「ふぅん?」
ホグワーツ城で最も高い天文塔の先端に立つアンネリーゼ・バートリは、遥か遠くで蠢く群体を見て薄く微笑んでいた。遠すぎて判別は難しいが、恐らく吸魂鬼の群れだろう。まるで雨雲が近付いてきてるみたいだな。……まあ、どちらにせよ不愉快なのは変わらんか。
六月一日の午前零時。最近は日課になっていた見張りがてらの月見酒を楽しんでいたところ、南東の空から近付いてくる大量の黒い影が見えてきたのだ。どうやらリドルは長年に渡る因縁の決着を付けるのに、今日という日を選んだらしい。
いいさ、始めようじゃないか。パチュリーも、教師たちも、そして私も。ホグワーツに居る全員がもはや準備を終えているのだ。今更臆する者など一人も居まい。
しかし、満月の戦いか。私としては新月の方が好みだが……うん、これもこれで悪くはないな。何せ今日の月は名月と呼ぶに相応しい美しさなのだから。込み上げてきた含み笑いをそのままに、飲んでいたワインを投げ捨てて尖塔の縁から飛び降りる。重力に従って三階まで落ちた後、翼をはためかせて窓から廊下に入った。当然、校長室の目の前にだ。
「ベーオウルフ。」
ガーゴイル像に新しくなったばかりの合言葉を告げ、現れた螺旋階段を下りて校長室に入ってみれば……おや、行動が早いな。本が一切無くなっているがらんとした室内が目に入ってくる。こんな所まで敵が入れるはずなどないだろうに、わざわざ大切な本たちを『避難』させたようだ。
「一応報告に来たんだが、この様子だととっくに気付いてたみたいだね。」
「当たり前でしょ。もうホグズミードには避難勧告を出したわ。……それと、予想通りロンドンの方にも仕掛けてきたみたいよ。」
「ま、想定の範囲内さ。そっちは魔法省の頑張りに期待しようじゃないか。」
魔法省とて無策ではないのだ。如何に守るものが多いロンドンといえども、易々と好き勝手にさせたりはすまい。杖なし魔法で読んでいた本を消し去ったパチュリーに肩を竦めてやると、彼女はゆったりと揺り椅子から立ち上がった。
「さて……それじゃ、行きましょうか。寮監たちにはもう知らせてあるから、生徒を大広間に集めてくれてるはずよ。」
「生徒たちはそこで待機ってことかい?」
ふむ? 確かに一箇所に纏めたほうが守り易そうだが、大広間だと玄関に近過ぎないか? 二人で校長室のドアを抜けながら聞いてみると、パチュリーは小さく首を振って答えを返してくる。
「説明だけした後、寮に帰すわ。成人済みの生徒は自由意志で防衛に参加させるつもりだけどね。」
「……いいのかい? 成人してようがなんだろうが、ダンブルドアは生徒を巻き込むのを嫌がると思うぞ。」
「当然、城からは一歩も出させないわよ。それなら大丈夫でしょ。そもそも城内に敵を踏み入らせるつもりはないし。」
「なるほどね。それならまあ、平気かな。」
よく考えたら上手い妥協点なのかもしれない。ホグワーツに敵が迫っているとなれば、我こそはという血気盛んな生徒が必ず出てくるだろう。特にグリフィンドールあたりからは。そういった声を力尽くで封じるよりかは、きちんとルールを定めて参加させた方が混乱も少なそうだ。
パチュリーがそんなガキの心理を理解出来るはずもないし、偶々なのだろうか? 首を傾げながら三階の廊下を進んでいると、隣を歩く校長代理どのがぼんやりとした表情で言葉を放ってきた。……アリスが人形の視界に集中している時と同じ顔だな。何を通して、何を見ているのやら。
「南側から巨人の軍勢と少数の狼人間、それにそこそこの数の死喰い人。それと、南東からは森を突っ切って来る亡者の群れと吸魂鬼。……あら? リドルは居ないみたいね。こっちが本命じゃないのかしら?」
「戦力だけ見れば大盤振る舞いだが、肝心のリドルが居ないってのは意外だね。ロンドンが本命ってのはないとして、ホグワーツでもないとは……つまり、魔法省か?」
「この段階で魔法省を叩くメリットも少ないと思うけどね。レミィたちだって空き家にはしてないみたいだし。」
確かにそうだ。……いやまあ、メリット自体は確かに存在しているのだが、予想される犠牲に釣り合うものだとは思えない。相変わらず何を考えているのかよく分からんヤツだな。
