Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ノクターン横丁にて

 

 

「ボージン・アンド・バークス? それはまた、リドルには似合わない場所ね。」

 

卒業から一年半が経過したある冬の日、アリス・マーガトロイドは友人のテッサとお茶を楽しんでいた。

 

ホグワーツがクリスマス休暇だということで、教職員にもちょっとした休暇が訪れたらしい。そこでダイアゴン横丁のカフェで落ち合い、二人で買い物に行くことになったというわけだ。

 

テッサによると、どうやらリドルはノクターン横丁の小さな古物商に就職したらしい。あそこはあまり良い噂を聞かない店なのだが……どうしてそんな店を選んだのだろう? 彼ならもっと良い選択肢が腐るほどあったはずなのに。

 

「魔法省からの誘いは全部断っちゃったんだってさ。何考えてるんだか。」

 

呆れたように言うテッサだが、本当は少し心配しているのだろう。五年生の事件以来疎遠にはなってしまったが、それでも事あるごとにリドルの話題を出すのは、きっと未だ友人だと思っているからなのだ。

 

「あの辺の店は闇の魔術にどっぷりらしいし、大丈夫なのかしら。」

 

「うーん、そうだねぇ。……ねえ、ちょっと行ってみない? 遠目から姿を見るだけなら、リドルにも気付かれないだろうし。」

 

「ノクターン横丁に? まあ、別に構わないけど。」

 

子供の頃はお父さんに、『絶対近寄っちゃいけないよ』とよく言われていたものだ。今となっては当然の忠告だったことがよく分かる。あの場所には闇の魔術に関わる物が多すぎるのだ。

 

「じゃあじゃあ、早速行ってみよう!」

 

いつものように元気いっぱいで立ち上がったテッサに続いて、急いで紅茶を飲み干して席を立つ。そのまま店から出てダイアゴン横丁の大通りを歩きながら、隣を歩くテッサに質問を飛ばした。

 

「でも、見るだけ? 声はかけないの?」

 

「んー……やめとくよ。気まずいことになっちゃうだろうしね。」

 

仲直りはしたいのだが、ハグリッドの件に納得できていない、といったところか。その気持ちはよく分かる。何たって私も同じなのだから。

 

箒屋の店先にクリーンスイープの新型が飾られているのを横目に、ノクターン横丁の入り口へと足を進める。

 

通りに足を踏み入れると、途端に店の雰囲気が変わるのが分かった。怪しげな出店が並び、薄暗い道が続く。

 

「うっわぁ、こんなの絶対違法じゃん。何で魔法省は捕まえないのかな。」

 

「分からないけど、ここは昔からこんな感じよ。そして多分これからもね。」

 

露店で売られている人間の心臓にしか見えないものを指差しながら言ったテッサに、昔を思い出しながら口にする。少なくとも私の物心ついた頃からこうなのだ。魔法省にとっては、この通りの惨状は目に見えないモノらしい。

 

「じめじめしてるなー。生徒は絶対近寄らせないようにしなきゃ。」

 

「下手に注意なんかすると逆効果なんじゃない? 悪戯好きな子が突っ込んで行くだけよ。」

 

「ほんと、難しいよね。なってみて初めて教師の苦労が分かったよ。まあ……まだ見習いなんだけどね。」

 

テッサはまだ授業を任せられてはいないようだ。雑用ばっかりだよ、という愚痴をよく聞く。

 

「テッサならもうすぐ授業を持たせてもらえるわよ。ダンブルドア先生もそう言ってたんでしょ?」

 

「そうだけどさぁ……。そういえば、アリスのほうはどうなの? 研究と人形作り、上手くいってるの?」

 

「かなり順調よ。パチュリーが丁寧に教えてくれるし、人形作りは使用人のエマさんって人が手伝ってくれてるの。」

 

最初に習得するべきとパチュリーに言われた捨食の法は、大凡の概念を理解できている。習得は遠からずできるだろうし、そうなればもっと研究の時間が増えるはずだ。

 

人形作りのほうは、今はむしろ制作よりも改良に時間を割いている。組み込んだ命令を自動で実行できるとこまでは完成したが、その先がちょっと難しそうなのだ。最近はエマさんに人形作りを教えながら、ゆっくりと術式を改善している。

