Game of Vampire   作:のみみず

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異常者

 

 

「……どうしたんですか? リーゼ様。」

 

アンニュイな表情で窓越しの東京の雑踏を眺めるリーゼ様へと、アリス・マーガトロイドは恐る恐る問いかけていた。もしかして、さっきまでやっていた洋服選びがつまらなかったんだろうか? あるいはこのカフェ……というか、ドーナツ屋が気に食わないのかもしれない。ドーナツそのものはともかくとして、アイスティーはお世辞にも美味しいとは言えない味だし。

 

三日間続いたカンファレンスが『無事』に終わり、レミリアさんが仕事のために帰国したのが昨日の夜。余裕のあるリーゼ様と私は東京に残って観光を楽しんでいるのだ。ホテルでもリーゼ様と二人っきりだし、出かけた先でも二人っきり。私としては夢のような状況なわけだが……マズいな、テンションが上がりすぎて着せ替え人形状態にしたのが問題だったか?

 

洋服屋を巡った午前中の所業を思い返してどんどん頭が冷えてきた私に、リーゼ様は窓際のカウンターテーブルに頬杖を突きながら返事を寄越してくる。

 

「いやなに、大したことじゃないんだけどね。カンファレンスが終わった直後、私はレミィの連絡事項を伝えるためにゲラートのところに行っただろう? その時彼とちょっとした昔話をしたんだよ。それを思い出していたのさ。」

 

「昔話?」

 

「ゲラートにしては珍しいことに、あの暗殺者の言葉に関して思うところがあったようでね。……つまり、ヨーロッパ大戦の頃の話をしてたってわけだ。」

 

「議場ではグリンデルバルドが圧倒してたみたいですけど……ひょっとして、本心では気にしてたってことですか?」

 

似合わないな。私はグリンデルバルドの人となりに詳しいわけではないが、あの老人が犠牲者に懺悔するようなタイプだとは思えない。暗殺者に対する反論も本心からのものに聞こえたぞ。

 

意外に感じて首を傾げる私へと、リーゼ様は苦笑しながら返答を返してきた。

 

「んー、キミが考えてるような『気にしかた』じゃないと思うよ。議場でゲラートが言った台詞こそが彼の本音なんだろうさ。必要なければやらないが、必要とあらば迷わずやる。それがゲラート・グリンデルバルドって人間だからね。舗装されていない道を拓くのに、足元の草木を気にしてたら一歩も進めないのはよくご存知のはずだ。」

 

『より大きな善のために』か。グリンデルバルドに悪人という言葉は似合わない気がするが、善人では絶対にないだろう。一人の魔法族のために一人のマグルを殺し、二人の魔法族のためなら一人の魔法族を殺すような男なのだから。冷徹な灰色の老人。苛烈すぎる改革者。

 

私がグリンデルバルドのことを考えている間にも、どこか暗い声色のリーゼ様の話は続く。

 

「ゲラートが気にしていたのは、当時の自分は最善手を選べていたのかって点だよ。昔はゲラートも私も、ついでに言えばフランもまだまだ未熟だったからね。思い返してみると反省点が山ほどあるんだ。……要するに、二人で大昔の『反省会』をしてたってわけさ。あの頃の自分たちをぶん殴りたくなるような反省会をね。」

 

疲れたように笑うリーゼ様は、そのまま力なくドーナツを食べ始めた。うーん、難しい話題だな。やったこと自体ではなく、より『効率化』できたであろうことを反省しているわけか。あの暗殺者が聞いたら憤慨しそうな話ではないか。

 

私もドーナツを一口頬張ってから、ガラス越しの道行く人々を横目に質問を送る。先日行った電気街と同じく、平日だというのにお祭りでもやっているかのような混みっぷりだ。

 

「リーゼ様はどうなんですか? 『最善手』以外の部分に関しては後悔してます?」

 

「自分でも酷い話だとは思うんだが、実は全然してないんだ。初手の打ち損ないと、最後に負けたのが悔しかったくらいかな。……見損なったかい?」

 

「私がリーゼ様を見損なうってのは天地がひっくり返っても有り得ませんよ。諸手を挙げて賛成は出来ませんし、今だったら何とかして止めようとすると思いますけど……まあ、結局はリーゼ様の味方になっちゃうんでしょうね。」

 

