Game of Vampire   作:のみみず@白月

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小さな社会

 

 

「あー……やっぱりダメかも。違和感がありすぎてどうにもならないよ。」

 

恨めしそうに手の中の杖を睨みつけるハリーへと、アンネリーゼ・バートリは然もありなんという頷きを返していた。これも合わなかったか。オリバンダーはもう店を再開しているだろうし、週末にでも連れて行くべきだな。

 

ダンブルドアの葬儀から一週間が経った今、ホグワーツはぎこちないながらもゆっくりと日常に戻り始めている。マクゴナガルの毅然とした態度が功を奏したのか、はたまた一致団結して彼女を支えようとする教員たちに心打たれたのか、生徒たちも表面上はいつもの雰囲気を取り戻しつつあるようだ。

 

そして我らがハリーにも同様のことが言えるようで、時折思い悩む姿を覗かせるものの、基本的には平時通りの様子を見せてくれるようになったのだが……うーむ、ここに来てかなり現実的な問題が浮上してしまったな。言わずもがな、ハリーの杖問題である。

 

ヌルメンガードでリドルに折られてしまった長年の相棒は当然使い物にならず、落ち込むハリーに当面の予備として紅魔館に転がっていた第一次戦争の頃の『戦利品』をいくつか渡してみたのだが、やはり杖との相性問題は深刻らしい。呪文が使い難くて仕方ないようだ。

 

他の生徒に無言呪文の指導をしているフリットウィックを横目にしながら、弱り切った表情で杖を机に置いたハリーへと提案を放った。

 

「明日か明後日に杖を買いにダイアゴン横丁まで行こうか。事情が事情だし、マクゴナガルも許可してくれるだろうさ。」

 

「そうすべきよ、ハリー。合わない杖は事故の元だわ。」

 

見事な無言呪文でボロボロのスニーカーにタップダンスをさせているハーマイオニーに続いて、腕に絡み付くベルトを解こうと四苦八苦しているロンも同意してくる。何の呪文が失敗したんだ? 巻き付け呪文か?

 

「二年生の時の僕みたいになる前に買ってきちゃえよ。……ダメだ、全然解けない。切るしかなさそうだな。ディフィンド(裂けよ)!」

 

「腕を切らないようにね。……土曜日は昼間に練習があるから、日曜日でもいいかな?」

 

「いつでも構わないよ。今の私は超ヒマだからね。……エバブリオ(泡よ)。」

 

こうも寒いと釣りをする気にもならんのだ。迷い込んできたらしいロングボトムのカエルを泡に閉じ込めて遊ぶ私に、ハーマイオニーが呆れ顔で疑問を寄越してきた。

 

「スカーレットさんを手伝わなくてもいいの? 新聞で見たけど、随分と忙しいみたいじゃない。」

 

「ダンブルドアの『国葬』の話かい? あれは私には手伝えないジャンルの仕事だよ。仲良しのボーンズやスクリムジョールが手助けしてくれるだろうさ。」

 

予言者新聞の記事によれば、ダンブルドアの『お偉いさん向け』の葬儀はかなり盛大なものになるらしい。無論マグル側のそれほど大規模にはならないはずだが、魔法界側の国葬と言って差し支えないレベルのものにはなるだろう。

 

当日はホグワーツも休みになるのかと考えていると、フリットウィックがキーキー声で授業の終了を宣言した。

 

「時間です! 宿題は出しませんが、次の授業で無言呪文のテストをしますからね。よく練習しておくように!」

 

「それって、要するに宿題ってことじゃないか?」

 

おっしゃる通り。小声で突っ込んだロンが疲れたように教科書をカバンに仕舞うのと同時に、私も羊皮紙なんかを片付けて席を立つ。お次は昼食だ。早く行かなければ肉がなくなってしまうぞ。

 

「急ごうじゃないか、諸君。今日の私はサクサクのキドニーパイを食べるって決めてるんだ。」

 

「無かったらどうするのよ。」

 

「厨房に行くさ。しもべ妖精たちもきっと喜ぶよ。」

 

