Game of Vampire   作:のみみず@白月

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普通魔法レベル試験

 

 

「うーん、滅茶苦茶になっちゃったわね。」

 

ここに来て混乱が困惑に変化しつつあるな。魔法省の執務室に取り寄せた世界各国の魔法界の新聞を眺めながら、レミリア・スカーレットは愉快そうに微笑んでいた。いい塩梅じゃないか。計画通りの反応だぞ。

 

八月に突入したばかりのイギリス魔法省では、私の出した公式声明に関しての議論が忙しなく行われている。そりゃあそうだろうさ。明言こそしていないが、内容としてはグリンデルバルドに賛成するという旨の声明なのだから。

 

近い将来魔法界そのものが露見する可能性、その時の混乱に関する懸念、マグルへの無理解に対しての問題提起。私、ボーンズ、フォーリー、そしてスキーターで考えた声明の内容はそんなところだ。……まあ、概ね予定通りの文面だと言えるだろう。

 

当然、反応は様々だ。私が言うならと真剣に考え始める者も居れば、スカーレットも老いたかと否定的に受け取る者も居る。……ふん、それでいいさ。態度はどうあれ、少なくとも魔法族はこの問題を知った。それなら第一段階としては上々の成果だろう。

 

現時点で一番厄介な展開は問題が広まらないという状況に陥ることだが、嘗ての大犯罪者であるグリンデルバルドに対する危機感や、敵対していた私が事実上賛同するというインパクトでそれは避けることが出来た。

 

となれば、次に行うべきは各国上層部に対する誘導だ。八月中にはイギリス魔法省に続いて、マクーザ、フランス魔法省、ドイツ魔法議会、香港自治区が次々と賛意を表明してくれる手筈になっている。……それで大きな流れは作れるはず。あとはその勢いを強めればいい。

 

もちろんダンブルドア本人や、彼が用意した『識者』たちも適切なタイミングで使う必要があるだろう。民衆の興味を途絶えさせないように、段階的にだ。その辺の調整はスキーターに任せるか。あの女はそういう小細工が得意だろうし。

 

執務机をコツコツと叩きながら今後の展開について考えていると、ノックの音と共に名乗りの声が聞こえてきた。また来たのか、小僧。

 

「あの、ブリックスです。いつもの用件で来ました。つまり、その……各国の有力者から手紙が届いてまして。」

 

「分かってるわよ。入りなさい。」

 

うんざりした気分で許可を出してやると、ゆっくりとドアが開いて……おやまあ、今日も大量に持ってきたな。そこそこの大きさの木箱を両手で抱えたブリックスが入室してくる。あれに手紙が満載になっているわけだ。ブリックスごと暖炉に放り込みたくなってくるぞ。

 

「国際協力部経由で届いた分はこちらになりますけど……今日も全部読むんですか? 目が悪くなっちゃいますよ?」

 

「近視の吸血鬼なんて聞いたことないわよ。もちろん全部読むし、必要とあらば返事も返すわ。こういう地道な根回しが後々功を奏すんだから。」

 

「でも、前までは無視してたじゃないですか。」

 

「あの時とは状況が違うでしょうが。いいからここにぶち撒けなさい。」

 

私の催促に従って、ブリックスは慌てた様子で木箱の中身を執務机にぶち撒けた。もう手紙なんて見るのも嫌だが、ここで味方を増やしておかないと後が辛い。どれだけ億劫でもやらねばならんのだ。

 

早速とばかりにクソ分厚い手紙の封を切った私に対して、ブリックスが恐る恐るという表情で疑問を寄越してくる。隠し切れないイライラが伝わってしまったらしい。

 

「えっとですね、国際協力部でも話題になってますよ。予言者新聞に載ってたスカーレット女史の声明。……みんなビックリしてました。マグルへの露見だなんて考えたこともなかったって。」

 

「ふーん? ちなみに貴方はどう思ってるの?」

 

「あー……正直言って、よく分かりませんでした。マグルの世界のことには詳しくありませんし、どんな風に隠蔽してるのかもボンヤリとしか知りませんから。」

 

