Game of Vampire   作:のみみず

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電気街

 

 

「……凄い人の数ですね。人口密度が高い街なのは知ってましたけど、こうやって実際に見てみると新鮮な気分になります。」

 

古さと新しさをシェイカーに突っ込んで、ぐちゃぐちゃに混ぜたものを組み直している最中のような……何とも言えない不思議な街並みだ。香港とはまた別の意味で混沌としているな。人気の無いビルの屋上から日本の電気街の風景を見下ろしつつ、アリス・マーガトロイドは隣のリーゼ様に声をかけていた。

 

パチュリーの転移魔法で宿泊先のホテルのトイレに飛ばされて、三人で個室から出てきたことに奇異の視線を送ってきた不幸な女性の記憶を修正した後、チェックインして昼間は動けないレミリアさんを部屋に残してからリーゼ様と二人で東京見物に訪れたのである。

 

先ずは雰囲気を知ろうということで、フランから頼まれたゲーム機を買うためにホテルの人に聞いた電気街に来てみたわけだが……あの人混みに入っていくのはちょっと気後れしちゃうぞ。杖を握りながら言った私に、同じく杖を手にしているリーゼ様が返事を寄越してきた。土地勘もないし、ここまではビルからビルへと短距離の姿あらわしで移動してきたのだ。

 

「ふむ、一言で表わせば……『チープ』な街だね。安物のプラスチック製品を見た時みたいな気分になるよ。外側は光沢があって滑らかなものの、ペラペラとどこか頼りない感じだ。綺麗だが、軽い。そんな印象かな。」

 

「あー、上手い言い方ですね。何となく分かります。……でも、これがきっと次世代のマグル界の風景なんですよ。ロンドンも徐々にこんな雰囲気になっていくんじゃないでしょうか?」

 

「だとすれば私としては歓迎しかねるね。若い連中から古臭いと言われようが、こんな街に住みたいとは思えないぞ。」

 

苦笑しながら手すりに寄りかかったリーゼ様に、私も同じ表情で首肯を返す。観光する分には興味深いものを感じるが、確かに住みたいとは思えないな。見慣れぬ他国だというのも多少は影響してそうだ。

 

似通った感想を抱いたニューヨークのことを思い出したところで、ふと生じた疑問をリーゼ様に送った。

 

「そういえば、神秘は大丈夫なんですか? ここもかなり近代的な街ですけど。」

 

「平気だよ。感覚としてはロンドンと変わらないか、むしろ若干濃いくらいかな。……そういう意味ではまだマシかもね。この国には人外の住む隙間がギリギリ残っていそうだ。」

 

「日本にはそういった逸話が多いみたいですしね。ニューヨークに行った時はレミリアさんがイライラして大変でしたから、大丈夫そうなら良かったです。……とりあえず、あの辺に下りてみましょうか。」

 

ビルに挟まれた無人の路地裏を指差してみると、リーゼ様はこくりと頷いて姿くらましで消えていく。私も杖を振って地上に下りてから、二人で杖を仕舞って大通りがあるはずの方向へと歩き始めた。治安が良い国だと聞いていたのだが、さすがに路地裏ともなるとスプレーの落書きが目立つな。それでもロンドンのダウンタウンに比べれば遥かにマシだが。

 

ちなみに、服装はもちろんマグル界でも違和感のないものに着替えてきている。リーゼ様は翼を仕舞うためのやや大きめのパーカーとカーキのハーフパンツ、それに美鈴さんが何処かで買ってきたワッペンだらけの黒いキャップ姿で、私はロングスカートとセーターだ。……待てよ? これって所謂デートと呼ばれる状況なんじゃないか? 強弁すればそうだと言えなくもないはずだぞ。

 

更に言えば、出発前に二人っきりで温泉に入るという約束も取り付けてあるのだ。粘って良かった。諦めなくて良かった。そして何より撮影機能付きの人形を作っておいて本当に良かった。ひょっとすると今回の日本滞在中に生涯秘すべき家宝が生まれることになるかもしれない。ホテルに戻ったら偽装用の『背中流し機能』を急いで設定しなくては。

 

