Game of Vampire   作:のみみず@白月

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The Elder Wand

 

 

「……キミね、もう少し分かり易く悲しんだらどうなんだい? 無表情だとちょっと不気味だぞ。」

 

撤収作業に入っている自陣の天幕の中、無言で仮設ベッドに寝かされているダンブルドアの遺体を見つめるゲラートへと、アンネリーゼ・バートリは苦笑いで声をかけていた。泣くでもなく、話しかけるわけでもなく、ただ黙って無表情でジッと見てるってのは……うん、怖いな。怪しすぎるぞ。

 

全てが終わった後、展望台で味方との合流を果たした私とハリーは、ダンブルドアの遺体を連れて自陣へと戻ってきたのだ。そして現在ハリーは別の天幕に収容されているスネイプの顔を見に行っている。フランたちから事の経緯を伝えられているのだろう。

 

そんな中、ロシアの議長どのがダンブルドアが眠っている天幕に入ったと聞いて様子を見に来てみたわけだが……うーむ、予想通りといえば予想通りの光景だな。ゲラートが泣き崩れるってのは想像できないし、感傷的に語りかけるのも似合わない。非常に『らしい』反応だと言えるだろう。

 

天幕の入り口に寄り掛かって軽口を叩いた私へと、ゲラートはダンブルドアに視線を固定したままで返事を寄越してきた。

 

「不思議な感覚だ。どう言い表せばいいのかが分からん。……お前には分かるか? 吸血鬼。」

 

「キミの感情はキミだけのものだし、それに一々名前を付けて喧伝する必要はないさ。あるがままで心の中に仕舞っておきたまえよ。」

 

「ふん、お前にしては随分とまともな台詞だな。……唯一明確なのは羨ましいという感情だけだ。死に際を自分らしく飾れる者は多くあるまい。俺の最期もこうありたいものだな。」

 

「まあ、見事な死に様ではあったよ。主役として舞台を全うしたわけだしね。」

 

言いながらゲラートに歩み寄って、懐に持っていた物を差し出す。ダンブルドアからは何も言われていないが、これの処遇を決めるのはゲラートに任せるべきだろう。少なくとも私じゃないし、イギリス魔法省でもない。

 

「それより、これをどうにかしてくれないか? 私は興味がないし、単なる遺品として処理するのは何か違う気がするからね。ダンブルドアと共に埋めるか、あるいはキミが再び所持するか。選択肢としてはそんなところだろうさ。」

 

私が差し出した物……ニワトコの杖を見て、ゲラートは僅かに目を見開いてからゆっくりとそれを手に取った。そういえば、この杖の忠誠は今誰に向いているのだろうか? 入り組み過ぎていてよく分からんな。

 

それは嘗ての所有者たるゲラートにとっても同じだったようで、やおら杖先から火花を散らすと訝しげな表情で口を開く。

 

「ニワトコの杖か。……奇妙な状態になっているな。俺を拒絶するほどではないが、昔ほど素直というわけでもないようだ。アルバスが最後まで所有者だったのか?」

 

「んー、かなり複雑なやり取りがあったからね。一度ヴォルデモートがダンブルドアから奪った……というか、ヴォルデモートに『奪わせた』んだが、その後間接的にとはいえダンブルドアがヴォルデモートを滅したわけだ。両者が死んだからキミに所有権が戻っているのか、はたまた死んだどちらかに向いたままなのか、もしくは間を通されたハリーに移っているのか。私にはさっぱり分からんよ。」

 

全て有り得そうな気がするし、全てしっくりこない気もする。不可解な状況に置かれた最強の杖のことを考えていると、ゲラートがくつくつと笑いながら答えを返してきた。なんとも愉快そうな表情だ。

 

「恐らく、誰も本当の意味での所有者ではないのだろう。魔力の通りからすれば生きている中で最も近いのは俺のようだが、十全に使えない以上はもはや『最強の杖』とは言えん。……アルバスはこの杖の宿命をも葬っていったというわけだ。」

 

「つまり、もう単なる杖と変わらないってことかい?」

 

「それでも強力なことは強力だろうが、誰かが俺を打ち倒したところで杖の忠誠は得られないはずだ。そもそもが俺に向いているわけではないからな。……ならば、ここで行き止まりだ。未来永劫この杖を完全な状態で従えられる者は居なくなった。」