「……ちょっと待ちなさい。まさかとは思うけど、周りの連中もそんな感じだったりするの?」

 

『どんな風に隠蔽しているのかもボンヤリとしか知らない』? 正気かこいつは。頼むから自分一人がアホだったと言ってくれ。そんな私の願いも虚しく、ブリックスは情けない表情でこっくり頷いてきた。

 

「マグル生まれの職員はある程度納得してたみたいですけど、殆どは僕と同じ感想でしたよ? スカーレット女史が言うんだからそうなのかも、って感じですかね。今度マグル対策口実委員会の職員に隠蔽魔法に関して聞いてみようってことになりました。」

 

思わず読んでいた手紙を机に投げ捨てて、思いっきり頭を抱えてため息を吐く。……マグルの世界に関してはまあいいさ。元よりそれを理解させるのも目的の一つなのだ。だけど、隠蔽魔法に関しての理解不足は予想外だぞ! いくらなんでもアホすぎるだろうが!

 

マズい。これはマズい事態だ。イギリス魔法界だけの問題であれば大丈夫だが、これが魔法界全体の『常識』だったら結構危ないかもしれないぞ。私やグリンデルバルドは基本的な知識ありきの声明を出しているが、そもそもそれを知らなければ内容が意味不明だろう。

 

ひょっとすると、私は魔法族の間抜けっぷりを見誤っていたのかもしれない。あまりにもバカバカしい落とし穴に顔を引きつらせつつも、キョトンとした表情のブリックスへと質問を送る。『一般魔法使い代表』どのに聞いてみようじゃないか。

 

「具体的にどこが分かり難かったかのかを教えて頂戴。今後の参考にしたいの。」

 

「僕の意見がスカーレット女史の参考に、ですか? ちょっと照れますね。」

 

いいから早く言え! 私がぶん殴りたくなっているのに気付くはずもなく、ブリックスはご機嫌な様子で私の声明の『問題点』を語り始めた。

 

「えーっと……先ず、マグルの文明の進歩が云々って部分は全然理解できませんでした。『年々マグルたちは居住圏を拡げている』ってところが唯一分かったくらいですね。科学技術がどうこうってところも、そもそも以前のことを知らないので進歩してることが分かり難かったです。」

 

「そこは予想通りよ。後々専門家に分かり易く説明させる予定だから、今回はあえてあんな感じに書いたの。……他には?」

 

「他には、マグルとの技術力の差の辺りも難しかったです。だってほら、僕たちには魔法があるわけじゃないですか。そりゃあマグルも頑張ってるなとは思いますけど、やっぱり魔法の方が便利ですよ。」

 

「……それもまあ、想定してた反応ね。後日『マグルの力』に関する資料を公開する予定だから、それを見れば考えが変わるでしょ。それより、マグル以外の部分に関してはどうだったの?」

 

やきもきしながら核心部分について聞いてみると、ブリックスはさほど迷わずに答えを返してくる。イラつくほどに能天気な笑みでだ。

 

「マグル以外ですか? さっきも言いましたけど、隠蔽魔法に関してはちょっと分からなかったです。マグル避け呪文とかなら身近なんですけど、位置発見不可能呪文やら探査妨害術なんかについては詳しくなくて……要するに、マグルから見えなくなるんですよね? だったら大丈夫だと思うんですけど。」

 

「見えなくなるんじゃなくって、別のものに見せたり地図に載らないようにしたりする呪文よ。……あのね、魔法省にだって、ホグワーツにだって、ダイアゴン横丁にだってかかってる呪文でしょうが。なんで知らないのよ。」

 

「隠蔽に関わってる部署でもないと詳しくは知らないですよ、普通。イモリ試験で出てきたような気もしますけど、もう忘れちゃいました。スカーレット女史ははかなり問題視してるみたいでしたけど、何が問題なのかが……その、分からなくて。」

 

「一番の問題は写真には普通に写っちゃうってことね。今まではマグルの政府専門の忘却術師をおいとけば、あとは個人の写真だけを警戒してればよかったんだけど、マグル界の冷戦が終わった最近になって軍事情報の一般公開が……まあ、こんなこと言っても無駄でしょうけどね。人工衛星って知ってる?」