あいつらなら自分たちを『具』にしてでもパイを焼き始めるに違いないぞ。ジト目で睨んできたミス・スピューに肩を竦めてから、教室を出て肌寒い廊下を歩き出す。昼休みの開始を祝う生徒たちの喧騒を尻目に進んで行くと、歩調を合わせてきた三人の中からロンが話題を繰り出した。

 

「そういえばさ、クィディッチのシーズン初戦は十二月に入ってからになるんだってよ。スリザリン対ハッフルパフだ。……つまり、僕たちの初戦は冬休み直前ってわけさ。」

 

「クソ寒い中ご苦労なことだね。レイブンクローには勝てそうなのかい?」

 

「キャプテンになったチョウ・チャンのやつ、練習を完全非公開にしてるんだよ。何か秘策があるに違いないぜ。クリービー兄弟が探りに行ってくれてるから、その情報に期待だな。」

 

パパラッチ兄弟はとうとうスパイの真似事までし始めたのか。五年生になったというのに落ち着きを見せないクリービー兄に呆れながら、何の気なしに窓の外へと目をやってみると……わお、珍しい人物が歩いているな。

 

「ダンブルドアの墓参りに来たのかね?」

 

マホウトコロの校長どのだ。独特な黒い『着物ローブ』を着た数名の護衛を引き連れて、静々と校庭を横切っている。確か日本魔法界だと服の色が役職や立場を表すはずだが……黒はこっちで言う闇祓いだったか? アリスに教えてもらった風習を思い出しながら呟いてみれば、私の視線を辿った三人が反応してきた。隣にはマクゴナガルも居るな。新校長として案内しているらしい。

 

「あれって……マホウトコロの校長よね? 新聞で写真を見たことがあるわ。」

 

「本当だ、四人も護衛が付いてるぜ。僕もあんな風に歩いてみたいもんだよ。」

 

「息苦しいだけだと思うよ。少なくとも僕はそうだったしね。」

 

苦笑しながらハリーが『経験談』を語っている間にも、お客様一行はゆったりとした速度でダンブルドアの墓がある方へと消えて行く。それを見送った後、再び大広間に向かいながら口を開いた。

 

「東の果てから墓参りか。『国葬』の方に出席すればそれで済むのに、わざわざホグワーツまで来るってことは……ふむ、私が知ってる以上に親しかったのかもね。」

 

「この前はワガドゥの校長も来てたみたいよ? 物凄いお爺ちゃんだったってラベンダーが教えてくれたわ。……マクゴナガル先生も大変ね。まさかお迎えしないわけにはいかないでしょうし。」

 

「いっそのこと『入場料』を取ればいいんだよ。一人十ガリオンでも喜んで墓参りに来るだろうさ。」

 

「そんなことを考えるのは貴女だけよ、リーゼ。悪魔の発想ね。」

 

吸血鬼なんだから仕方ないじゃないか。やれやれと首を振るハーマイオニーに皮肉げな笑みを返しつつ、大広間に続く角を曲がったところで……これはこれは、気まずい瞬間だな。スリザリンの集団とばったり出くわしてしまった。先頭に立っているのは我らが青白ちゃんだ。

 

「おや、マルフォイ。今日もカチカチのスリックバックだね。髪を傷めると将来後悔するよ?」

 

「『出会い頭』の心配をどうも、バートリ。僕は安物の整髪料を使ったりはしていないから、無用な心配だとだけ言っておこう。」

 

むう、つまらんな。もう昔みたいにキャンキャン吠えかかったりはしてくれないのか。『当主バージョン』のマルフォイに軽くあしらわれて退屈な気分になっていると、私の後ろのハリーがおずおずと声を放つ。

 

「……やあ、マルフォイ。」

 

「……どうも、ポッター。」

 

うーん、ぎこちないにも程があるぞ。中途半端に手を上げて挨拶したハリーに、これまた中途半端に頭を下げて応じたマルフォイは、そのままお互いに何とも言えない雰囲気で見つめ合うと……ほぼ同時にそれぞれの進む先へと向き直った。

 

「えっと……それじゃ、また。」

 