 

言うと、ゲラートは節くれだった杖をダンブルドアの組まれた手の中にそっと差し込む。ダンブルドアと共に埋葬するってことか。五十年来の持ち主の手に戻ったニワトコの杖を見ながら、嘗ての持ち主はポツリと呟いた。

 

「この杖はアルバスの手元に在ることを望むはずだ。歴代の所有者たちとは違い、アルバスは真の意味で敗北しないまま己の選択によって死んでいったからな。……ニワトコの杖はようやく終の主人を得ることが出来たわけだ。最強の杖は無敗の主人の下に。それが正しい選択だろう。」

 

「いいのかい? 昔のキミはこの杖にえらく執着していたもんだが。」

 

「分かりきった問いはやめろ、吸血鬼。今の俺が死の秘宝に対して然程興味を持っていないことは知っているはずだ。力も、不死も。最早俺にとって大きな意味を持っていないからな。……では、俺は部隊を連れて本国に戻る。スカーレットにもそう伝えておけ。」

 

おっと、もう帰るのか。……っていうか、指揮所はすぐ近くなんだから直接伝えろよな。ダンブルドアの遺体に背を向けて天幕の出口へと歩き出したワガママ議長に、ため息を吐きながら報告を送る。

 

「一応知らせておくが、ダンブルドアの葬儀は明後日ホグワーツで行われる予定だ。来るかい?」

 

「またしても分かりきった問いだな。当然不参加だ。……俺が参加しては場の雰囲気が悪くなる。そのくらいの自覚はあるさ。」

 

「いやはや、気遣いが出来る老人になってくれて嬉しいよ。頑固なだけだと疎ましがられるだろうからね。昔とは大違いじゃないか。」

 

「お前も減らず口を治したらどうだ? 少しは人に好かれるようになるかもしれんぞ。……少しはな。」

 

余計なお世話だ。これでも友人は多い方なんだからな。皮肉を口にしながらロシア闇祓いたちが待機している区画に歩み去って行くゲラートを見送って、何となしにダンブルドアの遺体へと向き直った。

 

むう、奇妙な感覚だな。私にとってのダンブルドアは……何だったんだろうか? 教師とは言えないし、友人でもない。かといって他人でもなければ、単なる知人というのも違う気がする。同盟相手? 仕事仲間? それとも協力者?

 

これは、私もゲラートのことをとやかく言えんな。いつの間にか先程の彼と同じように黙って遺体を見つめていた自分に苦笑しつつ、踵を返して天幕の出口に向かう。答えを出す前に場所を譲るべきだ。こんな中途半端な私よりも、ダンブルドアに別れを言いたい者は沢山居るはずなのだから。

 

自嘲しながら天幕を出ると、入り口から少し離れた場所に立っているシャックルボルトが話しかけてきた。顔を見たいという魔法使いが多すぎるので、彼が『入退室管理』をしているのだ。レミリアの補佐から葬儀屋の真似事まで。闇祓い局が誇る便利屋も大変だな。

 

「もうよろしいのですか? バートリ女史。」

 

「ああ、もういいよ。撤収にはまだ時間がかかりそうかい?」

 

どうやら私が天幕の中に居る間にパチュリーがドームを解除したらしい。宵闇に沈む空を見上げながら聞いてみると、シャックルボルトは首を振って返答を寄越してくる。

 

「いえ、もうすぐ終わります。我々闇祓いはオーストリア魔法省への引き継ぎのために暫く残りますが、他国からの援軍や魔法戦士の方々は順次ポートキーで帰還する予定です。」

 

「ちなみに、ロシア勢は勝手に帰るそうだ。さっき指揮官どのが言ってたよ。レミィにも伝えておいてくれたまえ。」

 

指揮所に戻るのは面倒なので伝言の伝言を頼んでみれば、シャックルボルトは嫌な顔一つせずに了承の首肯を送ってきた。使い易すぎて損するタイプだな、こいつ。

 

「かしこまりました、伝えておきます。」

 

「任せたよ。」

 

苦労人の闇祓い局副長にひらひらと手を振った後、立ち並ぶ天幕の間を縫って歩き出す。ハリーのことはフランたちに任せておいて大丈夫だろう。ホグワーツに帰ったら話す機会はいくらでもあるわけだし、ハリー本人も今はスネイプのことが気になっているはずだ。