そこが私の弱さだな。もしリーゼ様が世界の全てにとっての不利益になったとしても、私はきっと目の前の吸血鬼を裏切れないだろう。こればっかりは善悪や理屈じゃないのだ。リーゼ様に対する親愛が、思慕が、敬意がそれを許してくれないのだから。

 

困ったような苦笑で言った私へと、リーゼ様はほんの少しだけ真紅の瞳を細めた後で……身内にしか見せない優しげな表情で手を伸ばしてきた。

 

「んふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。キミは本当に可愛いね、アリス。」

 

背伸びして頭を撫でながらの言葉に、されるがままでその感触を味わう。……最近疑問に思い始めたのだが、私がリーゼ様に向けている感情はかなり倒錯的なものなんじゃないだろうか? 親代わりの見た目が幼い同性の吸血鬼に六十年近く片想いしてるってのは、精神分析医に言わせれば憤死するほどの異常っぷりなのかもしれない。

 

ただまあ、それに気付いてからは諦めて開き直ることにしている。家族への愛情だと無理に納得しようとすること半世紀以上。これだけ時間をかけてダメだったならもうダメだ。それなら異常者らしく幸せを目指すことにしようじゃないか。フロイトだのラカンだのが何を言ってこようが知ったこっちゃあるまい。開き直った私は無敵だぞ。そう思って積極的に行動したからこそ日本旅行中は全てが上手くいっているわけだし。

 

心の中の分析医たちに向かってあっかんべーをしていると、リーゼ様が手を引っ込めて話に戻ってしまった。一日中しててくれても良かったのに。

 

「とはいえだ、この光景がゲラートにも理があったことを証明しているだろう? 端から端までコンクリートの地面、ぎゅうぎゅう詰めのビル、そしてそこに隙間なく蠢くマグルたち。……百年前じゃ想像も付かないような光景さ。それが魔法界なら尚更だ。『これ』の危険性を認識していた魔法使いは彼だけなんだよ。」

 

窓の外に広がる『これ』を示しながらのリーゼ様に、小さく頷いてから同意を放つ。マグル界の進歩は足し算ではなく掛け算のスピードで進んでいる。パチュリーはどこかの段階で一時的に停滞すると踏んでいるようだが、魔法界が露見する方がそれより早いだろう。

 

「確かに先見の明はありましたね。……もしもダンブルドア先生とグリンデルバルドが仲違いしていなければどうなってたんでしょうか? グリンデルバルドの思想をダンブルドア先生の穏やかなやり方で進めていれば、色々と結果が違ってた気がします。」

 

「そこだよ、そこが私にとっての最も大きな反省点なのさ。私たちが百年前の夏に余計なことをしなければ、魔法界はもっと早い段階で健全な形になっていたかもしれないわけだ。我ながら余計なことを仕出かしたもんだよ。」

 

「だけど、何もしなくても決裂した可能性だってありますよ。あるいはダンブルドア先生がグリンデルバルドに影響されちゃう可能性だって……無くはないはずです。あんまり想像は出来ませんけど。」

 

自分で切り出しておいてなんだが、そんなのは所詮可能性の話だ。『もしも』の分岐点は数え切れないほどにあったのだから。私のフォローを受けたリーゼ様は、深々とため息を吐いた後で考えを振り払うように首を振った。

 

「何にせよ、百年前の私は信じられないほどの大間抜けだったってことさ。無駄に行動力がある分手に負えないよ。……昔はこういう後悔とは無縁だったんだけどね。最近は暇な時間が有り余っている所為か、色々と考えちゃうんだ。」

 

「成長したってことなんですよ、きっと。」

 

ドーナツを食べ切って言ってみると、リーゼ様はくつくつと笑いながらアイスティーを飲み干す。

 

「ま、そうかもね。……さてと、次はどこへ行くんだい? ハーマイオニーに頼まれた物もあるし、ハリーたちへのお土産も買っておきたいんだが。」

 

「それなら、出来たばっかりだっていうデパートにでも行ってみますか? さっきチラシを貰ったんですけど、色んなお店が入ってるみたいですよ?」

 

「ふぅん? そうしてみようか。」

 

頷きながら立ち上がったリーゼ様に続いて、重ねたトレイを持って席を立つ。どうやらセルフで片付けないといけないようだ。店員の対応そのものは過剰と言えるほどなのに、変なところでサービスが抜けてるんだな。これもこの国の国民性……あるいは風習? のようなものなのかもしれない。

 

