Game of Vampire 作:のみみず@白月
「まあ、おれに学生生活ってのは向かんかったっちゅうことです。それに……お二人とダンブルドア先生がおらんかったら、森番としてホグワーツに残ることも出来んかったでしょう。」
新たに建てられた禁じられた森の近くにある小屋で、アリス・マーガトロイドは二人の友人とお茶を楽しんでいた。
「私は全然納得できないけどね! あのくそったれの冷血野郎とおまぬけ校長閣下め! 絶対に後悔させてやるから。」
「落ち着きなさいよ、テッサ。ここで怒ってもどうにもならないでしょう?」
五年生のあの事件は、私たちの生活に大きな変化をもたらした。
あの医務室での言い争いの後、私たちの必死の抗議も虚しく、ハグリッドには退学に加えて杖を折られるという重い処分が下された。
ダンブルドア先生がホグワーツの森番という職を斡旋してくれたからよかったものの、ハグリッドは魔法使いとしての人生を失ったようなものだ。
当然テッサはリドルを忌み嫌うようになったし、リドルも私たちと距離を置くようになった。私だって、今はリドルとまともに話す気にはならない。
どう考えてもまともな処分ではなかったのだ。直接事件に関わっていない学生の中でも、勘のいい者はハグリッドがスケープゴートにされたことに気付いている。
それでも大々的に文句が出ないのは、事件の犯人が必要だったということなのだろう。あの後すぐに襲撃が止んだのが、その論調に拍車をかけたのかもしれない。
私たちが黙り込んで考えているのを見て、ハグリッドが元気付けるように話しかけてくる。我ながら情けないことだ、これじゃあ立場が逆ではないか。
「おれなんかのために怒ってくれるのは嬉しいですけど、お二人は勉強に集中してくだせえ。去年だってあの騒ぎでフクロウ試験はきちんと受けられなかったって聞いちょります。」
「あら? 私のほうは問題ないわよ。」
「魔法薬学以外は、でしょ?」
テッサの突っ込みで仏頂面になってしまう。むう、悔しいがその通りだ。いいではないか、他は全部優か良だったのだから。
「そういうテッサだって、可がいくつかあったんでしょう?」
「私は端っからそうなんだからいいのよ。やり直したって同じ結果になるもんね。」
「そういう問題じゃないと思うけどね……。」
リドルとの距離が離れてしまった代わりに、テッサとの距離は近くなった気がする。それだけが、事件の結果で唯一よかった点かもしれない。
「ほれ、お二人とも、もう戻ったほうがいいんじゃねえですか? 午後の授業が始まっちまいます。」
ハグリッドの言葉を受けて壁の時計を見ると、思った以上にお喋りを楽しんでいたらしい。あと十数分で授業が始まってしまう時間だった。
「へ? ……やっば。行こう、アリス!」
「そうね、紅茶美味しかったわ。また来るわね、ハグリッド。」
私が立ち上がってハグリッドに別れを告げると、先にドアを開いてこちらを急かしていたテッサも、手を振って彼にさよならをする。
「じゃあねー、ルビウス。」
「はい、またいつでも来てくだせえ。」
ハグリッドの声を背中に受けながら、彼の小屋から出て二人で急いで城へと走る。次の授業であるルーン文字の教室は一階だ、なんとか間に合うだろう。
湖の大イカが日向ぼっこしているのを眺めながら、城の大きな玄関へと小走りで駆けていく……ううむ、テッサには余裕があるのだが、私は息切れすること甚だしい。ちょっとは体を鍛えるべきかもしれない。
城に入ったところで、何やら人集りがあるのが見えた。何かと思って目を凝らすと、スリザリン生を中心とした集団……『リドル軍団』のようだ。彼の取り巻きは年々増え続け、今や他寮の生徒をも取り込んで、ちょっとした規模の集団になっている。
テッサもそれを発見したらしく、案の定嫌そうな顔で口を開く。
「ちぇ、嫌なもん見ちゃったよ。」
「行きましょう、見つかっても気まずくなるだけよ。」
離れた位置を通り過ぎようとするが……ダメだ、見つかった。おまけに無視すればいいものを、人集りの中からリドルが出てきてこちらに向かってくる。どうなるかは分かっているだろうに、何だって近付いてくるんだ。