 

「はー、羨ましいなあ、もう! 私も早く……ちょっと、あれってリドルじゃない?」

 

テッサの指差す方向に顔を向けると……確かにリドルだ。雰囲気がちょっと暗くなっている気がするが、学生時代とそこまで変わってはいない。並んで歩くふくよかな高齢の女性に対して、笑みを浮かべながら何かを話しかけている。

 

「こっちに来るわね。」

 

「ちょっ、アリス、隠れよう!」

 

テッサに手を引かれて露店の一つに潜り込む。店主が迷惑そうな顔になるが、テッサがシックル銀貨を弾いて渡すと、途端ににっこり顔で黙認してくれた。現金なもんだな、まったく。

 

「ちょっとテッサ、なんで隠れるのよ。」

 

「だって、反射的に隠れちゃったんだもん。それより静かにしないと。近付いてくるよ。」

 

露店のカウンターの下にある狭いスペースでテッサとくっつきながらも、息を殺して耳を澄ます。

 

「──ということですのよ。それであたくし、褒められてしまいましたの。あなたはどう思うかしら? トム。」

 

「素晴らしいことだと思います、ヘプジバさん。貴女には驚かされてばかりですね。」

 

リドルの平坦な声に、クスクスと甲高い笑い声が続く。板の隙間から覗いて見ると……手を組んでいる? 私が言うことじゃないだろうが、女性の趣味が悪すぎないか?

 

そのまま通過するのかと思ったら、ちょうど私たちが隠れている露店の前で立ち止まった。リドルがやんわりと手を振りほどき、ヘプジバさんとやらに正面から向き直っている。

 

「それよりも、あの話を聞かせていただけませんか? ほら、金庫にかける特殊な魔法の話を。」

 

「あら、そんなつまらない話より、もっと面白い話題がありますわよ?」

 

「実は、私の店では丁度防犯の見直しをしているんです。ヘプジバさんの魔法ならば、とても参考になるのではと思いまして……。」

 

「まあ、お上手ね、トム。そうね……それなら、今から私の家に来ればいいわ。実際に見せた方が分かりやすいでしょう?」

 

それを聞いたリドルの瞳が、一瞬赤く光ったように見えた。気のせいだろうか? 少なくともヘプジバさんは気になってはいないようだ。

 

「それは素晴らしい。是非お邪魔させてください。」

 

「あらあら、そんなに焦らなくてもいいのよ。それじゃあ行きましょう。エスコートしてくださるのでしょう?」

 

「お任せください、ヘプジバさん。」

 

再び腕を組んで歩き出す二人を見送り、露店から這い出してテッサと顔を見合わせる。なんというか、微妙なものを見てしまった気分だ。テッサのほうも何とも言えない顔をしている。

 

苦い顔をしているテッサが、気まずそうに口を開いた。

 

「あー……まあ、元気そうではあったね。」

 

「そ、そうね。リドルはああいう女性が趣味だったのかしら?」

 

「それで学生の頃はガールフレンドとかがいなかったのかもねぇ……。いやぁ、なんというか、長年の謎が解けたよ。」

 

もの凄く微妙な気分を引きずりつつ、ダイアゴン横丁に戻ろうと二人で歩き出す。確かに、整った顔のリドルにガールフレンドが出来ないのは不思議だと思っていた。それにこんな理由があったとは……まあ、他人の趣味にとやかく言うべきではないだろう。

 

テッサも同感のようで、妙な空気を変えるべく、話題をこちらに投げかけてくれる。

 

「とにかく、リドルの様子は見れたことだし、買い物しに行こうよ。まずは……本屋でいいかな? 教科書の予備を買ってこいって言われちゃってるんだ。」

 

「ええ、分かったわ。こんな通り、さっさと出ちゃいましょう。」

 

ダイアゴン横丁に通じるちょっとだけ明るくなってきた道を歩きつつも、アリス・マーガトロイドはかつての友人の趣味の悪さを思い、内心でちょっとだけ苦笑してしまうのだった。

 

 

─────

 

 

「ダメ、全然上手くいかないわ。」

 

アリスの嘆きを耳にしながら、パチュリー・ノーレッジは目の前の人形を観察していた。

 