しかし、リーゼ様がそんなことを悩んでいたとは知らなかった。リーゼ様と、レミリアさんと、パチュリーと美鈴さん。この辺の四人はそういう悩みとは無縁だと思っていたのだが……変なフィルターをかけて見ちゃってたのかもしれないな。

 

でも、弱音を吐いてくれるってのは少し嬉しい。もっと寄り掛かってくれてもいいのに。自動ドアを抜けるリーゼ様を追いながら考えていると、外に出た彼女はくるりと振り返って小さな手を差し出してくる。

 

「ほら、迷子になっちゃダメだぞ?」

 

「えへへ、そうですね。」

 

私が言わずともリーゼ様の方から手を繋いでくれるとは……ダイアゴン横丁とかももっと人口過多にならないだろうか? 人混みが一気に好きになったぞ。

 

「それで、どっちに進めばいいんだい? 私にはさっぱり分からんよ。何処も同じに見えるぞ。」

 

おっと、案内をしなければ。無心で手をにぎにぎしてたのから復帰して、辺りを見渡しながら答えを返す。

 

「えっとですね……姿あらわししちゃいます? 方角は分かるんですけど、こうまで入り組んでると細かい道のりが分かり難いですし。」

 

「そうしようか。」

 

手を握っていたい私としては苦渋の決断だが、リーゼ様のテンションが落ちてしまえば元も子もないのだ。ビルの屋上を伝ってさっさと移動しちゃった方が良いだろう。

 

何やかんや理由を付けて付添い姿あらわしに出来ないかなと思案しつつも、アリス・マーガトロイドはとりあえず人気のない路地裏を目指すのだった。

 

 

─────

 

 

「あのな、こんな複雑なフォーメーションが可能だと思うのか?」

 

満面の笑みで羊皮紙に描かれた新フォーメーション案を見せてきたケイティに対して、霧雨魔理沙は額を押さえながら意見を放っていた。笑顔ってのは時に狂気を感じさせるものらしい。化粧でも隠し切れない濃い隈と、爛々と輝くブラウンの瞳。今の彼女の笑顔が正にそれだ。

 

十月も半分を過ぎ、遂に今年のシーズン開幕が近付いてきた夕食前の競技場。我らがグリフィンドールチームも練習に励んでいたわけだが、この土壇場になってケイティが新しいフォーメーションを試そうと言ってきたのである。しかも滅茶苦茶複雑なやつをだ。

 

ハリーと二人でパスの練習をするジニー、敵役のロンへとブラッジャーを打ち込んでいる新ビーターのニール・タッカー、そしてその周囲をオロオロと飛び回っているアレシア。そんな競技場の光景を眺めながら言った私へと、ケイティは笑顔をストンと掻き消して口を開く。クソ怖いな。いきなり表情を変えないでくれよ。

 

「私、昨日寝ずに考えたんだけど……ダメかな? ゴロドク・ガーゴイルズが新しく考案したフォーメーションを基礎に改良してみたの。シーカーがいかに素早くスニッチを捕るかっていうテーマを追求した、攻守のバランスが良い効率的な──」

 

「ケイティ、私はフォーメーションそのものに文句があるわけじゃないんだ。考え方としては悪くないと思うし、今のチームには向いてるとも思う。……問題はだな、新しく入った三人には難しすぎるって点だよ。このフォーメーションだと点差や相手の動きに応じての変化が多すぎるだろ? 少なくとも基本フォーメーションに慣れるまではそっちを練習させるべきじゃないか?」

 

なるべく刺激しないように、ゆっくりと冷静に説明してやると……まーた始まったぞ。躁の次は鬱だ。ケイティはどんより落ち込みながら弱々しく頷いてきた。

 

「……そうだね、その通りだよ。バカみたいに張り切って無謀なことをするよりも、先ずは基礎を固めるべきだよね。どうしてそんな簡単なことに気付けなかったんだろ? キャプテン失格だよ、私。居ない方がマシかも。」

 

「居ないと困るし、失格じゃないさ。ニールはギリギリ通用しそうなレベルになってきたし、ジニーも最近は連携が取れてるだろ? アレシアは……まあ、今も逃げ腰だけどさ。棍棒とお友達にはなったじゃんか。ここまで持ってこれたのはケイティが頑張ったからなんだぞ。」

 

「……そうかな? いけるかな?」

 

「いけるって。大体、他のチームにだって新人は居るわけだろ? うちには経験豊富なシーカーが残ってるんだし、このままいけば初戦は五分に持ち込めるはずだ。初戦で五分なら、次からは五分以上さ。つまり、優勝もそう難しくないってこった。」