リドルは取り巻きを目線だけで下がらせて、ぎこちない笑顔で話しかけてくる。
「やあ……二人とも。その、元気そうで何よりだよ。」
「そっちも元気そうね、冷血人間。大好きなホグワーツ特別功労賞のトロフィー磨きはもういいの?」
案の定テッサは硬い声でどぎつい皮肉を返す。ほら見ろ、こうなった。私は止めてやらないぞ、リドル。
多少怯んだ様子のリドルだったが、苦笑しただけで辛抱強くテッサに話しかけ続ける。
「ヴェイユ、君がまだ怒っているのはよく分かったよ。ただ……これだけは覚えておいてくれ、僕は信念に従って行動しただけなんだ。」
リドルが何か弁明しているが、テッサの顔を見れば効果がなかったことは一目で分かる。むしろ彼女は怒りを増したようで、冷たい声でリドルに対して怒りをぶつけ始めた。
「リドル、私は勿論ルビウスに対する処分の件に関してだって怒ってる。でも、一番気に食わないのは……あんたはルビウスが犯人だとは本気で思ってないってことよ。」
テッサの言葉に、リドルが驚いたような表情に変わる。テッサの放った言葉は私にもよく理解できるものだ。
リドルが本気でハグリッドを犯人だと思っているならまだよかったのだ。それなら私たちは、友達として頑張って説得していただろう。しかし……彼がそう思っているとは、とてもじゃないが思えない。
「ルビウスが無実だって知ってたくせに、あんたは彼を退学に追い込んだのよ。私はそれが気に食わないの。」
「そんなことはない、僕は本気で彼が犯人だと思っているよ……今でもね。」
悲しそうな顔で言うリドルだったが、それが演技であることが私には理解できた。テッサも同様だろう。何年友達をやってきたと思ってるんだ。
「テッサの言う通りだわ、リドル。貴方がそんなつまらない嘘を吐き続ける限り、私たちは貴方と話す気にはなれない。」
「マーガトロイド、僕は……。」
何かを言いかけたリドルだったが、結局それを言葉にすることはなく、苦笑しながら別の台詞を口にした。
「分かった、どうやら声をかけたのは失敗だったらしいね。それじゃあ……失礼させてもらうよ。」
取り巻きを引き連れるリドルが離れて行くのを見ながら、テッサに声をかけようと横を向くと、彼女は悲しそうな顔でリドルの背中を見つめていた。
彼女はしばらく去っていくリドルを見つめていたが、やがてこちらに向き直ると、悲しそうな表情でポツリと呟いた。
「……友達だと思ってたんだ。でも、それは私だけだったのかな? よく分かんなくなっちゃったよ、アリス。」
「私も……分からないわ。」
テッサの手をギュッと握りしめながら言葉を返す。何を言えばいいか分からなくて、結局答えは出せなかった。
弱々しく握り返される手のひらにテッサの温かさを感じながら、アリス・マーガトロイドは授業のことも忘れて、遠ざかって行くリドルの背中をずっと見つめていた。
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「うぅー……やだ!」
本日何度目かの却下を受けているレミリアを眺めつつ、アンネリーゼ・バートリは己のラフ画に修正を加えていた。
本日、二つの吸血鬼の住処に住む人外たちが紅魔館のリビングに勢揃いしているのは、他でもない、あの大問題の解決のためであった。
『賢者の石、ダサすぎ問題』である。
当初首飾りとして作る予定だったそれは、完成図を見たフランの強硬な反対によって没案となってしまった。まあ、気持ちは分かる。誰だってあれを身に着けて歩き回りたくはないだろう。
想像してみて欲しい、十数個の手のひらサイズで色とりどりな石ころを、首からジャラジャラと下げているフランの姿を。
フランの言葉を我儘だと断じることが出来なかった我々は、こうして無難なアクセサリーを考案すべく、この紅魔館へと集結したというわけだ。
しかし、事態は混迷の様相を呈している。指輪案は首飾りよりも酷いことが小悪魔によって証明されたし、パチュリーの出したベルト案はフランにはゴツすぎた。