 

正直なところ、私もスネイプが何故死ぬことになったのかは結構気になっているのだが……それより先ずはアリスだな。自陣に戻る際には毅然としていたが、内心では思うところがあるはずだ。どこかできちんと話を聞いてやらなければ。

 

キョロキョロと見慣れた金髪を探しながら片付けが始まっている陣地を進んでいくと、同じような仕草をしている紫しめじが反対側から歩いてくるのが目に入ってきた。考えることは一緒か。……いや、ダンブルドアの居る天幕を探しているって可能性もあるな。

 

「やあ、パチェ。お疲れさん。ずっとドームを維持していたんだろう?」

 

とりあえず軽めに言葉を放ってみると、パチュリーはいつも通りの様子で私に近付いてくる。見たところ落ち込んでいる感じはしないが、こいつのことだからな。内心ではどう思っているのか分からんぞ。

 

「本を読みながらだったから大して疲れてないわよ。面倒なのは起動までであって、維持の方は魔力を注ぐだけだしね。……そんなことより、アリスはどうなの?」

 

「私も今探しているところだが……キミ、どこまで状況を把握しているんだい?」

 

「概ね把握しているわ。維持の途中、レミィから何度か報告をもらったから。」

 

「なら、ダンブルドアのことも知っているんだろう? 会わなくていいのかい?」

 

紫の瞳を見据えながら問いかけてやると、パチュリーはふと何かを思い出すような顔になったかと思えば……小さく首を横に振ってきた。

 

「会わないわ。もう別れは済ませたもの。これ以上は蛇足よ。」

 

「……まあ、キミがそう言うならいいんだけどね。えらくサッパリしてるじゃないか。」

 

「あら、心配してくれるの? 珍しいこともあるもんね。」

 

ええい、普通するだろうが。皮肉げに微笑みながら言ってきたパチュリーは、遠くを見つめるような表情に変わって続きを語る。……ふむ、無理しているという雰囲気ではないな。

 

「私は生きているダンブルドアを見送ったわ。私にとっての物語はそこで終わりなの。エピローグも、あとがきも無し。だったら後は本を閉じるだけよ。」

 

「……望めば続きを読めるのにかい?」

 

「読みたくないもの。他人の別れ方に文句を付けるつもりはないけど、私はもう本を閉じて本棚に仕舞っちゃったのよ。である以上、いつか読み返す気になるまで開くつもりはないわ。」

 

いつもより比喩表現が多くて分かり難いが、とにかく死に顔を直接見るつもりはないってことか。……うーん、パチュリーにしては感情的な選択だな。ダンブルドアの死を認めたくないからというよりは、認めているからこその選択なのだろう。

 

どこまでも不器用な友人に苦笑しつつ、再び歩き出しながら返事を返す。まあ、私からは文句などないさ。決着の付け方は人それぞれだ。パチュリーがそれで納得できるというのであれば、彼女の友人たる私から言うべきことは何もない。

 

「ならいいさ。……それじゃ、アリスを探すとしようか。あの子はキミと違って繊細だからね。きちんと気遣ってあげないとだろう?」

 

「一言多いわよ、性悪吸血鬼。こんな日くらいは皮肉を抑えられないの?」

 

「んふふ、それは無理な相談だ。キミが本を読むように、私は皮肉を呟くのさ。それが妖怪ってもんだからね。」

 

騒がしい天幕の間を紫の友人と並んで進みながら、アンネリーゼ・バートリはいつものように肩を竦めるのだった。

 

 

─────

 

 

「探したよ、アリス。」

 

翼を揺らしながら私が居る天幕へと入ってきたリーゼ様に、アリス・マーガトロイドは困ったような苦笑を返していた。ううむ、リーゼ様は私が会いたいと思った時に必ず現れるな。どうして分かっちゃうんだろうか?

