Game of Vampire   作:のみみず@白月

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憂いの篩

 

 

「あんなに馴れ馴れしくしちゃって、一体全体何様のつもりなのかしら? 信じられないわ。お嬢様が嫌がってるのなんて一目瞭然でしょう? それなのに……無礼よ! 無礼!」

 

ぶつくさ文句を喚く咲夜の背に続きながら、霧雨魔理沙は呆れ混じりの苦笑いを浮かべていた。嫉妬ってのはやっぱり怖いな。私も気を付けることにしよう。

 

九月三週目の土曜日、いよいよ校長室に『記憶』とやらを見に行く日になったのだ。木曜日に空き教室で行なわれたハーマイオニーの成人記念パーティーには上機嫌で参加していた咲夜だったが、今は不機嫌を体現したかのような有様になっている。近くに私しか居ないから取り繕うのをやめたのだろう。

 

もちろん咲夜はロンが真っ赤な顔でハーマイオニーに腕時計をプレゼントしたことに怒っているわけではなく、リーゼがキザったらしい台詞付きで指輪を贈ったことが原因でもない。……いや、あるか? まあ多分そうではなくて、彼女の苛々の根源は我が寮の気弱な一年生、アレシア・リヴィングストンにあるのだ。

 

どうもリヴィングストンは頻繁にスリザリン生に苛められていたようで、偶然通りかかったリーゼが気まぐれにそれを助けたらしい。結果として刷り込みを受けたヒナのように、穢れを知らぬ一年生は邪悪な吸血鬼に懐いてしまったというわけだ。

 

リーゼの袖を掴んでちょこちょこ付いてくるリヴィングストンは……何というか、一年生にしたってちょっと幼い雰囲気だった。話を聞くにやっぱりマグル生まれだったようだし、慣れない魔法界で余程に心細かったのだろう。リーゼが一人になるとそそくさと近寄って、私たちには聞こえないか細い声で話しかける、というのが最近の日常になっている。

 

そして当然、それを見た『お嬢様中毒者』たる咲夜が良い気分になるはずもなく、日を追うごとにその不機嫌度合いが増しているわけだが……リーゼやレミリアが関わるとガキに戻っちゃうな、こいつは。十一歳の女の子に嫉妬してどうすんだよ。

 

奇妙な状況に頭を抱えつつ、荒々しい歩調で三階の廊下を進む咲夜へと声をかけた。

 

「大目に見てやれよ、リヴィングストンはまだ一年生なんだから。特に今は環境が変わったばっかりで不安な時期だろ? 放っておいても少しすれば落ち着くって。」

 

「ほら、そういうの! そういうのが気に入らないのよ。ハーマイオニー先輩も、ロン先輩も、ポッター先輩も、それに貴方も! 一年生だからって何でもかんでも許しちゃって。甘やかすとロクなことにならないんだからね。」

 

「いやまあ、それをお前が言っても説得力ないけどな。……何にせよ、リーゼだって嫌ならはっきりそう言うだろ? あいつは一年生だからどうこうって我慢するようなタイプじゃないはずだ。それなのに追い払わないってことは、あいつも許可してるようなもんじゃんか。」

 

「違うわよ! リーゼお嬢様は大人だから仕方なく我慢してるの。そうに違いないわ。」

 

それだけは絶対にないと思うぞ。たとえハイハイすら出来ない乳児相手だろうが、リーゼは身内以外に対してなら無慈悲にノーを叩き付けるはずだ。分かってるくせに認めようとしない咲夜にやれやれと首を振ったところで、目的地である巨大なガーゴイル像の前にたどり着く。

 

「ま、その話は後にしようぜ。今は『記憶』に集中すべきだ。リーゼだって好きにしろって言ってくれたんだろ?」

 

「それは……そうだけど。」

 

「だったらしっかり切り替えとけよ。こんな機会滅多にないんだからさ。……ペロペロ酸飴。」

 

事前にハリーから教えてもらった合言葉を告げてみると、命を吹き込まれたガーゴイル像は素早い動きで道を空けた。覚え易くて素晴らしいな。ノーレッジの時よりセンスのある合言葉に感心しつつ、現れた螺旋階段を下って行く。

 

「だけど、今回は誰の記憶なのかしらね? ……というかそもそも、記憶ってどうやって手に入れるの? 脳みそを切り取るとか?」

 