美鈴の洋服に取り付けるという発想は悪くなかったように思えたが、実際にダミーで試してみると、珍妙な宝石の妖怪みたいな見た目になってしまったのだ。
そして今、レミリア渾身のマント案も却下された。確かにあれはダッサいし、何より邪魔だろう。絶対に引っかかって転んでしまう。
私も一応バングルのような形のものを書いてはみたのだが……腕を覆う武器のようになってしまった時点で破却した。あれを見せるなんて私のプライドが許さない。
「うぅ……フラン、一生こんなのを着けて生活するの?」
哀れなフランが首飾りの試作品をつまみながら嘆いている。私なら絶対に嫌だ。
「だ、大丈夫よ、フラン! 私がカッコいいのを考えてあげるから!」
「あっそ。」
フランを励ますレミリアがいつものように無視されているのを尻目に、美鈴がパチュリーに話しかける。
「もうこれ、賢者の石やめちゃったほうがいいと思うんですけど……それかもうちょっと小型にするとか。」
「あのね、これでもかなり小型に改良してあるのよ? これ以上小さくすれば演算能力が足りなくなっちゃうわ。」
「じゃあ……逆にでっかくして一個に纏めるとか?」
「そうすると、妹様は大岩みたいなのを背負いながら生活することになるわよ。大体、並列演算のために数を多くしてるって理由もちゃんとあるんだから、この大きさでこの数っていうのは決定事項なの。」
「じゃあもう無理じゃないですかぁ……。諦めましょうよ、妹様。」
弱気に提案する美鈴を、フランが睨み付ける。絶対に譲る気はないらしい。
「ヤダもん! 絶対にイヤ! もしそうなったら、紅魔館の制服を同じのにするからね。」
「それは……嫌ですね。」
顔を引きつらせる美鈴の後ろで、フランの言葉に真っ青になったレミリアが猛然とペンを走らせ始める。余程に嫌なのだろう、その表情は真剣そのものだ。
紅魔館の危機に直面しているレミリアを眺めつつ、私も何か提案しないとなとペンを持ち直していると、視界の隅でうんうん唸っている小悪魔が目に入った。
「こあ、何か思い付いたのかい?」
「うーん、リーゼ様、これってどうなんでしょう? 魔界じゃ結構流行ってたんですけど……。」
小悪魔が差し出してきたラフ画を見ると……フランの翼に、賢者の石が垂れ下がっているような絵が描かれている。片方につき七個ずつ。確かにこれなら必要数に届くだろう。
それに……ふむ、悪くないように思える。こうして見ると、普通のアクセサリーだと悪趣味に思えてしまう色とりどりの賢者の石が、むしろ神秘的に見えるほどだ。
これはいい案かもしれない。……というかもう決まって欲しい。私の絵心の無さを露呈させたくはないのだ。
「いいんじゃないかな、これは。お手柄かもしれないよ、こあ。」
「えへへー。妹様も気に入ってくれればいいんですけど。」
私が笑顔で肯定してやると、自信がついたらしい小悪魔はフランの是非を問うために、ラフ画を彼女の下へ運んで行った。しかし、魔界じゃこれが流行っているのか。あっちの流行は相変わらずよく分からん。
「ぉお……。かわいいかも! これならヘーキだよ!」
聞こえてくる声を聞く限り、フランはどうやら気に入ったようだ。これでようやく解決かと思っていると、意外なところから横槍が入ってくる。
「ダメ、絶対にダメよ! こんなの……不良のファッションだわ! フランがグレちゃうじゃない!」
レミリアだ。おバカな姉的には、あれは不良のファッションらしい。ピアス的な感じなのだろうか? 喚き散らすレミリアを冷たい目で見ながら、フランが氷のような声で言い放つ。
「うっさいなぁ、もう決まったの。バカみたいなマントより百倍マシだよ。」
「ああっ、フラン、そんなに口が悪くなっちゃって。……ちょっと小悪魔! フランを不良に導くのはやめて頂戴!」
「ひゃあぁ、私にそんなつもりはありませんよー!」
レミリアが手を上げて威嚇しながら小悪魔を追いかけ回す。フランは小悪魔を応援して、パチュリーは呆れ、美鈴はケラケラ笑っている。
慌ただしくなってきたリビングを眺めながら、自分の絵が吊るし上げられる危機を救ってくれた魔界の流行とやらに、アンネリーゼ・バートリは深く感謝するのだった。