Game of Vampire   作:のみみず@白月

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イタリアン・ナイトクラブ

 

 

「どうしてこう、悪いヤツの溜まり場ってのは総じて小汚い場所なんだろうね? 綺麗好きな小悪党が存在したっていいだろうに。」

 

尤も、品格を理解できないからこそ小悪党止まりなのかもしれんが。薄暗いナイトクラブの店内に踏み込みながら、アンネリーゼ・バートリは呆れたため息を零していた。外観から想像は付いていたが、やっぱり好んで来たいとは思えない場所だな。

 

香港旅行の二日目。昼間に四人で観光しつつも情報収集をした後、アリスと咲夜をホテルに戻して美鈴と二人でこの場所を訪れたのだ。……うん、正解だったな。色取り取りの照明に照らされる店内には半裸の女がウロウロしてるし、こんな場所に咲夜を連れて来るわけにはいかんぞ。

 

ちなみにこの店の建っている場所は、ホテルのコンシェルジュに『絶対に近付くべきではない』と警告された地区の一つである。通りにはピンク色のネオンが瞬き、並ぶ出店では人間の手足なんかを普通に取り扱い、路地裏にはボロ切れを着た欠損だらけの死体が転がっているような……まあ、香港自治区の中でも深い場所というわけだ。

 

不規則に置かれた丸テーブルと、それを囲む安っぽいソファ。広い店内に充満するクスリの臭いに、響き渡る怒声と嬌声。中央のステージでは服だか紐だか分からんような物を着ているバカ女が踊り、それに間抜けな男どもが群がっている。うーむ、小悪魔だけは喜びそうな場所だな。

 

この世の掃き溜めのような光景を見て嘆息する私へと、さっきから声をかけられまくっている美鈴が返事を寄越してきた。

 

「ありきたりな場所ですねぇ。こういう店はどの時代も……あ、結構でーす。連れが居ますので。子連れなんですよ、私。」

 

「ぶっ飛ばすぞ、美鈴。もう少し賢い断り文句を考えたまえよ。」

 

「いやぁ、さすがに面倒くさくなってきまして。モテる女は辛いですね。」

 

だからって子連れはないだろう、子連れは。へらへら笑いながら肩に置かれた男の手を捻っている美鈴を尻目に、疲れた気分で首を振ってから店の奥へと歩き出す。おお、可哀想に。手首が一回転してるぞ、そいつ。

 

昼間の情報収集の甲斐あって、このナイトクラブの主人がある程度の影響力を持った人物ってのは分かったのだが……本当なのか? 私の経験から言えば、影響力を持った人物というのは須らく体面にも拘るもんだ。こんな店を『顔』にするなど有り得んぞ。

 

「それで、どうします? 店の人に聞いてもまともな答えが返ってくるとは思えませんけど。……そもそも、どれが店員なんですかね? あの床で寝てる人とか?」

 

背後の悲鳴を無視しながら歩調を合わせてきた美鈴に、肩を竦めて答えを返した。私はもう店の有様を見てやる気半減だ。さっさと終わらせようじゃないか。

 

「なぁに、とにかく入っちゃいけないような場所を目指せばいいのさ。小悪党ってのは大抵店の奥で踏ん反り返っているもんだしね。レミィだって紅魔館の一番奥を自室にしているだろう? あれと一緒だよ。」

 

「まあ、確かにそんなイメージはあります。お嬢様が小悪党だったらそれはそれで怖いですけどね。……ちなみにその場合、大悪党なのは誰なんですか?」

 

「決まってるだろう? この私さ。」

 

至極適当な相槌を放ちながら見えてきた大きなドアに入ろうとすると、その前に立っていた巨漢がずいと進路を塞いでくる。ほら、当たりだ。簡単じゃないか。

 

『ここから先は紹介状が必要だ。』

 

なるほど、さっぱり分からん。私に対して早口の謎言語で何かを言ってきた太っちょを横目に、隣の通訳妖怪へと質問を送った。『国際語』たる英語を話せよ、アホめ。私がアジア系に見えるのか?