あまりにも楽しみなイベントのことを考えながら、ポーカーフェイスでリーゼ様と一緒に歩いていると……これは凄いな。大通りに出た途端、人の密度が一気に増したぞ。左右のビルの看板には『パソコン』だの『エアコン』だのといった直接的すぎるカタカナが並び、道の端にはビラや風船なんかを配っている人が沢山居るようだ。

 

「……車道が場所を取ってる分、下手すると香港よりも混んでそうだね。迷子にならないように気を付けるんだよ? 私から離れちゃダメだぞ。」

 

「だから私は方向音痴じゃないんですってば。……でもまあ、この街だと確かに逸れちゃうかもしれませんね。一応手を繋いでおきますか?」

 

よし、今のは自然な流れだったんじゃないか? 果たしてリーゼ様もそう思ったようで、別段迷わずに左手を差し出してきた。凄いぞ、私。やるじゃないか。

 

「おや、いつまで経っても子供だね、アリスは。不安なら繋いでおこうか。」

 

「そうしましょう。慣れない土地で離れ離れになっちゃうと面倒ですし。」

 

ううむ、文句一つない素晴らしい展開だな。もしかしたら日本は私に幸運を運んできてくれる国なのかもしれない。柔らかい手の感触を全神経を集中させて味わいつつ、二人で一緒に大通りを進んで行く。

 

ビルから下げられたカラフルな垂れ幕には漢字、ひらがな、カタカナ、英語が交じった多種多様な売り文句が描かれ、大通りに繋がる細い道では車が歩行者の間を縫うようにして通行している。……実に情報量が多い街だ。日常的に見ている人間なら必要な情報を選別できるのだろうが、他国の魔法界出身となると処理しきれないぞ。

 

リーゼ様も暫くは物珍しそうに異国の喧騒を眺めていたが、やがて顔を上げると私に問いを放ってきた。むう、ボーイッシュな格好がグッとくるな。今なら何をされても許しちゃいそうだ。

 

「それで、フランには何を買えばいいんだい? ピコピコを頼まれたんだろう?」

 

「えーっと……これですね。私もよくは分からないんですけど、人気の品なのでゲーム屋に行けば絶対にあるそうです。」

 

片手で取り出したフランの『似てるのがあるから間違えないように! それと、レミリアお姉様には内緒にすること!』という書き込みが入ったチラシのようなものを見せてみると、リーゼ様はかっくり首を傾げてから困ったように口を開く。チラシには様々な商品が載っているが、フランは買うべき物に丸を付けてくれたらしい。

 

「『似てるの』どころか、全部同じに見えるぞ。何が違うんだい?」

 

「うーん、色じゃないですか? 形も微妙に違うみたいですし、分かる人には分かるんですよ、多分。」

 

「まあいいさ、可愛い妹分のために探してあげようじゃないか。……それにしても、建物がイメージと全然違うね。もっとこう、瓦の屋根が並んでるもんだと思ってたんだが。上から見たときもちらほらとしか無かったぞ。ビルばっかりだ。」

 

「首都の中心部で、尚且つ商業地区だからじゃないでしょうか? 普通の住宅街に行ったら沢山あると思いますよ。」

 

ヨーロッパ系が珍しいのだろうか? すれ違う人がやたらと顔を見てくるのにやり難さを感じつつ応じてみれば、リーゼ様は難しい顔で考え込みながら返答を呟いた。……ポニーテールに纏めた黒髪がゆらゆらしているのがどうにも気になっちゃうな。非常に触り心地が良さそうだ。

 

「ってことはだ、この辺の殆どの建物は新しく建ったものってことかい?」

 

「かもしれませんね。日本はマグルの大戦後の半世紀で一気に発展したみたいですし。」

 

「ふぅん? 住んでる連中は大変だろうね。私はロンドンの変化でさえも追いつけないってのに、よくもまあ適応できるもんだ。」

 

しみじみと言いながら『牛丼テイクアウト』と書いてある地面に置かれた旗を興味深そうに見つめていたリーゼ様は、やおら何かに気付いたような表情になってその先にある看板を読み上げる。

 

「『テレビゲーム』って書いてあるぞ。あそこじゃないか?」

 

「見てみましょうか。」

 