「んなわけないだろ。ダンブルドアが誰かの脳みそを切り取ると思うのかよ。ハーマイオニーによれば、そのための魔法があるんだとさ。」

 

後でそれも調べとかないとな。『記憶』ってのは中々興味深い分野だし、利用方法も色々とありそうだ。二人で話しながらも見えてきた古オークのドアをノックしてみれば、中からダンブルドアの深い声が聞こえてきた。

 

「お入り、二人とも。」

 

「失礼します、ダンブルドア先生。」

 

「おっす、来たぜ。」

 

ドアを抜けた咲夜がペコリとお辞儀しながら挨拶したのに続いて、私も軽く手を上げて言葉を放つ。……うーむ、ソファに座るハリーが苦々しい表情なのを見るに、今日の話し合いでも確たる結論は出なかったようだ。『犠牲問題』の解決はお預けだな。

 

まあ、その辺は私が口を出すべきことじゃないさ。部屋の奥で居眠りしている不死鳥を眺めながら考えていると、ダンブルドアが杖を振って壁際の戸棚を開きながら声を上げた。

 

「さてさて、それでは早速『思い出話』の準備をしようかのう。ハリーから既に聞いているはずじゃが、これから特殊な道具を使って過去の世界を覗き見ようと思っておる。言わずもがな、ハリーと咲夜の両親に関する記憶じゃ。」

 

「分かっちゃいたが、私はちょっと場違いってこったな。」

 

「ほっほっほ、わしとてそうじゃよ。しかしながら、魔理沙よ。役立つ知識というのは思わぬところから手に入るものなのじゃ。もしかすると、君にとっても得られるものがあるかもしれないよ?」

 

「だったら嬉しいんだけどな。……ま、過去の記憶とやらに興味があるのは間違いないし、見せてくれるってんならありがたく見物させてもらうぜ。」

 

苦笑しながら返答を口にして、ダンブルドアが美しい彫刻の入った半円形の戸棚から出した魔道具に近付く。これが『憂いの篩』か。持ち手のないゴブレットのような形をした大きな石造りの水盆で、カップ型の上部は土台から離れて宙に浮いている。私の胸ほどの高さにあるカップ部分を覗いてみれば、どうやら内側だけが銀製になっているようだ。見るからに魔法の道具って感じの代物だな。

 

もう一度杖を振って憂いの篩を少し手前に移動させたダンブルドアは、周囲に集まった私たちに懐から取り出した小瓶を見せてきた。光る銀色の……糸? のようなものが中に入っている。

 

「これが今日君たちに見せようと思っている記憶じゃよ。」

 

「前回はダンブルドア先生の記憶でしたけど、今回もそうなんですか?」

 

「いいや、今日の記憶はわしのものではない。君から咲夜も一緒にとの提案を受けた後、手紙で頼んで送ってもらったのじゃ。……これはフランドールの学生時代の記憶じゃよ。」

 

ハリーに答えたダンブルドアから出てきた名前に、私たち三人ともが驚きを顔に浮かべた。フランドール・スカーレットか。意外な名前が出てきたな。

 

「咲夜のためってんなら一応は納得だが、フランドールが困るんじゃないのか? 記憶が失くなっちゃうってことなんだろ?」

 

フランドールとは一年生の頃に話したっきりだが、咲夜の話と合わせれば学生時代のことを大切に想っているのは明らかだ。そう易々と貴重な記憶を渡すか? 生じた疑問を口に出してみると、ダンブルドアは柔らかく微笑みながら説明を寄越してくる。

 

「おお、その心配は無用じゃ。抜き出した記憶は失くなったりしないからのう。無論、自身の記憶を封じ込める目的であればその限りではないのじゃが、今回のこれは言わば……そう、コピーじゃよ。フランの方にも同じ記憶がきちんと残っているはずじゃ。」

 

「へえ? ……面白い仕組みだな。だったら色んなことに利用できそうじゃんか。裁判とか、授業とか、上手くすれば娯楽にだって。」

 

「実にスマートな意見じゃが、残念なことに現存する憂いの篩はここにある一つだけでのう。製法も失われておるし、手広く利用することは出来ないのじゃ。……更に言えば、卓越した開心・閉心術師であれば見せたくない記憶を守ったり、ともすれば偽の記憶を創り出すことも不可能ではない。魔法界では記憶とて確実なものとは言えないのじゃよ。」

