Game of Vampire 作:のみみず@白月
「あの、本気で言ってます? それ。……ひょっとして、頭がおかしいんですか?」
気が狂ったとしか思えない提案を放ってきた死喰い人を前に、紅美鈴は呆れ果てた半笑いで問い返していた。『スカーレットの妹』を人質にする? 正気か? 人質になる、じゃなくて?
日付はさっぱり分からんが、とにかく満月の夜。いつものように紅魔館の門前で居眠りをしていたところ、近付いて来る集団の気配で目を覚ましたのだ。人間、巨人、も一つおまけに吸魂鬼。よく分からん集団は館に侵入しようとして、小悪魔さんが起動したパチュリーさんのよく分からん防衛魔法に阻まれ、あたふたと右往左往した末に門前でのんびりする私を見つけたらしい。うーん、お粗末すぎるな。
そして代表らしき中年の死喰い人が、『スカーレットの妹を出せ』と杖を向けながら言ってきたわけだが……自殺行為だぞ、それは。別にお呼びして連れて来てもいいけど、派手な花火になって死んじゃうだけじゃないか? ドッカーンって。
もしかしたら、物凄く迂遠な自殺なのかもしれない。特殊性癖の破滅願望者だとか? 訳の分からない提案を受けて困惑する私に、斑白髪の男は全然状況を理解していない顔で返事を寄越してきた。
「自分の置かれている状況が理解できないか。……まあいい、この女を殺せ。姿くらまし妨害術は展開したな? では、この悪趣味な館を捜索しろ!」
違う違う、理解できてないのはお前の方だぞ。気取った感じで『悪趣味な館』の捜索を命令したリーダー君に従って、背後に並んでいた巨人の一人がのっしのっしと近付いてきたところで……それ見たことか、お前らが騒ぐから遊びに来ちゃったじゃないか。
「おきゃくさまだー! もてなせー!」
門の方から喧しいはしゃぎ声と共に、館中から集まったらしい妖精メイドたちが飛び出してきた。どいつもこいつも久々の『遊び相手』を見つけて満面の笑みだ。これは面倒くさいことになってきたぞ。
「何だ、こいつらは? ピクシー? ……何でもいい、殺せ!」
その数を見て慌てたようにリーダー君が命令を下すが、きゃーきゃー騒ぐ妖精メイドたちは身軽な動きで呪文の閃光を避けると、軽めの妖力弾を敵の集団へと撃ち込み始める。うーむ、酷いな。中々コミカルな状況だ。
「怯むな! 単純な衝撃魔法だ! 落ち着いて対処しろ!」
「魔法じゃないよ、弾幕だよー。」
飛び回る笑顔の小さなメイドたちと、真剣な表情でそれと戦う死喰い人。もう滅茶苦茶じゃないか。緑の閃光を食らってピチュる時すら楽しそうだし、知らぬ者からすれば結構猟奇的な存在なのかもしれない。
「帰ってくださいよ、メイドさんたち。このままだと事態がややこしく……おっと。」
さて、どうしよう。この状況をどうにかするのは至難の業だぞ。殴りかかってきた巨人をカウンターでぶっ飛ばしながら考えていると、今度は背後から聞き慣れたおっとりした声が飛んできた。
「ご苦労様です、美鈴さん。門は私が守っておきますから、突っ込んで遊んできてもいいですよ?」
おお、エマさんだ。彼女も騒ぎを聞きつけて来てくれたのだろう。普段と変わらぬ雰囲気でふにゃりと笑いかけてきたエマさんに、苦笑して頭を掻きながら口を開く。どうやらうずうずしてたのがバレちゃったらしい。
「ありゃ、エマさん。……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。門はお願いしますねー。」
「はーい、応援してますよー。」
まあ、エマさんなら問題あるまい。夜だし、満月だし、ハーフヴァンパイアだし。ニコニコ微笑みながら手を振るエマさんに手を振り返してから……一気に距離を詰めて、先ずは必死に指揮を執っているリーダー君をぶん殴ってやった。悪いが、頭から潰すのは兵法の常道なのだ。もう収拾なんて付かないだろうし、それならもっと混乱してもらおうじゃないか。
「ロドルファス! ……おのれ、アバダ──」
「あーっと、それはイヤです。拒否します。」
賢い私はもう覚えたんだぞ。アバダなんちゃらが緑のやつだ。首から上が無くなったリーダー君を見て、激昂してこちらに杖を向けてきた死喰い人を蹴っ飛ばしてから、今度は巨人を減らすべく周囲を見渡す。驚いたことに妖精メイドたちもそれなりの戦力になってるし、私はこっちを相手にすべきだろう。