 

「すみません、ちょっと一人で考え事をしてたんです。今椅子を──」

 

そこまで言った私が杖を取り出す間も無く、リーゼ様の後ろから入ってきたパチュリーが杖なし魔法でティーテーブル、椅子、そして紅茶を出現させる。パチュリーも一緒だったのか。彼女がここに居るということは、周辺を覆っていたドームは解除されたということだ。思ったよりも長く考え込んでいたらしい。

 

「準備する必要はなさそうですね。ありがと、パチュリー。」

 

「構わないわ。それより……その、どうなの? 話したいことがあるかもしれないと思って来たわけだけど。いやまあ、無いなら別にいいんだけどね。あるなら聞くわ。もちろん無理に話せって言ってるわけじゃないのよ? あるなら。仮にあるならの話よ。」

 

やけに早口で喋りながら椅子に座ったパチュリーは、そわそわと組んだ指を動かしていたかと思えば……一つため息を吐いてからリーゼ様に言葉を放った。どうやら気を使わせちゃったようだ。

 

「……やっぱり私には向いてないわ。進行は任せたわよ、リーゼ。」

 

「んふふ、相変わらずのひどい導入だったが、何をしに来たのかは伝わっただろう? アリス。」

 

「ええ、それはもう充分に。……だけど、私は大丈夫です。色々と経験して生きてきましたから。自分でも予想外なくらいにきちんと受け止められてます。」

 

後悔もあるし、悲しくもある。でも、リドルはきちんと死ぬことが出来たのだ。もし分霊箱が残ったまま死んだとしたら、向かう先は生き地獄だっただろう。それを避けられたことに安心したというのが大きいのかもしれない。

 

こればっかりはダンブルドア先生とスネイプに感謝するばかりだな。スネイプの方は救おうとしてやったわけではなさそうだったが、それでも結果は結果だ。落ち着いた後で色々と考えてしまうのは容易に想像できるものの、今は冷静な気分で受け止められている……気がする。少なくとも自分では。

 

そんな私の表情をジッと覗き込んでいたリーゼ様だったが、少しすると柔らかく息を吐きながら口を開いた。本心からの言葉というのが伝わったらしい。

 

「……そうか、それならいいんだけどね。何かして欲しいことがあったら遠慮せずに言いたまえよ?」

 

「えへへ、それじゃあ何か考えておきます。それまで取っておいてください。」

 

「よしよし、何を言われるのかを楽しみに待ってようじゃないか。」

 

そう言ってクスクス笑ったリーゼ様に笑みを返してから、取り出したクリスタル製の小瓶をテーブルに置く。リドルのこともあるが、先程まで私が考え込んでいたのはこっちの件だ。スネイプから預かった記憶。彼の遺した『説明』。

 

私がコトリと置いたそれを見て、興味深そうな表情のパチュリーが質問を寄越してきた。私がスネイプにしたのと同じ質問をだ。

 

「あら、記憶ね。誰のものなの?」

 

「スネイプの記憶らしいの。行動の謎を説明をするものだって聞かされてたから、彼が亡くなった後に回収しておいたんだけど……パチュリーなら映像に出来る?」

 

「私一人が覗き見るだけなら可能だけど、大人数で見たいと言うのであれば専用の魔道具がないと無理ね。……『回収した』ってことは、渡されたわけじゃないってこと?」

 

「えっと、『ここに仕舞っておきますので、忘れないようにしてください』って言われたの。だから多分回収しろっていうことなんだと思って。私たちと会う前に取り出したものらしいから、その時点で自分の死を覚悟してたんじゃないかな。」

 

私の予想を聞いて、紅茶を一口飲んだリーゼ様が顔を顰めながら疑問を飛ばしてくる。話の内容云々ではなく、単純に紅茶が薄すぎたのだろう。パチュリーが魔法で出した紅茶の味は相変わらずらしい。

 

「にしたって、『回収しろ』ってのは迂遠なやり方じゃないか。小瓶一つ渡せない理由があったってことかい?」

 

「まだ確証はないんですけど、私はスネイプが破れぬ誓いを結んでいたんじゃないかと思ってるんです。分霊箱の情報や、それに関する記憶の譲渡が条件に抵触するような内容だったんじゃないでしょうか?」

 

『破れぬ誓い』。結んだ者同士の命を担保にする魔法の契約だ。ここでずっと考えていた仮説を送ってみると、リーゼ様とパチュリーはそれぞれのポーズで悩み始める。そんな黙考する二人を見ながら、持っていた追加の情報を口にした。

 

「スネイプは破壊する瞬間まで分霊箱を取り出そうとはしませんでした。ずっと懐に持っていたのにも関わらずです。私たちが在処や詳細について聞いても、ただ信じて欲しいと言ってはぐらかすだけだったのは……分霊箱を秘匿するようにという誓いがあったからじゃないかな、と。」