意味不明な行動を好むトカゲ男に鼻を鳴らしてから、一階目指して中央階段を下りつつ提案を口にする。最近考えていた提案を。
「そういえば、この際ハリーにも実戦を経験させてみようと思ってるんだ。私が付いておけば万が一も無いだろうし、そろそろ戦場の空気を知るべきだろう? 良い感じの場所を見繕ってくれたまえよ。」
「貴女ね、過保護にも程があるわよ。偉大なる夜の支配者どのが居る時点で安全は保証されてるようなもんなんだから、何処に行こうが大して問題ないでしょう?」
「一応さ、一応。適度に死喰い人が居て、身を隠せる障害物がある感じの場所を頼むよ。細かい数なんかは私が『調節』するから。」
問題はハーマイオニーやロンが付いて来そうだってとこだな。……ま、三人くらいなら平気か。技量もそこそこだし、度胸もある。私がしっかりフォローすれば何とかなるだろう。夜の中庭を横目に一つ頷いていると、パチュリーが呆れたような口調で了解の返事を寄越してきた。
「はいはい、やればいいんでしょ、やれば。……そうね、それなら私は霧雨の個人授業を仕上げようかしら。あの子も『的』があったほうがやる気が出るでしょうし。」
「おいおい、魔理沙はあんまり人殺しを喜ぶタイプじゃないと思うぞ。それが死喰い人だとしてもだ。」
「さすがに相手は亡者とかにするわよ。それなら問題ないでしょ。もう死んでるわけなんだから、一度も二度も変わらないわ。」
「その認識もどうかと思うけどね。」
まあ、死神どもからは感謝されるかもな。あの連中にとっては亡者なんぞ許しておける存在ではあるまい。今から大量に始末しておけば、死んだ後に感謝状でも渡されるんじゃないか? もしかしたらポンコツ裁定者どもが『白』を言い渡してくれるかもしれんぞ。
どうでも良いことを考えながら大広間に通じる扉の前にたどり着くと、既に集まっている全校生徒たちの姿が見えてきた。いつものように各テーブルに分かれているが、寝巻きに何かを羽織った姿が多いことが非日常を感じさせるな。
それに、静かだ。常ならばコソコソ話や微かな笑い声が響いているのに、今は誰もが不安そうな表情で押し黙っている。最後に入ってきた私たちに大広間中の視線が集まる中、パチュリーは教員席へ、私はグリフィンドールのテーブルへと近付いて行く。
グリフィンドール生たちの物問いたげな視線を黙殺して、いつもの五人組の下へと歩み寄ると……真っ先にハリーが私に向かって質問を投げかけてきた。当然のことだが、何が起こっているのか気になって仕方がないという表情を浮かべている。
「リーゼ、何があったの? まさかヴォル──」
「落ち着きたまえ、ハリー。我らが校長代理閣下からの説明があるから、話はその後だ。」
んー……これは、彼らも一度寮に戻す必要がありそうだな。ちょっと髪の毛の乱れているハーマイオニーはパーカーにジーンズで、魔理沙は慌てて着替えた感じの制服姿、そして『時間に余裕のある』咲夜は完璧に制服を着こなしているのだが、ハリーとロンはパジャマのままだ。危機管理がなってないぞ、まったく。
教員席の方を指差しながら答えた私が席に着くと、同時にパチュリーも教員テーブルの前にたどり着いた。彼女はくるりと振り返って生徒たちの顔を見回したかと思えば、何気ない仕草でゆっくりと右手を上げて……おいおい、やり過ぎだぞ。ビックリしたじゃないか。
パチュリーが振り上げた右手を握ったその瞬間、信じ難いほどの魔力が大広間を包み込む。これはまた、凄まじいな。あまりの力の密度に城が軋む音が聞こえてきそうなほどだ。魔力に敏感な魔理沙なんかは真っ青な顔で椅子から跳び上がってしまった。
そして、他の生徒たちも大広間を包む圧力に気付いたらしい。これだけの力の大きさなのだ。多分魔法力を持たないマグルですら気付けるぞ。誰もが息をするのも躊躇うように黙り込み、畏怖の視線で紫の大魔女を見つめている。
能ある鷹はなんとやら、だな。……もはや学期初めにダンブルドアが言っていた言葉を疑う者など居ないだろう。腕の一振りで大広間を『支配』したパチュリーは、そのまま静かな声で話し始めた。平時なら絶対に聞こえないような声量だが、今は大広間の隅々まで響き渡っている。
