Game of Vampire   作:のみみず@白月

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タカとハト

 

 

「しかし、結構な面子じゃないの。さすがのポンコツ連盟も気合を入れてきたみたいね。」

 

廊下から響いてくる改修工事の騒音に眉をひそめながら、古臭いソファに座るレミリア・スカーレットは渡されたリストに目を通していた。ヨーロッパ、アジア、北アメリカどころか、アフリカや南米の有力者たちまでもが名を連ねている。うむうむ、序盤の見せ場を飾るには上々の顔触れじゃないか。

 

ようやく九月の上旬が終わろうとしている今日、国際合同カンファレンスについての話し合いをするためにフォーリーの執務室を訪れているのだ。『純血のお友達』を通して一足先に参加者のリストを入手したらしいが……やるじゃないか。私ですらまだ手に入れてなかったんだぞ。

 

とはいえ、入手できたことにはそれなりの理由があるようだ。イギリス純血主義者たちのコミュニティの根幹に関わる理由が。……先程聞いたフォーリーの解説によれば、一言で『純血主義の名家』といってもそのルーツは些か異なっているらしい。元々ヨーロッパ各地に散らばっていた名家が社会構造の変化から力を失い、純血主義の風潮が強いイギリスやドイツ、スペインなんかに逃げ込んで現在の形になったんだとか。

 

イギリスで有名なブラック家、マルフォイ家、レストレンジ家、ロジエール家あたりは元を辿れば全てフランスからの『移住組』で、フォーリー家、オリバンダー家、スラグホーン家、そして一応ウィーズリー家なんかが元からイギリスに存在していた『定住組』となる。ちなみにシャフィク家やシャックルボルト家のようにヨーロッパ以外から入ってきた血筋もあるとのことだった。

 

ここで面白いのが移住組にはタカ派が多く、定住組にはハト派が多いという点だ。祖国を追われ、他国に落ち延びざるを得なかった祖先たちの恨みを継いでいるのか、そもそも『そういう家』だったから追い出されたのか。何れにせよ移住組は半純血やマグル生まれに対して攻撃的になることが多いらしい。

 

反面、定住組はそこまで頓着しないことが多いそうだ。……まあ、よく考えれば当然のことか。長らくイギリスの名家として存続しているということは、つまりはこの国での地位を確立しているということになる。マグル生まれが増えようが大した影響はないのだろう。

 

対して、移住してきた者は新たに地位を築き上げねばならなかったわけだ。縁組によって移住組同士の繋がりを強化し、排他的になることで身内間で得られる利益を増していく。それを長年続けてきた結果、リドルの起こした『反乱』に軒並み引き摺り込まれていった、と。

 

うーむ、面白い。もちろん一概には当て嵌まらない家……例えば百年戦争以前に自発的にイングランドへの帰属を選んだマルフォイ家や、古くからウェールズに根を張っていたのにも関わらずタカ派の代表格になったゴーント家、機密保持法制定によって一転して排他的になったヤックスリー家のような『例外ケース』も多々あるが、要因の一つとしては充分に説得力のある話だった。純血主義者の内部情報か。事前に知ってればもっと色々な手を打てたんだけどな。

 

ともかく、自分たちを追い出した大陸側を恨んでいた移住組とは違って、定住組であるフォーリー家は普通に長年の繋がりを保っていたわけだ。我らがウィゼンガモットの議長どのはそのコネを利用してこのリストを入手したらしい。

 

リストを眺めながら純血主義について思考を巡らせている私へと、執務机で書類のチェックをしているフォーリーが返事を放ってきた。

 

「貴女とグリンデルバルドの目的を達成するには好都合なはずです。聴衆は多い方が望ましいでしょう?」

 

「ま、そうね。このカンファレンスでどれだけ同意を得られるかで今後の展開が変わってくるはずよ。こっちでも色々と対策は練ってるけど、貴方の方からも話の通じそうな有力者たちに事前の根回しを──」

 

そこまで言ったところで、部屋の外から何かが倒れたような轟音が響いてくる。ああもう、うるっさいな! ドアの方をぎろりと睨んだ後、苛々と足を揺すりながら口を開いた。

 

「こんな喧しい場所でよく仕事が出来るわね。私なら怒鳴り散らしてるわよ、こんなもん。」

 