「ああ、また会おう。」

 

そりゃあ同級生なんだから嫌でも会うだろ。謎のやり取りにハーマイオニーとロン、スリザリンの生徒たちが唖然とする中、二人は別々の方向にさっさと歩き出してしまう。中々面白い光景じゃないか。四年生の頃のチョウ・チャンとの会話を思い出すぞ。

 

「おいおい、ハリー? マルフォイと何があったんだ?」

 

まあ、奇異には映るだろうな。我に返ってハリーに追いついたロンの質問に、ハーマイオニーもクエスチョンマークを浮かべながら続いてきた。

 

「そうよ、貴方たちったらまるで……『初デート』みたいな雰囲気だったわ。」

 

「気持ち悪い比喩表現はやめてよ、ハーマイオニー。この前のスネイプ先生の葬儀の時に少し話をしたんだ。……何て言うか、いつまでも子供のままじゃないってことだよ。僕も、マルフォイもね。」

 

いつもより大人びた表情でそう言ったハリーは、玄関ホールに足を踏み入れながら続きを語る。

 

「それにさ、マルフォイは闇祓いを目指すことにしたんだって。だからまあ、いつまでも険悪なままだと困るでしょ?」

 

「……嘘だろ? ってことは、順調に行けば僕たちとマルフォイが同僚になるってことか?」

 

それは私も初耳だな。ピタリと足を止めて驚愕を露わにするロンへと、ミス・勉強が現実的な指摘を飛ばした。

 

「あるいは、マルフォイだけが闇祓いになるって可能性もあるわね。成績に差があることを忘れてるわよ。」

 

「『順調に行けば』って言ったろ? 不吉な未来予想はやめてくれよ。」

 

「予想を現実にしたくないなら勉強を頑張りなさい、ロン。闇祓いの門は狭いのよ? 一学年に三人も候補が居たら、どんな基準で振るい落とされるかは貴方もよくご存知でしょう?」

 

おおっと、今日のハーマイオニー様は鞭を振るうおつもりらしい。打ちのめされたロンの歩みが途端に遅くなったのに苦笑しながら、たどり着いた大広間の扉を抜ける。……よしよし、キドニーパイは健在だな。しもべ妖精は腎臓を失わずに済みそうだ。

 

しかし、マルフォイが闇祓いね。彼本人の望みというよりは、政治的な理由で選んだ進路なのだろう。闇祓いが家柄によって採用されない職業というのは有名な話だ。実力主義のあの局にはコネが利かないのである。

 

そこに長年悪い噂が絶えなかったマルフォイ家の当主が入ることになれば、家のイメージはガラリと変わるだろう。……無論、通常の入局よりも遥かに困難な道になるはずだが。希望したのに門前払いされた日には良くない噂も立つだろうし、青白ちゃんはハイリスク・ハイリターンの道を選んだらしい。

 

まあ、同窓の好で応援くらいはしてやるさ。ハリー、ロン、マルフォイが並んで入局するところも見てみたいし。生き残った男の子と、血を裏切ったウィーズリー家と、マルフォイ家の当主が同期ね。もし叶えば派手な世代になりそうじゃないか。

 

そんな日が来ることを想像しながら、アンネリーゼ・バートリは席に着いてキドニーパイへと手を伸ばすのだった。

 

 

─────

 

 

「いいかしら? 変えた後の色を強くイメージするの。上から塗るのではなくて、表面そのものが変化する感じでね。それと、発音には細心の注意を払って頂戴。間違えると自分の色が変わっちゃうから。……コロバリア(変色)。こうよ。」

 

変色呪文の説明をしながら生徒たちを見渡すアリス・マーガトロイドは、奥の席でコソコソ話しているグリフィンドール生に内心で苦笑していた。授業風景ってのはいつの世も変わらないな。この呪文は期末試験に出すから聞いておいた方がいいと思うぞ。

 

十一月も半分を過ぎた今日、午後一番の変身術の授業を行なっているのだ。相手はレイブンクローとグリフィンドールの四年生なのだが……うーむ、この組み合わせが一番対照的だな。真面目にメモを取っているレイブンクロー生に対して、グリフィンドール生はお喋りしている子が目立っている。本人たちはバレていないと思っているようだが、ここから見てると一目瞭然だぞ。