 

「なんて言ってるんだい?」

 

「えーっと、この先に進むには紹介状とやらが必要みたいです。どうします?」

 

「いつも通りにやるだけさ。」

 

美鈴にそう言ってから刺青だらけの太っちょに向き直って、胡乱げな表情で見ているその瞳を覗き込む。不法侵入は吸血鬼の十八番だ。分かり易いように簡単な単語で話してやるから、ありがたく私の魅力にひれ伏すがいい。

 

「私は、この先に、進みたいんだ。だからそこを退きたまえよ、下っ端君。」

 

おやおや、バウンサーまで質が低いときたか。私の魅了で即道を空けた太っちょに呆れながらも、美鈴が開けてくれた分厚いドアを抜けてみると……んー、こっちもこっちで微妙だな。見えてきたのは先程の店内よりかはグレードの高い、高級客用らしきラウンジだった。

 

「あちゃー、こっちもありきたりです。さっきの店の奥にこれがあることといい、独創性がゼロですね。つまんないですよ、これじゃあ。」

 

「心底同意するよ。」

 

バーを中心とした円形の空間には一人掛けの黒いソファとガラスのテーブルが並び、一つ一つのテーブルは赤いビロードのカーテンで仕切られている。なんとまあ、悪党気取りの小金持ちが好みそうな内装ではないか。

 

ここまでくると本格的にハズレな気がしてきたな。バカバカしい気持ちでラウンジを見回す私たちに、胡散臭い笑顔の黒ベストの男が話しかけてきた。先頭の私を見て一応は英語を選んだようだが、訛りが強すぎて聞くに堪えんぞ。

 

「いらっしゃいませ、お客様。お席にご案内させていただきます。」

 

「勝手に座るから結構だよ。それより、店の主人を呼んできてくれ。用があるんだ。」

 

再び瞳を紅く光らせて言ってやると、ウェイターらしき男はこっくり頷いて店の奥へと向かって行く。それを確認しながら適当なソファにどっかり座り込んだところで、私の後ろに立った美鈴が提案を寄越してきた。

 

「私、この店はハズレだって方に今日の夜食の選択権を賭けます。昼間は蟹を食べ損ねちゃいましたし。」

 

「私もハズレだと思うから賭けにならないぞ。……まあ、夜食はキミに任せるよ。蟹には賛成だからね。」

 

「えへへ、それなら無問題です。早く終わらせて食べに行きましょうよ。」

 

「それにも賛成だ。」

 

レミリアやゲラートもそれぞれの方向から香港のことを探ってくれているし、むしろそっちに期待すべきなのかもしれないな。この街は外から見ると面倒な場所なのだろうが、こんなもん内側からだって探るのは至難の業だぞ。

 

どこまでもややこしい街に鼻を鳴らしていると、店の奥からこちらに近付く五人の男の姿が目に入ってくる。真ん中を歩く三十代ほどの若い男がこの店の主人に違いない。何せアホみたいな紫のスーツを着ているのだから。ジャラジャラと金のネックレスをぶら下げているのが『間抜け感』を助長してるぞ。

 

そのまま私たちの居るテーブルの目の前までたどり着いた紫スーツは、私の背中の翼を見て一瞬怪訝そうに目を細めると、やや畏まった様子で声をかけてきた。……ふぅん? 一流ではないが、三流でもないわけか。発せられた言葉も割と流暢な英語だ。黒髪ながら顔付きがアジア人のそれではないし、もしかするとこっちの人間じゃないのかもしれない。

 

「お初にお目にかかります、お客様。この店を取り仕切っております、サルヴァトーレ・マッツィーニと申します。何かご用がお有りとのことでしたが。」

 

「なるほどね、ピザ屋の出身か。それならこの退屈な内装にも納得がいくよ。貧乏人が一山当てて、生意気にも他国で店を出してみたってわけかい?」

 

「えぇ……。」

 

私のいきなりの挑発を聞いた背後の美鈴から呆れたような吐息が漏れるが、構わず薄っすらと笑みを浮かべて脚を組む。レミリアにレミリアなりの交渉術があるように、私にも私なりのそれがあるのだ。先ずは突っついて反応を見させてもらうぞ。

 