ちなみに、辺りを飛び回る吸魂鬼たちは何の役にも立っていない。そりゃあそうだろう。今のこの館には人間など一人も居ないのだから。今も上空で館の敷地内に侵入しようとしているが、見えない障壁のようなものに弾かれるばかりだ。……二階の窓際でしたり顔の小悪魔さんが薄い胸を張っているのを見るに、これも彼女が起動したものらしい。
そしてエマさんに任せた門の付近では、何故か仲間割れのようなことが起きている。恍惚とした表情の死喰い人たちがお互いに杖を向け合って……ふむ、あれも魅了の一種なのかな? なんか、戦い方がお嬢様たちよりヴァンパイアっぽいぞ。吸血鬼三人娘は大抵力技だし。
色々と余計なことを考えつつも巨人の足の甲を踏み砕き、苦悶の声を上げながら屈んだところで近くなった顔をぶん殴っていると、館の方から鈴を転がすような可愛らしい声が響いてきた。戦場にはひどく不釣り合いな、幼くて庇護欲を誘う感じの──
「……キュっとしてー、」
その声の主を認識した瞬間、目の前の全てを放り投げて横に全力で跳ぶ。ひゃー、超こわい。うなじの毛が逆立つのを感じながら着地すると、世界そのものが軋むような異音と共に……いやはや、相変わらずド派手な能力だ。盛大に弾け飛ぶ巨人の姿が見えてきた。
「ドッカーン!」
うーん、『跡形も無い』という表現がピッタリだな。私の近くに居た八メートル近い巨人は、今やビタビタと降り注ぐ細かな肉片になってしまった。それを見た周囲の全員が動きを止めて、ほんの一瞬でこの場を支配した小さな女の子へと視線を送る。きっと彼女から発せられる根源的な力を感じ取ったのだろう。名状し難い圧倒的な力を。
「ごきげんよう、皆様。紅魔館へようこそ! スカーレット家が次女、フランドール・スカーレットが歓迎いたしますわ。」
私、エマさん、妖精メイドたちは当たり前として、死喰い人や巨人、吸魂鬼までもがその動きを止める中、門前に立つ妹様はスカートを摘んでふわりと広げた後、サイドテールを揺らしながら可愛らしくお辞儀した。……やっばいなぁ、起きてきちゃったか。今日は満月なんだぞ。
頰を引きつらせる私を他所に、ニコニコ笑う妹様はこちらに歩み寄りながら声を上げる。子供っぽくて、どこか妖艶。相反する雰囲気が纏う異様さを際立ててるな。
「えーっと……それで、何の御用かしら? 今は私がこの館を預かってるんだけど。」
当然、誰一人として返事を返そうとはしない。何たって今の妹様にはそうさせるだけの迫力があるのだ。口をむにむにさせながら、ちょこちょことキュートな仕草で歩いて来るが……うーむ、怖い。これは説明できない類の恐怖だな。『絶対にヤバい』存在が少女のカタチをしている。それがこの場の全員の感想だろう。
シャラシャラと翼飾りを揺らす妹様は、そのまま手近な死喰い人の下まで歩いていくと、彼のことを真紅の瞳で覗き込みながら質問を投げかけた。対する若い死喰い人はもう既に泣きそうな表情だ。蛇に睨まれた蛙、吸血鬼に睨まれた人間。動きたくても動けないのだろう。
「ねぇねぇ、何しに来たの? ……あれ、泣いちゃうの? 泣いちゃうくらいなら来なきゃよかったのに。どうして来たの? 間違えちゃったの?」
「ち、違う。俺は……命令で、仕方なく。だから、その──」
「ふーん、仕方なかったんだ。どうしよっかなー。それなら許してあげようかなー。迷っちゃうなー。」
震えるか細い声を遮って、人差し指を唇に当てながら考え始めた妹様だったが……いきなり満面の笑みになると、お人形のような手のひらを目の前の哀れな子羊に向けて言葉を放つ。
「やっぱりやーめた! きゅっ!」
輝く笑顔の妹様が小さなおててを握り締めた瞬間、風船が破裂するような音と共に話していた死喰い人が『破壊』される。……敵方にとっては悪夢だろうな。こういう意味不明な存在が一番怖いんだぞ。賢い私は知っているのだ。
正確に何が起こったのかは分からないが、妹様が『目』を潰す瞬間の悪寒は感じられたのだろう。何度経験しても慣れない、あのひどく冒涜的な感覚を。周囲の全員が息を呑むことすら躊躇う中、妹様はコテンと首を傾げながらポツリと呟いた。
「ありゃ? 脚だけ狙ったつもりなんだけどなぁ。やっぱり上手いこと制御できないや。」