 

全然期待しないで問いかけてみると、ブリックスは予想通りの返事を寄越してきた。どうやら隠蔽魔法の明確な効果も新聞で説明する必要がありそうだ。それが分からなければ何が問題なのかも伝わらんぞ。

 

「衛星? 月とか、ガニメデとかのあれですか?」

 

「天文学はちゃんと学んでいたようで何よりよ。ちなみに、マグル避けやら位置発見不可能呪文やらは呪文学の内容なの?」

 

「確かそうだったはずです。フリットウィック先生から教わった記憶がありますから。」

 

「なら、ダンブルドアに呪文学のカリキュラムを変えさせるように言っとかないとね。フクロウとイモリにも今後は絶対に出題させるわ。これ以上間抜けが増えるのは御免よ。」

 

これだからホグワーツは嫌いなんだ。他の学校ではきちんと教えてることを祈るばかりだな。マグル界の説明だけでも手一杯なのに、魔法のことまで説明しなくてはならんとは……何が『魔法使い』だよ、まったく!

 

「あの、参考になりましたか?」

 

「ええ、とても参考になったわ。どうやら私は自分の目線で話しちゃってたみたいね。次からは気を付けないと。」

 

「それは良かったです。では、失礼します。」

 

満足そうな様子で部屋を出て行くブリックスを見ながら、巨大なため息を吐いて額を押さえる。まさかアホすぎて操り難いという事態が生じるとは……政治は奥が深いな。また一つ勉強になったぞ。

 

民衆への理解をまた一つ深めながらも、レミリア・スカーレットは疲れた気分で手紙の山に向き直るのだった。

 

 

─────

 

 

「つまり、夏休みに入ってからずっとこんな調子なのかい?」

 

昼下がりの隠れ穴のリビングで、アンネリーゼ・バートリはテーブルの向かい側に座るジニーへとそう問いかけていた。だとしたら毎日がこの空気か。地獄だな。

 

八月の初週。約束通りにハリーと一緒に隠れ穴を訪れてみたところ、そこではロンとモリーが『冷戦』を行なっている真っ最中だったわけだ。私たちに付いて来ようとするロンと、それを認めまいとするモリー。互いに一歩も譲らぬ状況が続いているらしい。

 

うーむ、ロンもモリーも私たちを歓迎してくれてはいるのだが、お互いのことだけは無視する所為でどうにもぎこちない空気になってしまうな。今も向こうのソファでハリーを挟んで別々の話題を捲し立てている。連れて来た『羊』は効果を発揮しているようだ。

 

助けを求めるハリーの視線を無視しながらの私の質問に、最大の『被害者』たるジニーは非常に迷惑そうな表情で頷いてきた。

 

「もう本当に、本当にうんざりだわ。何をするにも私を間に通すんだもん。『ジニー、ご飯だからロンを呼んできて』、『ジニー、靴下がどこにあるかママに聞いてきてくれ』ってな具合にね。私は伝書ふくろうじゃないっての。……最近じゃパパもパーシーも残業を喜ぶようになっちゃったくらいよ。家に帰りたくないんだって。気持ちは分かるけどさ。」

 

「ふぅん? 双子が自分たちの店にかかりっきりなのは知ってるが、長兄と次兄はどうしたんだい?」

 

「ビルはこれ幸いにってロンドンで一人暮らしを始めちゃったの。……『ヌラー』と暮らす予行練習だかなんだかってね! 今頃二人でイチャイチャしてるに違いないわ! 不潔よ!」

 

「ってことは、デラクールは結局イギリスに残ったわけか。」

 

とっくの昔に各国からの援軍はそれぞれの故郷に帰国しているはずだ。それでもロンドンに居るということは、つまりはそういうことなのだろう。私のニヤニヤしながらの言葉を受けて、ジニーは納得してませんよという声色で詳しい状況を教えてくれる。

 