店頭に置かれたディスプレイ用らしきテレビにはフランがいつもやっているような画面が映っているし、ここで間違いなさそうだ。ガラスのドアを開けて店内に入ってみると……うわぁ、物凄い狭さだな。ひと二人がギリギリすれ違える程度の隙間を残して、あとは独特な絵の描かれたパッケージが並ぶ棚で埋め尽くされている。謎のケーブルや機械なんかもちょこちょこ置いてあるらしい。

 

「ああ、これはダメそうだね。私にはさっぱり分からんよ。頼んだぞ、アリス。」

 

「んん……私も全部同じような物に見えちゃいますし、店員さんに聞いてみましょうか。」

 

「それが賢明な選択かもね。……驚いたな、ピコピコにはアダルト向けもあるのか。」

 

なんだそれは。恐ろしい世界だな。堂々と『アダルト向け美少女ゲーム』と書かれた区画へとリーゼ様が引き寄せられるのを急いで止めつつ、商品を整理しているエプロン姿の男性店員へと話しかけた。

 

『すみません、これって置いてますか? この、丸が付いている商品。英語のチラシですけど、日本語の製品で構いませんから。』

 

『……あの、置いてます。持ってきますので少々お待ちください。』

 

私の顔を見て驚いたように停止してしまった店員だったが、我に返ると慌てて店の奥へと駆けて行く。……変だったかな? 私の日本語。結構自信あったんだけど。

 

「驚いてたみたいですし、もしかしたら発音が変だったんですかね?」

 

「いやまあ、他国の人間から急に声をかけられたからだと思うよ。さすがに今はそこまで珍しくもないはずだが、パチェによれば昔は閉鎖的な国だったらしいからね。」

 

「私としてはよく分からない感覚ですね……。」

 

純血主義……とは全然違うだろうし、人間至上主義者の他種族に対する反応とも違う気がする。既知への排斥というよりは、未知への困惑ってのが近いのかな? 同じ島国でも大航海時代に世界を広げたイギリスとは違って、日本は長いこと鎖国していたからなのかもしれない。

 

うーむ、日本の歴史ももうちょっと詳しく学んでおいた方が良さそうだな。そりゃあ話に聞く幻想郷はまた違うはずだが、調べておいて困るということはあるまい。後で本屋に行って歴史の本でも買ってみようかと考えていると、商品を抱えた店員が小走りで戻ってきた。

 

『あのですね、こちらが本体になるんですけど……これで遊ぶにはこっちのカセットが必要なんです。持ってますか?』

 

『あー……じゃあ、それも買うわ。』

 

『ただ、カセットにも種類がありまして。まだ本体が発売したばかりなので四種類しか置いてないんですが、つまりはゲームの内容がこれで決まるんです。こっちがハードで、こっちがソフトってことですね。どれにしましょう?』

 

私が浮かべている表情を見て、ゲームに詳しくないことを察してくれたのだろう。男性店員は何とか噛み砕いて説明しようとしてくれているのだが……まあうん、四種類だけなら全部買っちゃうか。大した値段じゃなさそうだし。

 

『……全部買うから、纏めてお会計して頂戴。』

 

『かしこまりました。では、こちらへどうぞ。』

 

いやはや、こんなことなら出発前にもう少し詳しく聞いておくべきだったな。ちょびっとだけ後悔しながらレジへと進み、店員がゲーム機を梱包してくれるのを横目にリーゼ様へと問いを飛ばす。

 

「いいですよね? 帰った後で違うって言われる方が怖いですし。」

 

「だね。フランも選択肢が増える分には怒らないだろうさ。これが最善の選択だと思うよ。」

 

リーゼ様と深々と頷き合いながら会計を済ませて、狭苦しい店から出て大通りに戻る。これで一応目標達成だ。自然なタイミングですぐさま手を繋ぎ直しながら、不可解そうな表情で『モミモミ椅子』という看板を見ているリーゼ様に向かって質問を送った。

 

「次はどうします? 目に付いた店にでも入ってみますか?」

 

「んー……先ずは観光案内の雑誌でも買ってから、カフェで作戦会議をしようじゃないか。この街は当てもなく歩くには意味不明すぎるしね。」

 