 

マクゴナガルが校長の業務に慣れ始め、私が教師のカンを取り戻した頃、ダンブルドア先生の対外的な葬儀が行われると共にホグワーツもようやく落ち着いてきたらしい。私の知るホグワーツの雰囲気が戻りつつあるのだが、同時にお喋りや悪戯まで戻ってくるのはいただけないな。

 

微笑ましい変化に心の中では首を振りつつ、杖を取り出して生徒たちに指示を放つ。こういうのは口で注意しても無駄なのだ。教師のやるべきことは授業内容に興味を持たせること。そうすればお喋りなど勝手に収まるはずなのだから。

 

「それじゃ、実際にやってみましょうか。今からレイブンクローに青い小物を、グリフィンドールに赤い小物をそれぞれ五個ずつ渡すわ。寮ごとに相談して、それをより芸術的な色に変えて頂戴。一番出来が良い小物には十五点、二番目には十点、三番目には五点よ。もちろん一位から三位までを独占すれば三十点ね。分かり易いでしょ?」

 

言いながら杖を振って、赤と青のティーポット、小箱、手鏡などをテーブルに出現させた。すると生徒たちは……うーん、可愛いヤツらめ。途端に大慌てで集まって寮ごとに相談し始める。競争と報酬。教師ってのは悪知恵を働かせないとな。

 

悪どい笑みを心に秘めつつ見守っていると、レイブンクローは五チームに分かれてそれぞれの小物を担当し、グリフィンドールはわいわい騒ぎながら全員で意見を交わし始めた。こんなところにも寮の特色が出るわけか。

 

しかし……ふむ? グリフィンドールでリーダーシップを発揮しているのはどうやら魔理沙のようだ。勝気な笑みで机に腰掛けている魔女見習いが全員の意見を纏めて、それを隣の咲夜が羊皮紙にメモしている。

 

ああいうのも一つの才能だな。人付き合いが上手い魔理沙に感心していると、件のリーダーどのが私に向けて質問を飛ばしてきた。

 

「よう、アリス! 形は変えてもいいのか?」

 

「授業中は『マーガトロイド先生』よ、魔理沙。だけどまあ、良い質問ね。本来の用途を損なわないのであれば変えても構わないわ。形も、大きさもね。」

 

「おっしゃ、だったら巨大ポットにしようぜ。人が入れるくらいのやつ。」

 

なんだそりゃ。謎の提案にグリフィンドール生が盛り上がる中、レイブンクローの生徒たちは若干悔しげな顔付きだ。『単純おバカ』な獅子寮に発想力で負けたのが気に入らないのだろう。

 

もっと争うのだ、生徒たちよ。それが向上に繋がるのだから。悪役の気分でうむうむ頷きながら、二寮の戦いを暫く観戦していると……むう、やっぱり気になるな。ふとした瞬間に思い悩むような顔になる咲夜の姿が視界に映る。

 

ダンブルドア先生から誕生日プレゼントとして贈られてきたという記憶の話を少し前にしてくれたのだが、咲夜はそれを見る際にリーゼ様にも私にも同席を頼んでこなかったのだ。

 

これまでの咲夜であれば、絶対に『一緒に見よう』と言ってきたはず。無論、こちらから一緒に見ようと提案したのを断られたわけではないのだが……成長したということなのだろうか? ちょっとだけ寂しい気持ちになるな。

 

何にせよ、リーゼ様と私の意見は咲夜の好きなタイミングで好きなように見るべきだというものに一致した。やっぱり一緒に見て欲しいと頼まれればそうするし、一人で見るようなら黙って見守る。ダンブルドア先生が何を思って咲夜に贈ったのかは分からないが、あの人が無駄なことをするはずがない。きっと咲夜にとって意味のある記憶なのだろう。

 

マクゴナガルも憂いの篩の使用を快諾してくれたし、後は咲夜本人の選択次第だ。窓の外の湖を横目に考えていると、やおら近付いてきた一人のレイブンクロー生が話しかけてきた。