「あっちの魔法省は早くも辞めるつもりみたい。呪い破りは出張が多いから、自分もイギリスで仕事を見つけて働きに出る予定なんですって。この前聞いてもいないのに自慢げに話してくれたわ。……もう『新婚気分』ってわけよ。」

 

「別にいいと思うけどね、私は。モリーは反対してないのかい?」

 

「ママはロンの問題で手一杯だもん。だからビルのことは私が見張ってるの。……ちなみにチャーリーもそろそろ仕事に戻るって言ってた。半年くらい掛けて、アフリカでドラゴンの繁殖地を整備するんだってさ。今日はクィディッチのアマチュアリーグの試合を観に行ってるわ。」

 

「ま、戦争はもう終わったんだ。それぞれの暮らしに戻るべきだろうさ。」

 

ビル、チャーリー、双子が家を離れるわけか。そりゃあ寂しくなるだろう。もしかしたらジニーが長兄の『お付き合い』に口を出すのも、その辺の寂しさの裏返しなのかもしれないな。目の前でぷんすか怒る赤毛の末娘を見て考えていると、いきなりリビングにカツカツとガラスを叩く音が響いた。

 

「おっと、ふくろう便か。」

 

「何だろ? ……取ってくるね。あっちの二人は役に立たなさそうだし。」

 

話に夢中で音に気付かないロンとモリーをジト目で睨め付けた後、苦労人の赤毛娘が窓を開けて郵便物を受け取る光景をボーッと眺めていると……んん? ジニーは驚いたような表情になったかと思えば、何通かの手紙を抱えて小走りでダイニングテーブルに戻ってくる。

 

「アンネリーゼ、ほらこれ! 貴女のもあるわよ!」

 

「私のも? ……ああ、なるほど。ようやく結果が届いたわけか。」

 

差し出された手紙を受け取ってみると、そこには見慣れたホグワーツの校章が描かれていた。つまり、フクロウ試験の結果だ。本来なら七月中に届くはずだったのだが、戦いのゴタゴタで少し遅れてしまったらしい。マクゴナガルの予想通りになっちゃったな。

 

「ロン、ハリー! それにママも! ちょっと休戦してこっちにおいでよ。試験の結果が届いたから。」

 

ダンブルドアも隠れ穴に行くという話は聞いていたようだし、私の分も纏めてここに送ってくれたわけか。ジニーの呼びかけを背にしながら、封を切って便箋を取り出してみると……うーん、微妙。悪くもないが、良くもないって感じの結果だな。

 

成績は五段階。大いによろしいの『優・O』、期待以上の『良・E』、まあまあの『可・A』、よくないの『不可・P』、そしてどん底の『落第・D』だ。説明文にはそれ以下を表す『トロール並・T』の存在があるが……まあ、あくまでジョークだろうさ。多分。

 

そして私の成績は防衛術と呪文学が優で、変身術と天文学が良。魔法史、薬草学、魔法薬学、ルーン文字学は可となっている。落第なしの八フクロウか。筆記の適当っぷりを実技でカバーできたようだ。フランにはギリギリ自慢できる結果だな。

 

「どうだったの? リーゼ。」

 

「幸いにも不合格は無しだよ。順当に八ふくろうだ。」

 

「……本当だ。おめでとう、でいいんだよね?」

 

「いやまあ、あんまり意味はないんだけどね。ありがとう。……それよりほら、キミたちも早く見てみたまえよ。私なんかよりもキミたちの結果の方が重要だろう?」

 

慌てて駆け寄ってきたハリーに言ってやると、彼は神妙な面持ちで自分宛の封筒を手に取ってそれを開いた。ロンも祈るように結果を取り出しているし、モリーも今ばかりは口を出さずに見守っている。

 

手紙に目を通す二人のことを残る三人が緊張した表情で見つめていると……先ずはハリーが、一瞬遅れてロンもその表情を崩す。どうやら満足のいく結果だったようだ。

 

「……うん、悪くないよ。予想通り占い学は落としてたけど、残りは全部合格。リーゼと同じ八フクロウだ。それに、防衛術と呪文学は優も取れてる。」

 