「それじゃあ、とりあえず本屋を探しましょうか。ちょうど買いたい本もあったんです。」

 

本屋とカフェか。ますますデートっぽいな。楽しすぎる展開に心を躍らせながらも、リーゼ様の手を引いて人混みの中を歩き出すのだった。

 

───

 

そしてさほど苦労せずに見つけ出した本屋で観光案内の雑誌を入手し、適当に入ってみたカフェらしき建物の店内。注文した『本日の紅茶セット』を待ちながら、私とリーゼ様は手に入れた雑誌を捲っていた。

 

「当然といえば当然だが、地区によって特色があるみたいだね。……私は食べ物が気になるかな。アリスは?」

 

「私はもちろん人形と、あとは洋服ですかね。着物とか買ってみませんか? ベタベタな観光客って感じの選択かもですけど、こんな機会にしか買えないわけですし。」

 

「着物は基本的にテーラーメイドなんだろう? だったら翼がある限りは無理だよ。見えなくは出来ても消せるわけじゃないからね。……そういえば、温泉はどうするんだい?」

 

「もう専門の情報誌を買ったので、今日の夜にでも詳しく調べておきます。」

 

本屋に大量にあったから、良さそうなのを十冊ほど仕入れておいたのだ。そりゃあ可能性としては極小かもしれないが、もしもリーゼ様が温泉を気に入った場合、何度も行けるという『ジャックポット』は残されているのだから。ここまで幸運が続いている以上、もしかしたらもしかするかもしれないぞ。

 

どうにかキリッとした顔を保った私の言葉を聞いて、リーゼ様は若干気が乗らないような表情ながらも頷いてくる。むむ、良くない兆候だな。冷静になって考えを翻されたらマズいし、明日にでも早速行くことにしよう。

 

「先に言っておくが、露天風呂とかいうのは嫌だぞ。私も同じような雑誌をチラッと見たけど、あんなもん淑女が入るべき場所じゃないからね。絶対に御免だよ。」

 

「もちろん除外してます。二人っきりで、内湯で、綺麗な温泉にしますから。」

 

「ならいいんだけどね。」

 

こうなったからには、予約が埋まっていたら忘却術を使ってでも確保しなければ。私は悪い魔女なのだ。目の前に桃源郷が見えている以上、他人への迷惑など気にしてられない。ここは強硬手段でいかせてもらうぞ。

 

きっと私が魔法を学んだのはこの日の為なのだろう。内心で固く決意したところで、女性店員がトレイに載せた紅茶を運んできた。結構本格的だな。きちんとポットごと用意してくれたらしい。

 

『こちら本日の紅茶セットです。本日の茶葉はダージリンで、ケーキはチーズケーキとなっております。』

 

『どうもありがとう。』

 

注いでくれたお礼を言って、店員が去って行った後に口を付けてみると……んー、微妙。同時に飲んだリーゼ様もそう思ったようで、苦笑しながら感想を寄越してくる。

 

「ダージリンというか、厳密にはブレンドなのかな? 不味いとまでは言わないが、少なくとも美味くはないね。」

 

「まあ、値段もお手頃ですし、妥当なところじゃないですか? ポットに入ってたのが期待値を上げちゃいましたね。」

 

「そうかもね。……何にせよ、飲めないほどじゃないさ。」

 

ふむ、大人しく紅茶を口に含むリーゼ様は、昔よりも随分と丸くなった気がするな。五十年前とかなら『こんなもん飲めたもんじゃない』と突っ撥ねていたはずだ。あの頃のお嬢様然としたリーゼ様も偶には見てみたいぞ。

 

セットメニューみたいに日替わりで『苛烈リーゼ様』と『穏やかリーゼ様』を交互に楽しめれば最高だろうな。我ながら訳の分からないことを考え始めた私を他所に、当の穏やかリーゼ様はフォークでチーズケーキを切り分けながら疑問を放ってきた。

 

「しかし、他のカンファレンス参加者は大丈夫なのかね。各国の要人ともなれば、魔法使い『らしい』魔法使いが多いわけだろう? そんな集団を一気に受け入れる日本魔法省はさぞ迷惑していることだろうさ。随行員を制限したのも、実はその辺の懸念があったからなんじゃないのか?」