隙間妖怪の枷を外して以来、妹様の能力はよく『ブレる』らしい。吸血鬼としての力が制限される昼間はある程度使い熟せるそうだが、夜は意図せぬものまで破壊してしまうようだ。それが満月の夜となれば尚更なのだろう。
だから妹様の登場は私にとってもあまり宜しくない事態だ。それはつまり、意図せず『とっても優秀な賢い門番』を破壊してしまう可能性だって大いにあるということなのだから。私が肝を冷やしている間にも、一つ頷いた妹様は館に向かって大声で指示を出す。
「ま、いっか。……こあー! 外側の障壁も閉じちゃってー!」
その声が終わるか終わらないかといったところで、紅魔館を更に大きく囲むように半透明のドーム型の障壁が現れた。これで私たちと死喰い人は二つの障壁に挟まれる形になったわけだ。残念、もう帰れないからな。吸血鬼の館なんかに来るからこうなるんだぞ。
退路が断たれたのを確認して、ようやく金縛りが解けたかのように動き出した死喰い人たちを見ながら、妹様が愉しそうな笑顔で口を開く。もはや見慣れた吸血鬼の笑みだ。今の表情だけはお嬢様や従姉妹様にそっくりだな。
「美鈴、エマ、競争だからね。死喰い人は一点、巨人と吸魂鬼は二点、妖精メイドはマイナス一点だよ? それじゃあ……はい、スタート! きゅっ!」
言うや否や巨大な『二点』を破壊した妹様に従って、急いで近くに居た『一点』を片付ける。この雰囲気からしてビリに罰ゲームがあるのは間違いあるまい。絶望的な顔をしているエマさんには悪いが、本気でいかせてもらうぞ。
妹様の能力に巻き込まれる『マイナス一点』を横目に、紅美鈴は久々に本気で気力を巡らせ始めるのだった。
─────
「それで、何だってロングボトムが一緒なんだい? 私は同行者を募れだなんて指示を出した覚えはないぞ。」
太ったレディの姿が消えている肖像画の前で、アンネリーゼ・バートリは呆れたように問い質していた。本来ハリーだけでいいはずなのに、どんどん人数が増えてるじゃないか。もう勘弁してくれよ。
大広間で教員たちとの情報のやり取りを終えた後、約束通り談話室の前まで三人を迎えに来たわけだが……そこには透明マントを被ったハリー、ハーマイオニー、ロンの他に、何故かロングボトムの姿があったのだ。ピクニックに行くんじゃないんだぞ。
腰に手を当ててジト目で睨む私の問いに、ハーマイオニーが申し訳なさそうな表情で言い訳を寄越してくる。
「つまり、その……出て行こうとしてるところを見られちゃったのよ。そしたらネビルが、足手纏いにはならないから自分も連れて行って欲しいって言い出して。どうしても一緒に行きたいらしいの。」
「残念ながら、私の返事はノーだ。どれだけの覚悟があるのかは知らないが、決意と現実には天と地ほどの差があるのさ。ロングボトム、悪いが今回は──」
「お願いだよ、アンネリーゼ。僕も連れて行って。……何かあったら見捨ててくれて構わないから。邪魔だけは絶対にしないよ。」
私の言葉を遮って、ロングボトムは必死の表情で説得を仕掛けてきた。……そもそも、何でそこまで同行したがるんだ? 安全な談話室に居ればいいだろうに。面倒な状況に足をコツコツと鳴らしていると、今度はハリーがおずおずと話しかけてくる。
「あのさ、連れて行ってあげてもいいんじゃないかな。ネビルも最近は頑張ってたし、彼にだって戦いたい理由はあるわけでしょ? ……ほら、ホグワーツ特急で聞いたような理由が。」
「キミたちはいまいち理解してないようだがね、私たちは今から殺し合いに行くんだぞ? ハイキングついでの死喰い人見学ツアーに行くわけじゃないんだ。……私はキミたち三人を守り切る自信があるし、そのつもりでいるが、ロングボトムまでは約束できない。いざとなれば本当に見捨てるよ? それでも良いのかい?」
実際のところ、もしハリーたちに危険が生じるとなれば私は迷いなくロングボトムを切り捨てるだろう。ここ数年で多少判断が甘くなった自覚はあるが、それでも優先順位を違えるほどには耄碌しちゃいないのだ。
冷たい表情で言い放った私に、後ろの三人は若干怯んだものの……当のロングボトムは一歩を踏み出しながら頷いてきた。ああもう、面倒くさいことになっちゃったな。