 

意味不明かつ希望的すぎる観測だが、言うだけならタダなのだ。真面目くさった表情で元気付けてやると、ケイティは見る見るうちに明るさを取り戻していく。何度も繰り返した所為でこの作業にももう慣れちゃったぞ。

 

「言われてみれば……そうかも。優勝できるかも!」

 

「ああ、出来ると思うぜ。だから今は基礎を完璧にするのを目指そう。後から色々付け足せるように、最初は土台をしっかりさせないとだろ? ……ってもまあ、今日は終わりにしといた方が良さそうだな。そろそろ夕食の時間だ。」

 

「ん、本当だ。……みんなー、今日は終了! 後片付け始めるよー!」

 

練習用ボールケースに立て掛けられている時計を確認したケイティは、飛び回る五人に大声で指示を出し始めた。それを横目にボールケースへと近付いて、ハリーが投げてきたクアッフルをキャッチして中へと仕舞う。

 

「ナイスパス、ハリー。……ロン! そっちにケースを持ってくか?」

 

「いや、大丈夫だ! もう捕まえたから!」

 

毎回敵役をやっている所為でブラッジャーの『捕獲』が上手くなっているロンに手を振って了解を伝えてから、近くに下りてきたジニーへと話しかけた。

 

「どうだ? 新しいグリップの調子。」

 

「微妙かな。慣れの問題なのか相性の問題なのか、握った時に違和感があるのよ。……前のに戻すべき? それともこっちに慣れるべき?」

 

「やり難いなら戻しちゃってもいいんじゃないか? グリップなんか好みの問題なんだし。」

 

「んー、折角買ったのに勿体無いって思いが先行しちゃうのよね。……ま、それで不便になってたら意味ないか。後で戻しとくわ。」

 

肩を竦めて言ったジニーと一緒に、練習で使った小道具なんかをカゴに回収していく。道具との相性問題はクィディッチプレーヤーの常だ。私はおっちゃんの店で試させてもらってるから他よりマシだが、それでも結構お蔵入りになった道具はあるぞ。

 

「殆ど未使用なんだったら何か他の物と『トレード』しちゃえよ。その辺は他寮のチームも受けてくれるからさ。」

 

「あら、そうなの?」

 

「さすがにスリザリンは無理だろうけどな。ハッフルパフかレイブンクロー相手だったら割とよくやってるんだよ。競技場前の掲示板に書いとけば誰かが何かと交換してくれるかもしれないぜ。」

 

そういうところで助け合わないと遣り繰りが厳しいのだ。たまに一般の生徒も利用してるし、フーチなんかも普通に使ってたぞ。……ちなみに、一度だけダンブルドアがクィディッチ専用とかいう靴下を『出品』してるのも見たことがある。次に掲示板を見た時には無くなっていたが、あれは結局どうなったんだろうか?

 

ジニーに助言しながら妙なことを思い出したところで、ケイティが再び大声を張り上げた。片付け終了か。

 

「オッケー、終わり! 荷物を置いたら着替えてご飯!」

 

その簡潔な指示に従って、全員で喋りながら更衣室へと歩き出す。途中にあった用具置き場にボールケースなんかを仕舞った後、女子と男子に分かれて更衣室に入った。

 

「毎回思うんだけどさ、シャワールームくらい設置してくれたっていいよね。」

 

汗でベタついたユニフォームを脱ぎながらのジニーの言葉に、深々と頷いて同意を送る。いくら魔法で綺麗にしても、やっぱりシャワーを浴びないと気分は晴れないのだ。

 

「本当だよな。魔法でパパッと作って欲しいぜ。……あとは訓練場の方にも更衣室を作って欲しいってのもあるな。」

 

「あっちだとユニフォームのままで談話室に戻る羽目になるもんね。……今度ハーマイオニーに頼んでみよっか。監督生集会で議題にしてもらいましょ。」

 

「意味ないと思うけどな。毎年キャプテン陣が訴えても変わってないわけだし。」

 

ポニーテールに纏めていた髪を解きながら応じたところで、ユニフォームを上手く脱げないでバタバタしているアレシアの姿が目に入ってきた。……なんとも間抜け可愛い光景だな。苦笑しながらユニフォームを引っ張って脱がせてやると、すっぽり出てきた後輩がちょっと赤い顔でお礼を言ってくる。