 

「マーガトロイド先生、これの『本来の用途』というのは具体的に何を指すのでしょうか?」

 

ぴっちり整えられた制服に、真っ直ぐな栗色のロングヘア。確か……ベーコンだったかな? 何とか頭に叩き込んだ名前を引っ張り出しながら、差し出してきた物の『用途』を答える。

 

「あー……木靴だから、当然履くんじゃないかしら?」

 

「つまり置物としての木靴ではなく、実用品としての木靴ということですね?」

 

「えっと、その辺の解釈はあなたたちに任せるわ。」

 

「ですが、実用品としての芸術性と展示品としての芸術性は異なります。そこを指定していただかないことには先に進めません。」

 

なんとまあ、小さなパチュリーみたいな台詞じゃないか。こちらを見据えてくる明るいグリーンの瞳にたじろぎつつ、脳内で整えた返答を口にした。この場合融通が利かないと捉えるのではなく、熱心に取り組んでいると評価すべきだろう。

 

「そうね、貴女の言う通りだわ。審査する以上、ルールは明確にしないとね。……それじゃ、実際に履くための木靴だと断定しましょう。靴としての芸術性を求めて頂戴。」

 

「分かりました。……あの、真面目に答えてくださってありがとうございます。」

 

後半の台詞をちょっと恥ずかしそうに言ったベーコンは、スタスタと自分のグループへと戻って行く。ううむ、理屈屋だという自覚はあるわけか。そうなるとパチュリーよりも大分マシだな。

 

ホグワーツが生んだ『理屈屋代表』のことを思う私を他所に、去り行くベーコンへとグリフィンドールの輪の中から皮肉げな声が投げかけられる。

 

「あぁぁら、『カピカピベーコン』が質問を終えたみたいよ。相変わらずカッチカチで食べられたもんじゃないわね。」

 

先程お喋りしていた子だな。ロミルダ・ベインだったか? 典型的な『クイーン・ビー』っぽい雰囲気に苦笑しつつ、止めようと口を開きかけたところで……私やベーコンよりも素早く咲夜がベインに噛み付いた。

 

「私は妥当な質問だと思ったけど? 意義を理解できないからって文句を言うのはどうなのかしら。しかも、とびっきり頭の悪そうなやつを。」

 

「……何よ、ヴェイユ。レイブンクローからの点数稼ぎのつもり? 自寮より他寮が大事なの?」

 

「『身内の恥』を外に晒す前に処理したいだけよ。」

 

引きつった笑顔で睨み付けるベインと、お澄まし顔で肩を竦める咲夜。二人の間の見えない火花が大きくなったところで、するりと魔理沙が入り込む。かなり迷惑そうな表情でだ。

 

「あのな、喧嘩は今朝やったばっかりだろ。今日はもうやめとけって。……悪かったな、ベーコン。ロミルダのことは無視してくれ。ついでに言えば咲夜のこともな。」

 

「……私は別に気にしてないわ。」

 

僅かな呆れを覗かせながら答えたベーコンが席に着き、咲夜とベインも鼻を鳴らしてお互いに視線を逸らした。……うーん? 周囲の生徒たちがやれやれという表情を浮かべているのを見るに、これは今年の四年生的には『恒例行事』のようだ。

 

となると、結果的には変に介入しなくて良かったのかもしれないな。生徒には生徒の世界があるということなのだろう。……まあ、そりゃそうか。私の学生時代がそうだったように、四年生ともなればそれなりに安定した『パワーバランス』が築けているはずだし。

 

いやはや、教師ってのは改めて厄介な仕事だな。益体も無い考えに沈み込む暇すらないと喜ぶべきか、子供の扱いで苦労することを悲しむべきか。今の私にとっては何とも微妙なところだぞ。

 

二メートル近い色取り取りのティーポットと、精緻な模様が出来つつある『原寸大』のティーポット。やっぱり私の感性はレイブンクローに傾きそうだなと思いながら、アリス・マーガトロイドは教卓に頬杖を突くのだった。

 


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