 

「現場に居た貴女がそう判断するのであれば、破れぬ誓いを結んでいたという点に反論はないわ。だけど、それなら出会った時に渡していて然るべきじゃない? そこで死ねない理由があったってこと? ……私はスネイプに関しての詳細をまだ聞いてないから、判断材料が少なすぎて何とも言えないわね。」

 

「……私が思うに、スネイプの行動について語るのはその記憶を見た後でいいんじゃないかな。彼がリドルを滅するために命を落としたって部分はほぼ間違いないわけだろう? その彼が説明のために記憶を遺したというのであれば、私たちは先ずそれを見るべきなのさ。」

 

思考の材料を欲するパチュリーと、目の前の『答え』を指差すリーゼ様。対照的な返答を寄越してきた二人に苦笑しつつ、記憶が入った小瓶を手に取って話を進める。

 

「となると、誰が見るかを考えた方がいいですね。……フランには見せてあげたいんです。スネイプも多分、それを望むと思います。」

 

「私としてはハリーにも見せてあげたいね。スネイプが死んだって報告を受けた時、かなりのショックを受けてたみたいだから。気持ちにケリを付けるためにも見ておいた方がいいだろうさ。どんな真実にせよ、人伝てに聞かされるよりはマシなはずだ。」

 

「何にせよ、大人数で見たいなら憂いの篩を使うべきね。私の所持している魔道具じゃ二、三人が限界だけど、あっちなら無理すれば四、五人はいけるでしょ。」

 

そうなるとフラン、ハリー、そして身寄りのないスネイプの遺産整理をすることになるであろうマクゴナガルは決定として……あと一人か二人か。記憶は見た後に回収することも出来るが、見る度に僅かながら劣化するわけだし、何よりそう何度も見られることをスネイプは望まないはずだ。出来れば一度で終わらせてあげたいな。

 

悩む私に、『ニルギリの香りがするお湯』を飲み干したリーゼ様が話しかけてきた。

 

「キミも見ておきたまえ。スネイプが小瓶のことを頼んだのはキミなんだろう? だったら見るべきだと思うよ。」

 

「……いいんでしょうか? 私が見ても。」

 

「それはスネイプのみぞ知ることだが、少なくともブラックやルーピンが見るよりは喜ぶだろうさ。それだけは断言できるよ。」

 

「それはまあ、そうかもしれませんけど。」

 

苦い笑みで同意した私に肩を竦めてから、リーゼ様は未だ黙考しているパチュリーの肩を叩きながら立ち上がる。

 

「そうと決まればさっさと帰ろう。ホグワーツにハリーを送る時、マクゴナガルに記憶のことは伝えておくよ。校長室で待ってるだろうからね。」

 

「今日はそのままホグワーツに滞在するんですか?」

 

「明日は咲夜の誕生日だし、そのつもりだったんだが……んふふ、心細いなら今日だけ一緒に寝てあげようか? ホグワーツには早朝に戻れば問題ないからね。」

 

後半をパチュリーに聞こえないように囁きかけてきたリーゼ様に、ちょっと顔が赤くなっているのを自覚しながら頷きを返す。……今回はまあ、百パーセント邪心は無しだ。寝る時に色々と考えちゃいそうだし、リーゼ様が隣に居てくれれば安心して眠れる気がするぞ。

 

「それじゃあ、マクゴナガルに詳細を伝えたら紅魔館に戻るよ。……ほら、パチェ。いい加減に再起動してテーブルと椅子を片付けてくれたまえ。もう天幕も仕舞わないといけないんだから。」

 

「……ん、分かったわ。」

 

まだまだ考え足りない様子のパチュリーが上の空でテーブルを消し去ったのを横目に、凝り固まった身体を解しながら天幕の出口へと歩き出す。……今日はもう考えるのはよそう。ダンブルドア先生、リドル、そしてスネイプ。どうせ不器用な私は後からごちゃごちゃ考えちゃうのだ。

 

だから今日だけ。今日だけは全部心の奥に仕舞い込んで、リーゼ様に甘えてぐっすり寝よう。私には全てを預けて寄り掛かれる存在が居るのだから。

 

赤と黒が入り混じった宵の空を見上げつつ、アリス・マーガトロイドは白い息を吐くのだった。

 


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