ムーンホールドにある研究室の机の上に横たわる人形は、ピクリとも動き出す気配を見せない。アリスの試みは悪くはなかったと思うのだが、どうも失敗に終わったようだ。

 

「やっぱり糸が細すぎるのかもしれないわね。流れる情報量に対応しきれていないんじゃないかしら。」

 

「でも、これ以上強度を増すなら透明にするのは無理だよ。魔法使いの人形劇なのに、糸が見えちゃうなんて興醒めじゃない?」

 

「となれば、本数を増やすしかないわ。指一本につき糸五本まで増やしてみましょう。」

 

私の提案にアリスの顔が引きつる。左右で合計五十本の糸を操るのは、彼女にとっても難しいことのようだ。

 

何故こんなことをしているのかと言えば、妹様の翼飾りが完成したお祝いのパーティーにアリスもお呼ばれしたからだ。いつも自分の作った人形で遊んでくれている妹様のために、ちょっとした人形劇を見せたいらしい。

 

当初は普通に魔法で動かすという大したことのない内容だったのだが、魔女二人で改良していくにつれて、思ったより大規模な人形劇になっていった。

 

どんどん複雑になっていく人形の動きに対応するために、彼女たちの可動域を広げたわけだが……残念ながら命令を伝える糸の方が持たなかったというわけだ。

 

「五十本はさすがにキツイかなぁ。そもそも、操るのはこの子だけじゃないんだよ? 五体も動かせば二百五十本……頭がおかしくなりそうだよ。」

 

もっともなアリスの言葉だったが、指の一本一本にまで拘って動かそうとするからだろうに。人形に対してのこの子の情熱は、時折行きすぎることがあるらしい。

 

「はぁ……難しいなぁ。何か他に方法はないかな?」

 

「あるいは、ある程度の部分は自動で動くようにすべきかもね。細かいところまで一々動かそうとするから、操作量が多くなるのよ。」

 

「それはそうなんだけど……やっぱり機械的な動きになっちゃうんだよね。」

 

アリスは人形がぎこちなく動くことをかなり嫌がる。私にはよく分からないが、人形師としては何か許せないものがあるようだ。まあ、私にとっての本への拘りだと思うと、納得できる気がする。

 

「貴女の拘りは分かるけどね、時には妥協も必要よ? 自律人形の研究も進んでいるんだから、昔ほどひどい出来にはならないのでしょう?」

 

アリスの卒業からは既に三年が経とうとしている。既に彼女は捨食の法を見事に習得し、捨虫の法もそろそろ形になってきそうなところだ。私の指導があったとはいえ、素晴らしいスピードで魔女に至りつつある。

 

完全自律人形の方も勿論研究を続けており、副産物として産まれた半自律人形も最近のはかなり滑らかな動きをしていたはずだ。

 

「んー、そうだね。間に合わなかったら元も子もないもんね。」

 

「今回の課題は次の機会に挑戦してみればいいのよ。なにせ、時間はたっぷりとあるんだから。」

 

未練を残している様子のアリスに、慰めるように声をかける。この子もそろそろ不老を手に入れるのだ、もはや時間には困らないだろう。

 

「でも、フランドールさんってどんな方なの? 小悪魔さんは怖い人って言うし、リーゼ様はかわいい、美鈴さんはワガママ、人によって全然違うんだもん。」

 

「そうね、一言で言えば……危険な吸血鬼、かしらね。」

 

私にとっては、以前あったリビング破壊事件のイメージが強い。大人しくしている分には確かにかわいいのだが、怒り出すと手がつけられない。つまり……物凄い力を持った子供なのだ、妹様は。

 

「ワガママで怖くって危険だけど、かわいい吸血鬼? うーん……全然想像できないよ。」

 

「実際に会えば分かるわよ。……さあ、お喋りはもう充分でしょう? 練習再開よ。」

 

アリスを促しつつも、私も魔力の糸を作るために集中する。ちょっとくらい出来の良いやつを作らなきゃ、先輩としての面目が立たないのだ。

 

ムーンホールドの研究室の中で後輩魔女と仲良く作業をしつつ、パチュリー・ノーレッジの夜は更けていくのだった。

 

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