果たしてマッツィーニは……むう、やはり与し易いバカというわけでもないらしい。いきり立って前に出てきた護衛らしき大男たちを手で抑えると、ニコニコ微笑みながら返事を返してきた。

 

「恥ずかしながら、その通りでして。成り上がりでは内装も上手く整えられませんでした。やはり本場の方から見ると違いますか。」

 

「粗が目立つと言わざるを得ないね。それらしい安物を使うくらいなら、無い方がまだマシだと思うよ。……まあいい、本題に入ろうか。私はアンネリーゼ・バートリだ。今日はちょっと聞きたいことがあってキミの店を訪れたのさ。」

 

「ご意見は参考にさせていただきます。……私にお答え出来ることなら喜んで答えさせていただきますが、その前にこちらからも一つよろしいでしょうか?」

 

「構わないよ。何だい?」

 

何を知りたいのかは大体分かるけどな。首を傾げて聞いてやれば、マッツィーニは私の翼に目をやりながら問いかけを放ってくる。やっぱりそこが気になるか。

 

「バートリ様は『紅のマドモアゼル』と何かご関係がお有りで? ……いや、もしかしたら無礼な質問なのかもしれませんが、あの方の関係者に失礼があったとなれば私の首が物理的に飛びかねません。この哀れな成り上がりを安心させてはいただけませんか?」

 

「レミィとは幼馴染だよ。私もイギリスの吸血鬼でね、香港には旅行で来てるんだ。」

 

その言葉がマッツィーニに届いた瞬間、ほんの刹那の間だけ彼のブラウンの瞳が打算の光を宿した。瞬きする間もなく柔和そうな笑顔に戻ってしまったが……ふん、分かり易いじゃないか。私がレミリアとの繋がりを持つという事実は、この男にとってかなり魅力的に映ったようだ。

 

「なんと、幼馴染。そうでしたか。となると、私は既に大変な失礼をしてしまったようですね。本来ならばこちらからご挨拶に伺うべきだというのに、こんな場所までご足労いただくなど……本当に申し訳ございませんでした。」

 

後ろ手で周囲の護衛を更に下がらせたマッツィーニは、仰々しくお辞儀しながら謝罪を送ってくる。そりゃあポーズも多分に含まれているだろうが、レミリアがこの男にとって重要だというのは嘘ではないのだろう。

 

レミリアの影響力が薄い香港自治区に店を構えているのにこの態度ということは、つまりは本国……イタリア魔法界との繋がりを保っているということだ。うーん、向こうから派遣された雇われか? 香港とイタリアを結ぶ、裏側の外交官ってやつなのかもしれない。

 

意外にも当たりを引いたのかもしれんぞ。頭を下げ続けているマッツィーニに頷いてから、対面の席を手で示す。

 

「別に怒っちゃいないさ。私はそこまで狭量じゃないよ。それより、座りたまえ。そのままだと話が出来ないだろう?」

 

「では、失礼して。……お飲み物は如何いたしましょうか? 当店では生き血等もそれなりの種類をご用意できますが。」

 

「ふぅん? 珍しいね。そういう客もよく来るのかい?」

 

「ありがたいことに、他種族の方々からもご贔屓を賜っております。その辺りの事情は香港に来て驚いたことの一つですね。ヨーロッパではあまり見ない種族も、ここではそれほど珍しくありませんので。」

 

まあ、そうだろうな。そのことは昼間の観光中に嫌ってほど実感したのだ。角やら羽やらが引っ付いているならまだマシな方で、明らかに人間のカタチをしていない生き物も普通に通りを歩いていた。

 

「面白い街だよ、まったく。ヨーロッパの人間至上主義者どもを連れて来たら面白いことになりそうだね。」

 

適当な返事を返しながら、差し出されたメニューに目を通してみると……こりゃ酷いな。ずらりと物騒なメニューが並んでいる。ピクシーの素焼きに、テボの熟成肉、それに水中人の肝臓だと? こんなゲテモノ料理を誰が食うんだよ。私なら絶対に嫌だぞ。

 

私の呆れ顔の理由を汲み取ったのだろう。マッツィーニは苦笑しながら詳しい事情を教えてくれた。

 