「もちろんそれで構わないよ。もしそうなっても全部僕の責任だ。……頼むよ、アンネリーゼ。」
「……何があろうと私の指示に従うと約束できるかい? 迷わず、瞬時にだ。」
「出来る。絶対に従うよ。」
真っ直ぐに首肯してくるロングボトムを見て、大きなため息を吐きながら額を押さえる。そうは言っても、実際にロングボトムを見捨てればアリスあたりに怒られてしまうだろう。当然、ハリーたちも良い気はすまい。である以上、連れて行くならなるべく守り切る必要があるわけだ。
どんどん厄介になる状況にうんざりしつつも、ケ・セラ・セラの気分で口を開く。まあ、今のここはパチュリーの城なんだ。なるようになるさ。ならなかったらその時考えよう。
「分かった。……だが、全員忘れないようにね。私が隠れろと言ったら隠れる。走れと言ったら走る。どんな疑問があっても即座に実行するんだ。それだけは約束してくれ。」
私の言葉に全員が頷くのを確認したところで、廊下の奥からコツコツと規則正しい足音が近付いてきた。おや、我らが副校長閣下のお出ましか。例の防衛魔法とやらを起動しに来たのだろう。
「バートリ女史、もうよろしいですか?」
「ああ、時間を取らせて悪かったね。もう大丈夫だよ。」
「では、こちらへ。」
歩み寄ってきたマクゴナガルは一度ロングボトムの姿を怪訝そうに見るが、結局は何も言わずに私たちを廊下の先へと誘導し始める。ロングボトムの方も私への対応にほんの少しだけ疑問げな表情になったものの、やがて納得するかのような苦笑を浮かべて付いてきた。それぞれ心中で何らかの結論を導き出したようだ。
そのままマクゴナガルに従って談話室からかなり離れた場所まで移動したところで、くるりと振り返った副校長どのは複雑に杖を振りながら長ったらしい呪文を唱え出す。おお、今まで見た中で一番『魔法使い』っぽい光景だな。逆に新鮮だぞ。
「……凄い。全然理解できないわ。とっても古い、複雑な魔法だってことが分かるくらいね。」
「僕も全然理解できないよ。初めて意見が一致したな、ハーマイオニー。」
ロンの肩を竦めながらのコソコソ話が耳に入ってきたところで、ようやく呪文を完成させたらしいマクゴナガルが大きく杖を振ると……一瞬のうちに談話室前の廊下が紅蓮の炎に包まれた。不思議な炎だな。廊下にある物は何も燃やさず、ただこの場を守るかのように轟々と渦巻いている。
「お見事、マクゴナガル。」
何だか知らんが、大した光景じゃないか。ぺちぺちと手を叩いて褒めてやると、マクゴナガルは苦笑しながら返事を返してきた。
「ノーレッジさんの見つけ出した魔法を起動しただけですよ。やり方も全て教えてもらったものですし、私の力ではありません。」
「だからと言ってそこらの木っ端に起動できる類の呪文には見えないけどね。……まあ、何でもいいさ。それじゃ、私たちは渡り廊下の方に行ってくるよ。」
「どうか四人をお願いいたします、バートリ女史。」
「任せておきたまえ。」
深々と頭を下げてくるマクゴナガルもまた、本当は生徒たちを戦場になど行かせたくはないのだろう。だが、ここらできちんと経験しておかねばなるまい。少なくともハリーは実際の戦いを知るべきだ。……子守付きの戦いだが。
未だ頭を下げ続けているマクゴナガルを背に、一階への階段がある方へと歩き出す。普段は見せぬ副校長の姿を見て何かを感じ取ったのか、四人は更に真剣な表情に変わって後ろを付いてきた。
「それで、何処に行くの? 渡り廊下って言ってたけど。」
「西側の城外に通じる渡り廊下さ。ほら、競技場に行く時に使うやつだよ。パチェが言うにはあそこに敵の別働隊が……おっと、悪童たちじゃないか。」
ハリーに答える途中で目に入ってきた姿を見て思わず呟くと、向こうで杖を構えて何かをしていた双子とジョーダンも驚いた表情で近寄ってくる。成人組ももう動いてたのか。
「よう、アンネリーゼ! そっちは何を……ロン? 何してるんだ、お前。何で出てきた!」
「このバカ! 寮に居ろって言っただろうが!」
おやおや、何だかんだ言ってもお兄ちゃんだな。挑戦的な笑みから一変、心配そうな顔になって駆け寄ってくる双子へと、ロンが決然とした表情で返答を送った。
「ハリーも、リーゼも戦うんだ。僕も戦う。当たり前のことだろ?」