 

「その対策かは分かりませんけど、参加者には事前に案内用の冊子が配られたみたいですよ。ちょっと待っててくださいね、確かここに……ほら、これです。」

 

私が拡大呪文のかかった布袋から取り出したそこそこ分厚めの冊子を渡すと、リーゼ様は興味深げな表情で受け取ってそれを開く。表紙からして気合いが入っているな。やけに良い品質の紙だし、見事な墨絵で日本の観光名所がいくつか描かれている。

 

「ふぅん? ……神経質なほど丁寧な案内だが、問題は他国の連中がこれを真面目に読むかどうかだね。」

 

「さすがに参加者は政府高官とかなんですから、ちゃんと読むはずですよ。……多分。」

 

なんか、言ってて自信がなくなってきたぞ。レミリアさんなんかは一顧だにしなかったし、かく言う私もそこまで真面目に読んではいない。そしてリーゼ様もパラパラと流し読んだだけで私に返してきてしまった。もしかしたら他国の人たちもこういう反応なのかもしれないな。

 

私が冊子を作った人に同情の念を送ったところで、チーズケーキを一口食べたリーゼ様が観光の件に話を戻す。

 

「ま、その辺はどうでもいいさ。明後日から三日間はマホウトコロでカンファレンスで、その後も少し残るんだろう? 残してきた咲夜や美鈴なんかには悪いが、のんびり観光するとしようか。」

 

「それは大賛成ですけど、八雲さんとの話し合いはいつ行うんですか?」

 

「藍のやつ、詳しい日にちを指定していかなかったんだよ。日本に来たら迎えがあるとだけ知らされているんだ。……困ったもんだね。こういう伝え方をされると、予定を立てるのが──」

 

リーゼ様が文句らしきことを口にした瞬間、何の予兆もなく私たちの間の空間に拳大の裂け目が開いて、そこからひらりと一枚の紙が落ちてきた。これが噂に聞く『スキマ』? ……まさか、今のやり取りも見られてたってことか?

 

「『カンファレンス一日目の昼間、ホテルまで迎えに行きますわ』ね。……おい、覗き屋。こんな迂遠なことをせずに直接来て話したまえよ。」

 

紙に書かれた文字を読んだリーゼ様が虚空に向かって抗議を呟くと、再び裂け目が開いて返答らしきものが書かれた紙が落ちてくる。なんとも珍妙なやり取りだな。

 

「……ふん、面倒くさいヤツだな。」

 

「なんて書いてあったんですか?」

 

「『私と話す前に、先ずはご自分の目でこの国のことを知ってもらいたいんです』だとさ。他人を駒にするのは好きだが、駒にされるのは気に食わん。非常に苛々してくるよ。」

 

「……それに、見られているのを自覚できないってのも厄介ですね。」

 

うーむ、パチュリーが昔言っていた通り反則級の能力だな。妙な存在と関わってしまったことを悲しむべきか、それとも敵に回さなかったことを喜ぶべきか。私が知る限りではぶっちぎりで強力なその力について思考を巡らせていると、リーゼ様がチーズケーキの最後の一口を頬張りながら肩を竦めてきた。

 

「まあ、考えるだけ無駄さ。どれだけ考えたところで対処のしようがないわけだしね。だったら気にしないのが一番だ。……それより、さっさと飲んでショッピングに戻ろうじゃないか。キミはあの変な形の人形が気になっているんだろう?」

 

「気になっているというか……その、新しい分野だったので知っておくべきかと思いまして。」

 

「じゃあ見に行ってみようじゃないか。その後別の地区に行って洋服でも見つつ、美味しそうな食事処を探せばいいさ。」

 

「そうですね、そうしましょう。」

 

急いでチーズケーキを片付けながら、再び観光雑誌を捲り始めたリーゼ様に同意を返す。そうだった、今は『実質デート』中なんだった。この貴重な時間を無駄にするわけにはいかない。目一杯楽しんでおかなくては。

 

まだまだ余裕が残っている夢の日々に心を弾ませつつ、アリス・マーガトロイドは満面の笑みでチーズケーキを口に運ぶのだった。

 


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