「戦いが始まるわ。ホグワーツに敵が迫っているの。だから、あなたたちは私の邪魔にならないように談話室で待機していること。成年に達していて、尚且つ危険を承知で戦闘に参加したい者だけがこの場に残りなさい。他の者は寮監や監督生の指示に従って談話室に戻るように。……以上、終わり。」
とはいえ、パチュリーはパチュリーのままだったようだ。あまりにも簡素な説明と、有無を言わせぬ簡潔すぎる指示。どう考えても疑問は残るだろうし、普段なら山ほど質問が響いているはずだが……今の生徒たちからは一切の声が上がってこない。誰もが黙らせ呪文をかけられたかのように沈黙している。
「それじゃ、教員はこの前の説明通りに動くこと。細かい部分はマクゴナガルに聞きなさい。」
いやはや、まさか強引に『威圧』して従わせるとはな。私としては効率的で良いと思うが、ダンブルドアなら絶対にやらないようなやり方だ。話の続きをマクゴナガルに任せようとするパチュリーを、咲夜と共に苦笑しながら眺めていると……ああ、そういえば居たんだっけ、こいつ。いきなり教員席の端っこから耳障りな声が聞こえてきた。今日もピンク一色に染まっている、アンブリッジ監査員どのの声だ。
「ェヘン、ェヘン。……心配なさらないで、校長代理。先生方と、かわいい生徒の皆さんも。私は既にこの状況を予見していましたの。そして事前に交渉を済ませてあるのですわ。……今まさにこの城に迫っている、死喰い人たちとの交渉を!」
人それを『内応』と言うんだぞ。立ち上がってパチュリーの近くに歩み寄りながら訳の分からないことを主張し始めたアンブリッジは、大広間中の困惑の視線を浴びたままで続きを話す。何故かこれ以上ない程のしたり顔だ。
「無理に戦う必要など無いのです! 巨人、亡者、吸魂鬼。もし戦えば多数の犠牲者が出ることは間違いありませんわ。それを交渉で解決出来るんですよ? それも、たった一度の話し合いだけで! ……ここに至るまでには大変な苦労がありました。死喰い人たちとの危険な話し合いに臨み、ともすれば裏切りとも取られかねない──」
「では、今すぐそうしてはいかがですか? アンブリッジ監査員。私たちは貴女が城を出て行くのを止めはいたしませんので。」
全くもってその通りだ。割り込んだマクゴナガルが無表情の仮面を被ってそう言うのに、アンブリッジはニタニタ笑いながら返事を返した。
「それが、一つだけ条件があるのです。ほんの些細な、簡単に実現出来る小さな条件が。……交渉には私とハリー・ポッターの二人で赴くこと。それが死喰い人たちの提示してきた条件ですわ。無論、交渉人の安全は文書で確約していただいております。……どうかしら? 私は悪くない提案だと思うのですけれど。」
アンブリッジは首を傾げながら同意の言葉を待っているが、彼女以外の大広間の全員が『悪い条件』だと思っているようだ。低学年のガキどもですら頭にクエスチョンマークを浮かべているのを見るに、死喰い人が『文書で確約』したことを守らないであろうことは幼い彼らにも理解出来ているらしい。
しかし……何だよそれは。そんなバカみたいな提案が通らないってことは五歳児にだって分かるだろうに、何だってアンブリッジはこのタイミングでこんな下策を仕掛けてきたんだ? 行動が完全に意味不明だぞ。
話している内容を聞く分には、死喰い人から接触を受けたのは間違いないとして……リドルの陣営に転んだということか? いやいや、これだけ不利な現状でわざわざリドルの陣営に? さすがに有り得まい。そこまでのアホが元大臣補佐官ってのは信じたくないぞ。
あるいは、先日逮捕されたウィゼンガモットの副議長との繋がりがあったとか? ……んー、それにしたって露骨すぎるな。仮にそうだとしても、もっと賢い手が打てたはずだ。何もこんな大観衆の中で絶対に通らない提案をする必要はあるまい。
分からん。何もかもが分からん。あまりにも行動に脈絡が無さすぎる。ひょっとして、時間稼ぎそのものが目的なのか? ちんぷんかんぷんで混乱する私を他所に、アンブリッジは少し焦ったような表情で説得の言葉を捲し立ててきた。