「当初はごく平凡な料理しか扱っていなかったのですが、お客様のご要望で徐々に追加されていきまして……今では随分と複雑なメニュー表になってしまいました。ここまでくると仕入れも一苦労ですよ。」

 

「普通なら仕入先が無いと思うけどね。それが存在してるってのが香港らしいよ。……私は普通の紅茶で結構だ。美鈴はどうする? 何か頼んでもいいぞ。」

 

「あれ、いいんですか? それならこれと、これと……あとこの、水中人の肝ってのもお願いします。何事もチャレンジですしね。」

 

「……じゃあ、それで頼むよ。」

 

食性は種族それぞれだということか。隣の席のソファを持ってきて、食べる気満々でテーブルに着いた美鈴をジト目で眺める私を他所に、マッツィーニはウェイターに注文を伝えてから話を切り出してくる。

 

「それで、ご質問がお有りとのことでしたが。」

 

「質問というか……要するに、香港の顔役と話したいことがあってね。誰か心当たりはないかい? 紹介は出来なくても構わないから、なるべく影響力のある人物を頼むよ。」

 

紹介状が不要なのはさっき証明したはずだ。私がここに来た目的を伝えてみれば、マッツィーニはちょっと困ったような表情になって返答を寄越してきた。

 

「それは難しいご依頼ですね。……『外』の方には理解し難いかもしれませんが、この街における立場の上下というのはひどく曖昧なものなのです。もちろん香港にも影響力を持った人物というのは少なからず存在しています。しているのですが……何と言えばいいのか、ある地点までたどり着くと横一列になってしまうんですよ。」

 

「ふむ、突出したリーダーが存在していないってことかい? つまり、合議制に近いシステムなわけだ。」

 

「対外的にはそういった説明になることも多いのですが、内部の実情は微妙に違いまして。ルールに則った明確な合議制というわけではなく、取引や貸し借りで影響力を均衡させている感じですね。例えば私はここから西側の地区には強く出られますが、北側には頭が上がりません。そういった柵が重なり合って、結果的に全体のバランスが保たれているわけです。」

 

「……それはまた、厄介だね。状況によって力関係が変化するわけか。察するに、『独走』を許さないのが暗黙のルールになっているんだろう?」

 

ある場所での強者は、ある場所での弱者になるわけだ。しかもそれらは明文化されているわけでもないらしい。想像以上に面倒くさいシステムに額を押さえる私へと、マッツィーニは首肯しながら追加の説明を放ってきた。

 

「その通りです。出過ぎた杭は一斉に打たれることになります。……バートリ様の具体的な目的がどんなものであれ、香港そのものに影響を及ぼせる人物などこの街には居ません。かと言って地区の代表者全員の賛意を受けるというのも難しいでしょう。誰かが賛成すれば誰かが反対する。それが香港自治区という街なのですから。」

 

「……だが、香港そのものの危機には団結する。そうなんだろう?」

 

「もちろん団結するでしょうね。しかし、かなり稀な例ですよ、それは。私が知る限りでは香港が団結したのはただ一度だけ。独立運動の時だけです。……百年近く前の事件なので伝え聞いた話になりますが、あの時だけは長年の確執を忘れて協力し合ったとか。今では信じられない話ですよ。打算と取引の都市が一つに纏まったわけですからね。」

 

まるでお伽話を語るかのようなマッツィーニを前に、腕を組んで思考を回す。確かに有り得そうもない話だが、魅魔ほどの魔女が無駄な助言をするとも思えない。やはりコインが鍵か。

 

考えている間に運ばれてきた紅茶に口を付けてから、再びマッツィーニへと問いを飛ばした。ちなみに美鈴は……水中人の肝臓を微妙な表情で食べている。少なくとも美味くはなかったらしい。

 

「では、昨今の魔法界を騒がせているゲラート・グリンデルバルドの演説に関してはどんな受け止め方をしているんだい? キミの考えと香港全体の考え、その両方を聞きたいね。」

 

「グリンデルバルドですか。……紅のマドモアゼルの関係者に言うのもなんですが、『間違ってはいない』というのがこの街の総意でしょうね。そして、私もそれには同意見です。大通りの様子を見れば分かっていただけるように、この街はノーマジの文化を数多く受け入れています。同時にその危険性もヨーロッパよりは認識していると言えるでしょう。」