 

「……ありがとう、ございます。」

 

「それはいいけど、髪がくしゃくしゃになっちゃってるぞ。」

 

「あぅ。」

 

少し前までは一緒に着替えるのすら恥ずかしがっていたのだが、今はさすがに慣れたようだ。慌てて髪を整え始めたアレシアに背を向けて、私も手早く着替えを進めていると……うお、びっくりした。いきなりアレシアが短い悲鳴を上げたかと思えば、部屋にどデカい打撃音が響き渡る。何だよ、一体。

 

慌てて振り返ってみると、ビーター用の棍棒を握っている半裸のアレシアと、彼女から距離を取っているジニーとケイティの姿が見えてきた。ついでに言えばべっこり凹んだロッカーもだ。

 

「ちょちょ、何やってんの? アレシア。危ないって。」

 

「私、びっくりして……その、反射的に振っちゃったんです。どうしましょう。殺しちゃったかもしれません。」

 

おいおい、やけに物騒だな。ジニーの注意に衝動的殺人の言い訳みたいな台詞を返したアレシアは、蒼白な顔で凹んだロッカーの反対側を指差している。どういうことだ? 反射的に『殺ロッカー』しちゃって意味か?

 

首を傾げる私とジニーを他所に、一足先に状況を把握したらしいケイティが苦笑しながらアレシアへと近付いていった。

 

「大丈夫だと思うよ。小汚いし、誰かのペットじゃないでしょ。……それより、今のスイングは良かったんじゃない? ジャストミートだったみたいだしさ。それをブラッジャーに当てられれば──」

 

いいから着替えろよな、風邪引くぞ。下着にシャツを羽織っただけの状態で指導し始めた躁状態のキャプテンの視線を辿ってみれば……ああ、ネズミか。どうやらアレシアはロッカーに潜んでいたネズミに驚いてしまったようだ。

 

しっかしまあ、反射的に重い棍棒を振るってのは結構凄いことだぞ。アレシアを背後から驚かすのはやめておいた方が良さそうだ。反対側の壁までふっ飛んでいる哀れな小動物を見ながら考えていると、訝しげな表情のジニーがポツリと呟いた。

 

「……スキャバーズ?」

 

「へ? スキャバーズって──」

 

そこまで聞き返したところで、即座にロッカーを開けて杖を取り出す。ジニーもスキャバーズの正体が誰なのかを思い出したようで、私と同じタイミングで杖を構えた。

 

「ケイティ、杖を持ってアレシアを守っといてくれ! ……間違いないのか? ジニー。」

 

キョトンとしている二人に注意を放ってからジニーに確認してみると、彼女はピクリとも動かないネズミを目を細めて観察した後、視線を切らずにしっかりと頷いてきた。

 

「間違いないわ。あの忌々しいネズミもどきとは十年以上一緒だったんだもの。見間違えたりしないわよ。……死んでるのかしら?」

 

「かもな。私が確認するから、援護してくれ。」

 

「気を付けてね。いざとなったら躊躇しちゃダメよ。」

 

ジニーに首肯しながら右手に杖を構えて、ポケットに入れた左手にはミニ八卦炉を握った状態でそっと近付く。そのまま一メートルほど挟んだ距離まで接近してから、慎重に上から覗き込んでみると……うん、気絶してるっぽいな。もしくはジニーの言う通り死んでるのかもしれんが。

 

「ノックダウンしちまってるみたいだ。……ハリーとロンを呼んできてくれるか? 拘束して校長のとこまで運ぼう。」

 

「それには賛成だけど、その前に全員ちゃんと服を着るべきね。とりあえずは魔法で適当にぐるぐる巻きにしちゃいましょ。こんな覗きネズミが窒息して死んだところで心は痛まないし。」

 

まあうん、そうだな。ジニーは知らないようだが、こいつの犯行はこれで二度目なのだ。死喰い人かつ覗きの常習犯に容赦する必要は一切ないだろう。ピクリとも動けないようにしてやるさ。

 

しかし、何だって今更ホグワーツに侵入してきたんだ? ハリーを狙って? それとも情報を入手するため? ……何にせよ、校長はもう帰ってきている。ここで考えているよりはあの爺さんに任せた方がいいだろう。

 

インカーセラス(縛れ)。」

 

見窄らしい覗きネズミに呪文を放ちながら、霧雨魔理沙は大きく鼻を鳴らすのだった。

 


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