 

「んー、ますます面白いな。『偽の記憶』か。」

 

ダンブルドアの言い方からすればかなりの難易度を誇る技術のようだし、単に偽の情景を思い浮かべるってわけではないのだろう。記憶という新たな分野に思いを巡らせていると、隣の咲夜が肘で脇腹を小突いてきた。

 

「貴女ね、考えるのは後でも出来るでしょう? それより早く妹様の記憶を見てみましょうよ。折角送ってくださったんだから。」

 

「ま、そうだな。そうすっか。」

 

ふむ、憂いの篩を挟んだ向かいのハリーもやけにソワソワしているようだし、私の疑問は後回しにしておくか。肩を竦めてから手でダンブルドアを促してやると、校長閣下はクスクス笑いながら小瓶の中の記憶を杖で掬い取り、それをふわりと水盆の中央に投げ込んだ。

 

途端に青白く光る靄が水面から漂い始めたかと思えば、中の液体がじわじわと銀色に変わっていく。どことなく神秘的な光景に息を呑んでいると、ダンブルドアが静かな声で私たちに指示を送ってきた。

 

「三人とも、もう少し近付いてくれるかね? 引き込まれるような感覚に身を委ねるのじゃ。」

 

『引き込まれるような感覚』ね。本に集中する時みたいな感じか? その言葉に従って、顔を水面に近付けてみれば……うーん? モヤモヤでよく見えないが、水底に何かが映ってるような気がするな。不思議に思いながらも、もっとよく見ようと更に身を乗り出すと──

 

 

「──なんだから、次からはやったらダメだよ? フラン。」

 

「んー、それは分かってるんだけどさ。ジェームズが大丈夫だって言ったんだもん。」

 

「何度も言ってるでしょ? ポッターたちの言葉を安易に信じちゃ、ダメなの! 彼の言う『大丈夫』は、大抵の場合『減点される』って意味なんだから。」

 

……なるほど、これは確かに『記憶の世界に入り込む』って表現が相応しいな。まるで夢の中で唐突に場面が切り替わった時のように、ふと気付いた時にはもうホグワーツの教室らしき室内に立っていた。目の前の席では今と少しデザインの違う制服姿のフランドールと、咲夜そっくりの女の子が授業の準備をしながら話している。

 

「……お母さん?」

 

いつの間にか隣に立っていた咲夜が呟くが、銀髪の女の子……コゼット・ヴェイユはこちらに応えることなく、インク壺や羊皮紙なんかを机に並べながら会話を再開した。うーむ、ちょっとだけ切ない気分になるな。記憶はあくまで記憶。未来から覗き見ている私たちは傍観者でしかないわけだ。

 

「とにかく、あの四人組とはあんまり関わらない方が──」

 

「おいおい、ヴェイユ。ひどい台詞じゃないか。俺たちは正義の名の下にいじめっ子どもを懲らしめただけだぞ? ……よう、ピックトゥース。調子はどうだ?」

 

「やっほ、パッドフット。まあまあかな。……っていうか、また髪型変えたの? 今回のはなんかバカっぽいよ。前のに戻したら?」

 

「これが今の流行りなんだよ。お子ちゃま吸血鬼には分からんか。」

 

いきなり割り込んできたのは……ブラックか? 当然っちゃ当然だが、今とは全然違う見た目だな。まだ少年のあどけない雰囲気が残るブラックに続いて、背後に立つ三人の男子生徒も会話に入ってくる。

 

「僕から見てもバカっぽいけどね。長すぎて邪魔じゃないのか? それ。せめて後ろで縛るべきだぞ。その方がクールだ。」

 

「クールかどうかはさて置き、バカっぽいっていうのは僕も同感かな。海藻を被ってるみたいだと思うよ。水中人のガールフレンドでも出来たのかい?」

 

「僕はいいと思うけど……うん、みんなが言うならダメなのかも。戻した方がいいんじゃないかな? パッドフット。」

 

「なんとまあ、嘆かわしい連中だな。我が悪友たちはお洒落ってものを理解できないらしい。センスがあるのは俺だけか?」

 

つまり、こいつらがジェームズ・ポッター、リーマス・ルーピン、そしてピーター・ペティグリューの若かりし頃ってわけだ。興味深い表情で『じゃれ合い』を眺める私たちに、少し離れた場所に立つダンブルドアが解説を寄越してきた。