「こっちも占い学はダメだった。魔法史も不可だな。……でも、他は全部通ってる! 七フクロウだ! 僕にしては悪くない結果だよ!」

 

言いながら二人がテーブルに置いた結果を、ジニーやモリーと一緒になって覗き込む。……うむ、悪くないぞ。ロンの落とした魔法史は進路と関わらない科目だし、二人とも落とした占い学は言わずもがなだ。重要な杖魔法関連の科目はどれも良い成績を取れてるじゃないか。

 

「良いと思うよ。二人ともよく頑張ったじゃないか。」

 

「凄いわよ、ロン。七フクロウだなんてフレッドとジョージを合わせたよりも多いじゃないの。ハリーとアンネリーゼなんか八ふくろうだし……今日はお祝いしないとね? ママ。」

 

「……そうね、二人ともよくやりました。見事な結果です。今日はご馳走を作りましょうか。」

 

どうにか毅然とした表情を崩すまいとしているモリーだが、隠し切れない喜びが漏れ出ているぞ。ロンの成績は彼女にとって冷戦を忘れさせるほどの快挙だったようだ。……しかし、双子はどんな成績だったんだよ。一人あたり三フクロウってことか? 凄まじいな。

 

改めて二人が悪戯専門店を開いて良かったと思い直す私へと、嬉しそうな顔のハリーが声をかけてきた。

 

「ハーマイオニーはどうだったんだろ? ……もちろん合格してるかって意味じゃなくて、優を一個でも逃したのかって意味なんだけどさ。」

 

「それはハーマイオニーの家に行った時にでも聞いてみるよ。私は逃してない方に賭けるけどね。」

 

肩を竦めて言ってから、ニマニマと自分の成績を見ているロンを引っ張って部屋の隅へと移動する。さすがに忘れていないとは思うが、一応釘は刺しておかねばなるまい。

 

「なんだよ、リーゼ。ハーマイオニーの件だったら僕も逃してない方に賭けるから意味ないぜ?」

 

「そんなことは分かってるさ。そうじゃなくて、モリーへの説得の件だよ。……再来週私がハーマイオニーの家に行ったら、そのまま彼女と両親を連れてダイアゴン横丁でいつもの『お買い物会』をやる予定だ。その時モリーに最終的な決断を聞くからね? よく覚えておきたまえ。」

 

「……どうしてもママの許可がないとダメなのか? つまりさ、ホグワーツに行った後だったらママにはどうしようも──」

 

「キミね、旅の主催がダンブルドアだってことを忘れてるぞ。私はあの爺さんがそれを許すとは思えないけどね。」

 

私の呆れたような台詞を聞いて、ロンもダンブルドアのことを思い出したらしい。がっくりと肩を落としながら渋々頷いてきた。

 

「そうだったな、忘れてたよ。……分かった。再来週がタイムリミットってことか。」

 

「……ま、頑張りたまえよ。もちろん応援はしてないけどね。私もどちらかと言えば反対派なわけだし。」

 

「でも、許可があれば連れてってくれる。そうなんだよな?」

 

「約束は守るさ。だからキミも許可が出なかった時は素直に諦めるように。」

 

真剣な表情で念を押してやると、ロンは再び渋々といった様子で小さく頷く。そのままトボトボとテーブルへと戻って行く赤毛のノッポ君を見ながら、食事の下拵えを始めたモリーに内心でエールを送る。どうにか耐え切ってくれ、モリー。

 

しかし、ハーマイオニーの方はどうなっているのやら。ロンが感情で説得を続けているのに対して、ハーマイオニーが理詰めでそれを行なっているのは容易に想像できるぞ。後はグレンジャー夫妻がどれだけ抵抗しているかだな。

 

うーむ、厳しそうだ。夫妻が魔法界のことに詳しくない以上、完全に状況を把握できていない可能性もあるだろう。その辺は私がきちんと説明しないといけないな。

 

あまり面識のないグレンジャー夫妻のことも心の中で応援しつつ、アンネリーゼ・バートリはモリーに肉料理を要求するため歩き出すのだった。

 


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