「……そもそもの発端は貴女にあったはずですが? 十階を改修したいと言ったのをもうお忘れですかな?」

 

「そうだけど、こんなに早く始まるとは思ってなかったのよ。よく資金を確保できたわね。」

 

改修工事自体はずっと前からやろうと思っていたことだが、今の魔法省には先立つものが無い。だから本来はもうちょっと先にやるつもりだったのだ。私の疑念に対して、資金を集めた張本人どのは事もなさげに答えを返してくる。

 

「名家に話を持ちかけたら一瞬で集まりました。ヴォルデモートの一件で落ち目になっていますし、この辺で存在感を示したかったのでしょう。つまり、『私たちは魔法省に対して協力的です』というポーズなわけです。ガリオン金貨で信頼が買えるなら安いものですよ。この程度の出費は彼らにとって何の痛手でもありませんしね。」

 

「そりゃまた羨ましいことね。……ボーンズが怒ってたわよ? 『十階の改修よりもやるべきことがあるはずです!』って。」

 

「仮にも魔法大臣ならば、国民の『善意』を当てにすべきではありませんな。彼らはウィゼンガモットの為になるなら、と言って資金を提供してくれたのです。他の場所に使うわけにはいきませんよ。」

 

「まあ、私は別にいいんだけどね。一々階段を下りてくるのはうんざりだったし、懐を痛めずにエレベーターが開通するなら願ったり叶ったりよ。」

 

個人的に一番大きいのはそこだろうな。あの陰気くさい神秘部の廊下を通らなくてよくなるのは大歓迎なのだ。エレベーターの他にも廊下をエボニーの板張りにしたり、小さなシャンデリアを吊るしたり、各所に『庭園の背景』付きの窓を設けたりするらしい。……そりゃあ倹約生活中のボーンズは怒るだろうさ。自分が爪に火を灯している隣でシャンパンを一気飲みされてるようなもんだし。

 

どんどん仲が悪くなる大臣と議長を思ってため息を吐いたところで、フォーリーが話のレールを元に戻してきた。

 

「カンファレンスには政治的な有力者の他に、連盟側が招待したマグルに関して詳しい魔法使いも数名出席するそうです。生半可な演説では賛意を得られないかと。」

 

「あら、心配? 私が『生半可な演説』をするとでも?」

 

「内容そのものは心配していませんが、どんな演説にも必ず反対する人間は出てくるものでしょう? 質疑応答に関してのシミュレーションもしておいた方が良いと思いますが。」

 

「ボーンズとやってるわよ。マグル界に関する部分がちょっと不安だけど、何とか詰め込んでおくわ。」

 

そこらの魔法使いよりは遥かに詳しくなっている自覚があるが、それでも理解し切れない部分は多々残っているのだ。その辺はまあ、付け焼刃で何とかするしかないな。肩を竦めて言ってやると、フォーリーは呆れたような表情で質問を寄越してくる。

 

「一応聞きますが、グリンデルバルドとは打ち合わせをしていますか? ……まさか『同盟相手』と連携を取らずにカンファレンスに臨むわけではないのでしょう?」

 

「……そのうちやるわよ。」

 

「もうあまり余裕はないと思いますがね。色々と因縁があるのは承知していますが、個人の感情で連携が鈍っていては元も子もないのでは?」

 

ええい、そのうちやるって言ってるだろうが。額を押さえるフォーリーから目を逸らして、天井を見上げながら曖昧な返答を飛ばす。ちょうど今週末、リーゼがモスクワに向かう予定だ。その時ペタンコ吸血鬼を通して詳細を詰めれば問題ないだろう。直接顔を合わせるのは嫌だし。

 

「そうね、近いうちに話し合うわ。近いうちにね。」

 

「……そう願っておきます。こんなことで計画に遅れが出るのは論外ですから。」

 

「それより、国内純血派の動きはどうなの? さっきの話からするに、大半は『擦り寄り路線』を選んだみたいだけど。」

 

都合の悪くなってきた話の矛先を適当な方向に変えてやると、フォーリーは難しい表情で少し黙り込んだ後、現在の状況を噛み砕いて説明してきた。

 