 

「三年生の春の記憶じゃよ。五人がこの名で呼び合っているということは、既に彼らは動物もどきの技術をある程度習得していたということになるのう。……ううむ、脱帽じゃな。」

 

そういえばそういうことになるのか。……今の私よりも年下なのに動物もどきね。よく考えたら凄い連中だな。ダンブルドアの説明に感じ入っている私たちを他所に、やり取りを終えたらしい男子生徒四人組はフランドールの後ろのテーブルに移動する。

 

それをジト目で見送ったコゼット・ヴェイユは、フランドールに向かって再び注意を投げ始めた。面倒見の良い優しいお姉さん、って感じの雰囲気だな。後輩に嫉妬する咲夜とは大違いだぞ。

 

「ああいう悪い人に関わると悪い子になっちゃうんだからね? ただでさえフランは純粋なんだから、もっと気を付けないとダメだよ。」

 

「フラン、純粋なの? 昨日管理人室に糞爆弾を投げまくったのに?」

 

「ほら、そういうの! そういうのがダメなんだってば。どうせ言い出したのはポッターかブラックでしょ?」

 

「シリウスだよ。湿気ってきたから全部使っちまおうぜ、って。」

 

うーん、学生時代のブラックたちは双子とどっこいのことをしてたようだ。あんまりな返答に額を押さえたコゼット・ヴェイユは、クィディッチ談義で盛り上がっている後ろのテーブルに振り向いて文句を飛ばす。

 

「ちょっとブラック? フランは貴方たちと違って年頃の女の子なんだから、変な物を扱わせないでよ。」

 

「変な物って? 具体的に言ってくれないと分からないな。」

 

「……そういうところが『顔以外』を重視するまともな女の子に嫌われる原因なんだからね。もし水中人以外をガールフレンドにしたいなら、もう少しデリカシーを身に付けた方がいいわよ、ワカメ頭さん。」

 

冷たく言い放ったコゼット・ヴェイユにブラックが引きつった表情を浮かべたところで、教室のドアが開いて教師らしき女性……おお、写真で見たことのある咲夜のお婆ちゃんだ。テッサ・ヴェイユが入室してきた。こっちから見ると三代揃い踏みだな。

 

「はーい、席に着いてねー。オスカー、食べ物を教室に持ち込まないように。オリヴィア、ペットもよ。……さてと、前回出した宿題を忘れてきた子は居ないでしょうね? 回収するから机の上に出して頂戴。」

 

慣れた様子でサクサク授業を開始したテッサ・ヴェイユの指示に従って、大半の生徒が宿題とやらを机に出すが……フランドールのは傍目にも短い羊皮紙だし、ジェームズ・ポッターとブラックに関してはそもそも出していない。しまったという表情を浮かべてルーピンとペティグリューを睨んでいる。

 

「おい、ムーニー。どうして宿題のことを教えてくれなかったんだ? そこのワカメ頭君はともかく、教えてくれれば僕はやったぞ。」

 

「それはだね、我が友よ。君たちに宿題のことを記憶できる程度の能力があると信じていたからさ。先週あれだけしつこく言われたのに、何をどうすれば忘れることが出来るんだい?」

 

「仕方ないだろ? 僕たちには記憶すべきことが他にも沢山……あー、ヤバいな。エバンズが怒ってる。見てみろよ、パッドフット。こっちを睨んでるぞ。」

 

「嫌だね。石頭の優等生様を見たって楽しい気分にはならないはずだ。だったら見ない。それが賢い選択だろ?」

 

ブラックとコソコソと話し合うジェームズ・ポッターの視線を辿ってみると、不機嫌そうな顔でこっちを睨んでいる綺麗な赤褐色の髪の女の子が目に入ってきた。あれがリリー・ポッター……っていうか、この時点ではリリー・エバンズか。ややこしいな。

 

私が生真面目そうな女の子を見ている間にも、事態はどんどん進行していく。杖を振って羊皮紙を集めたテッサ・ヴェイユは、腰に手を当てて悪童二人の方に詰問を放った。

 

「それで、今日の言い訳は? 一応聞いてあげるから言ってみなさい。」

 

「あーっと……僕はその、クィディッチの練習が忙しくて。ヴェイユ先生だってグリフィンドールに優勝して欲しいでしょう?」

 