 

「しかし、表立って賛意を表明するつもりはないと。」

 

「この街の住人にとっては、未来の魔法界よりも明日の昼食の方が大事なのです。香港では人の命にそれほどの値が付きません。誰もが刹那的に生き、そして呆気なく死んでいきます。それなのに未来の魔法界の為にと動こうとする者は……残念ですが、『物好き』に分類されるでしょうね。」

 

マグルの危機なんぞこの街にとっては所詮他人事に過ぎないわけか。そんなもんなるようになれという気持ちなのだろう。刹那を生きる連中にとっては、ゲラートの言葉は遠すぎるようだ。ヨーロッパ側とはまた違った意味で問題だな。

 

ひょっとしたら、『ここは魔法界の一部である』という認識すら薄いのかもしれない。この場所は魔法界であるのと同時に、私たちの世界と重なっている部分も多いのだ。だとすれば魔法界の為に動くなんてのは以ての外だろう。正しく『別世界』の話なんだし。

 

肝をきっちり完食した美鈴が次に食べ始めた麺料理の臭いに顔を顰めつつ、本題に入るために懐から例のコインを取り出す。ここで出すつもりはなかったが、マッツィーニは思ったよりもこの街の上層に食い込んでいるらしい。一度反応を窺ってみるのも一つの手だろう。

 

「香港の仕組みについては概ね理解したよ。魔法界の騒動に対する反応の理由もね。それでだ、もう一つだけ聞きたいことがあるんだが……このコインが何だか分かるかい?」

 

私がガラスのテーブルにパチリと置いたコインを見て、マッツィーニは……ほう? やっぱり当たりか。目を見開いて息を呑んでいる。明らかにただのコインを目にした時の表情ではない。

 

「それを何処で手に入れ……いや、違いますね。誰から渡されたのですか?」

 

「理解が早くて助かるよ。知り合いの魔女から貰ったんだ。何なんだい? これは。心当たりがあるようじゃないか。」

 

どこか恐れているかのようにコインを見るマッツィーニへと問うてみれば、彼は苦々しい笑みを浮かべながら答えを寄越してきた。

 

「バートリ様が香港の顔役を探しているというのであれば、もう薄々は勘付いているのでは? ……御察しの通り、香港の創始者たちの身分を証明するものですよ。当然ながら実際に目にしたことはありませんでしたが、噂だけはうんざりするほど聞いています。会合なんかで毎回話題になりますから。」

 

「ま、そこは予想通りだよ。……どうかな? これがあれば香港の意見を纏めることが出来ると思うかい?」

 

さて、どう出る? このコインの値はどのくらいだ? ポーカーフェイスで核心へと迫る疑問を放ってみると、受けたマッツィーニはさほど迷わずに大きく頷いてくる。よしよし、上々。香港にとってはそれだけの価値がある代物らしい。

 

「可能でしょうね。正直言って、後から参入してきた私にはそれほどの意味を持ちませんが……古参の代表たちにとっては違うはずです。もしそのコインが本物だと証明できたなら、香港の大部分は容易に纏まるでしょう。そこに『紅のマドモアゼル』の影響力が加われば、香港全体の意思を統一することも不可能ではないと思います。」

 

「結構、結構。それならキミが場を整えてくれるかい? マッツィーニ。これから魔法界は大きく、激しく動くことになる。……ならば半世紀前の大戦時も、先のイギリスでの戦争時も目立てなかったイタリア魔法界はそろそろ波に乗る必要があるだろう? もしキミが私の手助けをしてくれたなら、レミィへの土産話の中にキミの話題を加えられるよ?」

 

「……かしこまりました。数日は掛かると思いますが、必ず代表たちに話を通してみせましょう。」

 

うむうむ、思ったよりも早く事が進みそうだな。私も結構こっち方面の才能があるんじゃないか? あいつの想定を上回ったことは間違いないだろうし、帰ったらレミリアに自慢してやろう。

 

深々と頭を下げながら言うマッツィーニを見て、アンネリーゼ・バートリは満足げに鼻を鳴らすのだった。

 


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