「選んだというか、最早それ以外の道などありませんよ。ヴォルデモートに協力していた家と徹底的に縁を切るのが今の純血派の『流行り』になっています。……選択肢が一気に狭まった以上、状況が落ち着いた後は大規模な婚姻問題が浮上してくるでしょう。一貫して反死喰い人派だったシリウス・ブラックなどは引く手数多のはずです。家柄も立場も申し分ない上に、ハリー・ポッターの名付け親という『特典』まで付いてくるのですから。」

 

「もういい歳のおっさんだけどね。」

 

「まだ四十にもなっていないのでしょう? 我々からすれば充分すぎるほどの若さですよ。若い娘を嫁にという家も多いでしょうが、未亡人となった死喰い人の元嫁を押し込もうとする家もあるはずです。……実は私の孫娘もまだ未婚でして、鬱陶しいほどに縁談の誘いがきています。貴女との関係が改善した最近はそれがより顕著になりました。」

 

「もっと喜びなさいよ。選択肢が多いのは良いことでしょ。」

 

皮肉げな笑みを浮かべて言った私に、フォーリーはこれでもかってくらいの仏頂面を返してくる。こいつでも孫娘は大事らしい。どこの馬の骨だか分からんようなヤツには渡したくないわけか。

 

しかしまあ、ブラックも大変だな。血を裏切るのが大好きなあの男としては純血の名家の娘などむしろマイナスポイントだろうし、死喰い人の元嫁なんぞ考慮にすら値しないはずだ。今頃見合い写真を暖炉で燃やしまくっているに違いない。

 

大人気の血統書付き犬もどきに哀れみの念を送りつつ、ふと思い出した家名を口にした。

 

「マルフォイ家はどうなったの? 変な名前の息子が家督を継いだって聞いてるけど。」

 

「ドラコ・マルフォイですな。現在のあの家はかなり微妙な立場に置かれています。戦争が終わる直前に魔法省側に傾いたものの、それまでは死喰い人の中枢にいたわけですから。排斥するほどではないようですが、同時に関わりたい相手でもないのでしょう。『社交の隙間』に落ちてしまったわけです。」

 

「無視されてるってこと?」

 

「端的に言えばそうなります。ナルシッサ・マルフォイが精力的に動いていますが、芳しい成果は出ていないようですな。今回の改修にも一際目立つ額を寄付してきました。生き残りに必死なのでしょう。」

 

「……まあ、順当な結果ではあるわね。」

 

とはいえ、排斥されないギリギリのラインには留まれたわけか。ルシウス・マルフォイの決死の策は功を奏したらしい。腕を組んで考える私へと、フォーリーは僅かに哀れみを感じる表情でポツリと呟いた。

 

「年頃の一人息子が残ったのは幸いでした。婚姻の手が残されていますし、断絶するということだけは有り得ないはずです。……あまり幸せな人生とはいかないでしょうが。」

 

「それこそ相手次第でしょ。良い嫁が来るって可能性もあるんじゃない?」

 

「そう願うばかりですよ。マルフォイ家の一件には私にも責任がありますし、ほとぼりが冷めたら縁組みに協力するつもりです。」

 

そう言って深々と息を吐いたフォーリーは、執務椅子に身を預けると話のレールをカンファレンスへと戻してくる。

 

「何にせよ、今はカンファレンスに集中すべきですな。先ずは上の意識を変えねば何も始まりません。」

 

「ま、そういうことね。時期は来月初旬で確定として、会場が何処になるかは決まったの?」

 

「難航しているようです。イギリスとソヴィエトは勿論使えませんし、アメリカやフランス、ドイツに関しても中立とは言い難い。しかし、ポーランドやギリシャではグリンデルバルドに対しての安全確保が難しすぎます。……ヨーロッパならスイスかイタリア、アジアなら日本あたりになるのではないでしょうか。」

 

「んー、縁のない場所ばっかりね。」

 

スイスならジュネーヴ、イタリアならローマあたりか? 日本だと……さっぱり分からんな。極東はさすがに遠すぎるし、出来ればヨーロッパが会場になって欲しいところではあるぞ。

 

明確になってきたターニングポイントを前にして、レミリア・スカーレットはグリンデルバルドに渡す報告書の内容を考え始めるのだった。……よしよし、皮肉七割増くらいにしてやろう。

 

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