「俺は……まあ、無駄な足掻きはしないさ。もう言い訳のストックが無いしな。」

 

なんとか言い訳を絞り出したジェームズ・ポッターと、カッコつけてカッコ悪いことを言ったブラックの言葉を聞いて、テッサ・ヴェイユは呆れ果てたような声色で減点を宣言する。そりゃそうだろ。もうちょっとマシな言い訳はなかったのかよ。

 

「はいはい、二人まとめてグリフィンドールから十点減点。……言っとくけど、もちろん宿題は消えて無くなったりしないからね? 今日のと合わせて次回にきっちり提出すること。……それじゃ、授業を始めよっか。今日の内容は魔法力への抵抗を持つ闇の生き物についてよ。学期末試験にも、二年後のフクロウ試験にも出てくる内容だからちゃんと覚えるように。」

 

「マジかよ、血も涙もないな。お前のとこの『お母上様』といい勝負じゃないか?」

 

「残念ながら、我が愛すべき母上どのは血と涙に加えて常識と分別もないからな。まともな人間じゃ勝負にならないさ。」

 

大して気にしてない様子の悪童たちは、そのまま取り出したくしゃくしゃの羊皮紙に授業の内容を書き取ろうとするが……小鳥の形をした折り紙がジェームズ・ポッターの頭に舞い下りたかと思えば、物凄い勢いで脳天を突き始めた。授業中にこっそり送る手紙か。この辺は今と変わらないな。

 

「何だよ、一体誰が──」

 

小鳥を捕獲して開いた途端に苦い顔になったジェームズ・ポッターの後ろに回って、ハリーと共に文面を覗いてみると……ふーん? どうやらこの時期の二人はまだ仲が良くなかったらしい。

 

「『もし僅かにでも良心が残っているなら、これ以上グリフィンドールの点を減らさないで頂戴。L.E.より、大間抜けの目立ちたがり屋さんへ』か。……結構キツいこと書くじゃんか、お前の母ちゃん。」

 

「あー……二人が仲良くなったのは上級生になってからだったみたい。この頃はちょっと嫌われてたのかも。」

 

「『ちょっと』?」

 

手紙を読むジェームズ・ポッターに対して明らかな軽蔑の目線を向けているリリー・エバンズを指差してみると、ハリーは自信のなさそうな顔で黙り込んでしまった。……ただまあ、二人がいずれ仲良くなるってのはハリーの存在によって証明されている。心配することはないはずだ。ないよな?

 

かなり落ち込んだ表情のジェームズ・ポッターを横目に考えていると、コゼット・ヴェイユに顔を近付けてジッと見ている咲夜の姿が目に入ってきた。ハリーがこっちのやり取りを気にしているように、咲夜は自分の母親のことが気になるらしい。

 

「フラン? 間違っちゃってるよ、そこ。クィンタペッドは四本脚じゃなくて五本脚。」

 

「でもでも、元々は人間なんでしょ? 余計な一本はどこから出てきたの?」

 

「それは……私も分かんないけど、そういう呪いを受けたんじゃない?」

 

「うぅー、直すのめんどくさいなぁ。フラン、羊皮紙削るの苦手だよ。すぐビリってなっちゃうんだもん。」

 

ふくれっ面で間違い箇所を修正し始めたフランドールに、コゼット・ヴェイユは優しげな笑みを浮かべて提案を送る。

 

「それじゃあ、今度のホグズミード行きの時に消せるインクを買いに行こっか。私も色インクを補充しないとだし。」

 

「ん、行く! いつだっけ? 今週末?」

 

「もう、せっかちさんだなぁ、フランは。もうちょっと先だよ。イースター休暇の最後の方。」

 

「そっか、イースター休暇ももうすぐなんだ。……楽しみだね、コゼット。」

 

……こうして見ると、一番変わったのはフランドールなのかもしれないな。見た目こそ今と同じだが、発する雰囲気は正反対だ。昔の天真爛漫とした太陽のようなフランドールと、今の謎めいた月のようなフランドール。

 

きっと成長せざるを得なかったのだろう。望む、望まぬに関わらずだ。私に置き換えてみれば、咲夜を喪ったようなもんなのだから。……アリスも、フランドールも、こういう過去を背負って生きてきたわけか。

 

滅多に見せない切なげな表情で母親の姿を眺める咲夜を前に、霧雨魔理沙は深々と息を吐くのだった。

 

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