「皆さん? 雰囲気に流されてはいけませんよ? ……認めましょう。確かに危険な交渉になるかもしれません。しかし、一人だけです。たった一人、たった一人が危険な橋を渡り切るだけで、残る全員の安全が保証されるのです! ……ほら! 悪くない話でしょう?」
「貴女の提案は理解出来ました、アンブリッジ監査員。貴重なご意見は後ほどこちらで協議させていただきますわ。……では、監督生はそれぞれの寮生を纏めなさい! 各談話室には特殊な防衛魔法が施されることになるので、戦闘が始まった後はもう戻れませんからね。この場に残ろうと考えている者は慎重に選択するように!」
アンブリッジを適当にあしらって指示を出すマクゴナガルに従って、生徒たちが慌ただしく動き始める。そりゃそうだ。死喰い人相手では安全の『保証』などどこにも有りはしないのだから。それを信じるようなバカはさすがのホグワーツにも居ないだろう。
「皆さん! 教師の言葉を信じすぎてはいませんか? たった一人なんですよ? たった一人を『差し出す』だけで、ホグワーツの危機は通り過ぎてくれるのです! どうして私の提案を──」
しかしまあ、この一年間で何も学ばなかったのか? こいつは。ホグワーツは確かにアホの集まりかもしれんが、易々と身内を売るような生徒など存在しないのだ。諦め悪く喚き続けるアンブリッジを尻目に、私もハリーへと説明を語り出す。
「さて、状況は聞いてもらった通りだ。そして、私も迎撃に出ようと思うんだが……キミも来るかい? ハリー。安全は私が保証しよう。だが、命を奪い合う戦場なのは確かなんだ。もしその覚悟がないのであれば──」
「覚悟はあるし、付いて行くよ。去年だって戦ったんだ。今更躊躇ったりはしないさ。」
「んふふ、意気軒昂で何よりだよ。後はもう少し慎重さがあれば満点かな。……それじゃ、とりあえず談話室までは普通に戻るんだ。その後動き易い服装に着替えてから、透明マントで外に出てきたまえ。詳しい説明はその後にするから。……本当はハリーだけでいいんだが、キミたちも付いてくる気だろう?」
ダメ元で後半をハーマイオニーとロンに問いかけてみると、二人は間髪を容れずに肯定の頷きを返してきた。そりゃあそうくるだろうな。だからこそ私はこの二人の友人になったわけだし。
「そんなの当たり前でしょう? 私は大人しく談話室で待っていられるほど聞き分けが良くないの。絶対に迷惑はかけないから、連れて行って頂戴。」
「もう去年みたいに後から話を聞くだけなんて嫌だよ。もしハリーが戦うなら、今度こそ僕は隣に居るべきなんだ。それだけは譲れない。」
「ま、分かってたけどね。それでこそだよ。談話室の前まで私が迎えに行くから、それまでは透明マントから絶対に出ないように。……それと、魔理沙。キミはパチェに付いて行きたまえ。こっちもご指名は魔理沙だけだが──」
「私も行きます!」
だろうな。両手を握り締めて主張してきた咲夜に、苦笑しながら返事を送る。こっちに私が居るように、向こうはパチュリーが一緒なのだ。あいつだって咲夜には甘々だし、安全面は特に問題あるまい。
「結構。それならパチェの指示に従って、絶対に無茶はしないこと。いいね?」
「はい!」
元気の良い返事を返してきた咲夜に微笑んでから、教員たちと話すパチェの方へと向かおうとしたところで……おっと、そこまでやるのか。喚くのを止めてこちらをジッと見ていたアンブリッジが、今まさに杖を抜こうとしているのが見えてきた。
うんうん、いい顔だ。獲物を見定める爬虫類のような不気味な表情。それがドローレス・アンブリッジの持つ本来の表情か。アンブリッジが放つ呪文に対処しようと、テーブルを乗り越えてハリーの前に出た瞬間──
「
あらぬ方向から飛んできた呪文が、振り下ろされる寸前だったアンブリッジの杖を見事に弾く。くるくると回るガマガエルの杖は……マルフォイ? ひどく冷たい表情の青白ちゃんの手元へとスッポリ収まった。驚いたな。つまり、マルフォイがハリーを守ったってことか?