「何が当たり前なんだよ。……そりゃあ、じっとしてられない気持ちは分かるけどな。お前はまだ十六歳だ。戦いに参加するような年齢じゃないはずだぞ。」
「成人まではあとたった一年だろ? ……僕だってバカじゃない。実力が足りてないのは分かってるさ。でも、四人で一人分くらいにはなれるはずだ。」
「だがな、ロン、お袋だって──」
背後で繰り広げられるウィーズリー家のやり取りを尻目に、苦笑しながらそれを見ているジョーダンへと話しかける。双子には悪いが、もう寮には戻れん。だからどうにもならんのだ。
「やあ、ジョーダン。成人組は何をしているんだい?」
「ん? ああ、防護魔法を城の色んな場所から飛ばしまくってるのさ。『ムラ』が出来ないようにってフーチに言われててな。」
「ふぅん?」
言いながらジョーダンが指差した窓の外を見てみると、城のあらゆる場所から白い光の玉が空へと昇っていく光景が見えてきた。光は城を包む巨大な膜のようなものに吸い込まれて、それに従って膜が更に大きくなっているようだ。
「こんなこと言ってる場合じゃないと思うんだけど……でも、綺麗ね。」
「まあ、そうだね。塵も積もれば、ってやつかな。」
ホグワーツを包む、どデカいシャボン玉みたいだな。ポツリと呟いたハーマイオニーに頷いていると、双子がロンへと注意を送っている声が聞こえてくる。どうやら説得は終わったらしい。
「お前もウィーズリーの男ってことだな。……いいか? 絶対にアンネリーゼから離れるなよ? 何があっても、何を目にしてもだ。」
「俺たちはお前の死体をお袋に届けるなんて絶対に、絶対に嫌だからな。それこそ死んだ方がマシだ。だから、死んでも死ぬな。それだけは守ってくれ。」
「分かってる。……兄貴たちこそ無茶しないでくれよ? 死喰い人は悪戯を仕掛けるべき相手じゃないんだ。さすがにそのことは分かってるよな?」
「なに、俺たちだってジョークの通じないヤツには仕掛けないさ。あんなヤツらに俺たちの悪戯グッズを使うのは勿体無いしな。」
最後にフレッドが戯けるように言うと、ロンはぎこちない笑顔で頷きを返した。何とも言えない空気が場に降りる中、私がそれを破るように声を上げる。悪いが、時間が押しているのだ。現地で説明する時間も必要だし、急がねば。
「それじゃ、行こうか。キミたちも頑張りなよ、悪童諸君。」
「ロンを……っていうか、四人のことを頼むぞ、アンネリーゼ。」
「んふふ、今日は頼まれるのが多い日だね。分かってるさ、任せておきたまえ。」
ひらひらと手を振りながら背中越しに返事を放つと、私に続いて五年生四人も口々に挨拶を交わしてから歩き出す。そのまま一切動かなくなっている中央階段を下り始めたところで、ハーマイオニーが小声の疑問を寄越してきた。
「ねえ、リーゼ? 談話室の前で『殺し合い』って言ってたけど、あくまで比喩表現なのよね? だから、その……私たちは殺したりはしない。そうでしょう?」
「さて、どうかな。私としては、死の呪いを撃ってくるヤツには死の呪いで返すべきだと思ってるけどね。……ただまあ、キミたちはそうじゃないんだろう? なら、無理にやらせたりはしないよ。武装解除やら失神やらで十分だ。」
「死の呪いは許されざる呪文よ? そりゃあ、生命の危機には使用が認められる場合もあるけど……でも、基本的には使うべきじゃない呪文だわ。他に選択肢があるならそっちにすべきよ。」
「誰もがそう思ってるわけじゃないってことだよ、ハーマイオニー。呪文はただ呪文なんだ。そこに意思なんかない。結局は単なる手段に過ぎないのさ。」
一階の廊下を進みながら言ってやると、ハーマイオニーは難しい表情で黙り込んでしまう。……ま、『ホグワーツ的』な言葉じゃないのは確かだろうな。こればっかりは染み付いた考え方の問題だ。どっちが正しいというわけでもない。
私の言葉を受けて何かを考えている様子のハリーたちと共に西側の渡り廊下に到着すると、先程よりも厚くなっている障壁の向こうに夜の校庭が見えてきた。……さて、あとは相手を待つ前に注意事項を説明しないとな。
「それじゃ、最後の説明をするよ。……思考回路を切り替えたまえ。これから始まるのは戦いなんだ。迷えば死ぬからね。」
真剣な表情を浮かべて頷いてくる四人を前に、アンネリーゼ・バートリは諸々の『注意事項』を語り始めるのだった。