「……どういうつもりなのかしら? ミスター・マルフォイ。」
「それは僕の言うべき台詞では? アンブリッジ監査員。」
憎々しげな表情でマルフォイを睨むアンブリッジ、無感動な灰色の瞳でそれを見返すマルフォイ、そんなマルフォイを驚愕の表情で見つめるハリー、そしてその光景を囁き合いながら眺める生徒たち。……ちょっと面白いな。ここで第一声を放つのには勇気がいるぞ。
とりあえずハリーの安全を確保した私が余裕を持って状況を見物し始めたところで、アンブリッジが沈黙を破るようにその口を開……く前に、ポンという気の抜けた音とともに大きなカエルへと変身してしまった。なんとまあ、容赦ゼロだな。捨て台詞くらい言わせてやれよ。
当然、下手人は空気の読めない紫しめじだ。パチュリーはキョロキョロと両の瞳を動かすカエルを冷たい目で見下ろしながら、マクゴナガルに向かって問いかけを飛ばす。
「まさか今回は元に戻せとは言わないでしょうね? マクゴナガル。」
「歳の所為でしょうか? 何が起こったのかよく見えませんでした。」
『今回は』? つまり、前にもこんなことをやらかしたのか? ムーディのことをとやかく言えんぞ。そんな空々しい会話を繰り広げる二人へと周囲の視線が奪われた隙に、アンブリッジの杖を地面に投げ捨てたマルフォイはスリザリンの集団の方へと戻って行ってしまった。
勝ち誇らず、恩にも着せず、一言も無しか。一体どういう心境の変化があったのやら。ハリーはマルフォイを追いたそうに一歩を踏み出すが、私が肩を掴んでそれを制す。
「後だ、ハリー。キミもマルフォイも今日は死なない。だから、また今度声をかけたまえ。」
「……分かったよ。」
「それじゃあ、他の生徒たちと一緒に談話室に行くんだ。魔理沙と咲夜は私に付いておいで。」
前半をハリーたちに、後半を何故か神妙な表情でスリザリンの集団を見る魔理沙と咲夜に投げかけてから、マクゴナガルと何かを話しているパチュリーへと近付いて行く。ちなみにカエルは……ありゃ、居ないな。どっかに行っちゃったらしい。踏まれないといいんだが。踏んだヤツが可哀想だぞ。
「この際よ。稼働テストだとでも思って、場所には拘らず動かせる全てを動かしましょう。ゴースト、絵画、石像。この城の全てをね。ケンタウルスと水中人には既に報せてあるから、そっちは特に問題ないわ。……それと、防衛魔法は指示通りに起動しろと念を押しといて頂戴。言わなくても分かると思うけど、指示に無いことは絶対にしないように。」
「かしこまりました、通達しておきます。……これは、バートリ女史。お疲れ様です。」
「ご苦労さん、マクゴナガル。さっき言ってた寮の防衛魔法とやらに関してなんだがね、グリフィンドールのそれを起動するのは私が行くまで待ってくれないか? ハリーたちを外に出す必要があるんだ。」
「ポッターたちを? ……承知しました。でしたら、グリフィンドール寮の護りはバートリ女史の指示があってから起動することにいたしましょう。それでは、私は教員たちへの最終確認を行なってまいります。」
うむ、話が早くて助かるな。真剣な表情で頷いたマクゴナガルが去った後、ぼんやり虚空を見つめているパチュリーへと話しかけた。また視点を『飛ばして』いるのだろう。便利そうで羨ましい限りだ。
「魔理沙を連れて行くなら咲夜もセットになるみたいだぞ。この二人のことは任せたからね。……それで、敵の動きは?」
「生意気にも城に近付く前に陣形を整えてるわ。全然上手いこと出来てないみたいだから、敷地の境界に到着するまではもう少し掛かりそうよ。」
「んふふ、出迎えてやろうじゃないか。……盛大にね。」
「そうね。今の死喰い人には他国の魔法使いも多いんでしょうし、学校紹介をしてあげましょうか。ホグワーツがどんな場所なのかを教えてあげないと。」
ああ、その通りだ。私にとっても一応は母校になるのなら、他国のバカどもにナメられるってのは気に食わん。ここらでこの学校がどんな存在なのかを知ってもらおうじゃないか。
久々に見るパチュリーの魔女らしい微笑を前に、アンネリーゼ・バートリもまた皮肉げな吸血鬼の笑みを浮かべるのだった。